タイトル:映像技術の夢マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/06 06:52

●オープニング本文


 寂れた私設空港のような場所。そこに、エスティヴィア(gz0070)の研究施設がある。何を作っているかというと、KV技術でも、対ワーム戦でもない‥‥。映像技術だったりする。
 80年代に実際空中画像技術の研究はあったとしてもこの戦乱により、他の技術に集中している事は否めない。ただ、今彼女がしようとしているのは、立体映像そのものではなく、液晶でもプラズマでもない、『特殊粒子により、平面画面を作る』ことだ。
 一応40分ぐらいは、可能となっていた。しかし、異様な燃費の悪さが、先を阻む。
「んー、前は40分5秒‥‥。で、9機のエナジーが枯渇って、燃費悪いわぁ」
 ペンを指でまわし、手書きで報告書を書きつづるエスティヴィア。パソコンにほとんど手を付けない。清書以外では彼女は、ペンを使う。メモをとるなどの癖でペンは放さない。そして、ハッキングをおそれて、基本的にネットワークにつなげているのはごく一部で研究内容のモノは、彼女が籍を置くドローム社にも繋がっていないのだ。
「うーん燃費軽減が先だけど‥‥。やっぱねえ‥‥」
 彼女目を向けたのは、まだ埃がたまっている書庫のドアと、目の前にある、奇妙な形をしたブレイザー(籠手、腕甲)だった。
 ため息を吐く。
 書庫のドアを開ける。
「けほっ」
 埃がたまっているが、自分の活動範囲の部屋と比べると非情に整然としている。其処にあるのは、生物学のものばかりだった。
 過去の残骸‥‥。今の科学では、全く分からない。キメラ。一度それに惹かれて研究したことがあるが、今の地球上の生物学では解明できなかった。様々なモノ。しかし、奇縁にて映像技術を手がけている。元から此が夢だった。何がどこで狂ったか? 分からない。
 しかし、確実に、いまなにかが届きそうだった。
 映像開発という夢も、そして‥‥自分のビジョンも‥‥。
 書庫のドアを閉める。
「燃費問題どうしよう」
 9機のナイトフォーゲルのエナジーを空っぽにするほどの、燃費の悪さは異常である。
 此処だけは何とも、閃かない。
 エミタという破格のエネルギーを使う案は、よかった。しかし、エネルギーを使いすぎるのは良くない。何が悪いのか?
 研究装置が巨大すぎた? 此につなげている、専用電気変換装置の問題? 環境? それとも?
「こういう時って、KVに馴れている人や、エミタを直接つなげている人の意見のほうがいいんだよねぇ。うん」
 自分だって能力者だが、この研究に入ってから、実際は自分を電池扱いしている気がするのだ。
 突飛のないアイデアを求めるために、彼女は又、ネット通信用のパソコンを起動させる。
 自分が引きこもって研究を続けているので、別の刺激を必要とするのだ。
『前回の映像実験の問題解決、燃費の改良をしたいので、KVと一緒にこっちに来て欲しい。また、こちらがする空中平面レーザー映像技術以外でも、レーザーやビームに関するアイデアなどあれば言って欲しい。何か閃くかもしれない』という依頼を出す。
 そこで腹が鳴った。
「‥‥、む‥‥」
 キーボードを打つ。
『PS‥‥飯スタントも大募集。切実』

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
忌咲(ga3867
14歳・♀・ER
鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
マーガレット・ラランド(ga6439
20歳・♀・ST
アキト=柿崎(ga7330
24歳・♂・SN
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP

●リプレイ本文

●施設が広いので
 KVに乗ってこのエスティヴィア(gz0075)の研究施設に向かうのはたやすかった。一寸した私設空港の大きさ故である。
 管制塔と住居を備えたその場所に、彼女はいる。
 滑走路には何もない。前の機械は倉庫に閉まっているのだろう。

