●リプレイ本文
●SOSを受け取って
皐月・B・マイア(
ga5514)が、雨の中駆けだしていた。傘持たず急いで走っていた。
「フィアナ‥‥フィアナ‥‥どこ?」
メールに記された言葉。
『もう、怖い‥‥。何もかも、変わってしまうの?』
それだけだった。
支離滅裂の言葉だが、フィアナ・ローデン(gz0020)に危険が迫っていることは確実に分かる。
(「誓った筈だったのに! フィアナが笑って歌えるようにって!」)
と、自問自答するマイアだが、何処にいるか見当が付かない。
マイアが走っているとなり道路で、猛スピードで走るインデースがUターンし、マイアに向かってクラクションを鳴らす。
「マイアさん乗って!」
鷹代 由稀(
ga1601)もフィアナのSOSを受け取ったらしい。後部座席には、ベル(
ga0924)と葵 コハル(
ga3897)が乗っていた。2人ともびしょ濡れだ。右腕だけで、由稀の肩を掴んで、マイアが叫んでいる。
「由稀殿! フィアナが! フィアナが!」
彼女はかなり、慌てている。
「落ち着いて、皐月さん! いま、コハルちゃん、水上さんとベル君もメールで場所を訊いているから!」
「ああ、わかった‥‥‥‥すまない」
マイアは深呼吸して落ち着き、助手席に乗った。
雨の中で探す。水上・未早(
ga0049)と水鏡・シメイ(
ga0523)が合流し、兵舎前でフィアナが居ないか探す。シメイは必ず迷子になるためにそう動けない。
「お待たせしまいた! 乗ってください」
風雪 時雨(
gb3678)がファミラーゼをだしてきた。
「たすかります!」
未早がフィアナに『場所は何処ですか?』と打ってから暫くしてから、『‥‥広場』と返答が来たのだ。
メール着信音。コハルとベルの携帯も届いた。
「やはり、広場だ」
コハルがガッツポーズをとる。
「どうして?」
マイアが訊ねる。
「良くあそこで歌っていたし、よく、猫と戯れてる事があるんだよ」
熊が好きだけどね。と付け加えて、コハルが答えた。
「急ぐよ。掴まって!」
由稀が車をかっ飛ばした。
全員が広場にたどり着いたとき、鈴葉・シロウ(
ga4772)から『目標発見。今から向かう』というメールが届いていた。次に『猫が‥‥助けて』と謎メールが届く。其の答えは、広場のベンチで蹲るフィアナと、シロクマ頭で立っているシロウを見て納得する。
「痛いです。あと、寒いです。だから、噛まないで、猫さん」
覚醒してシロクマの頭になっているため、熊好きの猫が彼の頭でじゃれている。彼は傘をフィアナに差し出しており、猫と戯れ(?)ながら、びしょ濡れの状態で立っている。シロクマ頭の方が、視界の悪い雨の中ではかなり目立つであろう。
「ひーろー殿!? ‥‥フィアナっ!」
「「鈴葉さん!」」
「本当はこっそりの方が良いのですけど‥‥イテテ‥‥、この悪天候では‥‥だから痛い‥‥。目印に覚醒しておりましたよ‥‥って、だから爪を立てないでーっ!」
『くるる〜♪』
猫がシロウの熊姿に気に入り、爪を立てて喜んでいた。
「たすかりました、鈴葉さん」
お疲れ様とシロウをねぎらうシメイや時雨。
マイアは覚醒して、優しく、そして強く、フィアナを抱きしめた。
「大丈夫‥‥大丈夫だから! もう絶対に‥‥フィアナッ」
「マ‥‥マイア? み、みんな? ど、どうし‥‥」
皆が何故居るのか良く理解できていないフィアナは、気を失った。安堵のためだろう。
「フィアナ! フィアナ!」
一行は彼女を車に乗せて、マイアの自宅に向かった。
●男は締め出し
「こっち!」
マイアの兵舎に一行は向かう。時雨がフィアナを担いで、走っていた。マイアが部屋にはいると、急いで部屋を暖めシャワーをセットする。
「はい、男性諸君は退場!」
女性陣に男性陣は追い出される。
「覗いたら、死刑ね?」
由稀の殺気の帯びた睨みが、男性全員縮こまる。ドアが閉まった。
「‥‥その間に、俺達‥‥も、‥‥着替えた方が‥‥良いでしょう」
「ですね、風邪を引いてはこれからの作戦は厳しくなります」
ベルの案に、シロウは頷いた。
びしょ濡れなのは、誰も同じだった。交代で着替えるために自室に戻っていく。10分もしないうちに、着替えを済ます。能力者がいくら強力だからとはいえ、風邪を引くこともあるだろう。
「まだですか?」
「みたいですね」
30分ぐらいでドアが開き、「入ってOK」とコハルが言う。
時雨はフィアナにドキッとする。カーディガンにパジャマ姿のフィアナが、ホットココアをマグで飲んでいる姿に。
「ほほう」
シメイが扇子を取りだしてほくそ笑む。こう言うのには鋭いのか?
