●リプレイ本文
この日、ロサンゼルスは珍しく寒波に見舞われていた。しかも、郊外の各所でスプラッター映画に出てくるような凶器で暴れ回るキメラサンタで貴重なイヴの時間が恐怖のどん底に突き落とされていた。
「こんな時でも仕事です」
平静を保ちながらもため息をつくのは水円・一(
gb0495)であった。
「お互い寂しいことだな」
「まったくだ! 俺も好きでクリスマスにサンタ狩りしたくねぇよ! よい子が大泣きだぜ!」
ジェームス・ブレスト(gz0047)が悪態をつく。
まったく、家族か恋人か友達でイヴを祝いたいところだ。しかし、現実それを脅かす敵がいるのならば、悠長にしていられない。兵士達も同じ気持ちだろう。遠くの方で兵士達も悲しみをキメラにぶつけているようだ。
「恒例となっていますが、あまり嬉しい事ではないですね。早々に片付けましょう」
鳴神 伊織(
ga0421)が静かな声で言う。すでに殺気を全身にまとって近づきがたい。向けられているのがサンタキメラでよかった。
「まったく‥‥余計なクリスマスプレゼントだ」
シクル・ハーツ(
gc1986)も怒りを込めて言った。
「ここか、祭りの――『北極圏統一王座決定戦』の会場は」
すでにシロクマ頭の鈴葉・シロウ(
ga4772)がキリリと登場する。
「シロクマvsサンタってあまり見せ物でも‥‥」
「何かいったかね?」
シロクマは怖いシロクマの表情になって、風雪 時雨(
gb3678)をにらむ。
「何でもありません! シロウさん気をつけてください!」
「そうか、ならいいや」
シロクマは気を取り直し、
「やあフレンド」
ジェームスに親しく声をかける。
「どうした、フレンド?」
「元気にしてたか?」
「いや、風邪引いていた。鳴神たちの看病で治ったけどな」
「ほう。いおりんの看病か。うらやましいな、おい」
「嫉妬か?」
勝ち誇った顔のジェームスにグギギと悔しがるシロクマだった。
会話を挟むように、
「それはそれとして、イヴ以降の予定はないのですか? 本当に?」
伊織は感情を出さず尋ねた。
「ねぇよ。マジでねぇ。‥‥悪かったな」
「悪いわけではないのですが‥‥そんなに悲しむなら、彼女を作る気はないのでしょうか?」
伊織の問いにジェームスは手をあごに当てて考える。そして、
「‥‥ないな。そんな特別な人を作れる余裕は、ないしな‥‥」
ジェームスはため息混じりで答えた。
「思いっきりフラグが折れる台詞だな。もう『バキッ』と」
シロクマがもこもこの顔でキリッと言う。
「フラグって何だよ?」
ジェームスは首をかしげる。
「クリスマスの過ごし方は、それぞれあります。一つ、愛する人と過ごす。家族や恋人達ですね。二つ、今の僕たちのように仕事と過ごす。三つ、孤独に過ごす。暗黒面がにじみ出して、今暴れているサンタのようになる危険性があります。僕たちは中間地点です。一つ目にあがるか三つ目か堕ちるかになるかを知るまでには仕事を片付けたいところです」
九条・陸(
ga8254)が過ごし方を数えるように解説してくれる。
「最終的には三つ目になりそうな連中が多いんだけどな! はっはっは!」
ジェームスが自分も含めて、シロクマやら水円などみて答えた。
「‥‥ダークサイドに堕ちたら葬りますから」
「そこまで堕ちねぇ!」
作戦会議ではなく、『クリスマスの寂しい者同士の言い合い』になっているところを、
「この仕事の後、ささやかなクリスマスパーティを開けばいいのですよ」
沖田 護(
gc0208)が割って提案する。
「大人だけで飲みに行くのもよかったが、それもまたいい考えだな」
水円は賛同する。
「いいアイデアだね。いおりさん、予定は?」
シロクマが伊織に振ってみる。
