●リプレイ本文
●事務所の中は大わらわ・再び
遠くからでも、何か騒いでいる声が聞こえるローデン事務所。一寸したテナントビルのようなそういう雰囲気だが、人が住めるような設備が見え隠れしているため、変わったオブジェに見えそうな気がする。11名が其処に向かってぞろぞろ歩いていた。
「失礼するぜ」
ストリートファッションで身を固める、陽ノ森龍(
gb0131)がローデン事務所のドアをノックしてからはいる。
「うわああ」
「うおおお」
「ニャー☆」
思い思いの驚きの声が聞こえる。
「あのときの再来でしょうか?」
男物の着物姿がいつもの格好の水鏡・シメイ(
ga0523)が苦笑していた。
「スケジュールあってる? 会場の手続きは?」
「記載ミスあるぞ! やり直し!」
「ひいい」
そう、前のミニライヴにての修羅場だった。
突発的なことのためか、スタッフ全員が急ピッチで準備をしているのである。
「‥‥ん。かなり、手伝う。大変」
可愛い感じの赤と黒の最上 憐 (
gb0002)が呟くように言う。
「では、私たちもお手伝いしましょう」
「そうだニャ〜☆」
常に両手両足にチェーンを付ける印象的ファッションの緋霧 絢(
ga3668)と可愛い服装でネコっぽい(いや猫のビーストマンだからなのが)アヤカ(
ga4624)が一歩踏み出す。いかし、狭い事務所の小物に当たって、
「きゃあ!」
「ニャア!!」
バランスを崩す。
「おおっと。だいじょうぶ?」
2人を、男の子っぽい元気な娘、葵 コハル(
ga3897)と、正反対に女性『みたい』な男、鳥飼夕貴(
ga4123)が2人を抱えた。
「ありがとう」
「この先はなかなか進めそうにないな」
鳥飼が呟いた。
「ローデン君、フィアナ・ローデン君」
「フィアナさーん」
あまり格好を気にしない白衣の女性、メディウス・ボレアリス(
ga0564)が大声で呼ぶ。シメイも彼女の名前を呼んだ。
「あ、メディウスさん! シメイさん! お久しぶりです!」
フィアナ・ローデン(gz0020)が足場のないこの難儀な所を、軽やかに進んで駆け寄ってきた。
「色々大変みたいだな」
「え、まあ、色々と‥‥」
メディウスの問いに困った笑顔であった。一寸汗がにじんでいる。
「我(オレ)達が来たには、もう問題ない」
と、親指を立ててメディウスは言う。
「まずはフィアナさん、CD完成おめでとうございます」
シメイが花束をフィアナに渡す。
「シメイさん、ありがとうございます」
笑顔のフィアナ。
「CDデビューおめでと! フィアナ! 嬉しくってついつい手伝いに来ちゃった」
「コハル! ありがとう!」
コハルがニコニコして呼びかけると、二人してハイタッチする。
「フィアナ様、本日はよろしくお願いいたします」
絢がお辞儀する。
フィアナも
「はい、こちらこそお願いします」
と、お辞儀をした。
「そうじゃな。わしたちは何をすればいい?」
強面の男だが、雰囲気が何となく気さくと分かるオブシティン・バールド(
gb0143)が訊ねる。
「会場の手続きは、スタッフがやってくれますので、皆さんでチラシ作成と配布、ステージ設営、警備、楽器演奏などをお願いしたいと思います。もちろん‥‥」
フィアナは雰囲気から察したのか、楽器に関するアクセントがある小鳥遊神楽(
ga3319)と乾 幸香(
ga8460)、アヤカに葵、緋霧を見る。
「ステージ参加も大丈夫です。販売も大事ですが、ミニライヴとして申請できます」
「なら、じっくり話し合って、色々決めましょうか?」
乾がほんわかと言う。
「先に多々付けを手伝おう。そのほうがいいね」
小鳥遊が言うと。全員が頷いた。
「いきなりで済みません。みなさん、よろしくお願いします」
フィアナが深々と頭を下げた。
このとき力仕事が得意な人物が増えると、一気に掃除ははかどったのである。そう、状況に合わせて覚醒すれば、サイエンティストでも一般人の数倍以上の体力を引き出せるのだ。便利な力である。
「これが、CDなんだニャ?」
アヤカが、大きめの段ボールをみていた。枚数は1000枚ぐらいだろうか?