「‥‥シメイさん。それより、‥‥フィアナさんの事を‥‥」
「そうですね」
皆がフィアナを見る。フィアナはどうするか悩んだような顔をしていた。
「フィアナ、話してくれない?」
コハルの問いに、フィアナは思い出すかのように涙を流すが、ぽつりぽつり話し始めた。話し終わった後、全員怒りに震えていた。
「許せない! 金儲けのためなんかに! 歌は、金儲けのための『物』じゃないぞ!」
由稀やコハルが叫ぶ。
皆同じ心境である。ぐっと堪える者もいるが。その中でシロウが、右手の中指で眼鏡をかけ直し、こう言った。
「私には許せないものが三つあります。食べ物を粗末に扱うヤツと、腐れバグアども、そして、女の顔を笑顔以外で歪めることだ」
「では、此処は現運営を追い出して、辞めた人をもう一度戻って貰う事で決まりだね」
8人は頷いて作戦を練る。
●作戦
シメイとベルは、元スタッフの説得に走り回ると言う。
「でも、まあ、元スタッフの説得などはしていきます」
「‥‥俺も、その手伝いを‥‥します。俺と、シメイさんなら‥‥顔見知りが多いはずです」
「OK」
由稀が了解した。
シロウは、ラストホープ内でのネット掲示板にて「今の運営どうよ?」とネット浄化作戦をおこなうと言う。其れには誰も反対はない。
「ソース的には信憑性が薄くなりますが、情報というのは強いですヨ」
シロウは自信満々だ。
「IMPだからなぁ、あたしら‥‥」
「芸能方面でそれとなく聞いていくか」
由稀とコハルが芸能やTV、ラジオなど関係者に尋ねることに。
「私は、ローデン事務所に潜り込もうと思います」
未早が言う。
「そうだね。それもアリか」
全ての情報を合わせてしょうこと掴むには、中に潜ることも必要だろう。
「私は、フィアナの傍にいたい」
マイアが言う。
「自分も護衛で、いいですか?」
時雨もそう言った。お盆にはマイアから借りた台所で、簡単なサンドウィッチを作っていた。
「其れで決まりだ。行こう!」
早速各自仕事に入るためにマイアの兵舎から出て行くもの、用意を始める者がいた。
「ひーろー殿」
マイアがシロウを呼び止める。
「どうしましたか?」
「格好良かったぞ」
「それは、光栄の至りです」
ウィンクするシロウであった。
●情報
「お邪魔します〜」
髪のセットも変え、眼鏡を外した未早がローデン事務所にお菓子を持って入ってくる。
「あの、なにか用ですか?」
藤木が訝しげに、未早を見た。未早からすれば、周りにいる男共は事務所の人ではない。チンピラであることは一目瞭然だ。
「この間のライヴはお疲れ様でした。これ差し入れなんですけど、フィアナさんいらっしゃいますか?」
「‥‥ああ、ファンの方ですか。差し入れありがとうございます。其処においててください。今から会議ですので」
「ああ、其れは残念です。あの、フィアナさんは?」
全員の目が鋭くなる。
「‥‥今忙しくて。アポを取ってください」
落ち着かない風に、藤木が言う。
追い返したいようである。此処は素直に従った方が良さそうだ。
「はい、失礼します。頑張ってください」
お辞儀をして去っていく。
今度は、水鏡シメイであったが同じ結果に終わった。
「居なくなっていることを隠し通したいようですね」
腕を組んで考えるシメイに、未早は頷いた。
「『チンピラ多数で捜索隊を出すつもりの様子』‥‥とっ」
ベルに送信。
