タイトル:リズの社会適応2マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/07 22:40

●オープニング本文


「リズはどうしたい?」
 精神科医とウィルソン・斉藤(gz0075)がリズ・A・マキシムに訊ねる。
「私は、能力者になって、故郷を救いたいです」
「それでいいのですか?」
「はい」
 奇跡的な回復により、退院が間近になってきていた。
 既に悪夢を見ても、異常行動を起こさないようになっている。逆に様々な物に興味を持ち、斉藤に聞いていたり、偶にデトロイトに来るエスティヴィア(gz0070)に義務教育(ヲタク知識無し)など教わったりするぐらいに元気になっていた。ただ、まだ人見知りが激しいし、戦闘の癖というのは拭い切れていない。

 リズは病室に戻ると、医者は、斉藤と共に喫煙可能な休憩室に向かう。
「人混みを克服することができるか未だ疑問ですね」
 彼女の後見人になっている斉藤に言う。
 斉藤は煙草を吹かして考える。
「彼女が決めた道は、危険だ。しかし、彼女の意向は、尊重しなければならない」
「ですね。彼女の強い意志を感じ取ることが出来ますね」
 深く考え込む。
「ラスト・ホープや、大阪で色々見てきた‥‥。連れ回した俺も悪いが‥‥」
「大きな発作はなかったのですね。それは、傭兵達に会って、故郷を救う事を目指しているからでしょう‥‥」
「そうだな‥‥。糸が切れなきゃや良いがな‥‥」
 医者の言葉に、斉藤は頭を掻いた。

 数日後、リズは退院する。
「家にいくのですか?」
「ラスト・ホープへの入居手続きはまだだし、俺が仕事でいつもデトロイトが中心だ‥‥」
「部隊長されていますからね」
「まあ、な。西へ東へと飛んでいくんだよな」
「ジャパンにも」
「あれは‥‥別件だ‥‥」
 答えに窮する斉藤にリズは笑う。
 車に乗って、斉藤の家に着いた。中流の二階建て木造だ。
 しかし中に入ったとたん、
「うわぁ! ここで戦闘でもあったのですか!? でも、‥‥弾痕がないですね? 大丈夫なんですか?」
 リズが斉藤の家の散らかりように、リズは危機感を募らせた。しかし、これが『戦闘の跡でない』と理解するのに1秒とかからなかった。
「斉藤さん‥‥」
 彼女は、斉藤を見る。というか、睨む。
 ずっと清潔感のある病院や、TVのホームドラマを見ていたリズにとって、其れはもう惨状だった。リビングと台所がカオスになっていた。レトルトとピザの箱の山、ビールの空き缶、吸い殻で山盛りの灰皿‥‥色々散らかっている
「片づけていたけどな‥‥仕事で‥‥」
「言い訳はダメです!」
 ぷすっと頬を膨らませるリズはあちこちのドアを開けた。
「え?」
 しかし、一カ所だけ、綺麗な部屋がある。2階の一室だ。
 女の子らしい、うすピンクの壁紙に綺麗な絨毯。ふかふかのベッド、若者むけの机セットに学校用具まであった。そしてかなり綺麗であった。
「まさか‥‥」
「そっちに集中しててな。部下や疎遠になった家族、エスティに聞きまくったさ」
 斉藤は苦笑している。
「‥‥斉藤さん‥‥ありがとう‥‥」
 リズは感激のあまり泣く。斉藤は優しく抱きしめて上げた。

