タイトル:映像の夢・序章マスター:タカキ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/15 06:43

●オープニング本文


 エスティヴィア(gz0070)は大がかりな装置を自分のラボで作っていた。
 臨時に技術助手も雇っての事もあるので、かなり大がかりである。彼女はコミレザで遊びすぎての浮かれた表情ではなかった。
 他の部署から『これは使えるのか?』とも言われそうなものかもしれない。しかし、これは先を見通せばとても役に立つ物だと言うことだ。
 彼女が発明したのは映像粒子による空中映像装置。プロジェクターでは何かしらの白い壁など個体が必要になるため、大画面テレビのようなかさばりになる。しかし、この映像装置は、噴霧状態を固定調整することで、そうした、『画面』が宙に映し出される。ホログラムとはすこしちがうところは平面であることだ。一応そこに特化出来れば、ホログラムも可能らしい。
 8台の装置を用意した。あとは必要な物とすれば、KVのエネルギーである。
「さて、頼むとするか」

 呼び出された傭兵達は、エスティヴィアにこう説明を受けた。
「これは、一大プロジェクトの第一歩です。詳しくは成功してからになるのだけどね。幅50m高さ20m程度の大画面を作ります。しかし、前に試作した映像装置の改良版では、幅5〜7m、高さ4m程度が限度。うまく、この装置を『地上』に配置して、50×20の画面を作らなないとけないのです。人が足りないために、ぶっつけ本番みたいなものですが、手を貸してください」
 エスティヴィアは真面目に訴えた。
 8機の映像装置をどのような設置方法でするかを図式にまとめて実験する。
「なお、今回の試験で可能なのは2回まで、理由は装置自身の粒子を発生させる耐久性の限界です。気をつけてください」
 コアーが付け加えた。
 質問は後で、エスティヴィアが受け付けるようである。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
アキト=柿崎(ga7330
24歳・♂・SN
水円・一(gb0495
25歳・♂・EP

●リプレイ本文

●まずは発掘作業
「相変わらず、埋もれているだろうな」
「そうだよねー」
 水円・一(gb0495)とクリア・サーレク(ga4864)が苦笑して、エスティヴィア(gz0070)のラボを見上げた。相変わらずの廃墟のような空港で、青いビニールシートが散乱している。格納庫のシャッターはしっかり閉まっているので、そこに人の気配はない。
「色々こまったもんだねぇ〜 けひゃひゃひゃ」
 ドクター・ウェスト(ga0241)がさくさくと先に向かった。
 ラボになっている建物にはいると、埃っぽい。
「掃除もしてないですね。一苦労かかりそうです」
「‥‥そのようだな」
 煙たがるアキト=柿崎(ga7330)とは反対に、UNKNOWN(ga4276)は悠然と周りを見て、汚れ具合を確かめていた。
「‥‥埃っぽいのは、この立地の問題でもあるな。砂埃だ」
 荒野にぽつねんとあるような空港だ。アメリカの大地は結構、緑が多いとは言えないので。西部劇でも見ればその風景に似ている物だ。
「ところでそのトランクは何ですか? 妙にでかくて大きな物が沢山‥‥」
 UNKNOWNの持っている鞄は、旅行トランクというより、何かのキャンプ用具一式にも見える。クーラーボックスもあるので、彼が一人で持ってくること自体不自然だが、もう「UNKNWONだから」で片づけるほど違和感が無くて、ダンディである。
「あ、肉と聞いてね。色々用意した。それが、簡単にできるものじゃないので、かなり金はかかったけど、皆が喜ぶならそれはが報酬だ、ね」
 と、微笑んで答えるのであった。

「まずは、机の下を探しましょ」
 クリアがにこにこしながらドアを開けると、
「ああ! やっぱりー! ってコアーさんっ!」
 没書類の山に、コアーが埋もれていた。
「た・す・け・てー」
「急いで助けないといけないね〜」
 ドクターが苦笑して、クリアと一緒にコアーを引っ張り出してあげた。他の男性陣は周りの紙くずをかき集めて道を作っていく。
「ふむ‥‥これは一苦労しそうだ」
 黒い服の男はそうつぶやき作業に没頭する。
「ふーたすかりました」
「大丈夫かね〜。コアーくん」
「ドクター」
「コミレザ以来だねぇ。ところで、エスティヴィア君は」
「たぶん、いつもの所かと‥‥」
 コアーが指を指すと、微かながら、寝息が聞こえている。
「まったく、世話の焼ける科学者だな」
 一が机の下で丸くなって気持ちよさそうに眠っているエスティを見て、苦笑するのであった。

