●リプレイ本文
●
小春日和のエイジアにある高見台という山に、人が一杯集まっていた。老若男女問わず、地元の人から遠方の人まで様々な人がここに集まっていた。拡声器でボランティア本部の人が集まって欲しいと呼びかけている。和やかで少し賑やかなそんな朝だった。今回の掃除ボランティアは、春に行われる花見の前の下準備なので、一気に集中して行われている。
「今回お越し頂いてありがとうございます。早速ですが分担して、清掃をしたいと思いますので、希望班はプラカードを持っている方に集まってください」
本部の人が言う。
「まずは落ち葉拾いから始めましょうか」
水鏡・珪(
ga2025)がにこりと微笑みながら、班分けの【落ち葉拾い】のプラカードに向かっていく。そこで、佐倉・拓人(
ga9970)に会って、軽く挨拶を交わした。彼は作業着を借りて、三つ編みにしている。
他に同じ班では、
「離れないでくださいね」
「はい、悠さん」
鹿嶋 悠(
gb1333)とリズ・A・斉藤(gz0227)を連れてこのボランティアに参加したようだ。個人的には、たまにこういう穏やかな仕事もいいだろうと思っていたが、何より恋人のリズは故郷奪還を専門的に行っているようである。もっとも、この年末年始は、エスティヴィア(gz0070)に引っ張られて賑やかで騒がしい場所に迷い込んでいた様なので、こういう静かな場所も体験して欲しいと言う鹿嶋の思いから誘ったようだ。
「でも、どう見てもデートとしか思えないのですよね。あの二人」
作業着に金髪を作業しやすいように結わえたフィアナ・ローデン(gz0020)は【雑草抜き】班の方から、【落ち葉拾い】長身のカップルを見ていた。
「それを言っては‥‥」
風雪 時雨(
gb3678)は苦笑する。
「あら、フィアナじゃない」
そこで、【Steishia】ブランドで纏めて、園芸用エプロンを着けている百地・悠季(
ga8270)にであった。
「悠季? おはよう。よろしくね」
「ええ、よろしく。お二人さんはデート?」
悠季はフィアナとその彼に尋ねると、時雨は真っ赤になって遠くを見てしまう。
「うーん、どうなんでしょうね?」
フィアナはクスクス笑っていた。
堺・清四郎(
gb3564)は缶拾いで動くそうだ。集まって説明を聞く前に、長老桜を見上げていた。柵が立てられているために、中まで入れないが、この長老の壮大さを再び感じている。
(「ここに来るのも一年ぶりだな。この一年戦いばかりだな」)
彼はそう思いながら、去年もバレンタインで賑やかになっていた時にここに来たな、と思い出していた。
缶拾いの班で、自分は力があるから、こういう。
「アルミでもスチールでも何でも、力で潰していくから、持ってきてくれ」
と。
「おお、それはたすかります」
他のボランティアが感嘆の声を上げていた。
雑草むしりや落ち葉拾いの班に、なにやら桃色オーラを感じた清四郎だが、いまは気にしないことにした。
「‥‥今は仕事に集中だ‥‥うん」
彼の背中が少し淋しい気がするが、そうっとしておくのが優しさという物だろうか。
小麦屋の厨房を借りての炊き出しには風雪 六華(
gb6040)が受け持つそうだ。すいとんを作るために、具になる生地を練る。
「結構力がいるわね」
白い粉が舞う厨房で、六華は周りの人と雑談しながら、具を作っていった。途中で、清四郎や悠季、鹿嶋達も加わるそうだ。人数も大規模でもなく少数なので、時間はそうかからないだろう。
●
落ち葉拾いと缶拾いが始まる。拓人はどのみち一緒に拾うのだから両方担当を希望しており、ゴミ袋を二つ持っていた。分別は確りしなくてはいけないと言うことらしい。
「ま、これぐらいの嵩張り、大丈夫です」
せっせとゴミばさみで缶やビン、落ち葉やゴミを拾っていく。
清四郎も缶やビンが集まるまで、あちこちにある缶を拾っていく。花壇の奥や柵からでていく勾配など、人目に付かない場所に結構ゴミが溜まっているところを見ると、マナーを考えなくてはいけないなと彼は思った。このボランティアに参加している人はそう実感するだろう。
「集まりました?」
「はい、これぐらいも。あちらがたくさんあるようですよ? 悠さん」
鹿嶋とリズはゆっくりとゴミを拾っている。てきぱきとリズはゴミを拾ってはゴミ袋を一杯にしている。 可燃物のゴミも缶やビンに劣らず多い。
「では、行きましょうか」
「はい」
二人は自然と手を繋いでゴミが多そうな場所に向かった。
カン類がある程度溜まったあと、清四郎が一個ずつ手でプレスしていく。
「ふん!」
