●リプレイ本文
ラスト・ホープのローデン事務所。
「フィアナさん、お久しぶりなのです!」
元気良く入ってきたのは、赤霧・連(
ga0668)だった。
「ほむ?」
しかし、事務所はかなり忙しい様子だった。スタッフが狭い事務所を行ったり来たり。下準備の連絡などで大忙しのようだった。
「問い合わせ対応大丈夫か?」
「OKです!」
「スペースの確保も」
良い意味での活気だった。
「あ、連ちゃん。お久しぶり!」
奥の方から声が聞こえた。フィアナ・ローデン(gz0020)だ。
「あ、フィアナちゃんニャ〜☆」
アヤカ(
ga4624)が、騒がしく忙しい事務所内を軽やかに進み、フィアナに軽く抱きついた。
「こんにちは、アヤカちゃん。なでなで〜」
「ニャー。ゴロゴロ♪」
フィアナがアヤカの頭を撫でると、アヤカは覚醒し猫耳を生やして、猫なで声となった。
「ほむ。こんにちはなのですよ」
「フィアナは何時も元気だな。おかげで、私も頑張れるよ。いいライヴにしような」
皐月・B・マイア(
ga5514)が近づいて、フィアナに挨拶する。
「連ちゃん、マイア、来てくれてありがとう」
フィアナが2人を順に抱きしめた。
隠れるように楓姫(
gb0349)がフィアナを見ている。
「こんにちは‥‥」
「はい、こんにちは。前にライヴにいたね?」
「っ!?」
間近にフィアナを見て、彼女は固まっていた。フィアナからは見えていたようである。
「こんにちは、フィアナさん。今回もよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
辰巳 空(
ga4698)とフィアナが握手を交わした。そのあとに、
「初めまして、フィアナと言います。よろしくね」
「天狼 スザク(
ga9707)です。よろしく」
「山崎・恵太郎(
gb1902)です、初めまして」
「風雪 時雨(
gb3678)です。はじめまして」
3人の男と握手を交わした。
「さて、色々楽しくやろうと言うことですが。プログラムは決まっていますか?」
「ええ、大丈夫」
連の言葉にフィアナがプログラムの冊子を全員に配った。
「総計2時間。問題ないか」
右手でマイアがページをめくる。
新曲の「ピース・ザ・ワールド」が最後に合唱として歌うことになっていた。
楽器を扱える、スザク、連、マイア、楓姫、アヤカ、時雨と、フィアナは役割を分担していく中で、連も含んで恵太郎や空は、音響や照明の事をスタッフから教えて貰った。ステージのスペース、収容人数なども聞くと、それほど大きいわけではないのだが、明るく楽しめるステージであるようだ。サマーライヴの様な大きめの場所ではないらしい。
「ギターは、楓姫さんとスザクさん、マイアの交代制で。連ちゃんはキーボード頼めるかしら?」
「ほむ、わかりましたですよ」
「【J&J】で参加っていうのはOKですか?」
「はい、構いませんよ」
スザクの希望をフィアナは快諾した。
「ありがとうございます」
「あたいにも歌があるニャ☆」
アヤカがにこにこと歌詞を見せる。
「歌詞は暗いけど。でも、可愛い歌ね」
フィアナはニコリと笑った。歌詞に込められている想いを感じ取ったらしい。
「はじめの方は、スザクさんが盛り上げてくれると良いかもしれませんね」
熱意を籠もった口調で、皆は計画を細部まで決めていった。何処で誰が担当するかを割り振っていくのだ。
「はい、頑張ります」
「マイアがバラードかテンポアップ系でアヤカさんをサポートして‥‥その間、連ちゃんと時雨さんはサポートに」
「はい」
「了解なのですよ!」
「カウントダウン後に、『夜明け』が入ります。そこで‥‥」
「ほむほむ」
「あたいはこの辺で歌う方が良いかニャ?」
「盛り上がりの休憩みたいなところかな? バラードとか」
「うんうん」
「まず先に序盤が、私のバンドの歌だから‥‥、あ、ベースは出来る人は?」
「スタッフがやりますので」
問題点が出て、ベース担当が居ない。ベースとギターは似ているようだが別物と考えても良い。
「最後に、みなさんで一緒に『ピース・ザ・ワールド』を歌いたいので。練習したいです」
「OK」
音あわせがはじまる。
CDプレイヤーやMP3、空が用意した楽譜と歌詞を皆が持ち、猛特訓に励んだ。有る程度楽器経験のあるメンバーから、楓姫がベースの担当も出来るのではないかという話が持ち上がる。
