●リプレイ本文
※時間軸は前後している可能性はあります。※
エイジアの高見台。屋台通りも宴会エリアも沢山の人で賑わっている。そのなかで、一人の少年がカメラを持ってその人混みを撮影していた。ソウマ(
gc0505)である。彼は人間観察を目的でここにいる。少し面白い事を期待しながら。
「面白そうなこともあるかも。俺の勘がそう告げている」
ふと目についた、着物姿の金髪ブロンドの女性を見つけた彼は、綺麗だと思って写真に納めた。そのあと、その女性がキョロキョロして首をかしげていたが、連れに何か聞かれて「気のせいだったみたい」と行って去っていく。
「あの人誰かに似てるよな‥‥」
ソウマは喉の奥からでない気分だったが、他の人の風景を写真に納めていった。
屋台もかなり並んでおり、香ばしい匂いや甘い匂いが充満している。威勢のよい声も聞こえる。暖かな青空の下、高見台のお花見祭りは始まったばかりだと誰もが思っていた。
「シャッターの音が聞こえたんだけど」
「気のせいじゃない?」
葵 コハル(
ga3897)が着物姿でフィアナ・ローデン(gz0020)に言う。
「やっぱり、事務所がうるさいから。でも、今の時勢コミレザでコスをしない限り、写真取り放題なのかも」
フィアナは苦笑した。
そこに有名人がいることや、事件発生にでくわしたとなると、だいたいは片手に携帯かカメラだ。日頃の生活態度は気をつけなくてはと、IMPのコハルも思った。
「こういう所でコミレザの話をするというのも問題だと思います」
風雪 時雨(
gb3678)が苦笑する。
「お花見を楽しみたいですね」
こういう話に余りついていけない一応の一般人のリズ・A・斉藤(gz0227)が頷いている。
リズもフィアナも時雨もコハルも着物姿である。時雨は女性着物と思ったら普通に男物だ。そうでもしないと、フィアナは失神してしまうからだ。着付けはコハルが担当していたが、彼女が武装したままだったためロッカーで物を置く間に、時雨が二人のメイクをしていた。
「うっかりしてたよ」
コハルは頭を掻きながら反省していた。
「たしか、鹿嶋さんはこのあたりで」
リズは辺りを見渡すと、屋台エリアから近い桜の木に長身の青年が立っていた。鹿嶋 悠(
gb1333)である。
「悠さん」
「こんにちは、リズさん」
駆け寄って、鹿嶋を軽く抱きついた離れるリズに、微笑みながら迎える鹿嶋を、コハルはニヨニヨしていた。
「こんにちは」
「こんにちは、皆さん」
と、お互い挨拶する。
「あたしも、こういう春が欲しい物です、ふっふっふ」
「コハルも積極的に行けば大丈夫じゃない?」
「機会が‥‥ないね‥‥ふう」
コハルは遠くを見て言った。
「では、お二人はごゆっくり、お邪魔虫は退散します」
「お邪魔虫って‥‥ちょっと‥‥」
ニヨニヨしながらコハルとフィアナは去っていく。時雨は苦笑してリズと鹿嶋に会釈してから二人の後を追った。
「悠さん、案内してくれる?」
「はい‥‥もちろん。その前に」
「?」
鹿嶋は花束を取り出し、リズに手渡した。
「これは?」
「誕生日おめでとう、リズさんにとっていい一年にしていきましょう」
「ありがとう!」
リズは嬉しさのあまりに鹿嶋の頬にキスをした。
春の暖かい陽気を感じながらベル(
ga0924)は一人で歩いていた。何も考え事をする訳ではなく、頭を真っ白にして、今この時間をゆっくりと過ごすだけ。
「‥‥いい、天気です‥‥」
長老桜をしばらく見てから、喧騒とは反対側の静かな場所に向かう。そして、賑やかで楽しい風景を見る事にするのであった。
小隊の有志だけでの花見があると言うことで、同棲中という相賀翡翠(
