●リプレイ本文
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陽気な春暖を感じさせる桜の色を見ながら、ひんやりとした冷たい空気が頭の天辺まで満たされるのを感じる。
咲き誇る花びらが賑やかな事以外、閑散とした広い敷地の公園には、7畳半毎に区切られた簡単なテントが、
これから始まる喧騒を、積もった花びらと一緒に期待して待ち構えていた。
「おぉう、まださっむ‥これ着てても、か」
時間にして、5時。早朝の桜並木の下に現れたのは、暖かそうなダウンジャケット‥ではなく、
アヌビスを模した機械仕掛けの鎧を着込んだ飲兵衛(
gb8895)
「朝露に濡れた桜ってのも、風流だな」
多くのもこもこした荷物と資材を抱え、朝日に光る桜を見上げながら奥へと進んでいく。鎧を着たままで。
口から吐かれた白い息は、まだ肌寒い故のものではなく、お気に入りの煙草のものだ。鎧を着たままだが。
奥の方に行き過ぎると客足も鈍いと思い、入り口から大体徒歩で十〜二十分圏内の場所を探してみると、
まだテキ屋はおろか、普段公園を利用する一般人すら歩いていない。納得のポジションを見つけるのは簡単だった。鎧を着ていたので。
備え付けの長机に荷物を置くと、紫を基調とした看板をかける。散った花びらが板に付けば、夜桜に見えない事もない。
そのまま気分よく、KVちま――KVをコミカルにデフォルメしたもの――のぬいぐるみを並べて行く。
お気に入りのアヌビスは当然センターに‥余裕を持った設営は、順調に時間を消化していった。
「おや‥朝早くから、精が出ますね」
時刻は進み、ほぼ完成している飲兵衛の屋台を見上げて、通りすがった綾野 断真(
ga6621)が声をかける。
ふと立ち止まれば、沢山提げたビンとビンがぶつかり、心地よい澄んだ音を辺りに響かせた。
「念願の屋台だから、気合い入れて5時入りなんで」
生地を混ぜていたかく拌器を構えて言えば、
断真は流石の時間に驚きつつも、顔には、御苦労様ですと穏やかな苦笑を浮かべて返す。
「そちらは何をやるつもりで?」
「これですよ、よかったら後でどうぞ」
にこりと微笑んでから、持っていた瓶の一つを見せ、栓を開ける。
シンプルな白いボトルの口から、鼻を近づけなくても強く漂うマリブ――ココナッツのラム酒――の香りで、飲兵衛は屋台BARを出すって人がいたな、と思いだす。
割れないように慎重にしまってから、あなたのお店は一体‥と、ボウルを見やって断真が問い返す。
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた。これぞもちもちとした食感を売りにした「あら、とうとうポンデの屋台を出すんですの‥?」
台詞取られた!?と声の聞こえてきた後ろへ目を向ければ、ふにっ、と腹に妙な、いつもの感触を覚える。
そのまま視線を下にずらせば、しゃがみこんだエイミ・シーン(
gb9420)が、どこか惚けた顔をして飲兵衛の腹を突ついている。
まるで自分がタピオカになってミルクに浮かんでいるかのように、
辺りに満遍なく漂う甘いココナッツの香り。そんな芳醇な香りの裏に隠された、決して侮れないアルコール度数は
酒に弱いエイミの脳を容赦なくくすぐっていた。
「何だ、こんな所にいたのか」
「あー、悪ぃ、こっちで回収するからよ‥」
エイミと一緒に屋台を出す皇 流叶(
gb6275)が自身の屋台主を見つけ、
ウェイケル・クスペリア(
gb9006)――ウェル――がエイミを仔猫のようにひょいとつまみ上げ、
唖然として見つめる二人を背に、そのままずるずる引っ張っていった。
「ふふっーん♪屋台ー♪3人で屋台♪」
自分の屋台まで引きずられた頃には、エイミは既にいつもの調子を取り戻し、人参を花びらやハート型に型抜いて、迫る開店時間の為に火を通していた。
テントの前に立つキャタツの上では、回復早ぇな‥とウェルが苦笑する。
「だって、大親友がやっと3人揃ったんですよ!ウェルちゃはテンション上がらないんですかー!」
温かいお茶の入ったジャグを設置していた流叶を、後ろから引き寄せて抱きついたら、
そのままびしっ、と防水シート一枚隔てた親友へ問いかける。
「‥ま、悪くはねーな」
心の底から、そう思える幸せに笑みを浮かべ、固定の為の紐を縛り終える。
ウェルの掲げている看板には、可愛らしい丸文字で『やきそば』と描かれ、濁点部分には蝶をあしらった演出が施されている。
仕上げに、周囲にしつこく無い程度の桜の花びらを散せば、見栄えも完璧だ。
