●リプレイ本文
●覚悟
鹿島 綾(
gb4549)は友から借りたジークリンデを装着する。
(私は一人じゃない。大丈夫――やれるわ)
「決着をつける時ね」
その言葉に周りにいた傭兵達とウィルソン・斉藤(gz0075)が頷く。
「残った敵はアキラのみ。しかし、あいつは必殺の覚悟で我々を亡き者にするだろう」
斉藤が言うと、今度は鹿島が頷いた。
(‥‥もう語ることはない‥‥だから‥‥生きて帰る)
ベル(
ga0924)が黒猫を握り、上を見上げた。
「俺たちも道連れにされない様、気を付けて行こうか」
依神 隼瀬(
gb2747)が言う。相手には覚悟があるのだから、ここで殉じさせてやろうと思いながら。
「‥‥エレベーターが稼働できるなら急いで修理をお願いします‥‥」
「また、外部から援軍が来る可能性があるため、『ファウンダー』の方達に迎撃または援護をお願いします」
ベルとハミル・ジャウザール(
gb4773)が、ファウンダーが今回の戦いの際、相手がどう動くかを予想して提案を出す。斉藤もそれに応じて指揮をとる。また、緊急撤退の準備は怠っていない。アキラ・H・デスペア(gz0270)自身の性格をよく知るから。
傭兵達は中層制御室で手に入れたインカムを耳につける。これにより中層と下層への通信、特に斉藤とのやり取りが可能となる。
「鹿島さん。俺は純粋に戦力として考えてくれていいです」
「分かったわ。通常指示は私が出す。けど、自分の判断で行動してもいいわ」
「はい。わかりました」
神撫(
gb0167)は鹿島に言う。鹿島は頷き答える。また、神撫はベル達アキラを知る傭兵に、アキラの人物像について色々質問をし、知識を得る。
向かう先は最上階。一行が向かうのはアキラが逃げていった階段。これをたどれば必ずアキラがいる場所に迎える。相手はもう逃げ場はない。しかし、アキラはこの塔ごと爆発させるだろう。それを考え上に向かう傭兵や後続するファウンダー隊員はパラシュートを背負う。灯華(
gc1067)達の案も採用されている。
鹿島は灯華を見る。そして、こう言った。
「アキラとの、最後の勝負よ。貴方の力‥‥私に貸してくれるわね?」
「――嫌だ、って言っても押し売りますよ?」
灯華は素っ気なくともはっきりした言葉で、鹿島に答えた。
「ん、有難う‥‥頼りにしてるわ」
鹿島は彼女の肩を軽く叩いて、階段を昇る。続いて神撫、ベル、灯華、依神とリリィが続く。
もう、言葉はない。アキラを倒す。それだけであった。
●一方
アキラは自分の部屋から傭兵達がこちらに向かってくる事をモニタで確認した。
「‥‥さあ、来なさい。最期にあなたたちの絶‥‥望を」
腹の傷は完治していない。その苦痛がアキラの顔をゆがませた。治療ポッドがある部屋に残っている痛み止めの注射をする。痛みが治まってもまた1時間後にはぶり返すだろう。
●防衛兵器
階段は相手の進軍を阻むかのように設置されていた。階段をそのまま昇ればいいというわけではなく、鉄製の重い扉(非常扉)に阻まれていたり、その階に違うところに設置されていたり少し迷宮化している。つまり、非常扉門を開けて(もしくは破壊して)昇ることもあれば、廊下を通り上に向かう階段を探さなければならない事があり、一苦労する。踊り場や廊下を進もうとするとレーザーやガトリングの面射撃が傭兵達を襲う! とっさに避けるも狭い廊下故に肩や足に攻撃が掠ってしまう。依神が錬成治療を使ってはその傷を治す。
「‥‥一斉射撃のあとに、数秒間があります‥‥」
