●リプレイ本文
●ドクター
「No〜〜っ! 夏が過ぎれば出るとおもっていたのに〜!!」
ドクター・ウェスト(
ga0241)が妙なハイテンションで、『魔法と少女と肉体言語2』の発売延期を嘆いていた。作ったスタッフでもあるため、
「仲間内ではバレてはいるが、新キャラは今のところ情報出せないから、困ったね〜」
原稿のネタが、時期的に不可能という痛恨的状況だ。
そこで、エスティヴィア(gz0070)と、彼女の助手のコアーを呼び出し、
「何か良い案ないかね〜?」
「そう言われてもねぇ」
エスティはドロームコーラを飲んで、考え込んでいる。
「あたしも余り知らないしねぇ。今回の肉体言語の細部は」
「私も知りませんからね‥‥。こまったものです」
あーでもない、こーでもないと話をしていると、ドクターは長身の女性(少女)に気づく。
「ところで‥‥。リズ君だね」
「はい、初めまして」
「初めましてだね〜」
実はドクターとリズは初対面である。
(「エスティヴィア君、彼女をこっちの世界に引きずり込むのかね?」)
(「その計画よぉ」)
と、彼はエスティに耳打ちで訊いてきた。エスティは即答する。
「‥‥ならば! リズ君!」
「は、はい?! 何でしょう!」
「この、『魔法と少女と肉体言語』ひかりのコスをおねが‥‥」
「いやですっ!」
手にあった、フェニックスの衣装はエスティに返すために持ってきたのだが、ああ、タイミングが悪かったようだ。
「それに‥‥恥ずかしいですよ」
「そこをなんとか!」
このままでは土下座しそうな勢いだったので、リズは困り果てていた。
「いやいや、コスで遊ぶのは面白いけどさぁ。解決になってないわよぉ?」
「そうです、それでも根本的解決にはなってないですよ」
「ああっ! そうだった〜!」
エスティやコアーの一言で、目が覚めるドクターは、魂を口から出しながらドクターは叫んだ。
やたらとハイテンションなのは、彼の心情によるものらしい。
色々考え、ひかりイラスト集『無銘に敵無し』に決めたドクターは、とぼとぼ西研に帰って行った。
●グッズ創作
古河 甚五郎(
ga6412)は地方からの即売会にはでていたが、こういった大型には出たことがなかったらしい。
「ずっと地方でしたが! これで全国区!」
と、彼は気合いを入れている。
すでに入稿済みなのだが、グッズだけは手作業で作るため、自室にこもって作っている最中だった。
書籍『私、傭兵だけど、彼氏のKVがガムテープ式だった』 で、グッズが『ガムテープ式財布』 のガムテープ製財布って使い道があるのか不明だ。
本の内容は、危険依頼にはいった彼氏のKVが実はガムテープ並だったので、本星HWと戦ったとき、物の見事に粉砕するという、ギャグだった。色々「やめて」と突っ込みたくなる内容である。
彼のガムテープに対しての執着は感嘆に値するだろう。
――売れるか売れないかは、分からない。
●秋月邸1
「又かなり散らかってはないか?」
黒子・アルヴァイム(
ga5051)が秋月 祐介(
ga6378)の書斎を見ている。確かに作戦を組み立てるための資料が山となっているわけだが、直ぐに片付きそうだ。
「いや、それほどでも。大規模作戦などありましたし、余り掃除は出来ませんでしたが。前回みたいな事はないでしょう」
秋月は苦笑した。もっとも、男一人暮らしだとそう言う状況が多い。ここは掃除担当に任せようと言う事になった。
黒子の他に伊藤 毅(
ga2610)と鹿嶋 悠(
gb1333)が手伝いにやってきたわけだ。
「お邪魔します。作戦行動を開始する」
さくさく、雑多になった本を段ボールにしまっては、人数確保スペースを作っていく。重い物を担当するのは鹿嶋の役目だ。それをしながら、黒子が資材の購入メモを作る。
「ん? 男の娘が女子学園に変装潜入するものか?」
「自分は実はジャンル外だったのですが‥‥いかに、素材をうまく料理するかも考えないといけませんので」
「はて、似たようなシチュエーションのアニメかゲームをどこかで聞いたな」
「それは聞いたことがありますね。今回は、どちらかとしては『タイが曲がっていてよ?』気味だとおもいます」