デフォルメされて描かれた、リス、兎、猫が愛くるしく花見客を出迎えてくれるだろう。
「さあ、終わったなら、休めるうちに休んでおこう。きっと忙しくなるからな」
兎が実家仕込みの御茶を注げば、上品な香りが鼻を抜け、リスが駆け寄り猫も上から降りてくる。
差し出す紙コップに浮かぶ桜の花弁が、風情と興趣を感じさせてくれた。
風上から、香ばしく焼けた脂の良い匂いが流れてくる。
食欲を掻き立てる刺激に釣られて見れば、そこには百地・悠季(
ga8270)の焼き鳥屋台があった。
大掛かりなガスバーナー設備と肉の仕込みに、濃紺のジーンズの足元はせわしなく動き回り、
Tシャツの上に羽織った割烹着は、味見のために焼いた鶏肉の煙に包まれている。
「競争してお祭りを盛り上げるのは、良いアイデアよね」
丁度いい照り具合のもも肉を一口。口に広がる納得の味に思わず目を瞑りうなずく。タレの甘辛加減はバッチリだ。
皮に塩を振りながらくるくる回して焼きつつ、段々と準備に賑やかになってきた周りに目を向ける。
「売り上げをチャリティにするというのも、良いわよね」
活気では負けない、と腕を少しまくり、天を仰げば、青い空で泳ぐ桜の花びらに思わず笑みが零れた。
祭りはもう、始まっているのだ。
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「さぁー、始まりましたぁー!どうせ散るなら咲いて散れ!春!混沌!屋台ロワイヤル!!出店もお客も、死ぬ気で楽しみなさーいっ!!」
ハウリングスレスレの威勢の良い声が、園内各所に設置されたスピーカーから響き渡る。
一般開放を始めたばかりだというのに、既に道と言う道には多くの人の波が流れており、
誰しもが、これから盛り上がる祭に、大いに期待した感じを顔に浮かべていた。
「いやはや、賑わってますねー。桜も綺麗ですし空気もおいしい‥‥」
芹架・セロリ(
ga8801)がある桜の木の下で、緑に囲まれる森林浴とはまた少し違った、温かみのある癒しを体に感じて深呼吸する。
ふと、急に隣に悪寒を感じるが、見ても何もなかったので、気のせいで済ませることにする。
「たまには祭りで香具師をするのも悪くない。エリスくんとセロリくんも店を手伝ってくれるというし。やるからには悔いのないよう思い切りいきたいものだ」
セロリが戻ったテントでは、木場・純平(
ga3277)が葱や紅ショウガで色鮮やかになった生地をかき混ぜている。
純平のテントではたこ焼きを売りだすのだった。
いつものピシッと決めたネクタイやシャツを今日は外し、清潔感を忘れないシャツにゆったりとしたカーゴパンツ、
そして頭には、気合いの入ったねじり鉢巻き。寡黙に作業を進めるその姿は、家族サービスに励む休日のお父さんに見えなくもない。
「ホントは家でごろごろしてようかと思ったのですが、売れ残りのタコ焼きを全部下さると言うので…」
砕けた純粋な笑顔でセロリが言い、純平の調理過程をじーっと見守る。視線に気づいて純平が彼女を見ると、
「べ、別に釣られた訳ではないですよ?」
そう信じておくとしよう。
宜しくお願いしますね、とエリス=エルオート(
gb8120)どうやらセロリとは初対面のようだ。
「タコっていいですよね。ぬめぬめしててグロテスクで」
どこか妖艶だが怪しい物言いに、ぴくっ、とセロリのよからぬセンサーが反応する
「食べてもおいしいし。とにかく精一杯がんばりたいと思いますわ」
ほっこりと付け足すエリスに、センサーは自然と解除された。
純平が生地を流し、エリスが切られたタコを沈めて行くと、
どこで修得したのか、テキ屋も口をあんぐりなキリ捌きで次々と我々の知っている『たこ焼き』が出来あがっていく。
「っとと。このセロリ、腹いっぱい食べさせて貰うからには、一生懸命働きます!」
遅れとるまい、と彼女もお手製の持ち看板を手に、営業ボイスと営業スマイルを振りまきながら可憐に屋台の前で呼び込みを始めだしたのだった。
こちらは開けたメイン広場。
公園のシンボルである噴水には、綺麗な水飛沫と涼しげな空気に人々が自然と集い、立ち止まる。
ここには食べ物以外のアトラクション系や雑貨等がメインに出店されていた。
そこをぶらりとソウマ(
gc0505)が歩いている。何の気に無しに、祭の雰囲気を楽しんで店を眺めていたのだが、
ふと、目に入った店の女性が、とても祭を楽しんでいるような顔ではない事が気にかかった。
「あ、あの! 突然失礼かとは存じますが‥少しの間、店番をしては頂けませんでしょうかっ!!」
