●リプレイ本文
●事実は小説を凌駕した
寂れた小さな空港がエスティヴィア(gz0070)の研究所兼自宅である。そこに、8人傭兵がやってきた。エスティヴィアが生きているのか確認するためとも言える。
「屋上に洗濯物が干してありますね」
アキト=柿崎(
ga7330)が目を凝らしてみる。たしかに白いシーツや服が風になびいている。
「今回どんな魔境になっているのか‥‥たぶん、例の場所で丸くなっているはずだ」
水円・一(
gb0495)がズカズカ入っていく。
「待ってください。余りむやみに進むと危ないかも!」
守原有希(
ga8582)が続いてはいる。
「噂には聞いているけど魔境になってるかもね」
葵 コハル(
ga3897)、が目の前の入り口で考える。
「まさか、流石にそんな事はないでしょう‥‥」
アクセル(
gc0052)が苦笑する。
ドアを開けると、埃っぽいロビーであった。そこに山となったジャンクフードのゴミ袋が鎮座している。
「努力の痕跡はあるようだな。人が進めない‥‥と言うまでにはなってないが‥‥」
ゴミ屋敷の一歩手前という感想だった。その道を進んでいくと、人の気配を感じる。
「まさか、これほどとはっ!!」
アクセルが呆然とする。これはゴミ屋敷じゃないのか? と思うほどだ。
「部屋は凄いことになってそうだね」
コハルが「フィアナん時以上だよ〜」と言いながら進む。
「おそらくこっちだな」
一とアキトが先行して人の気配のするラボまで向かうと、悲鳴と一緒に何かが崩れる音。
「これはやばい!」
「な、何事?!」
アキト達がラボに飛び込む。中に入ると、そこら中、紙や本、ファイルが散らばっており、紙の山に2本の手が生えて「たすけてぇ〜」と声がしていた。急いでアキト達が「大丈夫ですかっ!」助けだす。
「旦那には聞いていたけど‥‥これほどとは」
溜息をつく百地・悠季(
ga8270)と、
(「この部屋、ねーさんを思い出すな‥‥」)
と、考える重体の希崎 十夜(
gb9800)が、急いで紙の雪崩に遭難した人物の救助を手伝った。
「たすかったわぁ。これで何度目かしら‥‥」
埃まみれのボロボロの髪と顔で皆にお礼を言う。コアーは目を回している。
「努力はしているわけだな‥‥」
一はふむと辺りを見渡すのだが、人の背を超える紙の山と段ボールに苦笑する。
「洗濯など色々やっている分、成長しているわけですよね。よくやりましたよ、エスティヴィアさん」
にこりとアキトは言いながらエスティの頭を撫でた。
「ひゃう!」
頭を撫でられたエスティは驚いて、妙な声を出しワタワタする。
「? どうしました?」
アキトは訊ねると、
「あ、そ、その、なんていうか、頭撫でられるのは‥‥恥ずかしいし‥‥。子供じゃないし‥‥」
と、モジモジしながら答えた。エスティの顔が少し赤い。アキトは微笑むだけにとどまるが、後ろに居る数名はニヨニヨしていた。
「さーてっ! 要らない物をさっさと片付けて綺麗にしちゃいましょう!」
書類などの山をどうにかして処分しないと行けない。そこかしこにジャンクフードのゴミの袋もあるのだ。
●掃除
ひとまず初対面な悠季や十夜、アクセルも自己紹介する。
アクセルは、(「噂だと残念美人? 何それ? 普通に美人さんじゃないか?」)と、この部屋の惨状を見ていても思っている。
そのあと、いつもの顔ぶれも挨拶をすませてから、掃除などの分担を計画する。有希が食事担当、悠季がエスティ達のグルーミング、他が掃除担当というおおざっぱであるがまず確定なのだが、
「自分ですか? 自分は夏の戦いに向けて原稿協力をお願いしに来たぐらいです」
去年まで、人の恋路に嫉妬し狂気に走っていた教授で、つい最近とある宴で解を得てルートを解消した秋月 祐介(
ga6378)は、さらりと「掃除を手伝いに来たわけではない」と言う。
「そのためにエスティさんと、色々打ち合わせをしたいわけですよ」
「この惨状を見て‥‥もか?」
一は苦笑しながらこの巨乳萌え同人作家に尋ねると、
「どちらかというと、自分も掃除は苦手な方でして、余り役には立つことは無いと思います」
と、苦笑したぐらいであった。
コハルは『魔法と少女と肉体言語』の【ひかり】コスに作業用ヘルメットと軍手を装備して、さくさく片付け始める。彼女曰く、気分とノリらしい。
「そのまえに、要らない物をちゃんと決めていかないと、掃除にならないよー」
コハルが『張り切ってやりましょう』のオーラを醸し出しており、
「とりあえずは、普通ごみと書類に分けて外に出しましょう。分別は後からでも充分でしょうし」
アキトが状況を見ている。