「はい」
フィアナが答える。
ある程度綺麗になってから、ここの会議室に12名がはいる‥‥わけがなく‥‥、何名かは入り口手前で椅子に座って聞くしかなかった。
あーでもない、こうでもないと色々案をだす。着ぐるみを着てチラシ配りをする。設営の手伝いをする等々。
「さて、分担ですが、こうなりますね」
と、乾がホワイトボードで書き連ねていく。
『ステージ司会:アヤカ
ギター:小鳥遊
キーボード:乾
バック・コーラス:緋霧、葵、小鳥遊
前座:IMP(緋霧、葵)と「Twilight」(乾、小鳥遊)の演奏。
チラシ作成:フィアナと小鳥遊、乾、緋霧、葵
ナイトフォーゲルの着ぐるみでチラシ配り:オブシティン、メディウス、シメイ。
プラカードをもって呼び込み:最上
呼び込み・アピール:陽ノ森
裏方・警備:鳥飼
なお、終わった後、販売開始にはフィアナの握手とサイン会もふまえる』
と書かれていた。
「後は各自手が空けば、手伝うことで良いでしょうか?」
「そうじゃな」
全員異論はなかった。
ただ、鳥飼はあまり喋らなかった。誰かが、訊ねると。
「俺は頑張るやつを応援したいだけ。このライヴで、もっとフィアナのことをみんなに知ってもらえればいいな」
と、あくまで、裏方であるという意味で、答えるのであった。
●準備
「流石にナイトフォーゲル着ぐるみは自作か」
メディウスが煙草を吸う。
シメイとメディウス、オブディシンは着ぐるみを着てチラシ配りをするのだが、自作をしないと行けなかった。ナイトフォーゲルの着ぐるみと、クマの着ぐるみなのである。
「仕方ありません、自腹で作りましょう」
シメイが言う。
「傷んだ着ぐるみも使って下さい」
フィアナがそう言うも、少し足りない。
「では、わしも一緒に向かおう」
「クマならあるだろ?」
メディウスが不思議な顔をする。指差した先には、確かに、クマの着ぐるみがある。見ただけで和むというか脱力するような、癒し系のクマだった。
「‥‥リアルなクマなんだ」
「‥‥‥‥捕まるぞ‥‥‥」
シメイとメディウスはオブディシンの真面目な答えに、そうとしか答えられなかった。
フィアナと絢、コハル、小鳥遊、乾、アヤカはまず、ステージのスケジュールの打ち合わせ、チラシ作成に取りかかる。鳥飼はそのサポートをする。おにぎりと簡易スープを作って、皆に渡したり、スタッフとともに設営準備を手伝ったりしていた。最上も黙々とプラカードを作ると、陽ノ森も手伝っていた。
「プラカードのデザイン等は任せろ! オレも持ってやるからな! 同じ物でも一寸違う物って奴だけど」
陽ノ森はウィンクして見せたが、最上は無表情に、
「ん‥‥ありがとう」
と返すだけであった。
チラシを作って、サンプルをプリントアウトする。
「ここの文字は何が良いかしら?」
「赤だと目立つけど一寸おかしいですね。フィアナ様」
「開催日時も‥‥よし」
「こんな感じで良いかもしれませんね」
協力ゲストに、「IMP」・「Twilight」の文字を入れ、フィアナ自身のジャケットをベースに日時と場所、価格などを書いていた。
小鳥遊はフィアナにこう言った。
「フィアナさんのような戦い方。素敵だと思うわ。あたしにもそれだけの勇気があったなら、同じように戦えたでしょうにね」
「そんなことありません」
「え?」
その言葉に小鳥遊は目を丸くする。
「いま、あなたか此処にいる。でも、小鳥遊さんは、まだ音楽を諦めていません。これからもお互い頑張りましょう」
と。
つまり、途中で辞めているわけではないのだと、フィアナは言いたかったのだ。
「ありがとう」
小鳥遊は微笑んだ。
着ぐるみの材料を持って帰ってきた3人だが、なぜかペーパークラフト用の上質紙もある。
「? なんですか? それ?」
「ん、スカイスクレイパーのペーパークラフトを作ることにしたのだ」
「おお! それは面白いっすね!」
「ん‥‥間に合う?」
「はっはっは! 覚醒したときの我らのスペックで出来ないことはない! とはいってもペーパークラフトのこれはネットからダウンロードしてプリントアウトするだけだ。フィアナ君、プリンターを借りるぞ」
「はい。どうぞ」
