●リプレイ本文
●寝顔
リズ・A・斉藤(gz0227)は自宅のソファで居眠りをしていた。戦い続けていた疲れがたまっていたからであろう。外の呼び出しベルにも気がつかない程眠りは深いようだ。
「リズさん寝てる。かわいい♪」
「そうですね。でも起こさないと」
男性陣より早く来た、ハンナ・ルーベンス(
ga5138)と椎野 のぞみ(
ga8736)、そして御鑑 藍(
gc1485)は、後で来る男性陣に眠っている姿を見せないため、彼女を起こす。藍は人見知りがあるためリビングと廊下の間で様子を見ていた。
「リズさん♪ おきて」
「リズさん。起きなさい」
「う、うーん」
2人の呼びかけにまだ眠っている。
「こうなると、王子様のキ‥‥」
「のぞみさん?」
「いえ、何でもないです!」
のぞみはある提案しようとしたが、ハンナが笑っている。が、それは笑顔ではなく般若面に見えたのでのぞみが考えた案を引っ込めた。藍は首をかしげている。
「? お母さんにのぞみ‥‥さん?」
「おはようございます。リズさん」
「おっはよう!」
リズが起きる。ハンナはせっせと今来ている服から着替えを促し、リズにシャワーを浴びるように促す。その間に、のぞみがリズの部屋から服を取り出し、ハンナはリズが着ていた服を洗濯機の中に入れて起動させる。
39分ぐらいでリズはシャワーと風呂を終え、戦闘服をしっかり干し終えた。リズは落ち着いた白いブラウスと黒いスカートの姿になっている。
「出迎えもせずに、しかも寝てたなんて‥‥」
真っ赤になっているリズにハンナが笑顔で「いいのですよ」と答える。
「あの、はじめ‥‥まして‥‥御鑑 藍です。よろしくお願いします」
一寸遠くから藍がリズに向かって自己紹介する。
「私はリズです。よろしくね」
リズがゆっくり近づき、握手を求めると藍はおずおず手を伸ばして握手した。
「そろそろ、鹿嶋さん達が来るんじゃないかな?」
のぞみは窓から外を見て車か人影があるか見ていた。
景色はラストホープに比べるとかなり寂しい。そして静寂。まばらに家が建っているので、耳を澄ませばその遠い所の声も聞こえそうだ。
ハンナは来た理由やこの数日をどう過ごすかを説明している。男性陣のセージ(
ga3997)、鹿嶋 悠(
gb1333)がやって来た頃にはハンナからの説明は終わっていた。
「よう! 元気か!」
セージは元気よく手を挙げて笑いかける。
「セージさんいつも義勇軍の手伝いありがとう」
過去の出来事がリズとセージの頭の中によぎる。
(今回こそ‥‥できるか?)
(なんどか‥‥できなかったよね?)
