●リプレイ本文
●事前準備
櫻杜・眞耶(
ga8467)と朔月(
gb1440)は、忘年会前夜に兵舎のキッチンにて、大、中、小の3タイプスポンジケーキとクッキーを作っている。
スポンジケーキは、古くからフランスで愛されている幸福を運ぶお菓子『ガレットデロワ』のような感じでそれぞれ各1個ずつコインを入れて焼き、忘年会当日は開始より2時間ほど早めに作ったスポンジケーキを持っていき、学園の食堂の厨房を訪れてケーキの仕上げを施すことに。
小さいスポンジケーキのみチョコレートを入れて焼いたホワイトチョコレートケーキで、中サイズと大きなサイズはトッピングや中の果物を変えた生クリームケーキ。
小さいチョコレートケーキは甘みを抑え、大きくなるほどに甘味の強いケーキに仕上げた。
「これで良し‥‥と。朔月はん、明日も手伝いお願いしますね」
「任せとけ!」
●当日事前準備
忘年会当日。
カンパネラ学園食堂の厨房を使わせてもらう、事前準備を行っている参加者が。
リュイン・カミーユ(
ga3871)は、戦闘中さながらのピリピリとした緊張感を周囲に漂わせながら『ブリの照り焼き』を調理中。
慎重に調理しているものの、たどたどしさを見かねた 稗田・盟子(gz0150)が横からアドバイス。
口出ししても一切手を出さないのは、リュインが誰のために調理しているかを知っているからである。
「すまんな、盟子。これだけは炭にしてなるものか‥‥!」
悪戦苦闘しながらも、盟子のアドバイスのおかげでブリの照り焼きは綺麗に完成!
(「これなら、あいつも喜ぶだろう」)
最も食べてもらいたい人の喜ぶ顔を想像し、美味しそうに仕上がったブリの照り焼きを見つめるリュイン。
眞耶は前日の仕上げとして2時間ほど早めに厨房に訪れ、前日作成したスポンジケーキの仕上げに取り掛かった。
(「上手くできました。これ、喜んでもらえるでしょうか‥‥」)
リュイン同様、最も食べてもらいたい人の喜ぶ顔を想像する眞耶。
●続々と入場
開始時刻間近になると、多数の生徒が食堂に集まってきた。
ここしばらくはドレスとか着こなしていた百地・悠季(
ga8270)は、カンパネラ学園の制服を着て出席。制服を選んだのは、背伸びせず気楽に構えられるからだが、想い人から送られたのアクセサリは身につけている。
着ぐるみパフォーマーの異名を持つ朔月は、自作の牛の着ぐるみに着替えていた。忘年会中はその姿のままパタパタと動き回ったり、遊んだりするようだ。
カンパネラ学園入学式での大規模作戦序盤で重症を負ったにも関わらず、最後まで参加したプエルタ(
gb2234)は全身傷だらけ、包帯だらけの姿であるに関わらず参加。
大丈夫? と他の参加者は心配したが、本人は笑顔を見せ、元気に明るく大丈夫な振りをしている。
あまり役に立てなかったことをプエルタは気にしているが、他人にそれを一切見せないように明るく振舞っているがそんな彼女に誘われ、楽しそうだと思い参加した相部屋の友人である依神 隼瀬(
gb2747)は、それに気づいていたが何も言わず。
「キョウハ‥‥ブレイド‥‥?」
「違うよ、無礼講」
「ブレイコー‥‥デスカ?」
「そう」
2人の会話を聞いていた盟子は「ブレイコーよ〜。思いっきり楽しんでね〜」とプエルタに声をかけた。
「アリガト」
お礼を言われた盟子が、元気が出たみたいねと安心した。
生徒の様子を見抜けたのは、接する時間が短くとも、会話したりする機会があるからだろう。
美環 響(
gb2863)は、気品溢れる上品な衣装に身を包み参加。
参加動機は忘年会をおもいっきり楽しむ、忘年会で親しい人を多く作ること、楽しんだ者勝ち! である。最後は、参加者全員同じ意気込みであろう。
ゴスロリ風衣装の水無月 春奈(
gb4000)は、特に何をするでもなく、手持ち無沙汰な感じだった。
「‥‥どうせなら、暇な兄さんに付き合ってもらうべきだったかしら?」
親しい兄がいないので、少し寂しいご様子。
冬だというのに体操着+ブルマという格好で参加したのは、体育会系なファーリア・黒金(
gb4059)。
「はじめまして、ファーリア・黒金です! 名前からわかるかもしれませんが、祖母がイタリア人でして‥‥一応、クォータです。あとは‥‥…勉強より、身体を動かすほうが好きです! 皆さん、よろしくお願いします!」
寒さを吹き飛ばすような元気の良い挨拶をするファーリア。
参加インパクトNO.1は、文句無しでファーリア・黒金嬢に決定!
