●リプレイ本文
●当日会場前
アスタリスク大阪の裏側。搬送エリア。
「IMPです! お荷物お届けに来ました!」
車やAU−KVが、急ブレーキをかけてやってきた。
他の運送会社は驚くわけだが、ニュースなどで近くにキメラが居たことで事を察した。
「ご苦労様です! そちらの荷物はあちらのサークルさんに」
「はい!」
何とも慌ただしい朝を迎えている。
●サークル入場
秋月 祐介(
ga6378)は重たい段ボール箱を台車に乗せて6号館2階に移動していた。その後ろに篠原 悠(
ga1826)、伊藤 毅(
ga2610)、月夜魅(
ga7375)、鳳 つばき(
ga7830)、ジェームス・ハーグマン(
gb2077)、リリー・W・オオトリ(
gb2834)達が続いている。合同サークルでスペースを取っているのだ。
「うひー‥‥すごい熱気やね‥‥。話には聞いてたけど、これ程とは‥‥。うち、生きて帰れるんやろか‥‥?」
サークル入場なので行列に並ばずに済んだわけだが、その長蛇と熱気、熱意に圧倒されている悠である。
「大丈夫ですよ、ゆーさん。此処には素晴らしい猛者が居ます。困ったときは助けます」
秋月は紳士的な口調で、悠の不安を和らげる。
「すごいですねー!」
月夜魅は感心するばかり。
「昔を思い出だすよ」
16歳そこそこにしか見えない、リリー。歳の話は絶対禁止。
「叔母さん経験者ですからね」
「もちろんだよ」
姪のつばきに、ふにゃっとした笑顔で返す。
「午前は、呼び込みを中心に、12〜14時はレストランや売店は混むので早めに昼食は確保しておきましょう」
秋月の指示で皆がはーいと返事する。
「その間に、僕とジェームスで代理購入か」
伊藤とジェームスがメモと実弾、補給物資を確認する。
「よろしくおねがいします、伊藤さん、ハーグマンさん」
つばきが深々お辞儀をした。鞄にはいっていたアヒルさんが顔をだした。まるで、「お願いします」と一緒に言っているようで可愛い。
「あ、ああ、わかった」
異界に連れ込まれたような顔をしている、ジェームスが頭を掻いた。
全員で同人誌を売る準備をはじめた。周辺サークルに秋月は「今日はよろしくお願いします」と挨拶をして新刊をわたした。
「うーん、あきちゅきP、この配置だと目立たへんで?」
「そうですか‥‥。では、すこしずらして‥‥」
女性の繊細な感性にて、出版物などのアドバイスをする悠。
「写真集は並べて競争ですねー」
月夜魅が、自分の写真集『ふらっとFLAT』を置いた。
「ふっふっふ。この写真集‥‥。どちらが売れるかの勝負ですよ、元祖につきみーさん」
「はっはっは、うちは負けへんでー!」
なにやら競争するらしい。負けたら荷物もちとか。
「それはそうと、サンプルにはカバーを着けて立ち読みできるようにしましょう」
つばきが透明なカバーに本をかぶせる。そして、値札POPも貼った。
「じゃ、私も手伝います」
月夜魅も皆も一緒に手伝った。
「つばきちゃんは大丈夫だけど、月夜魅ちゃんと悠ちゃんは着替えに行った方が良いよ?」
リリーが、コスプレの着替えを促した。リリーもつばきも実は着用済み。
「そうやねぇ。うちの衣装は時間食いそうや」
「ではいってきますー!」
50分ぐらいで、両サークルは準備がととのった。つばきと月夜魅、悠はフラットつばきの衣装で売り子をするのだ。つばきはテーブルに、つばきのぬいぐるみを座らせ、隣にアヒルのオモチャを置いた。
「おつりもOKです。あとはお客が来るのを待つ。しかし、待つだけではダメだ。しっかり営業をしなければ!」
熱く語る秋月。執事服に白衣、白手袋のプロフェッサー秋月(P秋月)になっていく。そこで取り出したるは箱。
「?」
皆が覗き込む。上の方に、手が入るほどの穴が開いている箱だ。
「籤?」
「そうです! ここには『ミス・マドラガン』のゆーさんがいます! 最大活用して当たった人にはサイン入りなのですよ!」
「そう言う計画や」
目を光らせて不敵に笑う悠。
「強敵ですね!」
月夜魅が驚く。
「元祖に勝つ!」
つばきも気合いを入れる。
「まあまあ、皆燃えているからたのしいね」
リリーは微笑ましく手伝っていた。
秋月主催サークル【MODE−AUTUMN】とつばき親族主催【ウェンライト工房】の合同スペースは、この祭りに伝説を残すのであろうか?
