●リプレイ本文
●集合
ローデン事務所をノックするのは、UNKNOWN(
ga4276)だった。
「はい。いらっしゃいま‥‥、UNKNOWNさん! お久しぶりです!」
フィアナ・ローデン(gz0020)は来客に喜んだ。
「ああ、久しぶりだな。フィアナ。依頼を見てきた」
黒ずくめの男は、優しい笑みをフィアナに向けた。
「フィアナ殿にスタッフの皆も、久しぶりだな! 色々と危険だが‥‥全力を尽くすよ」
皐月・B・マイア(
ga5514)が前に出て、フィアナと握手する。
「お久しぶりです。皐月さん」
「ぼたん鍋以来だな」
メディウス・ボレアリス(
ga0564)が顔を出す。
知り合いが多く、嬉しく思うフィアナ。
「フィアナ・ローデンやな? 噂には聞いとるで。今回のコンサートも上手くいくとええな」
ちょっと、軽めの男がにこやかに話しかけてきた。
「ありがとうございます。えっとお名前は?」
「おっと、私はクレイフェルちゅうんや、よろしゅう」
気さくな男はクレイフェル(
ga0435)である。
「やあ、あたしはエクセレント秋那だ。よろしくさ」
巨体の女性が握手をする。
「大きいですねぇ」
「ああ、元プロレスラーだからねぇ」
エクセレント秋那(
ga0027)がニカッと笑った。
「ほむ! フィアナさん! 私は赤霧・連です〜。よろしくお願いします」
銀髪・真紅の瞳の可愛い少女、赤霧・連(
ga0668)が可愛い声で挨拶する。
「お話しはUNKNOWN君から聞いています。スティンガーと言います。よろしく」
飄々としたスキンヘッド男、スティンガー(
ga7286)が飄々として挨拶する。
「私は、みづほ。よろしくお願いします」
みづほ(
ga6115)がフィアナに握手する。
崎森 玲於奈(
ga2010)、藤村 瑠亥(
ga3862)が、軽く挨拶をしていく。フィアナは順に、熱意のこもった握手で歓迎をするのだった。
彼女の手がとても温かい。
「皆さん本当にありがとうございます」
フィアナが深々とお辞儀をする。
「なに、あたしは、あんたの熱意に敬意を表するから来たんだ。守りはあたしらにまかせな」
「はい」
「早速ですが、色々作戦をねらないと」
スティンガーが言うと、全員が頷いた。
会議室は一寸片づいているためか座りやすい。しかし、流石に11人は狭かったかもしれない。
「さて、会議といくわけだが。今回はフィアナだけではない」
UNKNOWNが、会議室の奧に陣取って、ホワイトボードに色々かき込んでいく。みづほは何かメモを取り出していた。
「フィアナを合わせて、6人の護衛だ」
「事務所スタッフの人達だな」
皐月が言うと、UNKNOWNが頷く。
「結構ハードだねぇ。大人数護衛は」
秋那が腕を組む。
「頑張っていきましょうや」
クレイフェルが言う。
基本的に、戦闘は回避すること、様々な残骸には近寄らない事などが上げられるが、天候や運転のローテーションで問題になった。
「禁煙車と喫煙車を分けた方が良いですね」
みづほがメモをとる。
「世知辛い世の中になってきたな」
UNKNOWN。
愛煙家にとって今の禁煙の流れは痛いものだ。
「ああ、全くだ」
「厄介な物です」
メディウスとスティンガーが同意した。
「バイクも借りられるというなら先行班もいるな。さて、運転し続けるとしんどいで。どうしようか?」
クレイフェルが言う
「バイク乗れる人は?」
皐月が尋ねる。
UNKNOWN、メディウス、クレイフェル、崎森、藤村、秋那、そして、赤霧であった。
一気に、赤霧に視線が行く。
「ほむ! 私、ちっちゃいですけど。乗れますよ! でも四時間‥‥頑張ってみます! やっぱり、牛乳飲んで大きくならないといけませんですヨ」
