●リプレイ本文
●ラスト・ホープ
高速移動艇に搭乗するロビー。何処にもある空港と変わらないが、最新の設備であることは一目瞭然であった。そこで、フィアナ・ローデン(gz0020)とローデン事務所のメンバーがソファに座っているか立って、人が来るのを待っている。
「フィアナちゃんニャ〜!」
「きゃあ!」
アヤカ(
ga4624)がフィアナに後ろから抱きついた。当然驚くわけで。
「もう、驚かせないでね」
フィアナは、アヤカの声で安堵し、彼女の顎をなでてみる。
「猫じゃにゃい‥‥ぐるぐる〜」
アヤカは猫耳になって、猫なで声をだしてしまう。
「‥‥お久しぶりです。‥‥フィアナさん」
「ベル君! それに皆さん!」
ベル(
ga0924)が普通に歩いてくる。後ろにはホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)、小鳥遊神楽(
ga3319)、鳥飼夕貴(
ga4123)、辰巳 空(
ga4698)と並んでいるのだが、ホアキンは重体で包帯に松葉杖な状態であった。
「大丈夫ですか?」
フィアナ、彼の元による。アヤカもフィアナから離れる。
「なに、護衛は出来なくても営業はしっかりしますよ」
親指を立てて大丈夫だという仕草をするがあちこちが傷むのか、堪えているように見える。
「まあ、あたしも根は同じ人種だから、フィアナさんの苦悩は分かるつもり。だから、販売促進の為のミニライヴだけど、命の限り歌ってみんなの度肝を抜いて、魅了してやりましょうね」
神楽がフィアナの肩を叩いて言うと、フィアナは頷いた。
いつも出会うメンバーに、いつも通り挨拶してから、フィアナは初顔合わせの2人にお辞儀をし、握手する。
「はじめまして、フィアナです。辰巳さん、ホアキンさんよろしくお願いします」
辰巳もホアキンも実はフィアナと直に話したことはない。ホアキンは夏のコミレザで警備はしているが、フィアナ自身には会えなかったのだ。
「はい、はじめまして」
「よろしくお願いします」
「早速行こうかニャ!」
「‥‥ですね」
こうして、一行は大阪に向かう。
●歌の内容
「どんなテーマやイメージ、メッセージを持たせた曲なの?」
ホアキンは、フィアナに訊ねる。
「平和の大事さや、そのために戦っている人へ希望を届ける歌、恋物語などを歌ってます」
フィアナは、嬉しそうに答える。
「マスターはないですが、スペアを持ってます」
CD−Rをラジカセに入れる。
14トラックは、彼女が言ったとおりの内容が歌われており、ライヴには観客がコーラスで歌うような部分もある。ジャケットの名前にもなっている「ピース・ザ・ワールド」は6番目、平和を願う歌だ。最後はアコースティック・アレンジの「ピース・ザ・ワールド」が入っている。
「癒されますね」
ホアキンは頷く。
ベルも神楽も、鳥飼もアヤカも辰巳も聴き入っていた。
「やっぱりフィアナさんの歌ってる姿が見たいな」
鳥飼が言う。
それに反論する人は誰もいない。フィアナの歌を届けるため、集まった人なのだ。
「何度も聞いて、しっかりギターに馴染ませないとね」
神楽がギターを取り出し、リズムを覚える。
アヤカも、足でリズムを取って、どのタイミングで歌うかを模索している。
ホアキンとベルは何処に向かうかの打ち合わせ。
それは、高速移動艇のなかから、事務所の支部でも綿密に行われていた。
●がんばれちんどん屋
道頓堀で、人々が鳥飼を見ては通り過ぎる。
女形(実際筋肉が凄いので、着物を着ないとアレなのだが)の鳥飼がちんどん屋になって、ポスターをパネルにし、練り歩いている。
フィアナの事務所から携帯プレーヤーを借りての行脚だ。事務所にある手頃な太鼓などでアピールし、ポスターなどを配っていく鳥飼だが、音楽と妙にミスマッチで、ポスターを貰ってくれる人は少なかった。
「同士集めれば良かったかなぁ」
いや、其れではないと思われる。
道頓堀と言っても、難波から心斎橋まで練り歩けば、結構な疲労だ。
