●リプレイ本文
●修羅場
傭兵達がフィアナの事務所を開けると、唖然とする。
周りは紙の山。古ぼけたデスク。そして、フィアナ・ローデン(gz0020)と他のボランティアが、ひっきりなしに、狭い事務所を走り回っているからだ。
「ここ、校正お願い!」
「もう、各種手続き済んだの? スケジュールあってる?」
「ぎゃー! OSがブルースクリーンになった!」
まさに、修羅場であった。
「フィアナさん〜」
水鏡・シメイ(
ga0523)が声をかけて呼ぶ。
フィアナはそれに気づいて、
「あ! 来てくださったのですね!」
息を切らして彼の元に走ってきた。
かなり苦労しているようで、前に見た清楚な美しさより、焦燥と疲れが顔にでていた。
「大変ですね。お手伝いします」
彼は、そう言って、差し入れなどを、渡した。
「やあ、君のためにまた助けに来た」
UNKNOWN(
ga4276)がすっと現れる。
「お二人とも、お久しぶりです」
「ん? フィアナさん。その人達がボランティア? ‥‥あ、あのときはどうも!」
2人を知っているボランティアスタッフの1人が、段ボールを持ち歩いて挨拶し、ものすごいスピードで奥に入っていった。
「‥‥。大変だな」
「ええ、いつ寝てたか分かりません」
「それは体に毒ですよ。少し休んで」
水鏡が彼女を座らせた。
「しかし、これはまさに修羅場だな」
「片づけましょう」
愛輝(
ga3159)と智久 百合歌(
ga4980)が、事務所を整頓し始める。
それに続いて、全員も動いた。
事務所を簡単に綺麗にするというだけだがこれは重労働となる。
元芸能関係だった智久のおかげか、どこに何を置けばいいかがわかり、15人ぐらいはゆっくり座れるスペースは確保された。さらには今回の企画と計画書だけが、綺麗に広げられていた。
「綺麗に片づきましたね」
沖 良秋(
ga3423)が、汗を掻く。
しかし、覚醒しないと、紙が思いっきり詰め込まれた段ボールなんて、持ち上げることなんて出来ないものだ。紙は重い。ちなみに、皐月・B・マイア(
ga5514)が、ブルースクリーンで寸とも言わなくなったパソコンを直した。まずは、会議できる状態にしないと始まらない。
●会議
「で、問題は数が少ないことなので、この数日短期間、かつ、クオリティが高いモノでないといけないわけだが‥‥」
UNKNOWNが、ホワイトボードに『ライヴ成功計画』と書いて、皆を見る。彼が真ん中にいるので、フィアナが右隅の方にちょこんと座っている形になってしまっているが、彼女の存在感がないわけではない。
「どうかよろしくお願いします!」
「こんなご時世だ。歌は強い言葉になって人々の心に届く。ハイクオリティを求めるのは良いことだ」
坂崎正悟(
ga4498)は今まで仕舞っていたカメラを弄る。
雷樺(
ga5705)は、黙って聞いている。
「ます何が出来るかを考えよう。公共施設の連絡は済ましているのか?」
「はい。ある程度は」
フィアナは、スケジュール表をみて、確認している。そして足りない部分を、ホワイトボードに書き写していた。
公園は取っているが、その外の挨拶回りや、肝心の宣伝がまだらしい。紙が多いのは、そのチラシを作っていたからだろう。
「地域の人が知っているかどうかもあるし、PRもしなくてはいけない」
で、意見を出し合おう、と黒い謎人物は言うのであった。
ショップに置いて貰う、宣伝カーを使う兵舎にチラシやビラを配るなどの案が沢山出てきた。それをまとめていく。
2時間ぐらい経った。
「では、計画はこうだな。前半はこうだ」
UNKNOWNが読み上げる。
1.チラシ・ポスター作成班:坂崎、沖
2.広場の下見と、まだ残っている各公的機関への挨拶。
3.PRの為に、ビラ配り
4.各主要人物、王氏やショップに挨拶
5.夜などは歌合わせと休憩
「なお、フィアナは適宜どちらかにつく。写真撮影などもあるからな」
と、大まかな計画表はできた。
「では、俺たちで絶対成功させよう」
沖が気合いを入れた。
「おー!」
テンションが上がってきたのか、皆が腕を天に突き上げた。
フィアナは自分の寝室でぐったりと眠っている。
「本当に急がしかったのですね」
智久が、こっそり覗いてそう呟いた。
まだ忙しくなるが、今は、休んだ方が彼女のためである。
●着実に
沖は今まであったチラシとポスターのラフを見て、それを更に手直しし、ポスターを3種作り上げる。
「こんなものでいいですか?」
「では、それに合う写真は俺が撮ろう」
坂崎がフィアナの写真構図を考えた。
しかし、彼女の自然体を取るためという方針は変えない。
まえもって、彼は言う。
「あなたの自然な笑顔を撮りたい。なので、付いてきても良いか?」
と。
フィアナは恥ずかしいので頬を染めていたが、OKを出した。
