●リプレイ本文
●2011年初依頼
ナイトフォーゲルでの新春書き初め大会の放送を聞いたシルヴィア・鷹崎(
gc5889)は、前もって準備した『対人会話におけるテンプレート』を手に非常に緊張した雰囲気で会場に向かう。
(緊張するけど‥‥何とかしなきゃ‥‥)
人見知りを克服、他者との交流を深めるという目的で参加を決めたのは良いが、どうすればいいかわからずおどおどしている。
「キミ、ナイトフォーゲル新春書き初めの参加者か?」
巨大書き初め用紙を抱えているソウジ・グンベ(gz0017)に声をかけられビクッとなるが、手にしたテンプレートを見ながら挨拶を。
「あの‥‥は、始めまして‥‥。シルヴィア・鷹崎と‥‥申します‥‥。傭兵になったばかりですが‥‥よ、よろしくお願いします‥‥」
「こちらこそよろしく、そう緊張しなくてもいいって。操縦肩慣らしっつーことで、書き初め準備手伝ってくれないか? 俺ひとりじゃ大変なんだよ」
深々とお辞儀をしていた頭を上げ「わ、わかりました‥‥」と手伝うことに。
準備に向かう途中、紋付袴姿の千祭・刃(
gb1900)に会った。
「グンベ先生、あけましておめでとうございます。今年もよろしくおねがいします。新春書き初め、面白そうなので参加させていただきますね。お年玉ですけど、翔幻限定の時みたいにお年玉は自腹ですか?」
一昨年に行われた翔幻限定正月遊びに参加した彼ならではの質問だった。
「ま、まぁな。額はあまり期待するな」
「わかりました。これから教職員の皆さんに新年のご挨拶に行くので失礼します」
シルヴィアに気づくのが遅くなったと、軽く会釈してから刃は職員室に向かった。
書き初め会場に着くとシルヴィアとソウジは書き初めの準備を。ナイトフォーゲルの操縦は初めてだったが、ソウジの指導もあり転倒することはなかった。
「悪いな、手伝ってもらって」
「い、いえ‥‥」
ちょうど準備が終わったところに、5人の傭兵がやって来た。
「今年も暇だとかぬかしてるのか、ソウジ。暇なら我を誘えと言っているだろうが」
会場に一番乗りしたのは、ため息をついて愚痴るリュイン・カミーユ(
ga3871)。年末はカウントダウンで不在だったので、終わるなりカンパネラ学園に直行したようだ。
「あけましておめでとう、リュイン。今年もよろしく。暇なのは毎度のことだ、気にするな」
「仕方ない。とりあえず、今年も正月遊びに付き合うとしよう。昨年同様、その後は我に付き合ってもらうぞ。ん? 汝とは初めて会うな。我はリュイン・カミーユだ、よろしく頼む」
「シ、シルヴィアです‥‥よろしくお願いします‥‥」
緊張します‥‥と身体を強張らせながらも挨拶するシルヴィア。
「新春も‥‥俺! 学園に参上!」
ガスマスク姿で書き初め会場に現れた来た紅月・焔(
gb1386)。ここに辿り着くまで周囲の人々に怪しまれたりしたが、本人は一向に気にしていない様子。
「傭兵となると、元日の過ごし方も派手になるんですね‥‥というより、単にお祭り好きの人が多いだけみたいですが」
肩を竦め、微笑して参加者達を見るソウマ(
gc0505)。
「お、ここか。何だか面白そうなことを始めるところは」
興味津々と参加する那月 ケイ(
gc4469)は、何年か振りの書き初めになる。
「ナイトフォーゲルと一緒に遊べて楽しそうですわね。頑張りましょうね、ぎゃおちゃん。恐竜型ですけれど、この子、筆を持てますのよ」
戦闘では味わえない愛機との触れ合いを楽しむべく、相棒の竜牙『ぎゃおちゃん』と参加するミリハナク(
gc4008)。
「ここですね、ナイトフォーゲルで書き初めをするというところは」
里見・さやか(
ga0153)と龍鱗(
gb5585)が2人並んでやって来た。
「え? ナイトフォーゲルで書き初め!? スケールでかいのはいいんだが、俺の機体は筆を持てないんだがどうすれば‥‥」
