●リプレイ本文
●実験場
高速艇が、広大な私設空港のような広い場所に着陸した。『実験場』に来た能力者のKVが降ろされる、倉庫に入れたいのだが、誰もいない。
「こんな所で、やっているのか」
はじめに降りた白・羅辰(
ga8878)が周りを見て言う。
見渡す限りの荒野。古びたガソリンスタンドでもあっても不思議ではない。風が、枯れ草を丸めて転がしていく。
風雨にさらされたコンクリートの管制塔と、大きな倉庫が数棟、打ち捨てられたれた基地のようにもみえる。
白鐘剣一郎(
ga0184)とメディウス・ボレアリス(
ga0564)、南雲 莞爾(
ga4272)とUNKNOWN(
ga4276)、クリア・サーレク(
ga4864)、比企岩十郎(
ga4886)、アキト=柿崎(
ga7330)、加賀 弓(
ga8749)、そして狭間 久志(
ga9021)は、周りをみる。
丁度広場の真ん中に、奇妙で巨大な加湿器のような機械、何かの固定砲のようにみえる物体が置かれていた。何かしら怪しいマッドサイエンティストを彷彿とされるようなデザインだった。
「ふむ、今はあそこには居ないようだな」
メディウスが、遠くを眺める仕草をして、確認する。
「KVに乗っているとふと忘れるが、エミタを介さずこうした精密機器類を取り扱うというのは中々気を遣うものだったな」
白鐘が、苦笑混じりで呟く。
彼は戦いの専門故か、生活関係の文明の利器にとんと疎いらしい。
「まずは探そう」
おそらく管制塔にいるのだろうと思い、建物の中にはいると、埃が積もっている箇所が多い。
「あ、足跡」
つまり、人がいればその後がはっきりと分かる。
その、埃を踏みつけて出来た道をたどっていくと、宿直室と、給湯室などにつづいていた。最後には一際大きな扉だった。いかにも偉い人が居る部屋の入り口だった。
「この辺が怪しいな」
南雲がノックする。
返事はない。
クリアが、ドアをすこし開ける
「おじゃましまぁす」
その隙間から覗くようにして中をみる‥‥。
「こ、こここ!」
クリアはびっくりしている
「鶏か? ‥‥‥こ、ここここ!」
UNKNOWNも確認すると、同じ反応だった。
「遊んでないで、開けろよ‥‥」
白が、豪快に開けると、
「なんですかこれは!?」
狭間も声を出した。
ゴミの山だった。当然人が住むには無理と思う状態になっている。
「死体になっていたら嫌だな‥‥」
「こ、これほどまで、とは‥‥」
南雲と加賀がふらついてしまう。
「ああ、びっくりだ。まさか現実にこういう物に出会うとは‥‥」
白鐘も焦る。
「エスティヴィアさん! どこですかっ!」
クリアは大声で叫びながら、あちこちを探す。隙間にいるかもと、様々な箱も開けてしまうほどだ。
「流石にゴミ箱には居ないだろう‥‥ん?」
比企が何かを見つける。
うまく、ゴミを分けて進む道があったのだ。
「たぶんこの先だ」
バランスをとりながらすすむ。
奥の方に、応接用のソファと、大きなデスクがあり、デスクにある、ノートパソコンとデスクトップパソコンが無造作に置かれていた。周りには沢山のサーバータワーがある。これらのファン音に交じって、寝息が聞こえている。
「?」
裏に回ると、女性が丸まって眠っていた。デスクの真下。
「おーい、おきろー」
揺すってみる。
「ううん。ん??」
目を細めて女性が比企を見る。
「ああ! エスティヴィアさん!」
クリアと加賀が急いで、駆け寄った。
「まずは話より! お掃除が大事です!」
「其れは同感です。これは‥‥流石に」
「ん?」
机の下で丸まっていた女性はまだ、状況を理解していない。
「そ、そうだな。掃除を先にしよう」
「本当に家事手伝いだな」
苦笑するのは南雲と白鐘だった。
(「――確かに力仕事だな」)
加賀が風呂を沸かし、アキトが台所の掃除をし始める。他の人がこのゴミ場を片づける。
クリアが、ある地点を掃除しようとすると、
「そこは我(オレ)がやる」
と、メディウスがその地点だけを率先してやることに。
「は、はい」
黒い木箱‥‥否、オーディオラックだった。各種プレーヤーとTVが綺麗に納められていたのだが、日本のアニメの各種メディアのタワーが出来ていた。まだぼうっとしている女性・エスティヴィアに、
「こいつ、動くぞ」
と言うと、
「認めたくない物だ、若さ故のあやまち‥‥を」
反応が返ってきた。
その言葉だけで、2人は何かを通じた(片方寝ぼけているけど)。
数回、アニメ監督の事、ロボの性能の問答とメディウスの好みの談義が始まるが、その中で、
「ああ、出来れば監督・作品とわけてほしい。可能なら、年代別に」
「わかった」
メディウスからすれば「ほしい」と言わんばかりの量を、綺麗に纏め、ラックに収めていく。
まだ、ぼうっとしているエスティヴィアを加賀とクリアが