それから少し遅れて、手芸部員達がソウジ・グンベ(gz0017)と共に訪れた。
「遅れてすみません、準備をしていたら遅くなりまして‥‥」
手芸部部長である糸井・創璃(gz0186)が持っているバスケットを見た盟子は「何が入っているの〜?」と訊ねたが、それは後のお楽しみですとはぐらかされた。
誰かの視線を感じ取ったソウジは、手芸部員から離れて忘年会に参加した生徒達に挨拶をした。
「結構集まったもんだねぇ。皆、食堂のおばちゃんの好意に甘えて楽しもうな!」
おーっ! と右手を高く掲げ、楽しむ気マンマンな参加者達。
「楽しそうですね。稗田さん、私もお邪魔して宜しいのでしょうか?」
「それは自分も同じだ、アプサラス教官」
アプサラス・マーヤー(gz0032)は大規模作戦に貢献したが、何もしなかった三崎・裕士(gz0096)は遠慮がちに食堂に入った。
「ようこそ〜。お2人もカンパネラ学園関係者なんですから構いませんよ〜」
盟子の笑顔に安心したのか、三崎は「では、お言葉に甘えて」と最後まで楽しむことに。
最後に参加したのは、白衣を着たまま慌てて食堂にやって来た申 永一(gz0058)。
「遅れてすみません、研究が立て込んでいましたので‥‥」
「気にしないで〜」
心の中では『来てくれたのね、ヨンく〜ん♪』と大喜びの盟子だった。
●忘年会開催!
乾杯の音頭は、主催者である盟子がとった。
「皆〜、大規模作戦お疲れ様〜。今日は無礼講よ〜思いっきり楽しんでね〜。カンパ〜イ!」
『乾杯〜!』
こうして、新入生主役の忘年会が開催された。
入学式大規模作戦の慰労会も兼ねているが、新入生達も頑張ったので『主役』としてもおかしくはない。
学園に時々顔を出す程度のリュインは、久しぶりに会う参加者と話をしようと思ったがその前にやることがある。頑張って調理したブリの照り焼きを、ソウジに食べさせることだった。
「ソ、ソウジ‥‥こ、これを食べてくれて‥‥」
ドキドキしながら綺麗に盛り付けした皿と箸を差し出した。
「おっ、ブリの照り焼きか」
良くわかってくれた! と安心するリュインだったが、問題はその後だ。
「その‥‥頑張ってみたのだが‥‥」
「どれ‥‥」
箸を手にすると、ソウジはパクッと一口。
「‥‥美味い。料理の腕、上がったじゃないか! 今度は『さわらの西京焼き』を頼んでいいか?」
「あ、ああ‥‥頑張ってみる」
和食好きなソウジに喜んでもらえたうえ『何だそれは?』と不思議に思ったリクエストメニューに首をかしげながらも飛び上がりたいほど嬉しかったが、喜びを悟られないよう、リュインはソウジのグラスに酌をした。
「リュイン、今日はとことん飲むぞ! 酔い潰れるなよ?」
「それはこちらの台詞だ。汝も飲むのは構わんが、酔い潰れるなよ?」
リュインだが、実年齢は成人に達しているので飲酒は問題ない。
●寂しいけれど‥‥
そんな2人の様子を見て不満そうにしているエリザ(
gb3560)は、ビールが飲めないのは残念だが仕方ないと諦めた。
