●リプレイ本文
●飛行機雲を見送る
ヤクーツクのUPC軍基地。そこから、本命偵察隊のKV8機が滑走路から飛び立った。管制塔のところで飛行機雲を眺めるのはミハイル・ツォイコフ(gz0007)中佐であった。
「他も上手くやってくれているといいが‥‥な」
彼は機影が消えてもまだ外の景色を見ていた。
8人は、まだ−20℃前後の気温だが、深夜に出た方がいいと言う判断で動いている。岩龍の巡航速度で1時間半。慎重に飛ぶ場合なら、それ以上を見越さないと行けない。目視による見張りをかいくぐるには夜がいいだろう。視界が悪化しているのは同じだが。北西側にあるレーダー群の陽動攻撃をしている為、そちらに敵機が移動しているかも知れない。もし、こちらがレーダーにかかっても、時間を稼ぐことができるだろう。
「その辺りは迂回するべきだな」
ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)が、地図に指で、西側に向かって真っ直ぐなぞっていく。
「一度真西に移動して、途中で北上が良いと思うが。どう?」
「だな、モンゴル付近で陽動攻撃もあるし、敵はそっちに気が向いているはずだから」
300km手前で北上、更に迂回か蛇行するのが良いという事になった。レナ河下流では陽動偵察があるので、河川に沿って北上するのは、陽動偵察の意味を成さない事になる。消去法的には、ヴァレスの案がいいだろう。敵機遭遇については、運任せになるが、こればかりは仕方ない。
現在曇り。そして視界は悪い。最高気温は−18℃の世界だ。北極圏に近いために、太陽が当たらないことが多いし、寒波で雪雲が大空を覆っている。
「まったく、いい景色なら良いのにな。外も寒いしこまったもんだ」
霧島 亜夜(
ga3511)のウーフーが雲を飛び出し、KVが飛べる最高高度まで上昇した。横には愛輝(
ga3159)のワイバーン、南雲 莞爾(
ga4272)のディアブロに砕牙 九郎(
ga7366)の雷電(ジガン)が飛んでいる。高々度から、ウダーチヌイ・パイプに急降下して内部をカメラに収める班だ。
他の4機は、陸歩行か、低空飛行によりレーダーを避けて接近する。途中十数キロ先で、小回りの効くドラグーンを降ろし生身の偵察をする3方向偵察の作戦である。勿論迂回しながらだ。寒い中なので、どちらかというと今回生身より、AU−KVを活用した方がいいだろうと、気温が物語っていた。パワードスーツ状態であれば、どんな低温下でも−4℃となるという。
低空飛行を続ける4機はシュテルン3機にウーフー1機だ。理想的な編隊である。
「うわあ、外は本当に寒そうだね。温かい飲み物用意したりチョコ持ってきたりして正解だった。万全だよっ!」
補助シートに座る水理 和奏(
ga1500)が須磨井 礼二(
gb2034)に言う。
「其れは助かりますよ〜」
礼二の赤い瞳が細くなる。ハッチのガラスには結露が出来ていた。和奏は落書きしたい子供心を我慢した。
中央にルナフィリア・天剣(
ga8313)のウーフー(フィンタニス)を3機のシュテルンが囲むように低空飛行をしていると、上空を見張る人類製のレーダーを目視で確認した。こちらはそのレーダーに引っかかっていないが、高々度の方は心配だが。レーダーがあると言うことは、近くにHWが飛んでいるはずだ。
「ゆっくり進もう」
ルナフィリアの案に賛同し、気付かれない為に4機は一度陸に降りて、装輪走行か歩行で範囲外に移動した。定期パトロールのHWが空を飛んでいるのを目撃したが、異常がないと見て去っていった。
「みつかってないですよね?」
抹竹(
gb1405)がヨグ=ニグラス(
gb1949)が、キョロキョロ辺りを見た。時間的な事と曇り空が幸いしているのか、レーダー頼りであるため、極地迷彩や白に近い色にしているKVを目視確認できていないかもしれない。しかし、見つかったらという危機感は、近づく事に募る。いまは高々度と低空班はお互い通信は止めている状態だ。まだ、300kmも満たない距離‥‥。