 暫くして、
「お掃除しませんと‥‥」
「しかしだな、お前‥‥掃除の仕方分かるか? えーっと掃除機とかの使いかたな?」
 斉藤が苦笑する。
「‥‥あ‥‥あう‥‥」
 思い出すリズは真っ赤になった。
 そう、昔の家電などは使ったことはあっても、最新の家電などは使った事がない。無線、戦闘関連の機械などは一般兵並みに扱えるリズだが、一般生活に於いての家事、現行の家電が殆ど分からないのだ。
「うう」
「俺も洗濯機の使い方はしらん。離婚したかみさんの専売特許だった」
「なんだ、家電の使い方を知らないのは、私と同じですね」
「‥‥まあ、そうだな」
 お互い苦笑するしかなかった。
 偶に部下がやってくれるが、今は『デスペア』の動きを調べているためこんな些細なことをさせるのは気が引けた。
「ふむ‥‥」
「あ‥‥」
 考え込む2人だが、リズがポンと手を叩く。閃いたようだ。
「優しい傭兵さんに頼みましょう! 斉藤さんよりお掃除などが上手なはずです」
「おいおい」
「急いでラスト・ホープに! って、チケットはどう取るのですか?」
「‥‥」
 正確な順序が抜けているリズであった。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
ハンナ・ルーベンス(ga5138
23歳・♀・ER
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG

●リプレイ本文

●惨状と大掃除
 ウィルソン・斉藤(gz0075)の家の前に立つ一行。ベル(ga0924)がベルを鳴らすと、斉藤が出迎えてくれた。
「‥‥こんにちは、斉藤さん‥‥」
「ああ、ベル、来てくれたか。手伝ってくれ‥‥。おお、セージに水上、ハンナも又、リズを頼む」
「はい、分かっております」
 ハンナ・ルーベンス(ga5138)は微笑みながら答えた。
「どれだけの惨状か見てみたいが、仕事柄仕方ないのか?」
「あまりこっちに戻ることはないからな」
 セージ(ga3997)の問いに、頭をポリポリ掻く斉藤だった。
「寒いだろう中に入れ」
 全員を中に迎え入れる。
「うわ」
「わああお」
「えー」
「これは酷い」
 玄関は、そこそこよかったのだが、リビングからダイニングキッチンは目を当てられないような汚さだ。服はほったらかし、ビール缶の山、デリバリーピザの空き箱が散乱しているのだ。
「? ん? リズどうした?」
 セージが物陰に隠れているリズをみた。
 LHであったときのような黒い服装だった。
「セージさん? ハンナさん?」
「ああ、そうだ」
「はい、そうですよ。元気になったのですね」
 セージとハンナが答えると、リズはハンナに抱きついた。
「お久しぶりです。みなさん」
 リズは笑顔を見せた。
「‥‥普通の女の子に見えるけど? 人見知りが激しい子という感じ‥‥かしら?」
 アンジェラ・ディック(gb3967)が首を傾げる。
「‥‥ハンナさんに懐いてますから」
 ベルが答えた。
「そうか、知っている人に会えて、安心したわけですか」
 彼女は独り言のように呟いた。