自信ありに言うメディウスであった。そして、そのままプリンターを借りて、印字し始める。
「これだと、カートリッジ買い足しだな‥‥買いに行ってくる。なにか欲しい物あれば言ってくれ」
鳥飼が飲み物など注文を受け、買い出しに向かっていった。
数日後、着ぐるみ組の3人は、一寸燃え尽きていたようだ。
「連続覚醒はきついな‥‥」
と、メディウスは窓を開け、煙草を吹かして外を見る。鳥飼の買ってきてくれた珈琲を飲んで、一服している。彼女の下には完成された、着ぐるみと、チラシとほぼ同じ部数の印刷されたペーパークラフトだった。ちなみに1/48とかなり精密度は高いそうだ。
覚醒して処理速度、器用は上がっても、練力という限界があった。少休止入れて覚醒を繰り返すのも、1日が限度だったようだ。シメイと、オブディシンは、覚醒せず、地道に縫い上げていたのでメディウスの疲労感はない。いま、最終段階に入っているだけだ。
「よしできました」
丁寧に作り込まれた、ナイトフォーゲル着ぐるみ。
素人でも、器用さがあればなんとかそれっぽい物が出来ていた。
「『でぃあぶろ』と『すかいすくれいぱー』の着ぐるみですね」
フィアナが覗き込む。
「‥‥リアルのクマさんですか‥‥」
オブディシンの着ぐるみをみて、彼女は何かを思っている。
「捕まらないと良いのですけど」
彼女は心配そうである。
「まあ、一芸かませば良いんじゃない。人気者になるよ‥‥たぶん」
鳥飼が提案した。
「それはそれで、いいかもしれぬの」
オブディシンは満足げである。
「こっちも出来ました」
緋霧がチラシ完成を言う。他の人もかなり根を詰めていた。
「少し休憩して、チラシ配りに向かいましょう」
朝食をフィアナと鳥飼がおこなって、和洋混合のおにぎりとスープを皆は平らげ、昼頃からアピールのために広場などに向かうことにした。
●チラシくばりでいろいろ
広場や各所で、ビラを配るのは、全員、スタッフ総出であった。
最上と陽ノ森が「今日までの慈しみと明日への希望! 天使の歌声フィアナ! CD『Hope』販売! 場所はショップ街の広場」と書いたプラカードを持っている。最上は無口に、陽ノ森は色々なトークで人にフィアナのCD販売ライヴがあると、周りに伝えていた。
「突発だけどあの有名慰問歌手! 危険な道を歌で癒す歌姫! フィアナ・ローデンのアルバム『Hope』がまもなく販売されるよ!」
陽ノ森の明るい声に色々な人が聞いている。もし、彼がそこでチラシを持っていたら、江戸時代のかわら版売りのような印象を与えそうだ。
「チラシはないの?」
「あ、ごめん、チラシは‥‥隣の着ぐるみの人からお願い」
「おいおい」
やはり持っていた方が正解だった。プラカードだけでは一寸無理があったようだ。
かなり離れたところでの最上は‥‥。
「‥‥ん。ショッピングモール広場でライヴがある、フィアナが歌う、CDも販売する」
と、プラカードを持って、自分なりに宣伝しているのだが‥‥、
「はぁはぁ。萌えなんだな」
「こっち向いてござる」
「‥‥ん。どうして? それに、私、モデル、じゃない‥‥」
いかにもヲタクな男の群に取り囲まれていた。携帯やカメラのシャッター音が聞こえる。それもそのはず、最上が幼い体にバニーガールの格好をしているのだ。特定の人には、『萌え』であるのだろう。
当然、女性陣が猛ダッシュで最上を抱えて、彼方に消えていく。それはもう風のよう。
「カジノか、いかがわしい店と間違われます」
「ん‥‥。ごめん」
素直に謝る最上。
「ちょっと、面白かったけどニャ〜」
普通の服に着直し再び彼女がプラカードを持って行くも、素の可愛さから、また撮影会になってしまった。これでは、宣伝なのか、彼女のイベントなのか不明である。
ナイトフォーゲル着ぐるみ組のシメイとメディウスは順調だ。結構精巧な作りで、動きやすいこの着ぐるみ。自作というのが信じられない。問題なのは着ぐるみ故の性質の蒸し暑さだ。
「フィアナ・ローデンのCD販売をします〜。来てみて下さい。チラシどうぞ」
シメイが、集まる人々にチラシを配っていく。
「うお! かっこええ!」
「これは良い仕事だ」
遠巻きにカメラもちが写真を撮っているが、手にはチラシをもっていた。
