●オープニング本文
前回のリプレイを見る【棺】アキラを追う
アキラのアジトを襲撃してから1週間以上‥‥。
「やっと解析できました!」
「本当か!」
ウィルソン・斉藤(gz0075)率いる『ファウンダー』は、アキラ・H・デスペア(gz0270)が残したUSBメモリにある内容を何とか解読した。コンピューターから、ドローム社製・映像粒子装置のプロジェクターに地図とデータのリストを映し出す。デトロイトからメキシコ以南の某所までのルート書かれていた。
「舌打ちしたとか言うが、コレは誘い込むための罠かも知れないな?」
斉藤は、アキラがそんなミスをするとは、思えない。冷静で狡猾で非情な男だからだ。
「彼らが向かう先の一はつかめました。親バグア政権と言う南米のここです」
部下がデータファイルを引き出して説明していく中、この部分は戦略的価値がないと言う事でバグアから見放されている区域だと分かる。
「‥‥ふむ。こうした所を経由してアキラがいる場所を負うしかないな」
煙草を燻らし、考える。
「休憩とっている傭兵に至急連絡しろ」
「了解」
斉藤は、このあとどうするかを考えた。
傭兵達が集まったあと、斉藤はこういった。
「解析に成功し、アキラが向かうルートまでは分かった。しかし、その先が途切れていて、あいつが言った『コフィン』という物が何なのかまでは分からない。そこで、諸君らにこのアキラが向かった街まで行って情報収集をし、総合してアキラの『本拠』の特定をしてくれ。それが可能になれば、その本拠に偵察が出来る」
今回の任務は情報収集だと、言った。
「で、場所が問題なのは分かるだろう? 南米内陸の競合地区だが、戦略的価値がないバグアから放置されている場所だ。しかし、その場所の代表団体は『親バグア』と唱えている。UPCとか言うのは控えた方が良いだろうな。余り大事(おおごと)にするのは止めるように。向こうの兵力などはあまりないはずだからな」
つまり、潜入だが、人類側を離反したはぐれ能力者あたりの変装で挑めと言うことらしい。
「10マイル先までは、高速移動艇で乗せることが出来るが、現地までは足を使ってくれ。地理的に車はかなり無理そうだ」
斉藤は、状況を説明していった。
一方、アキラは‥‥ある、屋敷にいた。ソファに腰をかけて、自分で腕の手当をしている。
「早くここも、『綺麗』にしないといけませんね」
メモリを落としたことでおそらく、ここを嗅ぎ付けるだろう。落としたことは前向きに考えると、個人的な『ゲーム』として楽しめるヒントになるだろうと、思い直した。
「バグアを慕うという民は犠牲には出来ませんけど‥‥」
「装置のセット、準備完了しました。『蜘蛛』も起動完了です」
部下が現れては、報告する。どうやらここを引き払って、逃げるらしい。
「さて、ここが無くなっても、生きていて、ヒントも見つけられたら‥‥本当に会えるかも知れませんね‥‥能力者の皆さん‥‥」
アキラはやおら立ち上がり、部下を引き連れてその場を去った。
●リプレイ本文
●目的の街まで
悪路をジーザリオが走る。ぬかるみにはまって、全員で持ち上げる事が度々あった。結果的に体が泥にまみれ、汗も不快感を倍増させる。ただ、それ以外の障害としてキメラも人間のパトロールもいないのは幸いだっただろう。ジャングルから見えるのは、そのジャングル特有に生育する鳥たちしか見かけない。他の動物たちは、人間の気配に怯えて隠れているのだろう。
「この先に、アキラがいるのか‥‥」
鹿島 綾(
gb4549)が悪路の先を見る。戦略的価値もなく放置されてもおかしくはない環境とは信じがたい。
「まったく、逃げてばかりですから今度こそ決着をつけたいです」
風雪 時雨(
gb3678)が肌につく汗をぬぐって言った。
「‥‥さきに情報ですよ‥‥。彼は、俺たちを誘い込もうとしているのですから‥‥」
ベル(
ga0924)が時雨を諭す。
「はい」
作戦では、ベル、ファルロス(
ga3559)、綾、桂木穣治(
gb5595)ははぐれ能力者として変装し、この街に訪れたと言う事にして入る班。水上・未早(
ga0049)と鹿嶋 悠(
gb1333)は、見晴らしの良い場所をさがし、デスペアの逃走ルートを見極める班。そして、国境関係なく治療を続ける医者として、白皇院・聖(
gb2044)と助手として時雨が覚醒してから女装するという事になっていた。残念なことに、車のレンタルは出来なかったため(道が酷い為、8人乗りのような車は貸し出しが出来なかった)、ジーザリオを1台借りて移動となる。この悪路を通れるのは、ジーザリオだけだったのだ。
「時間差的に入る方が良いですね」
「いっぺんに入ると怪しまれるからな」
打ち合わせて、三班に別れて街に入る。