「お風呂沸いたので入りましょう」
と、連行されていった。
「え?」
マジなのか態とか、全く分からないリアクション。
彼女はちゃんと目覚めたのはその後である。
そう、何が起こったのか分かっていないぐらいの悲鳴で‥‥。
「やっぱ、寝ぼけていたか」
●映像実験の説明
「あ、また寝ていたのか、あたしは。いやすまない。」
「人として、生活が心配だ。研究も良いが、最低限の人としての生活をしてくれ」
と、全員につっこまれる。
「ああ、本当に済まない」
湯上がりで、綺麗な服を着たエスティヴィア。一寸赤面でションボリ気味だ。
気を取り直してから、気を引き締める彼女がこう言った。
「あたしは、エスティヴィア(gz0070)。14研究所マロッコ機関の室長だ。よろしく」
各人に挨拶と握手をする。
UNKNOWNは彼女を椅子に座らせる。
「で、今回どういう助手をすればいいのかな?」
彼は布を彼女の襟元からまく。
「あたしは、特殊レーザーにて立体映像と平面映像の開発を行っている。空気中に特殊粒子を散布させ、データを詰めたレーザーを当て、空中にて画像を映し出すものだ」
「夢のある話だ」
白鐘とアキト、白、加賀は感心する。
「興味深いな」
メディウスも不敵な笑みをこぼしている。
「しかし、80年代に、そうしたテストは数多くされていたが」
「今の時勢を考えてみて、バグア襲来にそれどころではなくなったんじゃないかしら?」
男の問いに対しての、エスティヴィアの答え。
「たしかにそうだな」
UNKNOWNは、どこからはハサミと櫛を取りだし、エスティヴィアの綺麗な金髪を梳いていく。そして綺麗に、整えるようにカット。
「あ、映像技術以外にもちょっとあるのよ。それに能力者でないと、今回の機材は動かせないから。まえは、普通に電気を使っていたけど、SESを使うので、同調しやすい能力者がうってつけなわけ」
「それなら納得だな。質問良いか?」
黒ずくめの男は、この科学者に尋ねる。
「今分かることなら」
「なぜ、粒子にこだわる? 光自身の特性を生かせばいいかもしれないではないか?」
「まあ、今回粒子製造が主体なのよ」
「そうか。まずステップごとに。か」
エスティヴィアの頬を少し触って、考える。
「では、KVがSES武装に使う、コネクタかどこかに電源変換装置を接続して電源供給するのですね?」
「そういうこと。まあ、言葉で説明するより‥‥さてリモコンは‥‥」
エスティヴィアが、ポケットに入れている小さな機械を取り出すと、スイッチを押す。
綺麗になったデスクの上が大きな画面となった。だいたい32型TVぐらいでの風景映像だった。
真横から見ると、一本の光の筋。しかし、表裏からしっかり画面が見えていた。
「完成しているじゃないですか?」
アキトが言う。狭間が頷いていた。
「いや、此は機嫌が悪い子なのよ。まだ、このシステムでの一般化は無理。かなり偶然の産物に過ぎないわ」
つまり、デスクの中央に粒子噴射装置が出来ているのだが、此は管理趣味の域で完成度はまだらしい。これは3分ぐらいで、煙を噴いて画像が消えてしまった。
「あ、納得」
「となると、一般化‥‥つまり製品化に向けたのが今回の実験は‥‥KVは電源‥‥面白い」
UNKNOWNも納得しながら彼女の髪を綺麗にセットする。そして又どこからか、パックと化粧品箱をとりだし‥‥、彼女にパックをし始めた。
「粒子も外的要因だしな、風の影響などを受ける訳か」
南雲が考える。
「そうなのよ。滞空可能にするにもやっかいなのね」
気持ちよさそうなエスティヴィア。黒い男がマッサージをしている。
「メディウス君。ここに、実験器具の説明書があるから読んで」
「わかった」
その説明書はかなり専門的なことが書かれているのだが、かみ砕かれて他の人にも分かりやすいものだった。論文ではない。それを、他の8名に説明した。
「此なら機械を知らない我々も手伝えるな」
白鐘が安堵している。KVに搭乗しながら接続する方法なら安心だ。
「ふむ確かに此は興味深いな‥‥。む?」
一部かすれたメモ。
しかし、メモとしては文字が英語でもイタリア語でもないかもしれない。
「ダヴィンチ筆記? おい‥‥って」
メディウスが尋ねようとすると固まった。
「UNKNOWN、なにしてんだよ」
ある男以外が黒い男に尋ねる。
彼は、エスティヴィアのメイクも終了していたのだ。
「いや、美人がもったいないからな」
「其れはオレも同意見だ」
白が頷く。
「‥‥あまりにも、自然すぎたため、今までつっこめなかったですね」
狭間の感想。
「紫煙の助言者じゃなく、黒き美容師か?」
「今回はたまたまだ。しかし、候補になりそうだな」
不敵な笑いをするUNKNOWN。
又彼の謎が増えたことは言うまでもない。
●夕食
気が付けば夜になっている。実験は明日に延期となる。