「どうなっているか心配ですね」
 前に来ているアキト=柿崎(ga7330)が言う。
「先日よりは多少マシになっていると良いのですが‥‥勿論生活が」
「そっちなの?」
 緋室 神音(ga3576)が怪訝な顔をした。
 アキトから話によるとかなり酷い状態だったと聞く。熱中すると周りが見えなくなるのだろう、と。
「一寸怖いわね」
 実は既に餓死という落ちはないだろうと思う。
 その心配は、無かったようだ。管制塔の方から、1人やってくる。
「お久しぶりです、エスティヴィアさん」
「ああ、お久しぶりだ」
 よく見ると今のエスティヴィアの髪は綺麗にウェーブがかかっており少しだけシャンプーの匂いがする。皺だらけだったはずの白衣やスーツに素人なりにアイロンがけかプレスをしていたようだ。頑張っても上手くプレスされていない部分がちらほらある。
「はじめまして」
 ほとんどが、初顔合わせになっているため、その場で握手して挨拶を交わす。
「まあ、一寸は自分でも準備はしているんだけどねぇ。慣れてないから」
 彼女は苦笑して言った。
「それなら多少家事の方は楽なのかな?」
(「あれ? 普通じゃない?」)
 緋室が首をかしげ、アキトにだけ聞こえるように訊く。
(「いや、何かありそうです。あの格好は急いでやったでしょうね」)


●研究室
 エスティヴィアが全員を案内する、いつものラボ。そこが異様な状態だというのは変わらなかった。書類の山とゴミなのか分からない物。ジャンクフードのゴミの山があった。幸いなのは綺麗に分けられていることである。
「腐海‥‥復活ね」
 その言葉を発したのは緋室。
「こういう状態を見ると、一人暮らししてた頃を思い出すね」
 忌咲(ga3867)が懐かしむ。
 彼女も又、研究を続けていた時代に、散らかしていたようであった。
 しかし相変わらず、彼女の寝床が机の下なのは変わってないようであった。
「まあ、多少評価はします‥‥」
 アキトはこめかみを押さえていた。

「で、まずは‥‥掃除からだな」
 御影・朔夜(ga0240)が、黒スーツと黒コートのうえに白いエプロンと、三角巾を着用する。
 異様な格好になった彼を見て、皆が固まった。
「女みたい‥‥だとは言うなよ。まぁ、慣れていると言えば慣れているから別に構わんがな‥‥」
「たしかに、コートとかとったらさ、そう見えるかもしれないけど。‥‥上を脱いでからやった方がよくない?」
「トレードマークだからはずせん」
 彼なりにこだわりのようだ。
「何か食べたい物はあるか?」
「肉食いたい。肉――」
「またですか‥‥エスティヴィアさん」
 アキトは苦笑する。
 食事を作る班と、掃除をする班に分かれて、住みやすくすることになった。私室のほうもかなり酷く、ここは緋室がおこなっている。衣服、下着などがかなり散乱していて、男性が入れる空間ではない。
 緋室も綺麗にまとめて、洗濯機を回す。一般生活の物資は一応あるようなので、問題はなかった。
 エスティヴィアの服が管制塔の屋上(出入りしやすい場所)に干されていく。シーツなどで見えないようにしているが。
 忌咲とマーガレット・ラランド(ga6439)が、研究室でデスク周辺を掃除する。水円・一(gb0495)が、目についたブレイザーをみて‥‥
「あれだ、俺の家の物置にあったものと近い感じだな‥‥」
「それはがらくただよ‥‥」
「では捨てるのですか?」
「捨てられないさ、それは‥‥」
 エスティヴィアは、遠くを見る哀しい目をしていた。
 アキトがもう少し別の場所のゴミ出しをしている。しかし、書類の山を持ち上げて捨てようと思ったとき、
「ああ、メモ書きの山はいるから!」
 忌吹が制止した。
「どうして‥‥? あ、これはなるほど」
 と、メモの内容を見て、一寸した研究日誌も色々ある。まだ選別されてない混沌状態のエリアだったようだ。
「段ボールなどあればいいですね。取ってこよう」
 こうして、身分別の研究書類を一応纏めておく。
 人が座れる範囲までできれば、あとは本番に移るのだ。
 マーガレットは、周りにあるサーバの筐体の蓋を開けて、一気に掃除する。
「うわー、すっごい埃!」
 周りは乾燥しやすそうな荒野なので、少しほこりっぽいかもしれない。コンピュータのハード面でも埃というのは大敵だ。
 鳥飼夕貴(ga4123)は、チャイナドレスでお団子頭にて、台所を陣取っていた。
「使える物はあるんだね」
 流石に中華鍋はないのだが、それほど汚くはない。一寸綺麗にしてから、中華料理を作り始める。
 冷凍食品やレンジ食品、レトルトがあり、近くに何かの中継の集落か町があるのか、デリバリーメニューもあった。
「車でも持っているのか?」
 御影がふむと考える。
 遠くの方で、掃除を一段落させたアキトらが、車のキーを見せる。
「時間もかかりますから、一寸買い出しに行きましょう」
「しかし‥‥確かに時間が食いそうだな」
 全員が、女性2人を廊下越しでみてみた。緋室とエスティヴィアだった。
 緋室は、エスティヴィアが急いで身支度をしたことを考えて、「まだ、臭うわね‥‥」と、ジト目でエスティヴィアを見るわけである。
「え?」
「はいはい‥‥こっちに」
「ちょっと! あたしは、もう‥‥きゃああ!」
 エスティヴィアがバスルームに連行された。

