●リプレイ本文
●長老
「なんぢゃ、お前さんも随分と長生きなんぢゃのぉ。どうしたのぢゃ? ちと、体の節々が痛むか? 互いに歳を取ると色々あるもんぢゃが」
220cm超だが、100歳という男、Dr.Q(
ga4475)が高見台の長老桜にゆっくり手を当てて、桜の木に話しかけていた。樹齢は100年とも言われる。しっかりした幹に、太い枝が、普通の桜並木の其れとは違うことを物語っていた。
しかし、先日の積雪や嵐の為に枝が折れ、樹皮がはげて、酷い有様になっていた。周りの花壇も荒れようが酷い。
「これは色々忙しくなりそうです。分担は相談したとおりで行きましょう」
キメラのことを用心していたが、そうではなく、単純に嵐が凄かったことを物語っていると分かった水鏡・シメイ(
ga0523)が呟く。
「これが、友達の言っていた高見台の桜なんだ」
皐月・B・マイア(
ga5514)が、桜の木を眺める。どんな綺麗な花を咲かせるのか、楽しみだと思った。
「俺はここに寄付して、ジーンが探してくれた樹医を呼んだが、時間がかかると言うことらしい」
「そうですか。其れまでに調べておきましょう。それと応急処置も」
「そうだね」
堺・清四郎(
gb3564)の言葉に、水鏡・珪(
ga2025)とジーン・ロスヴァイセ(
ga4903)が答えた。樹医を呼ぶにしても色々な費用がかかってしまう。そのために善意の寄付などは必要になってくる。清四郎の寄付は大いに役に立つだろう。
まずは、落ち葉を集めたり、傷んだ草木を引き抜いたり、土の入れ替えなど力仕事が優先になる。Dr.Qと珪は桜を担当し、他の6人は周りの手伝いを始めるのだ。
●花壇周辺
「おお、傭兵さん‥‥あんがとう」
210cmの大男がのっしりと全員に挨拶を交わす。小麦屋の黒江 小次郎である。
「何言ってるんだ。俺は、花や草木が大好きだから気にすんなって」
元気に男の娘っぽい口調のNO.9(
gb4569)が大きな木槌と『花壇を守ろう!』という廃材利用の看板を持って、他のボランティアに頼まれた杭を打つ準備を始めていた。
「煉瓦とか、木の柵とか、色々だねぇ。おおこれは、やりがいがあるよ」
鼻歌交じりで、いっくよーと杭を打つ。小気味よい槌の音が高見台に響いた。しかし、
「うわあああ!」
反動余って転がり、しりもちをつくNO.9。ボランティアの人に、大笑いされた。しかし、彼女は、照れ笑いして、
「再チャレンジだ! とうっ」
もう一度木槌を振り上げて作業に勤しむである。
「キメラの危険性はないと言うことは、此処はかなり安全なんだね」
ジーンは不安のバグア襲来がないことを知って安堵する。黒江 美佐枝から聞かされたことでは、此処ではバグアは襲ってきていない。
「樹医も見つかったことだし、あたしも掃除を手伝うことにしようかね」
「お願いしますね」
ほんわかした14〜17歳にしか見えない女性がぺこりと頭を下げた。
●子供は元気
「ねぇねぇ、教えてくんない? 水鏡のあねさん、じーさん」
「いいですよ」
「おぬしも、木が好きか?」
「大好きだ!」
夜坂柳(
gb5130)が少年そのものの笑顔で答えると、珪とDr.Qはこくりと頷き、色々話をする。勿論専門用語は抜いて。
「こう、樹皮が剥げていると、そこから腐っていくんです。桜はデリケートなのですよ。幸い、嵐で色々傷んだだけで、専用の樹脂や塗装薬で良いですけど」
「そうぢゃの。樹医が来る迄辛抱、してくれんかね」
Dr.Qが桜に話しかける。
「そうか! なら、要らない枝を切っておけば良いんだな!」
「そうぢゃな。高いところは年寄りに堪えるわい。珪の言うとおりに切るんぢゃぞ」
「OK」
梯子を借りて珪の言われたところを素直に切っていく。
「おっしゃー! いくぞー!」
NO.9の元気な声が周りを活気づけている。
それからまもなくして、
「土の入れ替えが必要?」
「そうだね。肥料もかなり要るだろうし、春用の花を植えなきゃならないし‥‥」
「じゃあ、俺たちで持ってこよう」
柳、NO.9がボランティアスタッフに申し出る。
「おお、それは助かるよ。裏にトラックがあるから使いなさい」
「ああ、任された!」
トラックにNO.9と柳が乗り込み、スタッフも別のトラックに乗り込んだ。量が多いようである。
「こういうのってワクワクしない?」
「するする」
しっかり材料のメモも貰う。先頭にボランティアスタッフのトラック、そして、2人の乗ったトラックは山を下りていった。
そのあいだに、桜に与える肥料の穴を掘り、準備を始めておく。花壇の修繕と掃除はかなりの時間を要したが、後数日もすれば完成するだろう。
「ふう、土いじりというのも中々楽しいな」
清四郎が、額に滲んだ汗を拭う。泥が額に付くが気にしない。遣り甲斐のような物を感じずにいられなかった。
「そろそろ、お昼ですよ〜」
美佐枝の声が高見台に響いた。
●小麦屋でバイト?