思考時間カンマ6秒。邪魔する要因を目だけでチェック。今回はないと確信する2人は、ハイタッチしてから、握手をした。何か奇妙な動きのように見えるのか仲が良い友人と見えるかは、読者の皆様で判断願う。
「こんにちは‥‥リズさん」
「はい♪ 悠さん」
悠とリズは親愛のこもった握手を済ませた(ちなみに、ハンナとのぞみとの挨拶は着替え終わったところで済ましている)。
そろったところで、買い物に出かけようとハンナの案で近くのマーケット区域に足を伸ばした。歩いて行くのは遠いので、もちろん車である。
●1日目:買い物
ショッピングモール。
みんなはキャンプ用品とその時に必要な食材と、リズに休暇の過ごし方を教えるという意味で来ている。
「今晩のご飯は何か考えていましたか?」
ハンナが訊ねると、
「全然思いつきませんでした」
リズは首を振っている。これは、デリバリーピザを頼みそうなと思うのだが、サバイバル経験が長かったリズは、いざとなったら周りの雑草などでお腹を満たす気であったらしい。
「ねね! 新しい服を買わない?」
「え? え?」
「あ、まって‥‥」
のぞみがリズと藍を引っ張ってアパレルショップへ向かう。
「行ってらっしゃい」
ハンナが手を振って見送った。
「俺たちは明日のキャンプの買い出しでいいか」
「そうですね。あの子達は年が近いから話しやすいと思います」
セージと悠はそういうと、ハンナも「そうですね」と頷いては、レジャーのショップに向かった。
しばらくのぞみはリズと藍を引っ張って、年頃の女の子に合う服を選んであげている。ハンナがバンガロー2棟の予約や食材と道具を買い、荷物持ちとして悠とセージが手伝っていた。
1時間後、モール中央広場で合流する。
そして、元気いっぱいののぞみに対して、色々店を回ったので目が回っているリズと藍。色々買い物をした結果紙袋がいっぱいだった。
「リズさんに藍さんに似合う服を色々ゲットしたよ! ボクの分もばっちり!」
満足げでさらにどや顔ののぞみであった。
「色々服があるって‥‥目が回りそう」
「そう‥‥ですね」
リズと藍はくたくたになってはいるものの、楽しそうな表情を見せる。
悠とセージ、ハンナは微笑みながら、持ち運びが不便であろう荷物を持つという役を買って出る。しかしセージは右手に持たなかった。聞いてみれば「癖なんだ」と言う。嵩張り具合から右手を使わないと運べなくなりそうだ。その結果、
「男の人よりボクが多く持ってるのってどうなの?」
悠もセージも結構持っているのだが、のぞみは両手にいっぱいの荷物になっている。体がふらふらしているように見える。
「のぞみさんたら」
リズがクスッと笑う。
「おお、すみません‥‥しかし、買いすぎですね」
「では、カートを借りてきましょう」
身軽なハンナと藍が数台カートを取りに行った。
物持ち係のキャパを越える荷物が多くなったと言うことで、車に乗せるまでショッピングモールのカートを借りる事にした。その方が色々壊れないし安全だ。
駐車場で荷物を車に運び終える頃に、
「僧侶ハンナ! 覚悟おおおお!」
と、後ろから叫び声。
全員が振り向く。すると、フィクションでよく描かれる西洋の鎧を着ている謎の男がカートに乗ってハンナめがけて突進してきた!
「お母さん! 危ない!」
リズが反応する。
リズの前にセージと悠がでて、突進する人物を見ては、心の中でため息をつき‥‥
「「カートで遊ぶんじゃない!」」
謎の男の腹に悠の拳。そしてセージのハリセンが顔面を直撃で謎の男は10mぐらい吹っ飛んだ。
しかし、そんなにダメージを負っているわけじゃないので、謎の男はすくっと立ち上がった。
「うう、いい攻撃だった! 僧侶ハンナ! 今度は」
「ジリオンさん、そんな事をしたら駄目ですよ?」
ハンナ、般若の笑顔。ジリオンと呼ばれた男は、はいと頭を下げた。
「‥‥誰なんです?」
リズはハンナに訊いてから、この突進男を見る。今は用心しているようだが。
「はっはっはっ! 俺様は! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ! ‥‥未来の勇者だ」