ベルがこの警備のパターンを見切る。
「神撫、タイミングを合わせるわよ」
「ええ、分かりました」
一歩足を踏み出す鹿島と神撫の2人。一斉掃射されるところかろうじて躱す。そして、射撃が終わった瞬間に2人は飛び出し、射撃を行っていた警備システムの銃やレーザー銃を持つ自動機械を破壊する。
「伏せて!」
灯華が叫ぶ。鹿島と神撫は伏せた。直後灯華とベルが残っている警備システムの武器を銃撃で破壊する。
辺りは完全に機械の破片だらけになっていた。
「よし、治療して進もう」
パターンが分かれば相手はただの機械なのだが、敵の射撃が掠ることがあり、侮れない命中精度ではあるがしかし、階段を見つけるのには苦労をした。
「アキラの残した血があってもいいだろうに」
そう、階を進む毎にアキラの血痕が廊下などに落ちていないのだ。周りを破壊するような警備システムの銃撃で廊下などに傷が付き痕跡無くなることもある。しかし探査の眼等をつかい、注意深く調べるとアキラの血痕を見つけられる。
「途中で止血して、昇っていったかもしれないね」
依神が推測する。
「そうとも考え得るな」
鹿島は顎に手を当てて考える。
「‥‥こちらに血痕が」
ハミルが指さすと、黒く乾いた後を見つける。
「では、こっちに向かったんだな」
「‥‥一端俺が先行します‥‥」
「僕も向かいます」
ベルとハミルが先頭になって先を見る。
「‥‥階段を発見しました‥‥」
インカムからベルの声。
一行は警戒し、階段を昇っていく。
途中で「エレベーターの修理は終わった。また、援軍が来ている気配はない」と斉藤からの通信で、傭兵達はより目的の達成が確信へと変わっていく。
「よし! 先を進む!」
●決戦
階段を昇り、警備システムとの銃撃戦をかいくぐり、最上階近くまで昇る。そこは、14階と同じような大きな広間になっていた。周りには謎の柱がいくつもあり、上にアキラがいるのだろう。
「‥‥ここまでです」
銃を持ったアキラが最上階へ通じる階段から現れる。腰や胸には沢山のダガーやナイフと銃のカートリッジが詰まったベルトを着けていた。
「‥‥アキラ‥‥」
ベルが呟くように相手の名前を言う。そして倒す意思を表すかのように黒猫とフォルトゥナ・マヨールーを構えては狙いを定める。アキラもベルに向かって銃口を向けていた。
「ベル、あなたはついにここまで来ましたね」
懐かしむような口調でアキラはベルに言った。
「‥‥お前の、過去の出来事をここで話すつもりは無いです‥‥。ただ、お前を倒す‥‥それだけです」
ベルは銃口を向けあって己の意思を伝える。
そこで、鹿島が前に出た。灯華やベルが彼女を見る。
「待たせたわ。倒しに来たわよ、『アキラ』」
「ふ、光栄ですね。ずっと私の本名で言い続けてきたあなたが『アキラ』と。かなり嬉しいですよ」
「その程度で嬉しいというのね。しかし、お前の前口上を聞く気はないし、話す気もない」
「というと」
鹿島の言葉にアキラは首をかしげる。
「これ以上の問答、お前も望むまい」
「そうですね‥‥あとは、意思の強さと死を賭して、戦うまで!」
その言葉が決戦の合図だった。
神撫が鹿島と一緒に突撃する。アキラはそれをよけようとするのだが、持っている銃で制圧もしくは援護射撃をするベル達をけん制した。
「ぐっ!」