●エスティの目のさまし方
 ざっと片づけた後、ぼろぼろの服装のままのエスティヴィアが、椅子に座ってぼうっとしている。
「片づけ終わったよ」
 クリアが、エスティを揺すってみた。「うーん、おにくたべたい」と寝言を言っており、まだ眠っているみたいである。
「斜め45度から叩けば、うごくかね〜」
「TVやロジーナじゃないんだから」
「コーヒーぐらい残っているだろ? 淹れてくれないか? コアー」
「はい、少々お待ちを」
 台所に向かうコアーを見てから、UNKNWONはこういった。
「今のうちにエステをするのも良いかもな」
「まさか裸に?!」
 クリアがジト目で黒服を見る。
「いや、そこまでしない。そう、のんびり出来るわけでもないだろうし、ね。簡単に髪を梳き、服の上からマッサージ程度だ、よ。血流が悪くて起きていないなら、血行をよくてからと思うのだがね」
「それはボクがやります!」
 やっぱり、男性に色々させるのは、クリアからすればデリケートの問題なのだ。
 黒服の男は、少し考えた後に、
「ふむ、私の知る限りで教えてあげよう」
 大きな動揺も文句も言わず、クリアにレクチャーし始めた。そしてクリアが、エスティの緑の髪を梳き、肩をもんで、足ももんでいくと、
「ひゃううう、きもちひい」
 妙な声をだすずぼら女科学者であった。
「あ、起きた?」
「ぐー」
「寝るな」
 一がこつんとエスティのおでこを叩いた。
「きゃうぅ、ひかりの無銘にてきなし〜!」
 しかし、このエスティ、寝ぼけすぎである(夢の中でゲームをしているようだ)。
「コーヒー入りました、ドクターは紅茶ですね」
「お、気が利くね〜」
 エスティが起きるまで、一寸したティタイムになった。黒い服の人は厨房を借りると言って、片づけに入っていた。クーラーボックスの中身を、台所に入れるのだろう(痛めないために)。

 すると、台所から肉の焼ける匂いがすると、
「にく!」
 エスティが飛び起きる。「うわぁ!」一が驚いて、こけた。
「いいかおりだー。牛肉をローストしてるの?」
 目を輝かせて、エスティが聞く。
「何してるんだろ‥‥UNKNWONさん‥‥」
 クリアが台所を覗いてみると、黒い服の格好でじっくり、肉料理を作っていたのだ。
「‥‥時間がかかる料理をとね、ああ、私のKVは好きに使っても良い」
 彼は、食事担当に集中するらしい。
「じゃあ、これは、お昼御飯が良いかな」
 クリアが自分の重箱を見てつぶやいた。まだ、昼にもなっていないから。

●実験会議
 しわしわの白衣ではあるが、仕事になるとキリッとするエスティヴィアは、映像粒子プロジェクターに、装置の説明と配置方法を再度説明して、
「A〜Cでどれが良いかを決めないといけないわぁ。まあ、7機もあったら1機に二つつけてやればぎりぎりかしら?」
 8機の装置に1つずつだが、まあこの際は仕方ない。安定機能でいうなら8機あれば良かったがというぐらいだ。
「私のけいいちさんでなら練力的に問題はないだろう」
 料理中のUNKNWONが、顔を覗かせて言った。そしてまた肉の調子を見るために戻る。
「はいきまりね」
 そして、配置について色々意見を出していった。夢に共感しているメンバーが来ているので、かなり白熱した展開となる。
「中心に2基おき、左右の3基に共有させることで、擬似的に5基ずつの同調とならないかね〜? 5基で半分の幅25mとなれば十分だし、高さも補えるのではと我輩は考えたがね〜。真ん中の2基は倍の付加がかかるわけだが〜‥‥」
「A案では幅が足りても高さが、B案では高さと幅が足りても中央が薄くなる様に思いますのでC案を主に支持します」
「C案の両脇4機で壁を作り、中央4基からの粒子を封じ込めて密度を上げ、20メートルまで持っていけないかな?」
「同じは一方法だけど意味はあるのかね〜。C案は?」
 と、ドクターと柿崎、クリアがあーだこーだと話しているが、だいたい方向性としてはAとCの映像実験と決まった。
「まずはテストで遊覧船だけど、何か希望ある?」
「私は、プラネタリウム、だね」
 黒服のコックが、また意見を出した。
「夜の打ち上げに成功して、粒子残量が残っていればOKかもねぇ」
「ふむ、わかった‥‥」
「なら、フィアナさんのライヴもいいと思うんですけど」
 柿崎が提案する。
「それも悪くないねぇ」
 問題は台数が足りないので、そう長時間映せない事だ。どちらかと言えば、柿崎のフィアナライヴが良いだろうとエスティは思っていた。
「コマ落ちしなきゃ良いけどね、どっちも」

