タイトル:空手部の試練マスター:高井 鷹

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/14 13:12

●オープニング本文


 唐突に穏やかな風景の学園に似つかわしくない厳つい声が響いた。
「お前ら、空手部の門をよく叩いたな!」
 その声はカンパネラ学園の敷地の一角、少し段差になっている場所で聞こえてきた。
 入学式のシーズン、各部が新入生の確保に凌ぎを削る戦場。その中で運悪く集められた新入生達が声の主に目を向ける。
 声の主は道着を着たガタイのいい男であった。道着を内側から押し上げる鋼の筋肉が、男の体を実際よりも更に大きく見せる。そして、その脇には布で覆われた怪しい物体。
「俺の名前はワン・フーレン!お前らの先輩に当たる!」
 大声を響かせ話すワンは、意味も無くあちこちに突きや蹴りを放ちながら話を続ける。
「お前らは空手部の門を叩いたが、入部手続きの前にまずはお前達の実力を俺に見せろ!方法はこれだ!」
 ワンはそういうと自らの横の物体、その布を剥ぎ取った。 現れたものは獣を模した姿のロボット。しかし、その姿は獣を模していながら、現存するあらゆる獣とも違う姿をしている。
「どうだ、驚いたか!?これは科学部か開発したキメラ型ロボット、その試作タイプだ!俺が無理やり‥‥もとい、溢れる人格で寄付してもらった。本当はこんな物より俺が直接戦った方が早いんだがな‥‥」
 唐突に言葉を止め、しばし物思いに耽るワン。
「まぁ、上に止められてよ。お前らも俺と戦いたいだろうが今回は勘弁してくれや。とりあえずこいつとお前ら何人かのチームで戦ってもらう。試作型でロボットだっていってもキメラはキメラだ。気を抜いてると怪我するからしっかりやれ」
 ワンの言葉にどよめく新入生達。当然のごとく新入生から抗議が上がった。
「せっ、先輩!いきなりそんなのと戦えって無茶じゃないですか!?」
 新入生の言葉に段から降りるワン。
「あんっ!?無茶だぁ〜?お前らもいつかはキメラと戦うんだ。その予行演習と思いやがれ!第一、何も一人で戦えって言ってんじゃねぇんだぞ!俺はチームで戦えって言ったんだ!作戦なり考えればお前らでも倒せるだろうがよ!それでも文句がある奴は帰れ!そんな腰抜け空手部にはいらねぇ!」
 ワンの言葉に押し黙る新入生達。そんな新入生達を見つめながらワンは問いかける。
「それで、誰かこいつと戦おうって言う骨のある奴はいるか?」

●参加者一覧

真白(gb1648
16歳・♀・SN
鬼道・麗那(gb1939
16歳・♀・HD
釧(gb2256
17歳・♀・DG
七海真(gb2668
15歳・♂・DG

●リプレイ本文

 挑戦者は女の子
「っで、誰か戦おうって奴はいねぇのか?」
 改めて集まった生徒達の顔を見渡すワン。その表情は微かだが生徒達への苛立ちが見える。そこに場違いにも感じられる明るい声が響いた。
「私やりま〜す」
 声を上げたのは真白(gb1648)。彼女を見たワン表情が少し険しくなる。
「お前は?」
「新入生の真白です!よろしくお願いしますっ。」
「真白君か」
 もう一度生徒達に問いかけるワン。
「おいおい、この子だけに戦わせる気か!?」
 すると、今度は二人の生徒が輪から歩みだしてきた。
「ふぅ、仕方ありませんね。彼女だけに戦わせるのは可哀想ですから‥‥」
 一人はため息をつきながら出てきた鬼道・麗那(gb1939)。そして、
「私も戦います」と端的にそれだけ言い、大きな物干し竿を肩に背負って出てきた釧(gb2256)。
 新しく参戦を表明した二人の少女を見て、ますます険しい表情を浮かべるワン。
「よりにもよって皆女の子か‥‥えっとだ、お前らほんとに大丈夫なのか?ロボットとはいえ怪我することもあるぜ?」
「大丈夫っ!皆でやれば何とかなる!」
「これぐらいの相手を倒せなければ私の目標には届きません」
「これ、使ってもいいなら大丈夫です」
 元気な真白。決意を秘めた瞳の麗那。物干し竿を力強く握る釧。三者三様の力強い言葉にワンは何も言わず頷いた。
「よし、それならいいだろう。さっさと始めるがその前に互いの自己紹介くらいはしといたらどうだ?」
 言われてそれぞれの顔を見る三人。
「私は真白です!よろしくっ!」
「鬼道・麗那よ。よろしくお願いしますね」
「釧です。頑張りましょう」
 言葉と共に握手する三人。そこにワンの声が掛かる。
「始めていいか!?」
「えぇ、問題ありません」
 自然と代表して答える麗那。
「んじゃ、始めるぜ!」
 ロボットの後ろに回りスイッチを入れるワン、ロボットの目に光が灯り、彼女達の前に飛び降りる。

