●リプレイ本文
※時間軸がずれている可能性もあります
●開場前
アスタリスク大阪には既に何万人もの人が行列を作っていた。最寄りの駅からずっと人人人、人だかりである。その行列から少し隣は空いている。そこは正門入り口。サークル入場者が通る場所だ。
「もう歳だからねぇ‥‥ボクはもう一般では並べないよ、よぼよぼ」
と年寄りめいたことを言いながら、外見年齢13歳程度のリリー・W・オオトリ(
gb2834)が言う。知らない人が聞けば突っ込まざるを得ないが、彼女はこれでも年齢が‥‥おや誰か来たようだ。
(所詮この世は夢幻泡影‥‥束の間の夢と承って楽しもうか…と、言うには、もう執着が増えすぎたか)
秋月 祐介(
ga6378)がカートを引っ張りながら思う。二人主催の【MODE−AUTUMN】と【ウェンライト工房】(以降【M&W】)は常に合作である。今回も壁サークルではなかったが、位置的には人通りがもっとも多くなる場所だ。二人の後ろに葛城・観琴(
ga8227)、ジェームス・ハーグマン(
gb2077)、鹿島 綾(
gb4549)、ラナ・ヴェクサー(
gc1748)、エレシア・ハートネス(
gc3040)、流叶・デュノフガリオ(
gb6275)がついてくる。
スペースのセッティングの間に、ジェームスが買い出し隊員として出発し、リリー以外の女性は更衣室に向かった。今回の同人ソフト「鉄の騎士物語」のコスプレをするためだ。着替え終わった人たちはセッティングの手伝いをする。ちなみに、更衣室から出てきたラナの顔色が悪い事にはあえて突っ込まないほうがよろしい。
「とうとう来るな‥‥」
鹿島が、参加幾度目かになるこの戦場に気合いを入れていた。
「みんなげんきぃ?」
色っぽいが気の抜けた声がする。エスティヴィア(gz0070)が顔を出してきた。
「やあ、エスティさん。そちらはもう大丈夫なのですか?」
「ええ、数が少ないからねぇ」
「おはようございますだよ!」
秋月やリリーはこのイベントで常連のために気楽に声をかける事が出来る。少し会話してから新作交換をして、エスティは去っていった。他にも挨拶回りがあるからだ。
鈴葉・シロウ(
ga4772)は展示のKVフィギュアと新刊を並べて【白熊堂】のセッティングを終わらせていた。夏は落としてしまったため、その影響はスペースに若干でているがめげないらしい。
「あけましておめでとうねぇ」
とエスティが挨拶回りでやってくる。
「ぼなせーら、【ヲタク】の系譜を継ぐエスティさん。新年あけましておめでとう、そして今年もヨロシクお願いします。んでもって早速今日も頑張ろうぜ」
「そうねがんばっちゃおうかしら」
穏やかに笑顔な二人。
「あ、今回は落としてないんだ」
「フフーフ。私は過ちを繰り返さないことに定評があるんですよ?」
どや顔のシロウにエスティは笑う。そして、新刊交換を済ませる。
シロウとしてはさい先のよいスタートのようである。
肉体言語シリーズの島にドクター・ウェスト(
ga0241)とジョー・マロウ(
ga8570)の【西研】があった。ジョーはドクターの手伝いである。
「KV少女コスの模擬戦を撮りに行った時点で巻き込まれてますからいいんですけどね‥‥」
ぶつぶつつぶやきながらジョーは手伝っている。
ドクターの方はというと、テンションは高いのだがどこか思い悩んでいるような雰囲気もあった。
セッティングが完了したところでエスティが遊びに来る。
「おはようねぇ」
「おお、おはようだね〜」
ドクターと挨拶をし、ジョーとの自己紹介を済ませる。原稿制作は大変だったねとか苦労話をして新作交換をしてからエスティは去っていく。
【はるかぜ屋】の葵 コハル(
ga3897)は悩んでいた。コスプレする肉体言語キャラがはっきり言えば自分とキャラがかぶっているからであるため。
「う〜‥‥今回はヤバいなー‥‥ひかりはコスに手間がかからなくて良いんだけどキャラがあたしの地に近いからなー」
でも、やってしまう。コスプレアイドルの性か?
