●リプレイ本文
●人手が足りない。
ロサンゼルスに聳える橋頭堡。元々あった司令塔の破壊がハッキリと残っており、その周辺のステアーやHWの攻撃でかなり穴が開いていた。北中央軍リッジウェイ中隊が足組を作り、他の重機が走り回るところをみている仮染 勇輝(
gb1239)がフェニックスのコクピット越しから言った。
「これはひどいな」
建設工事の騒がしい音と、リッジウェイが動く機械音が、先にある『何か』の為に急ピッチに復旧作業を行っている。『何か』といえば、そろそろ大がかりな大規模があるという噂だ。
『そこもたもたしない! てきぱき働け、時間がないぞ!』
ジェームス・ブレスト(gz0047)の声がスピーカーから聞こえる。
「工事の現場監督なんてやったことねぇよ」
と、ぼやいているが、実際戦ってばかりで建設工事の専門知識がほとんど無い。そのため近くにそうした専門家も監督をつけて、指揮を執っているのだ。
「大変のようだな。ジェームスは」
榊兵衛(
ga0388)が苦笑していた。
「後は人海戦術でちゃっちゃと仕上げちゃおうよ。ここまでくればもう少しだしね! いっちょ気合入れて働こ!」
新条 拓那(
ga1294)が腕まくりして課程工具セットとアルティメットフライパンをもって、“黒子”アルヴァイム(
ga5051)の考えた行動計画書を見ながらどうしようと考える。
「橋頭堡の再建か‥‥中隊規模で当たっても手が足りないとは、相当に大変そうだな」
リッジに乗る白鐘剣一郎(
ga0184)やヨネモトタケシ(
gb0843)、兵衛もKV用土木工事兵装を担ぎながら、背中に生身でする大工工事の傭兵達を乗せて動いていた。
「ヒョウエ。私はここでいいですわ」
「そうか。わかった」
途中、医療テントが見えたので、兵衛はクラリッサ・メディスン(
ga0853)をおろしてあげた。刃金 仁(
ga3052)や、アーク・ウイング(
gb4432)や炊き出し専門のクロスエリア(
gb0356)、百地・悠季(
ga8270)、も同時に降りる。
「俺自身鈍っちゃいないか不安ではあるが、大工のノウハウはあるぜ」
マックス・ウォーレン(
gb5891)の経験はここぞ活躍するだろう。日雇いでも大がかりなところだと臨時宿泊所で泊まり込むものだ。ダム建設などにも行ったこともあるだろう。
「まずは、基礎を固め、足場作りからなのか‥‥」
リッジの作業用腕が生身用の足場やクレーン造りに励む。近くでオーラーオーライと指示する人に従い動かしていくのだ。上から見ていると、リッジウェイの動きはちょこまかとしており、可愛い。
勇輝や篠崎 公司(
ga2413)、クロスフィールド(
ga7029)は、既に上空を飛び立ち、警備に当たっていた。300m先の空には何もなく、青い海と青い空がずっと続いていた。ウーフーのレドームから入る情報も鳥の群れぐらいであった。
「このまま何もなければいいけどな」
不安があった。
美環 響(
gb2863)と美環 玲(
gb5471)、佐藤 潤(
gb5555)、橘 利亜(
gb6764)は生身で建築作業を手伝うことに。
「戦い後の場所はどこも変わりませんね。どこも荒廃していて物寂しい‥‥。唐突に命を奪われた人たちよ、汝らの魂に幸いあれ」
響がレインボーローズを空の手から出し、放り投げる。
しかし、それを近くにいた、利亜が拾う。
「手品上手いな。でも、先に仕事しよう」
と、彼女は彼に青薔薇を渡した。
「‥‥そうですね。感傷に浸るのはこのぐらいが良いですね」
彼は微笑み返して、軽い足取りで進む。
「そこの同じ奇術師のような人――。その格好じゃ汚れるから軍の作業着化してやるよ」
響と玲は通りすがりの大工さんに言われた。
ツナギかとび職用のあのでかいズボンを借りられると言うことだ。
「ところで、2人は似ていますね。兄妹? 姉弟?」
「それは秘密です♪」
潤の問いに響は、ウィンクして返答した。
「はあ」
●一日目
リッジウェイの前には人では絶対扱えない、大きな板がある。鉄板と木板の合成のようだが。
「大きなこの板をどうしろと?」
兵衛が、その板を持ち上げてみる。タケシが反対側を持って見ると、かなりの距離の壁になるようだ。
『それを貼り付けると言うことだと』
マックスが拡声器で教えてくれた。
「なるほどリッジが必要な意味が分かります」
タケシが納得した。
しかしそのまま貼り付けても意味はなく、まずは、人々が、土台と引っかけなどを作るわけだ。リッジはしばらく重機として使われる。
「けが人は少ないようですね」
「しかし、油断は禁物だよね」
クラリッサは医療テントでけが人を待っていたがこない。アークも一寸あくびがでそうになった。
「ワシがのこっとる。たぶん熱射病で倒れるやつもいるだろう。炊き出し行ってこい」
「アーちゃんものこります」