少し時間はさかのぼる。
「私じゃ桜を元気にしてあげる事は出来ない。けれど、ここを綺麗にして、活気を出す手伝いは出来ると思う。と、言う訳で‥‥私を今日一日売り子として置いてくれないか? 経験はあるから、邪魔にはならない筈だ」
「それで、店の手伝いを?」
小次郎は「う〜ん」という顔をして、マイアを見つめていた。マイアは小麦屋の売り子をしたいらしい。
「メイドの格好ですると評判が良いと聞いている。だから、できないか?」
「良いんじゃないですか? 炊き出しの時にも人手が足りませんし。それに、一日とは言わず好きなだけ♪」
奥の方で美佐枝がお茶を出して、ニコニコして言った。
「‥‥ハニーがいうなら、それでいい」
「あ、ありがとう!」
思いっきり頭を下げて、頑張ろうと意気込むマイアであった。
ボランティアさんが、一旦休憩にはいるころに、おにぎりを求め、小麦屋に来る。
「いらっしゃいませ、小麦屋にようこそ!」
と、マイアが笑顔で、対応するのだ。メイド服で。
新鮮というか、色々な思惑もあるのだがボランティアの殆どの時が止まったが、善し悪しはこの際スルーで。一部で「萌え〜」とか言ってるボランティアさんも聞かなかったことで!
「親父、新しい人いれたんか!?」
「臨時だ」
「この、ロリ‥‥いえなんでもない」
小次郎と知り合いのやりとりで、一瞬寒気を感じた。その見知った顔のやり取りに、マイアは何かしらNGワードでもあるのではないかと思ったのは女の直感だった。
「? あららぁ?」
首を傾げているのは美佐枝。先ほどの話は聞こえてなかったようだ。
「ハニーと皐月、おにぎりとお茶が足りない。急いでくれ」
「は、はい!」
2人は奥に入っておにぎりを作り始める。
35歳な親父さんに、『外見年齢』が14〜17歳という奥さんはどう見ても‥‥だということぐらい。
(「深く訊かない方が良いかも知れないな。出会いぐらいは訊いても良いだろうけど‥‥うん」)
マイアはそう思った。
●休憩
清四郎は最低限体を綺麗にしてから炊きだしの竈を作って、豚汁を作る。できあがったときには、トラックで資材などを持ってきた人達も戻ってきた。
「力仕事をしていると疲れるわいの」
頑張って年老いた体をむち打ち、頑張るDr.Q。梅おにぎりの梅と鰹節おにぎり、清四郎の豚汁に舌鼓をうち、お茶を飲んで‥‥、
「はぁ〜、生き返る〜」
冬にしては春ほどのあたたかさに、縁側のひなたぼっこ爺さんを連想させる姿になっていた。本当に爺さんだけど。
色々重い物を持ち運んでも元気いっぱいなのは柳にNO.9。おにぎりや豚汁、お茶のお代わり、そして、同じ世代のボランティアとお喋りをして、ムードを盛り上げていた。
そこには、草木を愛する人のふれあいだけ。和気藹々と話が弾んだ。
「では、一曲行きます! それに、シメイが歌を聴かせると良いと言うんだ!」
「いよっ!」
アコーディオンを持ち出すNO.9は張り切って、桜の前でリサイタルを始めた。ムード的に盛り上がっていたため、彼女の技量などを抜きに、皆で楽しくお祭り騒ぎになっている。
アコーディオンの奏でる音が気持ちよい。先ほどの爺さんがこっくりこっくりしていた、鼻提灯膨らませて。
「すっかり眠ってますね」
「毛布かけておきましょう」
水鏡夫妻がDr.Qの背中に毛布を掛けて上げた。
休憩が終わると、皆の切り替えが早く、作業に戻る。ゴミを下ろす作業や、土を入れ替える作業など未だ色々ある。
「ばあさん、飯まだかいのう」
Dr.Qお約束の寝ぼけた言葉一発目。
「じーさん、呆けたか」
柳が、老博士に目覚めのお茶を渡した。
「すまんのう」
