●リプレイ本文
●館内放送
「行列には覚醒して並ばないでください。お願いします行列には覚醒して並ばないでください」
壁に位置する大手サークルの行列前では、スタッフが拡声器を使って注意を促している。最後尾の人がプラカード『此処が最後尾です』を持っていた。別の所では、違反した能力者ヲタクが、警備傭兵に取り押さえられて連行されていく。
2号館を除く、各開館の真ん中にある島は酷い混雑は見られないのだが、大手サークルや誕生日席の壁側だとラッシュアワーのような混雑であった。こんな所で覚醒して突っ込めば(普通に歩くには構わないのだが)、一般人は怪我だけでは済まされない。
まさに戦場。有明の其れより狭い所での祭典。そこはバグアより強敵かも知れない。
少し時間はさかのぼる。1号館の行列整理場所で戦場に向かう戦士が居た。
水円・一(
gb0495)が、全員にパンフレットの地図のコピーとサークル番号とその位置を書き記したメモを渡していった。
「必要な品物の名前と必要数と場所を書いておいた」
「用意周到だ、な」
UNKNOWN(
ga4276)が言うと、
「少し出入りした事があってな」
と、彼は答えるだけだった。
「鬼編集だものね」
「‥‥」
高苗 優女(
gb3944)が笑いながら言うと、水円は黙っている。
「さて、よく判らないが代わりに本を買ってくればいいのかな?」
「そう言うことだね〜。けひゃひゃひゃ! 話すと長くなるので控えるけどね〜」
「ふむ‥‥後学のためにも、一度は見ておこうか」
ドクター・ウェスト(
ga0241)が今は説明する時間はないと判断し、深くは説明しないことに。
「人がすごく多いので、危ないと思ったらなるべく避ける事。気分や調子が悪くなったら無理はせず切り上げる事、無理は禁物だ。覚醒も禁止、だが必要に応じて臨機に対応してくれ」
「了解」
「アーちゃんも了解だよー」
鳥飼夕貴(
ga4123)と、アーク・ウイング(
gb4432)が頷いた。
いざ、戦場へ。
●6号館
「ふむ、2Fは創作系、ココは相当な人気でも出ない限り物がなくなることは無いだろう〜。先に混みそうな1Fだね〜」
地図を見ながら、6号館を眺めるドクターに、
「アーちゃんにとっては未知の体験だね。まあ、何はともあれ、依頼されたことはきっちり片づけないと」
アークはこの周りの連中が理解不能というばかりの視線で眺めて、本音を呟いた。
たしかに、奇妙なお祭りにしか見えない。何が必死にそうさせているのか、も‥‥。
『魔法と少女と肉体言語』のメインヒロインのイラストに『血煙上等』とかかれた白衣、【OR】イタイ白衣と超強化の伊達眼鏡で挑むドクターだが、アークは至ってシンプルな服にコートを羽織っていた。
アークは全く分からないので、ドクターに付いていくだけである。
端から見れば親子連れか、危ない道に誘うおじさんに無垢な少女という構図だろう。しかし、ゲームスペースである1階では、それを気にする程の戦士は居ない。
「どういう内容なの?」
「マンガだから直ぐ分かるね〜。さっさと買ってしまおう」
「‥‥うん」
1時間ほど並んで、魔法と少女と肉体言語本『全力疾走』3部購入に成功する。
「これは代理購入なのだがね、出来れば我が輩の分を取っておいて欲しいのだけど」
「あ、そうですか。わかりました。予約表どうぞ」
購入制限が3冊になっているためその辺対応がよいサークルさんだった。
「No.108‥‥と」
「ありがとうございましたー! 午後には行列はないはずなので!」
「了解したね〜。またくるよ〜」
ドクターがそのまま3冊もち、次に向かった。
「『14時間の恋人』‥‥って」
「創作だから我が輩も見ないことにはねぇ」
肩をすくめる。
どこかで聞いたようなタイトルなのだが‥‥。
サークルには列はなく身内が雑談しているような雰囲気であり、断りを入れてから、購入し無事に指定数買い終えた。
「コチラ、アーク、ドクター。購入完了だね〜」
無線機で、水円とそのほかの戦士に通信する。
●5号館
「『万能兵士の憂鬱』と『カンパネラの夕日』を3冊ずつ、だな」
UNKNOWNがメモを見ながら、行列に加わる。その隣に優女が並んだ。
他人の振りは出来ないため、会話はする訳なのだが、余所から見ればどうなのだろうか?