準備は終わったときに、遠くから見て逃げようとしている緑髪の人物を発見し‥‥。追いかけては見事に確保成功。
「‥‥何ノゴ用デショウカ?」
「エスティ〜。逃げるとは何事かね?」
ニヒヒと笑いながらコハルはエスティを自分のスペースに招き入れる。
「はい、新作〜」
「うう、いっそ黒歴史にして!」
「むりだよ」
エスティはコスプレ衣装を作ることは好きだがコスプレをするのは恥ずかしくて出来なかったのだ。しかし、包囲網が構築されコスプレする目になる。今回本ではなく、CD媒体なのですぐに見られる状態じゃないことが救いだ。もしここでパソコンを置いていたらエスティは半泣きだっただろう。
一般参加の行列では、【M&W】の手伝いに向かう予定の伊藤 毅(
ga2610)、ティム・ウェンライト(
gb4274)が若干先頭に並んでいた。
「さすがに寒いな」
「寒いから暖かい物を用意しないといけないよ」
使い捨てカイロを握る手が強い。ティムは既にコスプレしているが、服装が服装なのでコートにくるまって寒さを凌いでいる。
「カイロをたくさん買い込んだけど‥‥なに、この寒さ!」
一寸風が吹くだけで身震いする。がたがた歯が震えた。
もう少し後ろにクリア・サーレク(
ga4864)と守原有希(
ga8582)がいる。寒いので二人は寄り添って暖まっている。
「なんと言うか、夏と冬にここに来るのも定番になってきたね」
「そ、そうですね‥‥」
(まさか、新春初デートがここになるとは)
普通は日本の初詣か、アメリカ風な祝いかたがあったはずだが、有希にとって『どうしてこうなった』感が否めないらしい。
二人の位置からさらに遠くに、
「阿野次 のもじは静かに暮らしたい」
とつぶやく阿野次 のもじ(
ga5480)だが、陸上競技のスタンディングをするような勢いである。本来スタートダッシュに覚醒し移動系スキルの駆使にて目当ての場所に行くつもりだったのだが、
『会場内での覚醒は禁止です。一般人が大けがをしてしまいますので覚醒は禁止です』
と、会場放送。
「な、なんだってー!」
計画を変更するしかなくなった。
スタッフに尋ねると、なんでも覚醒状態の能力者の力で人混みをかき分けると、まず一般人は吹っ飛ぶということだ。下手をすると人が豆腐のようにつぶれる危険性もあるそうだ。それだけ能力者と一般人の力の差が大きいわけである。
さらに後ろに水円・一(
gb0495)が、
「今回はゆっくり回ろうか」
パンフレットを見ながら、どこへ向かうか考えていた。
「思いっきり商売しましょう」
矢神小雪(
gb3650)は【子狐屋】という屋台を設置している。会場のコスプレ広場の近くに設置したのであった。屋台と言っても一寸したオープンカフェになっている。彼女は、狐の耳としっぽで和風メイド姿の出で立ちだ。
『これより、コミック・レザレクションを開催します』
そして、開場アナウンスがながれ、開戦する。
●開場
大人数の足音が開場に響き渡る。躓いて怪我をする人は幸いいないが、この光景は一寸した戦争ではないか、もしくはパニック映画かと思わせる物だ。
何度も参加している有希達は軽くこの人混みの『流れ』を読んで進めるが、のもじなどの初参加は雪崩に呑まれてしまった。
「わあああ!」
「あれは、のもじさん?」
流されていくのもじに有希は苦笑してしまう。
(まあ、あの人ならすぐに慣れるでしょう)
各所のサークルで、【M&W】は好調な滑り出しだ。コスプレ効果と前作の続編と言うことだけあり、行列が出来ていた。あと、『ちっちゃく』て『ひんぬー』萌えな方がたには、ある委託本が売れている。売り子が5人いることで秋月Pは割れないティーセットでお茶をするぐらい余裕があった。リリーの方はというと、すでにスケブを頼まれて修羅場となっている。
「教授! ゆっくりお茶飲んでないでよ〜!」
「何を言う。こういう時こそエレガントに対応するのだ」
「小銭の束が足りませんね‥‥」
「あ、はい分かりました。僕がやりましょう」
「この態度の違いはなんなんだろうね‥‥」
ジェームスが白熊堂にやってきては、新年の挨拶もして
「新刊ありますか?」
「もちろんあるよ」
と、シロクマ‥‥シロウと和やかな会話をする。
「擬人化本ですか。ではいただきます」
【西研】のほうもぽつぽつ売れており、若干余裕が出たところでドクターが出かけることになった。
「店番を任せたよ〜」
「はい」
そこで、ジョーはナンパしようとおもったのだが、
肉体言語系サークルは女性客が少ない。いることはいるが、20歳未満とかゲームに時間をかけられる人が多かったらしい。
(ナンパしようと思ったらこんな結果に! そんな馬鹿な!)