「わぁ! すごーい」
子供がわらわら、スカイスクレイパー着ぐるみに集まる。
(「うむ、つかみは好調だな」)
彼女は心の中でほくそ笑み、チラシと、完成品のペーパークラフトと、型紙の印刷物を共に、チラシを渡した。
「わーい! 後で作ろう!」
「ありがとう!」
子供は大はしゃぎであった。一緒にいた親達はお辞儀をして去っていった。
順調のようだった(ちなみに、彼女に「なぜペーパークラフトを作ったのか?」と問うと、「深い意味はない!」と自信ありで答えたため、本当に深い意味はなかったようである)。
しかし、オブディシンのほうは芳しくない。流石に顔がクマの剥製並みにリアルだと、怖い。それが二足歩行なのだ。余計怖い。誰も寄らなかった。前もって警察と役所にはこういうものを着ると報告しているため、捕まるまではないのだが、たまに巡回の人に、
「やっぱりそれは宣伝にはならないと思う」
と、つっこまれるのであった。
「やっぱそうかのう」
裏側で休憩を入れる。チラシは陽ノ森に渡した。スタッフが用意してくれたお茶を飲んで‥‥、
「失敗したかのう」
と、呟いた。
しかし、クマのかぶり物が、動く。
「?」
何かがじゃれている。
「なんじゃ?」
覗き込むと、毛玉がクマの頭でじゃれているのであった。頭にある黒い毛頭が七三分け‥‥の猫。
「にゃおおおおお。かっはー!」
ネコは鳴いて、クマの頭を滅茶苦茶にする。
「うお! ま、まつんじゃ! それは大事な商売道具なんじゃ!」
彼はネコを止めるのに必死になっていた。
●スタジオでも大忙し
アヤカ、緋霧、葵、小鳥遊、乾のチラシ配りは順調であった。それなりに顔が売れていることと美人、可愛い。あと、営業技術は、他の誰よりも優れているとも言う。しかし、彼女たちもステージの方で頑張らないと行けないために、夕方には打ち合わせ、練習の連続だった。
「此処アップテンポで!」
「トラックを聞くと、この流れで、こう行こうかと思うね‥‥」
ちなみに、CD『Hope』は12トラックあるアルバム。シングルで売り出すより、アルバムの方が良いというスタッフの会議で決まっていたのだ。
皆は真剣に打ち合わせしていく、フィアナが歌う所ではバック・コーラスや演奏をするわけだ。その前に2組の演奏がある。
「私たちも『Twilight』の「Fight!」で頑張っていきましょう、神楽」
小鳥遊、乾も「Hope」を覚えて更に自分たちの曲「Fight!」を練習する。
フィアナも、目をつむり2人の演奏を聞いていた。
2人には一寸ブランクがあったため、現役のフィアナが提案を出しては、調整していく。
「ロックですね」
「ええ。でも、昔は有名だったんだよ」
2人は言った。しかしそれも過去の話。今を歌うフィアナとは比べられるかどうかと言うと自分たちは悩む。
しかし、彼女のおかげで又、楽器をもち、歌うことが出来た。自分たちの夢が又一歩踏み出させるのではないかという希望が湧き出てくる。それに、アヤカや絢、コハルという現役かつ傭兵のアイドルもいるのだ。
良い意味で負けては居られないのであった。
IMPの方は「Catch the Hope」を練習する。
何度も歌っているため、ほとんど覚えているしかし、本番のフィアナより目立っては行けない。そのためのアレンジの調整をしているのだ。コードやテンポの調整が難しい。そこでフィアナが、経験を元に調整してくれる。
「こうすれば、明るくても良い感じになるかと思います」
「ありがとう。助かります。フィアナ様」
「ありがとう!」
絢は、休憩中、コハルに提案した。
「IMPの宣伝も考えないと行けませんが、此処はフィアナ様の舞台です。さりげなく、IMPのタトゥシールを貼りましょう」
「そうだね」
コハルはその意見に賛同した。
IMPの緋霧と葵は、フィアナの衣装に合わせる中で、赤と黒を基準としたアクセサリとタトゥシールを付けるという。しかし、フィアナが着る衣装は、 つまり、薄桃か白を基準とし、虹のアクセントがある一寸ファンタジーな物。コハルは「可愛くて何か夏っぽいね」という感想に対し、いつも黒を基調とした服装の絢には対照的で、慣れないためか、赤面し‥‥。
