タイトル:【リズ】差し出した手マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/18 08:48

●オープニング本文


 ナシュビル近郊。そこにリズ・A・斉藤(gz0227)が、テントを張って、望遠鏡から遙か遠くの要塞をみていた。彼女の故郷の都市、ナシュビルそのものだ。戦争の傷跡は残っているものの、要塞化しており、ワームがひっきりなしに補給基地を出入りしている。
 デトロイトからはおおよそ南に位置しており、メキシコなどの中南米からのバグア軍の補給拠点となるのは明らかだった。リズはそこを解放したいと考えている。故郷なのだから。

「まずは、周りの人を集めていかないと」
 どこかに避難している人がいるだろう。その集落を探し出さないといけない。
 斉藤の『ファウンダー』の調査の結果、ナシュビルの北40kmにそうしたレジスタンスがいると言うことがわかった。
「UPCとの連携をするために説得に向かいたいです。斉藤少佐」
「それはおまえが決めろ。」
 斉藤の言葉は重い。
「はい、わかりました」

 リズは、解放のリーダーとして、纏めていかなければならない。その器量が問われる初めての仕事なのだ。そしてすぐに決意する。
『説得に向かいます。傭兵のみんな。私を救ってくださったように‥‥。この町を、バグアから解放するために手伝ってください』
 と、彼女は、依頼をだすのであった。
 故郷を取り戻すため、力がいる。一人一人は、無力だけれど、集まり、結束すればと。

●参加者一覧

水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
セージ(ga3997
25歳・♂・AA
霞倉 彩(ga8231
26歳・♀・DF
ヴィンセント・ライザス(gb2625
20歳・♂・ER
シェリー・クロフィード(gb3701
20歳・♀・PN
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
流 星刃(gb7704
22歳・♂・SN

●リプレイ本文

●再会
 作戦テントで、リズ・A・斉藤(gz0227)が銃の手入れをしている。養父でファウンダーの隊長、ウィルソン・斉藤(gz0075)も煙草に火をつけて、空を眺めていた。空に見覚えのある飛行物体が現れる。高速移動艇である。
「来たようだぞ」
「はい」
 高速移動艇が、テントの近く数ヤード先に着陸する。斉藤親子はそれに近づいていった。ドアが開かれると、見知った顔や初めての顔の傭兵達が降りてきた。
「よう! 元気にしてたか、リズ! 久しぶりだな」
 セージ(ga3997)が、大きな声で呼びかけた。
「お久しぶりです、セージさん」
 リズから握手をした。セージは嬉しそうだ。
「‥‥お久しぶりです。リズさん」
「元気にしていましたか? リズさん」
「ベルさん、未早さん。お久しぶりです。仲良くしてますか?」
 仲のよい、落ち着いて、セージと並んでリズと関わりのある水上・未早(ga0049)とベル(ga0924)とも軽く握手をする。
「大掃除以来ですね。アンジェラさん」
 今度はアンジェラ・ディック(gb3967)と握手してハグする。
「そうだな。コールサイン『Dame Angel』、まずは近隣住民に協力要請できる手筈を整えるわよ」
「Dame?」
 小首をかしげるリズに、アンジェラは苦笑してしまう。
 シェリー・クロフィード(gb3701)がニッコリほほえみかけて、
「初めまして! ボクはシェリー・クロフィード。よろしくね♪ いつも悠兄ちゃんからお話を聞いているのですよー」
 リズに握手する。
「あの人のお知り合いですかっ! あわああっ! よろしくお願いします!」
 失恋していても、まだ気になっている様子のリズ。
「ヴィンセント・ライザスだ。交渉は任せてくれ」
「初めまして、よろしくお願いします。ちゃんと休憩とりましたか?」
 ヴィンセント・ライザス(gb2625)とは普通に挨拶するのだが、彼は包帯などを巻いている。
「む、色々あってな」
 別の依頼が解決してからすぐに出立したためか彼の服はぼろぼろであり、怪我が多い。
「あとで、治療をしますが無理をしないでください。競合地区の厳しさはご存じのはずですよね?」
 むすっとしている少女にライザスは怯んでしまう。
「初めまし、霞倉彩‥‥。クラスはダークファイター‥‥。よろしく」
 霞倉 彩(ga8231)が、少し微笑み、リズに挨拶するとリズもニッコリ微笑む、
「初めまして、よろしくお願いします」
「流 星刃だよろしくたのむで」
「はい、初めまして。リズです。お互い新米傭兵ですね」
「そうなんか? よろしくな」
 リズは彩と流 星刃(gb7704)と握手を交わした。
「作戦会議をしましょう」
 リズはきびきびとテントに向かっていった。