●エスティは欠食児童
 お昼になった。
「さて、元気におなかを空かせているエスティヴィアさんに! ステーキです!」
「おお! にく! にくくいたい、にくー」
 元気にというのはすこし妙だが、いつもカロリーバーやインスタントという彼女にとって傭兵達の差し入れは本当にありがたい。
「鮭のステーキですけどね」
「魚肉でも大丈夫! いや、頭良くなるお魚食べよう! クリアの御飯はおいしいから何でも食べちゃうよ。もうおねーさんうれしい」
 クリアがとても可愛いのか、抱きついて頬ずりし始めるしまつだった。
「くるしー」
 放っておけない姉のようになってきた気がするクリアであった。
 今回のクリアのお弁当は秋の味覚尽くし。旬の栗をふんだんに使った栗おこわを重箱いっぱい。おかずとして、秋刀魚の蒲焼と秋鮭のステーキだった、別の箱にはデザートが入っており、サツマイモをくり抜いて器にしたスイートポテトと梨のタルトと、相変わらずの和洋折衷だった。しかし、日本人的味覚にも移動しているエスティにとっては、文句の付け所はないのである。
 アキトは、UNKNOWNのメニューが肉全般らしいため、夕方にとっておくことにした。
「ああ、うまいよー。生きててよかった。あたしここで死んでも良い」
「しぬなー」
 アキトと一が突っ込んだ。

 皆が、舌鼓を打ちつつ、お茶やコーヒーでのんびりお昼を満喫した後、今までのだらけていたエスティが、すっと立ち上がって、
「さて、始めようか‥‥」
 彼女の額にエジプトの目が金色に光り輝いていた。


●実験の成果は?
 全員でKVを動かしてAの配置にしていった。気分的には。
「人文字をつくってるみたいで、一寸楽しいね」
「はい、そっち左ずれてる、もう一歩こっち!」
「オーライオーライ」
 装置はKVの全コネクタを使うために、何も装備されていない、足りない分はけいいちさんにつなげて無理矢理起動することにした。
 そして、他の装置は別途用意されているSES電源にて使用した。さすがに魔改造のけいいちさんでも無理があるからだ。距離などで。
「スタート!」
 電源が入って映像が映し出される。
「やっぱり高さが無理かぁ」
 クリアが、外部モニターを見てからコクピットから出て、画面を確認すると、空の部分が描けていた。もしフィアナのライヴのアップ画面だと、フィアナの首が切れていたかもしれない。
 幅的に問題はなかったのだが、妙な立体感もあって平面プロジェクターとしての意味をなさなかった。
「これは無理ですね。テストの遊覧船で良かったですよ‥‥」
 アキトはむむっとうなる。
「さて、KVに燃料補給して、つぎはCだね〜」
 まだまだ作業は続く。
 超巨大モニターを作る意図はまだ教えて貰ってないがアキトは、フィアナのために作っていると思っている。
「なに? プロジェクト用を使わず、装置を利用しての平面プロジェクターなのか?」
「そうよ。立体映像より、そっちなのよぉ」
 まだ肉料理で手が離せない黒い服の男に、エスティヴィアがつまみ食いしながら答えた。
「ああ、そうか‥‥、皆がすぐ思いつく『プラネタリウム』ですると、ドーム場にしないといけない、のか」
 むむ、と男はうなってしまった。
「理論上出来ないことはないけど、平面型プラネタリウムにすればいいけどねぇ。それに、無理にプロジェクターでみるより凄い物があるわよぉ」
「そうなのか? ‥‥しかし、エスティヴィア」
「?」
「肉のつまみ食いはよそう。楽しみは後だ、よ」
 最後に注意された。

