タイトル:元傭兵新妻のお願い!マスター:竹科真史

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/23 07:47

●オープニング本文


 ごく普通の男女が恋をし、結婚することになった。それは良いのだが、ひとつだけ問題が。

 女性は‥‥傭兵だった。

 能力者であるキャシーは、戦いに身を投じる日々を送りながらもごく普通の恋愛をし、ごく普通に結婚することを夢見ていた。
 そのチャンスは、神様がくれた贈り物のように突然やって来た。
 友人の婚約パーティーで知り合った新聞記者である真面目な男性、ランディと知り合ったことで、その夢は現実となった。
 お互い多忙なためにすれ違いが多かったが、スケジュールを調節しあってはデートをしたり、携帯で話したりして付き合っていた。
 何度目かのデートの帰り、キャシーはランディから指輪を受け取った。
「キャシー、結婚しよう。きみを両親に紹介したい」
 プロポーズの言葉に、キャシーは思わず泣いてしまった。

 数日後、キャシーはランディの両親に紹介された。
 彼の母親は「可愛いお嬢さんね」とキャシーを気に入ったようだが、父親は、キャシーが能力者であることが気に入らないので、彼女にある条件を突きつけた。

「うちの息子と結婚したかったら、傭兵を辞め、普通の女として暮らすんだ」

 彼と結婚できるのなら‥‥と、キャシーは傭兵を辞め、普通の女性として生活する道を選んだ。
 こうして二人の結婚は許され、無事教会で結婚式を挙げた。
 新婚旅行から帰り、キャシーはごく普通の主婦としての生活を始めることとなった。
 スーパーマーケットの帰り、複数の猫型キメラが突然現れて街で大暴れ。
 それを見て普段抑え込んでいた傭兵の血が騒いだのか、キャシーは護身用にと常に持ち歩いている小銃で一匹ずつキメラを倒した。
(「しまった! あたし、傭兵辞めたんだった‥‥。このことがお義父様にバレたら離婚させられるわ!」)
 大勢の目撃者がいるので、誤魔化すことは不可能だ。
 現場はランディの実家から遠く離れているので噂になることは無いかもしれないが、キャシーはものすごく不安になった。
 その不安は、ランディの両親が近々新居に遊びに来るという知らせがあったことでますます大きくなった。
「このままじゃ絶対にバレてしまうわ‥‥そうだ!」

 キャシーは、能力者達に何とか誤魔化してもらおうと一計を案じ、UPC支部に依頼を要請した。
「お願い! あたしがキメラを倒したってことをダーリンのご両親、特にお義父様にバレないよう誤魔化して! ご両親は、来週の日曜日に家に来るの。何とかして!」
 能力者には、ホームパーティに招かれた客として依頼を受けて欲しいとのこと。

 誤魔化しがきくかどうかは‥‥神のみぞ知る。

●参加者一覧

鳳 湊(ga0109
20歳・♀・SN
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
漸 王辰(ga3292
20歳・♂・GP
樹エル(ga4839
18歳・♀・BM

●リプレイ本文

●夫婦を交えた作戦会議
「一般人との結婚、そして離婚の危機。結婚式で『お姫様抱っこ』に憧れる俺には、他人事とは思えないね。一般人の父親の目に、息子の相手が能力者であることがどう思われているのか‥‥」
 先輩能力者である依頼人を助けたいということもあり、事情を詳しく知りたがっているホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)。
「今回の依頼は『誤魔化すこと』なんですね。納得いきませんが、依頼なので仕方がありませんね‥‥」
 あまり乗り気ではないが、引き受けたからには遂行すべきという責任感が強い鳳 湊(ga0109)。
 樹エル(ga4839)は、先輩能力者であるキャシーの新婚生活を守りたいという理由で依頼を受けた。