未早と鹿嶋は、ジャングルの中に見晴らしの良い場所、もしくは高台を探してみるが、
「ほとんどジャングルで囲まれて、それらしい物がないですね」
「木に登ってみるしかないでしょうか」
なかなか見つからなかったが、少し時間をかけて、ようやく見晴らしはジャングルの奥地にいるよりましな程度の地点は見つかった。大体怪しい建物らしい所などは分かる。
「内部班の方、気をつけてくださいね」
「はい」
周辺をみる未早は、そう言う。そのあとで、
「‥‥ベルくん」
「‥‥何です?」
「気をつけて」
「‥‥はい‥‥わかってます‥‥未早」
大切な人には更に念を押した。
●はぐれの能力者として
「へぇ、人類側に嫌気がしたのか?」
パブに綾やベル、穣治が町の人と会話している。もちろん、人類側から逃げてきたと言う事で。
「ようこそ、バグアの領地へ」
すんなり入る事が出来たことに、拍子抜けする一行だった。
ぼろを纏って逃げてきた(道中泥だらけになっているし)こともあるし、綾が、UPCの悪口をいろいろ言うため、住民は結構信用しているようだ。
酒とジュースを奢って貰い、外の世界はどうかと訊ねられる。
「ああ、こういう事があってな‥‥」
綾が話し始めるなか、
「おおぉ、酒が欲しい‥‥」
手を振るわせて、穣治が酒を欲しがったので、
「‥‥穣治は酒がないとだめなんです‥‥。酒を追加してくれませんか‥‥」
ベルがバーテンに頼んだ。
ある程度話が終わった後、
「実はな。‥‥はぐれでも雇ってくれるバグアのお偉いさんをいないか?」
綾が住民に尋ねると、
「ああ、この先の白い屋敷にアキラさんがいるよ」
直ぐに答えてくれた。
「あの人は、良くやってきては土産話を持ってきてくれる」
と、ここの住人はアキラに好意的である。親バグアという区域だからというだけでなく、1人の住民として接していることなのだろう。
「屋敷に行って、話をしてみるといい。礼儀正しい人だったよ。ま、俺らみたいに乱暴な言葉遣いじゃないだけだけどな」
住人は親切にも、住所を書いてくれた。
「〜通りの20番地か」
酒をガブの飲みしている振りをしている穣治もそのメモをみて、目を鋭くする。ベルもこのまま突っ込むことはせずに、別同伴に連絡がいると思っていた。
綾はベルにメモを渡す。綾と穣治は住民の注意を自分達に引きつけけた。その隙にベルがパブから出て行く。連絡を取り合うために。
別の場所では、聖は苦笑していた。時雨が覚醒して、リンドヴルムを隠し、白衣にズボンの女装であった。覚醒すると外見的に彼は女になってしまうのだ。
「元IMPとしての実力をみせますよ」
「いや、まあ、いいですけど」
IMPって芸能だけど歌専門じゃなかったのかという疑問もあったが、それは横に置こう。こういう時に女装をするのは効果的なのかは不明だ。ただ、助手もしくは看護師としての位置であれば、余りおかしくはない。それに、アキラにあっても、時雨は常にAU−KV越しからなので、相手は時雨が男なのか女なのか全く分かってない可能性が高いのだ(リンドヴルムデザインを女性的にみせているとか、中にいるのが誰かを悟られる事をしてない限りは)。
入り口にいる警備らしい人物に止められると聖は、旅の医者であると説明して証明書などを見せると、警備はすんなり通してくれた。
「医者が少なくてな。歓迎しよう。どこかの空き屋を手配しておく」
「「ありがとうございます」」
ウィンクする時雨に警備はすこし頬をそめて微笑んだ。
(「恐ろしい」)
(「任せてください」)
手配して貰った空き家を掃除し、診察が出来る状態になったら、沢山の人で賑わいを見せていた。
(「ああこれでは、ドジっ娘設定は使えないか‥‥本当に医師不足なら」)
時雨は本当に医者の仕事のサポートをしなくてはならなくなったので、余分な設定を放棄し、聖の指示に従う。しかし、慌ただしくなって、結果的にであるが、医療器具のワゴンをひっくり返してしまう。
「ああ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「いや、まだ予備がありますし。煮沸消毒すれば何とかなります」
こういったハプニングもあるが、
聖が治療中に、時雨が男性などに話しかけては、この街の道などを聞き出した。
こうして、両班の情報を照らし合わせた結果、アキラの屋敷の位置とそして、綾が屋敷の内部の簡単な構造を入手した。いったん、聖が陣取った空き家に時間を起きながら6人で集まる。
「コフィンの内容は全員が思っているように『ヨリシロの素材』か『洗脳能力者』の物だろうけど、アキラが堂々と待っているわけでもない直ぐに乗り込みたいところだが‥‥あいつの事だ‥‥絶対罠を仕掛けている」
綾は眉間によせる。