今彼女は、UNKNOWNや水鏡、智久、皐月と様々なステージでの打ち合わせしている。その顔は真剣であった。
坂崎は、その真剣な顔も写真に収める。その姿と雰囲気が、このフィルムに収めておきたいという気持ちにさせたのだ。
会議は続く。
「車は大丈夫なのだろうか?」
「それは問い合わせてみますね。協賛についても、あたしも向かいます」
「その方が良いかもしれないな」
「夜には曲の打ち合わせですね」
「ええ、では、14時にまずショップに、そして王さんにはいつ頃?」
「それは私が連絡入れよう。顔見知りだからな。愛輝、いいよな?」
「OKですよ」
話からすると、各所に回って挨拶回りするらしい。
「では、私はまず周辺の方に許可を受けてくる。フィアナもくるか?」
「はい」
その間に、楽器の整備が出来るならする人と別れる。
UNKNOWNと沖、坂崎とフィアナはポスターを貼りの許可を取るためや、ビラやチラシ置き場の確保で店、機関、兵舎に挨拶回りに向かう。水鏡と愛輝、皐月、雷樺は公的機関に話を付けてから、最終的に会場に合流する事となった。
「チラシを置いてくださいますようどうかお願いします!」
「お願いする」
あちこちを歩く。
「ここの屋台と向こうのバーは快諾してくれた」
UNKNOWNが2つの屋台とバーに話を付けてくれたようだ。そこの代理人とフィアナは話しあい握手する。
皆がよく使うUTLショップの看板娘、ロッタ・シルフスも「個人的に」チラシを置いても良いと許可をとれた。
公的機関での警備などの打ち合わせも滞りなくすすみ、今までのフィアナの修羅場が嘘のように解消されていった。よほど優秀な人が風邪で寝込んでしまったのだろう。
そして会場。
ローマなどにあるような野外劇場であるが、100人入れるか分からない小ささだった。しかし、楽屋裏になる建物、裏口、通路などはかなりしっかりしており、人を動かし易い作りになっている。野外なので、前日までに大きな天幕で覆うことが必要になるだろう。
「皆さんのおかげで準備が上手く進んでいます。本当にありがとう」
ビラ配り、様々な人の手助けが、とても『運良く』事が進んでいることに、フィアナはとまどっているようだ。
「いや、まだまだだよ。必ず成功させてからだ」
「はい」
フィアナが笑う。
坂崎はその笑顔を撮り忘れることはなかった。
●行脚
どこかの食堂。
そこにライディ・王(gz0023)を囲んでUNKNOWNと愛輝、フィアナがいた。ラジオでの宣伝、名前の仕様と、収録協力の依頼である。王のラジオはまだ出来たばかりだが、徐々に人気を出しているようだ。これはUNKNOWNが交渉した結果である。
「なるほど、そう言うことなら、俺も協力しましょう」
「王さんよろしくお願いします。司会もお願いできますか?」
「ええ、勿論」
「それはすごいな」
交渉はまとまったようである。それも司会もしてくれるという幸運。
お酒はホドホドにし、一旦事務所に帰る3人。
「数日すれば、ラジオから宣伝されるだろう」
愛輝がフィアナに言った。
「はい」
事務所を開けると、どんよりした空気が立ちこめていた。
「ただいま〜って? あれ? だ、大丈夫ですか?」
3人が一寸間の抜けた声を出してしまう。
事務所でドリンク剤を飲んで顔面蒼白の沖と坂崎だった。口から魂が抜け出るような、そんな感じだった。
「データが〜坂崎さん〜」
「うわーやり直しだ〜」
どうも画像編集ソフトがそのパソコンとの相性が悪いのか分からないが、悪戦苦闘しているようだ。
「大丈夫でもなさそうだな」
3歩進んで2歩下がるような作業になっていたようである。
OSのアプリの数は10に近いほど起動しているのを見て‥‥フィアナが苦笑した。
「あ、ああ、いくらこの子はそれほど高性能じゃないんです。メモリも一寸きついのです。こんなにアプリを開けちゃダメですよ〜」
フィアナが状況を見て、説明した。
「詳しいな。フィアナ」
「え、まあ、一寸。デストップミュージックもやっていたモノで‥‥後、一寸パソコン自体の自作も‥‥」
フィアナは一寸照れた。
「あ、でも例のものも振りませんし、舗装もしませんから!」
そして、あたふたする。
「そこまでは聞いてないから」
地下から音が流れている。
「フィアナ、スタジオで練習しましょう!」
皐月がフィアナを呼んだ。
「あ、はい〜今行きます〜」
フィアナも本当に忙しく駆け回る。
愛輝がフィアナに言う。
「とばしていきますよ!」
「はい!」
皐月は
「私に出来る事‥‥それは、演奏と踊りだ!」
と言うことで、フラメンコの練習もあり
ステージ組は更に忙しくなっている
しかし、休憩をしているモノがその練習を見て、音楽好きのモノ達の談義が楽しそうに見えていた。
坂崎は、その真剣で明るいやり取りに何度も納めていた。
●ビラ配り
かなり時間をミニライヴのための準備に費やされ‥‥、ビラやチラシ、ポスターが完成した。