 三人を玄関先で出迎えたのは、依頼人のキャシーだった。
「皆さん、お忙しい中、あたしの依頼に応じてくれてありがとうございます。以前にお話しましたが、あたし達の家にくるダーリンのご両親、特にお義父様を上手く誤魔化してほしいんです。傭兵を辞め、ごく普通の主婦として生活しているあたしが、街中でキメラを退治したということをお義父様に知られたくないんです‥‥」
 知られてしまったら、義父は「約束を破ったな!」と怒るかもしれないと不安がるキャシーの肩を抱き、大丈夫だよと慰める夫のランディ。
「人を守るために戦った行為に対しては、嘘をつく必要性は無いと思います。人を守る行為に何の罪があるのでしょうか? キャシーさんの行為は、正当防衛と同じことではないのでしょうか?」
 湊の言うことは尤もであるが、キャシーはまだ不安がっている。
「あの‥‥できればキャシーを不安がらせるようなことを言わないでいただきたいのですが‥‥」
 控えめに言うランディに、念を押すホアキン。
「要は、あんたのお父さんに戦闘行為がバレないよう話を合わせれば良い、んだな? ランディさんは、キャシーさんがキメラを倒したことに関してはどう思っているのかな?」
 そう聞かれたランディは、湊が言うようにキメラから一般市民を守るための正当防衛だと思うと答えた。
「お父さんは何故、能力者の結婚相手が気に入らないのかな?」
 能力者は皆、そのことを疑問に思っているだろう。
「それは‥‥父自身が若かりし頃傭兵だったからだと思います。子供の頃、戦場で友を失ったという話を聞いたことがありますから」
 その話が本当であれば、現役傭兵であるキャシーも自分と同じ思いをすることになると義父は考え、彼女に普通の女性に戻り、幸福な人生を送って欲しかったのだろう。
「成る程‥‥。それで、傭兵を辞めるという条件を突きつけ、結婚を許したということか。元傭兵とはいえ、今が一般人であるお父さんが戦闘を危険と感じることが事態の根源なんだろうな」
 ホアキンの言葉に、そうかもしれないと納得する湊とエル。
「私は、鳳さんがキャシーさんの後輩で、私はキャシーさんが現役傭兵だった頃にキメラから助けてもらったエミタを除去した元傭兵の一般人、という案を考えました。ホームパーティには、鳳さんは偶然訪ね、私は助けてもらった恩人をようやく捜し出し、てお礼を言いにきたところを招かれたということにします」
 エルが言うようにエミタは除去可能だが、費用が高額(最低でも数十万)なのでUPCはあまり推奨していない。
「エル、あなたの考えはなかなかのものだね。それなら、お父さんを上手く誤魔化せるかもしれない。仮に真実を知ってもていたとして、彼女が戦ったことを問いかけるようであれば、私はこのことを言ってあげたいと思うね。もちろん、キャシーにも。他人を守るために戦ったことを恥じる必要もないからね」
「では、休暇中の私と樹さんがキャシーさんの所に訪れていたら「任務中の能力者から救援要請があり、その場にいたキャシーさんにも避難誘導の援助として協力して貰った」という設定で誤魔化しましょうか。キャシーさん。キメラを退治した時のことを詳しく聞かせてください。情報が無ければ、嘘をつくことができませんから」

●どう誤魔化そうか
 情報を知りたいという湊の質問にキャシーはこう答えた。
 スーパーマーケットで夕飯の買い物を終え、帰宅する途中に猫型キメラが突然現れて人々を襲っていたので、助けるために護身用の小銃で一匹ずつ倒したとのこと。
 その翌日、新聞に小さく「買い物帰りの主婦、キメラから一般市民を守る」という内容の記事が掲載された。注意深く見ないと気づかない程度に。目撃した新聞記者がいたのか、現場にいた誰かが新聞社に報告したのだろう。
 ランディの実家と夫妻の家に届く新聞は違うのだが、その記事が他の新聞にも掲載されている可能性が無い、とは言い切れない。
「事情はわかりました。‥‥ですが、このままで本当にいいのでしょうか? 嘘で固めたスタートで、本当の幸せなど来ないと思います。お義父様だって、嘘を言われるよりは、素直に真実を語って欲しいと思っているかと‥‥。それに、たとえ能力者を嫌っていたとしても、平和を守るためだったら納得してくれるのではないでしょうか?」
 嫁であるキャシーを娘同然と義父が思っているのであれば、子供の心配をしない親はいないのですからとキャシーを説得する湊は、嘘をつくことを躊躇った。
「あなたが言うことは尤もだけど、今回の依頼は『誤魔化すこと』だよ。それをわかってて参加したんじゃないのか? 俺の案は、キャシーは『キメラ掃討に偶然居合わせ、避難誘導を買って出た戦闘経験豊富な主婦』ということにし、湊は『休暇中に偶然キャシーに会い、キメラ掃討に居合わせた後輩傭兵』役、エルは『助けてもらった元傭兵の一般人』役、俺は『キメラ掃討に失敗し、やむなくキャシーと湊に応援を頼んだ未熟な傭兵』役を演じて上手く誤魔化すってものだけど‥‥どう?」
 ホアキンの案に、それは良いですねと同意するエル。
「元傭兵だったとはいえ、キャシーさんとは知り合いなので戦闘スキルや活動地域等を把握したいです。キャシーさん、その辺りのことを詳しく教えてください」
 積極的に協力するエルを心強く思えたキャシーは、戦闘スキルと主な活動地域を教えた。