「説得の方はどうでしょうか?」
「2人でやりましたが、あまり芳しくありません」
「そうですか」
ネットを通じてシロウは情報を釣り上げてみる。『そいやなんか最近、某ライトヲタ系歌手、商売の方向がアレになってきてね?』と。
『あーあるある』
『絶望した! 儲けだけな商法に絶望した!』
釣れる釣れる。
スレッドが盛り上がっていき、シロウは『どこかで見た』等の情報をピックアップし、資料を作成する。
「あとは、業界の方で‥‥」
各種放送関係を当たる由稀とコハルは、なんとなく、ローデン事務所の噂を訊ねていった。そして、運良く情報を手に入れられた。
「営業が多くなったのは確かだね」
「藤木というのが良く来ていたけど、あまり良い噂がなかった気がするよ?」
「どういうこと?」
「こっちに来る前では、いかがわしい連中で、歌手の利益をむさぼるプロダクションの出らしかった。噂だけどな。あの人の事務所って、ライヴはするけど‥‥あまりメディア出演しないし」
「ああ、ありがと」
2人はメールで情報を全員に報告してから、裏取りにあちこち走り回った。
数日もすれば、全ての情報はそろう。
あとは、直接対決になるだろう。
●時雨の想い
皆が頑張っている間、フィアナは未だ塞ぎ込んでいた。コハルの案で、常に鍋。食材探しは時雨で、全員が笑う話をする。次第にカオス会話で盛り上がるのだが、フィアナは笑うことはなかった。人に裏切られたことが、よほどショックだったらしい。
日中、殆どのメンバーは出ている。いまでも、マイアが励ましても、塞ぎ込んでいるだけだった。しかし、マイアのおかげでこれ以上悪化することもない。
「‥‥落ち着いた? 今、皆頑張ってる。大丈夫、何とかなる」
「もうだめ‥‥あたし、歌えない。信じるって何を‥‥?」
フィアナは首を振る。あの元気だったフィアナが、怯えている。人を信じるという純真さが無くなりつつあった。
時雨はその姿に、怒りを覚え、怒鳴った!
「貴女はいつまでそうしているんですか!」
「し、時雨殿?」
「雪風さん‥‥」
「そうして、ずっと落ち込んでもはじまらない! そんな顔は見たくない! 勇気を与えるために、危険な場所に向かう貴女はどこに行ってしまったのですか!」
「フィアナの気持ちも考えて上げてよ!」
時雨とマイアが喧嘩するが、途中でお互い沈黙する。長い、長い沈黙。
「‥‥買い出ししてきます。‥‥失礼します」
時雨は居たたまれなくなって、部屋を出た。
フィアナは、目を丸くしたまま、ぼうっと、彼が出たドアをみていた。
「フィアナ‥‥」
「ごめん、ごめんなさい‥‥」
フィアナは泣き出した。マイアの胸の中で。
「大丈夫。人を信じるのって難しい事だよ。フィアナは何も悪くない。信じるから、人は前に行けるんだ。だから、悪くない」
マイアはフィアナの背中をさすって上げた。フィアナはずっと泣いていた。
時雨は鍋の材料の他に、山茶花の植木鉢を買って戻ってきた。
「其れなんだ?」
マイアは首を傾げた。
「フィアナさん、先ほどは怒鳴って済みませんでした。お詫びにですが、これを‥‥」
と、山茶花を渡す。
「花言葉は『困難に打ち勝つ』です」
その言葉にフィアナの目が輝いた。
「ありがとう‥‥時雨さん」
彼女の意志が生き返ったようだ。
●決戦
IMPメンバーは裏に、シメイとベルと未早に、マイアとシロウがフィアナと元スタッフ4名で事務所に入った。
