●リプレイ本文
●全体目的と個人目的●
小さな事をこつこつと。といったものだが、数名、一寸個人目的があり、ユニークであった。
ランドルフ・カーター(
ga3888)は閉所恐怖症らしい。程度は知らないが‥‥。
「自ら、苦手な閉鎖空間にはいることで、恐怖に打ち勝つ!」
と、自分に活を入れる57歳。
「目的が違わないか?」
リディス(
ga0022)が何とも言えない微妙な表情をして、彼に言った。彼の経歴をデータから引き出すと、「?」ともとれるが、ため息をつくだけにした。
「がんばってくださいね」
「恐怖を克服しましょう」
応援するのは大曽根櫻(
ga0005)と蒼羅 玲(
ga1092)。
大曽根はネズミが苦手である。しかし、困っている人を見逃せないため、この任務に就くのだ。怖い物と立ち向かう勇気は凄いことである。
「このようなことは性に合わないのだが‥‥。吾も地道に稼ぐとしよう‥‥。」
赫月(
ga3917)は、ブツブツと言っているが、生活資金が底をつきかけているため、渋々入っている。傭兵業も楽ではない。
「下水の調査も立派なお仕事ですよ‥‥終わったらシャワーですが」
ヴァイオン(
ga4174)が苦笑していた。下水に好きこのむ者はいないが、自分たちしかできない仕事となれば話は違ってくるのだ。
稲葉 徹二(
ga0163)は、キビキビとした動きでテーブルの上に、色々広げていた。地図とコンパス、ヘッドライト、そして火炎瓶風の空き瓶数個に布きれ、油缶だ。
「今回の仕事の内容と必須道具であります!」
おもわず、全員が敬礼したい雰囲気の口調なのだが、それが彼の癖だ。14歳なので、驚きである。
「下水のような澱んだ所にはやはりよくないものがたまる‥‥などとも言いますが。あまり歓迎したくないものですね、この匂いは」
「ま、きれいに洗えればそれで良いでしょう、そうそう、服装は作業着が良いと思います」
誰かが言った。一張羅が汚くなったら、それこそ大変だ。
もし普通のネズミの大群に襲われたなら、簡単に処理できるだろうとはおもうが問題は、壁の強度だった。ライフルぐらいは使えるが、スキルで強化するのは武器の破壊力によるので、控えることにした。
「気分的には、あれだ。昔のダンジョン探索だな」
ランドルフは遠い目をして懐かしんでいる。
彼の頭の中では、アメリカで毎年恒例だったアナログゲーム祭典を思い出しているだろう。
下水工事をしていた業者を調べたが、やはり、競合区域から人間側の領土へ逃げた者もいたため、詳しいことは分からなかった。これは地道にマップを書くしかないだろう。
更衣室。
「着物が良いのですけど。しかたありません」
蒼羅はションボリしていたが、更衣室を借りて、作業着に着替えた。綺麗な和服が汚くなるのは嫌である。
「動きづらくなりますからね」
大曽根とリディスも、作業着に着替え、長い髪をアップに留めている。
蒼羅は大曽根とリディスのスタイルをじっと見て、ため息を吐き、いそいそと作業着に着替えた。
皆がいかにも配管工の作業員の姿になって再び集まったとき。
「考えてみれば、お互い働きすぎであります」
稲葉がリディスに言う。
「そうか、仕事が趣味みたいな物みたいだから、気にはしていないですが」
にこやかに笑い、タバコを吸う。
「お疲れなら、このお茶でもどうぞ。それか、栄養ドリンクが良かったでしょうか?」
大曽根がお茶を差し出した。
「あ、お構いなく」
「ありがたくいただきます!」
お茶を受け取った。
作戦会議とお茶会ムード満載であった。
●探索●
「すみません」
ランドルフがマンホールに入る前に手を挙げていた。
「独り言を言っても良いでしょうか?」
「は?」
その言葉で皆は目を丸くする。