gb6789)と沢渡 深鈴(
gb8044)は、先に高見台にはいって、ふたりっきりのデートを楽しんでいた。
「皆さんが来る時間は未だですね」
「そうだな。一寸歩こうか」
「はい♪」
深鈴が勇気を出して翡翠の手を握る。翡翠は微笑んで握り返すと、深鈴は頬を朱に染めて微笑んだ。彼らは自然と、ジンクスがあるという長老桜に足が動く。屋台の通りを抜けて、そこは神聖な場所として人は居るがシートで陣取って居る輩は誰も居なかった。そのお陰か、より一層、長老の咲き誇る花は美しく見える。
「長老樹凄いですね。おおきいなぁ。あこれがジンクスの南京錠の柵‥‥わあ、すごい」
樹齢何百年も経っているこの桜を見上げては感激し、また、柵にかけられた南京錠の数の多さに驚く。
(「南京錠ではないですけど、いつまでもこの手が離れませんように」)
と、深鈴は願う。彼女は翡翠の手を強く握っていた。
そんな翡翠は微笑み、
「嬉しそうな表情の方が、俺には華だけどな」
「‥‥ひ、ひすいさんっ!」
翡翠がそう言うので、深鈴は真っ赤になって俯いてしまった。とっても恥ずかしいらしく、翡翠はまた微笑んでしまう。愛しさのあまりに。
少し風がでて花びらが舞うなかで、翡翠は少し手を延ばす。一枚つかんだと思ったら、数枚手に花びらがついた。恥ずかしさも慣れて、再び上を向いた深鈴が首をかしげる。
「手を出して」
「はい」
深鈴は両手で水をすくうような形で手を出すと、彼は、先ほどの手から指輪を彼女手に優しく置いた。同じ桜の、同じ色の、指輪。
「あ、ありがとうございます!」
ぱぁっと明るくなる深鈴に、翡翠は彼女の髪に振れて、耳元で囁くようにこう言った。
「見つけたとき、せっかくなら驚かせて渡そうと思ってさ」
と。
深鈴はさっきの火照りが又ぶり返しそうになるが、彼の手をぎゅっと握りしめ、
「ありがとうございます。私、嬉しいです。大切にします♪」
とびきりの笑顔で答えた。
小隊オルタネイティブのメンバーが桜の木の下で集まっては、重箱やジュース、お菓子を拡げて、わいわい楽しんでいた。場所の確保をしてから一旦全員で長老桜をバックに記念撮影を撮っている。通りすがりの人に頼んでシャッターを切って貰った。
「酒飲める人は、ビールやらお酒は好きなのを選んで。あ、AUKVで来た人や子供はこっちの子供用のビールっぽいやつ」
「みんな持ったか?」
セージ(
ga3997)と狐月 銀子(
gb2552)がメンバーに確認すると、元気よく「はーい」「OK」と声がしてくる。
「そんじゃ、乾杯――!」
「乾杯――!」
紙コップで乾杯。
そこから、わいわい話が進むわけだが、この小隊、かなりカップルが多い。
まず、天然隊長でもある、ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)と皇 流叶(
gb6275)。まさかこの天然に恋人なんてと思った人がいるだろう。そして、先ほど2人きりを満喫した相賀翡翠と沢渡 深鈴。そして、セージと銀子。トリプルデートも言えそうだ。
「それにしても、セージと銀子がねぇ」
本当に祝福する翡翠は日本酒を持って上機嫌。
「やだもう。はずかしいじゃない」
からから笑う銀子は少し雰囲気で酔っているみたいだが、セージのアクションをさりげに躱して、桃色空間を出すことは回避していた。
もっとも、すでに桃色を出しているのはヴァレスと流叶なんだが。
「流叶はお酒弱いからこっちね」
「うん、流石に公の場では‥‥ね」
渋々ジュースを手に取る流叶。
「あーそれとなんだ。国籍でOKでもここ日本だから、こっちでは未成年とカウントされる人は飲むなよー」
