タイトル:日本橋行列狂想曲マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/20 04:25

●オープニング本文


 ヲタクは強い。その精神力は、おそらくバグアを凌ぐ勢いと思われる。
 秋葉原などでバグアの被害を被った屈強な猛者は、大阪の、日本橋の南側に復興するという偉業を成し遂げていたのだ。
 真空管・コンデンサの電子部品から、オーディオ、パソコン、あらゆるソフト、同人関連、『萌え』と『燃え』が詰まった夢と野望と欲望の世界がそこにあった。

 エスティヴィア(gz0075)の研究所。そこには、要るはずの人物が居ない。
 コアーという女性が、データを貰うためにやってきたのだが、彼女は居なかった。そう、お気に入りの机の下で夢を見ていなかったのだ。
「いない!」
 困ったことだ。結果報告書を貰いたかったのに! 流石に勝手に持っていけない。
 机のメモ帳を読み、私室を見ると驚愕した。
 綺麗に片づいている! つーか、まさに女性の部屋(否、前に片づけた人がいたからだが)!
「あのひと! いつも、グダグダなのに! 何かしたいと思ったら徹底的なんだから!」

 一方、日本橋。深夜21時。
「さて! 頑張るか!」
 ビシッとメイクして、ゴシックで身を固めたエスティヴィア。こう言うときに限って身なりはしっかりしている。
 しかし、手には旅行鞄に、携帯ゲーム、そして睡眠を取るコーヒーという、いかにもこの野望と欲望の町にマッチしていた。
「買ったら絶対、徹夜確定だね!」
「そうだね! あんたはどういう構成で狙ってるの?」
 と、隣に並んでいる人と今回発売の最新ゲームを待っているのだ。
「暇だったら開くまで一緒に狩りしようか?」
「いいね」

 各所のゲームショップ8件ともども、深夜販売だ。しかし、各所とも物が異なる。『夕焼けの恋』(恋愛ADV)、『唱っておどって』(音楽ゲームと色々+なの)、『魔法と少女と肉体言語』(萌えもある格闘ゲーム)、そして、『宿命の鋼の騎士』(燃えの極みのロボット・シミュレーションRPG)である。

 あなたは、たまたま其処にいたり、この最新ゲームを深夜0時販売で買うために並んでいたり、コアーから泣きつかれてここに来たかもしれない。
 コアーは叫んでいる。
「報告書下さいぃぃ!」

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
鳥飼夕貴(ga4123
20歳・♂・FT
メリー・ゴートシープ(ga6723
11歳・♀・EL
アキト=柿崎(ga7330
24歳・♂・SN
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP
風見斗真(gb0908
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

●日本橋、21時
 様々な理由でここに来ている傭兵達が、行列のすごさに驚いている。たまたま4作品の発売日時が重なったため、8店舗にて深夜販売するほどの盛況なのである。いやまったく、ヲタクの力は強い。感心する。
 その空気が大好きな能力者が、うきうきとこの行列を眺めていた。反面コアーはおどおどして、眺めている。
「室長はどうして、こんな変なところに!」
 と、半べそだ。
「困っているから助けないとな」
 ゲームを買うために来ていた蓮沼千影(ga4090)が、コアーの隣にいた。
「たしかに‥‥」
 風見トウマ(gb0908)も頷くが、溜息混じりであった。
「果てさて、この野望と欲望の町に迷いしお嬢様は何処かしらっと‥‥お嬢様?」
 メリー・ゴートシープ(ga6723)が首をかしげた。
「あの年齢はお嬢様‥‥? いや、此処では何歳でもそれで通じそうだ。故に西の聖地だから」
 鳥飼夕貴(ga4123)が突っ込み気味で言う。
 ハイテンションなのは、ドクター・ウェスト(ga0241)で、自他共に認める狂気の科学者である。それと、根っからのヲタクだ。
「これはマジカル血煙対戦! すっかり忘れていました!」
 情報誌を片手にショックを表している模様。