と、心の中で泣くジョーであった。
ドクターは、能力者らしいカップルなどを見ると不機嫌になる、しかし他人に当たっても迷惑なだけだし、今は趣味の時間なのでどうこう言うつもりもなかった。しかし、研究が進まないストレスをここで発散しているという状態だ。
(もっとも、全能力者が研究対象という自覚をもってほしい物だね〜)
と、思う。
「‥‥ふう、この中途半端に正気をとどめる信心が恨めしいね〜」
と、彼は自分の白髪の先を弄っては、ため息をつき、おもしろそうな本を探し買っていった。
「こっちこっち!」
どこかの学生服っぽいコスプレに身を包んだフィアナ・ローデン(gz0020)と風雪 時雨(
gb3678)が各サークルのところに向かっていく。
「急がなくてもだいじょうぶですって」
ずっと大きな鞄を持っていたフィアナが用意していた。先日、シロウからの提案が採用されたのである。簡易にメイクをして、カラコンをつけたフィアナは既にこの会場に溶け込んでいる。慣れているつもりが、まだまだな時雨は、彼女に振り回されっぱなしのようだ。
クリアと有希はエスティのサークルに向かう。
「やっほー、エスティヴィアさん、今年もやってきたよ♪」
「ありがとう、おめでとうねぇ」
軽いハグで挨拶するエスティとクリア。そしてエスティは有希にも軽くハグをするが有希は真っ赤になって、
「なんばしよっとね!」
と、彼はあたふたする。
「ごく普通の挨拶の仕方よぉ?」
「いや、それはなにか‥‥分かりますけどちょっと」
有希は日本人なのでその辺の文化の違いでハグに抵抗があるらしかった。
有希のお弁当とクリアのお菓子で豪勢になるエスティの食事事情。エスティはそれで満面な笑みになっていた。
「二人とも大好きよぉ! もう! 全部食べちゃう」
「そういってもらえると嬉しいな」
「作った甲斐があります」
そしてしばらくは、クリアとエスティが売り子をしては、お手伝いすることになった。
一方‥‥
「いらっしゃいませー♪ はるかぜ屋、今回は肉体言語のキャラ写真集でーす。新ゲストも2人出てるので是非見てってくださーい」
コハルの【はるかぜ屋】の方は、本人が戦々恐々と『クラウドサーフ』されるんじゃないかと思ったのだが、目の前にアイドルと言うことを気づかないまま、コスプレCDを買っていく人が多かった。遠くの方で、
「ひょっとして?」
「あれ、IMPのコハルじゃ?」
と、聞こえるが、ここにいる客のほとんどは訓練されているのか、大事にならないように気を配ってくれていた。それでも、握手を求められることはあった。
「フィアナと有希君にもメールしたからしばらくすれば来るでしょ」
そして、有希にメールが届く。
「コハルさんがこいって? なんでしょうか? 呼ばれましたし行ってきますね」
「!?」
有希の言葉で真っ赤になって‥‥。
「い、いっちゃ‥‥だめぇ!」
エスティは力なく声をあげるのだが、二人には聞こえなかったようだ。
そして、はるかぜ屋に向かった有希とクリアである。
「「こんにちは」」
「よく来たね!」
コハルは二人を歓迎すると、
「コハル! 新作もらいに来たよー!」
フィアナと時雨もやってきた。
お互い挨拶してから、本題にはいった。
「今回の新刊はね、フィアナとエスティがコスプレしてるの」
コハルが説明すると、フィアナが胸を張る。
「あたしもがんばったんだよー」
「いいのですか? アイドルがそんなことして」
有希とクリアは複雑な表情をしていると、
「いやーまー、いちおー許可は取ってるし」
「あたしはアイドルじゃないですよ〜。ただの歌手です」
コハルは遠くを見て、フィアナはみんなからアイドルと見られている自覚がないらしかった。
「それにしても、エスティさんなにやってんすか」
有希は眉間を押さえていた‥‥が、
「しかし、どういう物か見てみたいですね」