 夫妻との話し合いの結果、ホアキンは猫型キメラと戦闘を行っていた能力者で、湊とエルは巻き込まれたという方針で話を合わせることに。

●ホームパーティ開催当日
 ホームパーティ当日は、キャシーの心がどんよりなのに反し、雲ひとつない晴天に恵まれたので急遽ガーデンパーティに変更。
 キャシーと湊、エルが料理を作っている間、ホアキンとランディはテーブルと椅子を庭に設置し、白いテーブルクロスを木製のテーブルにかけ、中央に花を生けた花瓶を置いた。
 準備が完了したのを見計らったかのように、ランディの両親が新居を訪れた。
「待ってたよ、父さん、母さん」
「ようこそいらっしゃいました。お庭のほうへどうぞ」
 義父には、キャシーはどのように映っているのだろうか?
「初めて会った時はやや無骨なカンジだったが、今は女らしくなってきたようだな。息子とはうまくやっているか?」
 褒め言葉、と受け取って良いものかどうかと悩んだキャシーだったが「ありがとうございます。ダーリンとは仲良しですわ」とぎこちない笑顔で言った。
「あら? そちらの方々は?」
 義母が、能力者達に気づき「紹介してくださらない?」と言った。
「はじめまして、ホアキン・デ・ラ・ロサといいます。キャシーの戦友だった者です」
 低い響きながらも、男らしい声で自己紹介するホアキンにポッとなる義母。惚れたのだろうか?
「私は、キャシーの後輩の鳳 湊といいます。休暇なので久々に訪ねましたところ、ホームパーティを催すとのことですので、お言葉に甘えてお邪魔しました」
 上手く誤魔化せたか、と不安な湊。
「こんにちは、樹エルです。私も傭兵でしたが、今は一般人です。傭兵時代は、キャシーさんに何度か助けていただきました。その時のお礼が言いたくてお邪魔しました。ご迷惑‥‥でしょうか?」
 遠慮がちに自己紹介するエルに対し「パーティは、大勢のほうが楽しいわよ」と言う義母に「そ、そうだな‥‥」と渋い表情で合わせる義父。

 全員揃ったところで、シャンパングラスで乾杯。未成年であるエルはノンアルコールカクテルだ。
 キャシーは、いつキメラの話題を義父が振るかと思うと気が気でないので、あまり楽しめなかった。
「キャシーさん、このカナッペ美味しいですね」
 キャシーを安心させるため、エルが話しかけた。
「そ、そう? ありがとう‥‥」
「元傭兵だから軍隊用の食事が並ぶかと思ってたが、パーティ用料理が作れるとは意外だな」
「父さん、失礼だよ。キャシーは料理は上手なんだ。アウトドア料理も得意だけど、家庭的なものも得意なんだから」
 サンドイッチを頬張りながらそう言う父に対し、ランディはキャシーの料理の腕前を話す。
 キャシーだが、傭兵になる以前から料理が得意だったということを彼女の名誉のために言っておこう。
「キャシーさんのような可愛くて、料理上手なお嬢さんがお嫁さんというのが嬉しいわ。ねえ、あなた?」
「ま、まぁな‥‥。傭兵だから、家事ができないだろうと高を括っていたが、主婦業をちゃんとこなしているようなので安心した」
 コホン、と咳払いした義父は、キャシーにあることを聞いた。

●本題突入
「ところで、以前新聞で『主婦がキメラを退治』という見出しの記事を目にしたのだが‥‥それはおまえさんではあるまいな?」

 恐れていた会話が出たことに、ドキっとするキャシー。
 能力者達は、冷静に例の作戦を実行することにした。

「キャシーが、キメラを退治したことは事実です」
 真面目な表情できっぱり言う湊。
(「な‥‥! 話が違うじゃない!! あ〜お義父様に怒られるわ〜!!」)
 仰天な表情を隠せないキャシーはかなり焦った。
「湊が言うことは事実だが、それは俺がキャシーに協力を要請したからです。湊を含む能力者がいたものの、人手が足りなかったのでかつての戦友だった彼女に避難誘導を頼んだのです。その時に、キメラが一般人に襲いかかろうとしたので退治しただけのこと。それを偶然見た新聞記者が、キャシーがキメラを倒したのだと勘違いしたのだと思われます」
「ホアキンさんが言っていることは本当です。その助けられた一般人というのは、私なのですから」
 上手くフォローするホアキンとエル。
 精一杯神妙な顔を作ったホアキンは、ランディの両親に深々と頭を下げて謝罪した。
「理由はどうであれ、我々の未熟さゆえキメラを取り逃がしましたが、彼女の戦闘参加と誘導のおかげで、被害を最小限に食い止めることができました。一般の方々を護ってこその能力者なので、大変お恥かしい限りです‥‥」
 キャシーが事態の解決に貢献した点を遠回しに伝えるホアキンの言葉に、義父は渋い表情を更に渋くした。今にも怒り出しそうなほどに。