●とりあえず詳細を。
 『魔法と少女と肉体言語』とは、魔法や本格的格闘技を取り入れた萌えと燃えをふんだんに盛り込んでいる大戦格闘技ゲームで、ドクター調べによると、『萌えのみと思ったら大間違い! かなり本格的でキャラのギャップが激しいゲーム』と言うことらしい。超必殺が極まるときのカットインが萌え絵ではなく、劇画になるから納得は行く。
 『夕焼けの恋』は切ない恋愛物で、夕焼け怒気に偶然であったヒロインと周りの人々の関係、夕焼けという境目にある『何か』を感じるものらしい。ヒロイン達の性格も一長一短のようであり、義理の妹や従姉妹、年上のお姉さん、先生、バイトの同僚と比較的数は多めだ。男の娘(こ)も攻略できる噂もあるのだが、それは謎だ。
 『歌っておどって』は音楽クイズと踊るダンスゲームの融合しているゲームで、可愛いキャラがおどったりクイズを出したりミニゲーム要素もある。手でボタンをリズム通りに押していくかマットでおどるか、マイクで歌うのかのどちらか選択式だ。
 『宿命の鋼の騎士』、ロボットアニメ集大成の戦略・戦術級シミュレーションRPGである。ボードゲーム時代の人には熱い、『すべて下準備をする』からしなくてはならない面倒さを払拭するぐらいストーリーの大きさと、パラレル故に夢の共演・競演が可能ということが大人気である。メカ好きならたまらない一品だ。

●で、対策本部は?
「まずは手分けして店を調べよましょう」
 アキト=柿崎(ga7330)と、水円・一(gb0495)が言う。
「大阪の町はよく分かりません。迷いそうです」
 コアーは泣きながら答えた。
「しかし、この辺で24営業してゆっくり出来る場所って有る?」
「コンビニは迷惑だろ?」
 鳥飼と蓮沼が言う。
「のんのん、この野望の国(?)はそう言う猛者のために、24時間のファーストフード店があるのだよ〜」
 ドクターが指を指した先は、確かにある、普通のファーストフードだ。
 しかし、中がこの町特有な気がした。
 メイド風味のウェイトレスがいるのだ。入ると、「いらっしゃいませーご主人様☆」と言われそうな雰囲気だ。コアーは怖くて身を震わせている。
「ここで立っていても仕方ない。あそこで情報収集と、コアーと一緒にいよう。俺も迷いそうだ」
 蓮沼が地図を広げて目星を付けたかった。
 各自トランシーバーを持っているため、問題なく連絡は付けられる。1店舗ごと偵察し、どこで何を売っているかを確認することになった。すぐに見つかれば問題ない。
 大きな遭遇があった箇所には(番号)を記載している。

●仕事を忘れて(3)
 〈熱血亭〉という小さなゲームショップ。そこはプレイスペースも用意されて、賑やかだった。垂れ幕にはこう書かれている。
『肉体言語前夜祭!』
 今回発売のソフトの基準となった、『肉体言語System』のゲーム大会のようである。それで、深夜販売開始まで待とうという試みらしい。ずっと待っているよりかは良いだろう。筐体にゲームソフトとハードを介してのガチ格闘。どうも入場料は整理券のようだ(買う意思が有ればいいわけだ)。
「楽しいことをやっていますねー」
 ドクターはしばし見物の後。
「こちら、ドクター・ウェスト。〈熱血亭〉では、『魔法と少女と肉体言語』を売るそうでだねー」
 しっかり報告。
『了解、エスティヴィアが居るか一寸見てくれ』
 蓮沼の声。
「OK」
 と、連絡終了。
「ちょっと、大きな買い物をしてしまったが‥‥まあ、大丈夫だろう」
 ドクターは財布と相談。しかし100%買うつもり。流石ヲタク。
 しかし、色々研究や戦いに時間を割かれていたためゲームをあまりしていない(情報収集するのを忘れていたからな)。少し慣らしでするのは良いだろう。
「ひゃっひゃっひゃ! 我輩もするよ〜」
 プレイスペースを陣取って熱中するドクターであった。
 しかし、ブランクのためにあっさり負ける。此処は能力者とかの力の差は関係なかった模様。
「のおおおお! 我が輩としたことが! さて、別の所に向かおう‥‥」
 1時間ぐらい遊んで別の店に向かうドクターであった。
 残り、2時間一寸。