事務所スタッフの何名かも参加して貰ったが、芳しくなかった。勿論、自治体に許可を貰って警察沙汰にならないようにしている。
「お疲れ様です」
「うーん、あまり役に立たないで、済みません」
「いえいえ、未だもう少しやりましょう」
時間は幾らでもある。
鳥飼とそのスタッフは、何度も往復しては、最後にヲタウェイまで足を運んだ。持っていたチラシの半分ぐらいは捌けたかも知れない。
「お疲れ様!」
「つかれたぁ!」
へろへろになる、鳥飼。髪型が蒸れるので解く。
「他の人は?」
「ライヴ場所確保と、営業ですね」
「そっか‥‥」
鳥飼はジュースを飲んで一服していた。
●営業と宣伝
鳥飼がちんどん屋をしているころ。
ベルとホアキン、辰巳はCDショップや、インディーズ関連を扱う雑誌の会社に、営業を開始いていた。
「‥‥どうかお願いします」
「‥‥あまり見なかったからどうしたのかとは思っていたけど‥‥活動されているんだねぇ」
店員の方は好印象だ。
「‥‥ご存じなのですか?」
「‥‥もちろん、大阪では熱気だったからね。ポスターは何枚? チラシは何箱?」
「‥‥あ、一寸待って‥‥下さいね」
ベルは嬉しそうにポスターとチラシを店員に渡す。
「しっかり出来たら、棚に置くから。フィアナさんによろしくね」
「‥‥はい! ありがとうございます。‥‥そして、‥‥よろしくお願いします!」
手応えがあることで、ベルは嬉しそうに頭を下げた。
心も軽やかになるベルであった。
雑誌の編集室。
「俺は今、ちょっとした深手を負っているんですが‥‥フィアナの歌声を聞くと、何となく癒されるんですよ。だから、こうして柄にもなく、彼女の営業を手伝っているわけですが」
携帯プレーヤーを差し出し、編集ライターに聴かせるホアキン。
「ふむ、結構にたような歌があったと思ったが、なるほどなるほど」
「?」
「紀伊半島のライヴでも、彼女が歌ったと記憶しててね‥‥たしかぁ‥‥。あった」
その雑誌を持ってくる
「活動が暫く無くてどうしたのかと思ったが、色々暖めていたならアーティストとして普通だろうね」
本当はデスペアの所為で、他に向かえないところがあるのだが、そう言う不安はマイナス印象になるため話さない。
「ええ、じっくり想いを込める彼女の音楽なんですよ」
「あんたが、怪我をおしてまで営業している気持ちも分かる。うむ気に入った」
「ありがとうございます。彼女が近々、この街でミニライヴをやるそうです。宜しければ、生の声を聞きにご一緒しませんか。ご自身の耳で直に聞かれた上で、新曲の紹介記事を書いていただけると嬉しいのですが」
「場所は?」
「決定次第お知らせします。エイジアの高見台の方で、ゲリラライヴをするかと」
「ほほう。其れは張っておかないと行けないね。情報ありがとう。エイジアで行うなら、地元のフリーペーパー『エイジアインフォーメ!』にも掛け合ってみればいいかもね」
「ありがとう。お願いしますね」
「ああ、怪我お大事に」
交渉成立のようだ。
「さて、今度は‥‥フリーペーパー『エイジアインフォーメ!』の編集部か」
「‥‥ホアキンさん大丈夫ですか?」
「大丈夫ですか?」
ベルが各地を回ってかなりチラシとポスターを捌いて、身軽になっていた。丁度辰巳とも合流する。
「なに、多分大丈夫だ」
「肩を貸します」
「さんきゅ」
「ところで、そっちの首尾は?」
ホアキンがよたよたと歩きながら2人に尋ねる。
「‥‥順調です」
ベルがホアキンに答えた。
「こっちもですね」
親指を立てて、FM経由なら問題ないという事を言った。
●神楽のコネ
小鳥遊神楽は、心斎橋、キタ、ミナミなどの、ライヴハウスを歩き回る。かつてアーティストである彼女がすることはかつてのコネをつかい、場所を確保することである。そう、ライヴハウスを使ってライヴを聴かせるため人を呼ぶことだ。其処にはアヤカもフィアナもいた。
しかし、神楽の期待に反して、現実は厳しい物だった。
「此処も閉まってる!?」
落胆の声。
「小鳥遊さん」
「大丈夫、まだあるから」
