●リプレイ本文
●現地へむかうまで
荒野となった道路を走る。車1台にバイクが6台。整備されていたはずの路面は荒れており、スピードを出すチェイスには向いていないであろうと、すぐに予想はつく。
「2ブロック先がこの街の大通りになります。学校や病院などとつながっています」
リリィ・コバヤシが全員に教える。
「どの辺に、情報あるかねぃ‥‥?」
「病院、役所‥‥それと学校でしょうか?」
ゼンラー(
gb8572)が呟くと、風雪 時雨(
gb3678)が推測を立てる。
「‥‥何としてでも、情報を持って帰らないことには‥‥」
「そうだな」
ベル(
ga0924)と水円・一(
gb0495)は先の依頼で失敗した悔しさを噛みしめていた。今回は必ず‥‥と決意を新たにする。
「見張り(引きつけ)と突入班でわかれて探そう」
「出発前に立てた作戦で」
仮に敵がいたときに対応するため、鹿島 綾(
gb4549)がバイクを止めて、作戦の確認をする。屋内へ突入と、通常時は見張りだが、敵がいたときに連絡をする引きつけ班で別れている。
「そうだ、リリィさん」
「なんでしょうか?」
御守 剣清(
gb6210)は移動しているときに、
「探している兄さんのことを覚えていますか?」
「うろ覚えなのですが、優しい兄でした」
世間話で、リリィは死んだ思われた兄を捜している事を聞いたから訊ねた。容姿についてはうろ覚えらしいが、声を聞けば分かることや本名は聞けた。
「見つかるといいですね」
「‥‥はい」
まずは病院、役所と回るのが、全壊しており、入るのは危険すぎると判断。リリィの案内で学校に向かう。
学校は、一階建てではあるが、棟が沢山つながっているアメリカによくある学校の構造であり、様々なスポーツ用グラウンドと併せて広い。そこを2m程のフェンスで囲まれている。全容を見るには空から見ないと分からないだろう。しかし、所々フェンスは無く、廃墟らしく雑草が生い茂り、荒れ果てていた。
「なんだ?」
そのために、『何か不審なものが来た』という事はよく分かる。
ジャン・ブランディ(
gb5445)が、人の気配を感じて急停車する。
「‥‥誰かいますね‥‥」
「‥‥アキラか?」
ベルと鹿島が辺りを見る。
「自分が調べてきます」
風雪がパイドロスを装着し、辺りを見てくる。反対方向からベルが潜伏して辺りを調べる。
グラウンドに一台の車型ワームとジープ系の車両があり、ある1棟の方に人間が集まっていた。
「‥‥先にデスペアが来ています‥‥車」
「それは厄介だな」
戻ってきたベルと風雪が水円達に報せに戻ると、水円は難しい顔をしていた。
「黒い車って?」
「車型ワームで、並の攻撃では通用しない危険なものでした」
あれに追い詰められた経験のあるベル、水円、風雪の3人は警戒する。
「窓を壊すなど出来ないのですか」
エイミ・シーン(
gb9420)が訊ねると、3人は頷く。
「なら、引きつけて突入班があの見張りがいる場所に突入は厳しいか」
ジャンが考える。
「敵が周りを囲んでいても、別の棟までは見えてないみたいです。ですから、突入班は迂回する形で入るのがいいでしょう。もし、見つかったときに引きつけ班が動けばいいのかも知れません」
リリィの提案は学校の大きさを有利に活用するものとも取れた。
まず別の所から、潜り込む突入班。フェンス越しだが引きつける為に待機する見張り班とわかれ、行動を開始する。
リリィの希望と地元であると言う理由から彼女は突入班に参加している(エイミはゼンラーと別の班か人数の少ない班を希望していたが、引きつけ班が少なかった為、そちらに加わった)。
「この事務棟を抜けると職員棟‥‥。奥に教室棟と部活関係の棟があります」
「じゃあ、職員棟だな」
鹿島が続く。その後ろにベルや風雪、水円と続く。
職員棟に近づくにつれ、職員棟から物音がする事に気付き警戒をする。
「誰かいる」
銃など武器を構え、警戒しながら職員棟の廊下をのぞき込む‥‥。すると、4人はよく分かる人物が何かを持って出てくるところを知った。
「アキラ‥‥っ!」
全員、すぐに飛びだそうか思ったが、リリィの様子がおかしい。
「あれが、アキラ‥‥」
何か怯えているのか懐かしいのか複雑な心境が混ざった声だった。
当の本人はまだ気付いていないのが幸いだが、
「其処までだ、アキラ!」
「!?」
先に動いたのは鹿島だった。
「‥‥『コフィン』以来ですね、鹿島さん」
「名前を覚えて貰って光栄だな」
天槍『ガブリエル』を構えながら、鹿島は距離をとっている。後ろにはベルがフォルトゥナ・マヨールーを構えて援護するつもりでいた。
幅は2mあるかないかの廊下だが、能力者ならすぐに詰められる距離。
「こんなところで会えるとは奇遇ですね。授業でも受けに来たのですか? 生憎、ここは廃校になっていますが」
「お前の過去を知りたくてね」
「‥‥」
