●リプレイ本文
5名がミッションルームにあった椅子に座っていたが、少し会釈するだけで本格的な自己紹介にはいってなかった。会釈ぐらいはするのだが、まだ集まっていないので、自己紹介は集まってからがいいだろうという共通認識があったからだろう。元から友人である関係で話をするか、小型の武器のチェックもしくは本を読んでいるかしていた。
「私、八葉 白珠っていいますっ! あの‥‥足をひっぱらないようにがんばりますので、どうかよろしくお願いします!」
狐のお面を頭にかぶっている着物の少女、八葉 白珠(
gc0899)が、元気よく集まった傭兵達に挨拶する。その後ろにはモノクルを付けた長髪の着物青年・八葉 白夜(
gc3296)とオーダーメイドの迷彩服を着たシン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)が立っていた。
「初めまして、ボクは鳳 螺旋だよ、よろしく」
鳳 螺旋(
gb3267)が彼女とその後ろに自己紹介する。
「みんな、待たしてしまったかな? 僕はシンだ」
シンは5人が座っているのを見て言うと、ショートカットの女性が声をかける。
「いいえ、大丈夫よ。私は天空橋ね今回はよろしくね。これで8人かしら?」
天空橋 雅(
gc0864)が周りを確認すると8人いる。
「うん、揃ってるわね」
その直後、依頼のデータを持ってきたUPC職員がやってくる。
職員から事の詳細を聴き、資料を見てから、しばらく作戦会議した結果2班に別れて索敵およびキメラの殲滅をするという事となった。
「図鑑で調べたけど、この姿形はベニテングダケだな。食欲の秋なのに、相手が食えない毒キノコ。流石食べれなさそうだ」
ネオ・グランデ(
gc2626)が、集合時に肩をすくめてキメラデータを見ていた一言に皆が苦笑する。
「食べるつもりだったのですか?」
有村隼人(
gc1736)がネオに訊ねると、「食べられると報告があったら多分そうしてるかもな」とにこりと答えた。
「里山を暴れるキメラはすぐにでも倒すべきですね‥‥」
おとなしいイェーガーのベル(
ga0924)が口を開くと、皆は頷く。
「‥‥では、しっかり準備して退治に行きましょう」
それぞれが希望している装備で支給できそうな物や地図を用意し、一路現場に向かうのであった。
山道は途中までは舗装されて歩きやすいものであった。
もしこれが『仕事』ではなく、休暇などで来ていれば気持ちの良い紅葉狩りが楽しめるだろうと、誰もが思っていた。しかし、ここにはバグアが投下していったキメラが暴れている。しばらくすればしっかり舗装された山道ではなくなり、道から外れると、普通の人では少し険しい坂になっている。所々小径が見える。今歩いている場所にはまだキメラが入った形跡はないのだが、全員は急いで退治しないとここまで進んでくるだろうと確信していた。
「紅葉が綺麗なのにな」
「全くバグアは許せません」
当然そう言う会話もされる。
「では、ここから2班に分かれていきましょう」
「OK」
地図と方位磁石でルートの確認とエリアを担当し、索敵を開始した。
シンがいる班では、中央に白珠がおり、左右に鳳、白夜、先頭にシンという陣形だ。
全員警戒して歩いているなか、白珠が少し怯えているようだ。
「大丈夫?」
隣にいたシンが訊ねると、
「怖くないです、だって白夜兄さまとシンさんがついてますから!」
と、彼女は笑顔で答えた。その途端に、足をもつれさせて転びそうになる。それをすぐに白夜が支えた。
「あ、あう」
「なだらかでも気を付けて、しっかり私の手を握っていなさい」
「はいです」
白夜と鳳はそれを微笑ましげに見て進んだ。
