●リプレイ本文
●施設が広いので
KVに乗ってこのエスティヴィア(gz0075)の研究施設に向かうのはたやすかった。一寸した私設空港の大きさ故である。
管制塔と住居を備えたその場所に、彼女はいる。
滑走路には何もない。前の機械は倉庫に閉まっているのだろう。
「どうなっているか心配ですね」
前に来ているアキト=柿崎(
ga7330)が言う。
「先日よりは多少マシになっていると良いのですが‥‥勿論生活が」
「そっちなの?」
緋室 神音(
ga3576)が怪訝な顔をした。
アキトから話によるとかなり酷い状態だったと聞く。熱中すると周りが見えなくなるのだろう、と。
「一寸怖いわね」
実は既に餓死という落ちはないだろうと思う。
その心配は、無かったようだ。管制塔の方から、1人やってくる。
「お久しぶりです、エスティヴィアさん」
「ああ、お久しぶりだ」
よく見ると今のエスティヴィアの髪は綺麗にウェーブがかかっており少しだけシャンプーの匂いがする。皺だらけだったはずの白衣やスーツに素人なりにアイロンがけかプレスをしていたようだ。頑張っても上手くプレスされていない部分がちらほらある。
「はじめまして」
ほとんどが、初顔合わせになっているため、その場で握手して挨拶を交わす。
「まあ、一寸は自分でも準備はしているんだけどねぇ。慣れてないから」
彼女は苦笑して言った。
「それなら多少家事の方は楽なのかな?」
(「あれ? 普通じゃない?」)
緋室が首をかしげ、アキトにだけ聞こえるように訊く。
(「いや、何かありそうです。あの格好は急いでやったでしょうね」)
●研究室
エスティヴィアが全員を案内する、いつものラボ。そこが異様な状態だというのは変わらなかった。書類の山とゴミなのか分からない物。ジャンクフードのゴミの山があった。幸いなのは綺麗に分けられていることである。
「腐海‥‥復活ね」
その言葉を発したのは緋室。
「こういう状態を見ると、一人暮らししてた頃を思い出すね」
忌咲(
ga3867)が懐かしむ。
彼女も又、研究を続けていた時代に、散らかしていたようであった。
しかし相変わらず、彼女の寝床が机の下なのは変わってないようであった。
「まあ、多少評価はします‥‥」
アキトはこめかみを押さえていた。
「で、まずは‥‥掃除からだな」
御影・朔夜(
ga0240)が、黒スーツと黒コートのうえに白いエプロンと、三角巾を着用する。
異様な格好になった彼を見て、皆が固まった。
「女みたい‥‥だとは言うなよ。まぁ、慣れていると言えば慣れているから別に構わんがな‥‥」
「たしかに、コートとかとったらさ、そう見えるかもしれないけど。‥‥上を脱いでからやった方がよくない?」
「トレードマークだからはずせん」
彼なりにこだわりのようだ。
「何か食べたい物はあるか?」
「肉食いたい。肉――」
「またですか‥‥エスティヴィアさん」
アキトは苦笑する。
食事を作る班と、掃除をする班に分かれて、住みやすくすることになった。私室のほうもかなり酷く、ここは緋室がおこなっている。衣服、下着などがかなり散乱していて、男性が入れる空間ではない。
緋室も綺麗にまとめて、洗濯機を回す。一般生活の物資は一応あるようなので、問題はなかった。
エスティヴィアの服が管制塔の屋上(出入りしやすい場所)に干されていく。シーツなどで見えないようにしているが。
忌咲とマーガレット・ラランド(
ga6439)が、研究室でデスク周辺を掃除する。水円・一(
gb0495)が、目についたブレイザーをみて‥‥
「あれだ、俺の家の物置にあったものと近い感じだな‥‥」
「それはがらくただよ‥‥」
「では捨てるのですか?」
「捨てられないさ、それは‥‥」
エスティヴィアは、遠くを見る哀しい目をしていた。
アキトがもう少し別の場所のゴミ出しをしている。しかし、書類の山を持ち上げて捨てようと思ったとき、
「ああ、メモ書きの山はいるから!」
忌吹が制止した。
「どうして‥‥? あ、これはなるほど」
と、メモの内容を見て、一寸した研究日誌も色々ある。まだ選別されてない混沌状態のエリアだったようだ。
「段ボールなどあればいいですね。取ってこよう」
