●リプレイ本文
●作戦会議室●
テーブルにはショッピングビルの見取り図と、無線インカム、胸にかける懐中電灯が人数分転がっていた。
「かなり難儀な任務だ。気を引き締めていこう」
九条・命(
ga0148)が真剣な顔をして、今回参加するメンバーに言った。
「皆が言ったようにまとめると、まず地上班と地下班にわかれて、行動するわけだが、先にある程度おびき出して、キメラの数を減らす方が良いな。時間との戦いもあるが、確実なのが良い」
「では、俺が‥‥、空砲を鳴らす。それに併せて‥‥迎撃に備えて欲しい」
ベル(
ga0924)が、愛用のフォルトゥナ・マヨールーを持つ。
緋室 神音(
ga3576)が続けて、
「まず、キーカード、パスワードを事務室から探しだし、システムの復旧などを優先にした方が良い。それまでにキメラが倒せたら、何とかなるだろうし。もし、途中で救助者を見つけても、瞬天速で逃がして欲しい」
と、言った。
周りにいる、リズナ・エンフィールド(
ga0122)、出雲雷(
ga0371)、花柳 龍太(
ga3540)は異論がないと頷いた。地上班は リズナ、出雲、ベル、リズナ。地下班は 九条、花柳、宗太郎と言う班分けである。
この作戦が決まる前に、こんな話もあった。
「ハムを使っておびき寄せるのも手だと思うが‥‥」
九条は真剣に考える。宗太郎=シルエイト(
ga4261)も何か真剣のようだった。
周りが、しらけ始めるが、
「いや、それはなかったことにしてくれ」
と、九条は首を振った。
家畜の血を浴びて、おびき出すという案も出たが、それはリスキーであるし、実用性はあっても、気分が良い物ではない。ハロウィンでもらったハムの有効活用を考えると難しい。
たかがハム、されどハム。
ハムにこだわることは横に置いて、各々装備をチェックし、現地に向かうのであった。
●いきなり戦闘・苦戦!?●
ショッピングビル前に7人は立つ。
入り口前のガラス張りの壁は、大穴が開いていた。所々に穴や、何かが焼けたり凍ったりした後が見られる。
「何か特殊能力を使うようだな‥‥。皆、待ってろよ。絶対無事に助け出してやる」
出雲が言う。
「では、まず九条さんの案を尊重し‥‥、ハムを‥‥」
「それはいいから」
宗太郎が新聞紙とライターを持ってハムを焼こうとするところ止められた。
「それは、ムリと却下が出たじゃないか」
苦笑する九条。
「笑いの道はほど遠い‥‥」
と、宗太郎は遠くを見てしまった。
「ギャグだったのか?」
呆れるしかないが、しきり直して皆は進む。
ベルが銃に空砲の薬莢を入れる。
皆はそれにうなずき、覚醒する。
中に入った。
確かに吹き抜けだが、中央に、エスカレーターが3階までのびている。戦闘するには、重要な足がかりになる場所だろう。一瞬に戦地を把握しようと、全員の気が引き締まる。天井はぽっかり穴が開いているし、入り口
九条がベルに合図を送った。
「3‥‥2‥‥1‥‥」
吹き抜けロビーに、数発の銃声が木霊する。
その直後‥‥いや、数秒といえるのかどうか分からないそんな時間。
各階から、合計4体のキメラが現れた。翼をもち、幻獣では最強といわれるドラゴンの頭を持つが、1.5m前後のキメラ3体と、炎のような赤い毛皮を持つライオンのようなキメラ1体だ。ただ、こちらが不意を突かれたわけではない。あちらが、とても速かった。ということだ。
「まるで、来るのを待っていたかのような俊敏さね!」
リズナが舌打ちする。
空中から、そのまま翼キメラ3体が冷気を吐く!
「うわあ!」
何とかかわして免れる人もいるが、花柳と宗太郎が、その冷気を喰らい体が凍り付く。凍傷を負った。
「寒い‥‥」
ライオンキメラが火の弾を放つが、緋室はそれを横っ飛びで回避し、そのまま膝を突いた状態で構え直す。
「空と地、氷と炎の対極か‥‥」
まだ戦いは始まったばかりだ。
反撃に入る。
出雲が瞬天速で、まだ上にいる翼を持つキメラに間合いを詰めて連撃し、それを地面に叩き付ける。丁度その下に九条がいて、渾身の力を込めた攻撃。手応えがあったが、まだ生きている。緋室がそのまま刀で切り裂く。虫の息だ。
「これで‥‥終わり」
すでに装填し終えた、ベルのフォルトゥナ・マヨールーが火を噴く。翼キメラが絶叫と共に崩れ落ちた。
「一匹‥‥撃破‥‥です」
親指を立てる。
先ほどの不利な状態はどこへというばかり、彼らの立て直しは早く、九条と出雲、リズナでもう一匹を倒し、ベルがスコーピオンで徐々に他のキメラにダメージを負わしていく。それを前衛である残り6名が仕留めていく。宗太郎は、ロングスピアを巧みに使い、ライオンキメラに足払いして、伏せの状態にした! そこに出雲の全力攻撃! それで、ライオンキメラは沈黙する。
「ナイスアシスト! GJ!」
出雲と宗太郎はアイコンタクトでたたえ合う。
残ったキメラは、最大の冷気を吐いて、九条とベル、花柳を襲った。何とか耐えるも花柳がピンチである。
「させるか!」
九条が、寒さをこらえ、ベルのスコーピオンによる援護もあり、キメラを倒した。
「これで大多数が、掃除できているなら良いのだけど」
リズナや緋室が、怪我をしている人を応急処置する。
この戦いで、またやってくる気配がないか警戒しながら。しかし、聴けないのかそれとも他のことに熱中しているか、一向にこない。今が動く機会といえるだろう。
「大丈夫?」
