タイトル:Ignition Tacticsマスター:墨上 古流人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/25 22:36

●オープニング本文



「インドにいきたいかー!」
 UPCのブリーフィングルーム。
 静かな部屋に座る傭兵達にびしっとボールペンの先を向け、
 威勢良く叫んだのはオペレーターの柚木 蜜柑。

「おー、ですー♪」
 そしてそんな彼女の横で、元気よく片手をあげて応えるのは、
 黒い着流しに結んだ髪の毛をぴょこぴょこと跳ねさせる、藍風 耶子。

「インド、いいわよね。何が良いって、カレーなんて安直よ? エローラやアジャンタの石窟院、タージマハル、まずは目で楽しめるのがいっぱいなんだからっ」
「いくつ残ってるかは、分かんないですけどねー?」
「しょうがないわよっ。バグアに『粋』なんてわかんないでしょうしっ」
 傭兵達も口々に、思いつく限りのインドのイメージを口にしてゆく。

「そして世界的価値のある自然、建造物を充分堪能したら、いよいよお腹も満たしましょうっ? タンドリーチキン、シシカバブ、コトレット、サモサ、パコラ、お酒に厳しいのは残念んだけど、ダージリンのチャイも悪くないわねっ」
「えっとー、コトレットはインド風コロッケで、サモサはおいもの包み揚げー。パコラはインド風の天ぷらですー」
 いつもなら作戦概要や詳細な地形データを移す部屋正面のプロジェクターが、次々と腹の虫を誘う美味しそうな食べ物の画像を映し出してゆく。

「でもゴメンね。残念なことに、今回の依頼は、みんなできゃっきゃ出来るお祭りイベントシナリオじゃないの」
 ぱっ、とスクリーンがインドでの人類とバグアの勢力図に切り替わる。
 一部、傭兵達から落胆の声が上がるが、
 何故か、手伝いで呼んだ耶子も一緒にショックを受けているのは、蜜柑にも意味がわからない。

「インドの、カーティヤワール半島って知ってる? 殆どの人が知らないわよね。‥‥っと、耶子、もっと左、そうそう、そこの団子っ鼻みたいに出っ張ってるとこが、カーティヤワール半島よ。」
 インド国土の一枚板から、ふっくらと、こぶが膨らんだように出来ている地形がスクリーンの正面に映った。
 『半島』とは言え陸続き、そんなほぼ丸い面積の右側が青く、左側は赤く薄い色がかかった。

「今青で示したのが、私達人類側の勢力ね。バーブル師団、って人達が、頑張ってこちら右側の拠点を幾つかと、広い平野を制圧してくれたの」
 マリア、ヒマットナガル、バーオナガル、マフバ、と画面上の拠点にマークが置かれ、
 師団の活躍や概要の乗ったプリントが、ひょこひょこと動き回る耶子によって配られてゆく。

「実はこの半島、一年ぐらい長いこと人類とバグアが戦ってるの。そこで、いっちょバグアのたるんだ顔面に爆竹でも放りこんでやろうかしら、という感じで展開するのが、今回の作戦よ」
 口調こそ飄々と掴めない喋り方だが、仕事に対する姿勢と力強い目は、いつもの蜜柑と変わりはない。

「この部屋にいる皆に行ってもらうのは、ここ。 バグア勢力ラインからちょっと潜ったところ、ジュナガドって街よ。ここで、KVを使って街の武力を無効化してもらうわ」
「KV使っていいんですかー?」
「えぇ。この街、広いのよ。んで、長いことバグアの手に落ちてるなら、幾らか堅牢な要塞街になってる、って訳ね」」
 師団が押し上げた戦線から得られた情報、強固な壁、固定砲台、配備されている兵器等が、
 次々と画面上に映り、切り替わってゆく。

「本題は、もうひとつ。このジュナガドから道一本で奥へ進むと、ドラジ、って街があるんだけど、ここは、このジュナガドへの補給の要となってる中継点なの。そして、ジュナガドを叩いてる時、補給地点に居る敵軍に逃げられない為に、同時進行で、ドラジへ侵攻する部隊を送り込む事になってるから、貴方達には、戦闘をしながら、後発隊の通る道を、作って欲しいの」
 矢印がジュナガドへと引かれ、更に後ろからもう一本の矢印が、ジュナガドを通り抜け、上のドラジへと伸びてゆく。
 市街戦で街の武力を解放しつつ、後発隊の道を作る。
 正規の軍でも躊躇する作戦だが、
 機動力のある傭兵がいるからこそ、任せられる作戦なのかもしれない。