「時間がかかりそうだな」
ルナ達はゆっくりと広大な凍土を歩いて行った。
一方高々度班も、巡航速度で南西よりに移動してから北上を開始している。300m先で小型HW3機を発見する。雲の上なので暗いだけだ。
「一回離れよう」
愛輝が言うと、3機とも方向転換し、退却する『フリ』をした。しばらく、相手も巡航速度で追って、ミサイルなどを撃ってきたが、威嚇射撃だった。有る程度の距離まで戻ったら、相手は近辺偵察と勘違いし、去っていった。
「あぶねえ、あぶねえ」
「少しルートを迂回していこう」
先のことを考えれば、一旦退却も必須である。
●50km地点
迂回や潜伏を繰り返して進むのは精神的に参る。苛立ちも募る。その時に、和奏がミユの手作りチョコレートを割って、礼二や班の仲間に上げた。
「ありがとうございます」
「うんうん。ミユお姉様の手作りなんだって。隠し味は知らないけどっ!」
「甘い物はこのときはいいな。わかにゃんありがとう」
このときに糖分補給は最良の行動だ。
「おしいですね〜」
広大なロシアの永久凍土でも、道路ぐらいはある。地図と見比べて、移動方向が正しいかの確認も怠らない。
ルナが見晴らしの良い丘を見つけた。
「わかにゃん、ヴぁっちゃん、まっちゃん、礼二。丁度あの丘がいいかも知れないけど‥‥どう?」
「でも、何かおかしいね‥‥あっ」
違和感に気付く全員。勿論ルナもだ。
もそもそ、丘が動き出したのだ!
土が剥がれ落ちていくと、見慣れた砲台と、剣山の甲羅。
『亀が冬眠から目を覚ました』という言葉が似合う。それは隠れていたタートル・ワーム2体が起きあがった。ただ、30m先で気付いたため、非物理兵装を数発浴びせるだけで、亀は雄叫びも反撃もする暇もなく、沈黙できた。
「うわ、これはこわいですね。こんな仕掛けがあるなんて‥‥」
ヨグが震える。
「もうちょっと、隠れられそうな場所を探すか」
ヴァレスが抹竹&ヨグ組に言い、他に敵がいないか確認する。
10分後に少し先に、何もない窪地を見つけた、念入りな安全確認後、ヨグと礼二がKV降りる。
「シュテルン、お借りしますね」
「はい、おねがいしますです」
「う〜寒い〜。礼二さんKV借りるね!」
「はい、いってきますよ〜」
防寒具に身を包んだ、ドラグーンの2人は、窪地から登るまではAU−KVを装着し、そのあとは、バイクになって、走っていった。
その、数分後に、低空飛行班が離陸した。和奏と抹竹は装輪走行で追う。
●高々度
迂回している高々度班は、そろそろ生身班が付いた頃だと信じ、本格的にウダーチヌイ・パイプに向かう。かれこれ2時間ぐらいは飛んでいるだろう。
「本当に何があるのだろうな」
亜夜が呟く。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ですね」
「そうだな」
4機のKVは少しスピードを出して飛んでいった。
雲が晴れて、見晴らしが良くなった。下に、町の光が仄かに灯っている。はっきりと、鉱床の大きさは分からないが、その先が闇だというのははっきり分かった。
「穴を発見。急降下して、撮影開始だ」
彼らは一気に降りる。
バグア側は、低空移動班に注意を向けていたらしく、動きが止まっていた。
「チャンスだ!」
この好機を逃すと跡はないと亜夜は、操縦桿を思いっきり倒して奥深く降りようとする!
その先に見えた物は。
「なんだ、あれは!」
●逃げるバイク
モトクロスレースのようだった。段差を跳びはねるようにジャンプにウィリー。
「うわあああっ! おってくるー!」
「右にもきた〜っ!」
泣きそう、いや泣いたら、涙が凍る。そんな修羅場である。何に逃げているのか?