●作戦と治療
 ライザスの怪我を治療しながらの会議だが、多少手間がかかり本筋に入るまで時間がかかった。
「まずは周辺を、スナイパーの二人一組で向かう方が良いな。詳しい情報を頼む」
「わかったわ、コールサイン『Dame Angel』にかけて」
 セージの言葉に、アンジェラが自分のコールサインを言うと、リズが難しい顔をしている。
「どうしたの?」
「Dameって格好悪いです。雰囲気からすれば、Coolがいいです」
「Cool なんだ。かっこいいねー」
 シェリーが尋ねると、リズは頷いた。
「そう呼びたかったらそう呼んでいいわ」
 アンジェラは別に断る理由も思いつかないし、了承した。
「交渉は任せるよ‥‥。苦手だし‥‥」
 彩がそういうと、リズは彼女の方を向いた。
「ダークファイターは壊すのが本分だからね‥‥キメラへの対応に注力するよ‥‥」
 彩が静かに答えると、リズは頷いた。
「お願いします」
「うん‥‥」

「さて、説得のことですが、リズさんは、どういう風に考えているのですか?」
 未早がリズに聞いた。
「私達が集落の人と接触して、それをバグア側が察知したら『能力者と接触した村がある。レジスタンスかもしれんから殲滅してしまおう』という考えに至るおそれなんかも当然あると思いますけど‥‥協力を得られたとして、何かフォローの案は出来てますか?」
「私が要請にすぐ駆けつけられるよう、常に待機しているつもりです。あと、この区域は下調べのではそれほど支配区域ではないようです。私を助けてくださったときの影響が少なからず残っていると考えています」
 リズが答えると、未早は考え込んだ。
「説得についてですが、あなたは熱意で説得するのですよね? しかし、生きているだけで精一杯の人にも同じ事をするのですか?」
「‥‥未早さん」
 その言葉に、リズはさらに真剣な目になった。
「私みたいに戦える人なんてほとんどいないことをそれは知っています。しかし、中には勇気を出してくれる人がいると信じています。希望を失った人に対しての気持ちは苦しいほど無力であるほど分かってます」
 冷静な答えをリズは未早に答えた。
「‥‥ご、ごめんなさい。ネガティブなことばかりで‥‥」
「物事を最悪に考えると言う事も理解しています。この先私が全責任を負う事も覚悟の上です。現在、情報提供を現地に詳しい斉藤少佐の部隊に頼んでいますけど」
 しっかり先を考えているという瞳で、リズは未早を見ていた。
「リズさん、リーダーとして旗を奮うためのその責任と覚悟を持っているのですね」
 未早は微笑んだ。
「利害についての交渉は、俺に任せて貰おう」
 ライザスが包帯を巻いた状態で言う。
「その交渉に自信があると言うことを信じて良いでしょうか?」
 まだリズは訝しんでいるようだ。シェリーがリズの肩に手を掛けると、リズは深呼吸をする。
「分かりました」
 一応、決まったようだ。
 スナイパーが先行して、足跡や戦闘跡を調べ、集落まで向かう。その間に敵が来る場合は、極力回避という方向に収まった。罠にもしかるべき対応をとると決まっている。

●その先にあるもの
 ベルと未早、アンジェラと星刃は距離をとって先行する。
「ここでは戦いはなかったようです」
 星刃が、無線で報告する。
 ただ、2〜3時間に1度、犬型のキメラが歩いている事が分かった。足跡の古さと規則正しさからして、
「‥‥ここまで訓練されているのは、珍しいです」
 ベルがつぶやく。
「あの集落からは余り出ていないと想像できる。非戦闘員が多いのだろうかね?」
 アンジェラが考える。
「‥‥行きましょう」
 未早が、連絡を入れ先行をする。