伊藤と、ジェームスは、先に6号館2階から去って、先行購入にうつっていた。可能な場所なら買える。もしくは取り置きが可能というサークルを捜すのである。
「へ?」
一方5号館。
雨音・ヘルムホルツ(
gb4281)は、スケブに『済みません。新刊落としました』と書いて、過去の本を並べる。
「ふう、1人だから、ずっと此処かなぁ」
溜息をつく。
バグアBL島にも、様々なBLがあるわけだが、人気があるかというと、意外にあるかも知れない。敵であっても、此処では中立で創作する事が出来るのだ。実際、バグアは謎が多いのだが。
それでも、アスレードの話で、雨音とお隣の作家は意気投合して、本の交換をし、会話が弾むのであった。
●開場
一気に人の波が押し寄せた。
2号館からほぼ全ての開館に人だかり。芸能・創作関係の2階はそれほどではないが、芸能方面では列が出来ていた。6号館は吹き抜けになっており、売店と中央にエスカレーターがある。他にも、4号館近くに2階に通じるエスカレーターと階段がある。それもみな人だかり。
そんな中。
「はい、これ買い物メモと実弾(お金)と燃料(飲み物)、集合時間は1600時にここ、交戦規定はスタッフの指示に従うことと他人に迷惑をかけないこと、それでは、Good Luck!」
伊藤はジェームスを行列が出来そうな場所に押し込んだ。
「うわあああ!」
丁度やってきたラッシュに流されていくジェームス。伊藤、まさに外道。
「さて、僕はめぼしいサークルを捜しますか」
「うわああああ」
同じ頃に、3号館でチャイナ服の鳥飼夕貴(
ga4123)が人の波に攫われて、2号館に向かっていた。
「ふむ、2Fは創作系、ココは相当な人気でも出ない限り物がなくなることは無いだろう〜。先に混みそうな1Fだね〜」
ドクター・ウェスト(
ga0241)が、メモを持って連れの少女と6号館に向かっていた。
コスプレ広場では、メイド・ゴールド(キョーコ・クルック(
ga4770))が、背中にエアーソフト剣を左手にもち、威風堂々としていた。
「何・ゴールドですか?」
カメラマンが訊ねる。
「我が名はメイド・ゴールド。ご主人様に仕える一介のメイドだ」
なりきり。
「おお、では、お任せのポーズで数枚お願いします」
「分かった」
刀を手に持った状態で胸の前で腕を組んで斜め45度のポーズで決める。
フラッシュが数回たかれた。
「メイド・ゴールド。では、こういうポーズで」
普通に格好いいポーズをとって貰うと、カメラマンは写真を撮って、最後にしっかりお礼を言って去っていく。
「ナイト・ゴールドと一緒に撮るというのは可能ですか?」
と別の人が訊ねてきた。
「ええ、それは良いのだが、誰とかな?」
キョーコの知らない人だったが、なりきり度合いははヒケを撮らない紳士だった。
「面白い、写真になりそうです」
「では、格好良く撮ってくれたまえ」
キョーコは3歩下がって傅くように、ポーズを決める。ナイト・ゴールドもなかなか様になっていた。マスクは正規品ではないが。
「ありがとう! あ、転送しますが」
「其れは大歓迎だ。な? メイド・ゴールド?」
「はい、恐れ入ります」
「一寸、待って下さいね」
カメラから携帯形通信機器に接続し、2人の携帯端末にそのデータを送った。
「ありがとうございました!」
カメラマンは去っていった。
「‥‥ふう、なりきりは疲れます」
ナイト・ゴールドはため息を吐く。
「?」
仮面を取ったら、アキト=柿崎(
ga7330)だった。
「こんにちは。これも何かの縁だから、一緒に回りませんか?」
「そうだね〜。寒いし」
キョーコも、マスクを取り、素に戻る。
寒空にずっと立っているのは流石に辛い。アキトに連れられ、4号館に向かうことにした。しかしその途中で、キョーコのメイド姿に燃えているカメラマン達が、寄ってきたのでアキトが列の整理をするハメになった。
「こっち本業なんだけどさぁ」
