●リプレイ本文
●調査
蒼い空にカモメが飛んでいる。そして、その上も下も鮮やかな青だった。
広大な水平線、陸に沿った道路、九条・縁(
ga8248)と赤霧・連(
ga0668)は、バイクで走っていた。もし此がオフで有れば、快適なツーリング日和だったに違いない。日本人にとって、アメリカの町や港町は広大だ。
「ほむ、此処でもなかったようですネ」
「他を当たろうか」
周りに聞き込みを開始して、かなり時間は経っている。
時にはゴシップ、記者としての取材をし、時には身分証明を見せ、地道に足でこの港町で能力者内定者を捜すのに必死になっていた。しかし、これと言った有力な情報を得られることはなく、まだ、内定者の割り出しはできなかった。此処は暫くして、役所や病院に向かっている調査班から情報を貰うしかないだろうか?
しかし、連は何かを浜辺で見つけた。急にバイクを止める。地面にバイクのブレーキ跡が付くほどだ。
「ほむ! く、九条さん! み、見て下さい!」
「‥‥なんだ?」
彼女の慌て振りに、何かを感じ取ったのか、連の指差す方を見ると人が横たわっている。
行方不明になっていた3人のうち2名が、見るからに溺死で浜に打ち上げられていたのだ。
白鐘剣一郎(
ga0184)とFortune(
gb1380)は、各地の病院などを訪れ、適性検査の結果を見せて貰っていた。やはり適正者はすくない。ウィルソン・斉藤(gz0075)の方も動いており、過去のリストも洗い出している。今は病院だった。
「今、皆が居る場所には1名か‥‥」
「‥‥守りやすいと言うことですね」
事務の人から電話が来たと知らされ、白鐘が電話に出た。
「もしもし、斉藤だ」
ウィルソン・斉藤(gz0075)だった。
「何か分かったか?」
「3人いなかったが、そのうち2人は、やばい橋をしたために逃げているらしい。こっちとは管轄外だな。内定者でもない」
「そうか。なら、自業自得の感もあるわけか」
「そうなる。それは地元の警察にゆだねるだろう。FAXで写真を送る。でそっちはわかったか?」
「ああ、今丁度、赤霧と九条に情報を渡すところだった」
早速、港町で内定者を捜す調査をしている連と九条に連絡を入れようとしたが、向こうから話が来た。
「た、た、たいへんなのです! ひ、人が浜辺で死んでました!」
「何?」
その言葉にゾッとする。救えなかったのか? と。
「か、数は?」
「ふ、ふたりです!」
「‥‥そうか」
「ほむ? どうしたんですか? あの、そのどうしましょ!」
「ああ‥‥、いや、その町の保安官を呼んでおくように。俺たちもそっちに向かう」
数時間かかったが、保安官調べによると、ギャング紛いの『仕事』をしていた2人組とわかり、残る『内定者』ではなかった。
前の事件で死んだ警察官について調べている2人は少し時間がかかるそうだが、隣町の保安官のいる場所で連絡は入れることが出来るので、念のためにFAXを送る。
まず出来ること。それは、内定者の確保だ。
「どの様な理由であれ‥‥。人が死ぬって事は悲しいのです‥‥」
連は呟く。
今回の失踪事件に関係なかったが、悲しい出来事であることは違いない。
九条は、彼女の頭をなでる。
「今は俺たち出来ることをしよう」
と、白鐘から貰った情報を元に、『内定者』の保護に向かった。
ベルを鳴らす。
「済みません、寺スポの記者でいくか?」
と、連に訊ねる。
連は首を振って、身分証を出す。
九条は頷くと、ベルをならし、人が出てくるのを待った。
「あの、UTLの傭兵です。お時間良いでしょうか?」
幸い、内定が出てまだこの町ひとつのバーに行っていないと内定者本人は答えた。丁度、今日向かうつもりだったらしい。友人と待ち合わせて、祝うことになっていたそうだ。