いきなり立ち上がり、ソウマに向かって頭を下げたかと思えば、彼女はいきなり突飛な話を持ちかけてきた。
「いや、急に言われても‥どうかしたんですか? せめて理由ぐらい聞かせてくれないと」
落ち着いて最もな対応を返すソウマに、おずおずと言い難そうに口を開く。
「実は‥今電話が急に入って来て、私の兄が交通事故に巻き込まれたと‥」
「へー‥それは大変だ。後ろからカマ掘ったとか?」
「いえ、兄は元々安全運転が誇りの人で、無事故無違反‥」
「‥何だ。ゴールドか」
「無免許なんです」
「ちょっと待て」
思わずツッこまずにはいられない流れにソウマが反応してしまう。
肩を掴んで詳しく聞こうとするものの、
「すみません! 一刻を争いますので‥お礼は後でちゃんとしますから!」
全て話して安心しきったのか、返事も聞かずにダッシュでその場を立ち去る女性。
その背中を見て、何が何やらと呆気にとられていたソウマだが、
「たまたま近くを通りかかっただけなのに‥これも運命というものなのかな?」
苦笑し、いつものキョウ運、と自身を納得させる。
「しょうがないですね。これも良い経験になりますし、がんばりますか‥もちろん、アルバイト料はしっかりと頂きますよ」
新店主となった今、簡単な椅子に付き、にんまりと邪な笑みを浮かべてみる。が、純粋に屋台経営を楽しむという事も、彼の視野にあった。
この店は、どうやら開運アクセサリの専門屋台のようだ。
効くか効かぬかは出店のご愛嬌、という事になろうが、それなりに種類も豊富で作りも凝っている。
眺めてて飽きないその品揃えは、多くの客の足を止めていくのだった。
噴水を挟んだその向かいからは、有名な『桜』の曲が聞こえて来た。
強く張られた琴箏の綺麗な音色が、紅の番傘を差した出店用屋台から響いている。
そこには、今日はヘッドホンではなく、後ろのプレイヤーから音楽をかけた、黒瀬 レオ(
gb9668)が立っていた。
「稼げるだけ稼いでみようかな。楽しみながら出来る事なら‥ね」
長着に角帯を着流すという出で立ちで、次々とやってくるお客の相手をする。
メインターゲットは女性、若い層を中心に、女性含むカップルや子供&家族連れを巻き込んでみようと言う魂胆だったが、
成程、水辺で、しかも滑らかな光沢のベロアをかけた椅子を置けるだけ設置したここは、ヒールで歩く女性にもちょうど良い休憩所だ。
「『花より団子』って言葉があるくらいだし、そう言う需要もあるんだよね?」
間違ってはいない、が。
飄々と涼しげに激務をこなすレオの横には、ロジーナ=シュルツ(
gb3044)が、団子をパックに詰めてお客に渡していた。
「お客さんいっぱい‥‥ボクちょっと怖い。レオ、ボクもう帰っていい?」
「まだ来たばっかでしょ!ほら、今日は可愛い格好してるんだから文句言わないー」
そのロジーナは、菜の花色の地に、枝や柳葉のように垂らされた烏羽色の線が描かれた着物を着せられ、
こちらは団子にも勝る、可憐な花と言っても過言ではないだろう。帯止めが黒い爆弾なのは、ちょっと刺激的だが。
「これ何かすごく着づらいの。でも可愛いの、これボク好き。レオ、どぉ‥‥?」
「馬子にも衣装‥? お父さん客も惹けるんじゃないかなー」
この獅子、たまに猫のようにあざといから油断ならない。
ロジーナが頬を膨らませて団子の串を指の間に構えて持つと、
「うそ、冗談。頑張ったらお団子もあげるから」
慌ててフォロー、微笑みもプラス。ロジーナも満足したのか、作業に戻る。
レオの売っている団子は、基本の白、ヨモギの緑、桜餅のピンク等を串団子に、
中にあんこが入ってる串団子や、団子にチョコやら苺のソースかけたりと工夫に富んでいる。
まさに花見の『デザート』にうってつけで、女性から人気の出ないわけがない。
最も、着なれていないゆえに気崩れた着流しが、逆に集客率に貢献した可能性も否定できないが。
「‥これ、美味しそう‥‥」
ぱくっ、と団子が串に刺さらずにロジーナの口へ吸い込まれた。試作の、苺大福風団子も、苺の酸味と小豆の優しい甘みがベストバランスだ。
しばらく忙しい時間が続きそうだが、
二人とも、どこか似たような動機という名のエンジンに基づいた出店に見える動き。果たして気のせいか、それとも。
そろそろ、歩き回った心地よい疲労と、お昼時と言うタイミングが相まって、本格的にお腹が減りだす頃だ。
昨今胸をときめかせる響き、格付けがトップじゃないからと決してバカには出来ない『B級グルメ』の屋台は、
ここぞとばかりにお客をかき集めていた。
「ごめんねー、砂肝もう売り切れちゃったのよ。ビール飲んでるなら皮とかどうかな?」