こうして、身分別の研究書類を一応纏めておく。
人が座れる範囲までできれば、あとは本番に移るのだ。
マーガレットは、周りにあるサーバの筐体の蓋を開けて、一気に掃除する。
「うわー、すっごい埃!」
周りは乾燥しやすそうな荒野なので、少しほこりっぽいかもしれない。コンピュータのハード面でも埃というのは大敵だ。
鳥飼夕貴(
ga4123)は、チャイナドレスでお団子頭にて、台所を陣取っていた。
「使える物はあるんだね」
流石に中華鍋はないのだが、それほど汚くはない。一寸綺麗にしてから、中華料理を作り始める。
冷凍食品やレンジ食品、レトルトがあり、近くに何かの中継の集落か町があるのか、デリバリーメニューもあった。
「車でも持っているのか?」
御影がふむと考える。
遠くの方で、掃除を一段落させたアキトらが、車のキーを見せる。
「時間もかかりますから、一寸買い出しに行きましょう」
「しかし‥‥確かに時間が食いそうだな」
全員が、女性2人を廊下越しでみてみた。緋室とエスティヴィアだった。
緋室は、エスティヴィアが急いで身支度をしたことを考えて、「まだ、臭うわね‥‥」と、ジト目でエスティヴィアを見るわけである。
「え?」
「はいはい‥‥こっちに」
「ちょっと! あたしは、もう‥‥きゃああ!」
エスティヴィアがバスルームに連行された。
大掃除という物は、やりだすと半日以上はかかる。数日はいることに。
今日は鳥飼のおにぎりと中華大皿、御影の和の料理で食事。おにぎりはロシアンなので、たまに誰か妙な味によって、吹き出しそうになって、皆が笑う。
「チョコかよ!」
「あたり」
「ジャパンのわさびは、あたしにはきつい!」
その間に、軽くマーガレットやアキト、忌吹が、エスティヴィアといまの映像技術の話をする。
「やっぱり燃費が悪いか」
全員から『燃費の効率が悪いってレベルではない』と言う言葉に納得していた。そのために呼んだような物だから。
鳥飼は、エスティヴィアの悩んでいる姿をずっと見ていた。専用の発電機を導入する方が良いと言う案もある。
エスティヴィアは、すぐにメモを取り、真剣に頷く。
「まだ、本題じゃないけど、今の内に何か開発して欲しいという物はないかしら?」
と、訊ねる。
「開発して欲しい物‥‥といったらあれですね」
アキトは近距離レーザー通信という、レーザーにデータを詰めて、送受信機に送る物。無線と違い指向性だが、便利になる。あとは、雪村のような剣を回転させてシールドを作るものだ。緋室は網膜投射という案を出すが、趣旨と違うために、ある程度、今の技術が完成してから考えるとなる。
アキトの「レーザー・シールド」を聞いたエスティヴィアは、他のものより、深くこくりと頷いたように見えた。
●開発案
朝。
全員が、起きて気付くのは、
「エスティヴィアはどこ?」
だった。
私室のベッドにいない。
「まさか」
「まさかですね」
忌吹とアキトが、すぐに研究室に入る。
「やっぱり‥‥ですか?」
どうも彼女は、机の下で寝ていたようだ。デスクには又紙の山。
「猫かハムスター?」
鳥飼が首をかしげた。
現物を見せて貰う。
「うわー、無駄にでかいね」
マーガレットが言う。
「分解は今無理だよ。いま壊れたらたまらないからねぇ」
「う」
ビタッと止まるマーガレット。
「すみません、此の設計図あります?」
忌吹がエスティヴィアに訊ねる。
「あるよ。清書のだけど」
かなり早く用意していた。
「発電機とか自作レベルだからね」
「もとが発電機じゃないですからそれは仕方ないとして‥‥」
清書されている設計図のコピーに目を通す、科学者たち。忌吹がフリーハンドで図式を書く。そして、気付く事があるはずだ。
そこに、水円が「平行並列っていける?」と聞くと横に首を振るのが多数。
「緋室さんが言う、半導体の変更と基板換装を視野にいれるべきと思います」
忌吹の考え、
「んじゃ、私はプログラムをみるけど」
「ああ、いいよ」
サーバの方でマーガレットとエスティヴィアがプログラムをみる。
「無駄に何か設定していてそれがエントロピーに変わっちゃってそうだね」
情報熱論というのを引き合いにし、何か言いながら、その『穴』を調べ始めた。