「我ながら説明してて、無茶振りだなぁ‥‥と思うけど、これが決まれば、半島のバグア軍には大打撃のハズよ。ドラジへ飛ばすロケットを、点火するのは貴方達。派手に打ち上げちゃいなさいねっ」

●参加者一覧

セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
旭(ga6764
26歳・♂・AA
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
エイミ・シーン(gb9420
18歳・♀・SF
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
D・D(gc0959
24歳・♀・JG
エレシア・ハートネス(gc3040
14歳・♀・GD
ハーモニー(gc3384
17歳・♀・ER
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文



「準備はいいかい? パーティー会場からホストの皆さまがお越しだ」
 空に浮かんできたHW、首を向ける対空砲を視認し、
 フェイルノートのコクピットの中で、旭(ga6764)が仲間に無線を繋ぐ。

「確認しました。皆さんしっかりと正装しています。いや、今回は忙しくなりそうですね」
 その分、やりがいもありますが、と穏やかに返すのはシュテルンのセラ・インフィールド(ga1889
 その隣には、彼のロッテであるドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)のスカイセイバーが翼を連ねて飛んでいた。
 街の建物、そして無数の砲身が段々と視界内で大きくなり、多数のロックオン・アラートも耳の中へ飛び込んでくる。

「バグアよ、克目して見るがいい。本日こそはジュナガド解放の日なのじゃよ」
 美具・ザム・ツバイ(gc0857)が、旭機と並ぶ。
 愛する旭殿と轡を並べて戦っているのだから――彼女のモチベーションは、熱く真っ赤に燃え、
 その情熱の火を敵への刃と変えるべく、トリガーを引く。
 旭のロケット弾が、招待状代わりに撃ちだされ、街前門のバリケードを破壊し、陸路へ美具の煙幕弾が張られた。
 
 パーティー会場は、火の海と化す。



『情報送る‥‥』
 エレシア・ハートネス(gc3040)のアッシェンプッツェルからの無線が、
 D・D(gc0959)――Dのガンスリンガーのコクピット内に静かに響く。
 データの到着を知らせる電子音が鳴るのと、Dがトリガーを引くのは同時。
 数倍率化された対空砲が映像内で、鋭い軌道に穿たれて、砲身の頭を垂れた。

「今確認した。新しい対空砲の位置を確認。リークに感謝だ」
 対空砲の位置と、味方の現在地から最適な展開を読み、
 移動中の番場論子(gb4628)達へそのまま前へ、と指示を出す。

 ロジーナを駆る論子とフローラ・シュトリエ(gb6204)のアンジェリカ、
 そして三機のワイバーンが開けた道へ出ると、道なりに走るエレシア、ハーモニー(gc3384)エイミ・シーン(gb9420
 そして、藍風 耶子の小隊と合流した。
 両隊共にデータリンクを完了した直後、傍の建物が派手に吹き飛んだ。
 視界の先には、ハルバードで建物をひと薙ぎに粉砕したタロスと、数体のゴーレムが立っていた。

「この奥にも対空砲がある。任せて、いけ!」
 叫びながら論子が機関砲を撃ちこみ、
 フローラとワイバーン達も弾幕を張って牽制する。
 タロス達の奇襲は止められ、その隙に別隊は瓦礫を越えて道を進んだ。 
 
 と、前方に柱の様な影が立つ。
 エイミの足を止めたのは、小ビル程の体をガネーシャ型キメラ。
「通しません。今からこの先は一方通行ですよ!」
 キメラが鉄筋のような鼻を振るうが、跳躍して回避、襲い来る複数の腕の隙間を、
 剣翼で傷を付けながら縫うように抜ける。
 振り向いて弾幕を張って動きを止めていると、突如、ガネーシャの側頭部を鋭い軌道が貫いた。
 
『目標の死亡を確認。そこのサイファー、大丈夫か』
 エイミを援護したのは、遠方からのリンクスの狙撃だった。
「助かりました、ありがとです!」
『ここからならビルで着替えるOLまでバッチリ見える。安心して進んでくれ』
「‥‥不安ですね」
 エイミがぼそりと呟いてから、軽口の通信が切れる。
 対空砲は、少し先のビルの上に見えた。

