●リプレイ本文
●空を見上げ
ナッシュビルは雲一つ無い晴天だった。一筋の飛行機雲が蒼天のキャンパスに描くように浮かぶ。それを見上げるのはリズ・A・斉藤(gz0027)であった。元ジョン・C・チューン空港に高速移動艇が降り立つのを確認すると、彼女は急ぎ足で滑走路の方へと向かった。
降りてくる面々に挨拶するためだ。
高速移動艇のハッチが開くと、待ちきれなかった様なダッシュをする。そして、目の前にいる友人と言える人物に抱き付いた。椎野 のぞみ(
ga8736)である。
「リズさん! お久しぶり! それに故郷にお帰りなさい」
「お久しぶり。ありがとう」
リズは抱きしめ返しては礼を言った。
「よ、北米解放以来だな」
セージ(
ga3997)が軽く挨拶し、百地・悠季(
ga8270)は軽く会釈する。リズは握手ではなくセージには「お久しぶりです」と百地には「今回はよろしくおねがいします」と抱擁で返す。
「よく頑張りましたね。リズさん」
「お母さん‥‥ありがとうございます」
ハンナ・ルーベンス(
ga5138)が声を掛けると、リズは彼女に抱擁する。
そして、長身の男、鹿嶋 悠(
gb1333)が視界に入ると、リズは照れくさそうに、
「こんにちは、悠さん」
と、彼に抱擁。鹿嶋もそれに応えるように抱き返した。
「では、悩みを聞かせていただけませんか?」
鹿嶋が優しい声で言った。
●キメラの対処方
「疲れていませんか?」
ハンナはリズを気遣った。
「いえ、大丈夫です。お母さん‥‥。現状を説明します」
本部を車で移動しながらリズは現状を説明した。解放は出来てもキメラの対処の他、どのように復興するべきか手を付けるべきかが悩み所だという。
「無理に、不得手な事を為そうとしなくても良いのです。義勇軍の皆さんに、州政府や、各市町村の役場を確保して頂いて、最初はその施設やソフトの稼動状態、職員さんの状況を把握してはどうですか? キメラが出るかもしれない場所に、一般の方は行けないでしょうから‥‥復興にも、そうした把握は大事だと重いますよ?」
「それはそうなのですが‥‥」
「まず、キメラへの対処というのを考えましょ?」
百地が言う。
会議室に移動しすると、そこには既にコーヒーを淹れているジョセフの姿があった。
「ありがとう」
「ああ、では失礼するよ。何かあったら呼んでくれ」
ジョセフは去っていく。
「で、対処方法は?」
セージは百地に訊ねる。
「残っているキメラプラントを見つけ出し、集中的に潰して行く方が良いわね」
百地は続ける。
「ただ、既に『壊した』プラントがあったとしても、残っているキメラはそこに固まっている事が多いと思うわ。そこから囮を用いて、引っ張っては殲滅を繰り返すしかないと思う」
百地はそこで話を区切る。
「ローラー作戦では出来ないですからね」
「そうね。どこもかしこも人手不足よ。バイト先もそうね」
鹿島の言葉に百地は肩をすくめる。
「キメラプラントについては大丈夫です。ナッシュビル中央区に1つしか無く、解放時に破壊しております。キメラは減少傾向にあるため、おそらくもう無いと思いますが、念のため、UPC軍のほうで軍縮小前に捜索して貰う形で交渉します」
リズが答えると、百地は納得したように頷いた。
「それがいいかもね」
「守りも必要だよな。俺の案では周囲にバリケードや罠を作るというのも忘れちゃならない」
セージが手を挙げる。
「軍と義勇軍やここでまだ有志を募った戦闘訓練と、小型のキメラなら駆逐できる一般武器の配備。もしそれで対処しきれない場合は、引退していない傭兵の出番というのはどうだ?」
「わかりました。戦闘訓練はUPC軍と掛け合ってみます。ただ、一般武器の配備についてですが、UPC軍と交渉次第になります。バリケードはバグアが使っていた巨大な壁を再利用しましょう」
リズが返答すると、「わかった‥‥」とセージは言った。
「キメラ退治と復興を同時に行える案があるんだけど」
今度は椎野が意見を出した。
「ナッシュビルは過去に一度壊滅的な被害を受けた歴史‥‥南北戦争後から鉄道と水運を中心に復興して行った街です。なので、まずは他の重要都市からの鉄道そして水運のラインを繋げて、その周りのキメラを倒していく。そこで、百地さんがいったプラントやキメラの密集地があるなら潰していく。まずは線、そして面として広げるのはどうかな?」
「すばらしい案です!」
リズは感激する。
「そうだな。ルートを造ると、移動もしやすい」
セージが頷いた。
「ルート各所をパトロールすると言うことも考え無くてはてはいけませんね。水路と線路にいるキメラを排除。プラントやキメラ密集地があればそれを破壊。そのあと、定期的なパトロールを。鉄道の方は各隣町の復興次第になりますが、行おうと思います」
リズがまとめて行く。
「うんうん」
戦時中に陸路は臨時的なモノである。確定的な鉄道と水路を復旧させれば、移民受け入れもやりやすいだろう。
キメラの対処方はある程度大きく見えてきたようだ。
●ナッシュビルの自治
「俺は、ナッシュビルの自治はこれ以上こちら側から手を出す必要はないと思ってはいるが」
セージが言った。
それに対する反応は、みんなが唸る事だった。
「え、『おー!』とか『それは違う』とか言ってくれないの?!」
みんなが唸って考えているので、思わず一寸した本音が出た。
「その理由は?」
百地と鹿嶋が聞く。