「ヨーロッパとニホンの飲酒年齢の差は、水の入手辺りが関係しているのでしょうか」
喫煙、飲酒が成人のみとしているのは、盟子が日本出身ということで決めたルールである。『郷に入っては郷に従え』と同じものと解釈してほしい。
飲酒を諦めたエリザは参加者達に挨拶することにしたが、初対面の参加者がほとんどだったため、世話になった参加者、知り合いのみに挨拶することに。
「エリザさんも参加していたんですね、今年はお世話になりました。来年もよろしくお願いしますね」
ワインの色そっくりなぶどうジュースが入ったワイングラスを優雅に持ちながら、響は見かけたエリザに近づき、微笑みながら挨拶をした。
「こちらこそ宜しくね」
その後、2人は別々に知り合いに挨拶をし始めた。
知り合いがいない春奈は、宴会が始まっても壁際から動かず、忘年会の様子をじっと見ていた。寂しそうにしている彼女に言い寄ってくる男子生徒は数多くいたが、春奈は
「私よりも素敵な女性がたくさんいると思いますけど‥‥」と丁重に一緒に楽しもうという申し出を断った。
兄が参加していれば、彼女も楽しめたことだろう。
●知り合いにご挨拶
眞耶は、創璃をはじめとする手芸部員達と盟子達食堂のおばさんに挨拶をした。
「皆さん、今年はお疲れ様でした。来年も宜しくお願いします」
「こちらこそ、櫻杜さんにはお世話になりました。今後もよろしくお願いします」
眞耶にお辞儀し、礼儀正しく挨拶する創璃と手芸部員達。
「眞耶ちゃん〜、あそこにヨンくんがいるわよ〜。ご挨拶してきたら〜?」
盟子に肘で突かれ、壁際で退屈そうにカクテルグラスを手にしている永一に近づけさせようとした。
「そ、その前にアプサラスはんとソウジはんに挨拶してきます‥‥」
恥ずかしさを堪えながらそそくさとソウジとアプサラスのもとに向かい、2人に礼儀正しく挨拶をする眞耶。
その後、皿に料理を少し盛り、箸を持って永一のもとへ。
「永一兄はん、お疲れ様でした。少しは食べませんと、元気が出ませんよ?」
元気が無さそうだったが、無理にでも食事を摂ってもらいたい眞耶なりの気遣いだった。
「あ、ありがとう。きみには本当に世話になりっぱなしだったな。出雲にいた時からずっと‥‥」
良いムードになってきた2人に『ヒューヒュー』と冷やかすようなジェスチャーをする着ぐるみ姿の朔月。
「朔月はん、いい加減にしなはれ!」
つい京都弁になってしまう眞耶を見て、少し元気が出た永一は料理に口をつけた。
悠季は、カンパネラ学園に来て以来、色々と世話になった参加者達を巡っては感謝の意を込めてお礼の挨拶をし、未熟な自分自身を手助けしてくれたことに対して礼儀を尽くした。学園の仲間であろうが、師事すべき講師陣とか対しても当然のことである。
「これくらい、当たり前よね?」
教師陣にも挨拶はしたが、面識の無い三崎にする際はかなり緊張した。本人は普通に振舞っているようだが、厳しい雰囲気が漂っているからだ。
●飲んで、食べて、楽しんで!