「EQの位置は把握できる‥‥?」 
『いや、だが今のところ地殻変動は見られないな』
「了解致しました」
 エレシアとDのやりとりを聞いて、ゼカリアが動きを止める。
 そして、足元で潰したバリケードに乗り上げ、砲身がゆっくり上を向き、対空砲に向けて止まると、
 一発、空気を揺さぶり徹甲散弾が発射された。
 視線の先の対空砲は、飛散した散弾に捉えられて、木端微塵に吹き飛んでゆく。

「ふふふ、壊すのもたのしいですね」
 うっとりとした笑みでトリガーの遊びをいじるハーモニー。
 判明している対空砲は、確実にレーダー上から消えていっていた。




 空ではかなりの激戦が繰り広げられていた。
 HWとタロスが縦横無尽に飛び交い、対空砲と合わせてプロトン砲と実弾の嵐を巻き起こし、
 無茶な機動で軍のディアブロを含めたKVがそれを追いかけ、待ち伏せ、弾をばら撒く。
 
 セラがK−02をばら撒いて多くの敵を捉える隙に、ドゥが地上のレーダーを確認する。
 固定砲台、強化人間、EQ、総計で8割方の討伐が完了したら合図を出すつもりだったが、
 今のところ対空砲以外目立った成果は見られていない。
 
 HWが体を回転させ、滑るように宙を動いてプロトン砲を次々と発射する。
 銃口で追いかけているのは、セラのシュテルン。
 彼も衛星軌道のように的確に旋回し、レティクルが捉える一瞬の隙を逃さず、プラズマライフルを撃ち込んでゆく。
 ソードウィングで斬り裂こうとそのワームへ肉薄すると、がくん、とシートのベルトが体に食い込み、肺の空気が口から漏れる。
 ドゥのコクピットからは、空のタロスが、刃など物ともせず、
 両手でシュテルンの翼を音を立てて後ろから掴み、抑えているという光景が見えた。
 そしてセラの目の前で、視界を眩しく照らすプロトン砲のチャージ。
 
「いけない‥‥!」
 ドゥが急ぎ旋回、AI系統が細かい音を立て、アサルトフォーミュラAを機動。
 サブアイシステムがセラを巻き込まないよう忙しなく計算を叩きだし、
 急いで確保した距離から撃ちこめるだけのマシンガンとランチャーをHWにばら撒く。
 HWは虚しくもプロトン砲を放つことなく沈み、その隙にセラがアクセルをフルスロットルまで入れ、
 無理やり引きちぎるように手の中から脱出した。

「バランサー正常。肝を冷やしましたが、ここからですよ」
 猛スピードの中、近遠と飛び回りタロスにプラズマを撃ちこんでゆく。
 ドゥもタロスの表面で爆ぜる閃光に向けて、次々と弾幕を展開した。
 同じ個所への猛攻についに装甲が剥がれ、むき出しの脇腹を、シュテルンの翼が風を切るように鋭く走る。
 セラの前方に高いビルが現れたが、操縦桿を倒し、壁を滑るように上昇してゆく。

『空戦部隊へ告ぐ。発見済みの対空砲は全て排除完了した。EQも3匹仕留めている、そろそろ後続部隊を通すぞ』
 知らせを聞いて、ドゥとセラは機首を地上へ向ける。
 フレア弾やロケット弾でバリケード、並びに見える限りの固定砲台を排除してから、再び空の戦場へと戻った。



 後続部隊には、無線を繋ぎ巡って連絡が入った。
 サイレントキラーとエピメーテウス、装甲車両がなんとか通れる幅の道を、ハーモニー達の分隊が護衛する。
 その道を通さないよう、ディスタンが文字通り壁となり、Dがレーダーに目を光らせ管制し、
 論子とフローラも進路へ近づけないよう、バグア達の戦線を押さえ込んでいる。

「皆サンを通せば、ひと段落ですよー!」
 耶子が気合を入れ、大蛇型キメラが伸ばしてきた舌を機刀で細かく斬り刻み、素早い機動で口内へ突き入れる。
 その後ろで、崩れた道に車体を揺らす装甲車が勢いよく通り過ぎた。

「しまった、抜けた! 援護を!」
 論子の、射線を通しサポートする為に開けた距離に狙いをつけ、掻い潜るように進むゴーレム。
 そして、目の前にちょうど現れたサイレントキラーに、思い切り斧を振り降ろした。

