タイトル:演舞出場者募集!マスター:高良涼香

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/09/23 12:58

●オープニング本文


 ここはサンフランシスコから少し内陸に引っ込んだ片田舎。バグアの侵攻による影響をほぼ受けていない地域を選び、看板女優シリルを団長とした10名ほどが『巡業劇団ハッピースター』として田舎町を細々と回っている。『劇団』なので芝居はもちろん、サーカスに手品、およそショーと名の付く物は請われれば上演する。娯楽に乏しい地域では特に大歓迎!

「あーあ、暇! 派手な事ないかな。ロバート、あんたも役者なんだから芸でもしてよ」
 30分ほど前に夜の部の公演を済ませたシリルが、ロリポップ・キャンディ片手に狭い楽屋で伸びをしている。
「俺は犬じゃない。芸なんぞ出来ん」
 ロバートと呼ばれた男性があくびしながら答えたその時、控えめに楽屋の戸を叩く音がした。劇団員なら勝手に入ってくるだろう。ファンかしら、とシリルが誰何すると、
「公民館の館長です。芝居の依頼に来ました」
 ロバートが懐の護身用の銃を握り締めると同時に、シリルがドアノブを回した。そこには背広を着た男性が立っており、差し出す名刺には「地域公民館 館長 トニー・クロック」とあった。

 クロックは楽屋の椅子に腰掛けると、機関銃のごとくしゃべりだす。
「公民館の庭で、敬老会向けの芝居を、ドガッシャーン! バリーン! と派手にやってほしいんです。UPCのでかいロボットですか、あれが出てくると老人たちも楽しいと思うんですよ。ロボットいいなぁ、見たいなぁ」
 話すうちに上気してくるクロックの頬。
「老人にロボットは刺激が強いんじゃないかな」
 ロバートが頭を掻きながらクロックにやんわりとストップをかける。しかし、クロックも負けてはいない。「いやいや、子供も来ます、若者も! 敬老会は公民館が招待、その他は入場料をちょっぴり取ります。ロボット、呼ぶのにお金要りますよね‥‥?」
 その言葉にシリルとロバートは口をそろえてしまった。
「タダで呼ぶ気!?」

 クロックは上気した顔から流れる汗をハンカチでぬぐう。
「実は私、来年で退職でして。職を辞する前に、地域の皆様に楽しんでもらえる何かをやりたい、と。それで私、若い頃はUPCに入りたかったんです。適性がなくて試験に落ちましたが」
 まあそれは置いといて、と遠い目をするクロック。
「最後の大仕事として私の好きなナイトフォーゲルを呼べたら、思い残すことはないかな、と」

 しかし、KVを使用したイベントには莫大な費用がかかる。当然のことながら劇団や公民館に支払える額ではなく、誰もが実現を諦めかけていた。
 ところが一週間後、思いもよらぬ幸運が舞い込んだ。なんと、スポンサー企業が決まったのだ。
 元バグア派企業としての悪いイメージを払拭しようと社会福祉や地域貢献に積極的なドローム社へ企画を持ち込み、交渉した結果、奇跡的に資金提供を得ることが出来たという。
 そして、その後の話し合いにより、いくつか取り決めが決まった。

1・KVを呼ぶための費用はあるが、能力者の皆さんへの報酬は寸志。
2・タダ同然でいい、老人や地域住人を喜ばせたい! そんなKV募集
3・KV同士の演舞(殴り合いや取っ組み合いとか!)が見たい(クロックの強い希望)
4・火気や銃の使用は不可。空砲なら空中にどん! はOK
5・住民は能力者の皆さんと触れ合ったり、KVに試乗したいですよきっと! 私も!
6・来て下さる能力者の皆さんは縁日無料!