風上の立地による良い匂いの風と、にこやかな笑みを忘れず元気に立ち振舞う悠季の姿に惹かれ、多くの客が屋台の前にごったかえしていた。
並べて置いておいた肉も、再度火を通して暖める時間すら惜しいほど、瞬く間に売れてしまう。
ボリュームが空きっ腹に抜群のむね肉、定番のももからヘルシー志向のささみ、
パリパリに焼けば酒が進む皮、口直しのアクセントがたまらないネギマに、さり気なく散らしたゴマが欠かせない手羽先、
悠季の仕入れチョイスは、どれも客の屋台への需要をダイレクトに鷲掴んでいた。
「ん、ちょっとキツい‥」
バーナーの炎熱は肉だけでなく、前に立つ悠季の肌も容赦なく灼きつける。
ハンドタオルで汗を拭うと、失礼して、ポケットから目薬を取り出す。
バーナー設備から燻蒸する煙にやられてしまう事を予想して持ち込んだものだ。
彼女が上を向けば、自然としなやかな、割烹着の上からでもわかる身体のラインと、
目薬をさす何気ない仕草に、並んでいた客はつい肉から悠季へ視線が釘付けになってしまう。
「お姉さん。この屋台何時までやるの?他に誰かいるなら、休憩して一緒にちょっと屋台周ろうよ」
学生だろうか、並んでいた若い男が自分の番になるや否や、悠季にそう声をかけた。
その後ろの(主に男性)客からは、やれ抜け駆けか!とか、やれ買わねぇならどけ!とか、俺は前世からその人に目ぇ付けてたんだぞ等、
罵声と怒号が飛んでくる。一瞬あっけにとられつつも、
「ごめんね、あたし人妻なのよねー」
そこは熱気に負けない涼しい対応を返してみせる。
「うそだろー‥‥ちくしょう、ヤケ食いだ。ある肉全部10本くれ!!」
毎度♪ とお勘定の手を差し出す悠季。男が食べる塩焼き鳥は、それはそれはしょっぱい味になるであろう‥
「さぁー、昼飯買うならこっちも見てってくれ! 自慢のやきそば沢山作ってるからよ!」
ソースの匂いとウェルの元気な声が、食事を求めて彷徨う客へ届く。
テントの中では、真剣な顔つきで熱心に鉄板と向き合っているエイミがいた。
「みぃちゃん、疲れてないか‥?」
まずは盛り上げる人が楽しまないと、と流叶が心配してエイミの顔を覗き込む。
「私も笑顔はまだ少し苦手だが、接客では大事だからね」
「んっ、ありがとですよ、ルカちゃん。でも、ここは大事なところなんでー‥」
むんっ、と気合を入れ直し、鉄板に油を敷く。
バラ肉とニンジン、白菜に火を通し、ヘラで固さを確認し、
適度に火が通ったところで麺を乗せ、押し付けるようにして少し片面を焦がし焼いている。
お湯を加えて軽くほぐして少し蒸し焼きにしたら、
ヘラと鉄板が軽やかに金属音を出しつつ、ソースが満遍なく混ざっていく。
その手際や、並んでいる客がつい見入ってしまう程。普段から調理はするようだが、どこかで学んだものなのだろうか。
出来あがった物は、手早く隣で流叶がパックに詰めていく。
花びら型の人参を少し端の方に、白菜を葉っぱに見立ててかわいらしく飾り付ける辺りは、流石女の子の屋台と言ったところか。
「夜に凄ぇ見世物やるから、ダチでも連れて見に来てくれよな♪」
にぱっ、とパックの入った袋を客に渡しながらウェルが純然と笑う。焼きそば屋が魅せるという物、興味が沸くのは摂理だった。
こちらは飲兵衛の屋台。周りに台詞をかっさらう知り合いがいない事を確認して、彼曰く、
「ポンデ、それはもちもちとした食感を売りにしたどーなっつである!」
愛らしい形と、ドーナツの常識と違う不思議な食感と言う宣伝文句に惹かれ、立ち寄る客は老若男女と幅が広い。
「あれ?でもこんなドーナッツ私‥」
ふと、紫芋味だと言う出来たてあつあつの温かいドーナツを手にした客が、飲兵衛に話しかけてみるが、
「あの、これ、ポンデr‥」
「ポンデだよ?」
「ぇ、でも・・」
「ポ ン デ だ よ」
押してきた。そう、これは誰が何と言おうと『ポンデ』なのだ。
話題とマスコット、そのシンプルかつバリエーション豊富な味のドーナツは、
LHを縦横無尽、果ては世界制覇にまで片足を突っ込むお食事戦士、大規模展開中なれっきとしたオリジナル商品なのだ。
語弊と異論は速やかに認める。ぽんでりんパープルが。
「ふっふっふ、これを食す猛者は果たして居るかな‥?」
そんな飲兵衛が扱っているのは、葡萄、ブルーベリー、紫芋、紫キャベツ‥プラムにラベンダーなんかも見受けられるが、
基本的に紫系オンリーで、メニューの下に行くにつれて食すにあたって難易度が高いようだ。ブルーベリー、紫芋等は人気が高いが、
果たして、祭が終わるまでに、紫キャベツが出る事はあるのだろうか‥