ぷしゅー。という擬音がでた。
自分でこの服と同じ色合いの格好を想像して、恥ずかしくなってしまったようだ。
「だ、大丈夫?! 絢ちゃん!」
「い、いえ、いつもこういう格好ですから‥‥一寸慣れていなくて‥‥」
「こういうワンピース姿、可愛いと思うけど。絢さん」
フィアナが言う。
ぷしゅー。
彼女が慣れるまで時間がかかりそうだった。
さて、前座でもタイミングが必要だ。
まず『Twilight』の「Fight!」か、IMPの「Catch the Hope」、か‥‥。
「どう? フィアナ?」
「まず盛り上げるために、『Twilight』の「Fight!」から入りましょう。アヤカさんお願い」
「OKニャ〜☆」
プログラムメモにアヤカは書く。
「次に、『Catch the Hope』を」
「ニャニャ」
と、前座スケジュールは終わった。
今度はフィアナのスケジュール、主題の「Hope」はもとより、「未来を乗せた飛行機雲」「恋に気付くのは遅いよね」のどちらかを歌うことにする。「恋に気付くのは遅いよね」を聞いた絢はまた「ぷしゅー」となっていたが、なぜそうなるかフィアナ達は聞かなかった。聞きたかったがまあそれは後に差し支えるので控えただけである。話し合いの結果、「未来を乗せた飛行機雲」を歌い、あとはカヴァー、最後に『Hope』という形にした。
もっとも、アヤカが取り出している質問にも皆とまどうわけだが。
『このCDに込めた思いは?』、『どんな人に聞いて貰いたいか?』、『これからどんな活動をするの?』、『恋人はいるのかニャ?』、『好き嫌いはあるニャか?』である。
まあ、CDに込めた思いや、どんな人に聞いて貰いたいか、今後の活動はわかるが、恋人はいるかになると、みな困るわけである。また絢が頭から煙を出すのであった。
女性だけで成り立ったステージになったため、残念なことに鳥飼の出番は表にはなくなった。しかし、その裏に徹する事が出来るので個人的によいと思っていた。
最年長のオブディシンは、
「若い者って言いのう」
と、鳥飼のおにぎりを食べながら、お父さんのような顔になっていた。ちなみに広場にいた猫はずっとクマの着ぐるみで遊んでいた。爪を立てて、噛み付いているのだが。
●本番
ラスト・ホープショッピング街の広場。
裏方は鳥飼と、チラシ配りを終えた手の空いたメディウスやシメイ、陽ノ森、最上が手伝っていく。此処では問題なく、アンプや音響調整なども完了した。
販売ステージも確保。実際はそれほど立派な物ではなく、折りたたみテーブルに白い布を敷いて、平積み、幟を掲げているような露店みたいな物になっている。サインを書くスペース確保もしっかりやった。
「さて、どれぐらい来るかな? って、オブディシンさん、そのクマはかなり怖いのですが」
辺りを警備するはずの陽ノ森とオブディシン、シメイは、裏側に置いたクマのぬいぐるみを眺めていた。
「猫。どうしましょう?」
猫がくっついて離れてない。
「なんだこの猫?」
「かっはー!」
威嚇する。
「どうも熊が好きらしいのう‥‥」
オブディシンは、客席側で普通に聞くことにしているため、そこで不信人物を見つけては対応すると言うことになっているので、クマは猫の好きなようにすることとなった。
メディウスはというと、全員が出払ってからも事務所で寝ていた。しかもかなりだらしなく。隣にはマネキンにスカイスクレイパーをかぶせて準備は整っていた。
フィアナに起こされ、
「ん? もう朝か? おはようフィアナ君」
「はい、本番当日です。これからです」
と、おにぎりとお茶を差し出すフィアナに、
「ありがとう。いつもはジャンクフードばかりだからな。豪勢だ」
メディウスはお茶を飲み、
「では、我は本来の目的である、観客に回るがいいか?」
「はい、今日は本当にありがとうございます」
と、フィアナは最後のつめで、地下のスタジオに向かっていった。
14時スタートとしての1時間前‥‥。
陽ノ森のトークと、最上がチラシを配る風景、そして動かないスカイスクレイパーが辺りを賑やかにしている。
観客席にはメディウスが一番良い席を陣取っており、コーヒーを飲んでいた。