「‥‥報酬もろくに払わないって、誰か来るかしら。宇宙ではバグアとの決戦だとかで、大騒ぎの時に」
 ため息をつくシリルにクロックは言った。
「綿飴や焼きそば他の縁日を一緒にやる予定ですから大丈夫! それと演舞用の舞台設営はあなた方に頼みたい」
 シリルは再びため息をついた。
「『派手な事』が転がり込んできたわね。まぁいいわ。ULTに問い合わせてみる。誰も来なかったらあきらめてね」

●参加者一覧

秘色(ga8202
28歳・♀・AA
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文


 本番当日。シリルとロバートは鼻歌とともに、集合場所である公民館の小会議室のドアをくぐった。クロックの脇に見知らぬ4人が着席している。劇団員の2人が椅子に座ったのを確認し、クロックが手の平で示しながら紹介していく。
「舞台設営担当の劇団の方。こちらは協賛企業のドローム社のご担当者様、こちらが警備担当の警備部チーフ。私を含めた以上5名は、昨日のスタッフ打合せで顔なじみですね。こちらの4名が能力者の皆さんです」
「ええっ、報酬はないに等しいのに4人も集まったの?」
 シリルの頓狂な声に、一瞬場が固まる。冷えた空気にシリルはハッと口を押さえ、うつむいた。そんな中、御守 剣清(gb6210)が静かに立ち上がった。
「本日は『寸志』であることは全員理解しています。たとえ無償であっても来る能力者はいますよ。ま、世の中にはモノ好きもいるってことで」
 そういうと、さわやかな笑みを浮かべた。
「各自、まずは自己紹介が先じゃ」
 秘色(ga8202)が真面目な顔をして他の能力者を見渡す。と一斉にやかましく口を開く能力者たち。
「‥‥ええい、一人ずつじゃ一人ずつ!」

 秘色の舵取りで何とか自己紹介も終わり、クロックより今後の予定が通達された。
「舞台設営は劇団の方が主導で、鋼板敷きはKVにもお手伝い頂きたい。警備部は総出でロープ張りと迷子センター、案内係の設置。ドローム社のブースは、設営が終わった頃にお伺いします。前日のスタッフのみの打合せで細部は練れていますので、能力者の皆さんは担当者より話を聞いて下さい」


「俺らはこの図の通り、KV用に鋼板を敷けばいいんだな? お安い御用だぜ」
 村雨 紫狼(gc7632)が鋼板敷詰図のコピーをひらひらさせながら、大仰な身振りで愛機へと向かう。
「誰が舞台に鋼板敷こうって考えたのかしら」
「いいところに気が付いた、さーすがクレミアちゃん!」
「‥‥『ちゃん』付けはやめて」
 紫狼の言葉にあからさまに顔をしかめるクレミア・ストレイカー(gb7450)。そんなしかめ面にもひるむことなく、紫狼は言葉を続けた。
「ドローム社のご担当者サマが、あのブースを立てるために貸してくれたらしいぜ」
 紫狼は『あの』の所で親指を庭の片隅へ向かって差し出す。親指の先には、白いプレハブで囲われた10畳ほどの開放的な小部屋が立っている。
「あれはドローム社の建物であったか」
 肩越しに振り返りながらつぶやく秘色に、紫狼は快活に笑いかけた。
「ギブ・アンド・テイクってやつでしょ。『足場貸すから、地域貢献させて』」
「双方がそれでいい、と結論付けたなら、俺達にはどうでもいい事だな。さっさと設営に取り掛かろう」
 剣清の言葉に一同はうなづくと、再びそれぞれのKVに向かって歩き出した。


 話は1日戻る。スタッフのみの打合わせの終了後、ドローム社の担当より『あすのKV演舞に関して』とクロックは持ちかけられた。
 ドローム社の担当いわく、
「公民館の庭は土と砂利なので、模擬戦とはいえKV同士が格闘したら地面に穴が開く。舞台用の木の板のみでは不十分。そこでドローム社より、模擬戦格闘用鋼板及び鋼板製KV展示台を貸し出させて欲しい」
 公民館側にしたら願ったりな申し出だが、もちろん交換条件があった。
「庭の片隅にドローム社のブースを作らせて欲しい」
 イメージのクリーン化を図りたいドローム社の担当と、公民館を守りたいクロックが話し合う。結論はすぐに出た。
「『当ブースは公民館とは一切関わりありません』と掲げてもらえれば、公民館側は問題ありません」
 演舞直前の申し出なら断られないだろう、というドローム社側の思惑は当たった。自社の開発用鋼板を貸し出す代わりにイメージアップのブースを展開する──こうして双方にとって痛手のない『ギブ・アンド・テイク』は成立した。


