●リプレイ本文
●ドクターの葛藤
ヲタク街である大阪日本橋。そこの駐車場には4つの人形キメラとコピー機の横にありそうなコイン投入機が立っていた。それを見て、ドクター・ウェスト(
ga0241)は魂が抜けるほどの葛藤と悶絶を繰り返している。
「キメラなんだけどキメラなんだけど、むっは〜!」
十字架を外して心のリミットさえ外しているのに『萌え』という衝動は別口だったらしい。頭を抱えなぐねぐねしているのであった。その隣で、フード付マントををかぶって黙っている人物もいる。
「大丈夫か、ドクター?」
「大丈夫じゃない! キメラだが見ろ! あの精巧な作り! アレは芸術と行っても良いね〜! それがキメラだからこうして悩んでいるのだよ〜!」
三枝 雄二(
ga9107)が松葉杖をつきながらぐねぐねしているドクターに話しかけるとドクターはそう答えてまだ悩んでいた。
「肉体言語2」で追加されている男執事の【アレックス】のコスプレをした辰巳 空(
ga4698)が、
「ご主人、悩まれてもしかた有りません。‥‥うーん、執事のなりきりは難しい。とにかく倒さないと邪魔でしかた有りませんね」
と言う。
「そうだよ! ぅおのれバグアめっ! 肉体言語まで毒牙にかけるとは!?」
すると、隣にいた葵 コハル(
ga3897)が怒りを露わにしていた。
「許せません‥‥成敗します」
彼女は金髪のカツラをかぶって、レオタードに身を包んでいる。彼女は【シャルロッテ】のコスプレをするようだ。そしてなりきっている。
「僕もこういう事は許せません。早速倒しましょう」
沖田 護(
gc0208)も怒りを露わにしては人形とコイン投入機を睨んだ。
「経費でアーケードゲームが出来ると聞いてきたのに、傷が悪化するとは‥‥くそう、バグアめ!」
三枝は、先の戦いで重傷を負ったため、今回の戦いは無理と判断し、コイン投入機の見張りをすることになった。覚醒してもあっという間に練力が切れるし、今の運動能力ではコイン投入機の逃げ足には追いつけないだろう。
話合った結果、「観客に見せる戦い」をする事で一応決まっており、コイン投入機が逃げないよう見張る三枝以外がキメラと戦うとなっている。そのためか、わいわいと一般人やら通りすがりのヲタク能力者が見物している、一寸したお祭り騒ぎになっていた。
●マニアの矜持!
「ああ〜、ひかりちゃん、かなたちゃん、リーゼロッテさん、シャルロッテ様〜」
ドクターはぐねぐねしながら500Cを入れた。
「えええ!? いきなり?! 大丈夫?」
葵達が驚く。
「大丈夫だ、問題ない。我輩が先に様子を見よう!」
と、キリッと答えるドクター。何か吹っ切れたように見える。
「バトルモードを選ぶが良い!」
女性の声の男っぽい口調が投入機から聞こえる。
「『多対一』用でいこう。もちろん我輩が『一』の方だ」
「わかった。さあ、『萌え』殺されるがいい!」
高笑いするコイン投入機。すると、なめらかに動く人形達、
「いっちょやってみますか!」
「魔法は偉大ですわよ?」
「こちらこそよろしくお願いいたしますね」
「‥‥敵を視認。排除します」
【かなた】達を見て萌える。リアルで萌える。それに気付くドクターは我に返り、
「おのれバグアめ〜! 卑怯な手を使うとは〜!!」
萌え萌えになった所に、【ひかり】が蹴りを入れてくる。
「ごふっ! 小癪な‥‥」
よろめくものの、【ひかり】の魔法攻撃をブロックしてはリーゼロッテの剣撃を機械剣の圧縮レーザーで受ける。しかし、メイドの箒攻撃までは防御することはできず、ドクターは吹っ飛ぶ。