プエルタは、隼瀬に支えられながらも食べて、少しだけ飲んで皆と楽しく過ごしている。無礼講とはいえ、最低限の礼儀をもって行動しているので、他の仲間と楽しく過ごしたり、教師陣達に挨拶をしている。
「ん〜‥‥どれから頂きましょうカ‥‥。目移りしますネ。あ、コレにシマス!」
あれこれと料理を皿に盛っては、美味しいデス! と食べるプエルタを見て、隼瀬は「元気になったみたいで安心したよ」と笑った。
隼瀬達と食事を楽しんでいる風雪 時雨(
gb3678)も心配していたが、自分の思い過ごしのだと安心し、プエルタのことを隼瀬に任せ、教師陣達に挨拶をしに行くからと伝え、席を離れた。
「皆様お疲れ様デスー! 飲んでマスカー? 食べてマスカー?」
「食べてるぞー! キミもどんどん食えー!」
プエルタの言葉に応えたのは、リュインと飲んでいるソウジだった。
隣にいるリュインだが『ソウジの隣は誰にも譲らない!』という視線を周囲に送り続けている。
それを察知した参加者もいたのか、ソウジに軽い挨拶をして去る参加者が何人かいた模様。
「飲み過ぎんように見張っていないと、こいつはグダグダになるからな」
そうでなくとも滅多に会えないソウジに会える貴重な機会なので、少しでも傍にいたいという気持ちはわからなくもない。
そう思っても、絶対に口にしないリュインはツンデレさん♪
「初めまして、グンベ先生。風雪 時雨です。よろしくお願いします。リュインさんは、兵舎以外でお会いするのは初めてですね」
リュインに関してはソウジと一緒にいると思っていたので、可能なら2人がどうして恋人同士になったかという野暮なことを彼にしては珍しく聞いてみたり‥‥と思った。
ソウジもリュインは、照れながらこれまでの経緯を話し始めた。
「ありがとうございました。それじゃ、自分はこれで失礼します」
去ろうとしたところ、アプサラスに会ってので「アプサラス教官、機会があればご指導のほど、よろしくお願いします」と挨拶してからプエルタと隼瀬のもとに戻った。
「久しぶりだな、アプサラス。汝も学園に来ていたとは知らなかったぞ。ここでは初めて会うな」
「そうですね、リュインさん。私がラスト・ホープの『実践訓練センター』の教官だった頃は何度かお会いしましたね。お元気そうで何よりです」
「学園でもシミュレーション関連の仕事をしているのか?」
「ええ。来月にも改良シミュレーションを行う予定ですので、宜しければご参加ください。では、私はこれで。お2人の邪魔をしてはいけませんから」
リュインはアプサラスがグラスを持っていたので酌をしようとしたが、それを待たずにアプサラスは他の参加者達と話をしていた。
その間、ソウジは女子生徒に酌をされていたが、内心目を光らせているリュインは見逃さなかった。
(「生徒に酌され、鼻の下伸ばしてたら‥‥後で覚えてろ」)
酌が終わった頃、背筋がゾクッとなったソウジはリュインの視線を感じたのか、そそくさと去り偶然側を通りがかった三崎に挨拶をしていた。
ブルマ好き娘のファーリアは、参加者達にそれぞれ挨拶したりしながら料理を舌鼓を打っていた。
「ん〜美味しい〜♪」
その途中、先輩生徒の参加者に対バグア対策の指導をしてもらったりしていた。
「ありがとうございました、今後の参考にします!」
バグア対策の指導をしてもらった先輩生徒にありがたいと感謝しつつ礼を述べた後、他の参加者達と世間話を始めた。
その時、ある参加者から「何故、ブルマ姿なの?」と質問された。
「私、ヒラヒラしたのが苦手でして‥‥ズボンとかも圧迫感が‥‥。なので、動きやすいブルマを穿いているんですよ♪ 結構伸びるのでサイズが気になりませんし♪ 部屋着も殆どコレですねー。色もカラフルにあります♪」
そ、そうなんだ‥‥と苦笑しながら「回答、ありがとう」と言う質問した参加者。
ブルマはともかく、半袖体操着は寒くないのだろうか? という心配もしていたのは内緒。
参加したのは良いものの、あまりにも暇になった春奈は食堂のおばちゃん達と共に給仕のお手伝いを。
「この料理、どちらに運びましょう?」
「それは奥のテーブルに運んでちょうだい」
手前のテーブルにいた成人生徒達から「ワイン持ってきてー!」と注文があったので「ワインですね、すぐにお持ちします」とワインが注がれたワイングラスを乗せたトレイを持ち、零さないように慎重に運ぶ。
「すみません、料理の追加よろしいですか?」
「こっちおねがーい!」
食堂の厨房で追加料理を作っているおばちゃんに「追加料理お願いします」と頼み、トレイに乗せられた料理をせっせと運ぶ春奈。
「春奈ちゃ〜ん、あなたも参加者なんだからゆっくりしてちょうだ〜い」
でも、落ち着かないので手伝わせてください‥‥と頼み込まれたので、盟子は「それじゃ、お願いしましょうか〜?」と春奈の好意に甘えることに。
●宴会を楽しもう!