 戦う乙女達、そして傍観者の参戦
 グルァッ!
 ロボットが猛獣のような鳴き声を上げる。
「頑張ってこ〜!」
 真白が二人に声を掛ける。微かに頷く二人。
「ロボットの関節からコードが見えます。そこを狙いましょう!」
「了解!」
 勢いよく返事する真白と静かに頷く釧。
「私から!」
 掛け声と同時にロボットの関節、その奥に隠されたコードに向かって拳を振るう真白。しかし、その拳はロボットの挙動に邪魔され外部装甲の一部に弾かれる。真白の手に伝わる鈍い衝撃。
「いた〜い!」
 思わず殴った手をさする真白。そんな彼女にロボットは足の先の爪を振るう。
「わわっ!」
 慌てて避ける真白。真白の相手に夢中になっているロボットの背後から、麗那と釧がそれぞれ同じように関節に攻撃を仕掛ける。だが、ロボットは獣並みの俊敏さで彼女達の攻撃を難なくかわす。しばらくの攻防が続く。ロボットの攻撃は単調で、注意していればまず当たらない。しかし、獣並みの俊敏さと装甲の厚さのせいで、彼女達の攻撃もさして通じない。
「っ!」
 釧が放った竿の一撃、それが足に引っかかりロボットの体勢が崩れた。
「これでっ!」
 そこに麗那が渾身の回し蹴りを入れる。ロボットが蹴りの勢いに押され生徒達の輪にぶつかる。それを見て思わずワンは生徒達に大声を上げた。
「やべぇ!そいつは試作タイプだから敵味方の区別がつかねぇ!早く逃げろ!」
 慌てて逃げ出す生徒達。しかし、一人の生徒が逃げ遅れた。生徒に牙で襲い掛かるロボット。彼女達も助けようとするが間に合わない。誰もがそう思った矢先、横から出てきた影にロボットは吹っ飛ばされた。
「あーあ‥‥手出すつもりなかったのに‥‥、しゃーない、やるか」 
 めんどくさそうにそう言い放った影、さきほどまで観戦していた生徒の一人、七海真(gb2668)である。
「おぃ、そこの筋肉達磨!」
「あ〜ん、誰が筋肉達磨だ!」
「うっせぇ、俺も参戦だ。文句無いな」
「構わんぞ、勝手にしろ」
「あぁ、勝手にするよ」

 ロボットの定め
「うぜ〜‥‥」
 ロボットの攻撃を避けながら関節部分に石を詰め込もうとする真。しかし、中々上手くいかない。何度かの攻防の後、足の関節に石が詰まり、動きが鈍るロボット。
「今だ〜!」
 一斉に攻撃を仕掛ける一同。真白はその辺に置いてある看板などを投げつけ、麗那はロボットの関節部分に正拳突きを入れる。釧は装甲板の隙間に竿を突き入れ、真は更に関節に石を詰めようとする。しかし、よほど頑丈なのかロボットは倒れる気配を見せない。さすがに疲れが出始めた面々を見て真が最後の手段と取っておいたスパークマシンαを取り出した。
「こいつを使うから離れろ!」
 真の言葉と手に持った物を見て飛びのく一同。ロボットの体に激しい電流が流れる。電流は外部装甲から内部に伝わり、ロボットの回路に致命的なダメージを与える。放電が収まる。動かないロボット。
「終わった‥‥?」
 ロボットの機能停止を確認するために近づく釧。その時、動きを止めていたロボットが急に釧に飛び掛った。
「っ!?」
 ドドドドドッ!
 咄嗟に隠し持っていた銃で真白がロボットの胸を打ち抜く。衝撃に地面に落とされたものの、胸の装甲板が取れた以外は問題なく動こうとするロボット。その胸に釧の竿と麗那の拳が突き刺さった。
 ボグンッ!
 二人の攻撃はロボットの動力源を破壊し、ロボットは爆発を起こした。その爆炎と破片が四人に襲い掛かる。