「‥っと、そろそろ休憩取るか‥?」
客もそろそろ胃を休めてまったりしだす頃合いだ。自身の代わりにアヌビス鎧を立て『一時間以内に戻ってきます』と看板を首に提げる。
テントから出た彼は、狐のお面をかぶっていた。‥実は、もう随分前から、外していない。
祭の徘徊は、目星を付けないから楽しい。気まぐれ狐は、油あげを探すこともなく、適当に息を抜くことにした。
断真の屋台は、終始穏やかに、さざ波のような客足で落ち着いた営業をしていた。
一枚板のテーブルと、少し高めの椅子、いつも自分の店で来ている服は、BARの雰囲気をそのまま切り取って持ってきたかのようだ。
テントの屋根をとって屋外の開放感も取り入れている。
「兄ちゃん、こんなんじゃ足りないや。もっと強いのない?強いの!」
スーツ姿の中年男性が、3杯目のダミー・デイジー――サワー系のさっぱりしたカクテル――を飲み干して聞くと、シェイカーを振っていた手を止め、
「酔い潰れる方がいるとイメージがよろしくありませんからね」
苦笑して断真が優しく返す。周りの客や祭自体への配慮はマスターと言う名の紳士だ。
「それにお酒を悪者にはしたくありません。ですが、どうしても、とあらばご用意させて頂きますよ」
氷を入れた透明プラのコップにドライジンを注ぎ、日本酒を取り出して同量入れてオリーブを沈めたら軽くステア。
注文が入ってからの動作は全てがスマートで、色も楽しんでもらえるようにと配慮した透明なプラコップよりも、そちらを見ていても飽きない程だ。
「特別に一杯。夜はアルコール解禁ですから、よろしければまたいらしてください」
うまいね、味も商売も、と中年男性が微笑めば、そのままにこりとして返す。
「よぉ、ちょっと寄ってみたよ」
空いてる席に、狐のお面が座る。一瞬、テキ屋の買い物帰りかと思ったが、そこは接客業。声で今朝の鎧甲冑の男と思いだす。
「貴方には、おどろかされてばかりですね」
笑いながら、ご注文はと聞けば、オススメをと返される。昼のオススメ、ピーチ・メルバ―桃の優しい香りと味が特徴のカクテル―を作る。
祭で良い機会だから、と、普段とっつきにくい印象を持つ客もカクテルを試してみようと寄って行く。
「煙吸って、喉がいがらっぽくなっちゃった‥喉越しスッキリしたものってないかな‥?
休憩に来た悠季には、ジンジャーエールベースのノンアルコール、シャーリーテンプルで紳士におもてなし。
夜までなだらかに、一足絶えない営業を続ける分、実はこの屋台が、一番忙しいのかもしれなかった。
斜陽がまぶしく目を差す頃、
ソウマの(押し付けられた)屋台は、本人の予想とは真逆にかなりの評価を得ていた。
「有名なブランドか何かなのか・・?」
出店の商品、と言うと何となく粗雑だったり、まがいものと言う印象もあるが、塗装といい材質といい、
なかなかに細部の作りまでこだわった仕上がりだ。
「すみませーん、この弁天様のヤツを‥」
「えーと‥弁才天のロザリオは‥」
物の値段も、求める客に応えているうちに自然に覚えてしまった。
カップルだろうか、男がせがまれて女性の為にサイフを出すが、
「‥あれ?ねぇ、財布変えたの?」
「ん?あぁ、パチンコで良いのがあたってな‥」
「私が誕生日にあげたブランドの方は!?」
「ぇ、あぁ、一応家で‥」
「‥‥女にもらったとかじゃないでしょーね」
「ばっ、んなわけねーだろ!?」
「だってこの間も‥」
ソウマがお金を受け取り弁財天のロザリオを渡すと、何やら二人の雲行きが怪しくなってくる。
「‥まさか、ね」
弁財天。財宝の神ともされるが、日本の井の頭弁財天では、カップルで池のボートに乗ると別れてしまうという古い起源の逸話がある。
過去、弁天様型のキメラがカップルを襲撃しまくる、という依頼もあったが。本人からしたら至極不敬な事ではあるが、
そのようなイメージがあるのを思い出し、嫌な予感がソウマをよぎる。
「ぁ、猫かわいー。これも売り物?」
通りすがりの、祭を楽しんでいた蜜柑がソウマの屋台でしゃがみ込んでいた。
彼女が手にしたのは、両手を挙げて招いている黒猫だった。
「ねこさん、いいなー」
「欲しい? じゃあ‥おねーさんが特別にプレゼントしてあげるっ」
蜜柑の気まぐれに、小さな女の子がぱあっと顔を輝かせる。主催者からのプレゼントと言ってみれば、
傍にいた親もすみません、と折れて財布を引っ込める。
両手を両親に託して、楽しげに屋台を去る3人。
「おわっ!?」
ふと、父親の方が勢いの激しい水を横から喰らう。出どころは噴水、故障だろうか。
「きゃっ!?」