魂が抜けそうな程、気持ちよく眠っていた爺さんである。
長生きしろよ。
●樹医来る
夕刻近くに樹医が車を飛ばしてきた。調べ物で降りていたジーンも一緒である。
「遅れて済まない!」
「これは明日か」
日が暮れてしまったので、明日に持ち越された。
そのあと、高見台とは別の広場で、清四郎や青年団が作った竈で、バーベキューをする。エコのことも考えて、ゴミを少なめにするよう心がけた食器などを使った。
「一仕事の後の一杯はうまい!」
仕事で色々楽しく、話を続ける。
「黒江どの達はどうやってであったのだ?」
マイアが黒江夫妻に訊いてみた。
「バグアとの戦いがあって、彷徨った後に、此処にきた」
「私との出会いはその時だったわね」
「そうだね、ハニー」
と、この辺の会話を書くと桃色空間で埋め尽くされるので、簡単に言う事にしよう。
どこかのオーナーシェフであった彼と、教師志願の彼女はバグアの戦いから逃げて生き延び、お互いを励まし合って、この小麦屋を切り盛りするという事だったようだ。
「ははは、お似合いですよ」
「ありがとうございます」
「‥‥ありがとう」
にっこり微笑む美佐枝に反して、照れてそっぽを向く小次郎であった。巨漢の背中が一寸可愛い。
珪と樹医が、色々話し合って、明日の治療方法を考える。
「この後は私に任せてください。寄付金で全ての治療も出来るでしょう。そして、珪さん達の応急処置で、大きな病にならずに済みそうです」
「其れは良かった、お願いします」
「どうですか? 樹医を目指してみても?」
樹医が、珪を誘っているようだ。
「う〜ん、まだ傭兵として仕事がありますから、今暫く考えてみますね。環境問題を考えるのも私のライフワークのような物なので」
「分かりました」
数日、8人は手伝って、見事、嵐で荒れた花壇と桜の樹の治療を完遂させた。
●桜の周りの柵
全ての治療を終えた桜に、“こも”で桜の幹を覆う。
「おつかれさまでした!」
それが、高見台の清掃と修繕のボランティア終了の合図であった。
互いに労い、ビールやジュースで乾杯していく。裏では女性達が料理を作って、マイアが運んでいる。ウェイトレス姿も板に付いてきたようだ。
NO.9は、元気にアコーディオンを奏でて盛り上げて、柳は、子供達色々遊んでいる。
相変わらずというか、本当はヤバイかも知れないのだが‥‥Dr.Qはこっくりこっくり眠っている。
南京錠の柵をみる清四郎は、
「いつか俺もこの場所に南京錠をかけて見たいな‥‥」
と、呟いている。
「相手が居ないのか? 堺殿?」
「恋人欲しいんだ!」
後ろからメイドのマイアとNO.9が言うので、「ああ」と上の空で答えてから気が付いて驚く清四郎。
「お、驚かせるんじゃない‥‥」
「まあ、私も居ないけど。そう言う機会もないからな」
マイアは守りたい人はいるけどね、と付け加える。
「楽しければいいけどね!」
NO.9はあまり気にしていないようだと思われる。
「早く戦いが終わってこの柵に南京錠をかける人が増えると良いな‥‥特にヴァレンタインで暴れた連中が‥‥はぁ‥‥」
清四郎は今のLHの騒動を憂鬱に感じていたようだった。
水鏡夫婦は、桜の樹を見ながら、
「珪さん、春にこの桜が満開になったとき、見に行きましょうか?」
「それは良いことですね。是非見に行きましょう」
と、仲睦まじく語らう。
「あ、流れ星!」
柳が空を指差した。
天文観測では、今彗星は無かったはずだが、姿形からすると、本当に流れ星だ。冬の澄んだ夜に、綺麗な白い帯が皆の目に映った。
去り際に、8人は桜の木に触れ、
「変わらずに見守っていてください」
と、願うのであった。
春が待ち遠しい。