コアな会話をしながら必要な物をリストアップして、黒子は出かけていった。伊藤も自分の仕事場所を確保して、自衛隊ネタの原稿を書き始める。
「やっほー! きたよー!」
リリー・W・オオトリ(
gb2834)が元気よく画材道具のはいったトランクとキャリーを持ってやってきた。その隣に彼女の甥、ティム・ウェンライト(
gb4274)がいた。
「こんにちは〜」
「ああ、いらっしゃい。どうぞ、上がってください」
ウェンライト2名は秋月の部屋に入る。ティムは初めてなので、あたりをキョロキョロしていた。
「今回の話はなんなのかな? かな?」
「実はこういう物です」
直ぐに打ち合わせに入ったリリーと秋月に、ティムも加わって、
「まさか‥‥、俺が?」
「その、まさかだよ♪」
ニッコリ微笑むリリーに、
「‥‥」
こめかみを押さえるティム。つまりだ。
『聖レスト女学院』
という、女子校の中で変装する男の子の話‥‥に、ティムが苦悩したのだ。
「おばさんの手伝いだけどコレは‥‥」
しかし、配役も決まっている様なので、変更は利かないらしい。
「しかし、まだ人が足りないのだよ‥‥しかし、抜かりはない」
秋月はテーブルに肘をついてから両の手で台形をつくり、その手で口を隠している。
(「この人‥‥やる気だ!」)
●悲しいけどコレ、戦争なのよ
「戦争中だけど、入稿締め切りが迫っているんだ。動かせないものが!」
全くごもっともだと言うしかない台詞を言うのは、鈴葉・シロウ(
ga4772)。
ヲタ☆クマであり、数あるクマ称号の白熊ビーストマンだ。
大規模の合間、彼は必死に原稿を書いて、書いて、書きまくっては、フィギュアを作っていた。ちなみに、マウルたんのフィギュアが出たけど、某「なの」少尉がまだ無いため大ショックで涙目だったとか。
それでも、彼は原稿を書きながらも、原型にパテ盛りし、やすりがけしては、サーフェイサーを吹いて、加工していく。原稿も捗っているようだ。内容はLHで普通に(?)出回っているKV少女と自作KV少女を織り交ぜた学園ラブコメディらしい。
さあ、その出来はどうなるか謎だが。
●秋月邸2
「えーっと秋月さん〜」
ファイナ(
gb1342)がインターホンを押す。
「あれ? ファイナさん?」
「柚井さん?」
彼を呼んだのは、可愛い容姿の少年、柚井 ソラ(
ga0187)だ。
「どうしてここに?」
「秋月さんが、エスティヴィアさんにデータを渡したいらしいので、そのお使いですね」
「ほわ、そうですか。俺は、何か忙しいらしいからって、コレを」
ソラはお菓子詰め合わせとドリンクを持ってきたらしい。
そう話していると、秋月がドアを開けた。
「いらっしゃい。来てくれたんだね」
秋月は獲物を狩る肉食動物の目をしていたが、光の反射で見えなかった。
「こんにちは〜」
「ああ、こんにちは。まあ、入りたまえ」
「あの差し入れです。ってもう‥‥すごい‥‥ですね」
お菓子を受け渡しながらソラは気圧されている。
リリーとティムが必死にネームを書いては、専門用語が飛び出して、コミレザについて分からない『一般人』なソラにとっては異世界その物だったのだからしかたない。
「ね! モデルは?!」
リリーが秋月を呼ぶと、目に映ったのはファイナとソラにむかって。
「逸材がキタよっ!」
その、覇気にファイナとソラは怯む。
「おちついて‥‥この二人にも‥‥まあやって貰いましょう、けど‥‥」
「な、なにをですか!?」
彼らはまた身構えた。
「ええ、モデル、モデルですよ。デッサンなどのね」
秋月が説明すると、
「うーんとまず、データを渡しに行きたいのですが?」
ファイナが言うと、秋月は考えた。
「一寸用意に時間がかかるんですよ。少し待ってくれないかな? ああ、そうだ、君たちには是非とも今回の物語に参加して貰いたいのですけどね」
「へ? 参加?」
ソラとファイナは、きょとんとする。
「報酬はそうだ‥‥。焼肉ですね」
眼鏡を中指で上げる仕草をする秋月に、ソラは目を輝かせた。
「焼肉っ! え、奢ってくださるんですかっ?」
「ああ、もちろんですよ」
キラキラ目を輝かせるソラはそれに乗った。
「では、僕もお呼ばれしようかな!」
ファイナも快諾した。
(「「計画通りっ!」」)
秋月とリリーは心の中でほくそ笑む!