「あの黒スーツの人の隣にだれがいいのかな?」
「あのひとがいい」
「あたしはこのひと」
小声で、並んでいる女性達が話している。カップリングの話なのは優女には分かった。あのひとこのひととかは女性ではない。
現在、並んでいるのは『万能兵士の憂鬱』である。寺田×カラス本だ。
「一体どういう本なのかね?」
「口で言うのは難しいなぁ」
妄想が先に出そうなので自重する、優女。
「同性愛ファンタジーかしらね? フィクションなので現実じゃないから」
と、あやふやにしておいた。
「ふむ‥‥」
UNKNOWNがそれだけを聞いて専門書を開くが、直ぐに動くので「おおっと」躓きかける。読める状態ではない。
「意外にドジ?」
「ギャップもいいわねぇ」
また、女性達の妄想。
UNKNOWNは聞いてないことにした。
無事、指定数と、優女の分を買い終えた。
ダンディズムを崩さないように努めたUNKNOWNだが、周りの熱意に気圧され、汗だくであった。帽子を脱ぎ、ハンカチで汗をぬぐう。売り子さんは、彼の姿を見て、驚きながらもしっかり売り子をしていたのも印象的だ。
「待っているだけで、こうも汗をかくとは‥‥」
女性の様々な香水もついているので、少し困る。多分困る。
「どういう内容なのか‥‥」
優女の分を借りて、ぱらりとめくる。
そこには、実物より数倍美形に描かれた寺田とカラスが‥‥という本で、現実からかけ離れていることと、常識というブレーキで彼はぱたんと本を閉じた。
優女は楽しく読んでいる。「流石壁サークルね〜」などと、感心しながら。
「‥‥もう少し耐性がついてからだな‥‥」
UNKNOWNは冷や汗がにじみ出ていた。
「あ、不明の人だぉ〜」
聞き覚えのある声。25cmの緑の棒状の物体を振っている可愛い少女が、声をかけてきた。
「ミクか。売り子というのをしているのかね?」
「そだぉ〜。不明の人は一般参加? お隣の人に連れられて?」
「いや、代理購入だ、ね。‥‥依頼の」
「この女の子は?」
優女がミクをみてからUNKNOWNに訊ねる。
「ミク・プロイセン(gz0005)。准将だ」
「ミクだぉ〜」
可愛い少女が、緑色の物体を振って挨拶する。
「へぇ〜。はじめまして。って‥‥准将なの!?」
こんな小さい子が准将なら誰でも驚く。交流場所とか依頼で見ないと判らないものだ。
「まさか、寺田総攻め『カンパネラの夕日』と言う本を売っているのは、ここなのか?」
テーブルに置かれた、表紙をみてUNKNOWNが訊ねた。熱気で大分、思考回路が鈍くなっているらしい。
「だぉ? 買うぉ?」
小首をかしげて訊ねるミク。
「ああ、買おう3冊を‥‥」
「あたしの分も貰おうかしら」
「ありがとだぉ〜」
お金を払って、本を受け取った。
「まただぉ〜」
ミクは又緑の棒のオモチャを、手を振るかわりに振っていた。
優女の足取りは軽いが、黒服の男の足取りは重たかった。
「‥‥こちら、購入完了」
近くの休憩できるベンチに腰掛けて、全員が来るのを待つ。流石に、他の友人知人にリサーチして貰った物を見る気力はなかったのだ。疲れを知られたくないように、ダンディズムに。しかし、背中からは、疲れがにじみ出ていた。
●2〜3
水円と鳥飼は死線をくぐり抜けるルートであった。
2号、3号、4号と、むかうのだから。3号館を先に進む。
「押しつぶされる〜」
「人の波に乗るんだ! って‥‥くそっ!」
鳥飼が別のモブに押されている。水円が手をだすが、数センチ届かず。ヒロインと引き離されるというシーンになってしまった。人混みでもOK。
「あ〜れ〜」
「しかたない‥‥。此処は俺が買うか」
『ごめん〜。2号館で先に枕を買う〜』
「了解」
鳥飼の謝罪が無線に入った。