「むっは〜、クオリティー高〜、ビューティフル〜!」
やられながらにも萌え萌えになっており、今にも文字通り(?)萌え殺されそうになっているドクターであった。
「助太刀した方が良さそうだ」
葵やフードの人物が動こうとしたときだ。
「まて!」
ドクターが叫ぶ。
「どうして?」
フードは止まって訊ねた。
「劇画技(超必殺技)を受けた上で勝つ、コレこそがマニアの矜持!」
「‥‥わかった! 漢を見せろ、ドクター!」
ドクターの漢ぶりにフードは其処で止まった。誰が止められよう物か。
「無名に隙無し!」
ドゴォ
4体の劇画技を全部喰らって遠くに吹っ飛ぶドクターを見て、全員涙するのであった。
「ドクター、お前もまた漢であった!」
「その勇気忘れないぞ!」
野次馬しているヲタク達も涙して「ムチャシヤガッテ」と涙する。
戦いが終わると四体の人形は定位置に戻り、動かなくなった。
「さあ、次は誰が萌え殺されるかね!」
投入機が勝ち誇った口調で次の対戦者を呼びかけたのであった。
●GODティン拳(称号から)
フードの人物がコインを投入する。
♪冷めたはーとじゃ〜問題ない大ジョブだ
♪待ち続けても〜問題ない大ジョブだ
奇妙な歌を歌いながら対戦相手を【かなた】を選ぶ。お嬢様タイプの魔法少女だ。流石に振りヒラドレスから魔法少女ドレスに変身する技工までは再現出来なかったため、魔法少女スタイルであるが。
「魔法は偉大ですわよ?」と高笑いしそうな態度を取る【かなた】を前にフードを取る人物は‥‥阿野次 のもじ(
ga5480)であった。彼女は指を鳴らしながら、
「GOD真拳の神髄を見よ」
と、自信たっぷりに構える。そして、投入機が「ファイト!」と叫ぶ。
【かなた】が魔砲弾を撃つ中、低姿勢でそれを躱してダッシュで詰めよる。しかし、相手もそれが分かっているのかバックステップなどで離れて逃げ、魔砲弾の連打。さらに詰め寄られるところで魔砲弾を地面にたたきつけるなどするので、のもじはなかなか近づけないし、何度か喰らってしまう。使い魔のフェレットは只のマスコットらしくて、攻撃はしてこないようだ。
「この、やってることはえげつないな!」
魔砲弾を何回か受けても、近接を試みる。
「魔技‥‥」
【かなた】大技の台詞と大振りの動作が来る。
「隙有り!」
瞬速縮地で詰め寄っては、
「GOD真拳奥義っ! ――冬なのに〜初春到来拳!」
渾身のスカートめくり! その瞬間野次馬の輪から、シャッター音が聞こえたのは訓練されているヲタクさん達の仕業だろう。
【かなた】はバックステップで距離を取る。その姿はスカートを押さえているように見える。表情は読み取れないが、恥ずかしがっている仕草には見えた。
「な、なんだと‥‥恥じらうのか‥‥手強い!」
「はっはっは! こんな事もあろうかと仕草などにも少し手を加えているのだ! どうだ萌えるだろ!」
のもじが驚愕するなか、投入機が高笑いをあげる。
「くそ、芸がこまか‥‥」
投入機の高笑いに突っ込みたくなったのもじは、相手の杖攻撃を腹に喰らう。
「‥‥ぐっ!」
そうこのキャラは「肉体言語」だから魔法もできて格闘戦も出来るわけだ。
ドクターは無茶をしただけであるが、一対一でのもじぐらいならば、【かなた】を倒しきることは可能であった。倒した【かなた】はボフッと爆発して塵になってしまった。
「何とか倒せた‥‥意外に手強かった‥‥」
「‥‥くっ! 他にもあるぞ」
投入機から聞こえるバグアに、
「やっぱり、モニターリングしてんだ」
のもじは残っている使い魔を投入機に投げつけるも、ひょろりを躱された。
●メイド
