●リプレイ本文
●守り通すため
キメラの群れからアキラの声が聞こえる。
『フィアナをこちらに渡せば危害は加えない』と。
「そんな交渉、飲めるわけありません」
水鏡・シメイ(
ga0523)が洋弓「アルファル」に弾頭矢をつがえて、バラバラに走る馬車キメラに向ける。しかし、舗装が剥げた道路の段差の衝撃で上手く狙いが定まらない。
「運転任せました。可能な限りそのまま走ってください」
「了解! たのむよ、フィアナの友達!」
水上・未早(
ga0049)はキャンピングカーの運転手にそう言って、反対の窓をみる、予想通り数体馬車キメラがこっちにも来ている。貨物車両に向かっているようだ。
「皆さん。敵は囲い込もうとしています」
キャンピングカー設置の無線で各車両に通達した。
「貨物車両のC班了解」
応答したのは小森バウト(
ga4700)である。
「では、レディを守るために、私は上にいきますか」
鈴葉・シロウ(
ga4772)は白熊頭部のまま、軽やかにキャンピングカーの屋根に登った。
「おっとっと。何処にアキラはいるのですかね? とっととご退場願いたい物です」
いつもはツインブレイドだが、アサルトライフルを持って、弾頭弾で近くに迫ってくる馬車キメラを撃ち抜く。車輪部分が破損したが、生体部分の足が健在で、一寸やそっとでは転倒は見込めないようだ。
「ふむ、なかなか問題があります」
自分たちも疲弊している為、長期戦は至難となる。余裕を見せていても焦りだけは誰にでもある。嵐 一人(
gb1968)がバハムートを装着して併走し、グロリア改で後方のキメラを撃つ。
「回り込ませるか」
群れの一部は、一人に気が向き彼に突撃しようとする。そこを、ベルがフォルトゥナ・マヨールーと拳銃「黒猫」で車輪と足を破壊させ、夜明・暁(
ga9047)がほぼ同じ位置から、長弓「桜花」で脳天を撃ち抜く。
「‥‥未早さん、こちらは任せてください」
「はい、ベルさん」
別車両のベル(
ga0924)が無線で未早に伝えると、弾倉を込め直しキメラを撃つ。未早も別の位置に移動し、シロウのサポートをするために、スナイパーライフルを構えて、キメラの足を狙う。
「では、露払いと行きましょう。あ、そうでした。無事にロスに到着したら返事を聞かせて下さい」
風雪 時雨(
gb3678)がキャンピングカーから降りる前に、フィアナ・ローデン(gz0020)に言った。
「え? うえ!? ‥‥えっとはい‥‥」
いきなりなので、フィアナは戸惑うだけだ。
「それは、おもいっきり死亡フラグニャ!」
「確かに、思いっきりフラグですね、貴方才能ありますよ〜」
「そんなところで告白の再確認? やるねぇ」
貨物班からのアヤカ(
ga4624)の無線の声と、屋根からのシロウの声、フィアナを守るために側にいた葵 コハル(
ga3897)の声が見事にはもる。
「そんなもの、思いっきりなぎ払いますよ」
彼は微笑み走行中の車から上手く着地し、そこからバイク変形する。
「自分がキャンピングカーの盾になります!」
「おい! 無茶は禁物だって!」
「大丈夫です、信じていますから!」
時雨はキメラが接近することを防ぐために、周りを走り通すようだ。
「ちぃ!」
シロウが舌打ちして、撃ち続ける。時には貫通弾でキメラを仕留める。
コハルは、アヤカやシメイにバウトに断りをいれて、フィアナを守っていた。
「まったく、こういう場合お出迎えは白馬の王子様でしょ!」