グシャ! と潰れる音が心地よい。これでゴミ袋のムダを省けるものなのでたすかると他のボランティア参加者も感謝していた。彼以外にも小型のプレス機で潰しているが、清四郎の方が早いようだ。
「どんどん持ってきてくれ!」
10袋ほどあったカンが半分以下の袋まで減ったのだった。
同じ頃には、花壇や周りの雑草抜きも行われている。区画の班分けもして始める。
「綺麗にしましょう♪」
「そうね」
フィアナと悠季が笑顔で言うと各自の担当区域に向かった。
あちこちに雑草は生えており、固い地面に生えている物は抜きにくい。必死にフィアナが引っ張ろうとしてもなかなか抜けないので、時雨がそれを抜く。
「おー、ちからもちだー。すごい〜♪」
フィアナはぱちぱち拍手。
「フィアナは柔らかい花壇周りをお願いします」
「うん」
彼女はとても楽しそうに雑草抜きをしている。時雨はそれが嬉しかった。
いつも賑やかで騒がしい場所でしか会っていないからこうしたゆったり時間が流れることが尊いものだと思っているのだ。それに、今自分は、明日にはフィアナに会えないかも知れないという危険な仕事を受け持っている。
(「フィアナの笑顔を絶やしてはいけない。生きて帰って来よう」)
悠季はゆっくりと草木を分別して、雑草を引き抜いては、根っこから取る。硬い土はスコップなどで周りを掘ってから根っこごと取り、土だけを戻した。それは花壇でも同じようにする。その手つきは優しく、いたわるような仕草であった。
「ふう、結構広いのね。ここは」
長老桜を中心とした高見台は、結構広かった。展望台の方ばかり目が行くのだが、奥にも広がっている。
長老桜の柵には愛する人と誓い合う南京錠がまだぶら下がっていた。
「まだ有るのね。あれからどれぐらい経ったのかしら?」
悠季はあのときの気持ちを思いだしていた。しかし直ぐに気持ちを変えて、仕事に戻る。
●
お昼時。
少し前に汗を拭き確り手を洗った、悠季と清四郎、鹿嶋が厨房に入ってきた。
「お手伝いします」
「はーい」
入ってきた三人に他のボランティアと六華が返事をする。
おにぎりや、すいとん出汁を作る中で、わいわいと話しが弾む。
「ところで、リズ誘ったわけってなに?」
悠季が直球で鹿嶋に聞くと、彼はちょっと固まってしまった。
「彼女の生い立ちや、仕事からこういう経験がないだろうと思いまして‥‥」
と、彼は言う。
しかし、本当はいつも賑やかすぎる騒がしいところでしか会ってないため、出来るならゆっくりとできる場所で時間を過ごしたいというのが彼の本音だったがそれは口に出さなかった。
「そうなんだ」
それ以上悠季は聞かなかった。
「今回はすいとんか。前は豚汁だったんだよ」
「ほほう、かぶらなくて良かったわ。味噌味だけどね」
味噌の良い香りが、厨房に充満する。
「楽しみだ」
「出来た。熱いから気をつけて」
出来を確認した悠季が、男性陣に鍋を渡す。
「大丈夫だ」
「大丈夫です」
清四郎と鹿嶋は鍋を外に持って行った。すでに外では、六華や他のボランティアにより、テーブルがセットやお椀の山を用意されていた。
「皆さんお昼ですよ〜」
フィアナが拡声器で、ボランティア達を呼ぶ。その透き通った声が、山全体に響くと、あちこちで仕事をしていたボランティアさんが歓声に似た声を上げて、集まってきた。
「はいはい、並んでください〜。たくさんありますからね。急がなくても大丈夫です♪」
小規模だが人数は多い方なので行列は出来る。すいとんとおにぎりの簡単な物だが、とても美味しいと聞いて、炊き出し班は嬉しかった。
フィアナや珪が拡声器で列の整理をして、ある程度落ち着いてから、傭兵達がそれぞれ位置を見つけてはお昼に。お代わりなどの担当は先に食べた人がやってくれている。
「こんなところでおにぎりは初めてかな」
リズは一寸大きめのおにぎりをほおばる。隣には巨躯の鹿嶋がいる。少し隣にはフィアナと時雨だった。
「御飯粒付いていますよ」
「あう〜」
口のサイズに収まらない大きな物だったらしい。
彼女がいない清四郎には、すこしやるせない気持ちになる。故にカップルからは少し離れて食べていた。
ちなみに六華は、フィアナと時雨を弄ろうと思っていたのだが、悠季と拓人に止められて別の場所に連行のような感じになった。
「あまり、弄ってると馬キメラに蹴られちゃうわよ?」
「それはこまるわね‥‥」
仕事がら、それはありえるので余りシャレにはならない。
「そうです、ここは眺めていくのが吉です」
拓人がウィンクして、六華に言った。
(「今日は一人だから淋しけど‥‥できればおなかだけでも温めて‥‥」)