過去に名がそれなりに通ってる彼女。しかし、戦争という厳しい現状で、逃げるか被害にあってしまったか、景気が悪く閉じてしまったかという現実だった。
(「いま、まさに歌が必要なのに!」)
神楽は心の中で叫ぶ。悲痛と理不尽が、彼女を怒りに駆り立てる。しかし、此処は我慢だ。フィアナのためにと。
手元には数ある連絡先、知り合い、しかし、腕や声を無くし、現役と行かない人。生活苦で音楽どころではない人としか連絡が付かなかった。傭兵になってどこかで戦死した人もいた。
「‥‥」
明るい笑顔のアヤカでも、今は黙るしかない。フィアナの腕を強く抱きつくしかなかった。
遅いランチ。カフェではあるが、ステージがある。ピアノもあった。おそらく夜にステージを用意するバーも兼ねているのだろう。
場は重く。辛い。
「後は此処だけか‥‥これでダメなら‥‥。ごめんフィアナさん」
「ううん、気にしないであなたの気持ちは受け取った」
「ごめん‥‥」
涙が溢れる。
「もしかして‥‥神楽?」
カフェのカウンターでコーヒーを入れていた中年を越した男が、カウンターから出て神楽に声をかけた。
「あ、あんたは!」
見知った顔だった。
「お久しぶり! 傭兵になってから、歌を辞めたとばかりだよ!」
ばんばんと彼女の背中を叩く。
「お久しぶり‥‥。あ、まあ、そうだけどさ‥‥ちょっと、ラスト・ホープで始めてるんだ」
神楽はその男に訊ねる。偶然にも、まだ音楽に情熱を捧げていた時に、遠方で知り合った男だ。
「ああ、どこも酷い有様だから、何とかこの商売を続けたくてこっちに来たんだ」
「そっか‥‥」
「悩みでもある?」
「実はね‥‥」
神楽の目を見ると、男はハッとした。
「おおっと、わかった。あんたは、コネを探して足が棒になったんだろ? ロックはここじゃぁ無理だが、夜ここを使いな。歌は人を癒し鼓舞するからね」
男はウィンクした。
「‥‥っ!! ありがとうございます!」
神楽が思いっきり頭を上げて礼を言った。
「実は、あたしじゃないけど‥‥。この、フィアナ・ローデンと言う子に歌わせたいの」
「フィアナです。よろしくお願いします」
「フィアナ‥‥どこかで。ああ、一度大阪のホールでライヴしている娘(こ)か! これは初めまして!」
握手を交わした。
「‥‥こっちは、可愛いお嬢ちゃん‥‥ああ、アイドルの!?」
「アヤカニャー♪」
にっこり微笑む猫耳のアヤカ。
「まさか、名の知れた人が居るなんて。おじさん感激だよ。ああ、いつ頃使うか詰めの話をしようか。今夜」
「はい!」
3人は手を取り合って、はしゃいだ。勿論スタッフに連絡を入れることは忘れない。
フィアナのポスターをこのカフェに貼って貰い、CDも発売日に置いて貰うことになったのだ。
●辰巳の営業
フィアナからテーマを聞いて、更にCDも聞き、どう説明するか営業するかを考えていた。プレーヤーをもち、各所に営業をする。
途中までベルともにCDショップを行脚していたが、ベルの気迫に対抗心を燃やしたか単独で府内のFM局に向かう(ベルの気迫は誓いで『守る』ことになるが此処でも発動するようだ)。そして、じっくりと、ねばり強くプロデュースするというのだ。
「この子は今ラスト・ホープでは有名ですけど、とても癒されますし、励みになる歌を歌います」
「ほうほう。フィアナについて何かわかっているのは?」
FM局の課長が、様々な質問を投げかけるが彼にとっては、想定内の質問ですらすらと熱意ある口調で説明していく。そして、話を自分のペースに持っていくと、メディアに収めたフィアナの新曲を聞かせた。
「ふむ、良い歌声だね」
「できれば、この場所で‥‥ゲリラライヴをするので‥‥できれば其れをそちらで流して頂けませんでしょうか?」
「‥‥考慮しよう」
少し考え込む。
「課長、MCとプロデューサーが‥‥」
「? 少々まってください」
課長が席を外す。辰巳はそれでも動じない。しかし内心、心臓ばくばくだ。
「どうも、MCが聞いたことがあるそうで」
「では!?」
「即答で使いたいそうだ」
「ありがとうございます!」
彼は契約完了の握手を交わす。
勿論サンプルCDを置いて、次はエイジア学園都市に向かうのである。