 斧の軌道に、アッシェンプッツェルが飛び込んでゆく。
 パンプチャリオッツ発動、ヴィヴィアンを構えてブーストし、ゴーレムの懐へ飛び込み穂先を埋める。
「ん‥‥邪魔はさせない‥‥」
 コクピットすれすれに斧刃がめり込むが、距離をとるように弾き飛ばし、N・デヴァステイターとクロスマシンガンで追い討ちをかける。
 立ち上がるうちは、絶対の壁となってみせる気構えで敵を見据えた。

「地殻変動確認。‥‥進路上に出るぞ!」
 Dが叫ぶと、エピメーテウスが速度を緩める、その前方で、硬い地面を突き破ってサンドワームが飛び出した。
 禍々しくそびえ立つ巨大な塔の先では、ひしゃげたワイバーンが牙の餌食となっていた。
 ――EQを野放しにするのは、危険。
 エイミが秘蔵の練機刀、白桜舞を抜き、トリガーを引く。上段突きの構えで一気にブースト。
 胴体に突きこみ、払い切ろうとするが、グロテスクな肉厚さに中々引ききれない。
 口にしていた飴も、力を込めた拍子に砕いてしまう。
 そのままEQが地面に戻り始めると、機体ごと持っていかれそうになる。

「逃がさない!」
 フローラが気付き、沈んでゆくEQの肉壁に飛びかかり、自身の練機刀、白桜舞を突き立てる。
 エイミとフローラ、二機の各所節々のパーツが嫌な軋みをあげるが、その場に耐え、動くEQに刀のラインが引かれていく。
 空いた穴の上にワイバーンの残骸を残して、辺りはまた静かになった。



 旭と美具のロッテは、スピード重視で敵を沈めていた。
 地上の猛攻に、空へ逃げるタロスやHWもいたが、
 鱗を取り、下処理を終えてまな板の上に転がり込む魚ほど、調理のしやすいものはない。
 
 せめて傾きかけた制空権を取り戻そうと、HWも多数上がってくるが、数が増えれば増える程、旭の目に力が籠る。
「今だ‥‥ツインブーストフルドライブッ!」
 フェイルノートのアタッケ、クー・ドロア、二つのツインブーストが轟音を立てて炎を吹く。
 旭の進路を見守るようにしていた美具のペインブラッドの前を通り過ぎ、

「ロックオン、軌道予測‥‥いけぇっ!」
 AIの計算を確認し、スイッチを押す。
 総計500発の小型ミサイルは、ほぼ全てがHW、タロスの装甲を的確に捉え、削る――どころではない威力をブーストが乗せ、落としてゆく。
 それでも残った残党には、旭の後ろをついてきた美具が、もう一度K−02の嵐を巻き起こす。

「旭殿! タロスが‥」
「了解、任せてっ」
 辛うじて浮いていたタロスの装甲が、少しずつ元に戻ろうとしている。
 急ぎ空を駆け、展開。タロスに対して90度の向きで近づき、
 すれ違おうとする刹那、ペダルを踏み込み、機体を水平に保ったまま横にずらす。
 ヨー機動でソードウィングを、ピンポイントに傷口へ突きこみ、そのまま胴体を引き裂いていった。

 その旭の機動上に待ちうけて、砲身を向けるHW。
 いち早く美具が駆け付け、ミサイルのスイッチを押すと同時に、フォトニッククラスターを機動。
 炸裂する弾頭と、強力な知覚範囲攻撃を、近距離で猛攻を浴びせ 叩き落してゆく。

 確実な二対一(or複数)での連携プレーに、満足いったような笑みをこぼし、旭を見つめる美具。
 だがそのペインブラッドの真下では、慣性制御により砲身を真上に向け、プロトン砲を準備しているHWがいた。

「‥‥ッ!」
 叫ぶ間もなく、とにかくブーストする旭。
 愛しい人を目線で追って、美具は自身の危機に気付くが、回避も反撃もする前に、

 恋人は、撃ち堕とされた。



●  
「ん‥‥次の地殻変動‥‥」
 進路上のエレシアの地殻変動計測器が、異変を感じ取りデータをリンク、
 このままでは、エピメーテウスが飲み込まれるまで、3秒。