スナイパー系の能力者の攻撃を抑えながらも、神撫のグラジオラスの突きと鹿島のガブリエルから放つソニックブームを躱す。しかし、傷が痛むのかその避けは甘く、攻撃が掠った。そこから、ハミルが流し切りにてアキラの後ろをとる。アキラは紙一重に躱し、ハミルを殴っては吹き飛ばす。続けて鹿島のガブリエルの一つを蹴り上げては足に向かって銃を撃った。
「ぐっ!」
鹿島は片足だけで跳び後退する。そこから依神が錬成治療と練力強化を施し、彼女は再びアキラに向かってソニックブーム。それは見事にアキラの足に当たった。バランスを崩したアキラに神撫の剣が襲う。アキラは銃で受けるもその銃は破壊される。しかし、受けた衝撃を利用し飛び跳ねた。ベルが援護射撃でアキラに接敵する3人をフォローし。灯華が制圧射撃でアキラの移動を固定する。
「リリアもいなくなった今、お前の戦う理由はどこにある?」
神撫がアキラに問う。
「ええ、もう私が忠誠を誓う相手はいない! しかし、意地という物がある! 私も既に終わりだ。故に意地を持ってもかまわないでしょう! 最後のトリプル・イーグルとして今(この塔に)いる人類軍を壊滅させます!」
激しくアキラは答えた。
「そうか! あいにく、それは止めてやる!」
神撫はそのままアキラに剣を振るう。しかしアキラは腰につけているナイフで神撫の腕を刺す。激痛で剣筋がずれた。当たった物の、アキラの肩に少し切れ口を作っただけであった。
「‥‥」
この数十秒、お互いは息をしていなかった。
一瞬の間、同時に息を吸う、この場にいる8人。隙を見せたら終わる。
「アキラ‥‥もう‥‥終わりなのよ! ‥‥兄さん!」
妹のリリィがアキラに向かって叫んだ。しかし、アキラは動じない。そう見えた。しかし、ベルと鹿島は、無意識の中でアキラはリリィの言葉(声)に反応した。その隙が決定的となる。
「「隙あり!」」
ベルが黒猫でアキラの胸を撃つ。アキラがよろめいたところに、
「『アキラ』という存在は――今ここで、終らせる!!」
鹿島の両断剣・絶を乗せたガブリエルがアキラの腹を穿つ。銃弾とやりはアキラの体を貫通した。アキラは吐血する。
「ぐ‥‥はっ‥‥」
それが致命傷。アキラは膝を突いて崩れ落ちた。
「たった一人の肉親と向き合えなかった。それが、貴方の敗因よ‥‥!」
「分かっています‥‥あなたたちの‥‥強い意思の勝利です」
アキラは敗北宣言をした。
●悲しき再会。
「‥‥私が弱かったのでしょうね」
鹿島の槍を自分で抜いて、近くに倒れ込む。しかし、鹿島が彼を支えた。鹿島は涙を流しながら、アキラに言う。
「‥‥戦いは終わったわ。なら、もういいでしょ?」
「‥‥どういう‥‥事です?」
「もう、貴方はアキラじゃない。ヒデキよ」
鹿島が目を向けた先、妹のリリィがいた。
「兄さん」
リリィが駆け寄る。
「‥‥私が‥‥もう‥‥兄‥‥と名乗れない‥‥。上位種の支配に委ねる‥‥そういう忠誠‥‥いや洗脳は‥‥解けた‥‥ようです‥‥ああ、済まない。リリィ‥‥」
「兄さん!」
リリィは涙を流してはヒデキを抱きしめた。
「兄さん‥‥」
「済まない‥‥私は、人類側でもスパイ活動をする人物だった。故に過去は捨てないといけなかった。しかし、スパイ抗争のなか家族を人間側に殺されたと‥‥思い込んでいた。そこで、上位種となるバグアや励ましてくれたリリアさ‥‥に忠誠を。私は‥‥家族を失った‥‥絶望の心で人間に憎悪し、この地位に就いたのだろう」
と、彼はバグアの一員になった経緯を話した。悲しい出来事。おそらくバグア内の地位競争の中、トリプル・イーグルの地位まで登り詰めると同時にどんどん洗脳が強化されていたのだろう。激痛のためか、リリィや能力者達の言葉が切欠になったのか、それとも別の要因なのか、洗脳は解けているようだった。