「えっと、では、ほとんど知らないと?」
「ああ、友人だけだけですから」
「なら、その辺待ってくれないかな?」
「はぁ」
未来の能力者を、危険にさらすことは出来ない。確保成功である。
そこで丁度、カルマ・シュタット(
ga6302)、水円・一(
gb0495)から、5人、監視班と陽動班に向けて連絡が来た。
●隣町の警察
誰に向かっていったのかは分からないが、水円はこう言った。
「あれが良いこれが良いは良いのだが、もう少し上手く分けてくれ。手が増えるのはいいが、煩雑になるのは考え物だな」
警察に色々聞き出し、殉職した警察官の事を遺族からも聞いた。水円は高圧的でもなく、あくまで、理性的に事を進めていった。
カルマはそれに感心してこう言った。
「たいした物だな」
「昔、似た様な事をしていたのでね」
苦笑混じりに水円は答えた。
遺族の家に向かう。
「内定が決まっていたそうで」
「はい」
「しかし、何かを思い詰めていたことは確かです」
「日記か何かをお持ちでしょうか?」
「お待ち下さい」
遺族が席を外す。
持ってきたのは、警察官の私物が入った箱だった。
水円は手袋をして、日記を見つけ手に取る。
其処には、この町やそれ以外で起こっている、謎の失踪についての新聞の切り抜きと自分なりのメモがびっしり詰まっていた。
『非番。コンビニの帰りに、スーツ姿の身なりの良い男が、私に近寄ってきた。親しく声をかけてくる。どうも、自分も内定者だと話かけてくる。何処で知ったのだ? 私が内定者だと? 何処で知ったのだ? もしかすると此が、例の‥‥犯人? 此は、様子で見ないといけないだろう。私は囮になる。この事件を知るために‥‥』
日付は彼が死ぬ3日前だった。
●監視班
優(
ga8480)と中岑 天下(
gb0369)の監視班は、リディス(
ga0022)と緋室 神音(
ga3576)の陽動班を大体30ヤードほど離れて見ていた。リディスや緋室は、いかにも傭兵風で、武器を持っているような出で立ちである。一方優と天下は、落ち着いて目立たない格好である。この地域は日系が多めだったため、カツラなど要らなかった。
「周囲に注意を払いながら、そこに溶け込む‥‥。言うは易く行うは難しですね」
と、呟く。
何者かと接触できないか、待っている。しかし、時間だけが過ぎていた。
夕刻、リディスと神音はバーに立ち寄る。この町の唯一のバーに。2人は、ノンアルコールの飲み物とつまみを頼み、バーに流れる70年代ジャズを聴いていた。
監視班の2人は、車で待機している。
港町の人がぞろぞろ入っていく所を見ながら、
「さっさと尻尾出してくれないかなぁ‥‥」
天下は呟いた。
前もって、白鐘や水円から情報を得ている。それっぽい男が入るのをずっと待っていた。情報から得たのはそれらしい男が数人。そのなかで、かなり良いスーツを着ていそうな男を中心にバーの中に入っていった。
『来たわ』
リディスが小声で監視班に言う。どうも、小さな音もひろって「私の奢りです」と男の声が聞こえてきた。
緊張が走る。
バーでは、身なりの良い男が、リディスと神音に親しそうに声をかけてきた。
「私の奢りです」
と、ノンアルコールカクテルを頼んでいる。
「ありがとう。でもよく分かったわね? 私達がノンアルコール飲んでいるなんて」
「バイクに乗っているところを見かけたものですから。もしかして、旅行ですか?」
「ええ、ツーリングね」
「はい、西海岸を走ってみたかったから」
リディスと神音は男との会話に乗っていく。
「あなたは何処から?」というよくある質問に、受け答えし、世間話をしていく。