まず顔のデザインと体格などなので、普通に立ってとポーズなどもとってもらい、リリーが描く。
(「ここでばれたら身も蓋もないからな‥‥。まだ衣装が完成していない事が幸いしたか‥‥」)
(「だよね。特にソラくんは。ぜーったい拒否するものね♪」)
と、リリーと秋月はアイコンタクトで会話しながら、原稿の手はずである、「良モデル」を獲得したのであった!
●『KV少女の物語(仮)』ダイジェスト版? 作:鈴葉シロウ
傭という男がいる。幼なじみの少女とともに、彼は平凡な日々を送っていたが、ある事件を堺に日常が変わってしまった。
祝というと学園のヒロインを救ってから、後輩の摩天楼さんとも知り合いになったり、いきなり、隼子(はやこと無理に読む)という義妹の登場とか、ヨーロッパ風の縦ロールお嬢様のKさんとも、何かの勘違いで言い争い→友達になったり、なにこのモテモテ人生となるが、しまいに、主人公が女友達多くなっていくことで目の敵にしている、蛇江さんにも目をつけられる。
(さあ、誰がどのKV少女なのかわかるかな!?)
「このまま行くと俺‥‥って、隼子?」
色々疲れ切った彼が家の脱衣所で、着替え中の義妹とばったりだ!
「お兄ちゃんのすけべー!」
傭の未来はどっちだ!
●葵コハル
「コミレザの即売会はチラ見だけだったけど、楽しそうだったんだよなあ」
葵 コハル(
ga3897)は、去年の事を思い出す。色々大変だったので。イベント全体を歩き回ったわけではない。今回は一人の創作人物としてKV少女のコスプレ写真集を出すらしい。しかも、IMPの関係者と距離を置く形で。
アイベックスの美術部に「シャチョーに内緒」ということで、素材をもらいに来ている。
大丈夫なんかね? とおもうが幸いいけたようだ。
「どういうものをつくるのですか?」
と、聞かれたとき、
「案は出来ているんだっ! 今、流行のKV少女!」
と、どのようにするかの走り書きを見せた。
リヴァイアサンは、古いデザインのスク水に「りう゛ぁいあさん」とひらがな描写。そこで水鉄砲にビート板をリヴァイアサンの装備としてベースに加工(その物とわかるものだと良いかもしれない)。
シラヌイについては、袴と和式の胸当てにシラヌイの頭部を作って、和風剣士になどなど。
ここに来た理由はそうした衣装があるかの確認の他に、KV独特の装甲を作るための素材探しなのだ。さらに寸法も測らないと、歪になるので、ある程度サイズを知っているアイベックスに行くは至極当然だろう。KVは雷電やディアブロもある。ほかには、『肉体言語』のかなたコスもある。
こうして、コハルは運良く物を調達し帰宅。
さて、ここからが彼女の修羅場である。
「このたびは春那の写真集をお買い上げ頂きありがとうございます。また機会があればドコかの即売会でお会いしましょ? しーゆーれいた〜♪」
録音だけは先に済ませて、次は着替えて写真を撮っての繰り返し。
加工もおわりあとは、写真の編集などだ。
たぶん、かなりの時間はこもりきりになるだろう。
彼女の写真集タイトルは何なのだろう?
