●リプレイ本文
●傭兵出撃
「ゼオン・ジハイド? ‥‥ああ、あのすぐにやられたザ・デヴィルのか。悪いな、パッと出て消えてゆく奴を覚えれるほど物覚えは良くないんでな」
秋月 九蔵(
gb1711)は、風祭・鈴音が騎乗しているステアーがいると思われる方角を見て毒づく。
ナイトフォーゲルでの戦闘が初めての糸井・創璃(gz0186)を無事に帰還させるべく北柴 航三郎(
ga4410)は緊張している創璃を落ち着かせ、自分を奮い立たせるために温かい声で話しかけた。
「僕らがしくじれば街の人達や友軍が危ないから‥‥落ち着いて、しっかりやらないとね。皆がついているから大丈夫だよ」
火器管制、モニター明暗度チェック、無線感度チェック、発動機の出力チェック、空戦用フラップ動作チェックを念入りにし、愛機を万全の体勢にした佐賀繁紀(
gc0126)が自己紹介の後に「空戦、初めてだけど」と小声でボソリ。
「糸井さん、この戦争にルールは無い。ただ目の前のバグアをミンチにするだけだ。決して自らミンチになるな、それだけだ」
「は、はいっ!」
ルール無用、と聞き、自分にできるかと不安になる創璃。
「何か‥‥手掛かりが見つかればいいんだが」
創璃同様、初めてのナイトフォーゲル戦になる沁(
gc1071)は、民間人救出は欧州軍に任せることに。
「ゼオン・ジハイド? 上等だ、道化が恐怖に負けてどうする。恐怖を乗り越え、全ての敵を倒し、壊して道化は嗤ってみせよう」
戦意は熱く燃えているがゼオン・ジハイドという強大な敵に対する恐怖、死の恐怖があることを忘れていないレインウォーカー(
gc2524)は自身を嘲笑う。
(「視界が悪い状況での防衛ラインの死守‥‥辛い状況だけどやるしかない‥‥!」)
砂塵舞う上空を見上げ、依頼の重要性に緊張する白咲 澪(
gc3075)。
「まさか、こんな時にゼオン・ジハイドなんかが現れるとはね‥‥。幸いなことに相手に戦う気はないみたいだし、確実にやるべき事をこなすわよ」
レザーグローブをはめながらユウナ・F・シンクレア(
gc3168)はやる気を漲らせる。
「み、皆さん‥‥わ、私、こういう布陣を考えたのですが‥‥」
エヴリン・フィル(
gc1479)は全機体の移動を合わせることを考え、移動速度が高い機体を防衛網にし、それ以外は抜けてくる敵機を道を塞ぐように事前に移動して攻撃することを提案した。
「げ、厳密ではありませんけれど‥‥」
その案に異議はなかったので、前衛が攻撃、後衛が迎撃の2班に分かれることに。
アタッカーとなる前衛はリュイン・カミーユ(
ga3871)、九蔵、繁紀、レインウォーカー、ユウナ。
サポート的後衛は航三郎、沁、エヴリン、澪、創璃。創璃は、戦力からして後衛にならざるを得ない。
リュインとレインウォーカー、繁紀とユウナ、航三郎とエヴリン、沁と澪がロッテを組み、ロッテを組む相手がいない九蔵は単独行動に。
「新たなゼオン・ジハイドか。高みの見物とは良い身分だが、いらん手出しが無いのは面倒が無くて良い。脆弱かどうか、その目で確かめるが良い。皆、いくぞ!」
リュインの一声が出撃の合図となった。
●戦闘開始
「来た、ヘルメットワーム5機が。本星型も混じってるわね」
ユウナが確認したのは小型ヘルメットワーム、強化小型ヘルメットワーム、爆撃型ヘルメットワーム、本星小型ヘルメットワームが1機ずつ縦に並び、5編隊でUPC欧州軍を襲撃しようとしていた。
「糸井は後退、北柴は索敵を頼む。情報はデータリンクで共有だ」
「了解、ジャミング探知は任せてください」