「ん、なんとかなる。気にするな」
花柳はかなりダメージを負っている。しかし、体力には自信あるんだと胸を張っていた。
じっとしている訳も行かない。各班に分かれ、行動を再開する。
そのときベルが言った。
「また‥‥後で」
と。
●地上班●
何も遭遇せずに4人は事務所がある3階までたどり着いた。建物の中は非常灯しかなく、懐中電灯が役に立った。中はかなり荒らされ、キメラが暴れていたことを物語っている。
「ひどい‥‥ありさま‥‥だ」
それを気にしては行けないが、まず生存者が居るか確かめたい。しかし優先事項は事務所でキーカードとパスワードがあるかを探さなくては行けないのだ。
「ここだ」
リズナが指差す。事務所だ。
小銃を持っている者は、そっちに持ち替えて、ドアを蹴り破り、警戒しながら中に入る。
何か物音がする。とっさに銃を向けるが‥‥。
「まってくれ!」
人の声だ。
用心深く、近寄って確認すると、本当に人間だった。
「あ、あんたたちは?」
「UPCです」
「た、たすかった‥‥」
「どうしてここに?」
緋室が尋ねた。
「逃げ遅れたのもあるが、何とかシェルターの内部と通信したかったので、ここに何とか隠れていたんだ。キメラに見つからないようにこっそり復旧作業もしていて‥‥。どうなることかと」
「安心してくれ。もう大丈夫だ。我々がキメラを殲滅する。」
「ああ、しかし、まだここのシステムも不調でな。機械室はどうか分からないが、モニタや店内などの放送は可能になるはずなのだ。誰か手伝ってくれ」
「では、私がしよう」
「じゃ、俺たちのこりは、見張りに付く」
「私も見張りにつくね」
「うん‥‥わかった」
出雲とリズナ、ベルが頷き、周りを警戒する。
しばらくすると、足音がする、先ほどと同じような。
3人は小声で話す。
「まだ気が付いていないはず‥‥」
「先手必勝だな」
「だよね‥‥」
そして出雲とリズナはすぐに動いた。
翼キメラとライオンキメラが、廊下の角にいた。相手は気が付いて無くて、この二人の全力攻撃に耐えきれず、そのまま何も出来ないまま‥‥倒される。
「地上階層の‥‥キメラは‥‥居ないかも‥‥しれない」
ベルが復旧に精を出している緋室に伝える。
「OK。いま丁度復旧したわ。監視モニタと放送装置がね。いまから流すわ」
緋室はマイクを持って、店内放送で喋る。
「こちらUPCからの能力者です。もうすぐあなた達は解放されます。音も立てず、じっとしてください。繰り返します‥‥」
●地下班●
「よし、地上はOKだけど‥‥こっちはやばいかもな」
九条は緋室の店内放送を聞いていてほっとするのだが、地下はまだ解決していない。
九条達地下班は地下の大きな柱に隠れて、シェルターシャッターを見ていた。
そこには赤いライオンキメラが2体。体当たりで、シェルターを破壊しようとしている。いくらシェルターが頑丈でも、キメラ2体の力だと、壊れるのも時間の問題かもしれない。しかし、猛獣型キメラは鼻が良いのか、すぐに、九条達に気が付いた。獲物として、能力者に殺意が向けられる!
「みつかった! でもな、返り討ちにしてやる!」
九条、宗太郎、花柳が構える。
1体が、九条と花柳をすり抜け、宗太郎に体当たりする! しかし、宗太郎はロングスピアで受け凌ぐ!
「今のうちにこいつを!」
「おう! これでもくらえ!」
九条が、全力攻撃のストレート『狼牙』を繰り出しその一体を仕留める。
また、花柳は、
「これでおわりだ!」
残った一体にすぐに間合いを詰めて、連撃にてキメラを仕留めたのであった。
「こちら地下班。キメラ2体撃退」
「了解、そちらの機械室はどうなっているか見てくれ。ほかキメラが残っていることも」
「了解した」
●任務完了●
機械室の復旧や、緋室がモニタで様々な場所を調べ、キメラが居ないことを確認し、作業員と交代後、急いでシェルターに向かった。
「この中にいるけが人と子供は、無事なようだ。命に別状はないが、治療などしないと行けないだろう」
花柳が言う。
「そうだな」
シェルターのキーロックを解除する。
少し動きは鈍いが、シェルターのシャッターが開いていく。
仲から聞こえるざわめきが、おびえの悲鳴から、歓声に変わっていく。安堵から泣き出す者もいた。
「手が空いている能力者も治療に手伝って!」
と、緋室が言う。
リズナ達は
「わかったわ」
と答え、すぐに行動に移した。
戦いで怪我した者や、この騒ぎで怪我を負った人を治療していく、皆。また治療セットがないものは警察や救急車を呼んだり、避難者の誘導に加わったり、現場検証のための下準備をしていたりと事故作業に奔走する。
緋室は泣いている子供をみて、目線をあわせるようにかがみ、頭をなでた。
「よく頑張ったな。もう大丈夫だから」
「おねえちゃん!」
子供は彼女に抱きついて泣き出した。
緋室は優しく抱きしめる。子供達が、彼女の周りに集まっていく。ベルは、それを見て、少し笑顔になった事に気が付いていなかったが、気持ちが良い物だと思ったことは間違いない。
けが人はいたが、ほとんど軽傷ですんでいた。能力者達が救出に向かった時からは死者はいない。その手際の良さと勇気に、この町は感謝していると、話を聞くことが出来た。真の平和はまだ遠いが、これからも頑張って欲しいと、皆は応援しているそうだ。
それはある意味励みになるだろう。
こうして、救出作戦は成功したのである。