「いや、俺たちは俺たちで何とか頑張って地球に平和を取り戻した。ならさ、俺たちの役目は終わった。だから今度は支えてくれた一般の人に任せるのはどうかって思ったわけでな」
「それは一理ありますね。リズさんはどう思っているのですか?」
鹿嶋がリズに訊ねた。
「私は、確かにここを解放するために尽力したけど、全体をまとめ上げることは出来そうにないかなって」
リズは落ち込んだ様子で答えた。
「風船一個から、一都市解放なんてそうそう出来るモンじゃないけどな」
セージが思い起こすように呟いた。
リズはナッシュビルにとって英雄的存在ではある。ただ、軍をまとめる指揮力と一都市をまとめる指揮力は異なるのではないかということだ。
「しかし、リズさん」
「はい?」
「リズさん、今の状況では、何を為すにも義勇軍の手助けが必要でしょう。ですから、リズさんが自治組織のリーダーにならないならば、義勇軍代表として自治組織意思決定に加わる必要があります‥‥」
つまり、リズが故郷に留まるというのであれば、その要職に携わり、町を復興していく義務があるというのだ。
リズは「それはそうですが‥‥」と言葉を詰まらせている。
「しかし、無理をせずにこの先を決めて行くのはリズさん達です。応援しますよ」
「はい」
ハンナの優しい言葉に、リズは頷く。
「詳しい事は、現在居る人々で自治政府を擁立して、そこからって感じか?」
セージはコーヒーを飲んで窓の外を見た。
●復興ライン
「先ほどキメラ退治と復興を同時にするといったけど、詳しく考えてみよう」
椎野が地図を広げてナッシュビル周辺50kmを指す。
「先ほども言ったけど、鉄道と水路で発展した町でもあるから、計画的に北上ルートを確立する。東側に湖と貯水池があるからそちらの復興を優先。それによって安全に水が確保できたなら、次は鉄道の復興だと思います」
他のメンバーと共に地図を確認し、意見を交わしながら、椎野はまず、人類側の北部に鉄道復帰の足がかりにうごき、後に南や西へ繋げようという計画を提案した。
「水の確保と水路が安全に復旧できれば、灌漑農業が出来るわね。各方面で人手不足は否めないけど、専門家が来やすいよう大きな進展にはなるわ」
「ですよね」
百地がいうと、椎野はにっこり微笑む。
「あともう一つあるんです」
と、車の手配を頼む。
数分後に車が来て、ある場所に向かう。
「ここから3ブロック右。そうです」
着いたところは、屋根は壊れているが、立派な公会堂のようだ。
「ここが何か?」
リズは首をかしげていた。
「カントリーミュージックの故郷! 聖地! ライマン公会堂! ただ、復興だけだと、人の心は疲れます。だからこそ、カントリーミュージックをまたこの歳に広げ、心の安らぎを持てるところを作るのも復興の一つだと思います! ここを中心にラジオ局を設置すれば、音楽の復興もでき、緊急時にも安心。いろいろな事に役に立つと思います!」
それこそ、皆が「おおっ」と声を上げた。
「ありがとう、のぞみさん」
リズは椎野の手を両の手で握った。感激を伝わらせるに充分な強さであった。
まずは、周辺の水路と線路復興を行い、ラジオを発する事で周辺にネットワークを築く事に落ち着きそうである。
●今後
「今回の復興計画をコピーくれない? 他のところで使いたいから」
百地が計画書を書いているリズと臨時復興スタッフに頼む。
「ええ、喜んで。参考になれば」
リズは微笑みながら返事する。
ライマン公会堂の建て替え(よく調べると半壊していた)を急ピッチで進めている。ここにラジオ局も併設される計画になった。今はバグア司令塔だった場所を有効に使っている。
他には、
「重機の注文先どうする?」
「司令塔の周辺の詳細地図どこ?」
「図書館の資料サルベージ! 班を作って急げ!」
等々、問題が出てきたことに気付いていく。その中で、ナッシュビルの中で解決していけるだろう。
リズはメンテナンスを含めてLHに向かうこととなった。復興スタッフ会議の時に、重機レンタル交渉や今後の復興支援物資のルート確保も含まれる。地元民や能力者数名も連れて行く。
別れ際、セージがハンナにこう言った。
「俺たちが無事に戦場を駆け抜けられたのは『おかえり』って出迎えてくれるハンナさんがいたからだ。ありがとう」
「いえ、私は私が出来る事をしたまでです」
ハンナは微笑んだ。
椎野は、リズに向かって
「ボクも今自分の故郷の復興がんばってる、リズさんも笑顔は忘れずがんばろ!」
微笑むとリズも、「ええ、お互いがんばろう!」と微笑んだ。
解散してから(セージは鹿嶋に「ファイト」と声を掛けて去った)、一息入れたリズに鹿嶋が声を掛ける。
「あの、リズさん‥‥」
「はい、なんでしょうか、悠さん?」
「お、お話しがあります」
鹿嶋はドキドキしていた。前に告白した時と同じぐらいドキドキしている。
「はい」
「ナッシュビルの復興をこの目で見たいです」
「はい」
「それと、一緒に住みませんか?」
「そ、それは‥‥もしかして。ま、まって、結婚にはまだはや‥‥」
「えっと、あっと‥‥そこで、じつは‥‥」
実は、義妹がいて、移住の歳は必ず付いてくることなど鹿嶋は自分の身の上を簡潔に説明した。
「そういうことですか‥‥」
見るからに告白かと思ったリズの落胆は隠しきれなかったようで、
「まだ私は結婚には早い年齢ですし‥‥」
と、付け加えたうえで、
「悠さんも、妹さんもここに定住するのであれば歓迎します♪」
と、満面の笑顔で答えた。