●リプレイ本文
●集合場所にて
高速移動艇搭乗口でフィアナ・ローデン(gz0006)が待っていた。
「フィアナちゃん、にゃ〜☆」
「きゃ! アヤカちゃん!? もうビックリさせないで」
アヤカ(
ga4624)がいつもの挨拶でフィアナに抱きつく。猫なで声をあげていた。
「‥‥こんにちは、フィアナさん。‥‥成功させましょうね‥‥」
「横断ライヴの実現、おめでとうございます。西海岸へ辿り着けるよう、私も全力でサポートさせて貰いますね!」
ベル(
ga0924)と水上・未早(
ga0049)がやってくる。鞄の中はかなりいっぱいのようだ。勿論ベルが持っている。2人は恋人同士である。
「? その荷物は」
「‥‥今回の対策用です‥‥守り通して見せます」
親友の誓いをしているベルは真面目にフィアナに言う。フィアナは微笑んでありがとうと返事した。
「えーっと、搭乗口はっと‥‥」
20m先で着物姿の銀髪の男性がキョロキョロしている。水鏡・シメイ(
ga0523)だ。
「‥‥シメイさん又迷ってるみたいです‥‥」
「あ、マイアさんが見つけて引っ張ってきてくれてますね」
未早が苦笑しながら、その風景を見ていた。
「こんにちは、フィアナ。絶対に成功させような」
皐月・B・マイア(
ga5514)がシメイの手を引っ張って、やってきた。
「こんにちはフィアナさん。フィアナさんを応援する会会長(自称)としてお手伝いしますよ」
シメイが微笑みながら、挨拶をした。
「こんにちは、小森バウトです。よろしくお願いします」
笑みが一寸怖い、元・アーティストの小森バウト(
ga4700)もやってきた。
「いよいよフィアナの念願だったツアーだね! ‥‥成功するようにキッチリ手伝わせて貰うから、改めてよろしくっ!」
葵 コハル(
ga3897)がフィアナを見つけて駆け寄ってくる。
後ろに嵐 一人(
gb1968)と風雪 時雨(
gb3678)が付いてきていた。所属事務所が一緒なので、不思議ではない。
「よろしくお願いします」
「よろしくだ。前のチャリティでは世話になったな」
と、挨拶した。
出発5分前。
「もう1人来ないですね」
シメイが数を数え、確認すると傭兵1人がいない。Mk(
ga8785)だった。
「あ、彼じゃない?」
コハルが30mの人混みの中で、軍用歩兵外套を腕に持って、汗だくになって走ってくる男を見つける。彼がMkだ。
「ど、どうも、遅れて‥‥申し訳な‥‥いで‥‥す」
「おちついて、はい水」
フィアナが水筒から水を注ぎ、Mkに渡した。彼は一気に飲み干して、落ち着かせる。
「色々厄介ごとで、準備があまり出来なくて申し訳ないです‥‥はぁはぁ」
どうも何かあったらしい。
「よし、揃ったことだ。いこう!」
コハルが腕を挙げた。
高速移動艇の窓から空を眺めながらマイアが呟く。
「これが‥‥フィアナのやりたかった事。なら私は‥‥」
決意を固めていた。
親友のために、命を賭ける想いを。
●異様な光景
一行は機材や荷物をトラックや車に詰め込む作業をデトロイトの事務所で終え、ライヴのセッティング前に、被害がある区域、つまりライヴ会場になる避難施設の広場に向かった。そこで、彼らは異様な光景をみた。
「なんなんだ? これは?」
他の能力者が巨大ハエタタキを持って、防蜂服を纏って走り回っているのだ。振り下ろされた巨大ハエタタキから一瞬赤い花火らしいものが飛ぶと、地面に何かが落ちた。それが蜂だと分かるのは時間がかからない。
「いってー!」
「解毒と応急手当を!」
刺された人もいるようだ。
防蜂服は全く意味を成さないようだ。相手はキメラだからかもしれない。