●高見台の小麦屋
一度、支部に集まり、近くのビジネスホテルで1泊し、次の日も営業の日々になった(事務所もち)。
そして一度下見のためにエイジア高見台に向かうのはベルと神楽とアヤカだった。途中までホアキンと辰巳もいるのだが、ホアキンは『エイジアインフォーメ!』に交渉を持ちかけるために、一方、辰巳はエイジア学園都市のFM局を訪れるために一度離れるのである。それに、高見台は山である。重傷者にはきつい。現地スタッフも数名、付き添っている。鳥飼の方は歩きすぎのため休憩と化粧で色々忙しい。
アヤカとフィアナは一寸変装し、電車の中でパニックにならないように大人しくしている。ゴシップ記事の車内広告をぼうっと眺めながら乗っていると、いつの間にかエイジア学園都市についた。
エイジア学園都市は、近畿UPC軍が開発を企画し、ドローム社が出資して山全体を開発している新しい町であり、様々な教育の施設などがある。ライヴハウスやドローム社直営のゲームセンターなどの娯楽施設もちらほら見られる。デートスポットなどの設備はかなり出来ているため活気づいていた。新しい時代の風を肌で感じる事が出来る場所である。
アヤカと神楽、ベルとフィアナは、高見台に登る。一寸したハイキングに向いている標高のようで、其処には展望台があるそうだ。
「おお、これは凄い山ニャ」
「‥‥足元気を付けてください」
「ありがとう‥‥きゃっ」
ベルがフィアナの手を取っているのだが、フィアナは木の階段で見頃に足を引っかけ転びそうになる。そのままベルが抱き支える形になる。
「‥‥だ、大丈夫ですか?!」
「うんありがとう‥‥ベル君」
「‥‥よかった‥‥。‥‥って2人とも笑わないでください!」
「ニヨニヨだニャ〜☆」
「役得ね」
アヤカと神楽はくすくす(いやニヨニヨ?)と笑う。当のベルは真っ赤になって湯気が出ている。
――恋人いるのにモテモテですね!
歩いて2時間ぐらい登る。登頂すると、展望台となった場所に立てる。そこから町を見下ろすと、町が一望できた。まだ正午前で、空気は澄んでいる。綺麗な景色になっていた。
「おお! 一面町が見えるニャ!」
アヤカも皆、感動。
いろいろ、見ていると、気になるオブジェがあった。樹齢がかなりある桜の周りに、柵がある。そこに、『錠』となるものが沢山括り付けられているのだ。
「あ、この桜の気の回りに‥‥南京錠とか‥‥U字キーも」
「誓いの印かな?」
世界各所にあるようなジンクス。誓いの場所のようだ。
「ほほう、これはこれで良い感じのスポットよね」
神楽もウンウン考えている。そして、ベルを見るわけで。
「ベル君、今度此処で恋人さんとデートというのは良いかも知れませんよ☆」
はい、お約束にフィアナがベルにニコリと微笑むわけで。
「‥‥え、ええ。どうして俺に振るんです!?」
ベル君はあわあわする。
「ニヨニヨだニャ☆」
弄られ担当になるベル君でした。
流石に長時間動くとお腹が減る。近くに食堂兼売店の『小麦屋』という店があるのでそこでランチ。
「いらっしゃい‥‥」
今にもマッチョな、無愛想な男が注文を取りに来た。
「‥‥お勧めランチと、このお勧めシュークリームをデザートで」
ベルが注文する。
「シュークリームはベルさんの大好物ニャ。あたいは鯛焼きで!」
「アジアンストリートのサンプルだ‥‥。鯛焼きもストリートの店にある同じレシピだ‥‥。感想を聞かせてくれればいい‥‥」
無愛想だが、優しい雰囲気を醸し出している男だった。
「ほほう。こういう相乗効果なのかニャ」
何となくキュピーンとくるアヤカ。
神楽とアヤカもフィアナもランチを取り、自治体に指定された場所を下見する。
「今日は平日で良かったニャ。もし多かったらいきなり歌いたくなるニャ」
「だね。あたしもはじけてしまうよ。打ち合わせしてからが良いわよね」
「だよね☆」
「‥‥ガードは任せてください」
「ナイトさん頑張るニャ」
ライヴする場所で、どうするか考え、話をする3人。見た目だと、女の子の雑談にしか見えないので、誰も有名人や知られているアイドルや、アーティストとか分かってないようだ。
