●リプレイ本文
●廃墟の出会い
「綺麗な街だったのでしょうけど、すっかり廃墟になってしまいましたね〜‥‥。あっ、キメラに誰かが乗っているのが見えませんか〜?」
遠くから辺りを見渡す八尾師 命(
gb9785)は、廃墟と化した北京市内を縦横無尽に動き回るキメラ『九尾の狐』に跨っている風祭・鈴音(gz0344)を発見。
「ゼオン・ジハイドの11、風祭・鈴音‥‥厄介な」
鈴音を確認したイーリス・立花(
gb6709)が呟く。
「あいつが黒幕か。顔を覚えておこう。覚えるのは苦手だけどな」
攻撃してこないのでまずは観察、と鈴音を見据える翡焔・東雲(
gb2615)。
「あれがネームドというものか、初めて見た」
興味は無いが、敵に無防備である程俺は平和な頭をしていないと武器を構え攻撃に備えるネジリ(
gc3290)。
「あーあー、派手に壊してくれたな。片付けるの大変なんだけどなー」
「何とかも積もれば、ってのは、俺達もバグアも同じことだな。面倒になる前に、とっととカタを付けようぜ」
崩れた建物と大型狐を交互に見るユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)とタクティカルゴーグルで鈴音を視認中の鈍名 レイジ(
ga8428)は、藪蛇は御免とぼやきながら戦闘準備中。
「九尾の狐ですか。しかし敵ながら美しいですね。とても興味深い」
九本の尾、白銀の毛並みの大型キメラをじっくりと見るのは、これが初陣となる音桐 奏(
gc6293)。
「九尾の狐‥‥? 日本の昔話の登場していた‥‥だったか? 確かあれは‥‥金毛だったような‥‥死んだら石になったりしないだろうな?」
ネジリがいうように、中国の文献には金毛九尾狐、日本では陰陽師に退治され身体は朽ちたが執念は残り『殺生石』になったという説がある。
「天候も視界も足場も悪い、そしてキメラもなかなか凶悪そうとなるといつもより気を引き締めていかないといけませんね」
地面を踏み、足場の状況を確認するヨハン・クルーゲ(
gc3635)の言葉に全員頷く。
「ボクは荒巻 美琴(
ga4863)、よろしくね♪ これだけ大きいと、連携して攻撃を仕掛けるしかないね。前衛は牽制や陽動、後衛は距離を置いて射撃で少しずつ削るってのはどうかな?」
「そうするか。前衛は挟みうちでも四方に散るにしてもまとまらなければ良いって感じか? 後衛は炎弾を警戒し、正面に立たないように位置取りをしておけば自由に動いちまって良い気もするぜ」
美琴とレイジの意見を取り入れ、各自、どのように行動するか急いで決めた。
牽制、陽動担当の前衛は美琴、レイジ、ユーリ、ネジリ、大神 直人(
gb1865)、東雲。射撃と援護担当の後衛は奏、ヨハン、命、イーリス。
「人間達が来たようですね。この子相手にどこまで戦えるか、楽しみに見物させていただきます」
動き出した10人を見た鈴音はクスクス笑いながら『瞬間移動』でその場を離れた。
●狐退治開始
「離れたあの人のことより、今はキメラに集中しますよ〜」
九尾の狐と前衛を挟むような位置についた命は、いつでも『練成治療』と『練成弱体』による援護ができるようスタンバイ。
鈴音が離れると、九尾の狐は傭兵達を睨みながら走ってきた。大型は動きが鈍いと思われがちだが、これに関してはそうではないようだ。
「足場が悪いのに凄い機動性ですね〜。あの足を止めないとまずそうですよ〜」
「遭遇は容易とはいえ、油断はできませんね」
イーリスは暗視スコープと『探査の目』を併用し、九尾の狐がどのような様子なのかを事細かく伝えている。