 ハーモニーが気付くや否や、ブーストを吹かしてエピメーテウスの下に潜り込む。
 元より回避は捨てた機体、それならば万が一の盾にと、武装を選択し、衝撃に備える。
 EQが勢いよく飛び出し、ゼカリアは口に乗ったまま、不安定な姿勢で持ち上げられた。

「良い景色ですけれど‥‥」
 激しい音を立てて、牙を立てられたコクピットのガラスが砕ける。
 粉々の破片を浴びながらも、慎重に操縦桿を倒し、
 ツングースカの銃口を向けると、撃てるだけの銃弾でEQの牙を突き破ってゆく。
 爆ぜる熱が吹き込み伝わってくるが、構わず機体を操り、トドメに、420mm大口径滑腔砲を放つ。
 口内のFFを突き破り、まともに巨大な徹甲弾を飲み込んだEQは、発破で解体したビルのように、真っ直ぐに穴の中へ落ちてゆくのだった。

「回収しろ! 恐らくあれでは‥‥!」
 通信中のDを背中から衝撃が襲う。
 鞭打ちに咳き込み体勢を立て直せば、敵影は無い。
 刹那、鋭い音と共に地面がえぐれる。味方ワイバーンの熱源反応では、遥か遠方。
 ガンスリンガーが体を露出しないように建物影へ飛び込み、銃口を覗かせた。
 種々の色で明滅するデータが顔を照らし、スコープを覗くカスタムゴーレムがモニターに浮かぶ。
 そして、ゆっくりと引き金を引く。静寂の後、ゴーレムはゆっくりと後ろに倒れ、ビルから落ちた。

「危ない!」
 フローラが叫ぶ、Dの視線の横。
 建物の窓から見えるのは、複数のロケットランチャーを構えた、バグア兵。
「‥‥囮の役目は、果たしたか」
 煙草の一本も取りだす前に、炸裂しDの体を焼く爆発。コクピットは、煙の中へと消えた。

 地に崩れるガンスリンガーを庇うようにアンジェリカが割って入り、
 壁やガラスも巻き込んでバルカンを掃射してゆく。
 障害物として使用する建物に敵が潜む可能性、彼女は唯一考慮していたが、守りきれなかった。
 歯がゆい思いが、操縦桿を握る力に変わる。
 彼女に迫るのは、騒ぎを聞きつけてきたゴーレム、タロス群。

 相対しライフルの狙いを定めるフローラ。
 弾を防ぎ、飛びかかってゴーレムが実体剣を振るう。
 だがゴーレムは空中で激しい弾の嵐を浴び、建物に叩きつけられてしまった。
 敵軍を視認してから、論子が死角を導き出してロジーナを隠し、
 敵対象の兵装の間合い外から攻めていたのだ。
 タロスがロジーナを見つけ、槍の石突を勢いよく振り上げてくる。
 紙一重で機盾でいなし、ストームブリンガーB機動、
 棘付きメイス、明けの明星をがら空きの横腹へフルスイングで叩きこんだ。
 空を抑えたセラとドゥも、急降下、地の敵へ叩きつけるように弾を吐き出しては、
 ブーメランのような機動で空へ戻り、援護を続ける。

 倒れる後ろに控えていた敵軍も、最初の頃より勢いが衰えてきていた。



『‥後発隊‥通過‥確‥残‥‥圧‥』
 壊れた無線から、ノイズ混じりに、途切れ途切れの単語が聞こえてくる。
 旭はかなり無理な態勢で、道路の真ん中へと不時着していた。
 
 ――時間の感覚が無い。
 街中で戦闘不能に陥った場合の方法も、考えておくべきだったか、と激しく打った頭でぼんやり考えながら、武器を取る。
 壊れたコクピットから微かに見えた光景、それは、数多くのバグア側兵士達が、武器を構えて蟻のように迫って来ていた。
 
 何とか這い出し、傷口を庇いながら、覚悟を決めて立つと、
 目の前の視界が強烈な光に奪われる。そして、耳を突き破るような音。
 投下型プラズマ弾の光に飲み込まれてい行く人影、それらと旭の間に、一機のペインブラッドが降りてくる。

『旭殿!』
 自動で開くガラスもじれったく感じ、飛び出して旭に駆けよる美具。
 とにかく無事でよかったと、胸をなで下ろし、安否を再度確認する。


 空になったコクピットでは、ジュナガド制圧完了の報が響いていた。