彼女はワタワタ慌て答える。また、『頑張る』というところで握り拳を作っていた。
その『頑張る』という仕草が、とても可愛い。
フィアナと皐月は、かなり『キュン』ときたようだ。顔を見れば誰にでもわかる。
(「『ぎゅっ!』としたいなぁ」)
2人の感想は同じだった。それは置いておき‥‥。
「御飯の担当は私がしますですよ〜!」
赤霧がガッツポーズする。
「食事は一日をサポートする大切なエネルギーです! メニューは簡単なので良いですよね?」
「なら食事担当は赤霧だな。頼む」
「えらいですねぇ。赤霧君は」
スティンガーとUNKNOWNが彼女の頭をなでた。
「えへへ」
楽器にも問題点が出てきた。あまり大きなものは詰め込めないのである。小さなアンプみたいな物ぐらいなのだ。もっとも、フィアナ自身は、楽器が無くても歌える場所さえあれば良いという気概だ。
「傭兵のバンドも披露というのも如何でしょう?」
スティンガーの言葉に、さて、自分の持っている楽器など持ち込むかという話になった。キーボードやギターなどは運びやすいのだが、サックスやヴァイオリンなどはかなりデリケートとなる。
「ドラム担当がいないな」
皐月が言う。
「あたしはやったことはないが、ドラムやろうか?」
秋那が言う。
「では、教える」
UNKNOWNが即答。
「あ、でも大きさ的に大丈夫かしら?」
一寸考えるフィアナ。
もっとも楽器全般がデリケートなのだが。ドラムはデリケートという面ではなく、物量的に嵩張ることが問題だ。
「あ、其れは考えてなかったか‥‥」
頭を掻くスティンガー。
しかし、
「いいえ、皆さんも音楽で何かを伝えたい気持ちはわかります。‥‥っと、一寸待ってくださいね」
フィアナは会議室を出て行く。
「?」
遠くの方で、
「ねえ! コンパクトドラムあったよね?」
「ああ、倉庫に埋もれてなかった? 昔の興行用で‥‥」
「それだ!」
と声がする。
「良い娘さんですねぇ」
感心するスティンガーであった。
「では、ドラムのやり方をあとで教える。いいか? 秋那」
「まかせろ」
秋那は胸を叩く。
「フィアナ殿はいつだって熱心だ」
皐月が頷く。
「ほむ! 音楽を愛する人はいい人なのですよ〜!」
赤霧は笑って言うのであった。
「なにゆえ、あそこまで熱心になるんだろうか? 能力を持たないのになぜ?」
藤村が、フィアナの背中をみて呟いていた。
フィアナが戻ってくるまでに、移動時のローテーションや野営歩哨の順番を決める。バイク班は車で休憩してまたバイクに乗るという事だ。
スタッフが、雨合羽も用意してくれた。あと寝袋なども。
皐月がテントを持ってくると言うので、全員は歓声を上げる。
「脚伸ばして眠れるというのは良いことだ!」
ゆっくり眠れることも第一である。
「山賊にはどう対処しましょう?」
みづほが尋ねる。
「なに、簡単に威嚇射撃して追い払うだけで良いだろう‥‥」
UNKNOWNは言う。
「無駄に戦闘はしたくないな。特に人間とは」
其れが全員の答えだ。
もっとも、接近戦になると、秋那は覚醒せずともねじ伏せることは出来るだろう。
「ありました!」
埃まみれのフィアナが戻ってきた。
全員がそのコンパクトドラムを見る。
大中小のドラムだけの小さな物だ。
「此ならトランクに入れても大丈夫です。解体できますし」
「偉いな。フィアナは」
UNKNOWNがフィアナの頭をなでる。
「ありがとう‥‥ございます」
彼女は照れていた。
少し埃が被っているため、メンテは必要のようだ。
「楽器など持ち込みはOKとして‥‥。事務所の方のメンテ手伝ってくれませんか?」