「特にありませんが‥‥少しつきあう程度なら」
と、了承する。
「‥‥断ることもないな」
シクルも断る理由はなく頷く。
「ごめんなさい! 自分はこれが終わったらすぐ、フィアナのところに行って謝らないと」
時雨は土下座するように謝った。
独り者数名(候補者は脳内補完でよろしく)の視線が冷たい。
「仕事熱心ご立派だけど、フラグが折れるぜ? 時雨君」
シロクマは難しい顔で凄む。
「‥‥分かってるんです。分かってるんですけど」
遠くを見る時雨だった。
独り寂しい計画はなくなり、みんなでゆったりとするクリスマスの約束をとりつけ、キメラを除去しながらキメラプラントを発見し破壊するという。2人1組で行動することになった。
「よろしくお願いします」
「よし、背中は任すぜ」
伊織とジェームス。
「では参ろうか、時雨君」
「はい‥‥」
キリリとシロクマ頭のシロウと完全女体化した時雨(ああ、早く帰りたい)。
「では、いこうか」
「ええ、早くこの不埒なキメラを倒さないと」
竜のきぐるみを着ている水円に常にまじめな沖田。
「‥‥よろしく」
「さくっと終わらせよう」
九条とシクルの班になった。
ジェームスと伊織の組は黙々とキメラを斬り群がるキメラも物とせずに郊外を突き進む。
「消えろ‥‥」
伊織の刀が何度も振られ、襲いかかってくるキメラをあっという間に倒していく。それはある種芸術にも見えた。
「なかなかやるね」
「‥‥いえ、私もまだまだです。あなたみたいに鼻歌交じりで戦えるほど余裕はありません」
そう、ジェームスはこの戦いを鼻歌交じりに楽しんでいたのだ。
(彼の力の余裕はどこにあるのでしょうか?)
と、考えさせられる。
一方シロクマ・シロウと女体化・時雨の方はというと、
「カップル公認デーで一緒にいられない恨みを思い知れッ――!!」
「クリスマスはそんなんじゃないぞ! 時雨君!」
血涙の勢いでキメラをバッサバッサ屠っている時雨にシロクマがツッこむ。コミカルなんだか哀愁漂うのかよく分からないカオスである。
「向こうで慟哭が聞こえたような」
沖田が時雨の叫びを聞いたようだった。
「嘆きたいんだろう」
黙々と邪魔するキメラを屠りプラントを探す水円。
「それよりあなたの格好が気になります」
そう、竜のきぐるみを着ている水円に、沖田はちょっとだけ引いているわけで。
「なに、クリスマスだ。殺伐とするよりいいだろう」
「それはそうですけど」
沖田は気合いを入れてこの依頼に参加していたのだが、水円の体を張った冗談に複雑な心境になっていた。
「あれもキメラ? でも、姿では情報で聞くキメラ‥‥? 時期的に合わせたのか、油断させるつもりなのか」
「どうであれ、倒すことにしよう」
爺さんサンタ型をみてシクルは戸惑う。うかつに近づいてはだめなので、気を引いくために雪玉をなげる。すると、サンタキメラは持っている袋から鉈やら斧を取り出して雪玉が落ちた方向に投げつけていた。
その武器は、どう見ても能力者には使えそうにもなく、金銭的価値もないものだった。
「武器袋で、しかも、プレゼントにもならないものか‥‥。ならただ倒すしかないのか」
九条はため息混じりで剣を握り、よそ見をしたキメラに向かって走る。そこからキメラを剣で真っ二つにした。
(キメラだからプレゼント用意してないと思う‥‥)
シクルは心の中で思いながら、別方向から現れたキメラを屠った。
ちなみに、ヲタ☆クマでもあるシロウは美女巨乳サンタキメラに出遭った時、
「なん、だと‥‥」
硬直してしまった。
(俺たちの浪漫の具現化! 敵とはいえ、それを目のあたりに‥‥! 正気で入られ‥‥)
思考時間10秒も悩むほどの葛藤。美女キメラが嬉々として「Human Die!」と叫びながら斧で彼の脳天めがけて振るう!