「よおし! みんなでビラ配りだ! テンションあがってきたぁ!」
皐月が気合いを入れる。
智久もビラを持って。
「さて参りましょう!」
全員でビラ配り、
愛輝から教わった方法で。少しずつ確実に、ビラが手渡されていく。箱いっぱいのビラが半分ぐらいになった。
まだ時間はある。
UNKNOWNは別の所でサックスを吹き、智久はヴァイオリン弾きながらのビラ配りや、グループでのチラシ配り作戦と様々だった。
ポスターも貼って、どんどん気持ちが高ぶってくる。
「出来るんですね。一時はどうなるかと思いました」
フィアナは言う。
「まだまだ、ですよ。ここで感慨深くなっていたらだめですよ」
智久がフィアナに笑いかけていった。
●サプライズ
事務所に見たことのある車があった。
「向こうの方が、送ってくれたのですね!」
「おお、これは言ってみるモノですね」
水鏡とフィアナは懐かしむようにその車に触った。
「? これは?」
物珍しげに全員が見る。
希望の光とペイントと、かつてこれを書いたメンバーのサインがある車だった。
「ああ、これが前に使った護送兼アドカーだ。避難所までをこれで走ったのだ」
UNKNOWNが答えた。
「これで宣伝が楽になりますよ」
「運転は私がしよう。」
これから更に忙しくなる。
そして、この夜に、『Redio−Hope』から宣伝が1分だけながれ、最後に前に録っていたフィアナの歌が流れる。
「いかがでしたでしょうか? フィアナ・ローデンのミニライヴは、今週末の14時からです。近く向かう人、聴きに言ってはどうでしょう?」
それを聞く皆は、喝采した。
それでも、地下スタジオで練習は絶やさなかった。
歌が好評だったのか、ビラ配りでも、声をかけられる事がおおくなる。
彼女の歌には力があると、誰もが思うことだった。
●本番・さらにサプライズ
これと言うほどの問題もなく、ステージも完成し、リハーサルも全て終わらせた。すでにライヴ開始5分前。
控え室では、フィアナと皐月、愛輝とUNKNOWN、智久が待機していた。
「出番です」
スタッフが呼ぶ。
「はい」
5人はすっと立った。
ステージに上がる。寒い中、しかし人が予想より多く入っていた。
既にステージにはもう1人立っていた。ライディ・王であった。
「王さん」
フィアナが王に何か合図を送る。
王は頷いて、観客に向く。
「さて、これよりフィアナ・ローデンのミニライヴ開演です!」
歓声が上がる。
フィアナは真ん中に立ち、キーボードの智久が弾き始める。その曲にのって、フィアナの歌声が公園に響いた。
最初は盛り上げる為の歌だった。軽めのビート。なにか心に届く綺麗な声と想い。
「皆さん、集まってくれてありがとうございます! フィアナ・ローデンです。今日は楽しんでください」
そう、観客に言う。
拍手が巻き起こった。
彼女の声は、遠くで警備も当たる水鏡達にも聞こえる。
「避難所でのコンサートのことを思い出しました」
この心地よい声とリズム。
観客もリズムを取っている。
警備は必要だが、通りすがる人も立ち止まって聞いていた。
途中でUNKNOWNのサックスソロ、皐月のフラメンコがはいり、かなりジャンルは多岐にわたった。
そして、フィアナの思いを込めたトークがはじまる。
「あたしにとって、歌える場所があれば、そこがステージです。どこに行っても、辛い思いをしているみなさんのために、歌い続けたいです。どうか、これからもよろしくお願いします」
最後の曲は『希望の光』。
小さいながらも、成功を収めたライヴであったと、皆は実感した。
●打ち上げ
まだ熱狂さめやらぬ、会場には、屋台やバーから貰った、スープやドリンクで、談義に花を咲かせている客が残っていた。楽屋裏でうろうろしているモノもいる。
「サインがほしいの?」
智久がその人達に聞くと、頷いた。
「フィアナさん〜サインが欲しいって」
「あ、はいー」
休憩が入ったがサインをほしがる人が残っている。なので、彼女は忙しい。
ある程度片づけは、いつの間にか増えていたボランティアによって順調に進んでいた。
「あれ? UNKNOWNは?」
雷樺が愛輝と王に尋ねる。
「帰った」
「ええ?」
「いいじゃないかな? 彼らしいし。風のように現れ風のように去っていく感じだし」
「そいうことか」
と、3人はスープにラーメンを入れて食べていた。
「これ意外といけるな」
そして、水鏡と皐月、智久、坂崎も一息付けた。
「今日はお疲れ様です〜」
「はい、おつかれさま〜」
控え室にはビールやつまみがあった。完全に打ち上げ状態だった。
その別のテーブル。空になったマジックペンが数本、そして安らかな寝顔で可愛い寝息を立てているのはフィアナだった。
「本当に、お疲れ様です」
水鏡が、近くにあった毛布を彼女に掛けて上げた。
まだ、彼女の旅は始まったばかりである。長い旅の‥‥。