●リプレイ本文
エンジンが壊れそうな爆音が静寂だった荒野に響き渡る。
「これは、離れてる人には声が届かないね〜」
いつもの白衣姿のドクター・ウェスト(
ga0241)がウィルソン・斉藤(gz0075)に練成治療を施しながら、状況を把握した。おそらく全員、逃げ切ることに精一杯で別の車両に声をかけることなど出来そうにないと思うだろう。
「先に閃光手榴弾で目を眩ませるか?」
水円・一(
gb0495)がドクターに尋ねた。
「いや、予想して我が輩が何とかする。もっとも我が輩より斉藤君と親しい連中が引きつけてくれるね〜」
時計の秒針を見てから後ろに迫り来る、デスペアの乗った不気味な車――車輪が無く空中を浮いて飛んでいる――見るとボディは黒光りしており不気味だ。フロントの方は透明なのかどうか怪しい。
「フォースフィールドは‥‥キメラより強いのは分かってるからな‥‥」
水円は大口径ガトリング砲にペイント弾を詰め込んだ。
「我が輩が考えるに、あのFFはワーム級のものかもしれないね〜。斉藤君は運転に集中してくれたまえ」
「ああ」
斉藤は黒い物体から振り切ろうとアクセルを踏む。
「ふざけた車に乗りやがって‥車が空を飛ぶんじゃねぇ!」
武者鎧のような格好の須佐 武流(
ga1461)がバイクに乗って叫ぶが周りには爆走音で聞こえない。しかし叫ばずには居られなかった。無茶苦茶すぎるからだ。これでは『銃を使ってタイヤを狙う事』が出来ない。彼のバイクはデスペアの車と斉藤の車の間に入り込んで距離は35m〜40m。そこから後ろを振り向き、機械巻物「雷遁」を起動させる。電磁波は見事に当たっているが、赤いFFが致命的なダメージを阻んでいることが分かった。
「このままじゃ追いつかれる‥‥っ! くそ!」
目の前の車両にいる水円が大口径ガトリング砲を構えたため、一端車間を離脱すると決める。
距離を取っている風雪 時雨(
gb3678)の車には皐月・B・マイア(
ga5514)が乗って大口径ガトリング砲を構えてペイント弾をこめて構えていた。
「まだ近くない‥‥。頼むぞ時雨殿!」
「わかってます!」
風雪はハンドルを切った。
「まったく! しつこい追跡者だな! まぁ、アイツがしつこいのはよく知ってるがな!」
マイアはしっかり構えて、一気にガトリングを撃つ! ペイント弾はデスペア車の横に当たって黒を蛍光色に染めていくがフロントガラスに当たっていない。
シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)はジーザリオ。ベル(
ga0924)とゴドー(
gc3363)はバイクであり(ゴドーはAU−KVバイク形態)、デスペアの車とは付かず離れずの距離にいる。もしこのスピードで接近接触でもすれば、吹き飛ばされるのは目に見えているからだ。しかし、目に見えて相手の方が速いことは分かる。
各自ペイント弾などを篭めた銃器でフロントガラスを狙うが、FFに弾かれるか、別の所に当たってしまう。上手く当てられないことにいらだった。安定してない射撃は、面攻撃でもうまくいかないのだ。ゴドーがフォルトゥナ・マヨールーを撃っても、デスペアの車には傷一つつかなく、赤い壁(フォースフィールド)に阻まれた。
「全く通じないのか!」
この三名と須佐は運転と一緒に攻撃をしていたので、斉藤の車のスピードより遅くなってくる。
向こうが反撃に出る仕草をした。アキラ・H・デスペア(gz0270)が窓から顔を出した訳ではない。ボンネットの上から炎の球がいきなり現れ、須佐のバイクに飛ばしてきたのだ!
「うおお! あつうう! いかさまだぞこの野郎!」
須佐は怒りを篭めて叫び、爆炎の苦痛を耐えて運転する。
斉藤とデスペアの車間は40mと縮まってきた。
(「絶対取り戻す‥‥いや破壊します。私の過去は無いのだ」)
デスペアは車の操縦席にある様々なコンソールを弄る。それはさながらワームのコクピットのようであった。
水円とマイアがペイント弾入りガトリング砲を撃つ。見事にフロントに当たる!
「!! しかしその程度想定の範囲!」
相手は全くスリップをしない。少しよろめいたがすぐに体制を整えており、車間距離を40mていどにとどめているだけだった。シンが制圧射撃を試みるも、ひらりと躱される。
「一体どうなっているですか、あの車は!」
「ペイント弾まみれのフロントガラスだと‥‥閃光手榴弾はつかえそうにないな」
又反撃に、炎弾が今度は斉藤の車に命中する。
「あつ!」
「くそ! あつつ!」
其処で斉藤の車がスリップする。何とか持ちこたえて安定化するが、スピードが落ちる。焦る傭兵達は、急いで最初の車を庇うように陣をくんだ。車間はいまので35mと縮まってしまった。デスペアの車とバイク組とシンの車間は20mあるかないかである。
「あれは撃退できるのか?」
「やるしかないだろう!」
風雪がアクセルを踏む。マイアが貫通弾を篭めてもう一度構え直す。
「‥‥させない‥‥」
ベルは貫通弾を篭めた黒猫で撃つ!
車の目の前に赤い壁が展開し直後爆発するが、貫通したらしく、ボンネット辺りがめくれて、後ろに飛ばされている。効き目はあったようだ。
貫通弾や超機械での攻撃にでる傭兵達だがあまり効果を感じられない。また炎弾を斉藤の車に放ってしまうことは避けたい。
「囮になる‥‥」
ゴドーが接近して、照明銃をフロントの隙間に向かって撃つが、閃光手榴弾ほどの光量を持たないそれは、べったりと付着したペイントに一部阻まれたこともあり、アキラに効果を与え得たのかすらわからなかった。
スピードが落ち、更に近づいてしまったゴドーは、猛スピードのデスペアのワームに引き寄せられる!