「掃除の前にですが挨拶をしましょう」
 水上・未早(ga0049)がポンと両手を叩いて、皆を注目させる。
「はい! 最初はボクから! 初めまして、椎野 のぞみです!」
 椎野 のぞみ(ga8736)が元気よく答える。
「私は水上・未早です」
「アンジェラよ、宜しく頼むわね」
「リズです、はじめまして、よろしく」
 斉藤とリズとは、初対面の人から順に挨拶し握手する。
「では、順番を決めないと行けませんね‥‥」
 未早がサクサク動いた。
 一階はもとより屋根裏部屋から隅々までだ。
「屋根裏部屋は、普通埃がたまりますから、分かりますが‥‥。ってきゃ!」
 未早の足下に大きなネズミが横切ったことで、彼女は驚き、転けそうになる。転けそうになった先は階段。
「未早さん!」
 直ぐにベルが彼女を抱きしめるように支えるのだが、位置が悪かった。段差のためにベルは柔らかい物に当たったのだ。
「あ、ありがとうベルさん‥‥で、でも‥‥」
「あ、ああっ! 済みません!」
 お互い真っ赤になった。
「‥‥なにやってんだか。『戦闘都市』でも事故があったな‥‥そう『事故』な」
 セージがため息を吐いた。
「‥‥あ、あれは事故ですよ!」
 ワタワタするベル。未早は一寸頬を膨らました。
「あの2人は?」
 リズがハンナに訊ねる。
「確かおつきあいしているはずです」
「‥‥ふーん。恋人同士なのですね」
 そう言われて、ベルと未早の2人は、さらに真っ赤になった。
 そんなトラブルがあっても、しっかりお仕事。その感想は。
「‥‥大事なものはあらかじめ避難して下さいね。その辺に散らかってるものはゴミとみなして片っ端から捨てますから♪」
 とても素敵な笑顔で、斉藤に言うのであった。しかし、その笑顔が非常に怖い。逃げたくなるほど怖い。
「家事大好きっ子の腕が鳴るね、この状況」
 のぞみはやる気満々だ。
「あ、わ、わかった‥‥家に仕事は持ち込まないからだ、大丈夫だと‥‥思う」
 服ぐらいだろうと言うことなのだろう。
「水回りを私が担当します」
 と、未早がいうと、のぞみもボクもすると言う。
「俺は、屋根裏からだな」
 セージが上を見る。
「‥‥俺は‥‥セージさんと同じように。力仕事が要るなら直ぐに呼んでください」
 ベルが動く。
「はい、リズさん」
「? ハンナ?」
 ハンナがリズに何かプリントを渡した。
「此処にある家電製品の使い方を纏めた物です。其れを見ながら覚えていきましょうね」
「はい」
 笑顔で答えた。
「私は整理整頓の方面かしらね。大まかに分別などしてからだけどね」
 アンジェラは言う。
 役割分担も決まり、リズに家電製品の使い方を教えていきながら、屋根裏、二階の空き部屋、斉藤の部屋とどんどん掃除していく。
 ゴミの量に、近所の人が目を丸くして、「引っ越し?」と訊ねられるが、簡単に事情をはなすと「大変だね」と微笑んで去っていく。寒い中、ベルとセージは草刈り機をつかって、草ぼうぼうの庭を簡単に綺麗にしていくが、
「綺麗にしたい場合、専門職が必要だな。これは酷い」
 花壇を作りたかったが、1日だけでは無理と諦め、形だけ綺麗に止めておいた。
 リズは、女性陣に見守られながら、掃除機や洗濯機の使い方を覚えていく。そして、庭には洗濯物の山が綺麗に干されていく。風がたなびいて、服がはためいていた。
「こんなに簡単でイイのですか?」
「そう言う便利な物なのですよ」
 機械の扱いに戸惑うリズに優しく接する女性陣達。
「掃除のしかたは、上から順に、だ。いいか? 埃は下に落ちていくからな」
 セージが実践して教えている。頭に蜘蛛の巣がかかっているが、彼は気にしなかった。
「はい」
 斉藤はというと、完全に邪魔扱いで、戦力にならないようだった。一応掃除は出来るのだが、会話の中では蚊帳の外だった。
「うーん。俺って邪魔かもな」
 タバコを吸いたい気分だったが我慢する。
「‥‥どんまいです」
 ベルに慰められた。
 洗濯、台所の掃除を終え、一気にモップがけ(そこでリズが足下を滑らせて転ぶのだが、ベルが支えた)。昼過ぎて、見違える綺麗さになったのである。
「ガスの閉め忘れ等は気を付けてね?」
 未早がリズに言う。
「お腹空いたね。コンビニで何か買おうよ」
 のぞみの発案する事に異論はない。
「歩いて10分か問題ないな」
「私は残りますね」
 ハンナが言うと、皆彼女に向いた。
「リズさん、家を出るときは『いってきます』。そして帰ってきたときは、『ただいま』ですよ」
「‥‥はい」
 その言葉にリズは未だ理解できなかったが、後に分かるだろう。ハンナと未早が残る意味を知った全員は何も言わなかった。
「じゃ、いってくるな」
「いってきます」
 未早とハンナは、昼食の準備をするも‥‥。
「ビールとチーズだけじゃないですか」
「先に簡単な食材をLHで買ってきて正解でしたね」
 苦笑する女性でありました。


