●リプレイ本文
●深夜の賑わい
深夜なのに『熱血亭』の周辺は長い長い行列ができていた。この行列は、今回発売される『魔法と少女と肉体言語2』の販売を今か今かと待っている戦士達のよるものである。2列にならんでいくと、近くの駐車場を借りるほど長さをだしていた。一部うっかり、武器を所持している傭兵は、行列整理をしているスタッフや警備員に注意されたので、近くのコインロッカーに入れるかスタッフに一時預かりをしてもらい、再出陣すると、時間のロスで後列に並ぶハメとなった。
「ココは並ぶべき〜! ソレがマニアの矜持というもの〜!」
武器を携帯してなかった、ドクター・ウェスト(
ga0241)はイタイ白衣を羽織って、いつにないハイテンションで並んでいた。かなり準備を万全していたためか、かなり列の前である。
「まったく、義姉さんは何を考えているのかしら? でも、本当にいるの?」
列の中盤から後ろに風雪 六華(
gb6040)はこめかみを押さえて、この行列に並んでいる。フィアナ・ローデン(gz0020)がここに来ていると言うことを兄に聞かされたらしい。
「本当にいれば、お説教しないと」
溜息をついて彼女は並んでいた。
「兄さん、ココア買ってきたよ。おっきなお兄ちゃんがいっぱいだね‥‥なんだか空気がピリピリしてるけど」
「うん、ありがとう。さすがに寒いな。まあ、限定版であれば、必死に手に入れたいというのがあるのだろう」
同じように武器を別の所に預かって貰った、アセット・アナスタシア(
gb0694)とジェイ・ガーランド(
ga9899)。アセットがこの新作を買いに来るために付き添いでジェイが居る。10〜12歳の女の子をこんな夜中に1人で行かせるわけにはいかない。
「【シャルロッテ】のコスのおにゃーのこだ! はぁはぁ」
「え? え?」
慌てるアセットに、ジェイが割って入ろうとする。
「あ、すみません。テンションが高くなって。前に大会で見かけた物ですから」
我に返ったヲタクが謝った。
前に大会で見かけた人がアセットを見つけたらしい。コスプレしないのかと訊ねてくる。しかし、比較的丁寧に訊ねてくるのでジェイのこめかみに青筋が浮かぶことはない。
「うーん、中に入れれば‥‥ですね」
「難しいんじゃないかな?」
本当は更衣室を借りたいのだが、ジェイなどに「そんな余裕はない」と言うことだったので、すでに厚手のコートの下にはそのコスプレを着ているのだ。ジャケットの中はすでにヲタクの夢になっているのである!
「面白いお祭りがあると聞いて来てみたけど、会場はここでいいのかな?」
アーク・ウイング(
gb4432)がキョロキョロ人だかりを見て、通りすがる人に聞いていた。
「祭りといれば、祭りかな?」
「そう、今夜のために徹夜も覚悟で並んでたでおじゃる!」
「え、じゃあ、そうなら面白そうだ」
販売の事を聞いた彼女は、スタッフの指示に従って並んだ。
ドクターのより前の列に見知った顔が居た。
「コアー君?」
「ドクター」
そう、コアーが其処にいる。
「キミはこういった物は範囲外とは聞いたのだがねぇ?」
「じつは‥‥」
エスティヴィア(gz0070)が倒れたので代理できたのだと言うと、ドクターは苦笑した。
「ま、がんばってくれたまえ〜」
「フィアナちゃん大丈夫なんだろうかニャ?」
アヤカ(
ga4624)が彼女のガードをするために来ているのだが、
「この『お祭り』はすごいにゃ。なにか、有名ラーメン店の行列みたいにぴりぴりしているニャ」
会えたら抱きついて挨拶したいかなと思いながら、猫用バスケットにはダイフクを入れて開場まで待つ。
舞台裏では、フィアナが『熱血亭』のスタッフと話し合っていた。健康管理で辰巳 空(
ga4698)が溜息混じりに打ち合わせに入っている。
「もうすぐライヴなのですから自重を」
「いやですー。今は普通の女の子なのです」
「‥‥そう言われても周囲は思ってくれません。しっかり健康管理させて頂きます」
「むー」
限定版のストックはあるのか不安だが仕事となれば話は違う。フィアナは関門役として、ゲームをすると言うことになっているのだ。
そして、開店のカウントダウン放送が鳴り響くと、列をなしている人達がカウントダウンを叫び始めた。そのあと、大歓声(数秒)そこから、じゃんけん大会となる。
●関門1:じゃんけん