苦笑するしかない、メイド傭兵・キョーコさんであった。
●一般入場で
「‥‥話には聞いてたが、こいつはまた凄い。ま、まるで魔窟だなぁ」
砕牙 九郎(
ga7366)が、人混みに流されず、自分のペースで周りを見ていた。しかし何処の人だらけで、流石のタフな彼も汗を掻く。
「マンガで此処まで熱気があると感心するしかねえな」
まだ、30分程度なのに凄い熱気に気圧されるのだ。
それに、気が付くと数冊、面白そうな物を買っていた。衝動買いである。
「‥‥ああ。そろそろ、秋月さんやエスティヴィアさんの所にいかないと」
これだけの人混みだと、帰りは酷く混むだろう。彼はまず、秋月の【MODE−AUTUMN】とつばきの【ウェンライト工房】のスペースに向かった。
同時刻。
「はい、本日の新刊は『フラットつばき読本』です。購入制限は三冊! 籤で当たりが出た人には、希望のスタッフがその場でサインを入れます!」
秋月が威勢の良い声で、客を呼び寄せる。
「いらっしゃいませー! 【MODE−AUTUMN】・『魔法少女フラットつばき設定資料集』です! 手にとって見てみてくださいねー!」
悠の可愛い笑顔。
「いらっしゃいませー♪ どうぞお気軽にご利用くださいませーっ!」
「みてってくださいね!」
『フラットつばき』に関しては、大阪・日本橋の『魔法少女大戦』にて入賞している力作だ。【ウェンライト工房】側にいるつばき、月夜魅も必死にアピールし、人だかりが出来ている。
それでも悠の超営業スマイルには敵わなかった。
(「いいぞ、いいぞ!」)
秋月は心の中で燃えていた。
リリーは、その姿を亡くした夫と重ねて、微笑んでみていた。しかし、しっかり売り子もこなしている。
「さあさあ、いらっしゃーい♪ 見るだけタダだよ〜 あ、どうも、ありがとうございました〜」
フラットつばきのアンソロジー漫画『薄い空』を客に渡す。
「? どうかしましたか? リリーさん」
気付いた、秋月がリリーに訊ねた。
「旦那に似ていた物で、つい。懐かしいなぁと」
「それは‥‥」
何と言っていいのか秋月は返答に詰まる。
見つめている2人を、周りの少女達(月夜魅も含む)は、ニヤニヤしているか、一歩下がっていた。
「秋月さん、やはり、ロリの素質も‥‥」
「‥‥秋月さん‥‥」
「秋月さん‥‥っ! まさか」
「私にロリの属性はない!」
娘の視線に完全否定する、秋月。
「ふにゃ?! だから懐かしいだけだよっ! はいはい、お客さんがきてるよ!」
リリーさんは慌てて営業に回った。
雨音のほうは、寂れてもなければ、列を作るほどではないほどよい混み具合で、とんとんと、本が売れていく。バグア関係の物でも、有る程度は売れる証拠なのだ。
「寺田先生総攻めあるぉ〜」
可愛い声がこっちにも聞こえてきた。近くにカンパネラ関係の島があるからだが。
「ホントは休憩したいけど‥‥スペースに付きっきりかな」
前もって勝っていたお弁当を、食べる彼女。
完売までは行かなくても予想よりは売り上げることが出来そうだと実感する。
「よーっし! 頑張るか!」
彼女は気合いを入れた。
「今、何処〜〜〜?」
ジェームスが半泣きで叫ぶ。
「E−27‥‥って反対側じゃないか〜〜!」
地図を見て、迷子確定と悟る。だが彼は自力で、6号館1階の代理購入物はそろえた。
「ぜーぜー! つぎは‥‥5号? ‥‥え? 女性向け?」
思考が止まる。サークルカットは、男にとって恐怖なものだった。ネオロマンスではなく、腐のほうだから‥‥。
5号館入り口には、98%は女性、女性、女性‥‥。
「こ、ここに突っ込めと‥‥‥」
しかし、其れは仕方ない。行くしかない。
痛い視線(もしくは期待の視線)を浴びながら彼は生きて帰ってきた。多くは語らない。
再び秋月とつばきのサークルスペース。
「大当たり〜!」
秋月が拍手を送る。誰かが籤に当たったようである。
「はい、サインです♪ これからも応援よろしくお願いします♪」