確かにぶんぶん蜂が飛んでいる。種類はかなりあるようだ。一匹スズメバチが飛んできたので最初から巨大ハエタタキを持っていたマイアが覚醒し、思いっきり叩く。赤い火花はフォース・フィールドだと分かった(極小なのでそう見えるのだ)。其れをアヤカがバトルハタキで叩いた。静電気が起こった事に起こるような音がした。確認すると確かに極めた特有の異形化の姿だ。
「まず一匹、ニャ」
「現地の人が『巨大ハエタタキお願いします』って連絡してきたのは、こういう事か‥‥」
唖然とするが納得するマイアだった。
「さて、作戦を練ってから、蜂退治をしましょう」
時雨が、地図を広げて場所の広さ、状況を把握することにする。
「済みません、私どうしても手に入れられなかったので‥‥ハエタタキ」
シメイが支給品のくじ運が悪いと嘆いた。
「‥‥俺が貸します、シメイさん」
「ありがとうございます」
ベルがシメイに巨大ハエタタキを渡す。
「あ、巨大ハリセン持ってきてなかった‥‥」
ここで、うっかり自分用の叩く武器を持ってきてなかったために、項垂れた。
「うっかりベルシューニャー」
アヤカが苦笑する。
「ああ、困った。現地調達しようとしたんだが、無線機も双眼鏡も在庫がないって」
Mk忙しいあまりに双眼鏡と無線機を買い忘れてしまったらしい。デトロイトで貸し出し申請したが、在庫が無いと断られたようだった。
「なら、ベルと一緒と言うことでいいんじゃない? 班分け的に。ベルのサポートで」
コハルが提案する。狙撃手には広範囲を見渡すためのサポートが付く2人一組が普通だ。
「‥‥俺は別に構いません‥‥」
ベルが頷く。蜂を叩く物が足りないので、シメイとアヤカとコハル、未早と一人、バウト、しばらくはマイアと時雨となる。 周囲警戒をベルとMkのコンビに必然的になる。
「‥‥狙い撃つときの周辺警戒をお願いします」
「わかった」
考え込む時雨に、ベルと未早が気付いて、どうしたのかと訊ねると。
「デスペアについて、詳しく教えてくれませんか?」
「‥‥そうですね。未早さんには教えていましたが、皆さんにも知って書いて貰うべきかと‥‥」
未早は既にベルからデスペアのことを聞いているが、マイアとベルが全員に話した。過去の失踪事件の黒幕であること、ボスはアキラと名乗ったこと、過去にもフィアナが狙われたことなどを。
「そうか、失踪事件などにも関わっているのか‥‥デスペア。許さない」
怒りがこみ上げてくる。それは、士気が高まる良い方向へ向かっていた。必ず守ると。
「必ず、命に代えても‥‥守る」
「あたしも同じ気持ちだ。頑張ろう」
「うん」
マイアの言葉に、コハルが同意する。
「しかし、皆さん冷静になって考えてみましょう。失踪能力者が洗脳されて‥‥という事件があったとベルさんに聞いたとき思ったのですが‥‥」
時雨が考えている。
「推察するに、今回は爆弾で混乱させた後、攫うのではないでしょうか?」
その言葉に、皆が固まった。
「接触してきたこともあるから‥‥それは間違ってないね」
マイアが考え込む。
「聞き込みもしながら、蜂退治をしましょう」
シメイが提案した。
蜂はどこからでているのか分からない。もしかしたら巣箱が置かれて、其処からではないかという一人の推理でベルとMk探し始める。
『‥‥ありました。仮設住宅の裏側などに‥‥』
ベルの無線からの声。
『ビンゴだな、こっちも見つけた』
一人が答えた。
『いえ、中は蜂の巣のような‥‥中にぶんぶん言ってます‥‥』
『一気に超機械で蒸し焼きが良いな。箱を対象として‥‥』
時限式に開くような箱だったため、時間差で蜂が飛び出すのだろう。