「じゃんけんぽん!」
「あいこでしょ!」
「かったー!「まけたー!」」
歓喜と絶望の雄叫びが交互に大阪・日本橋にこだまする。
「生か死かのバトルだねぇ」
ドクターも隣のヲタクとじゃんけんをするわけだが、カードを三枚持っていた。その三枚はしっかりじゃんけんのマークが書かれている。これを見せてするようだ。
「じゃんけん! これだね〜!」
と、グーのカードを出すが相手もグー。
3回ぐらいあいこが続くのだが、なんとかドクターが勝利したらしい。
「では、次は対戦が関門だね〜」
「私は通常版で良いよ。だから、アセットが行けばいい」
「ジェイ兄さんありがとう」
ジェイは一緒に並んでいる妹分に権利を譲った。それを見ているヲタクたちは、
「なんと言う兄の鏡!」
「妹の笑顔がとてもまぶしい!」
「俺の妹もこんなに可愛かったら!」
等々、賞賛か羨望、もしくは己の欲望を叫んでいた。普通なら退く。
「買い終わったら、待ってるからな。危なくなったら直ぐ呼ぶように」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんたち優しいし」
いろんな意味で優しいと言うことは別にしておこう。うん。
「うにゃー! まけたー!」
「みゃー!」
じゃんけんでチョキとパーという結果、アヤカは負けてしまいリタイアする。バスケットの中で眠っていたダイフクも何事かと起きたらしい。
「うう、フィアナちゃんを見ることが出来なかったニャ」
しかし、負けた人は試遊台のゲームコーナーがあった。負けて帰宅する人、試遊台で旧作を遊ぶ人と半々らしい。彼女はこっそりガードできるように見計らうために、彼女は其処で待機する。
「うーん、これはこうなのかニャ‥‥?」
コマンド表を見比べて、アヤカも遊んでいた。「うにゃうにゃ」言いながら。
アークはぽかんとしていた。
「あ、勝てた」
チョキをずっと出し続けようと思っていたアークが2回あいこ3回目で勝利し、対戦関門へ向かう権利を得た。
「うう、負けたわ。会うことが出来ないじゃない‥‥」
六華はがくりと項垂れた。チョキとグーで完敗したのだ。このままだと、恥ずかしくて家に帰れそうにない。何か言い訳を考えるために試遊台エリアに向かった。
対戦関門に迎えるのは、コアーとドクター、アセットとアーク、そして数多くの戦士であった。
●舞台裏
心配そうに見るのは辰巳。しかし、楽しそうにしているフィアナは、新キャラのコマンドなどを見ていた。
「ふんふん、コレがこうなって。この魔法でバフから‥‥コマンド入れてブレーンバスターかな?」
「余り無茶しないでくださいよ」
辰巳が心配そうに言うと、
「だいじょうぶですー」
フィアナはほっぺをふくらまして抗議していた。
「さて、今度はスタッフ・アーンド・フィアナ・ローデンと対戦して貰います! 籤を引いてその相手と戦ってください! 勝てば、限定版ゲットだぜ!」
『うおおおお! げえええ!』
歓喜と悲鳴が生き残った戦士の群からする。
「フィアナに当たったらむりじゃねーかあっ!」
「へたくそなスタッフに当たりますように!」
「あまい、今度こそフィアナを超えてみせる!」
などと、戦士たちは口にする。
「けひゃひゃひゃひゃ! フィアナ君がここにいる理由がよく分かったよ〜!」
ドクターは更にハイテンションだ。その気合いで十字架が揺れている。
「ドクターが、殺る(やる)気だ!」
「我が輩は今までの、我が輩ではない! 影で特訓していたのだ!」
『どどーん』と効果音落雷でも似合いそうな宣言をする。このドクターかなりノリノリである。
「不思議だと思ったけど、お仕事なのかな?」
アークはフィアナと知り合いじゃないが、彼女の知名度は話程度には聞いている。『歌手なのに何故?』と首をかしげていた。
「っく、作戦を練っていたのに‥‥」
「どんまいにゃ」
「みゃー」
試遊台では悔しがる六華と、彼女の肩を叩いて、慰めている(?)アヤカとダイフクであった。ジェイの方は、出入り口で待っている。
「さて、中に入ったし‥‥」
アセットはジャケットを脱ぐと、前の大会でみせた、【シャルロッテ・デスティニ】のコスに変身する。一気に、ヲタクたちが『萌え〜!』と叫ぶ。
『駄目だ、こいつら何とかしないと(ほめ言葉?)』
思う光景だ。
「可愛い〜っ!」
フィアナがめろめろになっていた!
