●リプレイ本文
●準備
「キメラの量産ねぇ。ただでさえ有利な戦況とはいえないのに、そんなことされちゃ困るんですよね。きっちりつぶしたいですね」
田中エリック(
ga1083)が言う。
黄 鈴月(
ga2402)が、
「そやなぁ。困ったモンつくりよるわ」
煙幕や偵察から制圧関係の道具の準備をすませるのは爆発物の取り扱いに長けた、花火師ミック(
ga4551)と緑川安則(
ga4773)である。他は各自で準備する。
藤田あやこ(
ga0204)はサイエンティストが二人いたためか、前衛‥‥つまり今回は潜入と補助ではなく活発に前に出るという。
陽動と潜入の班分けではこれと言った問題もないのだが、花火師としては派手に爆破したいという。今回支給されているプラスチック爆弾は映画の爆発シーンのように派手さはない。もちろんフォースフィールドを『素』で貫通するほど威力もない。
「派手にしたいんだけどなぁ」
潜入して制圧が任務でもあるため派手にやるのも如何なものかとは意見は出るが、そのへんは臨機応変でいうことにした。
個々に色々やろうとしていることがあるようでカメラや実験室で使われる収集器具などもそろっていた。
「爆破してしまうなら最低限のことはしよう」
緑川の言葉に、アイロン・ブラッドリィ(
ga1067)が、
「情報収集するなら、そのことはお願いします」
と答えた。
「爆破を派手にしたいのはいいけど、それより重要なのは、拠点の破壊です。キメラは鼻がきく種類もあるので、風下から行きましょう」
アイロンが提案する。
それについて、元自衛隊の緑川が反対することはなかった。
高速艇で移動中‥‥。
烏莉(
ga3160)は、施設の通風口を探してそこから潜入すると言うだけで、無言で準備をする。藤田が、彼の過去をしって、
「私は兵器開発に関わっているのだけど、烏莉さんはヒットマンをされていたようで。潜入作戦について大変興味があります。できれば色々お話して頂けませんか?」
と、尋ねる。烏莉は首をかしげながらも、
「今は任務優先だ。出来れば余裕ある時がいい。ただ、あまり話したくないのだが‥‥」
と、今のところ任務だけに集中したいみたいだったので、
「わかりました。ごめんなさい」
彼女は謝る。
「小火器のことなら、自分で使うのであれば、多少教えられるが、今はアサルトライフルだな」
鳥莉は言った。
●作戦開始
目的地の森。
各自は10m間隔でゆっくり動いていく。藤田はこの周りの植物をみる。
「変色?」
一部の木々や葉がその生態として『不可思議』な色をしているのは確かだ。それを収集しておく。
それ以外には全員の頭に、何か不快な音がしていることは理解できた。
「なんだ? 頭に響くこのラジオのノイズみたいなのは?」
理解できないノイズ。
向こうの科学技術はよく分からないことばかりだ。
インカム型無線機で連絡を取り合い、スナイパーの鳥莉やアイロンは気配を完全にけして進む。
先行しているアイロンの偵察から得た指示のもとで、各自が行動し、競合地区のパトロール隊に気づかれず、進むことが出来た。
拠点らしい建物が見えるが、一階建てでもまだ建造中風(に見える)なものであり、真ん中に何か大きなドームとアンテナとおぼしき棒が立っている。が、ここが拠点として完成された場合、予想図を想像すると、
「目立つな」
と、全員がおもう感想だ。
森によってまだこの建物は上空からは隠れているように見せているわけだが、おそらく目立つだろう。特撮やロボットアニメであった、あの馬鹿でかい基地の様な‥‥ものだ。
そして、皆は頷く。作戦開始だ。
「では、揺動します」
アイロンが超機械一号の電磁波を建物に向けて放つ。その先にある、設置された監視カメラや、電気的とラップから音も立てず、煙が出たように見えた。
「GO!」
陽動班の、アイロン、田中、黄が派手に動く。