遠くの方で、「みろ、IMPだ」「アヤカがいる」「あれ、Twilightじゃね?」と声が聞こえる。
徐々に人が集まり出し、音楽に興味あるなし関係なく、テーブルに平積みされたCDが気になって、陽ノ森やスタッフに訊ねることが多くなった。
時間数分前。
ソデで、アヤカとフィアナ、コハルに絢、小鳥遊、乾と集まっていた。
「ねえ、円陣組まない?」
コハルが提案する。
「ナイスアイデア」
全員異論はない。むしろ歓迎だ。そして肩を組んで円陣を組む。
「かけ声はフィアナ、お願い」
と、言い出しっぺ丸投げ。
「えええ?!」
「だって、フィアナが主人公だもん」
コハルはニコニコ笑う。
「う、うんわかった」
一息ついて、
「ライブ成功させましょー! ファイトー!」
「おー!」
喝が入った。
そして時間。アヤカがマイクをもってステージに立つ。
「大変長らくお待たせしたニャ〜! これより、フィアナ・ローデンのCD販売ライヴを始めるニャ! まずは協力で来てくれた人の曲を来てくれニャ!」
まず「Twilight」の2人がステージに立つ。
「今回は、助っ人参加と言うことニャ? その気持ちを言って欲しいニャ」
アヤカが小鳥遊に尋ねた。
彼女は、マイクを向けて、少し息を吸う。
「フィアナほどじゃないけど、あたしたちも歌の力を信じているから。今すぐは無理でもきっといつか信じていればきっと変わるから‥‥、だから聞いて欲しい、あたしと幸香、『Twilight』からみんなへの応援歌、『Fight!』」
その言葉で、2人は楽器をならし、歌い出す。
「Fight!」が流れると、人が立ち止まる。
歌い終わると、拍手が聞こえてきた。そしてアヤカのさらなるトークに順調に答える2人だった。
「次は! 有名アイドルIMPの葵 コハルと緋霧 絢なのにゃ! 曲は『Catch the Hope』!」
コハルと綾が、さわやかな衣装を着て、ステージに立ち、『Catch the Hope』を歌い始める。
ここぞとばかりに、人が増えてきた。
シメイや陽ノ森、鳥飼、オブディシンは必死に周辺の問題鑑賞者を捕まえては、スタッフに引き渡しあるべき所に問題の人物を連れて行かせる。もうなんというかゆっくり鑑賞できない。IMPの人気は上々のようだ。
IMPが歌い終わり、その後のアヤカの「今回参加の動機は?」の質問に対しては、
「友達として、同じく歌に携わる仲間としてIMPから応援に来ました。今からフィアナが歌うから、ゆっくりしていってね!」
コハルがマイクを持って答えた(恋人が居るのかとか質問を、コハルは思いっきり照れるとしても、絢がパンクし、ステージにならないため控えた)。
二つのバンド効果でも、客は予想通りの入りだ。ただ、其処から買ってくれる人が居るのかは分からない‥‥。
「さて、今回のメイン、ニャ☆ フィアナ・ローデンなのニャ!」
そして、フィアナがステージに立つ。
「みなさん、こんにちは! このたび、CDを出すことになりました! 沢山の人に聞いて欲しいと思っています!」
と、メイン曲ではなく予定通りの歌「未来を乗せた飛行機雲」を歌う。そこから、アヤカのトークが入った。
「ねね、フィアナちゃん。恋人はいるのかニャ?」
「え? 恋人ですか? うーん、居ませんね」
苦笑する。
「おお! それではフリーなのニャ!」
ニヨニヨするアヤカ。
「え、まあ、そうですね! でも、今は歌を歌って‥‥、皆に勇気を与えていきたいです」
「歌に生きるというすばらしいことニャ☆ では次言ってみようニャ!」
フィアナはカヴァーを歌い、又アヤカと、バック・コーラスと楽器演奏で残っている4人もふまえてのトーク。
そして、最後に『Hope』を歌った。
その歌は希望を乗せて、人々の心に伝えていく、彼女の想いがこもった歌であった。
歓声は暫く止む。数秒遅れて、拍手喝采だった。
「ありがとう! ありがとう!」
フィアナと、IMP、Twilight、アヤカは両手で、拍手に応えたのであった。
●直筆サイン会
余韻を残す前に、アヤカが
「先着でフィアナの直筆サインのCDが手に入るニャ! 急ぐのニャ!」
彼女は言う。
長蛇の列ができた。
しかし、1000人と言うことはない。良くて600人だろうか?