「ありがとう。では、失礼しますね」
クラリッサがテントからでて炊き出しのある、別のテントへ向かっていった。
「だって、今こそ、アルティメットフライパンを使う時じゃない!!」
拳を握りしめて、片手にはアルティメットフライパンを握る、クロスエリア。
「中の具合はって、おおおなかなか」
しかし、目の前にあったのは、良く見かける大きな鍋。そりゃ、2〜300人とかの食事を一気に作るのだからあって当然。しかし、軍用レーションも山ほど積まれている。おそらくどっちを食べたいかの選択式、もしくはシフト的に炊き出しには間に合わない人向けに用意しているのだろう。もっとも彼女たちが作るのは、軍と言うより、傭兵達の分が主流になるのだが。
「使う意味無いの?!」
一瞬、ショックを隠しきれない彼女だが、諦めては居ない。
「夜食に使えるかもよ、フライパン。あと、何かにも」
悠季が慰めてくれた。彼女の手元にはレーション。
ああ、なるほど。とクロスエリアは思った。
「レトルト食品みたいなのは熱するには使えるね」
いつ頃担当をするかをきっかり決めて、早速調理開始。
炒め物と、麺類。アメリカ人は麺類メインってスパゲティあたりかな? まずはそっちで。
「ガーリックや辛子効かせた方が良いかな?」
「重労働ですものね。塩も多めに」
スタミナ系麺類の完成であった。スパゲティだった。
「どぉっせぇぇぇい! ってなもんで。いやー、これだけの人数のご飯は流石の量だね。作ってるだけでお腹一杯になってくるや」
拓那が苦笑する。しかし食べよう。そうしないと、絶対倒れる。
昼休みのサイレンが鳴り、作業員達がやってくる。
「こりゃうめえな! おかわり」
矢張り、できあがりの熱々が好評であった。
警備の方でも、運良く敵機が来ることはなかったようで、無事に終わる。
夕食は、クラリッサと玲が担当し、悠季の案通りに、献立を作った。
ジェームスが、橋頭堡の臨時司令室で外を見ていた。
「まだ大丈夫か。気づいているはずだよな、絶対――」
軍用望遠鏡で南を眺める。その先には、メキシコがあるのだ。
リッジの整備を終えた剣一郎がやってくる。
「まだ寝ないのか?」
「ああ」
前もって挨拶は済ましている、傭兵達とジェームス。
「‥‥少し体を動かしてストレスの発散でもするか? 俺で良ければ相手をするが」
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。俺、戦い専門だからな!」
丁度見張りの交代が来る。交代後、北側の空き地にて、エアーソフト剣を使った軽い手合わせをする。ジェームスの気は、実践で培った野性的な物だと、剣一郎は感じた。それでも、『出来る』と判るが、見切ることが出来ない。お互い何度も一本の取り合いだ(剣道のルールではなく、体の何処でも当たれば一本というルールを使用する)。覚醒なしでも思いっきり戦って、お互い疲れ果てて地面に大の字になって寝ころんだ。
「ガキの頃に遊んだ気分で気持ちが良い。すっきりした!」
「そうか。ジェームスのことだからな」
「どういうことだ?」
「ガキ大将みたいな」
「おいおい。俺は真面目にやっていたぜ。優等生って訳じゃねぇけどな」
そんな冗談を言いながら、笑いあった。
夜の星々がみえる。しかし、大きな赤い星が半月のように見えていた。
「あの赤い星は鬱陶しいな」
ジェームスが文句をたれると、
「まったくだ、絶対たたき落としてみせる。俺ら人間の手で」
剣一郎がそう答えた。
「ああ、期待しているぜ」
●二日目〜三日目
オートミールとハムエッグやソーセージを焼いた物を朝食に、また一日が始まった。
リッジの騒音、喧噪、土埃が舞い、マスクをつけて皆は頑張っていく。
それほど暑くはないが、直射が激しい日中にも作業は続く。大きな事故やトラブルもなく、ただただ時間が過ぎていく。
「こっち、人が足りないから」
「こっちもだよ!」
「コンクリ固まったか?」
「うおお、風でシートがっ!」
一瞬突風が吹いて、混乱が起こったがけが人は居なかった。
トラックが通る補給路に、キメラが邪魔をしている情報を届けに勇輝やクロスフィールド達が戻ってきた。すぐにジェームスが対応し、偵察隊を向かわせてから、別の傭兵が向かうことになった。もし、KVで撃退したら、道路自体が破壊されてしまうためである。
「すぐの対処サンキュ」
ジェームスは、警備班に礼を言った。
どうも、バグアはこの橋頭堡再建はあまり大きな事だと思っていないようである。しかし、放置していることが不気味であるため気が抜けない。
「無事で終わってくれ」
勇輝はフェニックスに乗りながら、つぶやく。遠くの方で別の傭兵達のKVが飛んでいく。別方面で何かあるようだった。
「ところでアルは?」
「夜勤でねてるとか?」
「ベッドにいなかったわ」
悠季はあるが居ないので不安になる。