「‥‥頑張ってみます」
彼女の夢の一歩が目の前にあった。可能性が出てきたのだ。
「‥‥もしかすれば化ける逸材かも‥‥」
「‥‥そんなことないですよ」
スタッフが呟くと、楓姫は照れながら微笑んだ。その笑みは年相応に可愛く、男達を魅了していく。
『〜World‥‥♪ ♪ ♪』
事務所のスタジオで、様々な調整をしていく。
何回か試しに楓姫はベースをしたが、今回は上手く合わせられないと言う判断と、彼女の希望(ギター)により、見送ることにする。「もし、今度参加することがあれば、ベースも楽しいよ。やってみる?」とスタッフは勧めていた。そこで楓姫は「考えておきます」とだけ答える。
休憩時、空はフィアナの体調を気遣っていた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ☆」
いつもの笑顔に安堵している状態じゃないと、空は気付く。気が抜ければ彼女は倒れるかもという不安がでてきた。しかし、彼女は頑固なので、中止などは聞き入れないだろう。ならば、疲労が緩和する方法をとる。
「あとで、マッサージ師を呼んだので、受けて下さいね」
「空さんはお医者さんですか?」
「ええ、新米ですけどね」
フィアナは、マッサージを受けていたときぐっすり眠っていた‥‥。僅かでも眠れる時間があればそれに越したことはない。
空の気遣いでフィアナは活力を取り戻せたのだ。
「元気も注入されたので、また頑張るね!」
「おー!」
「ニャー☆」
音あわせで頑張っていることでも、連や恵太郎や時雨はステージに赴き、セットアップやステージの大きさ、楽屋裏に走り回っていた。
そうして、当日を迎える。
ライヴ当日。
楽屋裏の控え室。楓姫は少し緊張し、ギターを弄っていたが、マイアが微笑むことで、一回深呼吸をし、微笑み返す。
「楽しめることが出来ればいいですね」
「そうだな。楓姫殿も楽しく演奏できるだろう」
「うん」
楓姫は頷く。
楽屋にフィアナが居る。ほどよい緊張をもって椅子に座っていた。
「フィアナちゃん?」
アヤカが彼女を呼ぶ。
「うん。始めよう」
「ニャ☆」
「そうだな」
マイアと楓姫も立ち上がり頷いた。
連がソデから覗くと、「ギャボ!」と驚くほど人が入っていた。
「CD売り切れたみたいですよ!」
「そうですか。やはり凄い人ですね」
恵太郎がスタッフから聞いたことを伝える。スザクが感心していた。
「やっぱり、フィアナさんは凄いです」
一度全員、控え室に戻ると、空がおそばを沢山持ってきていた、
「夕食兼年越し蕎麦です〜」
と、皆に配る。
温かい、温蕎麦は皆の腹を満たすのに十分であった。
「ハーブティもありますヨ♪」
連が、ポットとティーカップを持ってきた。喉に良いハーブティのようだ。
「ありがとう。いただきます」
こうしてお腹もふくれ、緊張もほどよくなってきたとき、
「前座のスザクさん、お願いします」
スタッフがスザクを呼ぶ。
「さて、俺の番だな」
スザクは覚醒し、口調が変わった。ドクロマスクは今回自重する形になったが、顔のペイントが其れっぽい。
照明には恵太郎、音響に時雨がおり、スタッフとステージのスイッチを押そうと待っていた。未だ暗いステージでは、各々が最終調整でギターやベースを鳴らす。観客側が盛り上がって歓声が上がっている。
暗いステージに、灯りが灯る。
「じゃぁ‥‥暖めとくか! 【J&J】だ! 来年も精一杯生きろよ! 曲は『I Wanna Hold Your Hand』をRock Versionでお届けだ!!」
ロック独特のリズムでステージは盛り上がっていく。
彼の演奏が終わったあとに、フィアナが出てきた。
マイアと楓姫が楽器を持つ。ドラムはスタッフ、キーボードが連だった。
「フィアナです! みなさん、カウントダウンライヴに来てくれてありがとう!」
『フィアナ! フィアナ!』
更に歓声は大きくなっていった。
メインの曲から、新曲披露をするフィアナを、照明部屋で聴き入る恵太郎と音響装置の並ぶ場所から眺める時雨は、はじめて生で聴くフィアナの声に癒されるのであった。
「凄い」
「それだけに、裏方も‥‥大事ですね」
2人は、スタッフの指示に従いながら、機器を操作していった。