「な、まさか‥‥」
空気の流れで彼自身が吸い込まれ、そのまま車に接触しはじき飛ばされた!
「ゴドー!」
近接するのは非常に危険であると覚悟する。
「‥‥しかし、それでも引きはなさにと行けないんだよね〜」
エネルギーガンをもって打ち続けているドクターは冷静だった。
銃撃が激しくなってまたスピードが落ちる車に、
「‥‥絶対に‥‥守る‥‥!」
ベルがあらかじめピンを抜いた閃光手榴弾を皆に分かるようなモーションでフロントガラスに目掛けて投げる。激しい光を放つが(運転手などは向きが違うし、傭兵達は投げるタイミングをちゃんと見ているため実害はない)、デスペア車は全く効いていないように再度スピードをあげて突進してきた! ペイント弾で前方がふさがれてもまぶしさは伝わるぐらい強力なはず‥‥。
「‥‥そんな」
閃光手榴弾のまぶしさを物とせず、スピードは全く落ちていない。
「オート操縦か?!」
須佐が毒づく。
「この程度は予想しています‥‥。しかし、今度はそうはいきません」
相手には聞こえはしないがアキラは呟き、サングラスをかけ直した。衝撃などでずれていたらしい。
「アキラっ! いい加減諦めろ!」
貫通弾を装填し影撃ちを篭める。
「今度は只の弾じゃないぞッ‥‥!」
斜めからの貫通弾発車。轟音とともに爆炎も巻き起こる。
「やったか?! ‥‥なに、ばかな!」
しかし、進路が少しずれただけで、デスペアの車はまだ突き進む。
あと斉藤の車との差は15m。シンが二丁拳銃のようにエネルギーガンを持つ。
「僕が無力だとでも思ったんですか?」
そして10mで隣接するためスピードを落とし‥‥横から撃つ! しかし、至近距離でも強力なFFで思った通りにガラスを割ることや車を減速もさせることが出来ない。
「なに‥‥?!」
そして、ゴドーのように彼のジーザリオも引きずられていく。このまま衝突は危険と判断。シンはジーザリオから飛び降りる。ジーザリオはデスペア車に当たっては別の方向へ転がっていった。幸いなのか大破はしていない。
「‥‥あのまま吸い込まれていれば、大怪我だ‥‥」
「そんな‥‥ことが‥‥」
「崖崩れを狙おうにも‥‥崖すらねえのかよ!」
デスペア車からかなり多い火炎弾が現れ、ベル、須佐を焼き殺そうとする! 苦痛に耐えながらもバランスを保とうとするが、直撃でスピン。転倒してしまった。
「‥‥しまった!‥‥」
「くそう!」
転倒しても何とか受け身を取って反撃しようとするが、FFに阻まれる。
デスペアの車は攻撃の蓄積で、ボンネットやルーフもぼろぼろになって、マイアやドクター、水円の攻撃で、吹き飛ぶ。
そこにはサングラスをかけたアキラの顔が現れた。
「いいかげん、諦めろ! フィアナのこともこのことも!」
距離はもう5mともない。マイアの声がアキラに届く。
「諦めませんね。私にとってそのテープは大事な物。そしてフィアナも大事な物だ」
「物‥‥だと!」
「話しているところ失礼だが、バグアには全てを諦めて貰おう。君には退場願うね〜」
ドクターがエネルギーガンを構えて撃とうとするも、タイミングを見計らったように車の接触させたためドクターの銃口はそれてしまう。
「至近距離なら躱せまい!」
水円が貫通弾に強弾撃を篭めて撃とうとする! しかし車のFFが邪魔をし、軌道が逸れる!
「な!」
それでも、弾は彼の肩口に当たる。だが、アキラはそれすら動じずアクセルを踏みきっている!
「怪我を畏れてここまでのことはしませんよ!」
車のスピードを上げた。
衝撃が3人を襲う。
「ぬおおお!」
デスペアに仁王立ちするドクターが腰にあらかじめ抜いていた閃光手榴弾を見せた。閃光が炸裂する! しかし、アキラは不敵な笑いだけ。傭兵達が閃光手榴弾を所持しているだろう事は予め予想した上で、サングラスをかけて目を伏せている。
「サングラスをかけ直しているだと!」
「車がもたない!」
更に加速するかのようなデスペア車は、そのまま斉藤の車をはねた! 斉藤の車ははじけ飛んだ。水円は上手く受け身を取ったが、ドクターは吹き飛ばされる。しかし斉藤は車ごと飛ばされ、車の下敷きになっている。
「‥‥さ、斉藤さん!」
ベルや風雪、マイアが駆け寄ってくる。
斉藤は意識がなかったが、まだ息があると、安堵するも、彼が持っていた8mmビデオテープはショックで割れて使い物にならなくなっていた。
「よし、私の過去は消えた‥‥」
アキラはそれを遠くで確認したあと、そのまま猛スピードでその場から去っていった。
「デスペア――っ!」
マイアと時雨の叫び声が荒野に轟いた。
急いで、救急セットでドクターやゴドーと水円、そして斉藤を治療するが、彼らは瀕死の重体となってしばらく出歩けないと知る。
「‥‥せっかく‥‥せっかく‥‥斉藤さんが見つけたのに、守れなかった‥‥」
悔やむベルとマイア達。
治療を終えた、傭兵達は言葉が出なかった。
「くそっ!」
壁に拳を打ち付けるしか。
敗北だった。