「まあ、そうする」
と、年長さんから注意を受ける。ラスト・ホープなら国籍で大丈夫ならOKなのだ、ここは日本。郷には入れば郷に従う方が良いわけで。
翡翠の美味い料理と美味しい飲み物で、わいわいと賑やかに歓談しては、流叶の日本舞踊を披露することになったが、ヴァレスに子供扱いされていたので(いや実際子供っぽいのだが)、
「又子供扱いして! もう、みてないさい!」
と、気合い入れて彼女は舞う。
その舞踊は道行く人も目を引くほど、上手かった。終わると周りの花見客からも拍手がわきあがっていた。その意外な反響で、流叶は威張るより、かなり恥ずかしくてヴァレスの隣にちょこんと座る。
「上手かったよ」
「わ、分かれば良いんだ! 喉渇いた!」
「はい、これね」
顔を真っ赤にして、お茶を飲もうとするが、何か味が違う。若干アルコールの味がしたので、咽せる。
「けほけほ! ぅー?」
「だ、だいじょうぶか!? あ、これお酒だった」
「え〜? だいりょうふだよ〜」
大丈夫じゃなかった。
流叶は間違えてお酒を飲んでしまったらしい。彼女はヴァレスに抱きついて甘え始めた。
「酔ってないか?」
「よってなんかないー!」
という、酔っぱらいとのいつも起こる問答に突入。
深鈴も翡翠がしっかりしているので、お酒を間違うことはなく、ヴァレス流叶のやり取りを苦笑しながら見ていた。銀子もAUKVに乗ってきているのにもかかわらず、間違えて飲んだようで、今はセージの膝枕の上で呻いていた。最後にヴァレスと流叶は言い合いで疲れて、一緒に眠る始末で、小隊花見はカオスとなっていくのであった。
椎野 のぞみ(
ga8736)は採算度外視で屋台に望む。生ジュースをはじめとして。イチゴ大福やら団子と品揃えは多い。安く売っている分、赤字確定だというのは目に見えて明らかだった。それでも彼女は元気よく、屋台で声を上げている。
「いらっしゃい〜! 桜と一緒に飲み物と料理はいかが〜! はい、イチゴですね!」
忙しく、トークは一寸出来そうにないが、満面の笑顔の接客が評判のようだ。
一段落がついたときに、鹿嶋とリズが顔を出してきた。
「こんにちは、元気ですか?」
リズがにこりと花束を持っていた。
「あ、リズさんこんにちは!」
「椎野さんこんにちは」
鹿嶋もつづいて挨拶する。
「はい、こんにちは♪ 屋台人気みたいだね」
「ははは、ありがとう」
そして、少し雑談の後、リズの様子にのぞみは安堵したのか、
「心の余裕が出来たようだね。うん、笑って、心の余裕を持って、いざというときに力出せるように、だよ!」
「はい♪」
のぞみはサービスで、イチゴジュースをリズに渡す。
「それと、鹿嶋さん、リズさんを泣かせたら‥‥」
「そんな事は絶対しません」
「ならよろしい」
鹿嶋の自信の返答にのぞみは満面の笑みで返した。
鹿嶋とリズは手を振ってのぞみと別れた。
「しかし、これは恥ずかしいかも」
イチゴジュースは1カップ。そこにストロー二本差しだった。
「おーここかのぞみんのやっている屋台は!」
「あ、コハルさんフィアナさんに風雪さん! こんにちは! 今日はお休みですか?」
「うんオフ、マッタリゆっくりお花見です」
フィアナがニッコリ微笑んで答える。
女の子が3人揃うと何とやらで、すごい話になっていき時雨は、一寸居づらくなっていたりもするが、結構楽しんでから、3人は又別の所へ向かうのであった。
一方、百地・悠季(
ga8270)は堅実にじゃがバターをメインで屋台を開いている。遠くで騒ぐオルタの宴会に苦笑しつつも、フィアナ達にあっては少し会話するが。