『超』営業スマイルの悠がキスマークサインで『フラットつばき読本』と『FLAT−OFFSHOT』を渡した。
そして、完売ではないがかなりはけてきた頃。
「こんにちはだな」
九郎が挨拶にしにきた。
「あ、苦労さんや。こんにちは」
「苦労さんこんにちはー」
「苦労さんもきていたのですか!」
3人娘が同時に九郎に声をかけた。
「ああ、一寸、気になってね‥‥。しかし、俺の名前は苦労じゃなく、九郎なんだけどっ!」
アクセントの違いに気付いて、ツッコミを入れる、九郎。
「『ゆうしゃ』くろう。よくぞ来た。君に指令を与える。‥‥店番を頼む」
「だからその『ゆうしゃ』と呼ぶのやめてってば! 秋月さん! って‥‥店番?」
突っ込む九郎だが、店番と聞いて、。
「籤の方はもう尽きたし、私たちも少し休憩に入りたい。30分程度頼めないか?」
秋月は真剣な表情だった。
「まあ、良いけど‥‥トイレとか?」
「よし、直ぐ戻ってくる。では、諸君‥‥私が戻ったら交代だ!」
彼は翼を着けた様に軽やかに、数冊本を持って去っていった。
「苦労さんたのむよ〜」
「へいへい」
●お昼
「我が輩も、色々見て回るかねぇ〜」
イタイ白衣をなびかせて、ドクターは4号館に足を運ぶ。
「俺も向かうよ。エスティヴィアさんにあってないし」
「そうだな、俺たちで出来た原稿がしっかり本になっているか確かめないと」
「挨拶しておかないとね」
鳥飼と水円・一(
gb0495)と高苗 優女(
gb3944)が、彼に付いてきている。
「それじゃ、一緒に向かうかね。そのまえに『全力疾走』貰いにいくよ〜」
「ああ、取り置きがあったのだな。先にそちらを済まそう」
まず6号1階に向かい、ドクターのめぼしい物と取り置きを手に入れてから、4号館に向かった。
「けひゃひゃひゃ〜。元気にやってるかね〜。エスティヴィア君」
「こんにちは。エスティヴィアさん」
「やあ、出来たか本は」
「こんにちは! おお、良い出来」
それぞれ独特な挨拶をする。
「怪我治ったのかおめでとうドクター君。チャイナなのか鳥飼君。で、あたしより、本が大事かね、水円君。ありがとう、高苗君」
苦笑して返答するエスティヴィア(gz0070)。
「当たり前だ。アレで落とされたらかなわん」
「む‥‥」
「鬼だね〜水円さんは。あ、弟子入りするのは辞めたけど、もし、飯スタント必要なら呼んでくださいね!」
鳥飼はエスティヴィアにそう言った。
「其れは助かるわぁ♪」
エスティヴィアは鳥飼に笑顔で答える。
「コアーは?」
水円は助手が居ないことに気付く。
「休憩させてるよぉ」
「そうか。修羅場の苦労をねぎらいたかったが。そうそう、お前の知っている奴からの差し入れだ」
水円クッキーを渡した。ラベルと手紙を見て、エスティヴィアは納得する。
「あ、あの子から? ありがとうとお礼言わなきゃねぇ。水円君からもよろしくとその子に伝えておいて」
「分かった」
「あ、お礼に、新刊をわたすよぉ」
「それは、ありがとう!」
「それは、頂こうか」
「いいのかね〜? エスティヴィア君」
「好意は受け取る物だし、俺たちで作ったんだから」
「そうだね〜」
と、4人は1冊ずつ本を受け取った。それから、数分話し込んでから、3人はエスティヴィアと別れた。
「さて、我が輩の買い物に付き合って貰おうかね〜」
「‥‥することもないし、付き合ってやるか‥‥」
「俺はコスプレ広場に行くよ」
鳥飼は言う。
「あたしは、5号館行くので、集合場所と集合時間指定してくれたらそっちに向かうわ」
優女が個人行動をするから、とそう提案した。全員は同意する。そして、広場にある大型スクリーン前に時間指定して各自解散。
水円にとって、ドクターの悲喜交々を見られる好機でもある。ドクターの研究所ネタのBLが4号館にないかびくびくしながら、探していたからだ。ドクター的には幸いにも無かったわけだが。