「ですね。てきぱきやりましょう」
十夜が言うが、悠季が「怪我大丈夫?」と訊ねるほど彼の体は万全じゃなかった。
「俺も掃除主体だな‥‥エスティは百地に任せる」
一も掃除に加わるわけだが、段ボールなどの山を見てさてどうした物かと考え倦ねるのだ。
そこで、アクセルが、
「ディラン(AU−KV)をだしましょうか?」
提案した。
今回パワーというより『どれだけ持ち運べるか』が鍵となる。装備が増加するAU−KVにはうってつけの仕事だ。
「それでも、『要るかも』『使うかも』は片付けの天敵よん? イエスかノーかでお答え下さーい♪」
「この山になってる資料とかは全部コピーだったり、プリントミスだったりだからぁ、要らないわよぉ」
コハルの問いに、エスティはラボにある紙の山は『ゴミ』と言い切った。
「なら、まずは段ボールの山から運び出します」
アクセルがディランを装着するため一旦外に出る。そして戻ってきた後、せっせと入り口の所の箱から運び始めた。
「うちは周りの放水をしてから食事の準備をしますか」
有希は外に出している屋台で周りの水まきをするそうだ。
「深淵とはいっても‥‥趣味の所だけは綺麗にできるの?」
「いやぁ、あまりにもこっちでする仕事が忙しくてねぇ‥‥」
彼女の私室の綺麗さにコハルと悠季があきれかえっている。しかし、彼女のこの数ヶ月の行動状況を知れば、何となくだが納得はする。掃除機やSES掃除道具武器で軽くできるほどだ。
「ちゃっちゃと片付けて、エスティを綺麗にしないとね」
紙の山が崩れないように丁寧に下ろしては、段ボールにしまうか紐で結ぶ。持ち運びしやすい程度の重さにして、アクセルが運び出す。トラック1台あれば紙の処分はできるだろう。コアーはコハル達に色々教わりながら、掃除の手伝いと、生活用品の場所を知っている分非常に役に立つ。
エスティは邪魔以外の物ではなく、有希のセットした隔離のテントに押し込まれ、こたつむりになっていた。
「はあ、日本文化って良いわねぇ‥‥こたつと言う物があるから」
「全くその通りです」
秋月はエスティと避難所テントでまったりしていた。
「ここで賭と行きたいのですが‥‥」
「なんの〜?」
「原稿の勝負です。エスティさんが勝てば、(同人の)打ち上げメニューはそちらの要求通りで‥‥但し、負ければロハ(無償)で協力して貰いますよ?」
「おもしろいねぇ。なにで?」
エスティがこたつむりのままに勝負にのる。
「麻雀に、トランプ、花札‥‥いろいろありますよ?」
「トランプで普通のポーカーよぉ」
「わかりました‥‥手加減はしません」
シャッフルし、カードを配った。
お昼は有希の屋台で出来る簡単な物で済ませ、また掃除を続ける。導線の確保と紙やゴミの山の分別に皆は苦労するのだが、
「これを外に出して‥‥ってうわあっ!」
十夜が紙を纏めて外に出そうとしたときに、近くの『山』が崩れて彼を埋めてしまった。
「ちょ、だ、大丈夫?」
偶々、テントから出て物を取りに来ていたエスティと悠季に救い出されるのだが。
「‥‥あ‥‥ねーさん‥‥」
十夜はエスティの顔を見て、そんな事をつぶやいた。
「? 姉さん?」
「あ、そのそれはその‥‥助けてくれて‥‥あ、ありがとうございます‥‥」
十夜はまっ赤になって、起き上がろうとするが、重体のために痛みが酷く起き上がれない。
「ほら無茶するから‥‥、貴方も別のところでおとなしくしなさい」
エスティと悠季は困った顔で彼を抱え上げた。
「なら、一緒にこたつむりしない?」
エスティが誘うと、彼は少し目を丸くしてしまった。
「いえ‥‥掃除の手伝いできたのだから‥‥そんなことは‥‥」
彼は痛みを堪える。
「我慢しても駄目よ。おとなしくしてなさない」
エスティと悠季は肩をすくめ、彼を無理矢理隔離テントに押し込んだ。
●鍋
ゴミを外に出すことで、半日以上は使われた。そろそろ夕飯時になり有希にアキトが食事準備に取りかかる。そして、開けた部屋でアクセルはエスティの所蔵メディア棚に心奪われていた。私室にある物とは別の、デスク周りに置いている常時使用物のようだ。
「あの、これは一体なんでしょうか?」
「ほう、ここまで資料があるとたすかりますね。なに、アニメや同人誌などの彼女の宝ですよ」
秋月はその量を見て、感心し答える。
「ここだけ結構綺麗なのは何か言うべきなのかだが、そうだ、彼女から新作を貰ってなかったな‥‥」
一は冬コミレザで新作が買えなかったことを悔やんでいる。エスティが意気揚々にやってきた時に、「いま、新作残ってるか?」と訊ねると「ごめん在庫がないの。今年の夏まで我慢して」と言われた。