「着物で着ていたから誰か分からなかったわ」
「あはは〜。日本情緒とか好きだから」
「綺麗よ」
「ありがとうございます」
とか、なんとかのぞみとのわいわいよりおとなしめの雑談。じゃがバターを買って、3人はまた花見に戻る。
鹿嶋とリズのカップルにも会うのだが、よく交流する鹿嶋との世間話で終わる程度だ。もちろん2人はじゃがバターを買ってくれた。
採算としたらプラスマイナスゼロであるが、この一日、桜舞う中を、人の流れと共に見ていく悠季の心は少し淋しい。ま、枯れてはないしと肩をすくめているものの、やせ我慢は分かってしまう。
「見上げれば
満ちる桜は
美しく
いずれ散りゆく
夢の残りと」
と、彼女はつぶやいていた。
榊兵衛(
ga0388)とクラリッサ・メディスン(
ga0853)は、あるきながら花見を楽しんでいた。
「ヒョウエと野外でのデートもそう言えば久しぶりですわね」
「せっかくの機会だしな。こういうイベントは積極的に参加しないとデートらしいデートも出来ないからな、お互いに」
兵衛は笑いながらクラリッサと桜の花を見ている。
「腕によりをかけてお弁当を作りました」
「お、それは期待しているぞ」
屋台をみてまわり、知り合いの所には声をかけては味を吟味していくという、ゆったりとした時間を2人は楽しんでいた。屋台の道が終わると、適当なベンチに座り其処でクラリッサの手作りの弁当を食べるという流れだそうだ。苦労して探した、空いているベンチで、2人は弁当を食べる。
「今日はどうですか?」
クラリッサは兵衛が一口弁当を食べてから、訊ねる。
「‥‥腕を上げたな。もう言うこと無いな。やはり俺にとってはクラリーが作ってくれる食事はどんなレストランより旨いな」
「あら、ありがとうございます」
そう、ゆっくりとした時間をすごしていると、鹿嶋とリズを見かける2人は彼らに声をかけた。
「これは榊さんにクラリッサさん、こんにちは」
「やあ、元気か?」
「ええ」
リズとは初対面なので、兵衛とクラリッサは彼女と挨拶をし、鹿嶋から彼女が本日誕生日と聞いて、
「リズ、誕生日おめでとう」
「リズさん、誕生日おめでとうございます」
と、祝う。
「あ、ありがとうございます」
彼女はぺこりとお辞儀した。
そのあと、リズとの話の中で、兵衛がこう話した。
「リズは知らないかも知れないが、多少リズの故郷とは因縁がある」
「本当ですか?」
「ああ。だから、リズが今こうして鹿嶋という俺から見ても頼りがいのある『いい男』と知り合い、良い関係を結んだ事は嬉しく思ってる。この誕生日がリズにとって思い出深いものになる事を願っているよ」
「‥‥」
その言葉にリズは真っ赤になった。
「これこれ、ヒョウエ。リズさんが照れているじゃないですか」
クラリッサが微笑んでリズに話しかける。
「これから友達になって頂けませんか?」という事も話していると、リズは元気よく「喜んで」と返事する。クラリッサは微笑んでありがとうと言った。
鹿嶋とリズと別れたあと、しばらくして、兵衛は腹もこなれて暖かい陽気の中で眠くなる。
「寝ますか?」
「ああ、そうするか」
兵衛はクラリッサの膝枕で横になる。眠りの世界に落ちる寸前に、クラリッサがこういった。
「こうしてヒョウエに膝枕出来るのはわたしだけの特権ですわね。‥‥愛してますわよ、ヒョウエ」
「桜が咲いたか、みなで手入れした甲斐があったってものだな」
堺・清四郎(
gb3564)は弁当と酒をもって、長老桜が遠くからでも見る場所に1人でいた。彼にとっては掃除などで良く来ていたために思い入れがある。今回、各自で行動が多かったために独りになった事は悲しいが、それでも、高見台の桜に風流さを感じられずにはいられなく、酒の旨さもひとしおだった。