「はい! 私手伝います!」
赤霧が手を挙げた。目はきらりと光っている。
「私も手伝おう」
皐月も手を挙げ手伝う。
「では、私も各自の楽器を持ってきましょうか‥‥。私はトランペットですねぇ」
スティンガーが言う。
「だな。ベースを持っていこう」
崎森が頷く。
「では、私は秋那にドラムの打ち方を下のスタジオで教えることにしよう。一度解散して各自必要な物を持ってくるように」
「OK」
「了解!」
と、会議は終了した。
●出発前に
様々な移動に必要な道具をそろえていき、楽器類も詰めていく。
高速艇に乗る前に、藤村がフィアナにこう訊いた。
「なぜ、其処までして、歌おうとする? 危険な旅というのに? なぜだ?」
彼は生き方を探している。
目の前にいる、能力者のような力がない人間の生き様が不思議なのだ。
「簡単な理由。あたしは歌で色々なことを伝えたいの。それだけ」
彼女の意志はこの短い答えに、強く感じられた。
彼は、呟くように答えた。
「それが、お前の生きざまか‥‥。ならば俺はその道を全力で手助けするだけだ‥‥」
「ありがとう」
フィアナは彼に礼を言うのであった。
一方、UNKNOWNが、赤霧に声をかけている。
「ほむ?」
「両手を挙げてみろ」
「はい?」
従う赤霧。
黒ずくめの男は、彼女の手をとって持ち上げた。
「ほむ?! きゃっきゃ!」
喜ぶ赤霧。彼女を左右にぶらぶら揺らす男。少女はまた喜ぶ。
「なにをーっ?! で、降ろしてくれませんか?」
暫くしてから、突っ込む少女。しかもぶら下がったまま。
「いや、これで、背が高くなったと思う。2マイクロメートルぐらいは」
降ろしてから、黒ずくめの男は言った。
おそらく背のことを気にしていたの彼女をみて、一寸遊んでみたくなったのだろうか。
「2mですか! 念願の身長になりました!」
赤霧はその言葉に喜んだ。しかし、『マイクロ』の言葉は聞こえなかったらしい。
皐月とフィアナはそれを一部始終見ており、
(「かわいいなぁ! かわいいなぁ! 『ぎゅっ!』としたいなぁ!」)
と、思っていた。
「ん? マイアもするのか? ぶら下がり運動?」
UNKNOWNが皐月に訊くと、我に返った彼女が、
「うわぁ!」
驚いていた。
「い、いや、け、結構だ! もう行こう!」
皐月はマントをなびかせて奥に入っていく。
「ほむ?」
小首をかしげる赤霧であった。
「可愛いって正義ですかねぇ?」
スティンガーが藤村に訊くと、
「俺に訊くな」
藤村は渋い顔をしていた。
高速艇で、赤霧が皆にある包みを渡す。
「おにぎりですよ〜♪ 朝ご飯はしっかり食べないとですネ!」
「ありがとう」
「さんきゅ〜」
「おおきに」
「すまないな」
と、色々な返事が返ってきた。
「赤霧さんのおかげで和やかです」
フィアナは彼女に抱きついた。
「ほむ♪ お礼には及びませんですよ〜」
●デトロイトから
天候は晴れの時々曇り。風は、近くの旗を軽くなびかせている。気温はコートで十分大丈夫なものだった。摂氏10度は切っているが、氷点下ではないと言うところである。バイク乗りにとってこの風は一寸きついかもしれない。
「此なら少し寒い思いだけでいいか」
「夜は冷えるからな。気を付けないと」
現地に用意されていた車とバイクに荷物を積み込み、隊列を確認していく。
「名前はなんというのですか? はぁ、そうですか‥‥」
赤霧が、車両に名前が付いているか尋ねていた。しかし、「無い」と言う答えに、残念がっていた。
しかし、
「短い間だけど、よろしくです」
と、車やバイクをなでる。
「忘れ物はないな?」
OKサインがでる。
「では出発!」
