●リプレイ本文
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スコールが去り、濡れた地面を強い日差しが照らす。
照りかえしの熱気と蒸発する水分により、天然の加湿機の上を歩いているようだった。
「攻城戦‥‥相手が死守の構えとなると厄介だな‥‥」
無線のスイッチをカララク(
gb1394)が放した刹那、鋭く空気を裂く音と、それよりも大きい金属音が辺りに響く。
先ほどまで自身が寄りかかっていた装甲車の装甲には、ギラリと光る大きな太矢が突き刺さっていた。
着弾を合図にしたのか、坂の上からは一斉に敵軍が武器を構えて降りてくる
「得物は‥‥まさか、弓か?!」
発砲炎を確認しようとしたクラーク・エアハルト(
ga4961)が頭を伏せて言う。
続けて、黒いてるの塊が数発飛来し、辺りの地面を響かせながら落ちてくる。大砲の弾だろうか。
ホルスターから抜いた拳銃をスライドさせ、薬室に弾丸を滑らせると、敵の次の一手へと備えた。
「さぁ! 突き進みますよー!」
装甲車の中で一般兵達と会話していたエイミ・シーン(
gb9420)が飛び出し、
片足を威勢よく屋根に乗せて、機械剣を構えて道を示す。
『うぉぉい、嬢ちゃん、危ないからどっか捕まって頭伏せな! 出すぞ!』
そして唸る様に車体が揺れ、
装甲車を先頭に攻撃班が要塞内へと突き進んでいった。
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装甲車と攻撃班の突撃を、援護射撃で見送った後、
残っているのは少量の砦外の戦力を相手取るUPC軍と、
彼ら狙撃手狩りを担当する別動班だった。
「恐らく、もうさっき狙撃した箇所にはいないだろうな・・・・」
ウラキ(
gb4922)が押し付けるように壁に背を着けながらマップを広げると、
逃走・移動経路、視野・隠密性、追撃、更には、一つの地点で複数個所を狙える事――
カララクが日差しや風向き、植生等を観察しフォローすることによって、
狙撃手なら選ぶであろう予測地点を叩きだしていった。
「――ッ!」
と、急にジン・レイカー(
gb5813)が2人の横を獅子牡丹を構えて飛び出す。
耳を刺すような音の後、彼の足元には長く太い矢が転がっていた。
「やっとお出ましか‥‥ま、楽しませてもらおうかな」
クスクスと笑みを浮かべるジンの横で、カララクが閃光手榴弾を取り出す。
この隙に隠れろ――その言葉は、息と一緒に飲み込まれてしまう。
取り出した閃光手榴弾、だけを掠めて弾くように、カララクの手元を矢が走った。
「確かに凄腕だ‥‥強い。 同業者としては、尊敬する‥‥だが‥‥!」
いつまでもここで姿勢を低くし、屈している訳にはいかず、三人一斉に地を蹴った。
城壁の扉に差し掛かったところで、ウラキの頬をすり抜け、木製の扉を貫通してゆく太矢。
少々の忌々しさを感じながらも、冷静に振り向き、射線を追うように銃を覗きこみ、カウンタースナイプを試みる。
だが、手ごたえは、無い。
ドアを開けると、両側から二人の男がナイフを構えて急所を狙ってきた。
だがカララクは即座に反応し、相手の顎を突きあげるように踵を繰り出し、
「ひはっ。 まず、一つ‥‥」
ジンも振り下ろされたナイフを刀で受け止め、流れるように楕円を描く軌道で空いた胴へと振り抜く。
「城壁にあがれば大砲があったな‥‥いけ、こちらは任せろ」
「悪いね、キッチリ仕事はこなしてくるからな」
銃で横に刃をいなし、その反動で後回し蹴りを繰り出したカララクを背に、
ジンは傍にあった階段をかけあがっていった。
壁上に籠城していた敵陣は、さながらライオンを放りこまれたウサギの檻の様。
駆け廻りながら、刀を抜き、飛ぶ斬撃を混ぜながら疾風の勢いで蹴散らし、