水円は、人間観察しながら、待つこと1時間。『週刊冒険シリーズ』を2冊無事購入。
「ふう‥‥。買えたが、向こうはどうなんだ?」
3号館から、出てきた水円は、2号館に向かった。
流されて、2号館に向かう鳥飼。ドローム社のブースに向かう。
「うわすげぇ!」
と、口調を度外視できるようなほど、そんな出来映えのリネーア枕カバーのサンプル幟。『本当にそういうの作って良いのか?』と思うほどの過激さだった。
「本人、大丈夫なのかなあ」
不安はあれ、今回は任務だ。しかし、行列のすごさに、目を見張る。いや、絶望する。
「えーっと、最後尾は‥‥。ええっ!」
会場を抜けて、別開館の裏まで(5号館横)を横切り、もはや6号館まで届く長い長い行列だった。
「‥‥いや、大手ならそれぐらい当然だ。しかも、メガ・コーポのドローム社ならば、な」
いつの間にか後ろにいた水円が言う。
「人気は知っているけど、此処まで? ありえない‥‥」
「‥‥そう言うところだ‥‥ここは‥‥」
リネーア・ベリィルンド(gz0006)の人気は凄い。大阪・日本橋に偽物が出る騒ぎがあったぐらいだからだ。
最後尾プラカードも『最後尾ですよ(はあとまあく)』とリネーアがウィンクしているイラストだ。
「時間大丈夫かな?」
「‥‥やばいな」
水円が時計を見て、急いで通達。
「すまん、ドクター、アーク、UNKNOWN、高苗、2号館で苦戦。4号館で『飛行戦姫』を買ってきてくれ」
待つこと1時間半‥‥。
「か、嵩張る〜」
二人して、A2サイズのビニール袋に収められた枕カバーセットを持って、最大の難所をクリアした。
『こちら、ドクター。『飛行戦姫』はゲットできたよ〜既に我が輩の分もゲット済み〜』
同時に無線が入った。
「あと30分! いそげ! 近くのコンビニだ」
既に出入り口で待っている4人に向かって、水円と鳥飼は走っていった。
「宅配便、お急ぎで!」
段ボールにしっかり詰めて、コンビニのカウンターに、荷物を置く6人。半分形相が怖い。UNKNOWNと鳥飼は疲労困憊だ。ギリギリ3時間。
こうして代理購入は成功に収める‥‥。
●戦い終わって
「さて、今なら空いているか‥‥」
UNKNOWNが通りの空き具合を見て、呟いた。どうも知人の話がある物は見つけられなかったからだ。暇をもてあそぶより、今は休息が必要だと体が訴えている。
「混み合うのは、あと1時間ぐらいかね〜」
ドクターが言う。
「‥‥ふむ、私は先に帰ろう‥‥」
UNKNOWNがフラフラと帰っていく。そこには、いつものクールでダンディズムは感じられない。よほど疲れているのだ。
「さて、エスティヴィアさんに会いに行こうか」
鳥飼がいう。
「だねぇ〜。同人誌の出来も気になるし。我が輩はまず、取り置き分をもらってくるよ〜」
また、戦場に向かう猛者が居た。
鳥飼と水円、ドクターと優女がエスティヴィアと会話したり、祭りを楽しんだりする話は別のお話しにて。
アークは、ぼうっとコスプレ広場でコスプレを眺めては、感心していたが、まだまだ5号館のジャンルには理解できなかった。
「うーむ、これも一つの文化なんだね。理解できない領域もあるけど‥‥腐女子とかねー」
●届いた荷物。
宅急便が病院に届く。
依頼主の鈴木宗治さんと大椙花子さんが、嬉々としてその箱を開けた。其処には(当人にとっては)お宝の山があった。
「やったキター!」
「これよ! これを待っていたの!」
入院中の2人は大喜び。流石に宗治さんが抱き枕を使うのは、花子さんに止められたという。
「今度こそ、あの祭典に向かう! 夏に!」
その前に怪我を治せと、突っ込んでは行けない。
こうして、冬の祭りの一幕は終わりを告げる‥‥。