●意外な人物(1)
 〈キャラメル探偵〉にもそこかしこ行列が出来ている。
「〈キャラメル探偵〉では『歌っておどって』の深夜販売のようだ」
 鳥飼が無線で報告する。
『了解』
 風見が答えた。近くでコアーが困った声を挙げている様子だ。
「一寸みておくね」
『ああ、わかった。時間はまだあるからな』
「私は予約しているから良いけど、どうして深夜販売なんて」
 メリーが本気で首をかしげている。
「それは此処で禁句だけどさ」
 鳥飼は苦笑した。
「そうかしら?」
「すでに白い目で見られている」
 行列の人々がメリーを睨んでいた。いや、可愛さで萌えているのかもしれない。なので、あまり気にすることもなかった。
「行列特典とか有るんだろうね」
「ああ、そういうことか‥‥。奥が深いわね」
 腕を組んで納得したようすのメリーだった。
「?」
「どうしたの?」
 鳥飼が何かに気付いた。どこかで見た女性の後ろ姿と、ある種のオーラに気になったのだ。
「フィアナ?」
 鳥飼が走る。
「ちょ、ちょっと?」
 メリーも追いかけていく。
「失礼、フィアナ・ローデンさん?」
 鳥飼が声をかけたのは、ワンピースに鍔広の帽子、サングラスという出で立ちの女性だった。
「!? きゃ! 鳥飼さん?」
 顔見知りだったために、フィアナが驚く。
「何やってんの?」
「ごめんなさい! ごめんなさい! あたし、このゲームの大ファンでつい‥‥」
 慌てるフィアナ・ローデン(gz0020)が無意味に謝っている。
「だれなの?」
 メリーが鳥飼に訊ねると、鳥飼が『慰問行脚する歌手さん』とだけ答え、メリーはそれで納得したようだった。
「でも、一寸ヤバイ空気かしら?」
「あ」
「あ」
 並んでいる人で、「フィアナがいるって?」「どこだよ?」「サインもらてぇ!」と、フィアナを知っている人が交じっていた。
「ああ、此は色々やばいね。一回撤収だ!」
「きゃ!」
 フィアナの手を掴む鳥飼。
「あたしの『歌っておどってが〜』」
「そんな問題じゃない!」
 エスティヴィアではないが、混乱防止のための緊急回避でフィアナを対策本部(仮)のファーストフードに帰っていく2人であった。


●前半は手がかり無し。
 アキトや水円も回るが、『夕焼けの恋』を深夜販売する(2)と(8)の店舗には、エスティヴィアは見かけられなかった。しかし、まだ4店舗しかない。あと4店舗については蓮沼が、ファーストフード店にて、休憩中のヲタク達に聞き込んでいたのだ。
「残る4店は、(4)と(7)が『宿命の鋼の騎士』、(6)が『魔法と少女と肉体言語』、(5)が『歌っておどって』だ」
『いま(7)の店にいるよ〜。店名は〈ウマウマ堂2号店〉だ〜』
 ドクターの無線。
「迷子のお知らせが居るよね」
 メリーがコーラーをのみながら言う。
「室長を探しテクダサイ‥‥」
 コアーが泣きながら言う。
「大丈夫、お仕事はしっかりするから」
 色々話をした結果、鳥飼が(4)、アキトが(6)、メリーが(7)、水円が(5)ときまる。水円が代理でフィアナと蓮沼の分の『歌っておどって』を買うことになった。アキトが、蓮沼の『少女と魔法と肉体言語』の代理購入となる。(2)と(8)が『夕焼けの恋』なので、余裕が出来たら買いに向かえばいいと言うことになった。

●遭難(7)
「こ、これは、流石に‥‥、覚醒しても‥‥」
「く、苦しい‥‥。ウェストどこー?」
 〈ウマウマ堂〉2号店。カウントダウンでかなり厳しい状態だ。
 人混みが他の場所に比べて尋常じゃない。何があるというのか? 『宿命の鋼の騎士』がかなり人気だと言うことなのは分かった。
「行列ってレベルじゃない!!」
 ウェストとメリーはそう叫びながら、人だかりに流されていく。
 此ではエスティヴィアを探す所ではない。メリーは体が小さいために、踏まれそうになりそうだった。なんとか、お互い覚醒し、この人混み地獄から脱出を試みる。脱出は成功したものの、汗だくになってしまった。あと、ヲタクの脂汗臭い。
「シャワー浴びないと!」
 メリーがハンカチで汗をぬぐっていた。
 ドクターはドクターで、
「先ほど大会やっていた店で、『魔法と少女と肉体言語』をかってくるよ〜」
 へろへろの状態で離脱していった。
 そう、時間が迫ってきたのだ。
「ガラスの靴が消えちゃうね‥‥」
 メリーが呟いた。

