タイトル:恐怖のビーチ――ラッコマスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/20 21:11

●オープニング本文


 北米西部。ここは自然溢れる場所でもある。海流に乗り、更に北に棲む生物が訪れることもあるし、そのまま定着した動物もいる。もしくは、気候ごとに場所を移動する、渡り鳥もいる。自然とは循環して成り立つ物だ。徐々に今までの被害に危惧し、環境問題を考えている人間も出始めていた。20世紀末から。緩やかに、苦難はあるとしても、前に進んでいたのだが。
 しかし、バグアはそれをお構いなしに壊してくる。キメラという異形によって‥‥。
 サメやシャチ、鯨といった巨大生物から、ネズミに至る小さな物でも変えてくる。それは許し難い行為である。

 もしもだ。さらに、キメラ化する物が、皆の心を和ませる可愛い動物だったら?
 南極圏などにはペンギン。内陸部には様々に可愛い動物が存在する。イルカだってそうだ。北米海岸部・太平洋側で可愛いというものとは。
 ラッコ。
 そう、あの愛くるしい姿で海に浮かび、貝や烏賊を食べるのだ。野生動物として当然の行動として、人間をおそれて逃げる。しかし、懐いたらとても可愛い。そんな自然な動物がもし‥‥、姿形はあまり変わらず、凶悪化したら!
 考えるだけでも恐ろしい。つぶらな瞳で、石を持って人を殴りつける、噛み付く、船を壊して海に引きずり込む‥‥。
 これほどの恐怖はないだろう。

 ラッコキメラ退治に赴いて、重傷を負って帰ってきた能力者は‥‥こう言って、病院で怯えている。
「あんな可愛い姿で‥‥懐いた動物のような行動で、噛まれるのは嫌だ!」
「ああ、萌え死んだ‥‥。もう悔いはない‥‥っ!」
 何か明後日な感想をこぼしている能力者がいるが‥‥。可愛すぎて、手が出せない人も居るのは確かだった。

「と、言うわけで、まだこの依頼は完遂されてないのよ」
 リネーア・ベリィルンドはため息を吐く。
「で、これが今わかっている画像ね」
 彼女は、写真を見せてくれた。
 普通のラッコの写真と、キメラの写真。
 普通のラッコより‥‥若干大きめなだけ。爪が鋭いとか、そう言う細かいところもわかる。何かしら隠し技を持っているとかそう言う報告はないが、危険は禁物だが‥‥。ただ、それ以外に突っ込み所がなく、ラッコそのものなのだ。顔の正面写真は、日本のネット関係ではよく見かける、半角文字で「こっちみんな」か「萌え死ぬ」と書かれてしまいそうな間抜けでかつ愛らしい顔だった。

 このままでは、能力者は萌え死ぬのと同時に、環境が狂ってしまうし、海岸の平和が保たれない。もし、いい気になったバグアが、ラッコを増やし始めると危険である。普通のシャチやらサメを、嬉々として食らい付くラッコなんて見たくもない。まさしく食物連鎖の崩壊だ。
 更に問題は、海なのである。寒い中でラッコと水上戦‥‥。これもまた厄介な事になるだろう。船は用意されるが‥‥武装はないホエールウォッチングの小型〜中型ボートだ。

 さて、あなたは可愛さに抵抗できるか?

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
メディウス・ボレアリス(ga0564
28歳・♀・ER
フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
蒼羅 玲(ga1092
18歳・♀・FT
アリス(ga1649
18歳・♀・GP
内藤新(ga3460
20歳・♂・ST
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
アケイディア・12(ga5474
13歳・♀・ST

●リプレイ本文

●シンプルな答えだ。
 ラッコが居ると言われている海岸。
 寂れた港町に8人が居た。
「相手がラッコ‥‥さん。ですか。なかなか厄介な相手になりそうです」
 大曽根櫻(ga0005)が苦笑する。
「ラッコは可愛いです。しかし、キメラと分かれば私は容赦しません!」
 蒼羅 玲(ga1092)がしっかり袴姿で大曽根とともに女剣士風に立っていた。サムライインアメリカとか映画が出来そうだ。彼女の足下には、網があった。釣りに使うときの網より若干大きめの。
「とはいうものの、彼らはれっきとした狩猟動物だ。可愛いことは可愛いだろう。しかし、学生の頃に見たあのどう猛さは忘れることは出来ない」
 メディウス・ボレアリス(ga0564)が煙草をくわえて海を見ていた。
 潮風が冷たい。
「うう、サンタ服に防寒作用ないのですね。うう」
 櫻はぶるる、と身を震わせた。なので今は袴姿のままだ。
「酒がのめればいいのだが。確か未成年だったな」
「え、ええ」
 ションボリしている櫻。
「いうかぁ、バグアって手当たり次第、キメラ化しているんだねぇ。何考えてんのかわからないな」
 フェブ・ル・アール(ga0655)が武器を弄っていた。
「そーです! そーです! でもでも、脂肪があるって言うラッコ! これは絶対解剖したいです!」
 と、男物のコートを着て袖から手が出ていないアケイディア・12(ga5474)が研究心を燃え上がらせている。
「どーして、女物がないのですかあのショップ!」
「ピーコートなかったか?」
 メディウスがさらりと言う。
「はう!」
 女性用のコートがあることに気が付かなかったようだ。
「どれだけ可愛いのかが問題だよ」
 かまくら王子こと内藤新(ga3460)が言った。彼が今回ボートを運転することになっていので、ボートの調整をしているところだ。彼は、アケイディアの格好に萌えていそうな感じはするが、それはさておき。
「付かず離れずで、戦っていくだよ」
 真面目に自分の仕事をすると心を決めていた。海の男になるのだから。ああ、これが男のロマン。
「そんなこと我には関係ないな。其処まで人間できていない」
「そですよ! 解剖したいです!」
 女科学者2名は平然としていた。