「場所的に小さいことも挙げられますね」
緋霧が考える。
まだ宣伝力が足りなかったか、若干有名度の差という物だろうか、色々な課題はあるようだ。此を機に、改善策を考えようと思う。
客は平積みの所から、CDをかい整理券を貰う。そして、シメイと鳥飼、スタッフが行列整理に精を出している。
しっかり最上が、誘導していた。
「……ん。CD販売の最後尾はここ、一列にちゃんと並ぶ、横入りはダメ」
そして、メディウスはシメイをみて、
「ふむご苦労、水鏡」
「メディウスさん、手伝って下さい」
「我のスカイクレイパーは頑張っておる。我の助力は前日までだ」
勝ち誇ったように、メディウスは整理券を持って並んでいた。
フィアナは、必死にサインを書いて握手をし、1人1人に「ありがとうございました」と言った。
売れたのは、659枚。6割一寸売れたようである。
●打ち上げ
怒濤の1日は終わり、今は打ち上げ。
「かんぱーい!」
紙コップを高く掲げるスタッフと能力者達。
「ん‥‥。美味しい」
最上は、ピザを食べて言う。
「おつかれー!」
やっと、陽ノ森もフィアナと話できるようになった。しかし、
「ああ、あのときはこうすればいいかな?」
「このコードはこうで」
と、音楽の話になると、途中で会話が分からなくなるため、身を退くしかない。
「音楽が本当に好きなんだなぁ」
「まあ、そう言うことだな」
陽ノ森と鳥飼は、ビールを飲んで女の子達を眺めることにした。
ちゃっかりメディウスが此処にいるのは言うまでもなく、
「『ちゃっかり観客』の称号ってどうでしょう?」
「それは、断る」
一寸からかわれる。
着ぐるみ3つについては、持ち帰ることを考えたものの、今後のフィアナのライヴのために、寄付することになった。クマの着ぐるみにじゃれついていた、猫はいつの間にか居なくなっていた。
「大事に使って下さいね」
シメイが言うとフィアナは頷く。
「皆さん、本当にありがとうございます」
フィアナが人数分(メディウスは既に貰っているので10人)、直筆サイン入りのCD『Hope』を渡した。
「ありがとうニャ!」
「ありがとうございます。フィアナさん」
「サンキュー」
皆は礼を言う。
これからもフィアナが歌い続ける事が出来ることを願うキッカッケであることが、皆の願いだ。
コハルが、フィアナに訊ねる。
「今日はお疲れ様、どうだった?自分の歌が、自分の前で人に伝わって行くのは?」
「嬉しいです。もう純粋に、歌い続けていたい気持ちになります」
笑顔で答える。まさに彼女らしい答えだった。
「よかった♪」
そして、別れ際、
小鳥遊がフィアナにこう言った。
「楽しかったわ。やっぱりあたし達には音楽が最高の宝物だと実感出来た。もし何かの機会があったならまた呼んでくれると嬉しいわ」
「はい、こちらこそ喜んで」
握手を交わした。
このあと、徐々にCDについて、問い合わせがあったらしい。
此処には歌を力にして、歌いたい人が居る。
また、一歩、一歩フィアナの道が開かれていくだろう‥‥。