「来たぞ。でかいな‥‥だが、潰す!」
眼前に迫る九尾の狐を前衛が攻撃しやすいよう、東雲は視覚を奪うべく照明銃で顔を狙う。打ち上げられた光の球は視覚を奪ったかのように見えたが、それはほんの一瞬だった。
「俺は前足を狙う。レイジ、後ろ足を頼む」
ユーリは『疾風』で回避力を上げ足元と尻尾に警戒しながら前足を狙い、レイジはそれに乗じて目潰しを狙い銃撃を。
「あまり一箇所に固まり過ぎていると、火の玉や尻尾を利用した薙ぎ払いといった大技の的になりますから気をつけてください」
前衛と後衛にある程度ばらついて行動するように指示する直人は、不安定な足元に気をつけバランス崩れを狙い足元を攻撃しようとする前に前衛陣に忠告。
一気に片付けようと炎弾を放とうとするので頭部集中的に切り替えた直人が妨害したものの、鋭い爪の餌食になりかけたが寸でのところで美琴に助けられた。
「危なかったね。まずは接近戦で敵の気を引いて、ある程度弱ったら全員で全力攻撃といこう。私も頑張ってみるから、そっちはよろしくね♪」
回避能力の高さを活かし、美琴は九尾の狐の気を引く囮役に。
「これでどうだ!」
僅かでも動きが止まった隙を隙を見逃さなかったレイジは目潰しを狙い銃撃。狙撃はうまくいったものの、片目だけしか潰せなかった。
「体勢を崩せれば、尻尾の排除や背に飛び乗ってみるのも面白いかもな。地面を叩きつけそうな尻尾に注意しておけば、一方的に攻撃を叩き込めそうだ」
周囲の足場状況、尻尾のリーチがどの程度あるか、腹下に潜れる位の隙間があるか見当を付け、まとまり過ぎないように位置を取って張り付き、後ろ足を集中的に叩く。密着具合の調整もしたかったが、目を潰されたことに怒り、尻尾を地面に叩きつけて暴れているので出来なかった。
「これ以上暴れられたり、うろつかれたりしては面倒だ」
即座に二刀小太刀「疾風迅雷」に持ち替えると地面を叩きつける尻尾を避け、前面に展開して『流し斬り』で回り込みながら反撃。
「レイジさん、東雲さん、無茶はなさらないでくださいね。皆さん、強化します」
駆けつけたヨハンは『錬成弱体』で九尾の狐を弱らせ、前衛陣に『錬成強化』をかける。
「移動が早くとも、動けなければその長所を生かすことは出来ません。違いますか?」
移動を繰り返すようなので『四肢砕き』で足止めし、前衛が体制を立て直すまでは牽制と周囲に崩れそうな瓦礫が無い場所に位置取りしたイーリスは、地面を揺らすことによる振動に耐えるため膝立ち状態でSMG「スコール」で鼻先を集中攻撃。
初めての実戦なのでたいした戦力にならない、今後の参考になると奏は皆のお手並みを拝見と言いつつ九尾の狐と仲間を観察して楽しんでいる。
「予定通り行動します。援護は任せてください」
無理をせず、狙撃で味方に当てないよう援護を。九尾の狐が尻尾を瓦礫に叩きつけようとしたので『影撃ち』で阻止。
「させませんよ、それは。手札は確実に潰します。これ以上、足場を悪くさせません」
●皆で攻撃
「視界が少し悪くなってきたな‥‥」
日が沈みかけ、辺りが薄暗くなったのでネジリは照明銃を空中に撃ち、日没で暗くなっても見失わないようにとペイント弾を使用し位置を特定できるようにし、広範囲に弾をばら撒きながら足、目、尻尾、顎を狙い撃つ。
「動きを止めるためには、狙うのは前足だな」
ユーリとレイジも足を狙っているが、大勢のほうが動きを鈍らせやすいと東雲は『剣劇』で攻め込む。
機械剣「ウリエル」で前足、特に軸として体重の乗せているほうを優先的に攻めていたが払い除けられそうになったので距離を置き、『両断剣』使用後に真デヴァステイターに持ち替えて再攻撃。