エンジンの音が荒野に鳴り響いた。
出発は午前9時。
各地にKVの残骸などが目に付き、州道も田畑も、シカゴ解放戦の爪痕を残していた。
様々な戦いがまだ物語っているのだ。
「‥‥」
フィアナは車窓から其れを眺めている。
目に焼き付けるように。
「こんな戦い早く終わらせないとね‥‥」
バイクに乗っている秋那は呟く。
誰か聞いているかと思っていない。
「あっちに、でかい残骸の群ができてる」
クレイフェルが指差した。
大破しているKVだが、結構形が残っている。それも、そのはずで、数体の残骸がタートルワームの死骸とともに奇妙なオブジェを作っていた。串刺しになっているもの、踏みつぶされているもの、武器を甲羅にめり込ませて固まっているもの。コックピットがもろに刃に突き刺さっているものと‥‥。
「む。迂回するか。こちら先行の秋那だ‥‥、機体の残骸を発見州道から離れて小道を進もう」
無線で護衛班に知らせる。
『了解』
『OK、誘導頼む』
『お願いします』
返事が返ってきた。
迂回していく。
丁度良い風もしのげる小屋を発見した。危険がないかを確認してから、一時休憩をいれる。フィアナとUNKNOWNは、スティンガーや秋那達にバンドセッションのやり方を教える。
赤霧と皐月、崎森とみづほは、赤霧を中心に、サンドウィッチとコーヒーと緑茶などを人数分分けていた。
「あらかじめ作っていたのですヨ」
にっこり笑う赤霧に、
「もう‥‥かわいいなぁ!」
皐月、本音が出た。
「ほむ。嬉しいです♪」
「流石にバイクは疲れるな。‥‥煙草が美味い」
メディウスやUNKNOWN、クレイフェル、スティンガーの喫煙組は小屋から出て、タバコを吸う。
紫煙が、風になびく。
ちなみにこのヘビースモーカー達はバイク運転だろうとジープで休憩/運転であろうと、この趣向品を手放していなかった。
「酒の方は大丈夫か?」
UNKNOWNがフィアナに訊く。
「楽器に心配をしてください」
一寸フィアナは拗ねた顔をしてみた。
「おおすまない」
「大丈夫ですよ」
「しかし、其れは夜までお預けだな」
メディウスが笑う。
「ああ」
「さて、セッションの打ち合わせ再開と行こう。昼食休憩が終わったら、出発だろ?」
秋那はバンドメンバーを呼ぶ。手にはミネラルウォーターのボトルが握られている。
「そうだな。この小屋を有効利用しておこう」
可能な限り、音を出さずに打ち合わせをしているなか、みづほとメディウス、そして他のスタッフが見張りをしていた。
其処からは悪路との戦いだったが、これと言って危険に遭うことはなく、夕刻になる‥‥。
●不発弾と‥‥
夕暮れ、もう日が陰っている。時計を見れば‥‥18時だった。そろそろ野営場所を見つけなくてはならなかった。
しかし、先行組のUNKNOWNが、急にバイクと止めた。崎森も止まる。
「あれは‥‥」
「まさか」
崎森が目をこらす。
2人とも双眼鏡で確認をとると、確信できたそれは、弾頭の一部であった。
「不発弾だ」
近づいてきた車に崎森が懐中電灯で『危険』と知らせる。
護衛班は、すぐにUターンし、半マイル戻っていく。
「不発弾だった。しかも、ホーミングミサイルG−01だ」
「うわ、それは怖いわ」
墓標の様に地面に突き刺さっている其れは‥‥、傭兵達に何かしら前の戦いを思い起こさせる。
「亀には恨みがあるな‥‥」
メディウスが煙草を吹かす。
陸軍と進軍していた者は、亀に苦戦していたのだ。
「野営場所を早く探そう‥‥」
気を引き締めて、ルートを確認し、再出発する。
予定より1時間ほど遅れたが、野営場所を見つけ、皆が楽しみの赤霧の夕飯が待っていた。