「このゲームはプレイしたことはないですが、モチーフなどに何かを感じますね」
沖田は『少女と魔法と肉体言語』シリーズは初めてという。
「けひゃひゃひゃ。君もはまるといいよ〜。おすすめのゲームだ!」
吹っ飛ばされても怪我を自力で治して帰ってきたドクターが勧めてきた。
「大丈夫?」
「不死身の男だったか!」
辰巳や葵、三枝と沖田は心配し、のもじが驚く。
「なに、回復はしているからだいじょうぶだね〜。しかししばらくは休憩させて貰うとするよ〜」
ドクターは笑いながら答える。
「つぎは誰がする?」
コイン投入機から声がする。急かしているような感じに聞こえて全員がムッとした。沖田が釘バットで振り落とそうともすんなり躱されてしまう。よく見るとマンガのような足が生えているのだ。これを作ったバグアの思考回路はカオスに満ちているだろう。
「では、次は僕から行きましょう」
沖田がコインを入れる。
「誰を選択するんだ?」
「【リーゼロッテ】を選びます」
すると、【リーゼロッテ】が動き出し、箒を持ちながら「こちらこそよろしくお願いいたしますね」とお辞儀をしてから箒を構えて攻撃態勢に入った。歓声も上がる。
「‥‥正々堂々、練力全開。最初で最後の本気の勝負! いきます!」
沖田が剣と盾を構え、にらみ合いになると思いきや、【リーゼロッテ】が先に箒に仕込んだ剣で抜いて、斬りつけてくる。それを盾で受け止める沖田。彼の反撃の一降りを【リーゼロッテ】はひらりと舞い上がって綺麗に着地し、片腕を突き出し火炎弾を撃ってくる。沖田は自身障壁により体を堅くし、耐える。
沖田は思う。
(こんな、従い方は‥‥間違ってる!)
「主の間違いを正すのも、あなたの役目のはずだ!」
沖田は【リーゼロッテ】に向かって叫ぶ。しかし、相手は人形キメラのためにその言葉に心を動かされない。
「むだむだ。単に作られた人形にそんな事言ってもムダ」
コイン投入機がケラケラ笑う。
それでも、沖田はコイン投入機の野次を無視し、キメラに問いかける。
「その手の魔法は何のための力だ!」
むなしい言葉のやり取り。もし、【リーゼロッテ】が人間と同じ感情や知性をもっているなら、答えたはずだろう。しかし【人形】であった。
沖田は相手の斬撃を弾き落とし、横一文字に斬る。のけぞった後、逆袈裟に斬るが、それは躱されてしまった。
「ご主人を守るのは私のつとめ! 喰らえ!」
劇画技の台詞が入る。そのとき【リーゼロッテ】は体を光らせる! 沖田はそのモーションに割り込んで縦で殴り『キャンセル』させた! そこで、ヨハネスのひと突き! それで勝負が終わり、【リーゼロッテ】は爆発して塵になった。
「‥‥次は‥‥お前だ‥‥諸悪の根源」
コイン投入機をにらみつける沖田であった。
●執事
【アレックス】のコスプレをしている辰巳はコインを入れる。
「【ひかり】でお願いする」
「わかった」
辰巳には目的がある。この偽物達を叩き潰したいことと、不人気だという【アレックス】をアピールしたいということだ。しかし、見せる戦いをしながらだから一寸難しい。
「コスプレ傭兵対【ひかり】か」
「【アレックス】使いっている?」
「俺。使い勝手は良い方だぜ」
「おい、そろそろ始まるぞ」
「OK」
観衆は「肉体言語2」について話し始めていたが、すぐに戦いが始まると、そっちに意識を戻す。
「ではよろしくお願いします」
辰巳は執事のようなお辞儀をする。その仕草は、なりきりにしてはまずまずだった。
「いっちょやってみますか!」
相手はすぐに突進してくる。
辰巳も一気に瞬速縮地でむかい拳と爪のクロスカウンターが決まった。
「ぐっ!」