仮設住宅街は日本よりは広いのだが、幅が10mも満たない狭い物だった。その周りでぶんぶん蜂が飛ぶ。危険きわまりない。バウトが殺虫剤で飛んでいる蜂の判別を試みるが、素早いため、当たっているか分からなかった。
「此は見分けがつきませんねぇ」
「叩いた方がはやいね!」
コハルは、ハエタタキ班がたたき落とした蜂を蛍火で突き殺す。
いきなり蜂キメラがバウトの頭に突撃して、ゴスッと鈍い音がした。
「いったああ! こ、この!」
彼は朦朧とする中で巨大ハエタタキをぶんぶん振り回したが。蜂は空に昇る。アヤカもバトルハタキで蠅を追っ払うようにして、体勢を整え始める。
「前に叩こうとしたけど、やっぱり巨大ハエタタキじゃないと無理なのニャ!」
シメイが、ベルから借りた巨大ハエタタキで蜂を落とし、アヤカが始末する。たが、シメイは別の蜂の突進を頭にもろにくらった。頭を抱えるシメイ。暗視スコープのヘルメット部分が凹んでいる。コハルが駆け寄って、蛍火での峰で当てようとするが、全然当たらない。
「ショットガンを撃ちたかったけどこれだけ密集しているところだとっ使えないしっ!」
と、毒吐く。
アヤカが、シメイから巨大ハエタタキを奪うように持って、バッターの構えにはいる。蜂が迫ってきた。
「トドメは必ず刺すからフルスイングでバチコーン! といっちゃえー!」
コハルが応援するなか。
「いっくにゃー! にゃっぽんあしだほーニャ!」
フルスイングで蜂をホームラン。落ちた蜂を追いかけたコハルが突き殺した。2人は、サムズアップ。
マイアと時雨は微妙な雰囲気だった。マイアもフィアナのことが好きで、時雨はフィアナに告白をしている。彼女にとって、彼に対応するのに戸惑いがあった。しかし乗り越えなくては、と。
「よろしく‥‥」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「フィアナのこと守ろう」
「え、は、はい」
仕事に私情を挟むことなく聞き込みをする。しかし、避難所には誰が何処の出身か分からないそうだ。コミュニティ目的で集会を行うこともあるが、不参加の人もいる。
聞き込みの中でも蠅のように蜂が飛んで襲いかかってきた。
「うわあ! 蜂!」
話していた避難民が恐怖して逃げるところ、マイアがハエタタキをぶんぶん振り回した。
「くっ! このっ! 逃げるな!」
バチン。
直ぐに、時雨が超機械「ST−505」の電磁波で焼き殺す。
「やはり時限式に箱には蜂か何かを‥‥」
『大変です、爆弾も発見しました!』
シメイと未早が発見したようだ。
●ライヴの騒動
夕方になった。
蜂の駆除も箱の回収処分も終わり、安全確認をしたが、まだ『時限催眠』という不安が残っている。バウトの「刺された人が洗脳されるのでは」と推理するが、蜂の強化毒だったので、可能性はない。
全員でセッティングをするが、ストリートライヴ程度で良いというのでそれほど大きな設備はは無く、本当に朝礼台6つ分で始めるだけである。
ベルとMkは一番見晴らしの良い場所に陣取り、残った蜂の迎撃に備える。Mkは双眼鏡を借りて周囲をみる。未早はステージの裏からスナイパーライフルを構え物陰で構えている。シメイが弓を持っている。コハルが会場内警備にあたって目を光らせていた。
一人とマイアがギターを担当、一人は直ぐにリンドヴルムに乗れるように朝礼台の後ろに置いている、アヤカがバックコーラスとして参加。バウトには時雨と同じように周辺警備に当たって貰っている。
「横断ツアーの始まりです。デトロイトの皆さん! こんばんは!」