 そして、C案の配置にKVを置く。
「セット完了! いくわよぉ!」
『了解!』
 本体の電源が入り、KV達も起動する。クレアやアキトの予想を上回る結果であった。
 そこに一枚にプロジェクターができあがっていることが見て取れる。
「理論的におかしいとは思っていたんだけどね〜。そうしてなんだろうか?」
「はやり端っこ2機が列をなしている装置の粒子を圧縮して放射しているかたじゃないでしょうか?」
「とにかく、クリア君とアキト君の推測が当たった訳だね〜」
 遊覧船の画像を切り替えて、フィアナのライヴ映像を流し出した。噴霧装置自体には音響がないので、別に取り寄せている、サウンドシステムで流す。
「おお、これは良い感じ♪」
 アキトとクリアは、リズムに乗った。
 そろそろ、装置の粒子残量も少なくなったために、ライヴの映像はすぐに止めていた。
「あとは、前に使った一体で起動できるもので、続きを見ようかしらねぇ」
 と、満足そうなエスティヴィアだった。

 UNKNWONも、プラネタリウムを映し出せないことに心では、残念とは思っていたが。夜空を見上げたときに、はっと気が付いた。
「‥‥自然に映し出される星々が美しいな。彼女が言っていたのはこういう事、か」
 エスティヴィアのラボ周辺に大きな光源はないため、自然の星々を眺めることが出来るのだった


●にく。実はこっちが本編になりつつ。
「さて、食ってくれ」
 彼が腕によりをかけて作った、肉料理の数々が、テーブルに並べられていた。ローストビーフやら、焼き肉やら塩レバーやらと、牛の部位全部である。さすがに一頭丸ごとだと、物理的な理由と金銭的理由では無理だが、一応10人分ほどの確保はしていた。アキトが野菜を使ったサラダや、副菜をつくっていく。
「にく、おーにーくー」
 もう、仕事の事など忘れて、誘蛾灯のように、肉のフルコースに近づくエスティを、一が首根っこを掴んで止めている。
「おちつけ、まずは乾杯からだろ」
「おーにーくぅー」
「エスティヴィアさん。おちついてー」
 どれだけ食生活おかしいのだと、苦笑する。
「はあ、缶詰していると、おいしい物が食べられないから‥‥うれしいです」
 コアーも至福の気分だ。
「我が輩は、アルコールが飲めないから、ジャパニーズティでお願いするよ〜」
「ブリテンの人は強いと思っているけど違うんだねぇ」
 エスティは首をかしげてビールをジョッキで持っていた。
「人それぞれというものだよ〜」
「ではドクター、ウーロン茶でどうだ?」
 黒い服の人が、ウーロン茶を渡す。
「おお、ありがとう。ジャパニーズティ‥‥じゃないね、たしかウーロン茶は」
 ウーロン茶は確か中国辺りである。
 しかし、大抵の飲み屋ではウーロン茶は一般的だ。
 クリアはオレンジジュースと注いでいた。
「実験成功を祝して! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
 コップが高々と持ち上げられる。

「これは何か独特な味が‥‥きゅう!」
 ドクターがぶっ倒れる。
「これ、ウーロンハイじゃないですか!」
「これも余興してだね」
 不敵に笑う黒服と、目を回して気絶しているドクターと、驚いているアキトや、
「クリア、にくたべたい、にくー。いっしょにたべよー」
「はい、エスティヴィアさん、お肉どうぞ〜」
 妹に甘えている姉のごとく、クリアに絡むよっぱらいのエスティに、
「はめはずすな、まだ始まったばかりだろうが」
 一が苦笑して注意していた。
 酔いが回っていくと、雰囲気で酔っていく。夜空を見上げながら楽しい飲み会が行われていた。


●実験が終わってから数週間後
 とあるドローム社の会議室。本社ではないどこか‥‥。
 スーツ姿のエスティヴィアが、ミユ・ベルナール(gz0022)と数名の重役の前でプレゼンテーションを行っていた。大型映像装置のことである。
「‥‥であるため、プロジェクトには軍の力も必要ですが、これによりドロームの技術革新はさらなる物になると思います」