優女は、表紙で気に入った物を買い、ウキウキ気分だった。しかし時間が時間のため、紙袋1〜2個分程度だ。
4人は無事にスクリーン前に集まっていた。ドクターも優女と同じ紙袋1〜2個ほど。時間もおしていたからだが。
「ふう‥‥助かった。もし、西研オンリースペースでもあったら、発狂しそうだったよ〜」
「男には理解できない物よ‥‥ドクター」
がくがく震えて怯えているドクターに、優女は遠くを見て言ったのだった。
入れ替わりで、九郎がエスティヴィアに会いに来た。
「おお、『ゆうしゃ』クロウ君。あんたもヲタクだったんだ」
「『ゆうしゃ』っていわないで! あと、俺は此処はじめてだってば!」
尽かさずツッコミを入れる九郎。
しかし、「来てくれたお礼に本あげる」と彼女が言うので、本を貰ってから、少し、話して九郎は別の所に向かうのであった。
「色々回ったし‥‥、電車が混む前にでようかな?」
九郎はそう思って、秋月のサークルにもう一度足を運んだ。
アキトとキョーコも、寒さを回避するために、エスティヴィアの所に寄った。
「こんにちは」
「おおきたか、アキト君。手伝って貰おうにも、もう暇だから適当に付き合ってよ」
「そうですか」
「‥‥どこかで会ったような気がするねぇ」
考え込むキョーコ。
「紹介します。エスティヴィアさんです」
「ドローム研究員だけど、此処ではタダの同人作家、エスティヴィアよぉ」
「メイドのキョーコよ、よろしく」
そのあとはまったり、メイドについて語ったり、コスプレの状況を訊ねては、キョーコが答えるという和やかなお喋りタイムとなった。
「帰りに打ち上げとかはどうですか?」
「それいいねぇ。外で斉藤もいるから、誘おう」
アキトの言葉に、エスティヴィアが同意する。
「あたしはおじゃまかしら?」
「いやいや、ただ、お茶のむだけよ。斉藤運転手だし」
「お言葉に甘えて、お邪魔しようかな。今日は寒いからね〜」
と、こうして交流を深めていく。
●4人娘(?)の行脚
時間は、エスティヴィアに知り合いが集まっている同時刻。悠、つばき、月夜魅、リリーは、2、4、6号館を回っていた。
「行列の方は伊藤さんとジェームスさんで頼んでいたから大丈夫として‥‥」
つばきは考えて、リリーを見た。
「ん? どうしたの? つばきちゃん?」
小首を傾げ、『?』マークを頭に浮かべるリリー。
「隠して、つきみーさんと私の百合本なんかつくって、きー!」
ぽかぽか、叔母さんをたたく姪。
「いやー、ドキドキ甘々やったで‥‥」
悠がこっそり読んでいたらしい。
「す、凄い才能の‥‥持ち主です! リリーさん! で、でも、ちょっと恥ずかしいです!」
月夜魅も真っ赤になっていた。
まずは6号館2階から1階をしらみつぶしに。悠と月夜魅は鳳親族の手を握ってはぐれないようにしていた。リリーとつばきの案内で、幸いにも月夜魅がはぐれることもなく、女の子の明るい声で話ながらスペースを見ていく。
「この音楽は‥‥」
「試聴しますか?」
「うんうん」
悠が、創作音楽のスペース試聴が気になり、ヘッドフォンを着けて聞く。
「ふぉー! こ、これは! 1枚下さい!」
悠はサンプルを聴いて感動し、即買い。
「ありがとうございました!」
「すごいなぁ‥‥。うちも頑張らないとあかん」
彼女の創作意欲が上がってきた模様。
「いい感じだね」
リリーはうんうん頷いていた。
1階にでは、つばきが思いっきり買い込んでいた。
「ほくほくです」
男性傾向の強いものだったが、チェックしているサークルの本を買い、両手がふさがっていた。
「そんなに買って大丈夫なん?」
「大丈夫、大丈夫!」
「リーフ×リネーア本発見♪」
傭兵スペースの4号館ではというと、リリーさんは百合本を買いあさっていた。
エスティヴィアのスペースを発見したが其処にいたコアーであった。
「はじめまして。エスティヴィアさんはおられますか?」
「今席を外しています」
「秋月さんと同じように、営業かな?」