 大掃除という物は、やりだすと半日以上はかかる。数日はいることに。
 今日は鳥飼のおにぎりと中華大皿、御影の和の料理で食事。おにぎりはロシアンなので、たまに誰か妙な味によって、吹き出しそうになって、皆が笑う。
「チョコかよ!」
「あたり」
「ジャパンのわさびは、あたしにはきつい!」
 その間に、軽くマーガレットやアキト、忌吹が、エスティヴィアといまの映像技術の話をする。
「やっぱり燃費が悪いか」
 全員から『燃費の効率が悪いってレベルではない』と言う言葉に納得していた。そのために呼んだような物だから。
 鳥飼は、エスティヴィアの悩んでいる姿をずっと見ていた。専用の発電機を導入する方が良いと言う案もある。
 エスティヴィアは、すぐにメモを取り、真剣に頷く。
「まだ、本題じゃないけど、今の内に何か開発して欲しいという物はないかしら?」
 と、訊ねる。
「開発して欲しい物‥‥といったらあれですね」
 アキトは近距離レーザー通信という、レーザーにデータを詰めて、送受信機に送る物。無線と違い指向性だが、便利になる。あとは、雪村のような剣を回転させてシールドを作るものだ。緋室は網膜投射という案を出すが、趣旨と違うために、ある程度、今の技術が完成してから考えるとなる。
 アキトの「レーザー・シールド」を聞いたエスティヴィアは、他のものより、深くこくりと頷いたように見えた。


●開発案
 朝。
 全員が、起きて気付くのは、
「エスティヴィアはどこ?」
 だった。
 私室のベッドにいない。
「まさか」
「まさかですね」
 忌吹とアキトが、すぐに研究室に入る。
「やっぱり‥‥ですか?」
 どうも彼女は、机の下で寝ていたようだ。デスクには又紙の山。
「猫かハムスター?」
 鳥飼が首をかしげた。

 現物を見せて貰う。
「うわー、無駄にでかいね」
 マーガレットが言う。
「分解は今無理だよ。いま壊れたらたまらないからねぇ」
「う」
 ビタッと止まるマーガレット。
「すみません、此の設計図あります?」
 忌吹がエスティヴィアに訊ねる。
「あるよ。清書のだけど」
 かなり早く用意していた。
「発電機とか自作レベルだからね」
「もとが発電機じゃないですからそれは仕方ないとして‥‥」
 清書されている設計図のコピーに目を通す、科学者たち。忌吹がフリーハンドで図式を書く。そして、気付く事があるはずだ。
 そこに、水円が「平行並列っていける?」と聞くと横に首を振るのが多数。
「緋室さんが言う、半導体の変更と基板換装を視野にいれるべきと思います」
 忌吹の考え、
「んじゃ、私はプログラムをみるけど」
「ああ、いいよ」
 サーバの方でマーガレットとエスティヴィアがプログラムをみる。
「無駄に何か設定していてそれがエントロピーに変わっちゃってそうだね」
 情報熱論というのを引き合いにし、何か言いながら、その『穴』を調べ始めた。
 ここで、忌吹とマーガレットが熱中して微動だにしない。