「あぶない!」
時雨がシロクマを蹴って致命傷は免れた。しかし、時雨のけりが勢いよかったため、家の壁に突き刺さったシロクマ。結局血まみれ。
「す、すみません!」
時雨は、敵の攻撃を武器で受けながらも謝る。
「いい蹴りだったぜ‥‥掛け値なしに」
家の破片が頭に刺さりながらも、シロウは襲ってくる美女キメラに武器を向けて屠っていく。彼には一筋に涙が流れていたとか何とか。
ある孤児院で北斗 十郎(
gc6339)が風を巻き起こして、キメラを倒している。
「こんな時に、キメラが暴れるなんて、けしからんサンタじゃ! わしが退治してやろうの」
サンタ姿ですでに服が汚れている。周りには「Human Die」と叫ぶキメラ達。
多対一には分が悪い。
しかも、自分の後ろには孤児達が怖がって隠れている。
絶体絶命であった。
「命に代えてもわしはこの子達を守る!」
リンクスクローと扇嵐をもち、キメラの群れに立ちふさがる! 何十体も襲いかかってくるところに、3人の人影が現れては北斗に襲いかかってくるキメラを斬った。倒れたキメラは爆発する。
「だれじゃ!?」
「北米UPC軍大尉、ジェームスだ」
「沖田と言います。無事でよかったです」
「鳴神と申します‥‥。次来ますよ」
「援護は任せろ」
遠くで竜のきぐるみを着た水円がサブマシンガンをぶっ放している。
「助太刀感謝するぞ!」
北斗はリンクスクローを持ち直す。
「間違えて、あんたも攻撃しそうだったが。元気なじいさんの気概、見事だぜ」
と、ジェームスは親指を立てて言った。
5人で、孤児院を襲うキメラを屠っていく。
「これが‥‥プラント?」
シクルと九条が見た物は、大きなクリスマスツリーの姿に唖然とする。
木の幹に、しっかりドアがあり、そこからたくさんのキメラがあふれていた形跡がある。あと、幹の太さやデザイン、不自然な場所(たとえば家屋をぺったんこにつぶしてその上にあるなど)に設置されてあったため、プラントとすぐに断定できた。
「ああ、いけないちゃんと連絡入れないと」
急いで無線で連絡をする。しかし、周りにたくさんのキメラがいるためか通じない。
「‥‥敵が少ないなら壊そう」
内部に入ってすぐに、核を破壊すると、周りにいたキメラ達が悲鳴を上げて爆発していった。
「こちらも発見、今から破壊する」
シロウも時雨もプラントを発見し破壊する。
この二つを破壊した途端、暴れていたキメラは活動を停止し、持っていた袋ごと爆発していった。
「よし、まだ25日の0時だ。徹夜にならなかったな」
時計を見たジェームスが安堵した。
戦闘班と入れ替わるように事後処理班が郊外に向かう。時雨は、フィアナの怒鳴り声におろおろして急いで帰っていった。
一方傷を癒している傭兵達はというと、ささやかなクリスマスパーティでケーキとピザを食べている。
「あなたは、僕の祖父に雰囲気が似てます」
「ほう、わしはおぬしの祖父に似ておるのと、豪快な爺さんじゃろうて」
と、初対面だが沖田と北斗は意気投合していた。
大人組は酒を飲んで、今回の仕事をねぎらうだけにとどめる。水円はやっときぐるみを脱いで一息ついている。
また、沖田はジェームスにこういった。
「僕は、大尉のように強くなりたいです。大切な人を守るには、そうならないといけないですから」
「おまえには大切な人がいるのか?」
沖田がジェームスに言った言葉に、沖田は頷いた。
「こんなサンタなんかサンタじゃない」
九条は奪ってみた袋に何もめぼしい物がなかったことと、プラント破壊時にキメラも自爆したことで何も得られなかった事にショックだったようだ。そんな彼女をシクルが慰めている。
「しかし、なんじゃわしみたいな爺ならまだしも、良い若いもんがクリスマスに予定がないとは嘆かわしいの」
「「大きなお世話だ!」」
爺さんの言葉が今回一番のダメージになった物が突っ込んだ(心当たりの方だけで)。
よいクリスマスを。