一方、ベル達がいる班も天空橋を中央にして、3人が彼女を囲む様に進んでいる。
「今いる位置にはいないみたいですね」
「‥‥では、もう少し奥に進みましょう」
なだらかな坂を登っていく。すると、途中で開けた場所があった。よく見ると木々が倒されており、何かが通過した後と一目で分かる。
「‥‥ここにいたんだ‥‥あっちに進んでる‥‥」
ベルが地面にある引きずった後のような物を見て言った。
「ここから警戒していこう‥‥こちら有村、キメラの移動後発見‥‥」
トランシーバーで鳳の班に連絡を入れる。若干ノイズが混じったが、鳳は『了解』と返答する。まだキメラと遭遇はしていないらしい。
「この方向だと、キメラはこのままこっちだから、鳳さんの所には向かってないようね」
天空橋が地図を見て推測する。
移動跡を見つけた班のほうは、ネオが斥候を務めその後ろに有村が構える。そしてライフルの射程圏内だがかなりの距離を置いて、アンチマテリアルライフルを設置し待機している。天空橋は、そこから少し離れた場所で待機だ。
踏みつぶされたような引きずった跡のような道をネオが進む。
「これは酷いな」
「早く倒して復興作業を手伝いたいですね」
「そうだな。有村さん」
二人は辺りの惨状を見ながら敵がいないか探す。途中少し下っていく勾配にさしかかる、徐々に目がかゆくなりくしゃみをしたくなってきた。
「‥‥! 敵がいるぞ!」
目のかゆみを我慢しながら先を見る。坂の下に5匹はいるようだ。無線で知らせようとスイッチを付けてもノイズが酷かった。これでは待機しているベル達には連絡がつかない。
キノコ達はと言うと、ぶるぶる震えては巨体のくせにぴょんぴょん跳ね回り木々をなぎ倒す。また周りには赤い胞子を吐き出してはボフッと爆発させる。行動自体は完全に気まぐれで、無差別だ。ネオと有村の気配など気にもしていない‥‥いや『気付いてない』とも取れるのだ。
「おびき出しますか?」
「1体ずつ釣っていこう」
残念なことに、ベルが待機している所まで直線ではない。登らせて一体ずつ仕留めていくしかなさそうだった。相手が気付いていない間に、状況を説明しに戻る。
そして、
「なるほど、かなりの範囲に胞子が‥‥」
「くしゃみ我慢すると、不快で仕方ないが、幸い相手は気が付いてない」
「‥‥なら、不意を打って叩く方がいいですね」
坂の上からの攻撃という作戦にして5匹のキメラを倒す事に決まった。
一方、鳳の班は緩やかな勾配の上で6匹の巨大キノコを見る。距離にして20m。もうそこから目のかゆみが酷い。くしゃみもしたくなるほど不快だ。
「それほど近くに寄ってないだけでこれですか」
おそらく接敵すると動くにも支障をきたすだろうと、白夜は思った。
「こうなると困った物よね」
そこで、白珠は我慢したかったのだが‥‥顔を『可愛く』ゆがめて‥‥
「くちゅん!」
くしゃみをする。
「?!」
巨大キノコも周りも彼女を見る。
「大丈夫?」
「ふにぇ‥‥我慢できないです〜」
「くしゃみは仕方ないわ‥‥いまは『アレ』を片付ける方が先だね」
鳳は2mのライフルについている大鎌の刃を展開して攻撃に備えた。
「風よたすけて!」
白珠が天狗ノ団扇を思いっきり仰ぐ。その風で胞子は飛び去った。その跡嘘のように花粉症に似た症状は取り除かれる。
「これはたすかります」
シンはエネルギーガンを構えて目の前の巨大キノコを撃つ。エネルギーの弾丸がそのキノコを焼き殺す。その香りが何となく松茸を連想してしまうのだが、これは食べられそうにない。
「では、殲滅に入りましょう。シン殿援護を頼みます。鳳殿、」
「そうだね。今の機会を逃しては」