「爆弾の可能性が高いですね」
聖が言うと、彼女は頷く。
「いつでも突撃したい所だな」
穣治が言うことももっともだ。よそ者が来ていることぐらい、アキラも知っているはずだ。逃げる前に確保と行きたい。
「今回は、アキラから情報を手に入れる事を優先にしよう。未早もそう言っていたと思う」
綾の提案に皆が頷くが、時雨だけは少し気にかかっていた。
「‥‥フィアナさんのことと関係はわかりますが、私情は挟まない方が良いです‥‥」
ベルが、時雨を諭した。
「わかってますよ‥‥自分がリンドヴルムで水上さんところに連絡入れます。いいですか?」
「‥‥おねがいできますか?」
機動力的には、時雨が良いだろう。
30分もしないうちに戻ってきて、突入を敢行することになった。
●屋敷
(「りっぱなものだな」)
地中海沿岸にありそうな白い屋敷。を見つけて住所も家の形も同一と分かると、勝手口からは時雨のリンドヴルムと聖、ファルロスとベルが別の窓。綾と穣治が正面より少しずれた窓から突入開始する。
合図とともにドアや窓を蹴破り部屋に銃を突きつける。しかし、どの部屋も空っぽだった。
「人がいる気配は無いのか?」
無線でやり取りする。
二階に通じる階段を覗き、用心深く歩き、部屋のドアを蹴破り、銃を突きつける綾。
その先にあった物は、奇妙な大きな装置だった。デジタル時計特有の音が不気味に鳴り響いている。
「な!? 爆弾っ!? 逃げろ!」
綾は直ぐに二階の階段を飛びおりようとするが、階段がめしりといってそのままステップを突き破ってしまい一階に落下してしまう。
「しまった!? 痛ッ‥‥まに‥‥まて‥‥こんな時こそ冷静に!」
尻餅をついた後に、彼女の脳にある屋内の記憶などを思い起こす。
「そうだ、この先に‥‥っ! あった!」
彼女は転がりながら、ある場所に突っ込んだ。
綾の叫びに全員も窓やドアから飛び出して身をかがめた。豪快な爆発と、屋敷の炎上。石造りなので内部が燃えるだけらしく白い壁は煤で汚れるぐらいで、形はとどめていた。
「‥‥かなりでかいものだったですね。『コフィン』で会おうと言っておきながら、亡き者にする気だったのでしょうか?」
時雨が咳をする。
「‥‥あいつにとって贄の『テスト』でしょう。この程度でくたばったら俺たちは失格って奴ですね‥‥」
埃を払うベルは、そう答えた。
「綾さんは?」
聖と穣治が、綾がいない事を訊ねる。
「まさか逃げ延び‥‥?」
『ここだー!』
階段があったらしい場所から声。6人はそこにむかうと、一階の床に散らばった残骸をのけながら煤まみれの綾が現れた。
「無事だったのですね」
「結構ひやりとしたが‥‥。この先に面白い物があるぜ」
綾は聖と穣治の治療を受けてながら、地下を進む。
その地下室には、旧新そろえたコンピュータと、わざとらしくおいている見覚えのあるUSBメモリーがテーブルにおいていたのだ。いかにも動きそうなUSBメモリーである。
「この障害(爆発)で、あきらめて帰るのではなく、その跡を探していけばあいつにつながると思ったんだよな」
「なるほど‥‥ここから表へ出られる隠し通路もありますね」
「‥‥早く未早と合流しましょう‥‥」
6人は治療してその地下道を進んだ。
●外で
未早と鹿嶋は屋敷が爆発した所もを目撃する。
「大丈夫でしょうか?」
「信じてますよ‥‥」
未早は、ぎゅっと手を握って祈る。好きな人が無事である事を。
しかし、周辺警戒を怠っていることはない。爆発を必ず見るために、近くに『彼』が潜んでいるはずだ。未早はそう確信しているのだ。
「「? 音?」」
そう遠くない場所で、奇妙な機械音を聞いた二人は慎重に進んだ。木々の狭間に枝に擬態したかのように、蜘蛛のようなロボットがへばりついていたのだ。距離にして40m程先だ。
「アレで死んでいたら、私の見込み違いでしょうけど‥‥まあ、いいでしょう。ゲームは私の勝ちだから」
未早も鹿嶋も聞き覚えのある声に、確信した。
「其処までです。アキラ」
「またあったな」
未早はシエルクラインを、鹿嶋はフォルトゥナ・マヨールーをアキラが乗っている蜘蛛型のメカに向ける。
「なるほど、私の行動を読んでいると言うことですか。上出来です。しかし、二人で何ができますか?」
蜘蛛型機械で蹂躙すれば早いという余裕を見せているようだ。
「『コフィン』とは何?」
未早が訊ねるが、アキラは笑うだけで。
「ヒントはあの屋敷の中でした。それがあればおのずと‥‥」
「あの屋敷? 罠と一緒に?」
「ゲームですから。まずあなた方はまだゲームに勝利しているわけではない。勝利の権利を得ていませんので答える義務はありませんね」
「ふざけないで‥‥っ!」
未早は銃を撃ちたい衝動をなんとか抑える。信じたい‥‥。皆が生きていることを!