男は顔面にハリセンの跡をつけながらに、大仰なポーズをして自己紹介する。
「敵?」
リズは猫が逆毛を立てるように警戒する。しかし、ハンナや悠が、「彼も傭兵」と言うと、戦闘的警戒を解いた。そう戦闘的警戒は‥‥である。
「改めて自己紹介だ、将来のファンになる少女よ。俺様はジリオン・L・C(
gc1321)だ。よく覚えてくれよ」
「‥‥リズ・A・斉藤。あなたのファンになる予定はないわ」
おかしい出会いをしているので、リズはかなり警戒しながら自己紹介する。あと、尊大な物言いをするジリオンを見てはのぞみの影に隠れる藍。
「それにしても、見事なコンビプレイだったぞ。鹿嶋にセージ。僧侶ハンナ! 次回こそ‥‥」
「そんな、子供がまねしては危ないような、子供じみた事は止めて欲しいです。冗談を受け入れてくれない人もいます」
悠とハンナがジリオンに向かってすごみを利かせて言った。とたんに小さくなるジリオン。
「は、スミマセン」
その場で正座させられる。
ジリオンはハンナにある種のライバル心を持っていたかららしい。何があったのかを知っているのは本人とハンナぐらいだろう。
今何をしているかとジリオンが訊ねると、買い物と明日のキャンプ準備をしていたとみんなが答える。リズが警戒心を取り除くことには苦労した。ハンナや悠、セージあたりが「見てて馬鹿な行動は取るが、根はいい人物だ」と説明して一応納得しているらしい。ただ、ジリオンがキャンプ参加を申し出たとき、リズは怪訝な顔をする。断ることも出来るが、ハンナとは面識があり、「敵じゃない」という話の元で、リズは承諾した。
「‥‥もしおかしな事をしたら、撃ちます」
リズは敵に見せるような目で自称・真の勇者を睨んだ。ジリオンは震え上がった。
そして、夜は賑やかな‥‥主にジリオン‥‥食事になる。酒を飲みたいと言い出したジリオンは、ビールをかなり飲んで自滅した。
明日の出発は早いので、後片付けをしてからは、直ぐに床についた。ぶっ倒れているジリオンに毛布を掛けてあげる。
●2日目:キャンプ
朝。悠とハンナは早く起きた。
「リズさん達は?」
悠がハンナに訊くと、
「リズさんはまだ寝てます。のぞみさんと藍さんは‥‥」
と、言いかけると、
「ん‥‥おはよう‥‥」
「おはようございます」
のぞみと藍は着替えて起きてきた。
「おはようございます」
「リズさんを起こすのは鹿嶋さん、お願いしますね」
「え? あ、はい」
ハンナが悠に頼む。しかし、悠はうむむと悩む。いいのだろうかと。
「目覚めのキスは効果‥‥いえ、何でもありません」
のぞみの案に、ハンナがにっこりと微笑む。笑顔般若だった。
全員が朝食を終えると、数台の車でキャンプ場へ向かう。
そこで、年頃の女の子の会話をのぞみがして、リズは感心する。藍も打ち解けたようで、楽しく会話をしている。ハンナは準備をしながら2人の様子を見ては微笑んだ。
昼前には到着し、それぞれの行動に移る。
セージは川で釣りをするというし、悠は力仕事の手伝いをする。
「なあ、リズ魚釣りしようぜ」
「えっと、私悠さんと」
「そっか、わかった」
「うおー! 俺様は釣りをするぜー!」
ジリオンは釣りをするために、釣り竿と仕掛けを持って走っていく。
「無駄にはしゃぐな!」
セージはナイフ一本で木製の銛を作りながら、すっ飛んでいくジリオンにむかって叫んだ。ファンタジー服装にサングラスとカウボーイハットといういかにも怪しい姿のジリオンは近くの湖の方へ向かっていく。
悠は力仕事やコンロの点検をし、お昼の用意をしている。そこにリズがやってきた。
「手伝うよ」
「え? こう言うのは男の仕事で‥‥」
「そーゆーやくわりは抜き」
リズはにっこり微笑んだ。
一緒に荷物運びやコンロの設置をしながら、悠はこう切り出した。
「あの、先日は本当に済みませんでした」
「え? ‥‥リスターの事?」
リズの表情が少し曇る。しかし、
「彼が私を好きでいてくれたことは、嬉しい。でも、私は悠さんが好きなの」