それは、当日のお楽しみがいい。
●秋月邸3
「こんにちは‥‥金城ですけど‥‥」
おずおず入ってきた金城 エンタ(
ga4154)と、
「焼肉奢ってくれるって本当か?」
焼肉に釣られた、アラビア人のAnbar(
ga9009)がやってきた。
「そうですよ。自分は、嘘は言いません」
原稿作成のところは、すでに修羅場となっている。ファイナとソラはエスティにデータを渡しに言ったのでいない。
「このデザインで良いの?」
「いや、いや、まだ、まだ何かが足りない!」
「黒子さん、その棚の本を!」
ウェンライト家が指揮をとって、原稿を書いている。まだ、登場人物のデザインに苦労しているようだ。
「もう一寸足をだしてほしいな〜。うん、そうそう」
「こうですか?」
すでに水鏡・珪(
ga2025)がモデルの仕事をしている。しかし彼女は非常に勘違いをしているようだが、
「この服のデザイン可愛いですね。折角ですから夫にも見て貰いたいくらいですね。ふふふ。」
珪もお気に入りのようで、コンテに描かれている学生服を気に入っていたので、問題はなさそうだ。
台所と仮眠室となる場所を行ったり来たりして、掃除をしているのは葛城・観琴(
ga8227)のようだ。
「うーん、この状態を見ると」
「手伝いたくなりますよね」
Ambarもエンタも「手伝います」と、中に入って、可能な事を手伝っていく。
「まずは、登場するという条件だからね」
「ああ、なんだってやろう」
秋月は黒子に目配せしていると黒子は頷くだけだったが、二人は気がついてない。
「では、コンテでまだ出来てない部分があってね‥‥」
秋月とリリーが傭兵を登場人物にすると言うことだから、モデルになって欲しいと言う。エンタはドキドキしながら頷き、Ambarは「焼肉のため」と言うことで頷いた。
先にAmbarがモデルになっているなかで、エンタが制服のデザインを見ると‥‥。
「あ、僕、お裁縫など出来ますから‥‥マネキン代わりに‥‥作ってみましょうか??」
「え、リアルで作ってくれるの? ボクとしても大助かりだよ!」
リリーは大歓喜する。
「では、材料とかありますか?」
「では、アルヴァイムさん‥‥」
「うむ、直ぐに取り寄せよう」
黒子はホントに黒子として、影で動いている。格好が格好なので目立つけど。
数日かけて、エンタは深緑色基準で、赤と白のラインアクセントをつけたブレザーを作り上げたのである。これが『聖レスト学院』の制服である。冬服だが、膝上4〜5cm前後までの普通のスカートも絶対領域用のミニスカも、スケ番のロングスカートも作っている。隙はない(何のだ?)。
「コレって誰が‥‥着るのでしょう?」
エンタが首をかしげるが、まだコンテ〜ネーム状態なので、まだ分からない。ヒロインと言う事だけにしよう。
(「俺も着るの?」)
ティムが叔母に訊ねると、
(「とーぜん! 覚醒したら直ぐだよ!」)
(「ううっ、こうなるのか!」)
しかし、本職モデルの珪が居る事で、動きのイラストなどはかなり良質である。リリーもティムも絵のスキルは上がったと思われる。
ぶっ続けで書くことなど普通は出来ないため、原稿のメンバーは休憩を取ろうと思い始めた。
「ふう、一寸休憩だね‥‥うーん」
リリーが首をひねると、ゴキっと骨が鳴る。
「肩こる仕事だな‥‥」
初めての絵に関する作業の経験でAmbarも背伸びをする。
「‥‥あ、お茶お持ちしました。柚井さんのお菓子と紅茶をどうぞ」
観琴と珪がお茶菓子とお茶を持ってきてくれた。
「あ、観琴さん、僕はコーヒーで‥‥少し甘めが良いかな‥‥」
その反応を、長いこと(一年半程度だが!)同人で付き合いのあるリリーは見逃さない。
「ボクの若い頃を思い出すね♪」
ニヤニヤして、お茶を飲んでいた。
●エスティとリズと‥‥
「エスティさーん」
ホテルのホールからエスティを呼び出してロビーで待っているファイナとソラ。数分後に、彼女を見つけると声をかけてきた。
「ほーい」
眼鏡をかけて、きりりとした姿にエスティが近づいてくる。その隣にリズとコアーがいる。
お互い、挨拶を終わらせてから、本題に入る。