「さっさと鋼板、敷いちゃいましょ」
 シリルはテキパキとKVに乗っている能力者に的確に指示を出す。屋台設営のお兄ちゃんや、一足早く様子を見に来た住民に遠巻きに見物されながら、三機のKVは鋼板を並べていった。

 おや、残りの一機はどこへ? 阿修羅の乗り手であるクレミアは警備担当として会場内を巡回していた。阿修羅は四足歩行ゆえ、人型KVのように荷運びには向いていない。鋼板設営は人型KVに任せて阿修羅は舞台裏に残し、クレミア自身はかつてのポリスウーマンの経験を生かして、場内を見回ることにしたのである。培った厳しい目で場内を見渡す。
「あら、あの子そこそこかわいいわね」
 痴漢やスリを見逃さないそのまなざしも、だんだんと集まり始めた子供に向けられると形無しである。思わずハートになりかけた瞳をぎゅっと閉じ、再び開くと警備を続けた。

 クレミアが一通り場内の巡回を終え戻ってきた頃、舞台の設置も終了した。定刻になりクロックは秋の公民館祭りの開催を宣言した。と同時に、舞台裏よりひゅるひゅるひゅる、と音を立てながら光跡が上昇していった。秘色が打ち上げた照明銃は場内はおろか町中の人の目を引き、祭りの開催を告げるには効果抜群であった。

「では打合せどおり、30分ほどしたら1戦目をお願いします。良かったらドローム社のブースもご見学下さい! 先ほどチェックに伺いましたが、KVの模型展示がたくさんあって素晴らしかったですよ!」
 なるほど、庭の隅に立つドローム社の白いブースは、人が群がってそれなりに盛況な様子である。ブースから出てくる子供たちは皆、白いプラスチックで出来た『KVプラモデル』を手にして、大喜びだった。色々と黒い話もあったドローム社であるが、少なくともこの場では純粋に地域貢献を図っているようである。


「ただいまより、選りすぐりの能力者によります、KV演舞・第一部をご覧に入れます! 警備員の指示に従い、ロープの中には立ち入らないように!」
 マイクを持ったロバートが声を張り上げる。
 舞台よりかなり離して張ったロープの外側では、老若男女、場内の全ての目が舞台中央に釘付けだった。一時的に空になったドローム社のブースからは、こっそり受付嬢も観戦していた。ロバートの名乗りを待ちながら、秘色もクレミアも最終機体チェックに余念がなかった。模擬戦とはいえ、実際に組み合うのだから当然である。クレミアはふわふわクッションの調整も忘れない。

「では登場頂きましょう! 赤コーナー、F−108改『ディアブロ』! 搭乗者は『世界一しゃもじの似合うオカン、秘色』! 白コーナー、XA−08B改『阿修羅』! 搭乗者は『美しき猛獣使い、クレミア・ストレイカー!』」
 名前が呼び上げられた次の瞬間、舞台裏より変形を終えた機体が舞台中央に飛び出す。そこでまず、観客がどよめいた。二機は舞台中央で対峙すると開始の合図を待つ。
「レディ、ファイッ!」
 ゴングがなると同時にディアブロが仕掛けた。阿修羅に向かってかっこよく走り出し、そして派手に転んだ。子供はもちろん、老人も縁日の兄ちゃんも受付嬢も大受け。爆笑の嵐だった。
「初めてKVを見た子供が怖がらないように」
 これが秘色とクレミアの合言葉だった。起き上がって頭を振るディアブロの背後に阿修羅が回りこむ。その機敏な動きに笑いがぴたりと収まった瞬間、あちこちから悲鳴が上がった。ディアブロが阿修羅に噛み付かれる体勢となったのである。模擬戦なので実際には寸止めであるが、観客にそんな事はわからない。
「皆、ディアブロが大変だ! 応援してくれ」
 ロバートの声に、子供たちを中心に『ディアブロ!』コールが沸き起こる。ディアブロは声援を受けると両腕を背後に回し、身振りは派手に阿修羅を投げ飛ばした。軽く放っただけなのに、観客は皆大喜び。放った勢いを利用してディアブロが阿修羅の首根っこを掴みにかかった。
「今度は阿修羅が!」
 すると沸き起こる『あしゅら!』コール。こうしてやったりやられたりをパターンを変えて繰り返し、10分ほどの取組を見せた。試合終わりを告げるゴングが高らかに鳴った。
「ただいまの取組、両者引き分け! 引き分けです!」
 ロバートの叫びで、無事にKV演舞・第一部は無事に幕を閉じた。