その中で、男がこう言い始めた。
既に2人が能力者で傭兵あることも明かすと、「何か事件でも?」と訊ねられたら、「オフですよ」と返し、「なるほど」と、男は納得する。
その普通のやり取りの中、
「私は、能力者や内定者をバックアップしたいとおもって、こうしたところで話しかけているのですよ」
「そうなんですか」
(「来た!」)
監視班は背もたれにもたれかかって、この会話を聞いて、スピーカーに耳を傾け集中する。
男曰く、「実はUTLから」や、冷静に考えると「嘘である」内容の話をする。しかし、もし此が酔っているなら、『何かを盛られている』事もふまえると、信じてしまう話術であった。
「それは便利みたいわね」
「今からそこに行きませんか?」
男が誘う。
「ああ、いえ、ホテルに帰りたいし。ね? 神音」
「ええ」
「それは残念」
男はため息を吐く。
「でも、日時決と場所を教えてくれたらそのときに」
「‥‥わかりました。ここで」
男はさらさらとメモを渡す。
場所は『ノース・ストリート85番地』pm7と書かれ、日は翌日となっていた。
リディスと神音は男とバーを出る。そのときに、男が彼女たちの代金を支払ってくれた。
リディスは車を見て、其処に座っている優と目が合い、頷いた。
●集合
「かろうじて間に合いそうだな」
白鐘や水円、九条が計算して考える。
「では、俺たちで何とかするしかないな」
「そうですネ」
調査班全員は車やバイクのアクセルを思いっきりかけて現地に向かった。
集まると潜入するための会議。
「人を殺さないでいくべきだな」と言う事は全会一致。峰打ちで何とかするのだ。ただ、威嚇射撃、牽制は必要である。必ず情報を得ないといけないのだ。
あくまでこの組織を逮捕し、真相を聞かなければならないのである。
ノース・ストリート85番地。そこは、古びた廃屋だった。周りは何もない。
「何かしら手を打って、呼び出すのね」
「気を付けないといけないわ」
リディスと神音が先に行く、
既に囲んでいる状態で、相手から四方からねらい打てるだろう。ただ、此が本当に犯人か確定ではない。
「無線機に妙なノイズが入れば‥‥十中八九、当たりだ」
斉藤が無線で伝える。
そう、電波障害が起これば、大抵の無線機や発信器は役に立たないのだ。今回高性能の無線機でも、ノイズは入るのだ。
陽動班が、廃屋のドアをたたく。
『どうぞ』
男が開けてくれた。
中に入る。
未だ確証を得られない分、緊張は増幅する。
廃屋と言っても、内装やリビングはかなり綺麗であり、電気も通っているようで灯りが灯っている。ソファには4人ほど能力者らしい出で立ちの男が座って、酒をのんでいた。
男がワインをもってきた。
「さて、君たちに来て貰ったことは嬉しいよ。一杯やらないか?」
「私は未成年だ」
「そう堅くならないで」
男は苦笑する。
「それに‥‥、そんな話は聞いたことはないのだけどね」
神音は男を睨む。
ソファに座っていた能力者は、2人を見る。
「‥‥まあ、そう言うと思ったよ。しかし、かなりの『力』もっているね」
「何が目的だ? あの誘拐犯の犯人はお前達か?」
刀袋の紐をほどく。
別の部屋から黒い影がかなりの数出てきた。
「傷づけてもかまわん、大人しくさせろ!」
男が4名の能力者と、影に叫ぶ。
そこで、無線機にノイズが走ったのだ。
「突撃だ!」
斉藤が叫ぶ。
白鐘と九条が一気に駆け寄る。窓からは何か人影が飛び出してきた。
筋肉の異常発達し、骨などが肌から飛び出してそれが武器になったような、人間である。爪もかなり鋭いものだ。
「キメラか! なぜこんな所に!」
白鐘の淡い黄金の輝きに包まれる!