「ウィッグつけていたりするから、実際本人そのまんまじゃないけどねー」
と、フィアナが用意していたノートパソコンで閲覧。
結果、
「よし、エスティさんをからかいに行こう!」
有希はクリアをつれて、エスティのところに戻っていった。
「おもしろそうだからあたしも行ってみよう♪」
「まって、フィアナ!」
「ほどほどにねー」
ハンカチを振りながら、コハルは4人を見送った。
有希にからかわれたエスティは真っ赤になってしばらく更衣室にひきこもったとかないとか、そのあと、コアーとフィアナ、時雨で売り子をしていたとか。
そんなことを知らないコハルは、あとにライヴが控えているため、早めに切り上げた。
パソコン設備をしっかり整えている【M&W】は、デモ画面をコードネーム公開処刑にしていた。それの内容に気がついた客が、「生でお願いします」と撮影の要望があったので、ラナ達は、コスプレ広場に移動。 そして、その再現をしたのはいいが、
「公開処刑だー!」
と、叫んでラナは涙ッシュ。
「俺だって恥ずかしいんだ。置いて逃げるなよ?」
追いかける綾、
「いやだー! もういやだー!」
「ってコラ、逃げないの! 小さくても大丈夫だから!」
流叶も追いかける。
すると、ラナが足をもつれさせてすっころぶ。それにつられるかのように綾も流叶もこけてしまう。
「‥‥まって」
一緒にいたエレシアも追いかけるも躓いてこけ、4人は団子状態になった。
「うわああ!」
そのまま転がり、もつれる。その結果3人ともパンツ丸見え。カメラさん達は紳士であり、それを見ないように背けてくれた。決定的瞬間をとられたのかは謎だが、むくりと起き上がった綾は、
「今の撮った? 撮ったら消去! 消去をお願いー!」
と、コスプレ会場の中心で叫んだのであった。
後に、『公開処刑パンツ事件』と言われる。
「いったいこんなところに呼び出して何を‥‥しかし人が多すぎますね」
国谷 真彼(
ga2331)がパンフレットに記載されている地図を手に【西研】を探した。あまり迷わなくついた時には、大勢の人混みにもまれて酔っていた。
「うう、これは凄い。戦場と噂されるだけあります‥‥」
真彼は気分の悪さを我慢して【西研】の主にあった。
「おお、マヒト君、よく来たね〜」
ドクターは真彼に挨拶すると、すこし間を開けてから首にかけていた十字架を外し、真彼に渡した。
「これは?」
「大した用ではないのだが、我輩最後の感傷だ。コレを貰ってくれないかね〜」
ドクターの十字架は、彼の言うように『感傷』である。また、心のブレーキであった。それをかつての小隊にいた人物に渡すと言う意味は重い。
「‥‥」
真彼は無言で受け取る。
「では、撤収しよう」
ドクターが白衣をなびかせてスペースの撤収を始めた。
「え、もうですか?!」
ジョーは驚く。まだ目当てのナンパが出来てないからだが。
すぐに撤収したドクターの背中をみる真彼は、
「やれやれ」
と、ため息をついた。
ドクターは帰りにエスティの所に寄ってこう宣言した。
「あら? どうしたのぉ?」
「我輩は今日、コレより真の『知識の探求者』となる。では、さらばだね〜」
「‥‥うん、さようなら‥‥」
彼女はこの世界から去っちゃうの? とまで聞けなかった。ただ、白衣を見つめるだけしか出来なかった。
のもじは人混みになれてきたのか、すいすいと目当ての同人サークルの本を買いあさり、パンに干し肉で休憩したあと、
「さて―お目当て済んだし、一通り回ってみるか」
と、急がずに行動するのであった。
伊藤が【M&W】に立ち寄って暖かい物とお菓子を差し入れたあと、同人誌の買い出しに向かう。ティムはコートを脱いでは新作ソフトのキャラ服で(ミニスカ!)で売り子になった。
(どうしてミニスカを選んだんだろう! 俺は男なのに!)