布陣の最後尾に位置し、最終防衛ラインを敷く航三郎機はエヴリン機に護衛されながらジャミング探知を行い、索敵結果を素早く全機にデータリンクを。
戦闘中でも敵後続との接触までの時間算出、カウントし、進入方向を早期に察知し、進路上に味方機が展開して迎撃できるよう迅速な行動を。その間、味方機の損傷度を把握し、連携補助を行えるようにしている。
「糸井さん、武器として使えるのは3.2cm高分子レーザー砲だけだよ。くれぐれも間違ってグレネードランチャー撃たないでねっ。僕らの前には出なくても良いから、自分と敵機の位置を見失わないように自衛を優先に考えて動いてほしい。危ない時には機体スキルの『幻霧発生装置』を使って切り抜けるんだっ」
「糸井さん、きみも貴重な戦力なんですよ。危なくなったら、私達がフォローします」
2人に励まされた創璃は、駄目でもともと、とやってみることに。
「レインウォーカー、いくぞ」
「ああ。行くぞ、相棒。ボクらの初陣だ、踊るぞ」
左翼に位置するリュインとレインウォーカー、右翼に位置する繁紀とユウナは航三郎からのデータを入手次第、敵編隊の列を乱すように突撃。
「厄介者の相手より、まずは目の前の敵に集中よ! 佐賀さん、いくよ!」
「これがヘルメットワーム、これが本星型か。噂に聞いていた敵の超絶機動と言うやつか。だが畳んだる!」
本星小型ヘルメットワームの動きをモニター越しに食い入るように見ながら、繁紀は味方機の攻撃で強化フォースフィールドが途切れた瞬間にホーミングミサイルJN−06を叩き込んだ。
残りを叩き込み撃破しようとしたが、残りのヘルメットワーム4機が一斉反撃に。
「おおっとぉ!」
攻撃を喰らうまいとブーストを使用し、ブラックアウト寸前になりながらも急旋回による回避。
「このGは癖になりそうだぜ」
回避しつつ、狙撃されないよう小型ミサイル「身外身」を目くらましとして発射して、本星小型ヘルメットワームにガトリング砲「嵐」一連射し反撃。それが終わると一旦バンクし、再び戦闘位置に着くと再度反撃したが大打撃には至らなかった。
「基本的には本星優先だけど、強化フォースフィールド発動時に攻撃が飽和しても仕方がないから組ごとに臨機応変に交戦対象は調整しなきゃね」
縦に並んでいるものの中で自分と距離が遠い小型ヘルメットワームにUK−11AAMで攻撃したユウナは、自機に接近しつつある敵機との間合いを詰めヘビーガトリング砲で連携攻撃を。できるだけ敵に抜かれないよう注意を払ったが、相手の数が多いこともあり標的にされた。
「視界不良は情報でカバーできるけど、こう敵が多いんじゃ簡単に倒せないね」
でも負けない! とヘビーガトリング砲メインで1機ずつ攻撃。
前衛の一斉攻撃により綺麗に並んでいたヘルメットワームの列は乱れ、バラバラに動き始めた。
右翼と左翼の間に位置する九蔵は被弾を避ける、移動のために『マイクロブースター(Ver.Robin)』を多用し、砂嵐に隠れて機体速度に頼った死角からの奇襲をメインに爆撃型ヘルメットワームを狙う。
「積極的に攻撃してこないな。装備が他と比べてお粗末な奴は爆撃型か?」
案の定、狙いを定めたのは爆撃型ヘルメットワームだった。
ドッグファイトで一気に墜落というほど簡単に倒せるほど弱い相手ではない。
攻撃力は高いが、リロード可であっても装弾数1発のR−703短距離リニア砲を積極的には使わず、高性能ラージフレアとスモーク・ディスチャージャーを使いわけての集中攻撃、後衛の援護により漸く墜落。その間、幾度となく反撃されたため機体は損傷したが。
「ハン、ヘルメットワームごときが‥‥。『ドリーマー』だ、覚えておけ。お前らを叩き落す奴のTACだ!」