「その間に、中を掃除しません? 機械の中」
「そうだねぇ‥‥。色々言われて、綺麗にしたって自信ないや」
 エスティヴィアが頭を掻く。
「開発助手なんか、掃除に来ているのか分からなくなるな」
 御影が言うと、
「いや、どう見ても飯スタントだろ」
 鳥飼が返す。
 どっちも正解がして仕方がない。
 筐体を外し、埃がある所などを綺麗に取っていく。
 実際、解析から、バグの発見、其処を修正するのに1日で終わるわけでもない。数日はかかる。データだけは現場でしないと行けないが、設計図だけは特別に借りて、持ち帰ることになった。
 アキトがエスティヴィアに、
「普段は栄養バーばかりでしょうから、私達が来た時位はしっかり食べて下さいね」
 と、言うと。
「ありがとう、助かってるよ〜」
 にこやかに笑うのであった。


 数日後、忌吹の最新設計とマーガレットの理論が出来、急ピッチでその変換装置基板を作った。
「できました! って、又其処!?」
 又エスティヴィアが、研究室のデスク下で、可愛いパジャマ姿で眠っていた。
「ベッドで寝ても習性かな?」
 と、言わざるを得ない。
 水円のいった、電気消費率も調べたおかげで、どこが悪いかが分かったのだ。やはり発電装置とレーザー装置である。所々ボトルネックが発生し、上手く命令が行き渡ってなかったのである。
 マーガレットの仮データを元にエスティヴィアが、画像処理データの改修も行い、デバッグし、装置にインストールする。
「できた!」
 前の装置より若干小さめになり、エアフローも良くなった装置が完成する。
「さっそく、映そう!」
 そこまで行くと、家事手伝い以外で傍観するしかなかった人もワクワクするものだ。
 アニメは前の物ではない。噴霧装置が稼働し、レーザーが其処に映像を映す。
「‥‥ほう」
 上手く熱伝導が行きわたった事、掃除をしたことで前より燃費は格段に良くなった。良くなりすぎともいえる。
 期待の燃費より1割多かったが、KVがガス欠にはならなかった。
 今後SES発電装置も視野に入れるが、
「アキトの言う、シールドを考えると、レーザーを直接エミタにつなげるものが要るわねぇ」
 と、エスティヴィアは呟いていた。
「とはいっても、あたしは兵器開発側じゃない。兵器転用の技術はさっぱりだ。これから勉強していこう」

 全員シャワーを浴びてから、BBQと煮物を食べながら、談笑や今後のことを話す。
「糖分は頭に良いそうだ。発案にしても根を詰め過ぎれば思い浮かぶ物も思い浮かばない‥‥適度にやれよ?」
 御影そうアドバイスする。
「んじゃ今度はアイスかな」
「自分で買え」
 かなりグダグダなエスティヴィアに戻っていた。研究から外れるととんでもなくだらしない。
「駄目ではない事が良く判った、真摯に向き合っている姿も。ただ、それ以外に関してはなー。研究者ってそう言うものかね」
 水円は言う。
「ええ、そういうものよぉ」
 妙にテンションがおかしいエスティヴィアと、
「そういうものですよ」
 忌吹がぽつりと返した。
「そうなんだ、やっぱり、熱中すると前が見えなくなるのか‥‥」
 と、良い方向かどうかは分からないが、彼は感心していた。

 アニメ以外に普通のドラマもあったので、それを映して見ていた全員は、急な風で頭を抑えたり料理を守ったりする。そこで、一瞬、信じられない光景を緋室と御影、水円、そしてエスティヴィアは見た。
 噴霧されている粒子の『壁』に、飛ばされていた軽いゴミが、跳ね返されたところを――。
「まさか‥‥」
「目の錯覚じゃないわね? 映像粒子ってナノレベルでしょ?」
「しかし、跳ね返った。そこに壁があるかのように‥‥」
「なんだ? なんだ?」
 3人が見逃した他のメンバーに説明していたが、又ゴミが画面に当たっても、通り抜けていた。
 エスティヴィアは『あの瞬間』を、しっかりと目に焼き付けて、何かを考えていた。


●そして、彼女は。
 偶然か目の錯覚か? それを確認するために、エスティヴィアはまた研究に没頭することとなる。たぶん、またエスティヴィアの食生活を憂い、来ることになるかもしれないだろう。そして、あの瞬間は何だったのかを知るために。
 しかし、ブレイザーはかなり彼女の近くにあった。