アコースティックで、『ピース・ザ・ワールド』を歌い、あとは、客のリクエストに答えるという流れにする。ゲリラライヴというよりかは、ストリートミュージシャンのノリだ。フィアナがそう動きたかったらしい。
「‥‥みなさん、寒いから‥‥「こっちに入ってココアでもどうだ?」と、小麦屋の主人が言ってます」
「親切だね、あの人」
「お言葉に甘えるニャ☆」
こうして、下準備は整った。一度ラスト・ホープに戻って設備の調整にはいる。数日間のラグは覚悟しないと行けない。
確認の為に大阪に寄ると、辰巳の営業の成果により、
「〜に‥‥フィアナ・ローデンが歌うらしいですよ」
と、ラジオで流れていたり、雑誌にフィアナが新作CDを出すという記事が出ていたりと、肌で感じ取れる。
こっそりと、ベルが高見台に来ると、うわさ話を聞く。そう「先日フィアナらしい人が居た」などと。
「‥‥効果は抜群のようですよ」
ベルは自分のことのように、嬉しく思った。
●前夜
もう一度大阪に来る。
全ての打ち合わせも終わりあとは、ゲリラライヴと、カフェでのライヴだ。
「さて、ゲリラでは、思いっきり張っちゃ蹴る方で良いよね? 丁度休みだし」
「ですね」
最後の打ち合わせ。
「‥‥エイジアのシュークリーム買ってきました」
「こっちは鯛焼きニャー☆ さめても美味しいのニャ☆」
ベルとアヤカが箱を持ってやってきた。どうもエイジアまで足を伸ばして
「あんたら、営業か食いに来たのかどっちだよ」
「ニャ! そんニャこという辰巳さんには、あげニャいのニャ!」
ぷいっと拗ねるアヤカ。
「ああ! ごめんなさい! ごめんなさい!」
今お酒を飲んだら大変なので、甘いお菓子で座談会をしながら、今後を話すことに。
●高見台ゲリラライヴ
重体のホアキンの事も考えて、裏側から通る車道から車で向かう(この道路は、小麦屋への仕入れ物を運ぶためにある)。運転手はスタッフである。
「ゲリラと言っても、それほど賑やかにはしませんし。安心してください」
「‥‥はい」
ベルは、フィアナが危ない目に遭うのを畏れている。故に絶対守るとおもっていた。久々に髪を下ろした鳥飼も真剣な眼差しだ。辺りに何かあるか分からない。
様々な緊張感。
歌う側も緊張しているのだが、小麦屋のお菓子でリラックスしている。クレープのようだ。
「美味しいね」
「クリームついてるニャ」
アヤカがフィアナに言う
「きゃう! はずかしい」
フィアナがハンカチで丁寧にぬぐった。
「あははは」
神楽も明るく笑う。
「さて、始めようか!」
「おー!」
神楽の声で、腕を挙げた2人。
神楽のギターが響くと人がそっちを見た。アコースティックで、アレンジしている。
まずは、『Hope』でフィアナとアヤカで合唱。
『〜♪』
「フィアナじゃね?」
「FMで言ってたが今日か! ラッキー!」
「写真! 写メだ!」
「アヤカがいるぞ!」
「うそー!」
高見台に来ている人の反応はまずまずだ。
こうなると、ホアキンを除く男性陣は、押し寄せるモブを止めるに必死になる。
「‥‥押さないで! 押さないで!」
「おさないでー! どわあああ」
ベルが必死に止める。鳥飼も辰巳も、壁になる。
『皆聞きに来てくれてありがとう! また、いきなりでごめんなさい! フィアナです! CD出しますから是非買ってください!』
『おおおお!』
『あたいも応援してるニャ!』
『アヤカ! アヤカ!』
神楽のギターと、アヤカのバックコーラスをフィアナの歌声はぴったりと息が合い、高見台ライヴは成功したようだ。
「‥‥つ、つかれたー!」
ガードに徹した男性陣はクタクタになっていた。
「お疲れ様です」
フィアナがねぎらいのミネラルウォーターを差し出す。
「ありがとう」
カフェでのライヴは、2日後。だからじっくり休めるだろう。一度、大阪に戻り、英気を養うのであった。
●内緒話
フィアナが別の用件で、席を外しているときだが‥‥。
「ねぇねぇ、皆で、ハッピーバースデー歌わない?」