ここで、忌吹とマーガレットが熱中して微動だにしない。
「その間に、中を掃除しません? 機械の中」
「そうだねぇ‥‥。色々言われて、綺麗にしたって自信ないや」
エスティヴィアが頭を掻く。
「開発助手なんか、掃除に来ているのか分からなくなるな」
御影が言うと、
「いや、どう見ても飯スタントだろ」
鳥飼が返す。
どっちも正解がして仕方がない。
筐体を外し、埃がある所などを綺麗に取っていく。
実際、解析から、バグの発見、其処を修正するのに1日で終わるわけでもない。数日はかかる。データだけは現場でしないと行けないが、設計図だけは特別に借りて、持ち帰ることになった。
アキトがエスティヴィアに、
「普段は栄養バーばかりでしょうから、私達が来た時位はしっかり食べて下さいね」
と、言うと。
「ありがとう、助かってるよ〜」
にこやかに笑うのであった。
数日後、忌吹の最新設計とマーガレットの理論が出来、急ピッチでその変換装置基板を作った。
「できました! って、又其処!?」
又エスティヴィアが、研究室のデスク下で、可愛いパジャマ姿で眠っていた。
「ベッドで寝ても習性かな?」
と、言わざるを得ない。
水円のいった、電気消費率も調べたおかげで、どこが悪いかが分かったのだ。やはり発電装置とレーザー装置である。所々ボトルネックが発生し、上手く命令が行き渡ってなかったのである。
マーガレットの仮データを元にエスティヴィアが、画像処理データの改修も行い、デバッグし、装置にインストールする。
「できた!」
前の装置より若干小さめになり、エアフローも良くなった装置が完成する。
「さっそく、映そう!」
そこまで行くと、家事手伝い以外で傍観するしかなかった人もワクワクするものだ。
アニメは前の物ではない。噴霧装置が稼働し、レーザーが其処に映像を映す。
「‥‥ほう」
上手く熱伝導が行きわたった事、掃除をしたことで前より燃費は格段に良くなった。良くなりすぎともいえる。
期待の燃費より1割多かったが、KVがガス欠にはならなかった。
今後SES発電装置も視野に入れるが、
「アキトの言う、シールドを考えると、レーザーを直接エミタにつなげるものが要るわねぇ」
と、エスティヴィアは呟いていた。
「とはいっても、あたしは兵器開発側じゃない。兵器転用の技術はさっぱりだ。これから勉強していこう」
全員シャワーを浴びてから、BBQと煮物を食べながら、談笑や今後のことを話す。
「糖分は頭に良いそうだ。発案にしても根を詰め過ぎれば思い浮かぶ物も思い浮かばない‥‥適度にやれよ?」
御影そうアドバイスする。
「んじゃ今度はアイスかな」
「自分で買え」
かなりグダグダなエスティヴィアに戻っていた。研究から外れるととんでもなくだらしない。
「駄目ではない事が良く判った、真摯に向き合っている姿も。ただ、それ以外に関してはなー。研究者ってそう言うものかね」
水円は言う。
「ええ、そういうものよぉ」
妙にテンションがおかしいエスティヴィアと、
「そういうものですよ」
忌吹がぽつりと返した。
「そうなんだ、やっぱり、熱中すると前が見えなくなるのか‥‥」
と、良い方向かどうかは分からないが、彼は感心していた。
アニメ以外に普通のドラマもあったので、それを映して見ていた全員は、急な風で頭を抑えたり料理を守ったりする。そこで、一瞬、信じられない光景を緋室と御影、水円、そしてエスティヴィアは見た。
噴霧されている粒子の『壁』に、飛ばされていた軽いゴミが、跳ね返されたところを――。
「まさか‥‥」
「目の錯覚じゃないわね? 映像粒子ってナノレベルでしょ?」
「しかし、跳ね返った。そこに壁があるかのように‥‥」
「なんだ? なんだ?」
3人が見逃した他のメンバーに説明していたが、又ゴミが画面に当たっても、通り抜けていた。
エスティヴィアは『あの瞬間』を、しっかりと目に焼き付けて、何かを考えていた。
●そして、彼女は。
偶然か目の錯覚か? それを確認するために、エスティヴィアはまた研究に没頭することとなる。たぶん、またエスティヴィアの食生活を憂い、来ることになるかもしれないだろう。そして、あの瞬間は何だったのかを知るために。
しかし、ブレイザーはかなり彼女の近くにあった。