鹿島の言葉にアキラ・H・デスペア(gz0270)は眉をひそめる。不意に視線を持っている何か〜名簿〜に移していた。
「お前ほどの男が何故過去に拘る?」
「私の過去は無くならなければならない。只それだけです」
「過去を消したい理由は、大概は二通りだ。過去を恐れているか、あるいは‥‥未練があるか。お前はそのどちらかだ」
「そのどちらでも‥‥ない!」
先に動いたのはアキラだった。バックステップで職員室に入る。窓から逃げるつもりである。そのときに手を狙ってソニックブームを放った鹿島だが、躱される。
(「やはり何かあるか‥‥! どちらも否定するとなると両方か?!」)
鹿島が追いかける。
職員室に入ろうとするや否や銃弾が彼女の額を掠った。そのおとで、外の方も慌ただしい。水円がトランシーバーで引きつけてくれと外に連絡すると一気に外は銃撃戦になった。
「‥‥まて!」
ベルが銃を構える。窓から出ようとするアキラを制止させようとした。
そこから、後ろにリリィがアキラを直視する。
「「?!」」
2人は硬直した。
「‥‥リリィ?」
「ヒデキ‥‥兄さん?」
「え?」
「まさか‥‥」
ベルや風雪は驚き、水円も予想はしていたが驚きを隠せない。
「死んだはずでは!? 兄さん!」
「‥‥確かに私は死んだ‥‥組織に入ると言う事はそういうことだからだ‥‥二度と会うことはない!」
リリィの言葉にアキラはそう言って、逃げようとする。
「‥‥怪我させてしまうけど、すまない!」
鹿島のソニックブームがアキラの手に当たる! 持っていた名簿を放してしまった。
「くっ!」
手を押さえてそのまま窓から落ちる。1階なので大怪我するようなものではなくそのまま転がって、車型ワームを呼ぶつもりだ。
「‥‥!? 下がって! 部屋から出てください!」
アキラと何度も割合ったベルは気付く。車型ワームはそのまま直進して職員室自体を大破させたのだ。
机や椅子が飛び散り、暴走した車のように車型ワームは暴れ、または装備されている銃器のようなものを乱射した。その銃撃を水円がリセルシールドで防ぎ、ボディガードを発動して、一番前に出ていた鹿島の分を受け止める。
先ほどの突進の衝撃で動けない、もしくは退避して収まるのを待つ5人はアキラがそれで逃げていくのを見た。
「兄さん! どうして!」
リリィは叫ぶがワームに乗ったアキラは答えない。
「‥‥まさか、能力者に‥‥それより、何故‥‥何故‥‥。生きていたのかっ!?」
彼は車の中で呟き、操縦桿を振り絞って、肉親から逃げるように車型ワームを飛ばして逃げた。
外ではまだ銃撃戦が行われている。
エイミはシャドウオーブを跳ばして、見張りを仕留めていく。銃をもっている御守も銃に持ち替え撃つ。ジャンはバイクの一撃離脱を繰り返し、ゼンラーも距離を保ちながら電磁波を放って、それぞれ牽制している。
いきなり停車していた黒い車‥‥車型ワームが動き出し、職員棟の壁を壊しては暴れていることに気が付く。しかし、見張りの方はそれを気にせず撃ち続けている。
「行動が単純だな」
「洗脳されているのかも?」
「なら、解放してやらないとな」
ジャンと御守、エイミは距離を縮めて、見張りの人間に近づく。
「我に返れ!」
剣の峰で横腹や肩を強打させ、無力化していく。
「とうりゃあ!」
『バアルのようなもの』エイミが掌底で、見張りの人間を吹き飛ばす。何とか怪我を負いながらも、3人は全員を無力化した。
車型ワームが猛スピードで逃げるのを見たが、「無理に追うな」と連絡が入ったために、追うことはしなかった。
●本名
鹿島は名簿を拾う。
「これか‥‥」
幸いにもあれだけワームが暴れても傷が無かった。跳ばされた場所が良かったのだろう。パラパラめくると、確かに幼い顔のアキラ本人の名簿があった。
『ヒデキ・コバヤシ』
と、しっかり書かれている。
「私の名簿もあります」
リリィの方の名簿は若干破けているようだが、水円と探して見つけたようだ。他には卒業アルバムのようなものなどがあるが、時間が経ってしまっているため、色あせている。
「まさか‥‥な」
アキラが来ることは予見していたが、まさか、ここにいるリリィの兄と言う事は、予想していると言え、事実には驚きを隠せなかった。
「兄さん‥‥どうして‥‥」
リリィは帰りもずっと呟いていた。
●一歩進むが。
傭兵一行は、情報を無事に届け、しばらく治療をする。バイクが好きなエイミはご苦労様とバイクにねぎらいの言葉をかけていた。
喫煙室でジョンとウィルソン・斉藤(gz0075)が煙草を吸っていた。
「情報が手に入るのは嬉しいが‥‥やりきれないな」
斉藤は呟く。
「立ち直ればいいけど、大丈夫かねぇ」
ジョンも紫煙を漂わせて言った。
アキラの素性は分かったが、ここからが問題となる。彼が言った組織やバグアに着いた経歴が謎のままなのだ。今回学校で手に入ったデータは‥‥意味があるのだろうか?
リリィに訊ねてもおそらく、詳しいことは分からないだろう。
謎だけがまだ残る。