 運良く敵に見つからず、その集落を見つけた。見た目は牧場の集落だが、柵には有刺鉄線が貼られており、どこから拾った看板、標識を所かまわず貼り付けている。しかし、周りの家屋は燃えて、誰もいないように見えた。
「こういう感じです。皆さんはどう思いますか?」
 先行の星刃が訊いた。
「なるほど、周りが燃えて廃墟にしていれば、ある程度はだませるって事だな」
「では入りましょうか」
 リズが言うと全員が頷いて、配置に付いていく。

●交渉
 リズを先頭にその隣にセージ、ライザスと未早が集落を歩くが、全員が急に止まった。殺気に気づいたのだ。しかしリズがサインを見せると、殺気が収まり彼女は安堵する。しかし、罠かもしれないと言う不安はある。相手が現れるると『武器を捨てろ』と言ってきた。
「こちらは交戦しに来たわけではない」
 皆は武装兵に従う。チェックの後海保される。
「どこから来た?」
 その言葉に全員はリズを見る。
「人類側、北部の滅びた地区のリズよ」
「あの生き残りか?」
 武装兵は驚愕していた。
「我々は、ULTの傭兵だ」
 ライザスが言う。
「援助の話で来た。解放するための手助けで‥‥」
 その言葉に武装兵は警戒をさらに高めている。
「違います! 信じて‥‥っ」
「お願いします。話だけでも聞いてくれませんか」
 彼女らの熱意が分かってくれたのか警戒を解いてくれた。セージは、リズの肩に手を置いて微笑む。近くの廃屋に案内された。そこは、一見何もなさそうな家だが、秘密の扉などがあるだろうと雰囲気で分かる。
「水も残り少ないので、なにもだせん」
 奥の窓を閉じた部屋に、連れられる。
「さて、どういった援助が出来るというのだ?」
 武装兵が言い出した。
「リーダーは?」
「俺だよ、ジェスだ」
「ジェス。私はUPCに助けを求めて続けて‥‥」
 リズが話し始め、この周辺は重要な場所以上に我々の故郷であり、私たちと解放しようと持ちかけている。まだ若い彼女の言葉をどこまで信用しているかは、分からない。しかし、話に割ってはいることもお互いしなかった。
 リズが話し終えたときに、ジェスが口を開いた。
「我々ではここを守り抜くしか出来ない。しかし、我々に援助というのはどういう形で?」
「ここは俺が言おう。まず食料や生活物資の提供。能力者が派遣されることにもなる。我々のように」
「能力者?」
「バグアに対抗できる唯一の力を持った人間だ」
 詳しく話していると時間はかかるために簡潔に4人が述べる。
 その証拠として、セージとライザスが近くにあったダーツで、宣言した所に当てるという技も披露する。実際、宣言した位置に狙い通り狙うことは難しい。
「あと、けが人は居ますか?」
「居る」
「治療しますが、良いですか?」
 リズと未早がすぐに動いた。
「セージさんライザスさん」
「おう」
「分かった」
 各自、救急セットをもってジェスの部下に付いていった。

●急戦
「‥‥来てますね。気づかれたみたいです‥‥」
 ベルがつぶやく。
「数は、20? 臭いを嗅ぎつけられた?」
 彩が真・ディヴァステイターを構える。
「猟犬型だから、気をつけないと‥‥」
 アンジェラと星刃が各々の銃を構えた。
 一方、集落には怪我人が多い。医者が居ないために、専門的な治療が必要な人は、どうにかして運ぶと言う話をつける。まずは、汚れた包帯を取り替え、消毒という基本的な応急処置だけをすましていく。
 リズと未早はメモをとって、救助必要者を纏めていき、リズがそこをきっちり指示していった。
「若いのに‥‥てきぱき出来ているな」
 ライザスが感心する。
「お父さんが凄いんですよ」
 未早が微笑むと、ライザスは「ほう」と言うのだが。
「私生活は駄目ですけどね。部屋がひどかったもの」
 リズが冗談を言った。事実だけど。
「大丈夫だからな。怪我はそんなに悪くない」
「たすかるの?」
 セージは、けが人に優しい言葉を書けて応急手当を続けた。
 リズ達の無線が鳴った。
「はい、バルーン‥‥、Cool もう一度‥‥キメラが? ‥‥数が多いのですね了解」
 リズが、3人を見る。
「ハウンド系。数が20以上だそうです。私たちで殲滅しましょう」
「OKだ」
「ジェスは見てください。能力者がここを解放できる希望と言うことを」
 未早とリズが言うと、武器を返して貰い飛び出していった。