今度は母親のはいていた草履の鼻緒が、両足ともぷちんと切れてしまう。せっかく綺麗に着こなした着物も、綺麗に前のめりで倒れてしまい悲運な事になってしまう。
「‥出店許可って、結構ずさんなんですか‥?」
僕は頼まれただけだけど、と売り物リストを見れば、さっきから売っているものは『呪いのアクセサリ』部門、とカテゴライズされている。
「売ったのは僕だけど、あなたが譲ったものですよ。どうにかなりませんか?」
「‥私には、お手上げ侍だわ‥」
猫の置物のように、にゃんと両手をあげる蜜柑。ま、経費はスリジエ持ちだし‥と、彼女は急いで家族の幸せを取り戻しに駆け寄った。
「ただいまですー‥!?」
「うりゃああ!!」
すぱーん。キャベツ、まな板、そして机が一直線に真っ二つ。
エイミが飲兵衛の所に差し入れのやきそばを置いてきた帰り、
キメラも真っ青なその一閃は、休憩中に調理を教えてもらうはずだったウェルの放ったものだった。
「‥デジャヴだぜ‥‥」
握っている、3人お揃いで揃えた調理器具の包丁を見て、ウェルが苦笑する。
「なんでそうなるかは謎だが‥誰しも初めは上手くいかない物だしな‥」
優しく丁寧に教える、と流叶。基本的な猫の手を猫に教えるのは変な感じがしたが、包丁の持ち方、
火が通りやすい切り方、料理に適した切り方、油の伸ばしかた、具材投入のタイミング、
随所随所で真剣、手を抜かないウェルに、ゆっくり確実に教え込んでいく。
「そろそろ大丈夫そうなら、ウェルちゃんに一個、作ってもらおうかな」
「‥わかった、やらせてくれっ」
美味しい、って言って貰えるのが近道。流叶の言葉を思い出し、技術は追いつかずとも、気持ちだけは力一杯目の前に込めてみる。
野菜は、簡単な仕込みのおかげでどうにか見てくれは整った。エイミも見守る中、焦げ、焼き加減、水分等に気をつけて、
いつもは扇子で敵と舞うダークファイターも、エモノをヘラに持ち替えた途端、焼きそばに踊らされてしまうから難しい。
「ど‥どうだ‥?」
完成したものをパックに盛り、流叶とエイミが一口。
「ん‥‥」
「‥‥うん」
「せめて、何か言ってくれよ‥」
がくっ、と項垂れるウェル。不味くは無い、食べられはするのだが‥こう、やはり一朝一夕では限度があるのだろうか。
時間もあるし、もう一度、とウェルが立ち直れば、ふと、幼い少女が物欲しそうな目で3人を見ていた。
否、少女の視線はウェルお手製のやきそばに注がれている。
「食ってみるか?これならお代はいらねーからよ‥」
少女の純粋な好奇心に微笑みながらパックを差し出すと、器用に箸を使ってすすりだす。
「‥おねーちゃん、これ、美味しいよっ」
ぱっと顔を輝かせて、真っ直ぐに目を見て、一生懸命に正直な感想を伝える少女に、ウェルも胸を撫で下ろす代わりに、にぱっと満開の笑顔を返すのだった。
「店番、すまないな」
純平が休憩から自身の屋台に戻ると、断真の屋台のノンアルコールカクテル、
さくらレディ―桜のエキスとヨーグルト、レモン、炭酸を加えたもの―をエリスとセロリに手渡す。
エリスは素直に受け取り、セロリも、トラウマがあったが今回は忘れて素直に甘えるつもりのようだ。
こんな幼い儚げな少女に、一体如何なるトラウマを埋め込んだのか、個人的に興味があるのは報告官とこれを読んでいる貴方との秘密だ。
「おお、結構せいky‥‥何を売っていたんだ?」
何だろうか。ふと純平がたこ焼き器の上を見れば、明らかに自分が作っていた時とは色合いが違う。
こう、タコや紅ショウガよりも濃い赤で、葱よりももっさりとした緑がたこ焼き器の上に飛び散っている。
「出発前に言いました通り、ちょっと変わり種を作ってみましたわ」
少しですけど、と中にタバスコやワサビ、グミ等を入れた『ロシアンルーレットたこ焼き』を作ったと、ほっこりした笑顔でエリスが言う。
「もちろん、変わり種のたこ焼きと断った上で販売しました。ノリや罰ゲームで買って行かれる若い方が結構いらっしゃいましたわ」
「中々美味しかったですよー?」
がっし、とエリスとセロリの間に、ゲテモノ協定が結ばれる。この二人、食べれそうなものならとりあえず食べられるのだった。
恐らく、リボルバーではなく、オートマチックでロシアンルーレットをしても生き残れるのだろう。
「ぁ、でもでも、ふつーに食べれるものも作ってましたよ!」
ずいっ、とセロリが純平に試食を促す。見た感じ、特に怪しい点は見られないまま口に放ってみる。
「たこぬき」
「たこぬ‥?」
「はい。タコが入ってないんですっ」
「‥最早ただの『やき』だな、それは」