「ほむ! 御飯準備するです!」
皐月とフィアナ、クレイフェルは赤霧と一緒にカレーを作り始める。たき火の準備などは、UNKNOWNとスティンガーがしていた。テントを張っているのは事務所スタッフである。
ランタンに灯が灯り、紅茶やワイン、ウォッカなどが並べられ、熱々のカレーを待っていた。
見張りもしながらも、トランプで遊んでいる一行。
「タマネギは飴色〜♪ お肉はしっかり♪」
フィアナが歌いながら鍋をかき混ぜていた。
それに釣られて、三人も歌い出した。
和やかなムードで夕食は終わり、酒を飲む人は少しだけ気付けとして飲んで、見張りに備えていく。
野営の歩哨はかなり重要な、仕事になるだろう‥‥。
満天の星空が浮かんでいるのであった。全員はその夜空を眺めている。夜はまだ長い。
皐月、赤霧、フィアナは歳が近いため、うち解けている。それは、他のメンバーからも分かる。見張りをするのもローテーションになっており、常に警戒は怠っていない。即席テントと皐月が用意していたテントが並ぶ。16人の大所帯。
「気付けにどうですか?」
見張り時間が済んだ人に、コーヒーを差し出すスティンガー。
「ありがとうございます」
飲める人には一寸ズブロフを入れているようだ。
「ああ、ありがたい。私にも頼む」
UNKNOWNも頼む。
「我もだ」
メディウス。
「はい、分かりました」
酒飲み衆には好評のようだ。
「お茶が美味しいですネ」
「日本のお茶はすばらしいです」
「フィアナは日本が好きなの?」
「はい好きです♪」
「なんや、なんや? 日本の話か? 俺もまぜてな」
このメンバー考えてみれば、何かしら日本人の血筋か、日本文化を好む人が多い。不明も居るが。
暫く、日本談義になっていった。
「こんな星空だったんやなぁ‥‥」
クレイフェルが夜空を見上げる。
「綺麗ですネ」
「広大な宇宙。考えてみればそう見上げることはなかったな」
煙草とコーヒーを持ったメディウスが呟く。
「‥‥」
隣に座っているみづほは、ずっと空を見ている。
「みづほ君は良く見上げるのか?」
「はい‥‥」
空の話になっていく。
「星々は綺麗です」
赤霧が紅茶のマグをもって笑う。
「その中に災いが舞い降りてしまったが‥‥」
藤村の言葉に、しばし沈黙するも、
「しかし、それは我々が何とかすればいいだけだろう。私たちの地球なのだから」
崎森が続けると。皆は頷いた。
「ふむ。其れはもっともだ」
「おっと、それに空だけではない。地上にも星はある。道標になるかもしれんな」
と、UNKNOWNがある人物を指差す。そして、恭しく拝んでいた。
「冗談きついですねぇ。あんのん君。はいお代わり持ってきましたよ」
その、指を指された人物が、苦笑してコーヒー入りマグを持ってきた。
「ああ、ありがとう‥‥。うっ!」
UNKNOWNは、コーヒーを口にすると思わず吹き出した。
「濃いめに入れたな?!」
思わず声をあらげる、UNKNOWNだった。
スティンガーは、濃いめにズブロフを入れていた。普通の気付け程度のアルコール量のつもりで酒入りコーヒーを飲むのだ。配分違えば、咽せる可能性が高いだろう。
「その星からの罰が来たんですよ」
そのやり取りで、周りはどっと笑った。
クレイフェルは、
「腹筋崩壊!」
妙にツボに入ってた。
●接近
夜も深まり、フィアナ達は眠る。
たき火の燃える音だけがする。明かりは漏れないようにしているが、少しは目立つものだ。暗視スコープを順番に借りて、歩哨が立っている。
「このままなにもあらへんといいんやけどなぁ」
クレイフェルが、暗視スコープを目にかけて、見張る。
遠くで何かが動いた。赤い反応‥‥。