(「姉さんと仲が良い歌手の人‥‥どんな人なんだろう?」)
アセットはフィアナを見て、彼女が何故『ここにいるのか?』よく分からなかった。推測出来ることは、「エスティと友達≒ヲタク」と言う点だけだろう。この場所にいると言う事を踏まえて。
「アセット君、彼女を甘く見てはいけないよ〜」
ドクターが笑いながら、アセットに言う。
「ドクター?」
「屈指の肉体言語ゲーマーなのだよ、彼女は〜」
「ええっ?!」
人は見かけによらないと言うことを思い知るには数分とかからなかった。
前列の戦士が、くじ引きでフィアナに当たった瞬間に辞退する者、勇気を持って挑むのだがほとんどの人は対戦で完敗していた。鬼のような強さである。
「鬼の強さだ。しかも魅せる戦い方をしている!」
格闘ゲームに於いて、魅せる戦いをするのは至難の業である。彼女はハンデとしてランダム(あとはコンピュー内で威力の調整。同キャラ対戦でもダメージの減り具合が若干違う)。【エレナ】以外だとまず強いのだが、【ひかり】や【かなた】だと、鬼のように強い。
「よっしゃー! ゲットだー!」
一番にスタッフに勝って、限定版を買えた客が意気揚々として帰っていく。戦士やスタッフたちは拍手をして見送った。
コアーも安堵しながら、限定版を買えたようであり、「今から帰って、おかゆ作りますからっ〜!」と叫びながら去っていく。
「コアーくんも大変だね〜」
苦笑するドクターは、コアーの後ろ姿を見送っていた。
フィアナも無敵ではなく、何名かに負けている。勝利者は全員で拍手で迎えられる。
「おめでとうございます♪」
ニッコリ微笑むと、戦士はもうめろめろだ。
「ふむ、ファンにとっては二度美味しいと言う事かね〜」
ドクターは考えた。
(遠くの方でも、アヤカがそう思っていた。)
次にくるのはドクターだった。
「籤は良い‥‥指名するからね〜!」
籤箱を手で遮ってから、オーバーアクションでくるりと回転。
「フィアナくんに挑戦する!」
「なにいい!」
「ええっ?!」
コレはフィアナも驚いた。
一気に開場がわき上がる! ドクター以外は籤を引いて、フィアナと対戦していたのだからだ!
「では喜んで!」
お互い【エレナ】を使う。
新キャラのためほとんど、土俵は同じだ威力調整はあったとしても、操作的には慣れを得ているフィアナと、デフォルトの威力で戦い、『開発時にテストしている』ドクター。お互い真剣に操作し、隙を見せない戦いが続く‥‥。結果、ドクターが辛勝する! 熱血亭は大興奮となった。
「フィアナくんに勝ったぞー!」
意気揚々と限定版を持って勝利宣言するドクターは、どの勇者より不思議に輝いて見えたのだった。
ジェイが「おめでとうございます」と言うと、ドクターは「あとで対戦しようか〜」と約束した。
「まずはアセットが、勝ってからでございましょうか」
「ではその間ゆっくり待つかね〜」
アセットの方もコスプレをして、ギャラリーを沸かせているわけだが、スタッフに当たって、一度はドロー。しかし次に2連勝して無事にゲットする。
「良かった♪ ‥‥うう、外は寒いね!」
【シャルロッテ】のコスは結構足が露出しているので、冬は寒い。ジェイがフライトジャケットを彼女の肩にかけた。
「ありがとう、ジェイ兄さん」
「では、LHに帰って遊びますか」
「そうだね〜」
「フィアナさんと少し話ししたかったかなー?」
アセットが言うと。
「たぶん、コミレザで会えるんじゃないかね〜。彼女も常連らしいから。でも変装して分からないかもだね〜」
「そっかー。会えたらいいな」
一方、アークの方は、初めてのゲームなので上手く操作できずスタッフに1−2で負けた。
「もういいや、‥‥帰ろう」
ふて寝を決め込んでLHへ帰ると決めた。
こうして、フィアナは連戦しても疲れを見せず、意気揚々とお仕事をこなしている。さすがに喉の渇きなどはあるため、辰巳の特製ドリンクを飲みながら戦っていた。
アヤカが心配するようなフィアナに人が殺到するような事件もなく、この行列祭りは静かに終わった。
●終わりは
フィアナはしっかりゲットして、郵送して貰う。それは辰巳に「ライヴがありますから」と注意されて実は封印しなくてはいけなくなったからだ。しかも、いつもの対戦相手である、エスティが倒れているとかで結局遊べないため問題はなかったらしい。
彼女としては、『思いっきり遊んだし、切り替えてライヴに打ち込もう! あ、その前にコミレザだね』状態である。
「フィアナちゃん、ニャー!」
「きゃあ!」
アヤカが、『熱血亭』の裏口からフィアナを見つけるやいなや、抱きついて頬ずりしてきた。
「お祭りお疲れニャ!」
「うん、ありがとう。なでなで」
「ごろごろー♪」
じゃれ合っている親友同士に、六華がやってきて、
「お疲れ様、義姉さん。ところで、今度兄さんに今度メイド服きせようと‥‥」
「きゅう〜」
「‥‥義姉さん!?」
「フィアナちゃんに、女装の話は禁句ニャ!」
どうも、女装話をすると気絶するようである。謎だ。萌えて気絶するのか、想像することの防衛反応なのか不明だ。
ドクターとアセットとジェイはというと、
「さて、今夜は徹底的にやるよ〜。優勝者のジェイ君! 勝負だ!」
「運でございますよ、あれは。しかし、負けませんよ!!」
「運も実力の内だね〜!」
「次は私だから!」
3人はかなりの時間『魔法と少女と肉体言語2』で遊んでいた。
『「無銘に隙無し!」』(ドクターと【ひかり】の声がかぶる)
ドゴォォッ!
今年のLHも大阪日本橋も平和であったかもしれない。