ついでに、と小型ヘルメットワームを狙ったが逃げられた。それは後衛に任せることにし、仲間との連携で爆撃型を墜落させたことを皆に知らせ、常に場所の確認をしていた本星小型ヘルメットワームの機動癖を目を凝らし、見切ると先読みして集中攻撃を仕掛けたが、その最中に強化小型ヘルメットワームが背後に出現。
「チッ、ケツに付かれたか」
本星小型ヘルメットワームを狙いつつ『アリスシステム』を使って避けたが被弾してしまった。爆撃型との損傷に更にダメージが加わったため戦闘離脱することに。
「クソ! ULTにオーバーワーク分請求し直してやる!」
●砂塵奮戦
生存重視で強化し支援メインで動いている航三郎だったが、最終防衛ラインまで抜けてた強化小型ヘルメットワームをエヴリンと連携して時間差で短距離高速型AAMを1発、スナイパーライフルRで追撃、リロードで確実に落とし、エヴリンは交戦中の前衛との距離を詰め過ぎないように待機し、手薄の敵機をD−013ロングレンジライフルで狙撃。
視界不良ゆえ、目視のみでなく航三郎を通して得た観測データも計算に混ぜ慎重に攻撃したものの、数が多い、乱れても再度列を揃えたということもあり容易に撃墜できないでいる。
「視界が悪い‥‥でも、動きの先を‥‥狙えば‥‥」
本星小型、爆撃型対応班の交戦中に敵機が近づいたので被害の少ない味方機や沁と澪に対応してもらうよう願ったが、手薄になった強化小型ヘルメットワームは速度減少や回避行動を狙い、対応までの時間稼ぎを。
「い、糸井さん‥‥骸龍護衛から一時離れてください。き、来ました‥‥フィル機、迎撃に回ります! こ、小型と共に‥‥残る全機が一斉に前方に向かっています!」
攻撃に転じつつ、ヘルメットワームの警戒を緩めないエヴリンは交戦意思の無い間は情報伝達のみに。
「ゼ、ゼオン・ジハイド‥‥た、高みの見物が‥‥できるのも今のうちです‥‥!」
戦わないことには鈴音の強さはわからないが、余裕を見せているのが気に食わないので聞こえないようにぼやく。
「砂塵で視界は悪いが、カメムシとカブトガニの見分けくらいはつくだろう」
ヘルメットワーム4機が射程内に入ると、リュインは即座に『超伝導アクチュエータVer.3』で精度を高め、攻撃されながらも本星小型ヘルメットワームをスナイパーライフルD−02で狙撃。強化フォースフィールドを張るまでもない攻撃だと認識させるため、距離が詰まった小型ヘルメットワームは8式螺旋弾頭ミサイル1発発射後、接近して試作型「スラスターライフル」で本星小型ヘルメットワームの被弾箇所に撃ち込み削りに。
「本星型を優先して潰す。援護を頼むよぉ」
レインウォーカーは後衛に援護を任せると本星小型ヘルメットワームを優先的にH−044短距離用AAMとG−193レーザー砲で先制攻撃し、強化型フォースフィールドを張らせた後に接近し、突撃仕様ガドリング砲とRA.0.8in.レーザーバルカンで攻撃。
「最大出力だ‥‥喰い散らせぇ」
通常フォースフィールドに戻った瞬間を見逃さず『強化型SES増幅装置『ブラックハーツ』』を、至近距離まで接近し『フォトニック・クラスター』を使用後、本星小型ヘルメットワーム付近にいる小型ヘルメットワームを集中攻撃、撃破。
「小型だが1機撃破、次はどいつだぁ?」
本星小型ヘルメットワームを撃破すべく、レインウォーカーは危険を顧みず突き進んだ。
リュインは本星小型ヘルメットワームが強化フォースフィールドを張ったのでレーザー砲での攻撃に切り替え、消えるまで牽制攻撃。