 今回の作戦は相手を個別撃破していくことらしい。内藤が8の字で船を動かし、攪乱させ、近づいたやつを網で甲板に引き上げて叩く等々。
 そして、静かに怒気を抑えているのは、鈴葉・シロウ(ga4772)である。
「ラッコキメラ諸君、君たちは私を怒らせた。一番可愛いのは、シロクマですよ」と。
 無表情の少女、アリス(ga1649)も寒い潮風に、目を細めている。
 そして、各自準備して、船に乗り込む。
「一寸小さいな。しかたないか」
 壊れなきゃ良いなと不安があった。
 それでも、船は進んでいった。


●強敵
 双眼鏡であたりを見る。生命の気配はそこかしこにあるし、かなり遠くに鯨が汐を吹いているのも見ることが出来た。もし、これが観光なら「おお!」と感動するのだろうが、いまはそれどころではない。
「む。一時側にいる」
 内藤が見つけた。
 見た目は本当にラッコで、双眼鏡では区別は付かない。しかし、この地域のラッコは居なくなったと聞いている。確実にラッコキメラだろう。
 ボートのスピードを緩めて警戒する。大曽根以外は覚醒する。
 しかし、いきなりラッコは姿を消した。海中に潜ったのだ!
「何!」
 向こうは既に気が付いていた!?
「何という野生の勘だ!」
「潜ったから、下に気を付けてですよ!」
 アリスが銃を構え、大曽根もまず蛍火を構える。蒼羅はショットガン20をもちメディウスはエネルギーガンを構え警戒する。
 船底から不気味な金属音。
「やばい! かこまれただよ!」
 内藤が焦る。
 石で金属を叩く音がする。そして非常に揺れる。
「うう、萌える前に酔いそうだ」
 全員がそう言う。
 下を確認するため、鈴葉が身を乗り出す。息継ぎのためにか顔をだした、ラッコと目があった。
「更に私を怒らせた!」
 シロクマの彼は、そのラッコをヴィアで突こうとするも、逃げられる。何とか当てることは出来たが致命傷ではない。
「素早いな!」
「なら、私が!」
 フェブが、別のラッコに武器を向け‥‥、幸福な顔になる。
 目と目が合って‥‥その愛らしさは、殺人モノであった。
「きゃー! きゃー! かわいいい! かわいいにゃー!」
 もう、叫んで攻撃できるチャンスを逃していた。
「何、萌えて悶えているのです! ここは私が!」
 蒼羅がショットガンで、近くに現れたラッコを粉砕する。
「ショットガンつええだよ」
 内藤が驚く。
 大曽根が、蛍火で突こうとするが、まだ覚醒していなかったため、大事な一撃を赤い壁に遮られた。
「なら!」
 すぐに覚醒し、突き直し、ダメージを与える。海水を浴びて、寒気が走る。
 メディウスも我もと、自分目の前に顔を出してきたつぶらな瞳に、エネルギーガンを構えるが‥‥。ラッコの顔を見たとたん、全身に電撃が走った。そして、彼女は膝をつく。
「そ、そんな、こんなに可愛いなんて、反則だろ! なぜ我が! くそおお!」
 エネルギーガンを持つ手が震えて、打てなかった。
「一度離脱するだよっ!」
 内藤は、目の前のラッコを無視してスピードを上げる。鈍い音はしたが気にしていられない。アケイディアは超機械γで、攻撃しようとするが‥‥、
「かわいい、かわいいの! だめー! 攻撃できないですよう!」
 なんと、「可愛いキメラなんて関係ない」と豪語していた、2人が、攻撃できない!
「‥‥威嚇でなんとかするしかないね」
 アリスがハンドガンで距離を取るために打つが、ラッコは上手く海に潜ってかわす。
「っつ」
 ある程度距離を取ったとおもいきや、またすぐに追いつくラッコーズ。
 内藤はプロ顔負けの操縦で、ラッコの船破壊行動をかわして動く。
 2匹が自ら上がってきて、アリスに襲いかかる!
「くっ!」
 爪が彼女をとらえた。
 しかし、彼女がロエテシアで反撃してダメージを与える。そこにすぐに気を取り直した、フェブが蛍火で斬りつけ、一匹を倒した。しかし、その反動でラッコの死体が落ちる。
「あ、落ちた」
 蒼羅は蛍火に持ち替えて、もう一匹に攻撃し、ある程度怪我を負わせる。
 アケイディアは、またラッコの顔を見て、悶えて動けないが、冷や汗をメディウスは理性で押さえ込み、エネルギーガンを撃つ!
「こ、こんどこそおお!」
 クリーンヒットし、ラッコを仕留めた。
「なんとか、一匹‥‥」
 しかし、自分に不覚を取ったことでショックは隠しきれない。
「はぁ!」
 大曽根も、別のラッコにダメージを与える。
 そして、内藤がまた距離を取って船を、ラッコキメラの群から離れる。アリスがハンドガンの射撃で、上手く距離が取れてきた。そこで、1匹はアリスが仕留める。
「では、ここから‥‥です」
 追いかけてきたラッコに、急所突きでとどめを刺す大曽根。
 さらに、鈴葉がまだラッコキメラに魅了されているアケイディアをみて‥‥、
「‥‥ちょっと失礼‥‥」
 クマの顔のまんまの鈴葉が、アケイディアの肩をつかみ、顔を近づけ‥‥、キスをしようとしていた!
「何をしようとしているですか!」
「馬鹿なことをするなぁ!」
 ラッコに嫉妬していたシロクマ男は、女性陣に思い切りなぐられ‥‥、海に落ちた。
 それの直後にアケイディアが我に返り、ラッコに向かって超機械γを掲げる!
「は! これでどうでーす!」
 やっと、冷静さを取り戻したアケイディアが超機械γでとどめを刺した。
「で、クマさんはなぜ海?」
 状況を把握していない、彼女であった。
「海が好きなんだよ」
 フェブが答えた。
 