時に持てそうな大砲は眼下の敵陣へと放りこむなどして、幾つもの兵器を無効化していく。
「さすがにこの上には、いないか」
鉄の筒に穴を掘った様な古風の大砲を前にして、獅子牡丹を振り下ろす。
線香花火の様な火花が散るが、能力者のジンにとっては、まるで寒天を切るような手応えで、
真っ二つにごとりと、何個目かの大砲がその場に倒れた。
ひと仕事やり終えた安堵を息に変えて吐き出す。
その肩を仲間が叩いて労う――否、衝撃が揺らす。
生々しく覚える、骨を砕く感触。熾烈な痛みと共に、思わずうめき声を漏らす。
抑えた手の先には、矢が突き立っていた。
城壁の裏に崩れるように座りこむと、まだ何発かこちらに撃ちこんできていた。
「これだけ焦らしてんだ‥‥最後まで楽しませてくれないと、納得しないからな‥‥?」
傷を負ってなお、剥き出しの闘争心で愉悦に浸るジン。唇は、自然と綻んでいた。
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スコープの先で、数発の矢が壁に城壁に刺さっている。
頭をもらい損ねたが、しばらくは機敏に動けないだろう。
その隙に、また別の狙撃ポイントへ――
「これでも同業でな‥‥見つけた、ぞ」
機械仕掛けの大弩を折り畳み、次のポイントへ移ろうとしたところで、
背後からの声。
慌てて振り向いた狙撃手の眼には、
銃を構えたカララクとウラキが、息を整えながら立っていた。
「よく‥‥ここがわかったな」
称賛するように、狙撃手が自身のいる場所を見上げて言う。
決して多くはないものの、木陰を作るには充分の葉を備えた木が、そこには立っていた。
そして、その木の上から、銃を構えた男が一人降りてくる。推定、観測手だろうか。
「UPC軍、サイレントキラーには見つけ次第連絡を頼んでおいた・・・・だが、全く入ってこない。 時間が過ぎる度に、おかしいとは思っていた」
真っ直ぐに銃口を向けたまま、ウラキが続ける。
「だから『空から見えるところには絶対いない』つまり逆に『屋根のある場所』を絞って狙えば、後は狙撃手が好む場所と、今までの狙撃地点から移動ルートを予測して照らし合わせて‥‥炙り出すのは、簡単だった」
ウラキが全ての考察を終えると、観測手が殺気をむき出しにして反応した。
だがカララクが出し惜しみ無しに、制圧射撃で敵の動きを縫い付ける。
「‥‥ありったけ頼む」
空気を変える、ウラキの言葉。
丘の下から風を巻き上げ、勢いよく飛び出してきたのは、サイレントキラー。
地をえぐり、赤い障壁に阻まれながらも、行動を阻害するよう轟音と共に火砲が吐き出される。
重ねるように、ウラキとカララクは並んでトリガーを引いた。
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別動班と軍の援護により、敵の中を装甲車が猛進し、
バリケードの積まれた、要塞の豪奢な門に突撃した。
細かい粉塵を巻き上げて、崩れた柱の中を、クラフト・J・アルビス(
gc7360)駆け抜け、
一般兵を爪の裏拳で沈めて行く。
「モココ、二つ目がこれでよかったの?」
最前線を行く彼が気づかうように後ろを振り向くと、友人のモココ(
gc7076)がこくりと頷く。
その爪は既に血に染まっており――
「圧死、轢死、焼死、どれがお好み? どっちにしても嬲り殺すんだけど♪ ヒャハハッ!」
斬るべき敵を見つけるや否や、テンションを高めて敵陣を飛びまわり、かく乱して回った。
「悪いが、武器を持っている限り敵だ。恨むなよ」
クラークも、装甲を掠る火花を横目に、弾丸の嵐へものともせず立ち向かってゆく。
UPC軍は強化人間等へ注意しつつ、非能力者の相手に応じてくれている。今や要塞内部は乱戦状態となっていた。