こんもりした丘に隠れ潜む亀が起きあがり、生き餌だと思って追ってきたのだ。バイクで一気に走る。まるで怪獣映画で逃げまどう風景ではあるが、端から見るとコミカルに見える。餌を我先にと動くためにぶつかってしまうと、亀同士が喧嘩を始めるのだ。しかし、礼二とヨグは、そんな風景で和めるわけではない。食われたら一発アウトだ。
「「うわああ! まえにいぃっ!」」
亀がずしんずしんと突進してくる。そして、大きな口を開いて食べようとした!
「食われちゃうううう‥‥っ!」
2人はハンドルを切りすぎて転倒するが、バイクと一緒に滑っていく。冷たさを通り越して、鋭利な刃物で切り裂かれる痛みが体を襲う。そのまま滑って、亀の真下をくぐり抜けていったのだ。亀は頭ごと地面に突き刺さって抜けなくなっている。
「うう、偵察も楽じゃなですよ」
「待ってください、ヨグさん。あれを見てください〜」
必死に逃げていた甲斐があった。礼二が起きあがって、指を指す。ヨグはその先を見る。
「これがウダーチヌイ・パイプですか!」
未だ暗い中でもよく分かる。まさに魔女の鍋と言ってもいい巨大な穴が100m先にあった。
丁度低空飛行班が、砲撃をしながら、空を飛んでHWと交戦している。
「今のうちに、写真を!」
「はいです!」
2人はカメラを持って撮影するが、直ぐ逃げる必要があった。穴から大量のキメラが登ってきたのだ。
「撤退っ――!!」
パワードスーツ状態になって逃げきろうとするが、追いつかれそうになるところ、礼二が閃光手榴弾を使って、相手を怯ませた。2人は急いで竜の翼で距離を取り、近くのくぼみに隠れ息を潜めた。キメラは捜そうと躍起になるが、空中戦の流れ弾で吹き飛ばされたようで。辺りが騒がしくなる。そのため、キメラもワームも注意がそちらに向かった。ドラグーンの2人は今だと言うばかりに、空も写真に収め戦域を離脱するため走り続ける。勿論仲間がこちらの照明弾が目視できる例の場所までだ。
●穴の底は
ルナとヴァレスが低空飛行を続ける。左側で隠れていた亀の群がうごめいているのが見えた。恐らくドラグーン2名が追われているのだろう。しかし、今此処で目立つと問題だ。
「ヨグ君達は、僕たちが助けるから!」
和奏が通信を入れる。抹竹と一緒にそちらに向かっていった。
「了解」
ヴァレスと共にルナが大きな穴を撮影開始するため飛行を続けた。
「ああ、やっぱり人のKVは扱いにくいっ! けどなんとかっ!」
抹竹が操縦桿の扱いにくさに、扱いにくさに毒吐いた。
「うわあ、勝手がちがうよお! えーっとこれで‥‥きゃあ!」
和奏もシュテルンを操るのに悪銭苦闘し敵の攻撃を受けてしまう。
多少シート調整はしたが、KVの強化は『本人のみにカスタム』されているため、本来の70%以下もしくはデフォルトなみに性能が落ちている。しかし、歴戦の傭兵なので周りにいるワームを相手に何とか渡り合っている。空はヴァレスがカプロイアミサイルでキメラや小型HWを撃破していき、ルナが穴を2往復して撮影する。いきなりKVが現れたことにより、バグア軍は統制が乱れていた。そこで、急降下する高々度撮影班。
真上から見たとき、奇妙な何かが目に入った。手を止めた作業用ワーム以外に、工場ロボットと、資材運搬‥‥中央に円形台座と奇妙なオブジェが3本建っている‥‥まるで大きなコンロの台だった。
「霧島さん、むちゃやっちゃだめだってばよ!」
九郎が叫ぶ。亜夜はより奧を撮影する為、急降下する。愛輝は彼についていく。
「無茶なことを援護する」
愛輝は牽制射撃で、HWを寄せ付けないようにするが、ワーム達が増えていった。まだ、奧が見えない。一気に亀や、HWの砲撃が穴の上を交錯する。隙間がない!