「おそらく、気になっていた創作物に向かったと‥‥まさか、その格好‥‥」
コアーは考え、
「あ! 『フラットつばき』のつばきさんですか! 実は私のファンなんです!」
コアーがキラキラ輝いた。
「はっはっは。応援ありがとうですよ!」
つばきは大喜びだ。
「ここであえるとは感激です!」
5人でワイワイお話しすることになった。向こう(秋月のサークル)で、エスティヴィアが居るのだろう。
●邂逅
秋月とエスティヴィアの2人はとある交流場所で会っているが、こうした場所では初対面だ。依頼でも会っていない。
出かけたときは、設定集だけなのに、紙袋を持ち運んでいた。
そのあとは、一度九郎は離れ別のスペースをウロウロし、4人娘も休憩を兼ねて、遊びに出る。秋月1人になってもそう忙しくならない時間になっていた。
「先に俺は帰るから。お疲れ様だってばよ」
九郎が挨拶に戻ってくる。
「九郎さん。ありがとうございます。おかげで助かりました」
そのまま帰ろうとしたとき、九郎が気付く。
「あ、エスティヴィアさんだ。こっちだってばよ」
帰りの挨拶に秋月の所に戻っていた九郎が、エスティヴィアを見つけ手を振った。人もまばらで、彼の身長から見つけやすいのだ。
「おお、ここねぇ。『フラットつばき』のサークルは」
「ようこそ、おいで下さいました。秋月です」
秋月がぺこりと挨拶する。エスティヴィアも「こんにちは、大阪・日本橋のこの話は凄かったよ。燃えたね」と賛辞を送る。そして、改めて挨拶として握手を交わした。
「恐縮です」
そして、エスティヴィアと秋月はお互いの同人誌を交換し、雑談。
「できれば、絵師のゲストなどに参加して頂けませんか?」
と、秋月はエスティヴィアを誘った。
「ふむ、計画に入れて置くわねぇ」
快諾するエスティヴィア。
「では、詰めの話は又今度と‥‥」
「了解。また夏が楽しみだねぇ」
「ええ、本当に」
2人は既に波長があったのか、くっくっくと笑い合っていた。
「じゃ、俺はそろそろ帰るってばよ。また!」
九郎は手を振って帰っていった。
「気を付けてねぇ、九郎君」
「また、会おう‥‥『ゆうしゃ』九郎」
「だから『ゆうしゃ』って呼ぶな〜!」
●閉館前
『後10分にて、コミック・レザレクションは閉会します。(中略)本日は参加して頂きありがとうございました』
閉館アナウンスが何度も流れる。人もまた波のように駅や駐車場に雪崩れ込んでいく。再びラッシュアワーだ。
伊藤が、ジェームスを引きずって秋月のサークルに戻ってきた。ジェームスは青ざめて、滝のような涙を流している。
「もういやだ‥‥」
ジェームスが泣きながら呟いていた。
「救出するような形になってしまったよ。はい、指定された本。つばきさん達は?」
「ご苦労だった、大尉。そろそろ、着替えが済む頃だ」
売り上げを数えている秋月。
「待っておくか」
伊藤は椅子に座ってお茶を飲んだ。
「おまたせー!」
4人娘が帰ってきた(『1名実年齢が40歳近いんじゃね?』等と言うツッコミは受け付けない)。
「片づけるまえに‥‥。写真集の売り上げは!?」
悠が秋月に尋ねた。
「既に計算した‥‥。ビリはつばきさん、君ですよ」
「ええええ!?」
ショックを受けるつばき。テーブルに置いていたつばきのぬいぐるみが、かくんと倒れ、アヒルのオモチャにもたれかかった。
「荷物もちは、つばきさんですね!」
「本家、がんばれ!」
「しくしく、主役なのに‥‥」
がっくりするつばきだった。
「ふむ、黒字です。焼肉は行けますね。完売こそなりませんでしたが、大阪・日本橋で取った大賞の効果ですね」
不敵に笑う秋月に、
「焼肉です」
「やったー!」
つばきとジェームスを除いて、皆はしゃいだ。
重たい荷物をつばきが全部台車で運ぶ。暫くしてから、息を切らすつばきを見て可哀想になってきたので、途中から全員が手伝ってあげた。
九郎が帰るとき、1人の少女に出会った。キョロキョロして不安そうだった。