「5‥‥10。ありゃ狼か?」
「なに?」
メディウスと秋那とみづほが、武器を持つ。
「キメラがこっちに走ってる!」
「迎え撃つしかないか!」
流石に荷物をまとめる時間はない。
「距離40m!」
「クレイフェル、みづほ! 皆を起こして! あたしは前に出る!」
「上手いこと隠れていたか! キメラども」
メディウスがビームガンで援護射撃。
そこで、1匹が倒れていく所を確認したが、そのキメラが爆発する。
「!? 自爆型なのか?!」
「ここによせたらあかん!」
「みな、起きて!」
みづほとクレイフェルが他のメンバーを起こす。
秋那が囮になって、このキメラの群をテントから自分に興味を惹き付けた。一番近くのキメラをアーミーナイフで斬りつけた。
すぐに休憩メンバーは戦闘態勢に入り、クレイフェルがすぐに駆けつけ、秋那と対峙しているキメラをルベウスで切り裂き倒した。このとき爆破はしなかった。
「厄介なもんが生き残っているな!」
他のキメラをルベウスで切り裂き、テントに近づけさせない。
「――Hier bin ich」
続いて崎森が居合いで切り伏せ1匹を倒す。
あと、7匹。
藤村も月詠を振るい1匹、秋那も1匹ずつ倒していく、
「フィアナ! 離れていろ!」
UNKNOWNが、叫んでスコーピオンを撃ち続ける。
「此処までこさせない!」
皐月のスキル全開の射撃で、キメラが一匹粉砕されるが、
「逃した!」
もう一匹がまだ生きている。
「大丈夫だ。仕留める」
メディウスのエネルギーガンがその目標を焼き殺す。
残り1匹。
みづほが、長弓に矢をつがえ‥‥、射る。
その隣には、今まで頭に無かった『髪の毛』を生やした20歳程の若さのスティンガーが、アーチェリーボウを構えているのだが、その姿よりも、彼の射る矢の方が奇妙で印象強くあったため、目を見張るものだった。
――長針のように、細かったのだ。
2人で同時に放つ矢は、残りのキメラを捉え、仕留めることに成功した。直後に爆発するキメラ。
「ふう、間に合った」
汗をぬぐうスティンガー。
「お見事でした」
「いや、みづほ君のほうが凄いですよ」
と、2人はハイタッチでたたえ合う。
「ほむ! 皆さん凄いですネ!」
フィアナやスタッフ達を庇うように構えていた赤霧が拍手をしていた。
この遭遇で、他のキメラが来ないかと皆は警戒したが何もなく、数時間後に朝日が見えてきた。
●難民キャンプに
赤霧の朝食を摂ってから、テントをたたみ、出発する。快晴、風はあまり無い。
遠くの方でキメラが叫んでいるので、気付かれない内に迂回をした一行。その数時間後の事だ。
「調子よく行けば、今日中に付きそうだな」
メディウスが煙草をくわえて、車窓を眺める。
激戦の戦場跡が徐々に綺麗な田園風景に変わっていくからだ。人としての普通の営みに変わっていくのは、何かしら不思議な感じもする。
「あと、数マイル。道も綺麗になってきたし。大丈夫だな」
バイクを乗って先行し、危険を回避する組からもその話が出ていた。
19時程にキャンプに入った。勿論危険かどうかのボディチェックを受ける。OKが出たところで、無事に中に入っていく。其処にはかなりの数の警備兵や、医者なのが沢山いた。赤十字にタンポポの花を付けている紋章のテントがあちこちにあった。
「すごい規模が大きいな」
「医療の団体‥‥『ダンデライオン』のテントのようです」
フィアナが言う。
「医療?」
スティンガーが首をかしげた。
「はい、この米国両大陸で、戦禍に巻き込まれた人を救い、治療を施す組織があると聞いています」
「なるほどね。昔の赤十字に近いわけですか」
おそらく、噂で此処の難民キャンプは広まったのだろう。