「ふむ、今度は確り話合っていくか‥‥しかし、桜は美しい物だな」
たぶん、自分と同じように独りで居る人も居るだろう、その人に声緒をかけて他愛のない話が出来ればと、彼は思った。
「あ、ハンナさん!」
リズは、遠くで佇むハンナを見つけて駆け寄った。そして思いっきり抱きついた。
「お久しぶりです、リズさん」
「お久しぶり!」
「鹿嶋さん、こんにちは」
「はい、こんにちは」
ハンナ・ルーベンス(
ga5138)はリズが元気になっていることと、再会が嬉しかった。
リズはハンナに今までのことを話している。それをじっくり聴いて微笑むハンナは、まさに修道女らしい姿であった。
「故郷開放が叶うように、私からも祈っています」
「ありがとう!」
汀良河 柚子(
gc1084)がリズの前にやってきて、自己紹介をしてから、
「いきなりですけど、リズさん誕生日おめでとう!」
と、桜色のパンダの編みぐるみをリズに渡した。
「え、っと、その‥‥ありがとう」
初対面の人にも祝って貰ったことでどう返事すればいいか分からなかったが、なんとかありがとうだけは言えたのだった。
クリア・サーレク(
ga4864)と守原有希(
ga8582)は手を繋ぎながら屋台巡りして、長老桜近い場所でお弁当となった。有希は自分の立場が逆なことで、少しハイテンションだったが、確り2人の手は握り続けていた。もう離さないという意思もこめて。
お昼御飯は、
「おむすび美味しい‥‥っ! 鶏の唐揚げはっと‥‥」
(「にくー、にくくいたい、にくー」)
「っ!!」
「どうしたんですか? クリアさん?」
キョロキョロするクリアに首をかしげて有希が訊ねると、
「えっと、何か、エスティさんの声が聞こえたような気がして」
と、乾いた笑いでクリアは答えた。
「『にくくいたい、にくー』ってきこえましたか?」
「‥‥うん」
「ああ、あの人ならそう言いますよね」
2人は周りの人の話などで、他愛のない話をしながら、時間を過ごしていく。大規模作戦などであまり2人きりの時間がなかったから、その他愛のないやり取りが嬉しかった。
そして、時間が夕暮れ時になったときに、2人は長老桜の前に立つ。
「「あの! 2人で南京錠を駆けませんか!」」
「‥‥」
「‥‥」
2人は同時に同じことを言ったので、吹き出すと同時に、真っ赤になってしまった。
「うん、しましょう」
有希はクリアと一緒に南京錠を柵にかける。カチリと言う音が又2人の想いを強くする。
「クリアさん‥‥」
「守原さん、あの‥‥有希さんって呼んでも良いですか?」
「いいですよ‥‥」
真っ赤になりながら訊ねるクリアに、有希も真っ赤になりながら頷いていた。そこから2人は誰が先でもなく抱きしめ合ってから見つめ合い、自然と唇と唇が重なったのだった。
「愛してます。クリアさん」
「嬉しい、有希さん」
緑(
gc0562)と汀良河 柚子(
gc1084)は、屋台を巡ったり、途中で多少交流のあるメンバーに桜餅を配ったりとしてデートを楽しんでいた。もっとも、デートと思っているのは柚子だけだが。
のんびりとしている縁を引っ張るように柚子が進む。のぞみの屋台でジュースを貰いながら、賑わう人混みの中で楽しんでいた。
「あの、縁さんだけ特別の桜餅!」
勇気を出して柚子は彼に、確り包んだ箱を差し出した。縁が受け取って箱を開けると、ハート型をしている桜餅であった。
「頂きますね‥‥ふむ、イチゴが入っているのですか」
彼はゆっくり食べて、味を確かめていた。
「ど、どうかなっ?!」