●解剖したいけど
 アケイディアの要望で船を止める内藤。剥製を作りたいためにラッコを回収するのだが。
 しかし、蒼羅のショットガンの威力は驚異的だった。ラッコは肉片となっている。血のにおいを嗅ぎ付けたサメなどが来そうなので、あまり長居は出来ないだろう。
「しかし、かわいかったなぁ」
 と、まだラッコキメラに魅了されているフェブ。思い出して萌えているようだ。
 で、まだ浮かんでいるクマ。誰も助けない。
「破廉恥この上ないです!」
 大曽根は怒る。
「サメの餌になるがよい‥‥」
 殺気も含む、メディの声。
「まって! ちゃんと失礼と断っていますけど!」
「それでもだめです!」
「だめだ」
 女性陣の怖い声。
 シロクマは恐怖した。
「えー、助けなくても良いのかな? えっと‥‥いいのね?」
 と、一応聞いておきたい内藤だが、女性陣の目が怖い。
「では、もどるだよ〜」
 と、彼を放置して去っていく。
「ま、まってください! まってー! ご、ごめんなさいー!」
 彼が救い出されたのは、10分ぐらい後である。しかし、ひも付き浮き輪を渡されただけでボートに引きずられる様な形で。
「ちょっと、頭ひやしましょうね?」
 と、蒼羅が笑顔でしかし、怒気を込めた声で彼に言った。

 ラッコの剥製を作りたかったのだが、流石にいろいろな攻撃で痛めつけたため、ほとんど形状を止めていない。諦めるしかなかった。
「うーん、ざんねんですー」
 ホットココアをのむアケイディア。
 風邪気味の大曽根は毛布にくるまって暖を取っている。
「へーちょ!」
 大曽根のくしゃみ。
「大丈夫ですか?」
 蒼羅が暖かいお茶を大曽根に渡す。
 メディはウォッカを飲む。何かやりきれない思いを飲み込むかのように。今の彼女に関わると偉い目に遭いそうなので、あえて何も話しかけないでいた。
 クマのほうは、別の所で寝込んでいた。極寒の海はきつい。
「いやー、全員海に戦闘中に落ちないで良かっただよ」
 内藤は安堵した。約一名は数に数えない。
「あ、内藤のおかげだ。感謝する」
 アリスは、彼にそう言う。
「ああ、これがおらの任務だからだよ」
 と、にこりと笑う王子。
 アリスは、このやり取りだけで、少し、少しだが笑えた気がした。
 夕日を背景にして‥‥、高速艇がこっちに来る。
 それを眺める8人だった。

 フェブとアケイディアは、今日の戦いを熱く語っていた
「しかし、本当に恐ろしかった、ラッコキメラ‥‥あなどれにゃいよ」
「ですよー!」
「また、第二第三の萌えキメラが現れないとは限らないのだー!」
「そのために、ひび、たたかうですよー」
「えいえいおー!」
 戦いが終わっても、ハイテンションの2人あった。