コハルは怒っていた。
怖がっているフィアナを、コハルは微笑んで「大丈夫だから」と安心させる。周りでは銃撃戦と、悪路による激しい揺れ。フィアナの折れそうな細い体をコハルは抱きしめていた。
●アキラ
「ほう‥‥そう言うことですか」
三台のキャンピングカーの配置、傭兵の対応行動から、アキラは推測する。
「あの辺ですね‥‥行きなさい」
同じ形の馬車キメラを走らせ、姿を現す。そこで、一気に三頭のキメラが、キャンピングカーに迫ってくる。
「見つけました! アキラです! 4時の方向!」
未早が叫ぶ。反対側担当のベルがどうするか考えると、暁が「行ってください」と言う。嵐ももう一頭の頭を撃ち落とすと、「先にアキラだ」と叫んだ。
「‥‥ありがとう‥‥ございます」
すぐにアキラが来る方向に、一行が銃や弓で撃とうとするも、突進は止まることを知らない。三頭のうち一体が貨物トラックの一台に体当たりした。
「なんてとこニャ!」
この状況で銃器や弓を使うと、車も危険だ。運転するのは一般人である。
「助けに行くニャ!」
「任せました!」
猫耳を立ててアヤカは、貨物車両に瞬速縮地で飛び乗り、更に馬車キメラに飛び移る。バウトも同じ瞬速縮地にて、トラックに飛び移ると、車両の運転手と運転を代わった。
「しっかりつかまって!」
バウトがハンドルを思いっきり切って、幅を開ける。シメイが弓で車輪を撃ち、アヤカが莫邪宝剣で突き刺し、キャンピングカーの屋根にいるシロウがアサルトライフルで仕留めると、馬車キメラが転倒した。アヤカは完全に倒れる前に飛び退き、貨物車両に飛び移った。
キャンピングカーと貨物車両の間が広がる。40mと少しの車間距離だ。機動性の高いビーストマンを引き離した事になる。
「まさか! しまった!」
もう一頭の馬車キメラが、後部のキャンピングカーに体当たりしてきた。シロウが屋根にいる車両である。彼は何とか踏ん張るも、銃を落としてしまった。ベル達が、アキラの乗った馬車キメラを弾頭矢、貫通弾で応酬するのだが、そのキメラの強固なフォースフィールドに弾かれたり、信じられない機動性で避けられたりした。
他のキャンピングカーにも向かうキメラの所を時雨が邪魔していくが、流石に非覚醒では反撃はできない。そのまま突っ込むキメラの大きさは象だ。危険を感知したエミタのAIが時雨を強制覚醒し、リンドヴルムを装着する。それが幸運であり突撃の大ダメージを受けで緩和できた。
「くぅ!」
ごろごろと転がっていく時雨。しかし、何とか受け身をとって立ち上がり、他のキメラにひき殺されないように戦いに挑む事となる。
「また会いましたね、でも、もう二度と会いたくはないですよ」
シロウがツインブレイドの二刀流で構え、刃を回転させる。その相手は、アキラ・デスペアだ。
「‥‥悪あがきをしてますね‥‥ふ」
漆黒のコートにスーツ、赤いネクタイと白い手袋が印象的であった。
「言うことを聞けば命長らえる物を!」
アキラが迫る。
「な?」
その素早さが、「足場の悪い場所じゃないの?」と疑問になるぐらいの速さだった。運良くツインブレイドで受け止めるが、第二撃で横腹の蹴り。利き手でない方のツインブレイドが吹き飛び、キャンピングカーに突き刺さる。
「この!」
シロウのツインブレイドに込めた獣突は、アキラにすんなり避けられる。その隙にアキラに腕を極められて、鈍い音がした。腕を折られた!