一気に蹴散らし、中にはいろうとするも、二階からマシンガンの連射。彼は横に飛び退き転がった。彼のスピードを見切って、撃ってくるとなるのは、相手は紛れもなくの能力者だ。
「援護します!」
連が、黒髪をなびかせ、二階の壁に威嚇射撃1発と、襲いかかるキメラに一発放つ。壁に大きな穴が開くも、傭兵達は別の壁に隠れて又撃ってこようとする。キメラは彼女の一撃で脳天を粉砕された。
別の方向で天下と優が走り込む。サブマシンガンの弾幕をかいくぐるにも流石に数が多い。Fortuneが弓で援護し、壁までなんとかたどり着くも、壁を壊して、やってくる人型キメラに阻まれる。
「何この数は!?」
見たところかなりの数がいると思われる。
屋内では、4人の能力者と5匹のキメラが女性2人を囲んでいた。男だけは安全な場所まで移動している。
「まあ、そろそろ、知られるとは思っていたんだ。頃合いだった」
男は外の音を聞いて、呟く。
「なに?」
神音が言うが、男は聞いていない。
「潮時だとは思うね。うん、さて、僕はにげるかな」
「逃がすものか‥‥」
真紅の髪のリディスがキアルクローをもち、瞬天速で詰め寄るが、掠りもしなかった。
「何?」
「無駄だよ」
後ろから傭兵が、爪やナイフで襲いかかってくる。
受け止めかわし、間合いをあけていた。
「花弁の如く散れ――剣技・桜花幻影【ミラージュブレイド】」
神音が、キメラの首を飛ばす。若干詰まった感触と赤い壁の出現は強力なフォースフィールドだとわかる。
「ガードか足止め係か!?」
リディスと神音が背中を合わせて残る8名の敵から身を守る。
「能力者‥‥の目‥‥生気がないわ」
「死んでるの?」
「いえ、操られているのでしょう。先に、キメラを」
「分かった」
確実に、キメラを倒し、当て身や峰打ちで、能力者達を失神させたのだ。
連は、この家の死角を見抜き、其処から何者かが逃げていくところを発見する。
「そこ! 逃がしません!」
弓で足下を狙う。影は一旦足を止めるが、また、ゆっくりと去っていく。
「今度は狙います!」
もう一矢。しかし、驚愕する。赤い壁で、その矢はいなされたのだ。
かなり頑健な障壁だ。男はそのまま、銃を撃つ。連はかわすが、弾丸は腕を掠った。
「っく」
「くそう!」
九条が突撃し槍を突くが、此は紙一重でかわされてしまった。男に腹を殴られる。
「ぐ!」
九条は、その重い拳に、体をくの字にさせて身動きがとれなくなった。
「いずれ‥‥又合うよ。人の手によって人外になった者達‥‥生け贄には相応しい‥‥」
男は闇夜に消えていった。
白鐘や水円、天下や優達と、リディス、神音は他のキメラを倒し、能力者を失神させた。
●謎
キメラは処分し、気絶した洗脳されている可能性のある能力者達の回復を待って、傭兵達は応急処置だけを済ましていた。
「手強い相手だった」
「一体何が目的で‥‥」
謎だけが残る。
なぜ能力者や、内定者を‥‥? そして、あの男が残した言葉『又会うよ』。
「『また会うよ』とは、一体。‥‥何を考えているんだ? あいつは?」
斉藤と水円が、不機嫌な顔で戻ってきた。操られていた能力者が、目を覚ましたので事情聴取をしていたのだ。
「どうでした?」
「どうもこうもない。いっさい記憶がないんだ。催眠治療でも難しいんじゃねえかと、さ」
斉藤は、タバコを吸おうと煙草を一本だすのだが。
「ここ、禁煙みたいよ」
頭に包帯を巻いている、天下が言う。
「あ、そうか‥‥。すまん」
溜息をついて、煙草をケースに戻した。
「今回は一名、保護できた、そして人間の死人も出していない。が、一体、なんのために‥‥? わからん」
誰もが思っている疑問。
斉藤のこの『仕事』は続きそうであった。