●当たり(4)
『こちら(6)、見つからないな』
「そうか、こっちは‥‥あ‥‥」
 鳥飼が見つけたようだ。
 いかにもゴシックで目立つ女性。日本人じゃないので、かなり背が高い(実際は男性と大差がない)。
「確認できるまで少し待ってくれ」
 横入りで白い目で見られないように、ゴシック姿の女性に声をかける。
「エスティヴィア?」
「あら? 鳥飼じゃない?」
「何をのんきに。いいけどさ」
「ん? だって深夜販売って、いいじゃん」
「確かにそうだな‥‥うん」
 驚くこともなく普通に話すエスティヴィア(gz0070)。
「あなたも買いに来たの?」
「あ、それもあるけどさ。報告書取りに来たコアーって人の頼みなんだ」
「ふーん、って、またあの子‥‥。締め切りはまだ先だってのに‥‥」
 頑張りや何だからとくすくす笑っていた。
「目標発見。えーっと、水円は『宿命の鋼の騎士』を欲しかったんだよね?」
『あ、そうだ。そっちにいたのか?』
「そうそう」
『それじゃ、頼んでOKか?』
「いいよ」
 水円と話をする。
「代理購入?」
「そう」
「OKよ」
 ウィンクするエスティヴィア。
「あのすみません。横入りは」
 スタッフに注意される。
「あ、ごめんねぇ。知り合いと話してて。鳥飼、後で詳しくね? 此貸して上げる」
 彼女は携帯ゲームを鳥飼に渡した。中には米国の代表RPGをアクション化したゲームソフトが入っていた。
「ああ、まってるよ」
 鳥飼はそのゲームをしながら暫く待っていた。勿論報告を入れてからで。
「難易度たけぇ‥‥」
 あと、目の化け物がおぞましすぎる‥‥と呟きながら。


●さて説得という物よりも‥‥
 無事に買い物も済ませたエスティヴィアと鳥飼、汗だくのドクターにメリー。そして、エスティヴィアが見つかって、購入班に変更したアキトや水円もファーストフードショップに戻ってきた。噂では、(8)の店舗では大暴動の様子。何かトラブルがあったらしいと話が持ち上がっていた。水円がほしい『夕焼けの恋』は比較的流れの良かった(2)の店舗で買う。
「二個買ってきたんだよ〜」
 勝ち誇ったようにドクターが『少女と魔法と肉体言語』を見せびらかして言った。
「ふう、販売数が限られている店はきついな」
 水円が汗を流していた。
 エスティヴィアとコアーは報告書のことで話をしている。一寸した緊張感が漂っていた。
「あのさ、コアー。あたしは、しっかりしめを守る女だよ?」
 と、溜息混じりのエスティヴィア。
「もう出来たなら報告書を!」
「だーからー、アレって来月の締めジャン‥‥」
「あ‥‥」
 コアーは急いでスケジュール表を見る。
「ごごごごご、ごめんさーい! 1ヶ月勘違いしてマシたぁ!」
 平謝りするコアー。
「我輩の苦労は一体っ! ぐへ!」
 店で遭難しかけたドクターが叫ぶ。声が大きすぎたので、男性陣が彼を小突いて、失神させた。
「いや、早く済ませたほうが、それに越したことはないですよ。出来ていないなら、今からでも遅くはありません。エスティヴィア」
 アキトが説得に入るも、
「ああ、それねぇー‥‥、しかしねぇ‥‥」
 溜息混じりでタバコを吸う女科学者だった。
「ゲームの相手は‥‥このゲームは1人用だから無理としても、他のゲームで相手しますし」
「でもさぁ」
 何かやる気がなさそうだ。
「なら一食付きで」
「‥‥」
 エスティヴィアが止まる。
「3食沿い寝付き」
 アキトのこの交渉で、エスティヴィアの何か揺らいでいた。
「これで無理でしたら、『お姫様抱っこ』で無理矢理連れて帰るしか有りませんね。それでも良いですか?」
「そ、それは‥‥全部含めてならいいかも☆」
「いいんかい!」
 蓮沼と、風見がつっこむ。
「でもさ、此のゲームをするために既に報告書は仕上げているって。仕事もしっかりするし、遊びもしっかりするさ!」
 エスティヴィアは『宿命の鋼の騎士』を見せてはえらそうに言った。
「‥‥!? 報告書仕上がってるのかぁ?! それを早く言えっ!」
 7人の声が木霊した。
 フィアナは、それを呆然と眺めて、紅茶を飲んでいた。

●終わりに
「さて、アキト君」
「な、なんですか?」
「『お姫様抱っこ』お願いね」
「え? し、仕方有りません‥‥。男に二言は‥‥」
 ファントムマスクを装着したアキトは、エスティヴィアをお姫様抱っこして、日本橋を後にする羽目になる。
「みろ、あそこにファントム仮面がいるぞ、お姫様を抱きかかえて」
 ヲタクが発見し、深夜の撮影会になる始末。
 それでも暴動になることもなく、無事高速艇のある場所に到着した。
 短い旅路の中で、鳥飼とメリー、蓮沼とエスティヴィアはゴシックファッションの話で盛り上がっていた。
「うわー、俺も来てみてぇ、ゴシックファッション♪」

 こうして、報告書は無事コアーの手に渡り、エスティヴィアは、暫くゲーム三昧で籠もるそうである。
「ああ、また、家事手伝いに行かないと」
「楽しいから良いじゃないのか? 交渉成立みたいなものだし」
 アキトのぼやきに、鳥飼は楽観的に答えた。