柚子にとって自信作であっても、好きな人の反応はとても気になる。
「はい、美味しいですよ」
にこりと微笑んで縁は答えると、柚子はぱあぁっと顔を明るくした。
「よかった〜」
「そうだ。お礼をしなくては」
「いいよう」
「いえいえ、そうはいきません」
縁は、人が余り通らない様なところでかつ、桜吹雪が頃よく舞っているところを見つけては、そこで覚醒する。体と髪が黄緑になり、髪は腰まで伸びた。周りの植物がざわめいている。その姿が幻想的にで、柚子は目を奪われ、通りすがりの人も、その幻想的な事に足を止めたのだった。
「わあ、綺麗!」
「ありがとうございます」
そのあと、2人は長老桜のを見に行き、さらに感激する。
「長老桜‥‥きれいですね‥‥? なにをしているのですか?」
「ううん、なんでもない! きれいだね!」
縁が桜の木に見とれている間に、柚子はちゃっかり柵に自分の名前と彼の名前の相合い傘を書いた南京錠をかけていたのだった。
「いこう、縁さん」
「そうですね」
彼女の想いが通じるかは‥‥さきの話だろう。
夕方頃。セージがオルタメンバーのほとんどを「自分が片付けをするから」と追いやった。目のさめたヴァレスや流叶、翡翠と深鈴はお互い2人きりの時間を楽しめると言う事で、好意に甘えておくことにする。
セージは優しく銀子を起こすが、銀子がごろりと転がっては彼を見る。
「‥‥そだ‥‥未だ肝心なこと聞いてなかったよね」
「なんだ?」
片付けを中断し手を洗うセージは彼女に近づいた。
「ちゃんと、告白聴いてない」
「‥‥好きだぞ」
「‥‥きこえないー!」
ちゃんと聞こえているのに、聞こえないふりをして叫ぶ銀子に、セージは真顔で‥‥、
「銀子。大好きだ‥‥愛してる! お前の為になら世界全てを敵に回しても‥‥いや、俺が世界を手に入れてやる! だから俺について来い!」
と、大声で叫んで告白する。
銀子は、屈託無い笑みで、彼の首裏に腕をかけて、彼を引き寄せてキスをした。銀子の行動に驚くセージだが、お返しに熱いキスを交わすのであった。
藤村 瑠亥(
ga3862)と優(
ga8480)は桜舞う中で、ある依頼で逃がしてくれた人物の鎮魂を祈っていた。
「‥‥あの結果で俺たちはここにいる」
「彼女のためにも、奴らによって犠牲になった多くの人達のためにも、生き抜きましょう」
「そうだな‥‥ここで、立ち止まっているわけにも行かないからな‥‥。せめて、彼女に申し訳が立つぐらいの結果を残さなければ」
しばらく沈黙の後、優が、瑠夷にこう訊いた。
「そういえば、彼女のことはどう思っているんですか?」
と、どうも瑠亥には思う人がいるらしいと優は考えていたようだ。瑠亥は少し驚くような顔をするが真剣な口調で、
「‥‥いきなりだな。どうしてそんな事を訊く?」
と、返した。
「‥‥それは、貴方も彼女も私にとって大切な友人だからです」
「まあ‥‥普通の友人より好意を持っているのは‥‥無いかと聞かれれば‥‥無いというと嘘になる」
「‥‥」
「何も変わらないさ、それだけのことだ。それ以上求めること自体、筋違いだと俺は思う」
「‥‥そうですか」
その問いが、優にとってはよく分からないが、胸が締め付けられるような気がした。しかし、それは瑠亥とその人の間の問題だ。これ以上訊くのは‥‥と優は思った。
「そう‥‥何も変わらないんだ」
瑠亥はそうつぶやいている。
「それでも、それでも、瑠亥。私が貴方に幸せがあることを祈ってます。それだけはどうか忘れないでください」
「‥‥」
優の言葉は彼の心の奥に届いたのかはわからない。ただ、彼は「ありがとう」と返すだけで、まだ桜を見ているだけだった。