「ぐはあ!」
激痛がシロウを襲う。反撃しようとしたが避けられて、アキラが腕を掴むと、そのままキャンピングカーから放り投げ出された。思いっきり地面に激突する。
「ごはぁ」
「シロウさん!」
貨物に移動していた班が追いついて、シロウを救助。あちこち折れているが、命には別状はない。
「ここではないですね」
別のキャンピングカーに飛び移るアキラだが、足下を撃たれる。別車両の屋根にベルが登っていた。
「‥‥この先は行かせない‥‥」
「スナイパー風情が何をいいますか‥‥。君の誓いなど、無意味に等しいですよ?」
「‥‥何を‥‥いいますか!」
「フィアナに負い目がある目じゃないですか? 私は解ります」
「‥‥お前に判ってたまるか‥‥!」
ベルは何かを見られたような、怖気が走る。しかし、既に誓ったことを成し遂げる決意は揺るがない。必ずフィアナを守ると決意した。そして、無茶をちゃんとフォローすると言ってくれた大切な人のためにも。この誓いは必ず果たす! しかし、アキラの強さは並ではなかった。キャンピングカーの屋根は足場が悪いはずなのに、彼はどうして、自由に動けるのか? 不思議でならなかった。
「チートですよ、まったく‥‥」
シロウが、血を吐いて毒づく。
ベルが閃光手榴弾で目を眩ますタイミングも計っていたのだが、向こうもその行動を予測していたようで、その光を避けるために、一度距離をとった。光からは完全に逃れられなかったので、しばらく動けない。
「なかなかやりますね」
しかし、それで諦めてくれる敵ではない。未早とシメイの援護射撃と、ドラグーン二名の援護攻撃で、アキラを足止めする。しかし、あまり効果的なダメージは与えてないようだった。
「私の大事なコートに汚れが。こっちもクリーニング代はあるのですよ。困りますよ‥‥あなた達の血がクリーニング代になるわけがないので」
と、アキラは何ともないというような台詞を言った。
「‥‥化け物か!」
「化け物? あなたも、エミタという装備をつけた化け物ですよ! 進化するなら純正のバグアの元がいいですよ!」
アキラが、ベルにすぐに近づいた。接近されたために、お互いは素手での応酬。しかし、ベルもシロウがどの様に倒されたのか少しは見ることができたので、いつ、間接を極められて折られるかの危険を回避できた。しかし彼の拳や蹴りが、アキラに傷を負わせることはできなく、ベル自身の疲労もあった。
「ぐはっ」
思いっきり腹を蹴られてから、背中に肘、最後に回し蹴りでキャンピングカーから吹き飛ばされた。
地面に激突した鈍い音が、未早の耳にハッキリ聞こえたのだ。
「ベルさん! いやああ」
未早が悲鳴を上げる。
急いで、暁を抱えた一人がベルの場所に向かう。
「命は別状ないですけど‥‥これは急がないと」
すぐに応急手当をする暁。
キメラ達は貨物とキャンピングカー周辺にしかいない。
「一人さんは、助けに行ってください」
「わかった!」
一人がバハムートの装輪走行でキャンピングカーへ戻った。
「見つけました」
窓を破ってアキラが入ってくる。その瞬間にコハルは貫通弾を込めたM92Fを連射する。しかし、狭い車内で、アキラはほとんど避けている。当たったとしてもかすり傷程度だった。
「最後ですかね、あなたが」
コハルはすぐ氷雨と夏落の二刀流に構え直すのだが、アキラに間合いに入られた。
「速すぎ!」
「あなたが遅いだけだ!」
蹴りや拳を、かろうじて小太刀で受け止めていくが、氷雨を蹴り飛ばされて、アキラが宙で掴んだそれをコハルの太股を刺される。
「いたああっ!」
ひるんだ時に追い打ちで拳の連打が、コハルを襲った。それでも、コハルは膝を突かず、フィアナの壁となって、立ちはだかっている。
「きゃああ!」
間近で見た、惨劇にフィアナは、悲鳴を上げる。
(「‥‥このままでは」)
「まだ、落ちぶれた人間にもここまでの意志があるとは‥‥」
