●リプレイ本文
●病院
依頼主が眠る病室。そのドアの前に立つのは、水鏡・シメイ(
ga0523)と水理 和奏(
ga1500)、朧 幸乃(
ga3078)と終夜・無月(
ga3084)だ。
朧がノックをする。
「はい、どうぞ」
返事がする。少女の声だ。
「失礼します」
礼儀正しくはいる。
「こんにちは、はじめまして。私たちがあなたの故郷まで案内します。私は水鏡・シメイです」
「ボクは水理 和奏だよ」
「朧 幸乃という。よろしく」
「俺の名前は、終夜・無月。‥‥よろしく」
「ありがとう。私はレベッカ、レベッカ・アンソニーです。よろしくお願いします」
自己紹介が済む。
大体の話は依頼データにあるため、端的に話が出来る。
「では、冬の海岸は寒いので、これを用意しました」
水鏡が、マフラーやコート、手袋をレベッカに渡す。
「ありがとうございます」
「では、大まかな打ち合わせをしたいので‥‥、お体に触るのなら‥‥大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
レベッカは、急ぎたい気持ちを抑えている。もっとも、元気であること自体が、奇跡。
「では、この時間帯に、出発しますので」
大体の時間を教える。
帰り際に、朧が医師に尋ねた。
「彼女にワインを飲ませていいでしょうか?」
医師はその言葉に、考えてしまう。
「‥‥もう、肝機能も低下しており、危険ではありますが‥‥」
考えあぐねているようだった。
医師はしばらくして、
「‥‥いいでしょう。彼女に思い出を残して欲しいので」
OKをだした。
●本部
「今、名古屋戦で厳しいからねぇ」
車両スタッフが困った顔をしていた。
様々な物資の不足だ。
「何とかならないか? ジープとSUVを」
「うーん」
スタッフは考えている。
しかし、結局は傭兵達は説得でき、予定通りに借りることが出来た。
「壊したら、修理費だけはもらうぞ」
と、条件付で。
「何とかなった。後は確認だけかな」
白鐘剣一郎(
ga0184)は、様々な装備のチェックをする。
「あとは、お嬢様を待つだけだ。しっかり寝ておくか」
吾妻 大和(
ga0175)は至って冷静だ。
ジーラ(
ga0077)は、既に泣きそうである。
「まだ、泣くところではありませんよ」
「だって、だって。可哀想だもん」
ジーラの頭をなでるのは、女物の着物姿である鏑木 硯(
ga0280)である(念のために言っておく、男だ)。
「色々想いもあります。それを成し遂げましょう」
と。
「うん」
●夜明け前
高速艇に、全員が集まった。
車いすにレベッカを乗せて、病院に向かっていた4人が戻ってきた。
「初めまして、レベッカ。俺は白鐘剣一郎、今回のエスコートを担当させて貰う。よろしくな」
「俺は吾妻 大和だ。よろしくお嬢さん」
「俺は、鏑木 硯です。よろしく」
「えっと、女性ですか?」
声色が若干女性のそれとは違うので、レベッカは思わず尋ねた。
「いえ、男ですよ、なにか?」
レベッカが他の日本人をみて「え?」と見回すが、他の人はノーコメントを貫く事にした。
「おどろきました?」
鏑木は落ち着いて聞き返す。
「ええ、とっても驚きました」
レベッカは素直に頷いた。
「ぼ、僕はジーラ! よ、よろしく‥‥。っ!」
ジーラは言うとすぐさま姿を消した。ある心情で彼女をずっと見ていられないからである。
一通り自己紹介も終わり、大まかな作戦打ち合わせもすませた後、終夜がおもむろに彼女の首にロザリオを首に書けてあげた。
「‥‥これ、お守り。貸してあげる」
「ありがとう、終夜さん」
「何度も‥‥守ってもらったんだ。このお守りと‥‥俺たちが必ず守るよ‥‥」
「はい」
車いすを押すのは鏑木。
高速艇の入り口には、吾妻が話しかけた。
「どうぞ、お嬢さん。ガイドは俺達に任せておけ」
こうして、高速艇は飛び立つ。