「あの、秋月さんからこのデータを受け取ったので、渡しに来ました」
「ありがとねぇ。たすかるわぁ。ファイナ君」
エスティは外部だけを確認して、コアーに渡すと、コアーは一度ホテルの部屋に戻るといって、帰って行く。
「さて、ゲスト参加のために向こうに行きますか」
「あ、いくのですか?」
「うんうん。2人も戻るでしょ?」
エスティが訊くと、
「え、まあ」
2人は頷いた。
そして、交通機関を利用し、秋月邸に向かう。ちょうど、秋月邸から鹿嶋が書籍を纏めた段ボールを運び中だった。力作業による部屋の片付け担当なのだ。死蔵品とかを箱に詰めて別の箇所に『退避』させるためである。中身がHな本と言う事を知っているため、鹿嶋本人は、かなり怖がっている。
(「ここで、リズさんにあったら‥‥どうしよう」)
しかし、この世に神がいるならコレは試練なのだろう、あって欲しくない状況に陥った。
つまり。
「あ、鹿嶋さん!」
リズは彼を見つけて、声をかけてきたのだ。
(「そんなばかな!」)
顔面蒼白の鹿嶋。やばい、ここで‥‥。
「あ、そのリズさん‥‥こんにちは」
「うん、お掃除ですか?」
「え、まあ‥‥そうです。秋月さん、今大忙しですから」
と、世間話しかけるが。
「一寸コレを運んできますので!」
「はい、いってらっしゃい」
とんでもない状況に陥らなかったのは幸いである。
(「このまま持っていたら‥‥中身が‥‥中身がっ!」)
●秋月邸4
そして、最後の助手がやってくる。
「男の娘がいっぱいいると聞いて」
冴城 アスカ(
gb4188)が手伝いに来たのだ。
「「男の娘じゃありません!」」
普通の格好のソラと、エンタ作の制服を着ているファイナが否定する。
「説得力がないわねぇ」
「しまったあ!」
膝をついて落ち込むファイ娘。エスティや他の人にせがまれ、
「もう、コミレザでやったんだからいいじゃん」
というエスティの言葉でファイ娘となったわけだ。
「く、タイミングが‥‥本当は着たくなかった‥‥」
「ほんと、良い素材だよ。助かっちゃうな」
リリーは笑顔で感謝している。
『男の娘の定義』とは、進んで着る事ではなく、こうして抵抗と否定をすることに浪漫があるらしい。あと、『綺麗』と言うより『可愛い』あたりが尚いいと言う説もある。
この時、Ambarは仮眠中で気づいておらず、ミスLHであるエンタと覚醒中ティムは、にこにこして制服を着ていた。
「ここは是非、写真に納めないといけませんね‥‥今後の資料のために‥‥っ!」
秋月はぎらりと目を光らせていた。
アスカに与えられた仕事はベタとトーン貼りなどだが、単調すぎて、何度か秘技『ちゃぶ台返し』をしそうになる。だが、珪や観琴がなだめたり、リリーがアスカの『属性』を見抜いてその手の落書きを見せたりとしていくうちに、落ち着きを取り戻した。徐々にコツを掴んだのか、
「ふふふふ、ふふふふ‥‥。次の原稿待ってるわよ‥‥」
と、完全にトリップしていた。
ソラは、アスカの姿をみて怖くなり、涙目になってファイナの背中に隠れていた。
●修羅場の中の桃色粒子散布
リズは、普通の格好で観琴と珪と一緒に周りの手伝いをしている。そこに鹿嶋も加わるので、力仕事は彼に回ってくる。
リズは大型ゴミ箱をゴミ捨て場に出そうとして、近づくと、
「リズさん、コレは俺が持ちますから」
「あ、それはあたしが‥‥」
と、鹿嶋の手が重なった。
「わあっ!?」
「ひゃう!?」
お互い妙な声をだして
「ああ、すみ‥‥ません」
「いえ‥‥おれの方こそ」
しかし、何かしら修羅場から、ニヤニヤ声が聞こえる。
(「落ち着け、悠‥‥ここは、教授のテリトリーだ! ここで、教授になられると、色々命が‥‥あれ?」)
教授モードになるはずの秋月の視線を感じられないことに、不思議がる鹿嶋は、おそるおそる作業場を見ると、
「ああ、僕なら大丈夫だよ。論文を書いていた頃に比べれば」
「無理はなさらないでくださいね」
彼は鹿嶋とリズの空間に気がつかず、観琴さんと良いムードであった。
「あの教授が‥‥。人は変わるものですね‥‥」
鹿嶋はふむと考えるが、直ぐにリズにむいて、