「超伝導アクチュエータ、ピンポイントフィールド起動!!」
九郎が雷電の機動力をアップさせ、直撃を回避する。全身を襲う痛みはピンポイントフィールドで和らいでいた。電子機器にもあまりダメージはこなかった。
「ピンポイントフィールド発動!」
亜夜もピンポイントフィールドをはって、コクピットの直撃を免れる。しかし、攻撃の衝撃で揺さぶられては吐血する。
「『緋閃』‥‥くっ‥‥持ちこたえてくれっ! ‥‥よしっ! 撮れた!」
ベストショットを取ったと確信し、彼は一気に急上昇するっ! 全身が熱い。プロトン砲の雨霰をくらったが、何とか耐えたのだ。
「俺が九郎を。愛輝は亜夜をたのむ!」
「了解!」
「撮影程度OKだ、離脱する!」
南雲と九郎、亜夜と愛輝のロッテが自然と成り立ち、九郎のジガンが照明銃で任務完了撤収合図を送る。そして散開離脱を試みるため、ルナが穴の上から尾を引くように煙幕をはった。その間に全員ブーストで、その煙幕の中を跳び続ける。乱射される砲撃を河合ながら魔女の釜から離れていった。
「こっちなのですよー!」
一方、地上班と生身班が一旦合流する場所を知らせるために、照明銃を撃つヨグ。
「ヨグ君! 大丈夫?」
和奏と抹竹のシュテルンが後退しながら近づき、抹竹が煙幕をはって、2人でヨグと礼二を回収した。
「さて、シュテルンの本領発揮っ! 垂直離陸だよっ!」
12枚の翼は四連バーニアをふかし、空中で変形飛行機状態となって、ブーストにて離脱する。バグアは煙幕で見えないために、この2機のシュテルンを逃してしまった。
空戦から離脱しようとするのKV達は、煙幕から出ると雲の中に隠れて飛ぶ。それでも、逃さないと必死にプロトン砲を撃ってくるHW達。被弾しながらも必死に逃げる。
「ええい、しつこい‥‥ぐはっ!」
南雲のディアブロがHWのミサイルの直撃を受けてしまう。しかし未だ飛んで逃げる。彼の口は血でいっぱいだ。
「逃がすつもりがないらしいっ!」
愛輝が砲撃をかわすも、被弾してコクピット内で体が揺れた。しかし、ある距離までブーストで逃げると、目の前にはリッジウェイをはじめ、UPC軍が見えてきた。HWはそこで諦めて退却する。
「援軍っ!」
「逃げ切った‥‥助かったのか?」
「データを持って帰らないと‥‥」
南雲と亜夜は、合流ポイントに不時着する。コクピットを開けると2人とも気を失っており、担架で運ばれた。機体は殆どボロボロで、撃墜寸前だった。これは奇跡としか言いようがない。おそらく、2人は重体だろう。兵から聴けば、シュテルン2機も別地点にて照明弾で知らせてきたので回収に向かっている。怪我はしているが、無事だという。
中佐が呼んでいると言う話が来ると、別地点で治療を受けている和奏が、
「中佐のおじさんがっ!」
と、目を輝かせた。
●中佐と少女
会いたい人気持ちを抑えられず、怪我の痛さを我慢して基地内を走る少女。
「中佐のおじさん!」
和奏が、いきなり会議室で待っていたミハイルに抱きついた。
「まったく‥‥。まだ任務中だろうが‥‥」
中佐は彼女の怪我に気を遣いながら彼女のハグを剥がす。
「えへへ、僕頑張ったんだ!」
「‥‥危なっかしい‥‥。だが‥‥よくやったな」
頭を撫でられた、和奏はにっこり本当に嬉しそうに笑うのであった。