がくっ、と期待した食感を虚空に噛みしめ項垂れる純平。
「よし、これも今日の報酬代わりだ。美味しいたこ焼きの作り方、見せてやろう‥」
Tシャツの袖を更に捲り、ねじり鉢巻きをぐいっと締め直せば、一瞬だけ彼の周りの空気が止まったかのように見えた。
「ぢぇぇぇいやぁぁぁぁぁ!!」
刹那、一瞬にして、少しのムラも無く注がれる生地。粉雪のように天かすとタコが舞えば、
日ごろの鍛錬で身につけたスピードとテクで、大量のたこ焼きを一気にひっくり返して焼き上げていく。
まとも以上に食べられそうな純平お手製たこ焼きは、飛ぶように次々と売れて行く。
セロリは、自身の食べる分の心配をしながらも、こんな美味しそうなものが食べれるならと、
鬼神の如きたこ焼き師を前に、また売り子に力を入れ出した。
●
宴も酣、暗夜に桜。
備え付けの設備でライトアップも施され、今宵のイベントは夜桜まで楽しんでもらう魂胆であったが、
「折角の夜桜‥‥蛍光灯じゃ、味気ねーだろ?」
ウェルが覚醒し、自身の効果をいつもよりも最大限に広げて辺りを照らす。
淡い光に照らされた桜。その中を舞う光の蝶と、夢と現の花吹雪。
「みぃやん、頼むぜ」
「了解ですよ、ウェルちゃ」
そこにエイミが合わせて覚醒すれば、ひんやりと漂う冷気が、まだ肌寒い夜の風に流されて散り、
今まで戦場でしか見なかったような覚醒の効果だが、思わず平和に魅入ってしまう空間が出来あがる。
「ウェルちゃん、扇子‥持ってる?」
こうも優美な和様を演出されては、舞踊経験者の血が騒ぐというものだ。
流叶が両手に扇子を拝借すると、息を深く吸いこみ、動きを止め、一寸拍後、一気に振って扇面を露出する。
緩急の効いた動きで客を魅せ、虚空に彩られた光に合わせ、すり足で地を滑り、花びらのようにはらりと舞う姿の何とたおやかな事か。
「さーて、最終営業、ラストスパートですよ!」
素敵なサプライズの屋台には、おのずとお客が集まり始めていた。祭は、まだまだ続く。
そんな目のくらむような美しいイルミネーションを横にして、レオとロジーナが二人並んで歩いていた。
お花見しないと勿体ない、と営業が終わってからレオに言いだしたのはロジーナだが、
彼女は屋台を出てからずっと、レオの着流して余った袖をつまんでいる。
「レオ、こないだボクのこと守ってくれるって言ってたから、へんなひととか来ても守ってくれるもんねきっと」
「‥はいはい。守るっても、怖い人だったら僕も逃げるからねー?」
レオの顔を覗きこんで言えば、彼は苦笑しつつロジーナと視線を合わせる。
二人は、光を投じられ、周りの闇とハッキリ隔てられた桜を仰ぎながら、並木のトンネルをゆっくり、レオが歩幅を合わせて歩いていく。
「綺麗だねぇ。すごいねぇ」
「そだね、綺麗だね」
「レモンスカッシュ持ってきたの。すごく酸っぱいの。のむ?嫌‥‥?」
「酸っぱいのはヤだけど‥今日はもらってあげる」
差し出された飲み物を手に取ると、
今空いたばかりの彼女の小さな手、また袖に戻すのも忍びないので、少しだけ、軽く自然に手を取ってみる。
「お花見て、お茶飲んだり、お団子の残り食べたり。ボク、レオと一緒にいるの楽しいみたい。なんでぇ?」
かくっ、とまた覗きこみ、今度は無垢に聞いてみる。
着物は、素直に褒めて欲しかったかもしれない
遥かに固いドラグーンの鎧ではなく、目の前の彼に守って欲しいと思ったのは、何故。
次々と興味を惹く出店で、かわいいアクセサリを見たり、くじ引きの景品に驚いたり、ひっぱりまわして、買ってとワガママを言う事すら、特別に楽しくて。
他の男の子とは、少し違う、気がする。
彼女には、まだわからない。
わかるのは、歓喜にも、幸福にも、満悦にも、焦燥にも緊張にも悲哀にもかわるような、胸の奥にある霞んだしこりのようなものだった。
「‥なんでだろう、ね。難しい事は、僕よくわかんないよ」
真剣に考えた素振りは見せず、彼女の瞳に微笑み返すレオ。
清新な桜の風に包まれて、二人は残りの祭を満喫しに消えてゆくのだった。
「ようっ、久しぶりだ」
夜も深まり、お酒の進みが早くなった断真の屋台に、黒い影が来店する。
黒のフロックコートにスラックス、白絹のシルクロングマフラー、縁無しの伊達眼鏡をかけたその男は、UNKNOWN(
ga4276)
しかし、断真はこの男の事を良く知っていた。お久しぶりです、と変わらぬ笑顔で出迎える。
「このBARは、夜までやっているのかね?」
「いえ、祭の時間に準拠しますよ。よろしければ、この後お店にお越し頂いても構いませんよ?」