「フィアナ、何処行って‥‥っ!?」
傭兵がずらりと来ているので怯むチンピラと藤木。
「此処はいかがわしい組織の巣窟ですかね?」
シロウは、睨みをきかして、色々語り始める。その内容は藤木の過去から、今までの嫌がらせの傾向などを暴露したものだ。由稀とコハルの情報も加え、かなり信憑性があり、藤木は嫌な汗を流す。
「儲けて何が悪い!」
藤木は開き直る。
「所詮は歌だろ! 儲けの道具だろ!」
「酷いっ!」
ここに、コハルと由稀、時雨が入っていなくて良かったと思った。歌手生命に関わるからだ。
「ここは、あたしの事務所です! あなたを信じた愚かさを恥じます! 出て行って!」
フィアナが怒鳴る。
「‥‥でていくのは、其処のメンバーだ!」
と、チンピラが飛び出し、蹴りや拳を振るう。しかし、シメイとマイアが片手で軽々受け止める、その瞬間をベルがカメラで収めた。
「‥‥暴力ですね。これは危ない行為です」
「もし懲りないなら‥‥、『左手』で相手するぞ?」
マイアが睨んだ。
「っち! 覚えてろ!」
藤木達は分が悪いと悟って、事務所を出て行った。
ひとまず、藤木の連中は居なくなった。残るは、フィアナだけになったからの事務所。
「何々? もう終わり?」
由稀とコハルが入れ違いに入ってくる。
「大きな問題にはならなかったですよ」
シロウが親指を立てて、答えた。
「その方が先のことを考えると、正解だよね」
うんうん、頷く由稀とコハル。
「あの、また、苦しんでいる人のために事務所を盛り上げてくれませんか?」
フィアナがスタッフに頼んだ。
「あたし達からも、お願い!」
由稀やコハル、マイアも全員、頭を下げる。
「あなた達の熱意に感謝します。私たちも弱かった‥‥フィアナさん、貴女の岡三にも申し訳ないことを」
ローデン事務所は、無事に取り戻せたのだった。
再出発は厳しい事だろう。
しかし、山茶花の花言葉のように、打ち勝てると信じる。
「フィアナ、また、歌って行こうね!」
コハルと由稀が、フィアナの背を多々来て笑う。
「ええ!」
いつもの笑顔のフィアナに戻っていた。
●お祝い?
ひとまず片づけを手伝いながら、ご飯も終え、歓談している間に、時雨はフィアナを呼び出した。
「あの、前は怒鳴って済みませんでした」
深々と謝る。フィアナは首を振って「目が覚めたのです、ありがとう」と、逆にお礼を言った。
「あの、どうして、其処まで真剣になってくれるの?」
フィアナが訊ねる。
「あの、‥‥それは、フィアナさんが好きだからです!」
最後が大きな声になってしまった。歓談の騒がしさが消えた。
時雨の顔は真っ赤になっている。耳も。
「え? ええええ!?」
驚くフィアナも、顔が真っ赤になる。
「えーっとそのー、あのう。あたし未だそんなことかんがえた‥‥こと『なきゅ』て」
フィアナはしどろもどろに答えている(裏声にもなってるし)。
「この気持ちを受け取ってもらえますか?」
真剣さが伝わっている分、答えも真剣に言わないと行けない。
「もう少し、雪風さんの事を知っていきながらで、いいですか?」
フィアナは真っ赤になって答えた。
まず、一緒お互いを知っていくことからが重要だ。
其れで答えが出ると言うことだ。
当然、こういう話が好きな連中が壁に隠れて、ニヨニヨしているのは言うまでもない。幸先の良いスタートではなかろうか。