食堂には、皆に楽しく歌ってもらおうと盟子が知り合いから借りてきたカラオケが設置してあった。テレビもあるので、歌詞や映像が映るようになっている。
「カ・ラ・オ・ケ? アレがカラオケなのデスネ!」
「そうだよ、プエルタ。あの機械が曲を鳴らすから、後は歌うだけでいいんだ」
カラオケトップバッターを名乗り出たのは響がどのような歌を歌うのか、プエルタはとても楽しみだった。
響が選曲したのは『愛の月』というバラード。
「♪あなただけの月になりたい 疲れたあなたの寝顔を照らすの♪
♪あなただけの月になりたい 真っ暗なあなたの道を照らすの♪
♪満ちては欠けてゆく それが月の運命♪
♪何度姿形を変えても あなたの傍にきっといるよ♪」
「オ、オゥ‥‥響ガ歌っていマス‥‥! スゴク綺麗な声ネ!」
初めてのカラオケに感激するプエルタを見て、側にいた隼瀬と時雨も楽しそうに見ていた。
上品で、澄んだ声の響の歌に、盛大な拍手が送られた。
何人か歌い終えた後、最後に歌う時雨の番に。
「自分は、2曲歌います。1曲目は、この会を開いてくれた皆さんに感謝を込めて、もう1曲は、自分が作曲したものをグンベさんとリュインさんのために歌います」
何故二人のことを聞いたのは、これが理由だったようで。
1曲目は無難な曲をチョイスし、歌い終えると挨拶を。
「マイクを独占して申し訳ありませんが、もう1曲歌わせてもらいます。これは自分が作曲したものなのでアカペラとなりますが、聞いてください」
2曲目の内容は、恋人達のための歌で、曲調はバラードだが、響が歌っていた曲とは少し違っていた。
いつも使わない地声を使った優しい声で歌い、ソウジとリュインが聞いたことを気づくか、気づかないかくらいに歌詞に盛り込んでみた。
時雨作曲の『2人のバラード』には、響以上の喝采が送られた。
「あいつ、我らのことを‥‥」
「まぁ、いいじゃねぇか。俺らだって知ってる奴、そういないだろうから」
ご機嫌斜めになりかけているリュインを宥めるソウジだった。
続いては、響お得意の奇術。テーマは『光のイリュージョン』。
司会を務めているのは創璃。彼女が選ばれたのは、舞台度胸があるという理由からだった。
『それでは、美環 響さんによる幻想的な世界をお楽しみください。どうぞ!』
創璃の挨拶後に食堂が暗転し、響は指を振ると指先に青い光が宿り、その指を他の指に付けると赤い光が宿った。それを腕を振るなどしてパフォーマンスを何回か繰り返し、指先から光が色を変えながら移っていく神秘的で幻想的な世界を演出。
その間、生徒達の歓声や拍手が。
続いては、虚空に指を刺すとそこに次々と違う光が宿り、最後に指揮者のように指を振ると虚空に留まっていた光が一斉に上へと立ち昇った。
色とりどりの数多の星を見ているような錯覚に陥った会場にいた参加者達は、しばしその光景に見とれていた。
『続きましては、光の中での社交ダンスです。微笑の君のお相手に立候補される方はいらっしゃいませんか?』
(「このような場で披露できるような芸は、社交ダンス系しかりませんね。場にそぐわない気がしましたが、私の思い過ごしのようでしたわ」)
そう考えたエリザは、響のパートナーに立候補した。
『ありがとうございます。それでは、響氏とエリザ嬢の社交ダンスをお楽しみください』
「美しいレディ、私と踊っていただけませんか?」
「はい‥‥」
気障に誘う響にスカートを摘んでお辞儀するエリザ。
その後、カラオケ機材から社交ダンスに相応しい曲を盟子が流し、華麗なダンスが始まった。
澄み切った夜空に光り輝く色とりどりの星の下で、2人は流暢なステップで踊り始めた。
月の王子様と星のお姫様。
そのような呼称が踊っている2人に最もふさわしいだろう。
ダンスが終わった後、2人は最後まで見てくれた参加者、教師陣に礼儀正しくお辞儀した。
『ありがとうございました。華麗なダンスでしたね。宴会芸ですが、他に立候補される方はいらっしゃいませんか? 参加は自由ですのでお気軽にどうぞ』
その後、男子生徒達による簡易ヒーローショー、女子生徒有志による恋愛寸劇が行われた。
その頃の着ぐるみパフォーマー、朔月はというと‥‥。
「考えてみりゃ、俺、メシまだ食ってなかったなぁ」
着ぐるみの頭部分を取り、食事の最中だった。
着ぐるみパフォーマンスだが、長時間していてはいずれバテてしまうので小休止も必要である。
「よっしゃ、充填終了! パフォーマンス再開だ!」
それと同時に、創璃が食堂のおばちゃん達によるパフォーマンス開始を告げた。
おばちゃん達のパフォーマンスは、な、何と!!