「あの‥‥一緒に行きます?」
リズに訊くと、彼女は微笑んで「はい」と返事をした。
数日が経つ。
エスティはと言うと、今回は別件もあるため、ホテルで缶詰だ。
「ゲスト分できたよおお」
彼女は分裂体さながらな形相で、完成原稿を持ってきてくれた。
「ど、どうも。いらっしゃいませコーヒーどうですか?」
観琴が心配そうに原稿を受け取って、エスティを招き入れる。
すでに観琴にとって、秋月邸は自分の家と変わらないほど知り尽くしていた。
●『聖レスト女学院』ダイジェストCM風 TYPE−AUTUMN
聖レスト女学院の理事長が逝去する。その孫のティムが次期理事長になるという。しかし、まだ学生である彼(!?)では纏めることは出来ない。
「わあん、おばあさま! 私に何も言わずに逝っちゃうなって! 酷い!」
泣き崩れる彼女に待っているのは、現在理事長代行の秋月とともに、運営をする事になった。
必死に奔走して、安定すると思いきや、学生の失踪事件が発生。
「次期理事長‥‥これではいけません」
「分かっていますわ、秋月さん。この事件を解決しないと学園に平和が」
捜査を開始する。
一方、黒幕のアスカ理事。
学園から離れた彼女の別荘では、美少女と間違うような少年を従えていた。
「クっ! 孫が次期理事長だなんて‥‥っ。私が支配できると思っていたのに‥‥っ!」
「アスカお姉様、ご指示を」
恭しく、何かを起こしそうな目を彼女に向けるソラ。
「そうねえ、失踪事件を起こせば‥‥信頼はがた落ち‥‥。エージェント・ソラ、お仕事の時間よ?」
「はい、アスカお姉様。お姉様のためなら、何でも」
「良い子ね‥‥お願いするわね」
アスカはソラの顎をしゃくり上げて、黒い感情をあらわにしながらも、微笑んだ。
秋月がティムによこしたエージェントは、かなりダメだった。琥珀が良くドジを踏んでは、やばくなっている。
「琥珀さん! 又どじをして! 男だとばれたら大変なことになるんだぞ!」
「すみません、すみません‥‥ファイナさん!」
しかし、確実に‥‥真相に近づく、女装エージェントたち。
「ま、幸いばれてないな‥‥」
安堵する、男の娘エージェント。
夜の校舎で、アスカ側とティム側のエージェントが対峙!
「くっ! お姉様の計画に支障が出る!」
スカートを翻しての、激しいアクション! しかし、そこは見えそうで見えない!
「くそ、理事代行の狗が嗅ぎ付けたか!」
アスカが焦る。このままでは失敗してしまう。
「ファイナ、ティムが失踪する仕掛けは出来ているか?」
「問題ありません‥‥」
さらなる陰謀が‥‥っその正体は!
ティムは学校の学生でない女の子と出会う!
「ティム、この先に使われてない地下があるよ」
「え? どういう事?! っていない?」
謎の子供出現!
なんと、失踪事件の現場は礼拝堂裏の地下墓地だった!
「凡庸ならここにいませんよ?」
平凡な振りをしていたエージェント、エミカの活躍!
ティムの身に危険が及びそうになったとき、琥珀とエミカが救い出す!
「これは! 私の運命の人?!」
助けてくれたエージェントに惚れるのだが、実は男の娘と気づかない、男の娘・ティム!
事件の謎と真相は! 地下墳墓の大礼拝堂であきらかに!
●完成と打ち上げ。
原稿は完成し、入稿が終わると、みんなが一斉に、おつかれ! と、叫んだ。
「あーほんとうにおわったねー!」
アスカが、背伸びして、こりをほぐそうとする。
「楽しかったですよ」
エンタもファイナもなんだかんだで、一緒に手伝っていた。
そして、完成原稿を先に見たのは、原稿手伝いをしていたAmbarだが、
「俺はこんな了承したおぼえはない!」
彼が怒る。しかし、
『焼肉のためなら!』
「それは、俺の声!?」
黒子がICレコーダーを突きつけた。
「承諾したので」
と、かれは又黒子のように舞台裏に隠れていった。目立つけど。
そして、この原稿に関わった人々で、秋月のおごりによる焼肉パーティーが開かれる。
「『息娘弄り』、かんせいっ!」
と、意気揚々と参加してきたのはエスティだった。リズとコアーもいる。パッケージイラストが男の娘している、ファイナだったのだ!