 ベルが見事な射撃で、確実にキメラを仕留める、さらに星刃のサプレッサーのフォルトゥナ・マヨールーとアンジェラのアサルトライフルの追撃に、彩の両断剣を込めた真・デヴァイステイターが確実にキメラを仕留めていく。
 一撃離脱を駆使していくシェリーに翻弄されるキメラもいれば、そこでまた、スナイパー陣による射撃で牽制、隙をつかれたキメラにはシェリーの双斧「花狐貂」がキメラを三枚におろす。
 しかし、キメラはただ肉体攻撃に特化しているわけではない。何かしら自然界の生物にはない力を有している。口から火や電撃のブレスを吐く、爪が電撃をまとうなどだ。それにかすっただけでも、地は焦げ、遠くから射撃を行うスナイパーもバリケードの後ろにいながらも傷ついていく。バリケードがなければ、大怪我だっただろう。
「ベルさん、助けに来ました!」
 シエルクラインで援護する未早。彼女とベルは恋人同士なので以心伝心で次の行動をとれている。ベルが装填タイミングに彼女が撃って援護する。コンビーネーションが冴えている。
 星刃とアンジェラも倣い、銃撃で仕留めていく。
 ライザスも携帯型ロケット砲を撃とうと考えたが、シェリーが接近しているため、考えを改めて、小銃「S−01」で援護射撃をする。
「あつぅ!」
 星刃が負傷したため、リズがライザスに指示を出す。
「星刃の手当を!」
「‥‥む‥‥わかった!」
 星刃を担ぐライザスだが、ちょうどそこでキメラのブレスが二人を襲った。
「あつっ!」
 二人は転がって焼けてしまう。なんとか距離を開け、すぐに応急手当をした。
「このお! おとなしくしないさいー!」
 シェリーの斧が、ブレスを吐いたキメラの首たたき切り落とし、セージが駆けだして、蛍火を大振りして、キメラを切り払う。
「これぐらいの怪我で、まけへんよ!」
 急いで止血し、動けるようになった星刃も、またフォルトゥナ・マヨールーが火を吹く。キメラの頭は粉砕された。約20分の激戦をくぐり抜け、キメラを全部倒したのであった。すぐに応急セットで治療し、ある程度回復したが、ライザスだけは前の戦いの怪我と疲れがたたってか、重体である。
「常に管理をしていたつもりだったが、うかつだった。反省しなくては」
 と、ライザスは自分を戒める。
 しかし、それを差し引いても、能力者の戦いを見ていたジェスにとって驚異的な事柄だった。自分たちだけでは、この数のキメラだと撤退を余儀なくされる‥‥と。
「君たちの実力、信用するに値する。助けてくれてありがとう」
 と、言うしかなかったようだ。

 まずは生活用品、食料、水の補給と、後に能力者派遣に武器の調達をすることを約束し、実行に移る。しかし、まだ能力者適性検査の段階には至っていなかった。けが人に説明して面接もする手間がかかるようだ。

●第一歩
 翌日。デトロイトの斉藤家で傭兵達がパーティをする。ライザスは入院のところ、病室から抜け出している。
「解放への第一歩、おめでとう」
 ジュースやお酒で乾杯。
「そうそう、リズちゃん」
「はい?」
 シェリーがリズを呼ぶ。
「そう言えば伝言をお願いされていたのですよー。『先方に貴女の想いが伝わる事を祈ります』だそうですよー」
「はう‥‥」
 その言葉に、またぽっとなるリズに、セージは苦笑していた。
「‥‥あこがれの人らしいです‥‥」
 ベルがにこにこして言った。
(「もっとも、頭なでられたり、優しい言葉かけられたりすればねぇ」)
 まえの戦闘訓練で現場を見ていた数名(セージも含む)は、納得する。うん。もっともですよ、と。
「どういう事?」
 知らない人が尋ねると(アンジェラに星刃にライザスだが)
「かくかくしかじか」
「ああ、納得」
 と、疑問も感じずに納得する。
「ま、ちゃんとした女の子らしい反応だな」
 はっはっは、とセージは笑った。
「セージさんもいぢわるです」
 リズはセージの背中をぽかぽか叩く姿は16歳相応の少女だった。