「ウリエルで使えるか不明だけど、とりあえず駄目もとでソニックブームを放ってみるか」
口を大きく開け炎弾を吐き出そうとしたので、ユーリは『ソニックブーム』で誘爆を狙ってみることに。超機械で『ソニックブーム』を放ことはできたが、九尾の狐からそれてしまった。
「ソニックブーム‥‥できたはいいが空振りだったか」
炎弾の標的になりダメージを受けたので一旦下がることに。
「炎弾を放つということはは火属性を持っている‥‥のか?」
「だろうな」
ネジリにユーリの避難を任せている間、『豪破斬撃』を使ったレイジが『ソニックブーム』で援護。
「回復しますね〜」
駆けつけた命が『練成治療』でユーリとレイジを回復しようとした時に牙で襲われそうになったが、それに気づいたイーリスがプロテクトシールドで防いだ。
「私が狙われている間に早く!」
自分が狙われることで命を狙いから逸らそうと『自身障壁』で身体強度を上げ、回避行動せずイーリスは爪や牙を受け止めている。
「おっと、その攻撃は待ったですよ」
体制を崩しそうになるイーリスを援護すべく、足場の悪さをものともせず、左側面から距離を取り超機械「ラミエル」で足を狙っていたヨハンが駆けつけ、大きく開けた口を攻撃して出鼻を挫いた。
「キメラですが、顔を攻撃されて涼しい顔はできないでしょう!」
「イーリスさん、ヨハンさん、ありがとうございます〜。回復、終わりました〜」
ペコリと頭を下げ礼を言い、命は「お返しです〜!」と『電波増強』を使い超機械「ビスクドール」で頭部を攻撃。
「ボクがいるってことも忘れちゃダメだぞ!」
囮役として何もしないと無視されるだけと、美琴は軽快なフットワークで隙を見て尻尾以外に『急所突き』の一撃を叩き込む。
「ネジリさん、今がチャンスだよ!」
「動きが止まったな‥‥」
美琴の声が合図と認識したネジリは九尾の狐の耳めがけて弾頭矢を投げつけ、スコーピオンで起爆させた。激しい爆音で耳と平衡感覚を潰したが、見境の無い爪攻撃を盾で受け止め、力の方向に身体を回転させて少しでもダメージを減らした。
「大丈夫か?」
側にいたユーリが身を起こし、近くの建物の物陰に隠れ救急セットで治療を始める。
「皆、連携して波状になるように攻撃を仕掛けよう。一箇所に狙いを定めさせないようにするんだ」
ユーリの指示に従い、奏は適度に位置を変えながら正面に入らないように注意したが間合いを詰めすぎたためか、九尾の狐に至近距離接近されたので小銃「フリージア」とステュムの爪に装備変更し、牽制しつつ『強弾撃』発動後に銃撃。
「これ以上、大技を放つことはさせません!」
戦闘ダメージを『活性化』で回復させ、自分に狙いを定めてのを確認した直人は『疾風脚』で足元に接近すると『両断剣』を発動し月詠と小銃「S−01」で徹底的に攻撃。
前衛は美琴が気を引いている間に集中的に足を攻め、後衛は射撃や治療、強化でサポート。
「これで一気に畳み掛けるぜ! 覚悟しな!」
直人の背後から駆け寄るレイジは『紅蓮衝撃』で覚醒状態を引き上げ、倒れそうになるのを見計らい腹部に潜り込んでドローム製SMGを乱射して弾をぶち込む。
「一斉攻撃、いくよ!」
駆け出した美琴に続け、と最後は一斉攻撃。大型で動きが素早いとはいえ、大勢で隙無く攻め込まれては逃げ出す術はない。
日が暮れかけた空に向かい咆哮すると、九尾の狐は血を吐き息絶えた。
●戦闘後の会話
「‥‥ふぅ‥‥」
キメラを退治したことでほっとしたのか、ネジリは力が抜け、抉られた地面にへたり込んだ。
「キメラは倒せましたが、ここの復興はかなり時間がかかりそうですね〜‥‥」