「御飯が出来ましたよ? って何の話ですか?」
有希が、皆を呼んで来るとき、そんな話題を聞きつけたので、訊ねると、
「冬の彼女の新作『息子弄り』についてだ」
「‥‥ああ、『息子弄り』ですか‥‥」
有希は『息子弄り』を手に入れていた。あの衝撃的ゲームは凄いとしか言いようがない。
「えっと、もう御飯が出来ていますけん。き、来てください!」
有希は来た用事を思い出して、伝えた。
軍鶏鍋と熱燗。ジュース各種などとかなり豪勢だ。熱燗のお酒提供はいつの間にか着物に着替えているコハルで、冷やの「バグア殺し」を持ってきたのは秋月だ。
又こたつむりになったエスティに重体の十夜はスプーンで食べる。
「温かそう! 美味しそう!」
という、感想が全員から零れる。
「まずは一日目お疲れ様!」
乾杯の音頭で夕食が始まった。
「ところで、エスティは機嫌が良かったけどどうしたの?」
悠季がエスティに訊ねる。エスティはテントに押し込まれたあと、秋月となにやらあったようだ。かなり気分が良かったし、何より秋月が「財布が‥‥いや‥‥なんとかなる」と一時期ぶつくさいっていたから気になった。
「うん、原稿手伝いをするのだけど好きな物奢ってくれるから♪ 今度は高級ステーキよぉ♪」
なんとわかりやすい。
時間はさかのぼる。休憩で来たアキトや十夜も混ざってのポーカー。このままだと秋月の勝利が揺るがなかったはずだった。
しかし、秋月がエスティに「彼女とは何処まで行ったの?」と訊かれてポーカーフェイスと計算が瓦解。アキトも秋月に向かって「気になりますね」と追い打ち。秋月は動揺しまくって、惨敗したのである。
「負けてしまった。でもお酒が旨い‥‥ふぅ」
秋月はと言うと、軍警鍋と酒に舌鼓を打ちつつ、夏に向けて作る同人ゲームの案を周りにいる人と話をしている。着物姿のコハルは酌をしている。彼女がいつの間に着替えたかは突っ込まない。
「シミュレーションゲームを作りたいと思いまして‥‥夏には体験版をだしたいな、と。何か案はないでしょうか? あ、カットインの巨乳キャラの『たゆん』は外せません」
「『ぷるん』ではないのねぇ」
エスティが言うと、秋月は「っ!」と何か考え込んだ。
「そ、それは趣味でしょうからシステムなどでなら‥‥」
有希は少し想像して、赤くなるのだが気を取り直して自分の案を提案する。キャラの育成なども考えて欲しいなど。一も簡素化と三竦みの案を出してきた。
「ふむふむ‥‥」
秋月はメモを取る。情報戦をする彼にとって、メモは欠かせない。
「ところで守原君、その腕輪は?」
エスティをはじめ、一やアキトなどが訊ねると、
「はい、恋人になりました」
と、はっきり言う。しかし、頬がとても赤い。
「さて何処まで行く気なのだ?」
「結婚?」
「ま、まってください! そ、それは‥‥」
余計にまっ赤になる有希。
「いやはやしかし、春ですなぁ‥‥あぁ、我が世の春は何処なりけり‥‥」
コハルがお猪口でお酒を飲んでつぶやいてた。
一はコアーに「これで済んだのはコアーのお陰だ」と彼女をねぎらっていた。コアーは「あ、ありがとうございます」とコクコク頷くだけだった。
この後は、アクセルがずっと映像装置でアニメを鑑賞しまくって何かに感化され、十夜は疲れから眠ってしまう。周りはほどよいカオス宴会風になって一日が過ぎた。
●グルーミング
翌日には、一気に掃き掃除と拭き掃除でのダッシュが各地で行われている。そして、午後に悠季がエスティにグルーミングをするために彼女を呼ぶ。
「こういう場合は環境だけじゃなくて、当人も釣られて心理的に荒れてる面が有るからそこはちゃんとケアしないとね。なので、グルーミング行為で癒してあげるからね」
「え、そ、それは‥‥うれしいけど‥‥」
悠季の優しさは嬉しいが何かくすぐったかったみたいだ。しかし、エスティは抵抗できずに、悠季の髪の手入れに従う。
「あ、気持ちいい‥‥」
「癒してあげるからね」
「よろしくぅ」
優しく髪を梳いて、枝毛を見つけると切る。そして、爪も切ってケア。一通りの事が終わるとマッサージ。エスティは夢うつつになって気持ちよく眠ったようだった。
綺麗になったエスティをみて各自の反応は、アキトはまっ赤になり、有希もドキっとなってあたふたしている。一と秋月とアクセルや女性陣は綺麗だねと褒め、十夜はまた自分の姉と重ねたみたいだった。エスティは照れて、何も言えないようだった。
綺麗さっぱりになったラボと綺麗になったエスティは、皆にありがとうとお礼を述べた。そして、迎えの移動高速艇がやってくる。
「「今年もよろしく!」」
と、言って傭兵達はLHに帰って行った。