「捜索などに支障を来さない程度ブツブツ言うだけです」
「‥‥」
暗闇の中、それはまるで怪談を来ているようである。
「それは控えて欲しいですね‥‥」
「聴き入って仕事にならないこともありますし」
「そうですか‥‥残念です」
ランドルフが、しょげていた。
いや、暗闇の中で、ブツブツ言われたら結構怖い。別のベクトルで恐怖を煽ることは危険である。
中は本当に狭く、二人が武器を持って歩くぐらいしかない。しかも、ぎりぎり刀程度だ。ここはアメリカ、寸法はメートル法ではなく、ヤード法。日本人にはなじみがない。
「だいたい、7フィート(約2.1m)ぐらいか」
ランドルフは分かっていた。流石アメリカ人。
水につからず歩く場合の高さとすれば、それぐらいだろうと予測し、歩いていった。
流石に頭をぶつけるのは困るために、170cm以上の人は水に足を入れて進むことにした。流れはそれほど急ではなく、足を取られてこけるほどではない。ただ、ヘドロの不快感はぬぐいきれない。その点、蒼羅や大曽根は移動が楽であった。ランドルフは、水につかっても中腰で進んでいる。
「困りましたね」
射撃するときはすぐに岸に上がって、膝をついて撃つ方が良いだろうと彼は思った。
全員警戒しながら、捜索すると、血と下水のそれとは違う腐臭のにおいがする。
「これは‥‥」
蒼羅が懐中電灯をつけて、その先を見た。
本来目を背けたくなるような惨劇の跡がそこにあった。人が食われた跡である。
「やはりなにかいます」
蒼羅が冷静に言う。
服装からするとネズミ駆除の業者のようだった。
リディスが周りをみて地図を見る。はしごがあと数フィート先にあった。ああ、逃げようとしても逃げられなかったのか、と彼女は思った。
「相手はかなり早い気をつけよう」
死体はすべてが終わってから回収することにした。
沈黙に耐えきれなくなりそうなランドルフだが、大曽根の背中になにかが忍び寄る気配をして、とっさにその方向手をだした。
「きゃ!」
「蜘蛛のようです。背中に入りかけましたよ」
「はぁびっくりしたぁ。ありがとうございます」
そのとき、ランドルフの背中に冷たい物が‥‥。
「ぎゃああ」
水滴が落ちてきただけだったが、彼はかなり怯えた。
「おちついてください!」
彼を落ち着かせるのには、それほど時間はかからなかった。いったん外に出れば済んだためだ。近くに出入り口がありそれが幸いした。
「しかし、これで、何かに感づかれたかもしれない」
警戒することになる。
●襲撃・謎の生命体●
再び中に入り、しらみつぶしに探索すると‥‥、少し空気が違ってきた。
「獣が、獲物を狙うような気配がします」
リディスが、武器を構えいつでも覚醒できるように、構えた。
「‥‥」
明かりはある。しかし、この気配は‥‥数が多い!
稲葉の視界が一瞬、暗くなった。そして苦痛に膝をついた。
「敵襲であります!」
「どこから!」
「後ろ!? しや囲まれた?」
「うーん、面倒なことになりましたね」
足下や壁、各方向に、異形のネズミが居るのだ。
大曽根は、一瞬固まった。体長は普通のネズミと変わらないはずだが、殺気が違う。
「ね、ネズミ!」
おもわず、暴れて刀を振り回しそうな衝動を抑え、覚醒により髪が金色に変わり瞳も青になった大曽根。それでも、ネズミ苦手意識はのこりしばらくそれと戦っている感じだった。体制を立て直し、武器を構える稲葉やそれに続く、全員。ランドルフは岸に上がって膝をつき、足場を固定し、何もないところに火炎瓶を投げる。それが下水道全体を照らした。暗闇からの攻撃はこれで無くなる。
その瞬間にネズミたちが襲いかかってくる! 数は5匹!
噛み付きで来るわけではなく、口から黒い塊を発射してくる!