商売人のジョークのつもりでも、UNKNOWNには余裕で、意識せずとも売上に貢献出来る程に飲める自信があった。
「何になさいますか?」
「そうだな‥‥いつも通り世界一周から頂こう。そして、世界を旅しよう、か」
かしこまりました、と断真が構えると、ジンの瓶が断真の背中を周り、空を駆け、ミントグリーンのリキュールが綺麗な放物線を描き出す。
今朝方取り外して解放感を出した屋根が今活かされた、断真の特別なフレアバーテンディングだ。
最後に、高く放ったグリーンチェリーがノースプラッシュで着水すれば、鮮やかな緑をしたカクテル『アラウンド・ザ・ワールド』が完成する。
「この世界に、乾杯、だ」
高く挙げられたグラスは月へ、そしてスマートに、闇に飲みこまれていくように、UNKNOWNの中へとカクテルは消えてゆく。
「最近は、お忙しいのですか?」
文字通り、世界一周、世界各国の土地名が付いたカクテルを順番に出して行く断真が問えば、
「すまんな。最近は思う様にも行動できなくて、な」
なかなか皆を支える裏動きもやりづらくて、なと軽く片目瞑り見せたら、深いピンク色をしたカクテル『ニューヨーク』を桜へ重ねて、飲み干していく。
「それは‥御苦労様です。きっと大変な事も多いのでしょう」
「あぁ‥だが、私は心を押さえ続けなくてはいかんから、な」
――あまりにも……UNKNOWN、だから、ねと、ポツリと呟いた男の声は、届いただろうか。
綾野もどうだ、と進めれば、頂きます、と京華―京都のしだれ桜をイメージしたカクテル―を作り、UNKNOWNのシンガポールスリングとグラスを合わせる。
「いい月だな――また、自由にやれるといいのだが、な」
幾ら酒を飲もうとも水の如く顔色変える事は無い。それ故に、ただ、寂しさにも耐えている心すら、周りの者にとってはUNKNOWN。
孤高の男のダンディズムとは、牧歌的な人生を望みつつも、どこか物悲しい物も付き纏うのだろうか。
嗜み馴れた紫煙を一息吐くと、ゆっくり立ち上がり、懐からハーモニカを出す。
月夜桜に響く音色、銀のボディーに映える明り、自らを語るは、夢幻を思わす音色のみかも知れなかった。
●
どこか呂律の回りきっていない、ハウリングスレスレボイスが祭の終わりが近付いている事を知らせる。
飲兵衛がゴミ袋を持って近辺のゴミ拾いをしていると、見かけた悠季も手伝いを申し出てくれた。
この公園ではその後、夜中に出歩くと彷徨うアヌビスが夜遊びする子をさらっていくという都市伝説が生まれたとか生まれなかったとか。
「待ってましたー!ボクのタコ焼きちゃーん‥‥って、ねぇ!!?」
純平の屋台のたこ焼きは、結局全部売り切れていた。また作ってやるから‥と宥める純平の横で、かなりの手負いに至るセロリがいた。
エリスは、今度はウツボやナマコなどいかがでしょう‥? と、ほっこり恐ろしい事をのたまっている。
ソウマの屋台のお姉さんは、結局戻って来なかったらしい。売上はチャリティーになる分、目論んでいたアルバイト代は泡沫の夢と消えてしまった。
リスと兎と猫の屋台では、断真の屋台のノンアルコールカクテルで『お疲れ様!!』と乾杯が行われた。ほぼ働き詰めだった分、仕事の後の一杯は格別に違いない。
「ふふふー♪ 大成功だったと思わないー?」
本部と書かれたテントの下で、頬杖ついて隣の女性へ問う蜜柑。
「あぁ‥思いつきにしては‥思いのほか、盛り上がったな」
艶やかな長髪の店長が、机に足を投げ出し、腕を組んで桜を仰ぎ見る。
「こんな時間が、必要なんだよね。今の私達には」
「‥絶対、守って見せるんだから。ほら、こうやって楽しみを味わえば、平和への執着が力になると思わない?」
びっ、とさっきまでハウっていたマイクを突き出して、蜜柑が言う。
「‥‥若干、心構えとしてはセコい気もするけどね」
「いいの。勝てば官軍っていうじゃないっ」
「‥そんなシメ方で、いいのかい?あんた‥」
やれやれ、と苦笑する頃には、隣のオペレーターは寝息を立てていた。
桜の祭は、大成功のうちに終わった。
非日常のような日常。幸せが続く事の貴重さ。
傭兵という身において、噛みしめ、時に感傷に浸る事は多いかも知れない。
それでも、前を向いて歩いてくれればと言うのが、託す者の願いである事を、戦場に立つ者としては、忘れないでいて欲しい。
『どうせ散るなら咲いて散れ!春!混沌!屋台ロワイヤル!!』
受賞者一覧
『散るは桜か札束か!賞』
【やきそば】
皇 流叶
ウェイケル・クスペリア
エイミ・シーン
『団子に負けない魅せた華!賞』
【開運グッズショップ】
ソウマ
『舌鼓の酔騒楽!賞』
【屋台BAR】
綾野 断真