鳥飼が提案する。
「あ、そう言えば12月6日は、フィアナさんの誕生日か」
「良いアイデアだニャ」
「‥‥問題は、カフェライヴ中でなく‥‥一旦フィアナさんのライヴが終わってから‥‥で」
ベルが考える、
「身内でやることに意味がありそうだね」
辰巳も同意する。
あの調子だと、フィアナは『自分の誕生日を忘れている』ようだ。この辺の打ち合わせは、内緒にやっている。
計画は慎重にそして大胆に、丁度舞台はカフェときた。なので、神楽がそこのマスターに電話する。
「OK、良いケーキ作っておくよ」
「ありがとう」
さて、準備は整った。
楽しみがひとつ増えたのだ。
●カフェライヴ
カフェには人が集まり始めていた。
「想像以上だねぇ」
マスターはびっくり。フィアナはLHと畿内、米国でしか名が通っていないので、マスターは別地域からこっちに避難してきた人だ。フィアナの知名度に驚くことに無理はない。彼女はプロではないと言う。大きなスポンサーがないのがその理由だ。ライヴに出ても其れは仮契約に近い。慰問中心という事に拘りを持っている。
「‥‥ということは‥‥、もしですけど‥‥大きな都市(ハリウッド等)が解放されると‥‥、歌いに?」
「はい。あたしが出来ることはそれぐらいですから」
フィアナは言う。
それぐらいが、どれぐらい大きいことか。
立ち見席が出来るとまではないが、満員。待ちもないほどよい環境。
サックスと、アコースティックギター、事務所スタッフの1人がピアノを担当する。
「今回、此処のカフェでライヴをすることになりました、フィアナです」
いつもの賑やかさとは違った静かな拍手。少しだけ高級感がある。
「今度、新しいCDを出します。そして、希望を込めて、歌っていきたいです」
フィアナのスピーチ。
それが、歌うように響く。
「では、聴いてください‥‥『ピース・ザ・ワールド』」
その歌は、平和を願うために、彷徨人の歌。どこかにある平和を求める歌。戦いは辛いけど、しかし求める。本当の平和を。理不尽に挫けない、勇気を持ってと訴える歌であった。
アコースティックバージョンがあるのは神楽にとって良かったと言っていいだろう。アヤカのサックスも上手くジャズ風にアレンジされている。
30分以上の演奏に、皆は拍手を送った。
「皆さんありがとうございます」
お辞儀するフィアナ。
拍手喝采だった。
そして、お開きの一寸手前で、アヤカと神楽がマイクを取る。
「?」
小首をかしげるフィアナ。
「実は今日、フィアナちゃんの誕生日名のニャ☆」
『うおおおお』
おめでとうと、拍手と歓声。
「ええ?! あたしの?!」
本当に自分の誕生日を忘れている。
「さて、ここからはこのミニライヴを聞きに来てくれた人とフィアナへのプレゼントよ。聞いて、【羽ばたけ、明日へ】」
神楽が、アコースティックに変えて、誕生日プレゼントとして歌う。内容は、『小さな小鳥の歌声が周りのモノ達を幸せにし、やがて周りに広がって、聞くモノをやはり幸せにしていく様子を歌い上げたモノ』だ。
次第に観客も合唱し、バースデーの歌に変わる。
大成功に終わった瞬間だった。
●お疲れ様会と‥‥
カフェは閉店。ライヴも終わり、カフェにて、
「ハッピーバースデーフィアナー♪」
全員でクラッカーを鳴らし、テーブルにはケーキ、お酒やジュースを並べて、フィアナを祝う。
「み、みなさんありがとう!」
感激のあまり涙を浮かべている。
ありがとうと言いながら、皆をハグで返した。ホアキンも痛みを堪える(強くハグはしてないが)。ベルは相変わらず真っ赤になる。
「さあ! 仕事も終わったし! 飲むニャー! 食べるニャー!」
アヤカはハイテンションになり、猫耳を出して覚醒している。
色々雑談し、徹夜はしないようにしてお開きになる。
後日のこと。アヤカとフィアナは変装し、大阪やエイジアを回っている。
「たこ焼き食べに行くニャ」
「そうそう、危うく忘れるところだったの」
「又小麦屋でやってないかニャ?」
「どうだろ?」
食いしん坊さんが大阪とエイジアを散策しているのであった。