「キメラか!」
全員はかろうじてこの攻撃をよけていく。しかし、かすると、力が抜けていく感覚に襲われ、それは苦痛に変わった。
「何というネズミ‥‥」
さらに素早いため、なかなか攻撃が当たらない。ねらいを定めるのに苦労を強いられる。
ヴァイオンが刀で突いた! それでネズミに傷を負わせるがすぐに離れてしまう。そこでリディスと稲葉が挟み込んで、攻撃するがまだ生きている。そのネズミは、奇声を発してまた黒い玉を撃ってきた! 3人はよけるも、足場を取られて、下水の河にはまる。さいわい、足でたてていたので、倒れることはなかった。我に返った大曽根が勇気を出して刀でそのネズミを突き刺すが、まだ止めに至ってない。
「ちょこまかと!」
ランドルフが距離をとり、あさるとライフルで別のネズミを撃った。手応えあり。
赫月が剣で別のネズミを切ろうとするが、素早くかわされ、驚いた。
「あたらない!? 素早すぎです!」
そこで、再びネズミ数匹が黒い玉をはき出す。それは何とか交わした。どうもあれは物体には影響及ぼさないようだ。
大曽根が気配を感じ、刀を背に向けて突く。その先には、飛びかかろうとしていたネズミが貫かれていた。
「一体しとめました!」
それに続き、稲葉がアーミーナイフでランドルフが狙っていたネズミに斬りつける。
蒼羅は別のネズミを攻撃する。しかし、まだネズミは生きている。
「もう、早く死んでください!」
しぐさは可愛いが、口調は怖かった。
赫月がまた剣を振るうが、またかわされる。
「なんてことだ!」
残っているネズミが一斉に、黒い玉をはき出し、赫月に一発だけ命中した。苦痛に顔がゆがむ。
「このやろう‥‥」
覚醒で銀色に変色した髪が、揺らめいていた。
ランドルフが狙いを定めて、赫月が狙っていたネズミを撃つが外れてしまう。素早いのも程がある。
ヴァイオンが、最初から戦っていたネズミにファングで攻撃する。かなりのダメージを期待したが、まだ生きていた。
ランドルフが、もう一匹をライフルでしとめる。
ここから、全員が息のあったコンビネーションで、1匹ずつしとめていく感じになっていった。リディス、大曽根がネズミを斬り、赫月がそれにとどめを刺す。稲葉が気合い一閃でもう一匹の首をはねる。蒼羅は残ったネズミの攻撃をくらい、下水に転げてしまう。しかし、ヴァイオンがフォローでそのネズミを倒した。
周りにあった殺気はなくなっていた。ただ、腐臭と、血のにおいだけはなんとしがたい。
「タバコが不味くなります」
リディスがタバコを取り出そうとするが、湿って、ダメになっていた。
「買い直そう‥‥」
旨いタバコはやっぱり、良い場所で吸うべきだと考えを改める。
そのあと、怪我を治し、捜索を再開するが、生存者を捜すが居なかった。このネズミ型キメラ達は、何かの前触れなのか? それの解決はとても単純で、そして重要だった。下水の更に果て、川に流すための排水溝だった。そこは前線に近い区域まで続いており、そこの鉄柵が壊れていたのだ。何かの衝撃による破壊らしい、爆撃か何かだろう。そこで、キメラが群れをなして住み着き始めたのだと思われる。
「なるほど。ここから入ってきたのか」
見張りをたてて、役所と業者を呼び、修繕をする。
これで、ひとまず脅威は去ったと言えよう。
●任務完了●
悲しいことではあるが業者は、あのネズミたちにやられ、全滅していた。しかし、脅威は去ったため、任務は完了したことになる。
町の人々からは感謝をされ、ささやかなパーティーに招待され、その前に体を洗うため風呂などもかしてくれた。
「ありがとうございます」
の、一般人からの一言が、少しだけこそばゆい。
しかし、個人的問題はある。この仕事に入った大曽根達は、必死に体を洗う。匂いがこびり付いていないか、心配になるのだ。
「だ、だいじょうぶかな?」
とりあえず自分の匂いをかいでみる。
肌を傷めない程度ではあるが、にきれいに洗ったはずなので、大丈夫と思いたい。女の子には死活問題である。それは本当のこと。実際、気にするほど匂いは付いていないと分かり、安堵するのである。
余談だが、蒼羅はまたスタイルのいい女性のスタイルをこっそり見て、ため息を吐くのであるが。
気持ちの良い晴れ渡った公園で、おいしい空気を満喫する。
「今度は、ピクニックで気分転換したいですね〜。綺麗な草原でお茶を楽しみましょう」
と、大曽根が言うのであった。
END