ライヴが始めると、明るい曲から静かな曲へと様々に歌うフィアナ。マイアが先に行い、そのあとに一人が変わるが最後の歌だけはマイアが代わった。
澄み渡る空に翼を広げ
大空を飛ぶ鳥よ
キミは何処へ行くの
遠い、先にあるものを目指して
止まり木のない海
過ぎ去る嵐
苦難を乗り越え、ほら島が見える
希望を持って
島が見える 希望の島
未来が見える 明るい未来
キミは出来るよ 希望と勇気で
明るい未来を切り開く
『Hope』で締めくくった短いライヴは終了した。
「皆さん聴いてくださってありがとう。これから私は、横断します。皆さんが元気になるように」
「「フィアナ! フィアナ!」」
歓声が上がる。
スタッフとコハルとで囲いを作りながら、フィアナは客と交流をはじめた。サインや握手をしていくなかで、賑わいはじめた。色々会話もしていく。ステージに上がっていた3人もコハルとともに彼女の隣に立っていた。しかし、自然に、メンバーとして。
「‥‥あれは!?」
不審な動きをする人物をベルが発見した。そわそわしているようで落ち着きがない。視界的にスコープ越しから見るベルがわかる。Mkは急いでコハル達に通達。腰にある銃に手を添えた。
「ありがとう、ありがとう。握手ですか‥‥? きゃぁ!」
握手した人間が、フィアナを引っ張る。そして手にナイフを持っている!
「「させない(ニャ!)」」
マイアとアヤカが直ぐに動いた。
フィアナは叫びながらも、踏ん張って、押さえ込まれないようにした。マイアが「左拳」で男を殴り、アヤカがフィアナを抱いて瞬速縮地で離脱する。
それに乗してか、一回り大きい蜂がフィアナに向かっていく! しかし未早とベル、シメイが見事な狙撃にて蜂を始末した。
「なんだ? なんだ!?」
『えーっと、ただいまのは熱狂的ファンの行動による騒ぎです、なんの問題ありません』
コハルがマイクを持ってニコリと笑いながら説明した。
「はいはい、落ち着いてね」
バウトや一人が観客を安心させ奔走する。シメイが駆け出して失神している男を運び出した。
時雨とマイアが急いでフィアナの所に向かった。
「大丈夫か! フィアナ!」
「大丈夫‥‥びっくりしちゃった♪ アヤカちゃんありがとう」
「にゃははは」
フィアナはマイアに笑顔で答えた。アヤカの頭を撫でている。マイアは安堵した。
「無事で良かったです‥‥」
時雨も安堵して深いため息を吐いた。
「あ、さて、元の場所に戻るニャ〜」
「うん、お詫びしないとね」
4人はステージに戻った。
●出発
フィアナにも怪我はない。ただ、催眠をかけられていた者達は、全く記憶がないと言う事だった。
「たしか、俺、酒飲んでたんだけどさ」
記憶もあやふやだったらしい。
ベルが警戒していた不審な行動を取っていた人物の何名かは、その場で痙攣して倒れていた。時限催眠が完全じゃなく、副作用を起こしていると言う可能性もある。ただ、その前後の記憶が無いということは、今後、このツアーの中、全てを疑わせるというデスペアのやり方に怒りを感じていた。
それでも、フィアナは旅立つ。今度は競合地区も横切る内陸部を走るのだ。必ず守らなければならない。
出発の前夜は時雨が食事を作り、事件のことは話さずライヴが良かったことを話し込んでいた。時雨だけは、その後夜の散歩に出かけ、一人呟く。
「夢見たものは、一つの幸福‥‥ですか」
朝には大量の車が横一列に並びながら走る。土煙を上げながらデトロイトを後にした。
「みなさん、行ってきます!」
フィアナは出発する。希望を届けるために‥‥。
(「シメイさんには「自称」から本業になりますかと打診しようかな?」)
景色を眺めながら、彼女は色々考えていた。