そう、感心したときのアキラに隙が見えたとコハルは思った。太股の激痛に意識を失いかけているなかで流し斬りを発動し、アキラの背中をとった。
しかし、
「予測済みです」
回し蹴り。備え付けのソファにコハルが吹き飛ばされる。
「‥‥コハル! コハル!」
フィアナが叫ぶ。しかし、コハルはうめき声でしか答えられない。
「さて、愛するフィアナ。私と行きましょう」
「いやあ!」
周りが見えていないフィアナを担いで、近くに移動しているキメラに乗ることはたやすかった。
「フィアナさんが!」
「急いで!」
車で急いで負う一行。しかし、キメラの方が早い。
「お前に言っておくことがある!」
と、一人の声。
止まってしまったアキラの目の前が光に包まれた。
「くっ! 閃光手榴弾か?」
アキラが目を覆う。その隙に、試作型機械剣に持ち替えたバハムートの嵐とリンドヴルムの時雨がキメラの上に竜の翼で飛び移り、フィアナを取り返そうとする。
「こしゃくな!」
奪い合いが続く中で、AUKVの装甲を破壊されるほどのアキラの蹴りと拳で、ドラグーン2人はぼろぼろになる。装甲や盾で防ごうとしても、弾かれてしまった。しかし、彼らは諦めていなかった。一人の試作型機械剣の刃が、アキラをとらえる。その隙に時雨がしっかり、フィアナを取り戻した。アキラが更に2人に蹴りで頭を狙う。
「お前が欲しがるフィアナはな、お前らに負けないよう歌ってるんだ。もしフィアナを連れて行ってもそこに『お前の欲しいフィアナ』は居ないし、フィアナの歌もない。歌ってのはハートで奏でるモンだ! そしてフィアナのハートはお前らに負けたりはしないさ!」
一人がアキラに言うと、
「若造にいわれたくないですね!」
苦痛に耐えながらも、アキラが渾身の力を込めて、一人の胴に突きをいれ、時雨を蹴り上げて、吹き飛ばす。
「フィアナ!?」
アキラはそこでフィアナが奪い去られていた事を知る。彼は呆然としたが、遠くから車などの音や銃声が聞こえると我に返った。
「‥‥っ!? 私が、私が失敗したと!」
その車はロス方向から援軍だ。
「‥‥おそいぞ、騎馬隊」
意識が朦朧としているシロウがつぶやく。
「間に合ったのかニャ‥‥?」
銃を構えたままのアヤカが、不安そうに言う。
アキラは、全員を睨む‥‥、
「今度会うときは‥‥トリプル・イーグルとして、殺すっ!」
アキラは殺気を込めた台詞を残し、馬車キメラを高速移動させて、別方向へ去っていった。
一行は援軍と共に残っている馬車キメラを撃破していった。
●旅の終わりとこれからの始まり
フィアナが目を覚ます。目の前には傷だらけで、覚醒が解けた時雨だ。
「あたしは‥‥」
「無事に守り通しました‥‥よかった、怪我一つ無くて」
「‥‥コハルは? みんなは、ねえ?」
「必死に戦いながら、自分たちを呼ぶために体を張ってくれましたよ。命に別状は‥‥ごほっ」
咳き込むとフィアナはあわて、彼の止血をする。
「時雨さん‥‥っ。無茶して‥‥どうして、あたしを‥‥」
泣きそうな顔をするフィアナに時雨が優しく頬を撫でた。
「好きだからです。愛してます‥‥だから、聞かせてください」
沈黙。
すると、時雨の唇に、柔らかいものが重なった。彼女の唇だった。
「‥‥感謝と、その気持ちです。あたし、貴方の思いを受け止めます‥‥」
「よかった‥‥」
時雨は安堵し、気を失った。
フィアナはあわてずに、彼を抱きしめていた。
無事にロスの避難所にたどり着いたが、ベル、コハル、シロウ、一人、時雨は、一命を取り留めるが入院を余儀なくされる。
幸運にも、本当に幸運であるが、フィアナは無傷。同乗していたスタッフも無傷だった。
避難所内にある、入院施設に、フィアナが向かう。個室という、都合という物はない。
「みんなありがとう! ロスまで無事たどり着けました!」
フィアナが笑顔で5人を見舞う。
フィアナの横断ツアーは成功したのであった。