「無茶はしてないよね?」
「もしかして、黒子のままだから陰に隠れて居るんじゃ? 今はアルヴァイムの警備担当時間じゃないし」
「あたしに黙っていなくなることはないけど、こうも気配を消されると‥‥」
今回、黒子は本当に裏方のようで、居る気配はするけれどお子にいるか判らなかった。
やってきた傭兵達ではなく、別の区域の工事の連中が、何か騒いでいた。
「喧嘩でしょうか? ジェームス大尉」
「なんだろうな」
ヨネモトが休憩中にジェームスに寄って尋ねた。無線で尋ねてみる。
「どうも鉄板などが熱くなって、もてないからどっちかがどうからしいです。風でカバーシートが外れたからとか」
「‥‥水を全体にぶっかけてやれ。リッジで」
リッジの有効活用。便利な移動ポンプ機。
「解りました。では、調整はしてやりましょう」
タケシがリッジに乗り込み、思いっきりホースから水を出さず、シャワーのように全体を浴びせていく。その光景に閃いた、作業員達は、シャワーを浴びて、歓声を上げていた。
「うひゃあ! きもちいい!」
『これはサービスだ。終わったら、とっとと励むんだぞ!』
ジェームスがマイクで言った。
そうしていると、別の方からもシャワーを求められる。また埃を抑えるためには丁度良い。
それでも倒れる人はいるが(傭兵達にはまだ居ない)、医療班に3人もいて、ほぼ常駐でいる仁が大いに活躍していた。
「動けるなら動ける範囲で仕事をせい、時間が無いからの」
テントにある治療器具や消毒液は十分にあるため、彼はそれを使って、倒れた人を治療する。
「お前ちゃんと飯食ったか? 食ってねぇ? いかんだろ」
栄養剤の点滴をさす。作業員は悲鳴をあげた。
「ああ、休んでないな」
「だめじゃないですか」
潤や利亜が、休憩のついでに医療テントの中に入って言う。
「なにいっとんじゃ、わしゃ大丈夫じゃ。しっかり寝ておるわ」
「だめだめ、そういう自信過剰が‥‥」
2人に説得されるところに、クラリッサとアークが援軍に来た「交代ですよ」と言うことで。
「寝てくださいな。徹夜していたらダメですよ」
「だめですよ。若くないんですから〜」
美人女医と、子供科学者に怒られる、仁。渋々従うことにした。
しかし、クラリッサとアークが当番になったときに、人が多くくるのは気にしない方が良いだろう。
拓那とクロスエリアが昼の料理担当になっている。
「‥‥何か今、料理の神様が降りて来たみたい」
「ほし、ピーマンとタマネギと豚切り落としを捌いたよ」
「はいはい」
鼻歌を歌いながら、2人はアルティメットフライパンを軽やかに動かす。
今回は焼きうどんということにした。素麺やそばだと一寸足りないだろう。アメリカン人は結構食べるし。
一方、響が居ないときの玲というと、
「それ持ってくれないか?」
「‥‥こうですか?」
人見知りなので、玲はあまり話さないがしっかり仕事はこなしている。
響が必死になって走って戻ってきた。
「大丈夫ですか――玲〜〜」
「大丈夫ですわ、響さん♪」
汗まみれでも玲に抱きついて、頬摺りする響。周辺の作業員は、唖然としている。
「怪我は? 大丈夫だな? もう疲れてないか?」
「大丈夫です。心配してくれてありがとう。響さん」
妙な空間があって、誰も答えられない。
そして我に返る、響は一つ咳払いをして、
「お待たせしました。向こうの班から伝言を‥‥」
と、いつもの優雅さで話し始める。
――作業着ではあまり格好付かないが。
こうして、これといったスクランブルもなく、何とか最終工程まで間に合いそうであった。
こまめに急速は入れているがほとんどの傭兵も作業員も、テントやベッドでグロッキーに眠る。しっかりローテーションを君で昼に寝ている警備班の黒子と公司は、本隊と協力し、夜間警備に当たっていた(別の日は、クロスフィールドと勇輝である)。
●四日目・完成
最後の壁が、兵衛とヨネモトのリッジによってはめ込まれ、マックスの指示によって、足場を駆け上る傭兵達は、補強工事と仕上げに入る。ポンプから水を出して、埃が飛び散らないようにたてた。
司令塔の再建も同時に終わり、あとは、専用機材を運びだけである。しかし、こういった物は機密が多いので、北中央軍の仕事になるだろう。
「「「「お疲れ様!」」」」
打ち上げに、炊き出し班の手作り料理と、レーションも混ぜた夕食会。各々が、雑談に花を咲かしたり、響が鳩を出したりと手品を披露する。
そこでジェームスが来たら一行は注目した。
「ホント助かった。あんた達が来なかったら、完成していなかった」
と、全員に握手する。
「大尉殿と仕事が出来て光栄です」
「だな。今度は一緒に戦いたいな」
皆の顔は、少し疲れ気味だが、丸一日休めば、回復する程度である。医療班の的確な行動が功を奏しているのだ。仁は疲れ切って寝ている。
「お疲れ様」
その言葉は、癒しの魔法の言葉である。