すべてはコミレザ成功のためですと言うと、何も言えなくなる。
リリーはすでに水を得た魚のように同人誌を買いに行っているようだ。
お昼頃に風間・夕姫(
ga8525)が現れる。
「遅くなった。更衣室はいつもの所か?」
「お待たせしました。そうですよ」
秋月とティム達に挨拶してから、夕姫は着替えてくる。しばらくしてゴシックドレスにニーハイブーツ姿、黒のアイシャドウとルージュで右目と二の腕にトライバル模様のタトゥーを入れた姿でやってきた。
「これはまた、気合い入れてますね」
秋月Pは眼鏡をきらりと光らせる。
「売り子は任せろ」
彼女はスタンバイして、売り子になる。
「○○Cになります、○○Cお預かりします‥‥○○Cのお返しになります、ご確認ください」
「‥‥はい」
猫かぶりと美しさで、男客は魅了されている。
「ありがとうございました♪」
ウィンク付きのお礼。
『【M&W】の売り子に色っぽいお姉さんがいるぞ!』という、噂は瞬く間に広まることは言うまでもない。
いまは、有希とクリアはコスプレ会場を見ている。
(有希さんこの手のことに顔が広いし、ボクもそろそろこういうの覚えた方がいいのかなぁ?)
クリアはコスプレをしている人々を見ながら、考えていた。
「次はどこに行きたいですか?」
「有希さんの行きたいところに」
「え‥‥そ、そうですか‥‥」
健全な男子なので、彼が本当に行きたいところにはかなり彼女を連れて行くことに抵抗があった。内心ビクビクする。
「で、では‥‥こっちのジャンルに行きましょう」
と、向かった先はメイドジャンルの島だった。メイドの服や史実研究の本から妄想ふんだんの『きゃー』な本まで色とりどり。
「メイド好きなの?」
「ええ、まあ‥‥こほん」
そこでスイッチが入った有希は、
「メイドはブリティッシュ派やしメイドキャラは両方あるとよかねとか、露出少ない服はライン強調
するからクリアさん着たら艶っぽいよなって‥‥はっ!」
有希は我に返ってorz(こんな風)になる。
彼女はそれを想像して、
「有希さん、着てほしいの?」
真っ赤になってクリアは言うと、有希はわたわたする。
「えっと、本音ば言うとそうじゃけんども‥‥うちは何を――っ!」
心の中でメイド服を着たクリアを妄想した有希はその場でもだえてしまう。あと、男として恥ずかしさも半分でもだえていた。
青春だった。
一方小雪は、忙しくカフェを営んでいる。お昼が過ぎると楽になった。
「そろそろ来てもいいハズなんだけど」
と、誰かを待っているらしい。
そして、酷く込む時期をずらして会場に意気揚々と入ってきたのは春夏秋冬 立花(
gc3009)であった。
「着いたらびっくりするって言ってたけど、何かなぁ?」
まずは【M&W】に顔を見せないといけないと、地図を片手に向かう。
そこで、一部視線があり、彼女は不思議に思う。しかも、写真撮らせてとか言い始める輩がいるため丁寧に断った(しつこい人物はたまたま通りかかった水円がかばってくれた。ちゃんとお礼もする)。
「どうして、私が? コスプレもしてないのに?」
と、ますます不思議に思うが、
「こんにちは‥‥」
「よく来たね、立花君」
秋月Pが何食わぬ顔で出迎える。立花は挨拶を返そうとして、
「‥‥こんにちは‥‥って‥‥」
彼らのスペースを見る。すると‥‥自分の表紙の本があった。
「なんじゃこれは――っ!」
立花、会場で叫ぶ。
「こ、これ‥‥これはいったい!」
「ん、頼まれたから置いただけだが?」
立花の問いにしれっと教授は答える。
彼女が驚くほどスペースに置かれている物は、『【OR】花の咲き始め』。
内容は、
『小雪が春夏秋冬 立花たんをコスプレさせて
写真を撮った物を纏めた物
【全てを見せてね…】』
という代物だ。
そう、ある委託本とは小雪作の同人誌だったのだ!