『いい年こいてあんなことやるなよ!!』
参加者全員、唖然、呆然となるのは無理も無い。
何故なら、おばちゃん達は皆、黒いバニーガール姿、網タイツ、黒のハイヒールで後ろに羽根をつけまくりという年齢、体型をまったく考えていない衣装で声高らかに楽しそうに歌いながらラインダンスをしているのだから!
平均年齢50歳を越えているおばちゃん達が‥‥である。
衰えを知らないおばちゃんパワー、恐るべしっ!
そんなことまったくお構いなしの朔月は、ラインダンスを盛り上げるため自分も踊り始めた。
終わったら拍手するのが礼儀、と言い聞かせ、参加者達は苦笑しながらおばちゃん達に拍手を送った。
●デザートはいかが?
催し物が一通り終わった後、眞耶はお手製のデザートを各テーブルに配った。
ケーキの甘さは食べる人に合わせて作ったと説明した後、食べる人が自分で好きなように取ってもらうように用意してある。
「皆さんが召し上がるケーキの中には、コインが入っているものもあります。当たった方には、クッキーをお渡します。では、1口どうぞ」
眞耶の説明が終えると、甘いものが好きな参加者達はケーキを食べ始めた。
口の中に違和感を感じたのは、食堂の隅でケーキを食べていた永一だった。
「‥‥俺が当たりか?」
コインを眞耶に見せ、そう訊ねる永一。
「はい、当たりです。永一兄はん、おめでとうございます」
「あ、ありがとう」
照れた永一は、眞耶から受け取ったクッキーを夜食に食べてみようかと考えた。
●宴もたけなわ
忘年会が終わりに近づいた頃、プエルタの顔色が優れなくなってきた。
「隼瀬、撃墜ノ知らせヲ聞いた時ハ驚きましたガ‥‥誤報だったようデ‥‥安心しまシタ。私ハちょっと、失敗しちゃいましタ。機械音痴ガ祟りましたデス、あはは‥‥。次ハ、頑張りマス‥‥」
「ああ、次、頑張ればいいんだ。疲れたようだね、部屋に戻ろう」
コクンと頷くプエルタ。
「皆さん、私ハそろそろ失礼しマスネ! お疲れ様デシタ! 楽しかったデス!」
皆に挨拶した後、プエルタはふらつき倒れてしまった。
「‥‥ッ、大丈夫デス、よね‥‥? 楽しんでる皆ニ、こんな様ヲ見せる訳ニハいきまセン‥‥ッ!」
無理に立ち上がろうとしたが、それを見かねた三崎がプエルタを抱き上げた。
「無理をするな。負傷しているのなら、部屋で大人しくしていろ。おまえは、自分にとって大事な生徒なのだぞ。これ以上の負傷は許さん!」
「ミ、ミサキ‥‥?」
面識無い三崎の行動に驚いたのは、抱きかかえられた本人だけでなく、側にいた隼瀬、参加者全員もそうだった。
「アプサラス教官、この生徒に『練成治療』を頼む」
「はい」
アプサラスの『練成治療』のおかげで、プエルタの傷は幾分か癒えた。
少しは楽になったのか、プエルタは眠りについた。
「皆‥‥無事で本当によかった‥‥」
大規模作戦がまだ続いているのだろうと思ったのか、寝言でそう呟いた。
「そこのおまえ、この生徒の部屋に案内してくれないか」
「は、はい。俺、彼女と相部屋ですから」
隼瀬に案内され、寮の部屋までプエルタを運ぶ三崎に感謝の気持ちを込めた拍手を送る参加者達と食堂のおばちゃん達。
「聴講生になって4ヶ月弱経過したわね。当初のささくれだった心情がほぼ霧散となったのかしら?」
そう自覚した悠季は、『妬心と嫌悪』の対象であるカンパネラ学園の生徒が『信頼と友愛』の仲間になるにつれ、自分の気持ちの移り変わりに驚いた。