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浪漫の鉄拳――ロケットパンチを使い、進路を邪魔していた瓦礫を吹き飛ばすエイミ。
その視線の先に、うずくまり動かないUPC軍の兵士がいた。
急ぎ彼女は石だらけの地面を蹴り、様子を見に近寄ると、
「え?」
進路の前に立ちはだかり、雷槍の柄をエイミに向けるのは、エレシア・ハートネス(
gc3040)
「ん‥‥ダメ‥‥」
「その人、血だらけですよ! 早くしないと――」
「ん‥‥軍‥‥まだこのエリア‥‥連絡では‥‥誰も来てない‥‥」
作戦行動前に、軍と打ち合わせをして連携を密にしていたエレシアは、記憶の端からの微かな疑問と小さな自信を抱いていた。
槍は、エイミに向けられている。だが、盾も、守るべき者を包む内側はしっかりとエレシア、エイミの方を向いており――
「あははー、バレちゃった? すごいね、やっぱ殺した相手に変装する方がよかったかな。あ、ちなみにこの血も偽物ね」
血まみれで倒れていた男は、機敏な動きで懐へ手を滑らせる。
だがエレシアはエイミをぐいっと急ぎ引き寄せ、
千盾『ミルフィーユ』の陰へ共に隠れる。鋭い金属音の後、床に数本の棒手裏剣が転がっていた。
追い討つように、陰に隠れて視界を無くしたエレシアに、男は飛びかかった。
UPC軍の服の袂から飛びだすスティレット。白い絹のような首筋を狙う凶刃、
エレシアが咄嗟に盾を突き上げ、そのまま持ち上げるように敵を上に流してから、回転。
自分の重心を相手に乗せるように地面へと叩きつけた。
肺から息を漏らして男が倒れる。だが眼は死んでいない。
「やれやれ‥‥だから戦線には立ちたくなかったんだ」
ため息交じりで、何気なく男が自身の肩に手を乗せる。
かちっ、という音の後に、何と服を赤く染めて地面に倒れていた男は、一瞬で消えてしまった。
「――ッ?!」
エイミが、現れたアサシンをその目に捉える。
だが、一緒に飛び込んできた光景は、応援に駆け付けたUPC兵が、何が起こったのかわからないという表情のまま大量の血を吐き、
アサシンが背中にナイフを突き立てている所だった。
「それ以上は‥‥やらせません!」
反射的に手を突きだし、夢中でミスティックTの光弾を連続で放つエイミ。
敵を鋭く睨むその左目は、筋の走った金色になっていた。
奮い立つように、エレシアが『仁王咆哮』を発動し、アサシンの注意を自身に向ける。
腰から長い剣を抜き、腰を落として地を滑るように走るアサシン。
咄嗟に雷槍を反転させ、逆手に持って『四肢挫き』を突き下ろすように繰り出す。
最後に、掬い取るように石突側の柄で払うと、態勢を崩され男が怯む。
そこへエイミがアサシンに勢いよく駆け寄り、
狙いの定まっていない、苦し紛れで突きだした男のナイフへ潜る様に飛び込み、
機械剣を逆袈裟で振り抜いた。
血糊ではない、本物の鮮血が、焦げた匂いと共に男の胸に滲み、背中から真っ直ぐに倒れて行った。
「能力者にしか使えないのは心苦しい‥‥」
成果を発揮できない拡張練成治療を脳裏に、倒れたUPC兵の傷を診るエイミ。
今度こそ衛兵を待つべく、警戒を強めたエレシアから無線を借り、怪我人の連絡を流した。
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「ここから先は‥‥通しません‥‥」
砦から砦へと渡る橋に、一人で男が立っている――推定、強化人間。
ゆったりと、ただし無駄のない動きで両指の間に幾つもの柄付き手榴弾を構え、
クラフトとモココへと投げつけた。
宙で、地面で、あらゆるところでそれは破裂し、360度から爆風や鉄片が二人を襲う。
「蝶のように舞い蜂のように刺す! なんて、蜂みたいに二撃では殺してあげないよ♪」
瞬天速で手榴弾の爆風を抜け、大男の背後へと回りこむモココ。
自身の頬を流れる血をぺろりと舐めてから、空中で体を捻った反動で爪を背中に突き立てる