●ただいまとお帰り
 コンビニで昼食用の適当な物を買うために、歩いていく。はやり、斉藤が言っていたように、リズの歩き方がおかしい。周りを警戒している歩き方で、銃でも持っているかのようにピリピリしていた。
「周囲の危険度で警戒のレベルぐらい調整しろ。この辺りじゃあ、利き手を空けとくだけでも十分すぎるぐらいだ」
 セージが、リズの頭をぽんぽんと叩いた。
「‥‥あう‥‥」
 流行自分でも分かっているのだが癖が抜けきらないと目で訴えているが、セージは其れをスルーした。
「‥‥ふむ」
 アンジェラは、その行動を眺めているだけで何も言わない。
 のぞみがリズの手を取って、「あそこがコンビニだよ」と連れて行く。ほぼ同い年なので、接しやすいのだ。
「此処は安全だよ。安心して」
 彼女の笑顔でリズは、微笑んだ。
「わかりました」
 何か通じ合ったことがあるのだろう。
 2人が歩く姿を、大人達は微笑ましく眺めていた。
「斉藤殿、後で渡したい物がある」
「‥‥ああ、わかった」
 コンビニではインスタント等しかないため、適当に買っていく。
「こんな沢山、すごい」
 リズはコンビによる事自体初めてで、驚くばかり。
 のぞみが親切に、お金の払方を教えて、実践させる。
「おつりは300cだよ。ありがとうだ」
 店員からおつりを受け取り、リズは思わずありがとうという。店員は一寸戸惑ったが、笑顔で返した。別に、店員にお礼を言うことが悪いわけではないのだが、違和感もあるだろう。
「‥‥礼儀正しい娘ですね」
 アンジェラが呟いた。

 リズは、帰宅の時にしっかり「ただいま」と言った。待っていたハンナと未早はにっこり微笑み、
「『お帰りなさい』リズさん。『お帰りなさい』皆さん」
 と、返したのだ。
「あ‥‥っ!」
 リズはハンナに抱きついた。そして、未早にも抱きつく。
 そう、彼女はこの『意味』が分かったのだ。『おかえり』と『ただいま』という言葉のやり取りを。


●お買い物
 昼食を済ませ、一行は車で大型スーパーに向かった。ショッピングモールよりは小さいが、充分物はそろえられる規模だった。
 米国では量が多いし、日本のように生鮮野菜などを袋に詰めていない。パックもないものもある(確か)。大通りで人が行き交いやすい場所になると、食べ物屋がたくさんあるのだ。一寸歩けばフライ屋やクレープ屋など当然ある。
 当然、初めて見るので呆然してから、警戒するリズを、皆が落ち着かせるのだが、酷い発作にはならなかった。
「‥‥献立考えてなかったような‥‥?」
「冬に定番のシチューだよ」
 ベルの言葉にのぞみが言う。
「‥‥では、その食材を買いましょう」
 買い物カートを押す。
「見事にビールとチーズだけの冷蔵庫でした物ね」
 未早は斉藤に向かって、きつく言った。
 斉藤さん立場なしである。男ってそう言う物だろうか?
「‥‥お礼‥‥言うのですよ」
「はい、ベル」
 親切丁寧にベルとのぞみが人とのふれあいを教えていく。
「ところで‥‥」
「‥‥なんですか?」
「ミハヤとはどんな関係?」
「‥‥」
 とんでもないことを聞きますね、リズさんと内心思う、青年ベル。
「おつきあいさせて貰っています」
 一寸頬を染めて答えるベルで、後ろでそわそわしている未早。周りはネタとばかりに、ニコニコと助け船は出さない。
「キスとかは?」
(「‥‥なんで、キスをしってるのかなぁ」)
 ベルは困った。
「ハンナさんが、あとで親切に教えてくれます」
 ベルはそう言うってハンナに振ってみた。
「どうして私ですか!」
「どうして‥‥ハンナ‥‥さんなの? 付き合っているのはベルとミハヤじゃないの?」
 鋭いツッコミ。
「自分で言えよ。ベル」
 セージがハリセンで容赦なくベルを叩く。
「痛いですよ、セージさん。リズさん‥‥まだ、‥‥貴女には早いです‥‥」
「ねーねー。おしえてー」
 リズの性格が一寸かいま見えた気がする。