「おまえさんたちの言うことはわかった。それと、私はたしかにキャシーに『傭兵を辞めろ』と言ったが、それは『戦場に赴くな』という意味だったのだが‥‥。戦うな、と誤解されても仕方が無いな。今回の件は、街の平和を守るためという理由だからやむを得ん。戦場に赴くことは反対だが、市民の安全を守るための戦闘は反対しない。‥‥ということで、今回の一件はチャラにする」
 渋い表情が一瞬緩くなり、ぎこちないながらも精一杯の笑みを浮かべる義父。

「お義父様‥‥申し訳ございません‥‥。そのことを知られたくなかったので、あたしはこの方々に口裏を合わせるよう、お願いしたのです。初めて会ったあの時の言葉、傭兵を辞めろということは、二度と戦うな、ということだと思いましたので‥‥」
 厳しい義父の優しい一面を見たキャシーは、堪えきれずに涙を流した。
「キャシー、泣かないで。父さんはきみのことを理解してくれたんだから。ね?」
「ダーリン‥‥!」
 ランディの胸に顔を埋め、キャシーは堰を切ったかのように泣き出した。

「何で本当のことを言ったんだ?」
 湊を問い詰めるホアキン。
「私、嘘をつくのが嫌いですから。結果オーライですから良いじゃないですか」
 しれっとした顔で言う湊に「二人にやきもち妬いているのか?」とホアキンが茶化すので「違います!」とついムキになって反論する湊だった。
「まあまあ、お二人とも。何はともあれ、キャシーさんとお義父様が和解したんですから‥‥」
 二人を落ち着かせようとしているエル。
「あらあら、楽しいパーティに涙は似合わないわよ。キャシーさん、これで涙をお拭きなさいな」
 ハンカチを差し出す義母。
「お義母様‥‥ありがとうございます‥‥」

●大円団?
 キャシーが泣き止んだところで、ガーデンパーティが再開された。
「キャシー、今度来る時はジャンバラヤを作ってくれないか?」
 ジャンバラヤとは、スペイン料理のパエリアが起源といわれている米を使ったアメリカ料理で、義父の大好物である。
「作ったことがありませんので、今度お越しになる時まで作れるようにしておきますね」
「楽しみにしてるぞ」
 リラックスして義父と会話しているキャシーを見た能力者達は、自分達がいなくても二人は上手くやっていけるのではないかと思った‥‥というのは内緒である。

「このベーグル、美味しいよ。湊も食べないか?」
「私は、今マフィンを食べていますから結構です。ブルーベリー、美味しいですよ」
「クラムチャウダーも美味しいですっ♪ キャシーさん、本当にお料理上手なんですねっ♪」
 テーブルに並べられた料理に舌鼓を打ちながら会話をするホアキン、湊、エルであった。

「パーティを催して良かったわね、ダーリンっ♪」
「そうだね、キャシー♪」
 寄り添いながら、ガーデンパーティを楽しむキャシーとランディ。
「仲が良いわねぇ。お父さん、私達の若い頃を思い出しませんか?」
「う、うむ‥‥。私達は、あそこまで甘々ではなかったがな」
 年甲斐もなく、顔を赤らめる義父は、息子夫婦に負けじと甘い雰囲気を漂わせている妻に「やめないか」と注意したが、それはかえって妻を増長させてしまったようだ。

「俺も早く『お姫様抱っこ』ができる相手が欲しいな‥‥」
 義父母の熱い様子を見て、ホアキンは彼女が欲しくなった様子。
「終わりよければ全て良し、と言ったところですね。ホアキンさん、早くお相手が見つかると良いですね」
 先程茶化されたお返し、と思われる皮肉を言う湊。
「ハッピーエンド、ですね。すごく羨ましいです」
 ホアキンに同調したかのように、お相手が欲しいと思ったエル。

 どうなることかと思われた依頼の結果:成功‥‥?

 成功、と思っていただきたい。アツアツ夫婦が二組もいるのだから。
 能力者達にも相応しいお相手が現れることを祈りつつ結果報告終了‥‥ということで。