次にフェンサーである白夜が別のキノコに「扇嵐」の竜巻でダメージを与える。反撃でくる跳ね回るキノコを何とか躱す。そして一気に距離を取ると、次に大鎌を振り回している鳳の一撃が、周りの木々毎白夜がダメージを与えた1体を両断する。
必死に扇をふっている白珠のお陰で不快感はない。胞子を取り除く事を重要にしているためにその風がキメラ立ちに決定的ダメージを与えているわけではないが、『快適』な戦況にしていることは確かだった。
「ふーふー!」
「しらたま君、がんばってくださいね」
「はい!」
そして、有利な地形状況で何とかくしゃみやら目のかゆみに耐え、陣を取る。
「いきます」
有村がシャドウオーブで一体を撃つ。衝撃破がキノコの傘に辺りまた胞子が巻き起こった。相手も気が付いて赤い胞子を飛ばし、周りでボムボム爆発させ飛び跳ねながら有村に向かっていく。キメラが坂を登り切ったところで、ベルのアンチマテリアルライフルで傘に大きな穴を開けられる。
更に、
「この爪を喰らえ!」
ネオの突き飛ばしで巨大キノコは坂道を転がり落ちてしまった。坂道を登っていたキノコ達はそ転がり落ちるキノコに巻き込まれ、一緒に転げ落ちていく。しばらくすると下で大爆発と時揺れがするのだが、流石キメラと言うところで、自分の爆発や将棋倒し程度では自滅しないらしい。天空橋と有村が坂から山となっているキノコ達を攻撃したあと、助走を付け飛び込むネオ。
「真上ならどうだ‥‥疾風雷花・撫子」
一番先に起き上がった巨大キノコに向かって、シュバルツクローによる一撃。傘の中央から爪でえぐられるキノコ。そのキノコはそのまま固まり倒れる。その跡飛び跳ねてネオを襲ってくるキノコだが、それほど素早くないため、ネオはバク転して躱す。その直後上からの銃撃と超機械の電磁波の波状攻撃が待っていた。横と上からの攻撃で簡単に片がついたようだ。
「というか、これ何のニオイだ?」
日本人じゃないネオにとって香ばしい松茸の香りはインパクトが強いらしい。
「ベニテングダケじゃなく香りは松茸ですね‥‥」
上まで届いた香りに有村と天空橋は言う。
「‥‥バグアの考えていることは分からないですね‥‥」
ベルは肩をすくめてから、アンチマテリアルライフルを持ち上げた。
「まったくです‥‥くしゅん‥‥やっぱり‥‥胞子が‥‥」
「は、離れましょう!」
しばらくしてから鳳の班の方も、くしゃみをしながら、白珠の風のお陰で殲滅させることが出来たと通達が入った。
キノコの残骸はUPC調査班などが片付けるなか、しばし休憩と状況説明を村人と調査班に伝える。
「数は11体。そのあと里山の奥まで調べましたが、巨大キノコは発見されませんでした」
「おお、ありがとうございます。これで里山に安心して入れます」
村人からの感謝の言葉。
それは、いつも聞いていて心地よい物だった。
しかし、それだけでは傭兵達は終わらない。
何名かは荒れた山を綺麗にするために武器をひとまず集会場に起き、合金軍手をはめて再度登っていったのだ。
天空橋が村長や村の議員に、
「あなたたちが愛した山の整備、協力させていただきたいのです」
と、申し入れたからである。
「退治して貰ってからその後片付けまで‥‥そこまでは‥‥」
と、遠慮してしまう村長達だが、
「かなり荒れてしまっていますからね‥」
「少しでも早く元通りの山になってもらわないとな」
「山は古来より人々の宝でした。それを清める手伝いをさせて頂けるなど、良い機会ですね」
「わ、私も出来ることをしたいです!」
他の傭兵達も手伝うと言うのだった。
「ありがとうございます」
村は大変感謝した。
倒れた木の運搬や、壊れた橋の補強等をすると、数日もその村にいたことになる。
その間に傭兵8人は村人と交流した。
一時の村人として迎えられた一瞬であった。
こうして山のキメラ退治は終わる。