「それに、想い人すら得られるとはねえ‥‥」
この気持ちを携えて、前向きに進んで行きたいと思えるのは幸せなことだ。
悠季には今後も信頼と友愛、想い人への気持ちを忘れないでほしい。
「皆〜そろそろお開きにしましょう〜。後片付けをするわよ〜。用事がある生徒さんや先生方は帰ってもいいですよ〜♪」
盟子がお開きを告げると、一部の生徒、教師陣を除く参加者は後片付けを手伝った。
「新入生の皆は〜お手伝いしなくてもいいわよ〜。帰る前に〜手芸部員の皆からプレゼントを受け取ってちょうだいね〜♪」
食堂出口には、バスケットを持った手芸部員達が新入生に小さな紙袋を手渡していた。紙袋の中身は、手芸部員が心をこめて着くった『カンパネラ学園校章ワッペン』だった。
新入生や在校生、教師陣、食堂のおばちゃんを含めるとかなり大量に作らなければならないが、手芸部員達は連日徹夜して頑張って作成した。
受け取った新入生達は「ありがとうございます!」と礼を述べ、食堂を去っていった。
「さ、後片付けしようぜ!」
朔月は着ぐるみの頭部だけを取り、後は着たまま後片付けを始めた。
「無礼講ではありますけれど、やはりきちんと礼節は保ちたいところですわね」
エリザは、皿を重ねては少しずつ食堂に運び、食堂のおばちゃん達と洗い物を始めた。
「はぁ‥‥やはり、こういう時には隣に誰か欲しいものですね‥‥」
片付けの手伝いをしながら、ため息とともに一言呟く春奈。
元気ブルマ娘のファーリアは、率先して後片付けを手伝っています。
「片付けは率先してやります! 何かお手伝いしておかないと、申し訳ないような気がしますので‥‥」
テキパキと後片付けをしているファーリアを見て、感心する食堂のおばちゃん達だった。
手芸部員達も途中から後片付けに合流したので、後片付けは早めに終わった。
「皆〜ご苦労様〜。この後はゆっくり休んでちょうだ〜い。来年も食堂をよろしくね〜。美味しい食事を作るわよ〜。ね、皆〜」
うんうん、と頷く食堂のおばちゃん達。
●宴の後の恋人達
永一は、眞耶と朔月を寮の空き部屋まで案内した。空き部屋に泊めることは許可されたのは、盟子の力添えがあったからだ。彼女達だけではなく、聴講生は特別に寮の空き部屋に泊まることを許可されている。
「永一兄はん、送ってくれてありがとうございました」
「いや、このくらいのことはしないと。いつまでも、きみの世話になるわけにもいかないからな」
いいムードの2人を冷やかそうと思ったが、朔月は「じゃ、おやすみ♪」とウィンクして先に部屋に入った。
「来年もよろしくな、眞耶くん」
「こちらこそ‥‥よろしくお願いします‥‥」
この2人の恋愛は、少しだが進展したようだ。
さて、もう一方の恋人達はというと‥‥。
「飲み過ぎて酔いつぶれたのはどっちだよ。ったく、しょうがねぇなあ‥‥」
酔いつぶれるなと言った本人が酔いつぶれたことに、ソウジは呆れた。
食堂ではソウジの膝を枕にして寝てしまったリュインだが、今は彼のベッドを占領している。
酔っているのか、ソウジに会えたことに照れているのか、リュインの顔は赤かった。
「こいつの顔は赤いのは、酔いのせいだろうな。さて、俺も寝るとするか。おやすみ、俺の恋人‥‥」
眠っているリュインの頬にそっとキスすると、ソウジは隣の部屋に置いてあるソファで寝ることに。
2009年も、皆にとって良い年でありますように‥‥。