「なんですかそれは!」
ファイナが驚き叫ぶ。
「はっはっは、ファイ娘をユーザー好みの『男の娘』にするゲームソフトだよ! あのとき渡したのはそのサンプルイラストおよび、3Dデータだ!」
「アドベンチャーパートの方はしっかり出来ていたからねぇ! くっくっく!」
秋月とエスティが高笑いする。
「‥‥そう、そうなんですか」
ファイナがまた愕然とする。
「はわ、モデルだけだったのにこんなにご馳走って、すてきです」
ソラは焼肉屋の質などに驚いていた。容姿が可愛いので、肉を食べてかっこよくなりたい願望があるのだろう。
そして、宴は進むが、秋月は少し焦った。
「財布の底をつくぐらいくってやる!」
やけ食いすると決めた(牛肉だけ)Ambarに、
「ふふふふ、私もそのつもりで飲む! 人の金で飲む酒は旨いわねぇ!」
飲兵衛なアスカ、
「‥‥あ、上ロースお願いします。はい、コレ焼けていますよ?」
と、原稿とデータのことを知ったファイナが、ここぞとばかり、秋月の財布を0にするため沢山高級な物を頼み始めた。つまり、頭に上とかつく奴を中心と、日本の高級地酒などを頼むのだ。
「ま、焼肉は‥‥沢山食える物じゃないし‥‥大丈夫‥‥うん、大丈夫‥‥」
残高を頭に入れてみたらたぶん大丈夫だろう、と秋月は思った。
「どうして、Ambarさんやファイナさんに怒りのオーラが?」
「うーん、それはねぇ」
エンタは、自分が登場人物になっている事を全然知らなかった。リリーが原稿のコピーを渡すと、彼は読みはじめた。
「‥‥こ、これはっ!?」
世界が崩壊するような落雷が、彼の心の中に落ちた。
「こ、これ‥‥まさ、か‥‥僕ですか‥‥っ?」
「そーだよー?」
それもそうだ。可愛い制服を着て(しかも自分で作った)、それがリリーによって描かれた可愛い自分がいるのだ。彼は首から徐々にまっ赤になり、湯気を出してそのまま崩れ落ちる。
「「エンタきゅん!」」
「恥ずかしさの余りなのか、倒れたみたいだねぇ。くっくっく」
エスティは、日本酒を飲んで上機嫌だった。
「ファイ娘、上ロースこっちも」
「‥‥エスティさん‥‥」
たけなわ、やっぱり上物を沢山食べようとすると、体がびっくりする物だ。ホドホドに終わっている。ハイテンションなアスカもAmbarも落ち着き、普通に食べては飲んでいる。ソラは原稿について一切訊かなかった(エンタが倒れたのはお酒の所為だと勘違いしているようだ)。なので彼は何も知らない。
鹿嶋とリズもぎこちない状態だが、仲良く会話しながら食べている。伊藤も黒子も他の人の世話をしながら影で動いていた。
観琴が秋月に寄り添って、お酒を注ぐと、「お疲れ様でした」とねぎらった。
「ああ、一瞬の出来事のようだけど、つかれたよ‥‥。でも、なんていうか充実感があって‥‥」
「祐介さん?」
「‥‥くー」
観琴の肩に寄りかかって、彼は眠ってしまった。
「はわ、教授に幸せが?!」
ソラが驚くが、その顔は本当に嬉しそうだった。
「ほほう、コレは写真に納めておこう」
Ambarが手持ちに携帯カメラがないか探し始める。
「ふふふ、こんなこともあろうかと‥‥」
「リリーさん手際が良いな、ってファイナも?」
「もう、皆さん、祐介さんが起きてしまいますよ?」
観琴が苦笑した。
ニヤニヤーズ(ニヨニヨーズ?)が結成され、秋月のリラックスした姿を楽しんでいた。
こうして、コミレザの前哨戦である原稿作成は幕を下ろす。あとは、当日を待つばかりだ。