高速艇は沈黙が支配していた。
水鏡は、レベッカにだけ聞こえるように、こう尋ねた。
「もし途中で、あなたが息を引き取った場合はどうすればいいでしょうか?」
「‥‥そのばあいでも‥‥そのまま進んでください‥‥。お願いします」
「‥‥わかりました」
●開始
目的地から10マイル付近。あたりは、荒野ともとれる地平線。
「これなら、あれだ。結構見えやすいな」
「うう、寒い! 寒い! ココアが欲しい!」
「乗ってからです」
アスファルトは剥がれ、整備されていない道。そして、星が瞬いている。夜明けまでまだ時間がある。
ロードマップを見ると、実際の道のりは10マイル以上だろうと思われる。
「結局、この数年修理もされてないだろう。悪路だから、作戦通りに向かおう」
白鐘が指示を出す。
ジーラと白鐘、水鏡、鏑木はジープに、残りとレベッカはSUVに乗り込んだ。
乗り込むとき、
「えー、本日ガイドを務めます吾妻 大和です。先ずは右手を御覧下さい、こちらに見えますのは俺の右手で御座いまーす」
吾妻が言うが、周りはしらけていた。冬の風が余計に寒い。
(「やはり、ジャパニーズ古典芸能は異国の令嬢に厳しかったか!」)
どうも、明るく努めることが難しい雰囲気のようだった。
車は走り出す。
ジープが30ヤード先行し警戒を怠らずに進む。その後ろに護送班のSUVである。双眼鏡や暗視スコープにより、索敵や警戒している。悪路や、無灯火での走行により視界も悪い。普通アメリカでハイウェイや町から町を移動するような移動速度を出せない。
「レベッカは大丈夫でしょうか?」
水鏡はつぶやく。
後ろにSUV。外からでは分からない。
激しく上下に揺れる、この振動は流石に耐え難い物がある。
護衛班の車は、
「現在通っている道は国道‥‥あうち! おい、終夜、もう少し安全に‥‥うお!」
喋ろうとして悪路で激しく揺れ、天井に頭をぶつけるのは吾妻。
「無茶‥‥いうな」
終夜はむすっとしている。
レベッカの様態はまだ大丈夫みたいで、水理と朧がしっかり看ている。
「む、そろそろ‥‥休憩した方が‥‥良いか‥‥」
終夜が止める。
急ぐ事だが、レベッカの容態を考えるに、何回か止まる必要があるのだ。車間距離は維持したまま待つ。
「ココアと緑茶どっちが良いかな?」
水理がレベッカに訊く。
「ココアが良いです」
「はい‥‥。よし、気を付けてね」
「ありがとう‥‥暖かい」
零れないように、注ぎ、蓋もしっかりしめて渡す。
「もし寒かったら、ぎゅっとして良いからね」
「うん」
先行組の方も、暖かい飲み物で暖を取っていた。
東の空はまだ暗い。時間はまだある。
●遭遇
走り続けて、1時間も経つかどうかの時間。
潮の香りが強くなってきた。
「そろそろつきます」
朧が、レベッカに言った。
「願いが叶うんだ‥‥」
レベッカは窓から、外を見る。木々と丘の狭間から、水平線が見え隠れしていた。
「‥‥ああ」
彼女は感激している。
隣に座っている、水理と朧は涙を堪えて、彼女の顔を見ていた。
しかし、先行班と索敵している吾妻は、左側に何かが居ることに気が付いた。
(「キメラ!」)
猛獣型3匹、暗視ゴーグルを持つ物なら分かるがオオカミタイプのようだ。3体ほど確認。
「こんなところで!」
護送班はスピードを落とし様子を見る。
どうも、相手はジープを狙っているようだ。後ろの車は気にしていないのか?
「? 何? どうしたのですか?」
レベッカが空気に敏感なのか不安になる。
「大丈夫‥‥。一寸我慢して‥‥」
終夜が車を止めて言った。
水理が、レベッカを抱きしめる。
「こっちだけ狙っているなら向こうに問題ない。何とか安定させる!」
「撃ちます」
ジーラと水鏡が飛び道具を構える。
安定させても、上下左右に揺れるジープから狙うのは至難だ。鏑木は、たすきを掛けて、迎撃に備える。スナイパーが1匹を集中して撃つ。しかし、ひるまない!