「くっ! こんな事、聞いてない!」
「りっかたーん!」
小雪が鼻血を吹き出しながら満面の笑みでやってくる。コスプレ会場からこのスペースまでは遠い。しかし、秋月Pが彼女に知らせたのである。
「ぎゃあああ! くるなああ!」
それはギャグでも恐怖にしかならない。立花は逃げ出す。
しかし、この人混みで逃げることは叶わなかった。状況的にも立花は不利だったのである。ファンとかが自然と集まってきては壁になってしまい、結局立花は小雪に捕まり、小雪のコスプレ衣装を着て【子狐屋】の売り子をさせられることになった。
「去年もやったよぉ‥‥」
『生立花』を見たい為に訓練された猛者達がこの店に集まったのは言うまでもない。
水円はエスティに合うと、
「不健康でコアーに迷惑掛けっぱなしではないか?」
挨拶初っぱなから不摂生のことを言う。
「かけてないわよぉ」
ブスっとするエスティにコアーがわたわたとする。
「えっと、今は普通にやってますよ!」
コアーがエスティをかばう様に言う。そうすると、
「無理をしてないようだな」
彼は言ってから、
「一通り買わせてもらおう」
と、エスティの新刊や手に入れてなかった本を買った。
●閉会
『コミック・レザレクションを終了いたします。ご参加ありがとうございました』
終了アナウンスが聞こえる。各所で拍手が響いた。
のもじは戦利品を宅急便で送る。そのあと、海辺に向かって夕日を眺めていた。
また、道具などを宅配で贈ったシロウは一人で、静かなバーに入ってグラスを傾ける。
(今日も祭りに行けたと幸いを得て)
と、いつもはヲタク言動が多い彼だが、このときだけは沈黙し、いろいろなことに想いをはせていた。
「打ち上げはしないのですか?」
時雨がエスティに尋ねる。
「うん、この後研究関係に打ち込まなきゃならないから直帰ねぇ」
と、エスティは荷物をまとめて去っていく。
「むー、デートはまだ終わってないよ?」
「え、そ、そうなのですが」
「二人っきりは嫌なの?」
フィアナはふくれてみた。
「そ‥‥そんなわけないじゃないですか!」
時雨は慌てて、フィアナの言うとおりにするしかなかった。
【M&W】一行は【子狐屋】と一緒に行動し、近場のレンタルスペースで打ち上げをする。すき焼きと鶏の水炊きがメインだった。
「今回は、請求しません」
宴会前に小雪が秋月に言った。
「それは助かります」
同人誌の出費だけになったため、彼は安堵する。秋月の財布が大丈夫なだけで、他の人は全く気にしなくてもいいわけだが。
リリーは「スキヤキー!」と大喜びで肉を食う。そして呑む。ティムは鍋の鶏肉をつつきジュースを飲む。あと、梅酒を数杯飲んで酔っぱらった綾はというと、
「夕〜姫〜? 私のぉ、お酒がぁ、飲めらいのかぁ〜っ!」
「ええい、絡むな! 静かに飲みたいんだ!」
「そんなこといぅなぁ!」
「‥‥綾、こっち‥‥美味しいよ」
「エレシア〜きぃてよぉ〜」
「‥‥うん、うん」
エレシアが綾を引っ張って(?)いく。
ラナは、『公開処刑パンツ事件』から凹んでおり、泣きながら酒を飲んではサラダをつつく。
「世の中はバストじゃないんですよぉぉ」
「うん、その通りだよ。だから泣かないで」
流叶はそれをなだめる。
ジェームスと伊藤は幸い彼女らに絡まれることなく飲み食いして今日の疲れを癒していた。
秋月と観琴はそのカオスをうまく回避しており、秋月は彼女のお酌で心地よく寄っていた。
「あの頃から、もう2年近くか」
「そうですね」
「でも、僕の何処が‥‥いや、何でもない‥‥」
と、仲むつまじいこと。
相変わらず、立花は小雪に弄られている。
「鹿島、一枚脱ぎまぁ〜す♪」
「「それはやめろー!」」
ほどよくカオスな宴会であった。
●カップル達
有希とクリアは二人手をつないで、しばらく海の夕日を満喫した後、
「今日みたいな一日をたくさん作りましょうね」
「うん」
と、お互いの手をすこし強く握ったのだった。
カオスの宴会が終わったと、飲んでいない人たちが酔っぱらった人たちを介抱している間に、秋月と観琴は外に出る。今の絡み上戸の綾とラナを止められるのはたぶん流叶とエレシアだけだろう。
「少し酔ったみたいです」
観琴が秋月にもたれかかる。
「大丈夫? 僕が送っていくよ」
外は寒く、秋月はさりげなく観琴にとんびコートをかける。
「ありがとうございます。出来れば‥‥」
「何?」
「あなたのお家に泊まってもいいですか」
「ああ、はい」
二人は寄り添うように帰っていった。
こうして、冬の戦いは幕を閉じる。