日が沈み、すっかり暗くなったので命はランタンを使い怪我人がいないかどうか確認する。
「随分手間取ったようですが、この子を倒しましたね。少しは、楽しませていただきましたよ。後片付けはちゃんとしてくださいね」
拍手をして傭兵達の前に姿を現す鈴音。誰一人として気づかなかったので『瞬間移動』を使って来たのだろう。
「初めまして、風祭さん。私は音桐 奏と申します。北アフリカであなたに宣戦布告した者の代理です。あの人は私の友人でしてね。あなたに挨拶をしておいて欲しいと頼まれましてね」
ああ、あの人ですか、と納得したのを見て、自分の役目は終わったと引き下がる。
「いずれ、縁があったらまたお会いしましょう」
ゼオン・ジハイドの登場に、レイジは警戒心を露にしながら、ヨハンは鈴音がまとう空気でバグアエース集団の雰囲気を覚え、感じ取っている。
「少しは楽しんでもらえたってんなら‥‥ハッ、ソイツは光栄なこったぜ!」
最悪、戦闘になった場合は生存と離脱と考えていた直人だったが、今のところは怒りも興味も引き出してはいないようなので何もしないことに。
「後片付け云々は‥‥誰かさん達のおかげで、壊れたところが多すぎてなかなか片付かないんだよ。こっちだって早く何とかしたいんだけどね」
体力、練力を消耗している今の状態で当たっても余計な怪我が増えるだけ、と反応や出方に警戒するユーリがぼやく。
「あぁ、そうだ‥‥知り合いから機会があれば聞いておけと言われているのだが‥‥強化人間に仕掛けられた爆弾の起爆装置‥‥という物を持っているか?」
ゆっくり立ち上がるネジリの質問には「残念ですが、私は持ち合わせておりません」と回答。
(これがゼオン・ジハイドですか。見るのは初めてですね。あまり刺激しないほうがいいですね)
人となりに興味があるので、戦闘回避のため鈴音を刺激しなよう、ヨハンは会話してみることに。
「北アフリカ進攻戦、ボリビア防衛戦であなたと同格が2人倒されていますが今でも人類はあなたの中では見下す対象なのですか?」
その問いに興味を示したのか、クスクス笑いこう言った。
「仲間が何人倒されようと、私にとって人間は見下す対象というのは変わりありません。彼らは何かしらの関心を示していたようですが、私は『人間がどのように動くか』ということしか関心を抱きません」
「そうですか。今は無理ですが、そのうち鬱陶しくなるほど遊んでさしあげますよ。鈴音様」
鈴音としても、手負いの人間を相手にするのは興ざめと戦うつもりはない。
(戦うべき時は、今ではないのでしょう。いずれ合間見えることになるでしょうし)
できれば関わりなくない表情をしている美琴と間近で顔をじっと見る東雲側で、そう思い一切手出ししないイーリス。
「私も、今はあなた方の相手をする気はありません。疲れきった人間と戦うという卑怯な手段を使いたくはありませんし。皆様のお相手は、改めてということに致しましょう。その時を楽しみにしていますよ」
着物の袖を翻し、穏やかに笑いながら鈴音は『瞬間移動』でその場を去った。
「手強い相手になりそうですね〜‥‥。皆さん、回復しますね〜」
何はともあれまずは回復、と命が動き出す。疲れたのか、鈴音の存在を意識しているのか、回復の際、誰も言葉を発しなかった。
(友人には悪いですが、私も風祭さんを倒してみたくなりました。またお会いできたら、ですが)
俯いていて見えないが、奏はフッと微笑んで鈴音との再会を楽しみにしていた。
キメラ退治は終わったが、北京解放戦はまだ終わっていないので気を抜くことはできない。この戦いを終えた傭兵達は、体力が回復したらそれぞれの戦地に赴くことだろう。