 有る程度買っていくと、殆どがちょっと別行動を取りたいというので別れることとなった。
「リズ、帽子何か良いか選んでも良いぞ」
 セージが帽子売り場でリズに帽子を選ばせていた。
「え? でも」
「人の親切は素直に受け取るべきだ」
「ありがとう」

「デートですか、良いですね」
 先ほどの仕返しとばかりに、ハンナがベル&未早に言う。
「‥‥いえ、違いますよ‥‥荷物運びは必要でしょう」
 ベルは弁解するも、
「あら、私はそれでも良いですよ」
 未早がにっこりベルに微笑むのだ。
「‥‥え‥‥」
 固まるベル。「積極性がないのか?」と自問自答する。
「デートも良いですけど、いまは、私はリズさんのための女性用品とかを買わないといけません。斉藤さんやベルさんでは無理でしょ?」
 未早の個人行動は女性用化粧品などの男の人では難しい物を買いに行くことだった。
「では、ベルさんお借りして良いですか?」
 ハンナが微笑みながら訊ねると、
「はい、いいですよ」
 未早は快諾する。一寸がっくりな、ベルはスルーで。
「私の方も‥‥。斉藤さん、家電を買いたいので、お願いしますね」
 ハンナは何か考えがあるようだった。
「ああ、後で代金を払うな」
「はい♪」
 アンジェラは本屋で体操や健康関連の本を買っていた。
 荷物がいっぱいな車に乗って帰路につく。

 誰もいない家にでも、リズはしっかり「ただいま」と言うのだった。
「「おかえりなさい」」


●絆を深めて
 リズはのぞみと未早、ハンナと共にシチューを作り、アンジェラとセージ、ベルは配膳を担当する。サラダにシチューと出来合のフライドチキンに、パンである。
「野菜はこう切るんだよ」
 のぞみがリズに親切に教える。
 刃物の使い方に才能はあるのか怪我はない。
「ここは、女性のターンだな」
「‥‥まあ、そう言うことにしておこう、セージ殿」
 料理が出来ない(紅茶は可能)アンジェラは紅茶の用意をしていた。
 色々な会話を交えて、皆はリズと深く関わっていく。誰かのボケに、チョップで軽くセージが突っ込んでいく(流石に食事中にハリセンは無理だろう)笑顔が絶えることがなかった。

 そして、全ての仕事が終わりお別れの時。
 のぞみがリズを抱きしめる。
「リズさんの気持ちはボクも少しは分かる。ボクも故郷占領の時、両親や仲のいい人の犠牲で脱出したから。状況も同じ‥‥。でも、リズさん、少し笑おう? いつも緊張していると、いざって時、力出せないから。‥‥それにボク達って言う仲間がいる。ボクたちはもう友達だから。ね!」
「はい」
 ハンナが2人を包み込むように、抱きしめた。
「‥‥判らなくなったら、斉藤さんや、私や、皆に、近所の人に落ち着いて聞くの。忘れないで‥‥人に何かをしてもらったら、感謝の気持ちを言葉で伝える事を‥‥ありがとう、と」
「はい、ハンナさん」
 リズは、涙を浮かべながら笑う。
 うれし涙であった。
 セージから帽子を貰い、のぞみからリボンで、髪を結んで貰った。
「友達‥‥」
 リズは呟き。
「みんな、ありがとう」
 と、感謝の言葉を口に出した。


●ある別の日
 数日後、アンジェラと斉藤が別の所でであった。
「メモの纏めに時間がかかって」
「渡すものってそれか?」
 アンジェラが斉藤に渡したい物とは、リズの行動観察記録だった。1日分だから、実際データ的に乏しいのだが。
「ありがとう助かった」
「彼女は、昔のワタシに似ています、斉藤殿。ワタシが助けられる範囲でしたまでのことです」
 アンジェラはそう言うだけで、去っていった。