「くるぞ!」
3匹にウルフキメラがジープに体当たりする。恐ろしい衝撃が走り、一瞬ジープが宙に浮いた気がした。しかし、何とか白鐘はなんとか安定させ、横転させなかった。
すぐにこの攻撃から対応したのは、鏑木。先ほど銃撃で傷ついたキメラに爪を突き刺し、倒し、構え直す。
そこで、装填しなおした水鏡とジーラが、距離をとろうとするが、先にキメラが動く! 素早い鏑木が前に出て受け流す!
「撃て!」
水鏡が、矢をキメラの急所を狙い撃ち! 命中しキメラがもだえ苦しむ。そこに、鏑木が仕留めた。
残る1体はジーラが距離を取って射撃、ダメージを与え、その直後、運転席から降りた白鐘が突撃。彼の持つ蛍火が淡い赤色に光り、キメラに突き刺さった。そしてキメラは絶命した。
「‥‥天都神影流、狼牙閃・彗星」
そのあと、ライトで、掃討完了のサインを送る。
「大丈夫‥‥だった‥‥みたいだ」
護送班は安堵した。
吾妻は東から光が見えるのに気づく。
「あ、東にございますのは、日の光でございます〜」
彼は、レベッカに伝えるのであった。
●海
白い砂浜。蒼い海に淡い赤の朝日。
風も冷たく、息を吐くと白くなるほど寒い。
「ついたよ‥‥」
終夜は言う。
「は‥‥はい」
水理と朧が支えながら、レベッカを車から降ろした。
全員、朝日がとても眩しく、目を細める。
特にレベッカはそうだった。
「自分の足で‥‥この地をふみたい‥‥」
「ああ。‥‥あなたが‥‥望むように」
それを止める者はいない。止められる者がどこにいる、否いない。
ゆっくりと確実に、レベッカは歩く。
朧と水理が支えて、進む。躓きかけるところもあったが、二人が支えた。
「ああ、本当に、本当に‥‥帰って来れたんだね‥‥」
レベッカは、つぶやく。
「これが君の見たかった海か。良い景色だな」
白鐘は、朝日の色に染まる海を見てレベッカに言う。
「自慢だったの‥‥ここの海。父さん、母さんの‥‥こと‥‥」
レベッカは語り始める。
ここで育った楽しかった出来事から、辛いことを、家族のことも。喋る事で、体力が減っていることは、誰から見ても明らかだった。しかし、止めることは出来ない。皆、黙って聴く。ジーラはもう涙で前が見えないようだった。
「レ、レベッカ‥‥キミのフルネームを教えて。ボクはジーラ・マールブランシュ。あまり、本名は教えないんだけど‥‥交換、だよ」
「私の名前‥‥、それは、レベッカ・ソニア・アンソニー‥‥」
「‥‥ボク、絶対キミのこと忘れない。決して!」
涙が止まらなかった。
「私も忘れない」
ジーラの手を握る。
「あ、終夜さん‥‥お守りありがとう‥‥」
ロザリオを終夜に返す。
「水鏡さん‥‥あとで暖かいマフラーと手袋お返しします‥‥」
レベッカは、マフラーと手袋を渡した。
水鏡も全員はそれで、気が付く。
「レベッカさん‥‥」
「ありがとう、みなさん。ありがとう‥‥私の願いを‥‥かなえさせ‥‥て‥‥、ありがとう‥‥」
レベッカは本当に笑顔で、感謝を込めてそう告げると、水理の胸にもたれかかるように、‥‥眠った。
「レベッカ! レベッカ! レベッカっぁ!」
朧と、水理、ジーラは彼女に呼びかける。
大声で。
しかし、答えない。
それは誰にも邪魔されない、眠りだった。
‥‥笑顔のままの、永遠の‥‥。
●旅の終わり
これで彼女は幸せだったのか? と、問いたくなる。しかし、彼女は笑顔だった。故郷の土を踏み、笑顔で景色を見られたことが、彼女にとって最高の最期であろうと信じたい。
朧が、ワインを開け、それを海に手向けた。
「海を見られて良かった。でも、一緒に飲めなかったね‥‥」
「いいか?」
「ええ」
「レベッカ、さようなら」
「さようならです」
小高い丘。そこに彼女がいる。
彼女は、ずっと、海を見ていることだろう。