というのが悠季の気持ち。
3人はそれぞれ思いを秘めては、カップルを見ていた。
落ち葉や可燃ゴミが詰まったゴミ袋の山を見ては、拓人はつぶやく。
「たき火とかはしないのでしょうか?」
「消防がうるさいからのう」
小麦屋の主人が残念そうに言う。
「昔は、近くでたき火があるとそれに当たっていましたね。和やかな気分になるんです」
ゴミの袋の中を見ると落ち葉以外にもプラスティックのゴミなどが埋まっている。これでは風情もあった物ではないので余計に悲しい。
「そうだのう。昔は出来ていたが。色々変わっていく物だな」
「アルミで包んだ焼き芋など入れてとか、だな」
「そうそう!」
清四郎が言うと、拓人と主人が頷く。
「あう? そんな事やってたんですか?」
リズも首をかしげて話に割ってきた。
「あたしも見たことがないですけど、『にっぽんがほこるかんとりーかるちゃー』とあこがれています」
と言うフィアナ。
「それは、風情がありますね」
「今度出来ればやってみたいわね」
もし、たき火が出来れば、又話も弾むだろうという気持ちを抱いて、
「「お昼もがんばろう!」」
「おー!」
と、かけ声をだして昼の作業に向かうのだった。
「では、ここの土は取り替えていきましょう」
花壇の土の調子を調べて、土交換が必要な場所を見る。冬の花がそろそろ枯れて、種を付け手いるところをチェックし、春の花に換える準備をするのだ。
一人では出来ないので、風雪兄妹とフィアナ、他の花壇に詳しいボランティアも加わっての作業だ。スコップなどで土を出して、新しい土に換える。その作業は能力者でもきつい仕事である。戦闘で使う筋肉とこうした作業で使う筋肉は違うと言われているからだが、園芸用品を扱う慣れもあるのだ。
「ふぅ。結構腰に来ますね」
「無理をすると、若くしてぎっくり腰になるから気をつけてください」
「は、はい」
そのあと、珪は長老桜の診断を行う。
「施肥作業がいいですね」
幹から1m離れた周囲をほどよい穴を均等に掘っては、そこに300g程度の肥料を埋める。それをほかのボランティアと一緒に行った。
一通り作業が終わると、心なしか長老の機嫌が良くなっている気がする。
「すっかり元気になって頂けたようで‥‥、良かったですね。これからも、みんなを見守って居て下さいね」
ゴミ拾い班もくまなく探すと、まだまだゴミが出る事に驚く。定期的に掃除はなされていてもやはり目の付かないところにゴミは溜まっているのだった。
「綺麗にすると気持ちが良いからがんばろう」
ボランティアの人々と傭兵達も、その気持ちで高見台を綺麗にしていった。
●
夕方。少し冷たい風が吹く。
「今日は本当にお疲れ様でした!」
「「おつかれさまでした!」」
終わりの挨拶と、少しささやかなねぎらいの宴。
「本格的な花見の前に綺麗になってたすかりましたよ」
エイジアの人々がボランティアの人々に感謝を述べている。
「え、お酒用意していたのに」
「この山まで車で来ている人もいるからね。自重しよう、ね?」
六華は何か企んでいたようだが、フィアナに釘を刺された。そう、道具や機材、あとゴミを待ちまで運ぶには車が必要のため全部ジュースなのである。お菓子などはアジアンストリート出店物で一寸豪勢だ。
六華はフィアナを酔い潰して時雨に良いところを見せるという計画があったらしいが、飲酒禁止だとそれは無理だった。もっとも『フィアナがどれぐらい飲めるか』計算されてなかったので、失敗に終わりそうなのだが。
清四郎は、長老を囲む柵の南京錠を見ては、溜息をつき、
「又一人で、ここに来てしまったな‥‥。いつになったらこれを結べることやら」
黄昏て、首を振って小麦屋に戻る。
入れ違いに、鹿嶋がリズと一緒にやってくる。
「四月には満開になるそうですよ」
「見てみたいです」
「そのときは一緒に見ましょう‥‥」
「はい」
微笑むリズに、鹿嶋は心から必ず見に行きたいと思った。
珪は、少し遠くから長老を眺めていた。そして、小麦屋の小さな宴にも目をやると、
「いつ来てもここは変わらず平和ですね。変わっていなくてホッとします。他の地域で戦闘が繰り広げられているなんて嘘みたいですね。恋人達の思い出の場所ですからいつまでも変わらないでいて欲しいです。この平和も自然も、そしてみんなの思い出も絶やさず守るのが私達に課せられた役割なのですね‥‥」
とつぶやいたのだった。
三月末から四月初旬には、ここの山は桜に染まるだろう。長老は春を待ち望み、綺麗な花を咲かすだろう。気持ちよい春を迎えられるよう祈る人は多かった。