男は動かない。だが、血も流れない。
モココが怪訝に思いつつ離脱しようとすると、爪があけた穴から覗くのは――巨大な銃口。
腹部に何かを捩じ込まれるような衝撃と共に、彼女の小さな体は派手に吹き飛んでいった。
「モココ!」
急いでクラフトもかけつけようとする、
だが、今度はクラフトの進路上に、滑る様に移動する男。
「すみません‥‥彼女の純粋な殺意は‥‥脅威となる‥‥」
「悪いが、そいつをやらせる訳にはいかないな」
クラフトがすとんとしゃがみ、視界から消えてから回転蹴りを繰り出す。
と、男もその場で足踏みするように片足を上げて、ローキックをカット。
そのまま大男は拳を組んでハンマーのような一撃を振り下ろす。
咄嗟に体を逸らすが、背中へともろに喰らってしまう。
男が膝で蹴り上げようとしたところへ――振り上げた足は、一歩後ろへのステップと代わる。
駆け付けたクラークが、制圧射撃で振りおろそうとした足元へ弾を撃ち込み、敵の動きを阻害したのだ。
瞬天速で駆け付け、クラフトの首元を引きずるように掴み間合いを取る。
「カバーしますよ。一度にいきましょう」
「ああ、やられっぱなしは性じゃない」
砦の風にも抗う、二つの疾風が武器を構えて橋のかかった空を駆けた。
大男は、常識外れの大きさな拳銃を取り出し、狙い撃つクラークへと弾を撃ち込む。
貫くのではない、殴られるような衝撃。
推定、50口径以上はありそうな弾丸が脇腹へとめり込み、装甲がみしみしと音を立てて歪んでゆくのがわかる。
「悪いが、伊達や酔狂でこんな装甲服を着ている訳じゃないんだ」
吹き飛ばないよう、足に力を込めながら、3発の弾丸を大男へと放つ。
銃で庇うように頭部を守ると、瞬天速でクラフトが間合いを詰め、宙で踵を振り上げ、勢いよくその腕へと叩きつけるよう降ろす。
ガードを開かれ、武器を払われた男は驚きを露わにする、急ぎ間合いを開けようと後ろへ下がるが――
すれ違うように、後ろから飛び込んでくる影。
それは、一矢報いるかのように、モココが爪を構えて瞬天速で味方へと駆け寄ったものだった。
「ごめんさい‥‥私にも譲れないものがあるんです‥‥」
クラフトに肩を支えられながら、その場に崩れ落ちるモココ。
既に練力は底を付き、覚醒は解かれていた。腹をやられて吐き気もあるのか、頭を抑えて早鐘の様に息をしている。
大男の頬を、血のラインが走っていた。
撫でるようにそれを抑えると、男はその身から発していた殺気を、収めてしまった。
「‥‥どういうつもりだ?」
「砦がほぼ制圧されてきたようです‥‥俺は‥‥命を張るのではなく‥‥傍に置いておくことが、文字通りの『使命』なので‥‥」
待て! と叫びながらクラークが銃を突きだす。
だが、男は数発軍服に弾を喰らいながらも、橋の下へと『飛び下りた』
鈍い音と共に、下を覗く。男は、のそのそと歩きながら、砦の扉の一つへと消えて行ってしまった。
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雪が降ったような――
視界ではなく、概念。脳が覚える、真っ白な感覚。
激戦の中に、ふっと舞い降りる、自然現象の様な覚束なさ。
だが、それは確実に目で得物を捉えており、指は予定調和の如く引き金を引く。
そして――確信して敵を穿つ。
何十発もの銃撃戦の後、
ウラキとカララクの最後の一発でその『雪』は降り、
狙撃手と観測手は、糸が切れたように倒れた。
辺りに注意を払えば、既に砦内外からの音は静かになっていた。
次ぐように、敵が粗方片付いたという報告を受けた。
無線を取ると、空が雲に覆われ始めている事に気付く。
最初に入れる最初の連絡は――まず、雨宿りを。
勝利の喜びまで流される前に、戦士達は未だ煌びやかに来訪者を受け入れる砦へと、その足を運ぶのだった。