柳凪 蓮夢(
gb8883)と布野 あすみ(
gc0588)は、長老桜の木の下でお昼を食べたかったのだが、其処で食べる雰囲気ではなかったので、別のところで昼食をとっていた。それでも、長老桜はとても大きく、そこからでも見える。
「大きい木だね。何か桜が屋根みたい」
「そうだね」
と、お互いが作ったお弁当をつまんで、他愛のない話をしていた。蓮夢がハーモニカで演奏をすると、通りすがりの人も聞き入って最後に拍手が送られるという一寸したショウにもなったが、ハプニングはあった物の、2人で静かに過ごしていた。
「良い音色だね。木製のハーモニカなんて初めて聴いたよ。上手いよ、蓮夢」
「ありがとう」
あすみは、頃合いかと思った。
「あ、あのさ、気乗りしなかったらはっきり断って欲しいんだけど‥‥」
勇気を出して、言葉を選んでいく。
「なに?」
蓮夢は彼女が話を続けるのを待った。
「な、なんていうか‥‥、あたし、蓮夢の事が好き! 率直に言うと付き合って欲しい!」
と、顔を真っ赤にしながら彼の目を見てあすみは告白した。
少しの間。
「なるほど、それでか。2人きりだった理由は」
「‥‥っ!」
状況を納得した蓮夢は微笑む。あすみは返事が怖くて下を向いてしまう。
「ん‥‥私はそう言う関係になっても、大して変化はないかもしれないとおもうよ? 今までとさ。それでも、よければ。うん」
いつもと変わらない彼の顔だが少し朱に染まっている。
少し彼の言っている言葉を考えて、あすみは気づく。
『OK』だと。
「ほ、本当に良いの? うん‥‥あ、ありがとう!」
彼女は嬉しさで泣きそうだった。
そしてふたりは、長老桜にむかい、南京錠の『おまじない』で鍵をかける。
「あ、プロミスリングが切れた‥‥やった」
あすみの腕に付けていた、プロミスリングが切れる。
「願いが叶ったんだね」
「うんっ!」
2人は、変わらない日常を過ごすのかも知れないが、少しずつ変化していくのだろう。
時雨はフィアナを連れて、長老桜の所にむかった。コハルは察してのぞみの所のお手伝いに向かった。
「フィアナ、聞いてください」
「なんですか?」
フィアナは彼が口を開くのを待っている。
「貴方に自分のことを受け入れてもらったのは北米でしたね。アキラに狙われていても突き進んで、守って、守られて‥‥。アキラからまだ完璧に守れる保障はありません。貴方のことを悲しませるかもしれません。ですが、誓います。貴方を幸せにしてみせると。もう一度、返事を聞かせてもらえますか?」
「‥‥その言葉を信じます。でも、死なないで。それが返事で願いです」
フィアナの表情はとても真剣で、哀しそうな目であった。
「よかった‥‥ありがとう」
彼女の真剣な返事に、彼は安堵した。
夕暮れになってきても、人の帰る気配は無い。それでも、清四郎やセージや銀子、あすみを先に返らせて見送った蓮夢など数名はゴミの片付けに精を出していた。特に清四郎自身は幾度かここの掃除などに参加しているので手際がよかった。雑談もかわしながらもさくさく仕事はすすむ。
途中、ベルやハンナも加わって、自分が作ったゴミなどの始末と他のゴミもまとまったのだった。
セージと銀子の仲むつまじさを見ては、
「で、告白やらなんやらで、居場所がなかったわけだが」
清四郎はぼやくしかない。
「‥‥でも、楽しんでいればそれで良いかもしれません‥‥」
ベルは『ベルシュー』のような笑みで返す。
「そうですね。主に感謝を」
ハンナの笑顔は穏やかだった。
こうして、傭兵達の花見は終わったが、高見台の花見は、桜の華がほとんど散るまでは続くのだろう。