施設から出てきたのは、キメラでもバグアでもない、人間だった。少し変わった銃器を持っている。
「人間が居るのか‥‥。バグア側に居るとしても、殺したくはないな」
そうなるのなら、派手に外して、追いかけさせるしかない。可能なら、捕まえて尋問だ。
「ぬしら、生きて帰ってきぃや」
真剣に黄が言いながら、森の中に入っていった。
烏莉は一言、
「昔を思い出す」
言い残し、すぐに周りをしらべ、すぐに通気口に身を滑り込ませた。
●陽動班
数は20ぐらい。こっちは3人。囲まれれば危険だが、瞬間的に覚醒してしまえば人間は簡単に押さえ込める。それほどの力量があるのだ。機動性隠密性に長けているメンバーが陽動班に固まっているため誘導や撹乱は簡単だ。問題はキメラとの遭遇だ。
追ってきている1人が何かを叩き付けて割った。割った音がとても不可解な音だと言うこと以外分からないが、これだけは言える。何かを呼び寄せたのだ。
「何か来ます。気を引き締めましょう」
アイロンが言う。
「ああ、わかったわ」
黄が答えた。
バグア側の人間が、離れていく。そこで、猛獣の雄叫びが聞こえた。
「? キメラを呼んだ?」
間隔を離れても無線でやり取りしている陽動班。
距離は20mあるかないか。
キメラの殺気がここまで来ている。
その姿はクマ。遺伝的な改造か、各所に骨の様な物が突きだしている。クマは時には恐ろしい獣になるのだ。
「キメラ退治しますか」
各々が、アイロンは弓を田中が銃を構える。
近づいても良いように、黄が構える。
不意を打って、瞬殺するのだ。
黄の額に凡字が強く浮かび上がり、爆ぜる。
武器を装備していないために、キメラのフォースフィールドを貫通できない。しかしなぜ? 彼女は、おびき寄せるため自ら現れたのだ。
キメラと警備が気づき、追ってくる。
黄は一瞬姿をけしながら、上手く、キメラと警備を二つに分かれさせる。時には瞬天速で姿を消し、煙幕でくらまし、混乱状態になった。
田中も威嚇射撃で、警備を慌てさせ、統制を狂わせていた。
アイロンはじっと隠れてキメラを睨み、狙いを定める。覚醒時の彼女の髪の毛先が無意識のうちに、指先のように感情に合わせ、トントンと隠れている隣の木々にリズムを刻んでいる。3発矢を放つ。キメラに命中し、キメラは苦痛のうめき声をあげ、アイロンを探す。しかし、見つからない。すぐに、隠密潜行で気配を消したのだ。
そして、彼女のもう一度の連撃で、キメラを仕留めた。
黄も田中も、それを確認し、3人で潜入班の成功を祈りながら、警備を徐々に無力化していった。
「後は合図を待つだけやね」
黄はそう言った。
●潜入班
藤田は別の入り口にアサルトライフルを置き、中に入る。ゆっくりと、ゆっくりと。緑川に負ぶってもらっている花火師は、おもわず
「鬼さんこちら」
と、言おうと思ったが、2人に睨まれ黙った。歌い出したら見つかるではないかと、いう目の威圧だ。仕方ないので花火師は心の中で歌っていた。
人間が居ると言うことなら、飲料水のタンクや食料もあるだろう。其処も破壊すれば大きな影響が出るはずだ。
要塞にもなっていないまるで研究室のような、単調で長い廊下。それ故に、各所にドアがあるため、油断は禁物だと、緑川は考える。そう、そこから奇襲がこないかなどおもうのだ。今はまだ覚醒する必要はない。
遠くの方で、銃声が聞こえるために、上手くやっていると信じられる。
緑川は心の中で、過去に習ったこの軍事技術・知識が堂々と実践で使われることにおもしろさを感じていた。
まだ残っているバグア側の人間を不意打ちで失神させて、倒した人間は部屋に放り込み、先に進む。
「おかしいですね」
「ああ」
「おかしいな」
何か、おかしい。
普通は警備全員がこの場所を離れるはずはない。いままで失神させたのは、科学者のような、人間ばかりだ。多少は警備兵が居るのだが、瞬間覚醒で絞めると倒せた(それが基礎体力的に劣るサイエンティストでも)、相手の戦術がおかしいと思うのは仕方ない。