「さて、指定された場所にテントを張って、今日は休もう。明日からは忙しい」
藤村が言う。
「‥‥うむ、楽器は無事だ」
UNKNOWNがトランクから楽器を取り出す。そして、持ち主に渡していった。
みづほとメディウスだけは一度、警備本部に顔を出して行くという。
「キャンプ滞在中、警備について打ち合わせをしておきたいのです」
みづほがそう言った。
●難民キャンプ1日目
そして朝。
「ああ、よく眠れた!」
皐月が背伸びして起きあがる。
実際ベッドなどの方が眠りやすいが、慣れると違ってくるようだ。
今日は、バンドの打ち合わせだ。3日滞在で2日目にコンサートをする事になる。出発前に少し練習した程度で上手くいくのかというとそう思えない。しかし、気持ちを一つにすれば、上手くいくだろう。
みな、全力投球で望むつもりでセッション練習に入っていた。
「im pami pim pim♪ ん、もう少しiのアップは速い方がいいかな」
「OK。少し変えてみるか?」
ある程度、バンドは良い感じにコンビネーションが整ったころ。
「あ、ドラムだ」
「ねぇねぇ? なにしてるの?」
「明日は楽しみにしてほしい」
子供達に見つかって、皐月や崎藤、赤霧が取り囲まれていた。大人達が慌てて子供を彼女たちから引き離しそうになるのだが、
「ほむ! 大丈夫ですよ。私たちはフィアナ・ローデンの慰問できています」
赤霧が笑みで大人に話す。
「ああ、明日にコンサートを開くのでよろしく」
クレイフェルが、説得を始めている。
「ああ、噂では聞いていた。慰問音楽演奏の事は本当だったんだ‥‥」
思い出した難民の1人が言う。
警戒心が解けたのか、大人は安堵し、子供達は傭兵達に色々話しかけてきた。UNKNOWNは子供達に草笛を教えて、秋那は子供達に両腕にぶら下がられて、妙に懐かれていた。他のメンバーにも子供達が集まっていく。お菓子やジュースを広げて話こみ、楽器を少し披露などささやかながら交流がされていた。
フィアナが、リズムをとって‥‥そして徐々に歌い始める。
そう、そのまま子供達に聞かせる小さな小さなコンサートになっていった。
「フィアナ・ローデンが来たんだよ」
徐々にキャンプ内に話が広まっていく。本当に此処まで来たこと、それに驚いているらしい。実際は楽器が固まっているところに人が集まるのは必然だが、もう一つの理由は別にあった。
医療キャンプには練習休憩中にスティンガーが鍼を施術している。テントの入り口に、フィアナのポスターがあったのだ。
「じっとしてくださいね」
ズブロフを消毒液にし、『ダンデライオン』からも少し人や医療道具を借りていた。腰や肩の痛みを訴える人が並んでいた。
みづほとメディウスは周辺情報を整理し、トラップをいくつか設置する。
「音に反応してくる連中が、来るかもしれないから‥‥。絶対に止めてみせる」
彼女はそう固く決意をしていた。
「我らだけで守るだけではないようだな。これは大きな力だぞ」
メディウスがとある場所を指差す。
見知らぬ能力者や警備兵、医療組織の何名かも集まって手伝ってくれていたのだ。
そして、その日は色々あった事に話題が持ち上がったのだった。
●難民キャンプ2日目
「緊張するです!」
赤霧がヘッドホンを付けて固まっている。
彼女は最後に仕上げた曲を何百回も聴いているのだ。忘れないように。
「歌い、踊り各々の想いを表現しようではありませんか。俺達はそれを手助けしますから」
スティンガーがフィアナに言う。
フィアナは頷いた。
フィアナのコンサートの準備は万端。まずは、前座でUNKNOWN達のバンドが歌う事になっていた。