 第一部から30分後、幕間のショーとして『猛獣・阿修羅』が催された。マイクを握ったロバートが、猛獣使いに扮したシリルを紹介すると、シリルは優雅に深々とお辞儀をした。シリルがムチを振るとクレミアが搭乗する阿修羅が舞台へ駆け上る。
「いよいよ、練習の成果を大衆の前に見せる時が来たわね」
 阿修羅はシリルの前に立つ。しばしにらみ合い。だんだん距離が近づいていき、観客が『食われるんじゃないか』と不安絶頂になったのを見計らい、シリルがピシリとムチを地面に打った。それを合図にお座り。観客がほっとしたような疑問符でいっぱいのような微妙な気分になった時、さらにピシリ。シリルが右手を差し出すと、阿修羅が滑らかな動きで左手(あし?)を乗せた。
「おて!」
 子供が1人、叫んだ。その瞬間観客に沸き起こる笑いの渦。その後もピシリで正面を向いてお座り、またピシリでチンチン。ムチ打つたびに服従の姿勢を示し、ひときわ大きくシリルが鞭打つとおなかを上に向けて寝そべってしまった。
「どうやら阿修羅は、シリルお姉さんに懐いてしまったようです」
 その発言を合図に、ぽんと両手を打ったシリルは乗用車を縦方向に3台、並べさせた。もちろんクロック、ドローム社担当、警備部チーフが泣く泣く差し出した自家用車である。シリルは並んだ車の脇に阿修羅を呼ぶと、飛び越えるよう指示をした。車3台の距離なんぞその場でぴょんと飛べば軽々超えられるのだが、これは演舞。観客も固唾を呑んで見守っている。助走のため3歩ほど後ろに下がると軽く走り、車の直前で地面を蹴ってぽーんと綺麗な曲線を描き、見事に着地して見せた。阿修羅が誇らしげに四つ足で立つと、大きな拍手が観客から沸きあがった。


 「お待たせいたしました! これよりKV演舞・第二部をご覧に入れます」
 ロバートの声がマイクより響くと、歓声は一際大きくなった。
「赤コーナー、ZGF−R1『オウガ』! 搭乗者は『猫好きの正統派イケメン、御守 剣清!』 白コーナー、GSS−04『タマモ』! 搭乗者は『超ポジティブな芸人気質、村雨 紫狼!』」
 名乗りを合図に第一部とは全く雰囲気の異なる二機が舞台中央に進み出た。
「『ガンダインZ』だ!」
「あっちのは『シルフェンA』に似てる!」
 剣清と紫狼のKVを見た子供たちはざわついた。大人気アニメ『地球防衛隊』に出てくる地球防衛ロボ『ガンダインZ』に『タマモ』が、『シルフェンA』に『オウガ』がちょっと似ている。『タマモ』の場合は部品の換装をしたら偶然似ただけ、『オウガ』にいたっては色が同じというレベルではある。それでも子供の夢を壊すまいと、剣清と紫狼は子供の声援にKVで準備体操をしたりポージングで応えた。そして改めて向い合い、抜刀した刀の切っ先を軽く触れ合わせる。第二部はどうやら剣闘のようだ。当然、刃のない模造刀を使用している。
「レディ、ファイッ!」
 威勢よくゴングが鳴ったのを合図に、まずはお互いの剣先を軽く打ち合わせる。キン、と澄んだ音が響く。『オウガ』が踏み込みながら刀を振り下ろす。それを『タマモ』が受け流し、反撃に出る。能力者にとっては退屈なやり取りも、何も判らない観客にとっては初めて見るKV同士の戦闘。息をつめて見守る。しばらく単調な打ち合いが続き、『オウガ』が次の体制をとろうとした時、『タマモ』の下段突きが決まり、尻餅をついた。無防備な『オウガ』の首元めがけ、紫狼は刀を振り抜いた。しかし、『オウガ』は横に転がって避け、飛び起きると同時に刀を一閃。『タマモ』の首をはねる寸前で模擬戦であることを思い出し、かろうじて刀を止めた。模造刀とはいえ、KVの膂力で振り抜けば危険な事に変わりはない。背中に変な汗をかいた剣清が、突き付けたこの刀をどうしたものか考えていると、子供達から思いがけない大合唱が起こった。
「たたかうなんておかしいよ、ふたりはなかまだろ?」
「もうやめてなかなおりしてよ、シルフェンA!」
 結局子供たちの涙ながらの抗議には勝てなかった。『オウガ』は『タマモ』に突き付けた刀を引き、二機はがっちり握手して引き分けの形をとった。