ギターはバラード系ではマイアが担当し、ポップスでは楓姫、ロックのようなビートだとスザクに変わる。しっかり練習したおかげで、狂いもなく、スムーズに交代して行けた。
途中でアヤカが、ステージの前に躍り出た。
「アヤカニャー☆ 皆来てくれてありがとうニャ! あたいからのプレゼントもあるニャ☆」
可愛くウィンクをする。
「おおお!」
彼女が叫ぶと又開場は盛り上がった。彼女は持ち歌の『BLACK WINTER CAT』を歌う。
♪冬の朝 眠り続けた 路地裏のダストボックス
温室の中の 都会の猫と野良猫 相容れない大きな格差
自由を夢見て 信じた いつでも 支配からの輝きが
熱くなれ この部屋みたいな大きな暖炉のように
愛の言葉は 夜の帳の 舞い落ちる白き妖精
自由にあこがれ 自由を求めて 自由を手に入れ
最後に欲しいのは 共に語り明かしたいあなただけ
今 あなたに会えて 私の心は満たされていく♪
♪静かに時に流される 語り尽くせぬ私は黒猫
美しい歌は ゆっくりとしゃがんでしまう 夢見がちな時間♪
バックで、フィアナや楓姫がコーラスをする。ギターはスザクが担当していた。
カウントダウンが間近に迫っている。
フィアナが観客に向かって「皆で数えましょう」と言うと、全員が指で数を指し示すように腕を挙げていた。
「5、4、3、2、1‥‥ハッピーニューイヤー!」
『5、4、3、2、1‥‥ハッピーニューイヤー!』
拍手と音楽が鳴り響く。祝い事の様に弾くのはスザクだった。
「では新年に相応しい曲を‥‥! 『夜明け!』」
楓姫のギターにキーボードの連はリズムに乗って、奏で始める。
明日への希望を込める夜明けの歌だった。
「大丈夫のようですね」
空がソデで見ている。
音響の時雨も休憩に入っているのを確認してから、彼も一旦ステージから離れた。
暫くして、アンコールも終わり、フィアナと8人全員がステージに上がる。
「今年は本当にいい年にしたいです。なので、これを皆さんで歌いたい。最後の曲です。『ピース・ザ・ワールド』」
平和を願う歌。
共に手を取り合う歌。悲しみや苦しみを乗り越える応援歌であった。
マイアがメインギターをし、キーボードが連、サポートで楓姫とスザクが入る。コーラスは楓姫にアヤカ、マイア、時雨、空、恵太郎だった。
拍手喝采と共に、カウントダウンライヴは幕を閉じるのであった。
ステージが終わったあと、客が居なくなるまでの控え室。
余韻に浸るようにフィアナは今回参加した仲間とお喋りし、スザクに頼まれて、ギターにサインをした。
「ありがとうございます。大事にします」
ギターは古いのだが、手入れはしっかりされている。
「ありがとう」
フィアナは微笑んだ。
「あ、そうそう」
彼女はぽんと手を叩くと、鞄の中から、『ピース・ザ・ワールド』を数枚取り出した。
そして、ジャケットにサインを書いて、8人に渡す。
「わあ、ありがとう!」
楓姫は大いに喜んだ。
「ありがとう、フィアナ。大切にするよ」
「ありがとニャ☆」
「あれ? 数枚余ってますが?」
恵太郎が首を傾げるが、
「これは、売り子さんで友達が居るの。大事な友達が」
「ああ、なるほど」
その答えに納得する恵太郎であった。
料理の片づけなどを空と時雨が行い、ステージの撤収作業はスザクと恵太郎が行った。女性陣はフィアナを囲んで、後片づけと、今後のスケジュールを考えている。
全ての撤収が済んだ後、差し入れなどを食べながら事務所で簡単な打ち上げが行われていた。
アヤカとスタッフは騒いでいたが、その中に入っていない楓姫は呟いていた。
「また‥‥平和になったら、歌いたいな」
と。
フィアナというと、暫くしたらマイアに膝枕されて眠っている。
「主役がお疲れのようだ」
微笑むマイア。その言葉で、騒いでいた皆は静かになった。
「可愛いのです♪ こちら連レポーター。フィアナさんの寝顔を拝見させていだたきます!」
お茶目な連が冗談を言うと、皆が微笑んだ。フィアナは天使のような寝顔だった。
「風邪をひいては行けませんね」
空が毛布を持ってきて、マイアに渡す。マイアが頷いてフィアナに毛布を掛けて上げた。
(「去年は色々あった‥‥。今年は、どうなんだろう? ‥‥フィアナの歌が、もっと平和な時に聴けるように。
フィアナが、もっと笑って歌えるように‥‥。うん、頑張ろう」)
彼女は決意を新たにした。
そして、初日の出がラスト・ホープを包み込んでいった。
年が明けたのだ。