「はじめに、傭兵の皆さんのバンド『From LastHope With Love』です!」
ギターの皐月、キーボードの赤霧、ベースの藤村。クレイフェルと崎森のヴァイオリン、サックスのUNKNOWNと、トランペットのスティンガー。ドラムの秋那だ。
まずは、ジャズ、ポップスなどで雰囲気を盛り上げていく。人の心をいやしていくことがステージからでも分かってくる。最後に、フィアナの『希望』をカヴァーして、一旦終わる。
人だかりになり、コンサートというより、お祭りになっていった。
あとは、ヴァイオリンの二重奏やサックスで大人を落ち着かせる時もあれば、ギターやドラム、キーボードを駆使した軽音楽のポップスにトランペットの軽やかな音が上手くミックスされ、若い人達を活気づかせていく。ステージは盛り上がってきた。
そろそろ、フィアナの出番であった。
「やはり音を聞きつけたか」
メディウスがエネルギーガンで一匹のキメラを撃ち殺す。
その数は数えたくはない。
トラップのおかげで、まだ相手の侵入を赦していない。
「絶対に、阻止する」
みづほは弓を射続ける。
さらに、難民キャンプの警備兵や、白衣の医者も看護士も武器を取り、キメラと戦っていた。
様々な想いを込めて守り抜こうと、一つになっていた。
1時間の激闘。それはフィアナの綺麗な歌と観客の歓声が聞こえる事で、幕を下ろした。
「守り抜けた‥‥」
みづほは、覚醒を解いた。
其処には不思議な充実感があった。
フィアナの歌声は本当に綺麗で、隣にいたクレイフェルが、
「うわ、ほんまもんの歌姫や」
驚くほどであった。
「ふむ、まだ終わってないようだな」
疲れを酒で癒すメディウスがみづほと戻ってきたようだ。跡の処理は警備兵がするということらしかった。
夜になっても祭りは続く。難民キャンプは暗い空気ではなく、明るさが際だっている。
キャンプファイアに、この地域で流行っていた踊りとフォークダンスのようだ。いつの間にか増えているギターと、赤霧のキーボードが、その踊りの曲を奏でている。
楽屋裏のようになった皐月のテント近くで、フィアナがその雰囲気を楽しんでいると、若々しいスティンガーが、恭しくお辞儀をし、
「一曲ご一緒していただけますか?」
と言う。
踊りの誘いだ。
「はい、喜んで」
フィアナが彼の手を取った。
フィアナとの皐月とも更に仲が深まったようだ。ギターを弾き、踊り、疲れている皐月だが、気持ちが良いようだった。
「かなり大騒ぎで楽しいね」
フィアナが紅茶を差し出す。
「ああ、ありがとう」
「踊りもギターもうまいね、マイア」
フィアナはいつの間にか下の名前で呼ぶようになっている。
「こう見えても、バルで働いていた頃は『音奏で舞う小さな妖精』だなんて褒められて‥‥。あ、信じてないな、コイツめっ!」
皐月はフィアナの『へえ』と言う表情をみては、彼女の頬を引っ張った。
「まだ何も言ってない〜!」
「ほむ! 何か楽しそうですネ! フィアナさんに皐月さん!」
「本当仲が良くなったな」
崎森と藤村、クレイフェルがそれぞれの持ち物を持ってきてやってくる。
みかんを一緒に食べ、談笑する。
UNKNOWNやスティンガー、メディウスと秋那は其れを楽しく眺めていた。
こうして、難民キャンプでの慰問は大成功に終わった。
●おわりに
無事にフィアナとスタッフをラストホープに連れて戻れた一行。
「また、何かあったら、来るから」
「はい、本当にありがとうございました」
フィアナはお礼のお辞儀をする。
スタッフも、ありがとうとお礼を言い続けた。
別れの抱擁で締めくくる。
そのあとに聞いた話。
この慰問コンサートはニュースで報じられた。