多少は納得できることはあった。これは自信だったのだろうか? 相手はバグアなので考えていることはよく分からないことが本質にある。つまり、キメラの存在やこの拠点候補が上手く隠れているという根拠無き自信かもしれないのだろう。と、色々推測するわけだ。
中央の、この拠点の心臓部。藤田と花火師がこっそりドアから覗く。
「あぅ、敵さんや。しかもキメラや」
半径10m程度のドーム状の広間の中央に、不気味な音を立てる奇妙な機械がある。この広間の下には昆虫型のビートルキメラ1体が真ん中に備え付けられた、謎のタンクからにじみ出る液体をすすっている。のだ。まだこっちに気が付いていない。
「何となく、わかるな」
このビートルキメラはいかにも堅そうだった。
「うう、ライフル置いて来たのが不味かったでしょうか?」
「これはこまったなぁ。戦いとうないで」
「難しいな。最悪俺が引きつける。ミック君、あやこ君は下がれ」
いや、引きつけるより、今の内にセットが良いかもしれない。
コードを確認し、信管のセットやチェックも怠らず、準備完了緑川は龍のような鱗が浮き上がる。
広間に奥にある、つまり緑川からすこし反対方向からの通気口に鳥莉が顔を覗かせていた。
アイコンタクトで、打ち合わせ通りに、セットをする。それしかないのか? 否、まず今なら不意が打ててキメラも倒せるだろう。
4人は頷いた。
「いくぞ!」
緑川が藤田に準備し終えた爆弾を渡してから、ヴィアに構え直す。藤田は危険と判断し、離れた。
鳥莉は通気口から、フォルトゥーナ・マヨールーを構える。
花火師は超機械γをもち、備える。
「ふん!」
緑川が走ってキメラに斬りかかる。間合では瞬速縮地を使うまでもない。獣の皮膚で固めている。そして、キメラの赤い障壁ごと、外骨格を切り裂く!
続いて、鳥莉の狙いをつけた射撃。2発は見事に障壁と外骨格を貫通させたが、もう一発はそれてしまった。キメラが動いたのである。
そこで、気が付いてどう猛なキメラの体当たりが、緑川を襲う。
「あぶねぇ!」
紙一重でかわした。
そこで、花火師が、超機械γを掲げて、電磁波をキメラに向けて発射する。
気持ち悪い匂いと共に、キメラは倒れた。丁度虫を焼いたときのあの匂いだった。
「戦いは好きじゃないんだけどなぁ。どっちかというと、ばーん、と打ち上げたい」
覚醒を解いたあとに、彼は飄々と言うのであった。
そして、すぐさま、作業にとりかかり、走って逃げる。
藤田と花火師は、入り口とその規模から、大体のことを予想して、個人的に爆弾をセットする。
そして、入り口に戻ると、アサルトライフルを持って警戒する藤田。
「退路も大丈夫」
「よし。爆破」
「OK」
花火師はボタンを押した。
地鳴りと轟音が森の中で木霊したのであった。
警備を無力化している陽動班は、その振動と音を聞く。
黄が
「たまやー☆」
と、拠点に向かって親指を立てるのであった。
●任務完了。されど謎は深まる。
気が付けば頭に響くノイズはなくなっていた。
後続隊の話によると、この拠点の警備や、科学者などに「あれは一体なんだ?」と尋ねても、「私たちは、拉致されてから記憶がない」というのだ。おそらく、何か特別な技術で洗脳されていたのだろうとかんがえる。
今回完全に施設を破壊したため、どれがどの装置なのか知るよしもない。ただ、彼らが撮った写真や採取した土や植物の手かがりは、何かに役に立つかもしれない。しかし、上層部からは「個人研究で分かる代物ではないかもな」と、言うことだ。無駄に費用を費やして、能力者が本当の有事に何も出来ないと言うのも避けたいともいえる。
サンプルと写真は、UPCのほうで買い取ってくれた。
今回の作戦は終わる。
しかし、黄はつぶやく。
「こんな施設、まだまだ作るんやろね? いつまで続くんやろ? この戦い‥‥」
真剣に。