 先輩の目論み外れる
「いたかった〜。爆発するなんて聞いてないよ〜」
「まったくですわ。傷もさることながら服が汚れてしまいましたわ」
「でも、皆無事でよかったです」
「爆発はともかく、怪我をしたのはお前らが鈍くさいからだ」
 そんな風に四人がそれぞれ爆発への文句を言っているとワンが近寄ってきた。
「おぉ、お前ら無事みたいだな。うむ、多少危なっかしい場面があったが、中々にいい動きだったぞ。お前らなら主将や老師も歓迎するだろう。どうだ、空手部に来ないか?」
「ぜって〜、いかね」
 真が誘いを即座に拒否する。
「そうか?俺はお勧めなんだがな〜。入ってみんか〜?」
「うぜっ、行くわけねぇだろ」
「そうか、多少お前の物言いに腹が立つが今日のところは勘弁してやろう」
 次にワンは真への勧誘の間に、自分の救急セットで皆の怪我を治療している真白に話しかけた。
「真白君。空手部へ来ないか?いやいや、回避の身のこなしは中々だ。空手部に入ればもっと動きに磨きがかかるぞ?」
 ワンの言葉に真白は少し後ろめたいような表情を浮かべた。
「実は‥‥私スナイパーなんですよ。だから、入部はちょっと‥‥あっ、でも空手の練習や体を鍛えるのに参加するのは楽しそうかも」
「なるほど、そういうことなら歓迎だぜ。体験入部でも部活体験でもいつでも来てくれ」
「はいっ、そういうことなら遠慮なく‥‥!」
「麗那君はどうだ?」
 服の埃をはらっていた麗那はワンの言葉に、
「すみません。私には『闇の生徒会』があるので、入部は御免なさい!許して‥‥ね」と満面の笑顔で返した。
 麗那の笑顔に若干照れるワン。
「そっ、そうか。よくは分からんがやるべき事があるんだったら仕方が無いか」
「でも、主将さんに紹介とかはして欲しいな」とウィンク一つ。
 その動作に顔を真っ赤して、
「わっ、わかった!主将にそのうち紹介しましょう!」と約束するワン。
 しばらく頭を冷やした後に残った釧に声を掛けるワン。
「釧君だったな?武器というか道具を使っていたが、素手での戦いも強くなろうと思わないか?」
 ワンの言葉に他の二人と同じように浮かない表情で、
「ごめんなさい。私には青空洗濯同好会‥‥が、ありますので」と頭を下げる釧。
「いや、気にしないでくれ。そうか、もう同好会に入っているのか‥‥」
 自分が気に入った四人全てに断られ、がっくりするワン。そこに釧が話しかける。
「あのっ、部活は出来ませんけど‥‥胴着の洗濯は、ぜひ青空洗濯同好会に御用命下さい。あと、たまに見学しに行ってもいいですか?」
 釧の言葉に少し喜ぶワン。
「それはもちろん歓迎だぞ。正式な部員こそ獲得できなかったが、興味を持ってくれたのが三人か。これで納得してくださるだろうか‥‥」
 ブツブツ独り言を言い始めたワン。そこに学園の先生が爆発音を聞いて飛んできた。
「ワン!また、揉め事を起こしたのか!?ちょっとこっちに来い!じっくり話を聞かせてもらおうじゃないか?」
「いやっ、これはっ、部活の一環でして、ちょっと、誰か、助けを?」
 先生に連行されるワン。そんなワンを尻目に四人は打ち解けあっていた。
「へぇ〜、麗那さんて生徒会の人なんだ〜」
「生徒会ではなくて『闇の生徒会』よ。詳しい話は食堂でゆっくり話しましょう。釧さん、あなたもいらっしゃいますわよね?」
「えぇ、行きます。真君も行きましょう?」
「めんどくせ〜けど、行ってやるか。あんたらだけだと不安だしな」
「真君ひどいよ〜」
「「うふふふふっ」」
 真の皮肉に文句を言う真白、そしてそんな二人を見て笑う麗那と釧。新しい季節を感じながら、新しい友人の輪が広がる春。和やかに会話する四人から少し離れた場所で、一人の男の悲しい叫びが聞こえてくる。
「誰か、俺を助けてくれ〜!」