「意志が弱かったのは私だ」
アキラは憑きものがとれたような口調で言う。リリィは泣きながら兄を抱きしめる。
灯華は、ヒデキにこういった。
「その悲しみは‥‥分かります。私も親を‥‥家族を失ったから‥‥」
「同じ境遇の人が多いのに‥‥私ときたら」
灯華の言葉で、ヒデキは苦笑する。
上で警報が鳴る。それは徐々に各階全域に鳴り響いている。
「何を起こしたのです!?」
ハミルはヒデキに訊いた。
「‥‥私はもう終わりです。私が完全に‥‥死ぬと、この要塞は‥‥爆発し‥‥崩壊する。この塔‥‥基本的な作り‥‥、米国特有‥‥の‥‥ビルと同じ。柱を‥‥破壊していき、『真下に崩れる』仕組み‥‥です。私がまだ‥‥生きている‥‥間に逃げなさい。あと、私が‥‥この要塞から離れた時‥‥も自動的に爆発‥‥します」
彼は持っていたロケットをリリィに渡しながら答えた。
リリィと鹿島はヒデキを寝かせる。
「爆発まで何とか‥‥生きて見せます」
「‥‥分かった」
鹿島が頷いた。
ハミルと神撫が中層と下層にいる『ファウンダー』に撤退を呼びかけている。
「エレベーターは? 警報になったとたんに停止した?!」
神撫が驚く。
灯華がいまからパラシュートを持って降りようと提案する。降下に自信がある人物はパラシュートのリュックを背負う。しかし、パラシュートを開く幅などのお互いの距離を考えると3名ぐらいしか降りられないだろう。
「残りは、エレベーターのワイヤーを伝って降りていこう」
中層と下層の制御室から、正門が開かれる様になり、中層にいる隊員は正門から下層は搬送コンテナから待避すると言う。
「急ごう‥‥」
誰かが言う。しかし、兄弟の別れがこんな急を要するという事に悲しみを隠し切れていない。リリィはヒデキを一度抱きしめて「さようなら」と言うと、早歩きでその場を去る。肩が震えているのは明らかだった。家族を失う悲しさをこらえることなどできようか?
鹿島もまたヒデキに、
「貴方みたいな人は、もう二度と生み出させない。もう‥‥絶対に」
と、手を握り、涙を流して別れを告げた。
エレベーターのワイヤーを伝って正門から出る班と、最上階から飛び降りてパラシュートで降りる班に分かれ、一気に脱出を計る。
ヒデキはもう動けない。ただ、ゆっくりと死を迎えるだけだ。
「全員、逃げましたよね?」
ヒデキは涙を流しながら、塔の状態を携帯端末で確認する。戦いによってそれもかなり破損しているが動いている。
「悪い夢のようだ。私は‥‥本当に何を求めていたのか‥‥ああ、その考える時間もない‥‥」
走馬燈でいろいろな思い出がよみがえる。
「‥‥さよう‥‥なら‥‥」
アキラは誰もいなくなった場所で、永遠の眠りについた。
同時に各階が爆発し塔は真下に崩れていく。
●一つの終演、一つの始まり
塔の爆破は瞬間とも言える。土煙が舞う中、傭兵達や斉藤達は要塞が崩れるところを眺めていた。ファウンダーは後ろでは情報収集と撤収準備に忙しくなっている。
ベルは何かを考えようとしたが、頭を振った。
(‥‥やるべき事は沢山有るんだ)
まだ、要塞の崩壊を眺めているのは、鹿島だった。
「綾さん?」
灯華が心配そうに訊ねる。
「‥‥何?」
「ううん、もう撤収です」
「分かった」
崩壊していく塔に背を向き、鹿島は心に決めた。あの誓いを忘れないと。
この作戦により、トリプル・イーグル最後の1人は倒された。