「どうかした?」
「斉藤さんと‥‥はぐれてしまった‥‥」
歳は九郎と変わらない少女だった。
「斉藤さん? ああ、あの人か‥‥な?」
遠くに人を捜す男の影を見つける。
「‥‥あ、リズ‥‥探したぞ。‥‥で、君は砕牙九郎か?」
よれよれのコートを羽織った、30代男が気付いてやってきた。
「‥‥あなたは‥‥えっと、斉藤さんだっけ? エスティヴィアさんの‥‥」
「あいつとは腐れ縁だ。俺はウィルソン・斉藤。その少女、リズの保護者だ」
「ああ、あの事件の‥‥」
知り合いから聞いた、あの話。テネシー州から救出された少女の話を九郎は思い出す。写真を見せて貰ったので、直ぐに分かった。
「どうしても中に入りたいと言っていたがあそこは勧められないのに。まったく‥‥」
頭を掻く。
「‥‥ごめんなさい」
「色々興味がわくのはいいことだってばよ」
九郎は思わずリズの頭を撫でた。リズは顔を真っ赤になっただけで、が動く事はなかった。
「エスティヴィアに会ったのか?」
「そうだけど?」
「なんか、言ってたか?」
「いいや、タダ単に、研究の進歩状況聞いてただけだけど?」
「そうか‥‥」
安堵した斉藤は煙草を加える。
「此処は寒いから、近くのカフェで、エスティヴィアを待とう、リズ」
「うん」
「‥‥あ、そのカフェで暫く待ってくれないかな?」
「?」
九郎の言葉に、首を傾げる斉藤とリズ。
九郎は急いで開場に戻り、2号館で可愛いぬいぐるみを買った。それを、リズに渡す。
「未だ話からすると、調子悪いんだろ? 無茶は行けないからな」
と、リズにぬいぐるみを渡した。
「私16歳だけど‥‥ありがと‥‥」
ぬいぐるみを抱きしめ、上目遣いで九郎を見ていた。
「それじゃ、俺はこのまま帰るから! じゃあ!」
九郎は駆け足で駅に向かった。
「‥‥変わった人」
リズは呟いた。
●閉館
「我が輩達の戦いは終わった! 今度は夏に向けて魂を暖める!」
ドクターが気合いを入れて、荷物を持っている。
「眼鏡があるから大丈夫だね〜!」
意気揚々のドクターの表情とは変わって、鳥飼はかなり疲れていた。
「人混みに流されたことが辛い〜」
「さあ、早く兵舎に戻って、戦利品を読み漁るよ〜!」
「私も、ワクワクがとまらないわ!」
4人は一路LHへ‥‥。
カフェでエスティヴィアを待っている斉藤とリズは、エスティヴィアと、アキトとキョーコが来たので、手を振った。
「友人か?」
「アキトもキョーコも初顔合わせ?」
「アキト=柿崎です」
「妹が世話になったわ。キョーコ・クルックよ」
「ああ、あの子の姉か‥‥」
「リズと言います。‥‥斉藤さんに助けて貰いました」
と、挨拶を交わして暫く雑談。
「さて、暫く道が混むから、何処か食いに行こうか?」
エスティヴィアが前もって提案していたことを言う。
「車はこっちに移動させておいた。会場用は時間制限があるからな」
「周到だねぇ」
キョーコとアキト、斉藤とエスティヴィア、リズで近くのレストランに向かうことにした。
雨音はキャリーに荷物を纏め、1人で帰宅する。
「今度は、しっかり新刊あげよう」
と、冬の綺麗に澄み切った空を見ながら、背伸びしていた。
●うちあげ
焼肉屋の座敷席では‥‥。
「「「あういえー!」」」
つばきと悠と月夜魅は最後までハイテンションで、乾杯の音頭を「あういえー!」を叫ぶ。3人娘はまだまだ元気だ。
「はい、秋月さん」
「おおっと、ありがとうございます」
リリーは秋月の盃にお酌をする。
「実は私も飲めるのですよー! 年齢的には!」
月夜魅が勝ち誇ったように言うが、酒に弱いのか不明だ。
「レバー食べよう、レバー!」
「美味い〜!」
伊藤もジェームスも、肉に舌鼓。
高級の肉じゃなくても、こうしたお祭り打ち上げの肉は美味しい。
そして、今日の出来事をワイワイ楽しく語り合ったのだった。
こうして、コミレザは終わる。夏にまた、熱い戦いが待っているだろう‥‥。