消えたところを試作型「スラスターライフル」で高火力の攻撃を与えダメージ蓄積。一度張ると解除出来ない強化フォースフィールドの弱点を利用し、牽制攻撃と高火力攻撃を器用に使い分けながら敵の練力不足による喪失を狙い、フリー敵機を出さないよう臨機応変に対応した。
「何とか本星1機撃破だな。頼みの綱がなくなればこっちのものだ」
「油断は大敵ですよ、リュインさん‥‥」
前衛の援護を優先としている沁は、澪と共に後方から援護しつつ一斉に向かってきたヘルメットワームを長距離バルカンで小型ヘルメットワームを排除。
砂嵐で視界不良なので、予測できない状況はできるだけ避けたいと澪は味方機の動きを把握し、その他の動く影は敵機と見なし慎重に行動した。
「複数で来ましたか‥‥」
澪は敵機の数が多いことを確認すると『アクセル・コーティング』を使用し、前衛を通り抜けようとする小型ヘルメットワームをスナイパーライフルSG−01メイン、時折ホーミングミサイルを織り交ぜ、H−112長距離バルカンを牽制にし落としやすいところから切り崩しに。判別しづらい場合は、手近な相手から攻撃することになる。
「ここから先は、絶対に通さない‥‥!」
小型1機が襲撃を邪魔されまいと反撃したが、それに気づいた沁がKVボウガンで牽制し、小型帯電粒子加速砲の射程圏内に入ったのを見計らい撃墜。
「た、助かりました‥‥」
「いえ、無事で良かったです‥‥。まだ、油断できませんよ‥‥。強力な本星小型がまだ残っていますから‥‥」
「そうですね‥‥。私達の目的は敵機を倒すことであり、ゼオン・ジハイドを倒すことではありません」
その後、幾度となくヘルメットワームの猛攻撃を喰らいつつ、傭兵達は息の合った連携攻撃、抜かりないフォローにより敵機を1機残らず撃破し、UPC欧州軍は手間取ることなくスムーズに民間人を救出した。
●宣戦布告
「皆さんの手当てをしますね」
航三郎の『練成治療』で、はるか後方に位置し、傭兵達に守られた創璃以外の全員の傷が癒えた。
「皆さん、今回の戦闘は良い勉強になりました。ありがとうございました!」
次にナイトフォーゲル戦に参加する時は装備を整えることを決意しつつ、創璃は深々とお辞儀し礼を述べた。
「さて、ご挨拶といくか。皆、全力でボクから離れて」
レインウォーカーは愛機に乗り込むと、挨拶と称したG−193レーザー砲を放った。
「ゼオン・ジハイド、高みの見物かぁ。人を見下ろすのは愉しいかぁ?」
『随分と手荒なご挨拶ですね。人間は皆、そうなのですか?』
遠方より、姿を見せず傭兵達に話しかける鈴音。
「随分お高くとまりやがって、ゾディアックの代用品の癖に」
九蔵の一言に対しては何も言わなかった。
『人間を見下ろすのは愉しいか、ですって? 脆弱な人間を見下ろすことほど愉しいものはありません。本星小型ヘルメットワームとあなた方の戦いですが、なかなか面白かったですよ』
まだまだですがね‥‥と、鈴音はため息をついた。
「ひとつ聞きたいんだけど、ドーム要塞『α』に出現した『フォウン・バウ』とやらはあなた達の機体かしら?」
ユウナはフォウン・バウの話題を挑発しないよう気を付け、あくまでもさりげなく訊ねた。
『我々の機体、とだけ言っておきましょう。それ以上のことはお答えできません。お話すると楽しみが無くなるでしょう? 質問は以上ですか? 無いようでしたら、私はこれで失礼します。人間の中にも手ごたえがある者がいること、しかと見届けました。何所かでお会いできることを楽しみにしていますよ。あなた方が生きていれば、ですが』
楽しそうに微笑んだ鈴音は、また傭兵に会えることを楽しみにしつつ去っていった。
次の大規模作戦には、風祭・鈴音はゼオン・ジハイドの一員として傭兵達の前に立ち塞がる敵となるのだろうか。