「エスティヴィアさん、何を食べたい‥‥ですか?」
狭間がエプロン姿で尋ねる。
クリアも加賀も、アキト、白もエプロン姿だ。
「あー栄養バーもあきたから‥‥肉―肉食べたいかなぁ」
「肉ばかりではなく野菜もたべましょうよ!」
クリアがお母さんのオーラ炸裂で、しかった。
「ぜ、善処しよう」
「ステーキにサラダって所か」
メディウスや暇になっている男一部は一緒に、懐かしいロボットアニメを観ていた。
「かなり集めているな。この場面が感動なのだよ」
「そうだよな!」
「おい、俺を差し置いて抜け駆けはやめてくれ!」
白が悲しそうな顔をする。彼もまたアニメ好きだった。
「あの、高画質版+ディレクターズカットのアニメも手に入れたんだけど観る?」
エスティヴィアが参加する。
「其れは勿論観る。隠していたな!」
南雲だけは、其れを観てかなりため息を吐いていた。
「ヲタクだな‥‥。エスティヴィア、話がある」
「なぁに? 坊や?」
「坊やと言うな。色々仕事熱心(?)なのは分かるが‥‥、すこし悩みことなどはないか?」
と、優しい口調を努めながら、彼はこのずぼらな科学者に、色々話をしてから、悩みがないかとか尋ねるのであった。
「悩みねえ‥‥。祭典の規模が縮小されたことぐらいかしら」
「はぁ?」
「東京陥落したから、あそこの祭典も大阪へ移動したのよ。無くなるよりはマシだけど、ショックと言えばショックよね」
「祭典だと!?」
メディウスが反応した。
「あそこで大きな祭典しかアレしかない!」
「だよね! メディウス君!」
2人は熱い握手を交わした。
「違う、生活面で、だな」
「うーん、やっぱ1人では苦しいね」
助手でもいるのではと思ったが、大型実験では人が居ないらしい。
「まずは生活からです!」
クリアが、可愛く怒っている。
「エスティヴィアさんは今からベッドで寝て下さい! しかも机の下で寝るなんて!」
「えー、今から皆でアニメ観賞会しようとしたのに」
とっても残念そうな顔をするエスティヴィア。
「だめです」
クリアはおたまを持って彼女の手を掴む。
「うわああ、あ、秘蔵のロボアニメは、デスクの下の引き出しの上げ底の下よー♪」
と、クリアに引っ張られて無理矢理寝かされた。食事が始まるまで。
「‥‥大人として、どうかと思うな‥‥」
比企が苦笑した。
そして夕食。
白曰く『明日から筋肉50%アップだ!』のステーキとサラダに、色々な料理が並べられ、楽しく食事を済ませていく(野菜と奮闘するのを考慮し、食べやすく料理したのは女性陣である)。勿論アニメ談義が多いのだが、簡単な科学的質問も多くでてきた。
「なぜ、こうした物を?」
クリアや、メディウス、狭間が尋ねる。
「うん、子供頃の夢というと、小さくても大きいけど、あたしが考えている先のことの第一歩なのよ」
空を観る彼女に、全員は、胸に何かを感じていた。
「あ、明日の映像は、先ほど見逃したディレクターズカットよ」
「おっし、テンション上がってきたぜ!」
白はご機嫌であった。
●実験の成果は?
朝。
快晴。無風。
「結構眠れたな」
「で、エスティヴィアは?」
「まだ寝てる」
メディウスが言う。
「疲れが一気に出ているのだと思います」
クリアがいう。
「根を詰めすぎは良くないと、注意したのですが、限界点だったのでしょうね」
アキトがため息を吐いた。
その間にセットするも。
メディウスが指示し、ファイルに乗っ取っての組み立て作業だ。重機としてもKVを使うのだ。できあがったのは、奇妙な形の砲台だった。レーザー射出機の前に、粒子噴射・安定装置という形。サンプルとして見せて貰ったデスクのそれより、いびつなのは仕方がない。そして、エスティヴィアが起きてきて、再度点検と指示を出し準備完了。
では、実験を開始。
メディアを入れて、スイッチを入れる。同時に全員覚醒する。
目には見えない何かが吹き出しているようだが、それによって、映像が空中に出てきた、真横からは一筋の光。しかし、放射光先からではしっかり映っている。
「なんだ? 電力の消費量が尋常じゃないな」
このアニメは40分ぐらいと言う。其れがギリギリ‥‥終了した。
「やった! 目標達成だ!」
ガッツポーズをとる科学者。
しかし、全KVのエネルギーが尽きてしまった。11機のうち9機がガス欠。
「爆破はなかったが、燃費が悪いというのが難点だな」
「そうですね」
後はデータ解析による物らしい。
「今回はありがとう。後で振り込むからね」
と、エスティヴィアはまた全員に握手して別れを告げる。高速艇が来てKVが搬送されていった。
「ああ、新しく映像装置を完成させてくれ」
と、皆は応援する。
最後に、白がいう
「エスティヴィアさん、美人なんだし早くいい人見つけろよ!」
「貰ってくれる人いる?」
苦笑してしまうエスティヴィアだった。