「宇宙では斯様な物を食うておるのじゃよ。興味ある者はつまんでみよ」
 宇宙用丼物・麺類セットを住民に振舞う秘色を見て、紫狼は口を尖らせた。
「おれっちも何か持ってくりゃ良かったなー。そしたら今頃、人気者じゃん」
「だったら『タマモ』の説明やら試乗やらしてみたらどうだ? クレミアさんはやってるし〜」

 クレミアは試乗にやってくる子供たちを次々コックピットに乗せては写真を撮り、請われれば大人向けのKVの説明をしていた。試乗の長蛇の列に終わりが見え始め、やっと終了、お疲れ様! のはずがちょっと浮かない顔をしている。
「私好みの子って、なかなかいないわね」
 それでも小さい子に囲まれてすごした時間は幸せだった。

 剣清と紫狼、秘色も、クレミアに習って試乗や説明をして過ごした。あっという間に時間は過ぎ、気がつけば夕暮れ。
「どうりでお腹が鳴るわけだ」
 剣清と紫狼はお互い試乗の列が途切れた瞬間を見計らい、コックピットを閉めて機体を離れる。歩き出した所で、秘色の怒鳴り声が聞こえた。驚いて駆けつけたクレミアとも合流し、3人は秘色のもとへ走り出した。
「どうした、秘色姐さん」
「この童がKVによじ登っておっての。思わず『危ない』と叫んでしまっただけじゃ。降りてきた所に軽くデコピンしてしもうたがの」
 半べそをかいている子供の顔を剣清が覗き込み、優しい笑顔で諭す。
「コイツはな、子供を護るために戦ってんだよ。怪我させるためのモンじゃないんだ。だからもう、登るなよ」
 子供はこっくり頷き、涙を拭いた。
「わかった。シルフェンAのお兄ちゃん」
 ヒーローを信じる子供を見送りふと辺りを見渡すと、暗くなった庭に公民館の電灯が輝き始めた。

「酒盛りでもせんかね」
 近くのベンチに腰掛けていた老人の集団に声をかけられる。老人の手には酒瓶。
「わしら老人はほとんど難民、KVに助けられた者も仰山おる。久しぶりにKVが戦う姿を見て、血が騒いだわ。どうかお前さんたち、爺の話し相手になってくれ」
「もちろんじゃ。辛い事もあったろうが、今を共に楽しもうぞ」
 縁日からつまみを取ってくる、といって紫狼とクレミアは席を立つ。剣清は酒用の紙コップを準備し、秘色は老人の前にどっかりと陣取った。シリルやロバート、クロックもいつの間にか合流し、にぎやかに宴会が始まる。
(宇宙で戦う人も必要。地上で戦う人も必要。どっちがすごいなんて、優劣は付けられないのね)
 ぼんやりと考えながら、シリルは目の前の能力者たちを頼もしげに眺めていた。