「あいた!」
(「リアクションもゲームそのまま? やりにくい!」)
それはまさに拳で語り合う戦いのように見えるが、辰巳は執事である【アレックス】の立ち振る舞いをしながら戦っているため、いつものスタイルの戦闘より不慣れであったため苦戦する。それでも【ひかり】の攻撃パターンを読み、ボディに爪を入れ獣突で突き飛ばす。襲いかかってきたら、投げ手から追撃し怪我を負いながらも何とか抑え込み、とどめの爪を突き立てたのだった。
「おお! あんな【アレックス】ならやってみてぇ」
周りからは歓声が聞こえた。
辰巳は、執事風のお辞儀で応えるのであった。
●同キャラ対戦
葵は、持ってきた剣や刀を地面に突き刺しては、マントとレオタードで装備した【シャルロッテ】のコスプレで戦おうとする。そして相手はもちろん【シャルロッテ】だ。
(「うう、水着はよく着るけど、レオタードって言うのは水着より恥ずかしいよぅ」)
なんて、葵は思っているが、其処はアイドルであり傭兵の彼女は戦闘開始となると切り替えが早かった。
「「‥‥敵を視認。排除します」」
観客のテンションが上がっている。
「まさにリアル同キャラ対戦!」
「こういうのをまっていた!」
ノリノリである。しかもコスプレしているのがIMPの1人だ。テンションMAブーストだろう。
「くっ! 人間側めやりよる」
投入機から悔しがるバグアの声が聞こえる。
「ふ、人間を甘く見るな」
三枝がそれに対して不敵に笑うと、
「けが人に言われたくないね」
投入機から拗ねた声が聞こえた。
そんな、三枝と投入機の言い合いを余所に戦闘は始まっている。鍔迫り合いをしては一旦離れ、間合いを計りながらまた剣と剣の交わる金属音が響く。まさに燃え上がる展開となって観客を沸かせている。互角であり決着がつきそうになかった様に見えた。
しかし、戦い慣れしている葵は相手の癖を見抜き、その隙を自分が刀剣を突き刺していた場所までおびき寄せ‥‥隙を作らせる。【シャルロッテ】はそこに大きな突きを繰り出すところを葵に受け流され、一瞬の硬直状態に!
「はあ! ディバインブレイク!」
ヴァルキリアを放り投げ、地面に突き刺していたナイトソードと蛍火を抜いて、ナイトソードは紅蓮に染まり【シャルロッテ】を斬り、続いて蛍火で斬りつける。そして落ちてくるヴァルキリアを掴み、上段斬り。よろめく相手を突き飛ばしては、そこからフロスティアに持ち替えると急所突きで【シャルロッテ】の心臓を突き刺した。
一般人の目には、赤い連撃にしか見えず、最後に雷が轟いたように見えただけであった。そのまま【シャルロッテ】は、ぐったりとなり爆発する。
葵の華麗で豪快な技に、観客は拍手喝采を送ったのだった。
「‥‥ブイ」
葵は恥ずかしそうにVサインでそれに応えた。
●逃げ足が速かったのだが。
「さて、四体を倒した」
「次は、お前だ」
と、6人の傭兵は、コイン投入機ににじり寄る。沖田は金属バットをもって殺気立っていた。
「モニターリングしているなら顔を出せ!」
のもじが言うと、「いやだね!」と言い返すコイン投入機。これほど馬鹿にしたヤツは居まい。
しかし、6人がかりで囲まれてしまえば逃げ場はなく‥‥。
「ふ、これで勝ったと思うなよ! 新しい萌えキャラでお前達を萌え殺してやるからな!」
コイン投入機は今まで貯まっていたコインを吐き出すかのように、爆発した!
「くそ、爆発オチかよ!」
「ひどすぎる!」
コインのつぶてが一寸痛い。あとで拾って挑戦者に返せるだろう。
「こんなバグアがいるとは‥‥萌えを守らなくてはいけないな」
と、心に誓うヲタク傭兵達であった。