「そう言えば俺達の事を『贄』と言っていたが‥‥黒魔術でもやる気かな? 出来損ないの悪魔さんよ」
鹿嶋が挑発的に言うと、アキラは鼻で笑う。
「そんな非科学的なことをする訳ないじゃないですか。『贄』だけで、それと直結することが愚かしい。では、『良い素材』として言い換えましょうか?」
「‥‥言ってくれるじゃないか‥‥」
鹿嶋も引き金に手をかける。
「あなた方2人だけでは、周りにいる『蜘蛛』3体に勝ち目はないですよ?」
アキラが、襲いかかるつもりなのか、機械が動き出す。ガトリング砲が2人を纏めて蜂の巣にしようとするが、鹿嶋も未早も何とか躱す。掠る程度の痛みを堪え、反撃に転じようとするが、別の蜘蛛機械の足が襲いかかってきたため逃げるしかない。
「ヒントを失ったか、あの爆発で死んでいる仲間と一緒になれば、あなた方はゲームオーバーです」
「そうはいくか!」
鹿嶋はフォルトゥナ・マヨールーを撃つ。しかし、蜘蛛型機械からキメラより強い赤い壁が展開された。危機的状況を打開する術はあるのかと2人が思ったとき。
「残念だな!」
煤まみれの綾達が叫びながら走って来た。後ろに仲間達が銃や武器を持って駆けつけてくる。
蜘蛛型機械の動きが攻撃から急遽、後退する。
「生きていましたか。ほほう‥‥このゲーム今回は貴方達の勝ちのようです」
アキラは感心していながら、撤退を決め込んでいる。
「では‥‥今回も失礼します。今度は本当に『コフィン』で会いましょう。そうだ、コフィンのヒントですが‥‥。あなた達は良い『洗脳能力者』にもなれますよ!」
蜘蛛型機械は8人に囲まれるよりも早く、動いては障害物を無視して後退していく。鹿嶋がペイント弾を撃って蜘蛛機械に命中する。時雨が追いかけようとするが、綾に止められた。
「あの蜘蛛はステアーパーツを回収していた物とおなじだとおもうぜ。俺たちの足では、直ぐに追いつけない! それに、足場的に無理がある‥‥!」
「っく‥‥」
時雨は悔しがった。
「大丈夫ですか?」
未早はベルに駆け寄った。
「‥‥大丈夫です。かすり傷ですから‥‥」
まずはメンバーの治療と、屋敷から得た、今にも動き出しそうな不気味なメモリーの解析だ。
(「必ず『コフィン』を見つけ出して‥‥倒す」)
全員が、そう思っていた。
●解析。
「地図だけってのはおかしいんだと思うのです」
未早はウィルソン・斉藤(gz0075)にそう言った。
「今解析中だよ‥‥で‥‥、コレがこうなってと‥‥。ポチッとな‥‥」
エンターキーを押すと、前にあったメモリーから、様々なファイルが出てきた。
「地下に隠していた(?)物って、コレの解読キーだったのか‥‥?」
「ああ、計画書とか、ご親切にあるぜ?」
その内容をプリントアウトして、皆に配る。
『洗脳能力者を作るための、長期保存方法。逸材を確保しても、生物故に衣食住などの経費などがかかる。更に洗脳は複数同時で行うと質が落ちる可能性も示唆されている。そのため、確保した人間をとらえたときとほぼ同じ質で保存するには、冷凍することが良いと判断される』
「なんだ? これ?」
『コフィン』とは、洗脳能力者を作る前段階の保存装置‥‥まだ人間の科学レベルでは完成していないコールドスリープ装置のようなのだ。
「‥‥と言う事は攫われた人々は生きている可能性はある‥‥な」
斉藤は、頭を掻いて、次はどうするかを考え始めた。
――あの南米の街から更に北にある、無名の島にその『コフィン』がある。