と、にっこり、そう本気に想いを伝えた。
「‥‥ありがとうございます」
あのときの件で、悠は悩んでいたが、その言葉により悩みから解放された。リズは自分を選んでくれたのだ。
ハンナは、2人の姿を見ていたが、会話の内容まで聞こえていない。ただ、最初はぎこちなかった悠が、てきぱきと動くようになって、「いいことがあったのですね」と微笑むだけであった。
女性陣は料理の下準備である。
「これをこう切って‥‥」
「お昼は‥‥カレーで、夜が‥‥バーベキューですね」
のぞみと藍は仲良く下ごしらえ。
一方、湖で釣りをしているセージとジリオンは、ジリオンが大声で叫ぶために、魚が逃げていく。
「はーっはっはは! この俺様にかかれば魚の一匹や二匹!」
「ええい、騒がしい!」
セージがハリセンでジリオンを叩く。湖にハリセンの音が響く。
「いってぇ!」
「くそう、魚が逃げるじゃねぇか。釣りってのはな、静かにするもんだぞ? って‥‥」
セージが垂らした釣り竿が反応する。
「この引きは‥‥でかい! 手伝え!」
「まかせろ!」
強い引きと戦う男2人。5分の力と体力の勝負だ。
「ぬお!」
「ぎゃああ!」
大きな魚が釣り上げられた。
陸の上でびちびち暴れる50cm以上の大物だった。セージは急いで木製銛で刺して動きを弱める。
「はっはっは! 俺様の力なくしては釣り上げられなかっただろう!」
「手伝ってくれたことに感謝するが、お前だけが釣り上げたような言い方をするな」
セージはドヤ顔のジリオンに軽くハリセンで突っ込んだ。
お昼のカレーが出来たのでみんなで食べる。そのあと、セージとジリオンが釣り上げた魚をさばき、バーベキューの支度をしては自由行動。藍とハンナはゆっくり風景を眺めていた。
他の若者は、また湖に向かって魚釣り。和気藹々とし、ゆったりした時間を過ごした。夕方になると、ハンナと藍が先にお肉を焼いている。
「お腹すいたよ〜」
リズが楽しんだという笑顔をみせた。
「まだ、生き延びるときにも魚を釣っていたけど、あれは本当生きるか死ぬかの勝負だったの」
と、まだ能力者になる前の事を呟く。レジャーとしての釣りを体験して、楽しかったのだろう。
ハンナがリズの頭を撫でた。
「良かったですね」
「うん」
釣りの成果は良好。その魚も焼いては食す。キャンプファイヤーをする。ジリオンがまた大暴れしそうな所、意外にも藍が思いっきりツッコミ(大型ハリセンを借りて)、ジリオンは沈黙(気絶)した。そんな賑やかな感じで夜を過ごし、就寝の時間になる。
みんなが寝静まった頃、のぞみはバンガローに置いていたレジャーテーブルにお茶を置いて、夜空を眺める。幸い本星は見えない軌道上のようで、空一面は北米で見られる星空だった。
「眠れないの?」
「リズさん。うん、眠り浅いんだ」
起きてきたリズはのぞみに声をかけると、のぞみはそう答える。
「星空綺麗」
「だよね」
2人はお茶を飲みながら空を見る。心地よい沈黙。そこで、バーベキューやキャンプファイヤーでの賑やかさでは言えなかったことをのぞみは言う。
「あのね、こうしてたまにしか会えないかもだけど、‥‥これからも友達だよ!」
と。
「うん、のぞみとは友達」
リズは笑顔で答えた。
●休暇終了
全員は朝に朝食後、一気に片付けてから帰宅する。そのあと、斉藤邸でゆっくり過ごした。藍のお茶で皆はくつろぐ(時間的にケーキは無理だった)。
そして、リズの休暇は終わりに近づいていく。
「みんな、ありがとう」
リズは笑顔で言った。
既にリズは戦闘衣装だ。このままナッシュビルに向かうのだろう。
「ああ、戦場で会おう」
「また、手伝いに来ます」
セージと悠はそう言う。
「俺様の手伝いが必要なら駆けつけてやるぞ!」
ジリオンは相変わらずだったが、助けてくれるようだ。
「またね! こんど一緒に遊ぼうね」
「いってらっしゃい」
のぞみと藍が手を振る。
ハンナはリズを軽くだきしめて「行ってらっしゃい」と言った。
「はい、行ってきます!」
リズは笑顔で傭兵達と別れた。
休息は終わった。目指すは再び戦場へ。