龍鱗の愛機『雀鷹』はワイバーン。変形時は四足歩行となるので筆を持たせるには何かしらの工夫をしなければならない。
参加を締め切ろうとしたところで「遅くなってすみません!」と刃が駆けつけた。
「参加者はこれで全員だな。放送で言ったとおり、ナイトフォーゲルでの書き初めだ。機体は何を使用してもいいぞ。お題は『2011年の目標』と『見たい初夢』のふたつな。それじゃ、さっそく書いてくれ。用紙に書けるようなら何を書いてもいいぞ」
●悪戦苦闘と波乱の書き初め
さやかは共に戦ってきた愛機『Spenta Armaiti』の操縦初め、龍鱗との初デートということもあり頑張っている。
「さて、どうしたものかね。筆を頭に括りつけるか、腕に括りつけるかだな。里見さん、ちょっと雀鷹の腕に筆を巻きつけるの手伝ってくれないかな」
さやかに手伝ってもらい、雀鷹の右前脚にロープを括り付けることで筆を持つことができた。
「できました。これで龍鱗さんのワイバーンも書き初めできますね。墨を磨るお手伝いもしますね」
「ありがとう。ナイトフォーゲルでの書き初めは初めてだが書くことにするか」
慣れない操縦に苦心しながらもお題をせっせと書く龍鱗。
「頑張ってくださいね、ぎゃおちゃん」
そ〜っと1文字ずつ書くミリハナク。
リュインは雷電を入手してからずっと乗ってやれなかったので、久々にR−01改を使うことに。
「こういう機会でもないとなかなか乗れないしな。お題は両方書くのか、2つのお題からどちらか選ぶのかよく分からんから2枚書くとしよう」
焔は西王母にしようと思ったが整備中だったのでとりあえず岩龍に‥‥と思ったらこれまた整備中なので仕方なく雷電で、刃は一昨年同様、翔幻で書き初めをすることに。
ケイは操縦初心者というワケでもないが、武器を振り回すのならともかく、細かい作業は初めてなので慣れているといっても微妙なところである。
「槍が筆に変わっただけで、随分勝手が違うもんだねぇ」
ケイの愛機『アイアス−S』は白いので飛び散る墨で汚れが目立つが、書き初めに夢中なので気にしない。丁寧、というより、勢いでお題を書き上げている。
書き初めに苦心しているのは操縦に不慣れなシルヴィア。ソウジとの準備中はきちんと操縦していたものの、いざ書き初めとなると上手く書けるかどうか不安に。
(やっぱり‥‥私じゃ無理なのかもしれません‥‥)
融通の利かない性格もプレッシャーの一因となり、愛機『ヘヴンズフィール』の手が震える。
ガチガチのヘヴンズフィールに対し、ソウマの愛機『ウィズウォーカー』は書き初め中にアクロバティックなパフォーマンスを披露。
「すべては僕の計算どおり、これも計画のうちですよ♪」
汗をかきながら不敵に微笑んで勝ち誇ったように言うが、実は操縦ミスである。
「あ、あともう少しで‥‥完成です‥‥」
1文字ずつ丁寧に、真剣に書いているヘヴンズフィールにノリノリで書き初めをしているウィズウォーカーが勢い良くぶつかりそうになったが、ソウジのS−01改が寸でのところで食い止めた。
「シルヴィア、大丈夫か?」
「は、はい‥‥」
危ないだろう! と注意した途端、S−01改の足元に置いてあった墨入り巨大バケツに躓き派手に転倒し辺り一面に墨が広がった。
「お、俺の書き初めが! 力作だったのに!」
焔の書き初め用紙がソウジのせいで墨塗れに。それだけではなく、転倒した場所にリュインの書き終えたばかりの書き初めがあり、近くにいた刃も巻き込まれてしまった。
「ソウジ‥‥我に恨みでもあるのか‥‥?」
「折角の書き初めが台無しに‥‥」
わざとじゃないって! と必死に2人に謝るソウジだったが、その間、他の参加者に何らかの被害をもたらしてしまったので会場は大騒ぎ。
「こ、これは僕のせいじゃないですからね」
騒動を無自覚に被害拡大したのはソウマの『キョウ運』が増幅したため‥‥かもしれないが本人は目を逸らす。
●目標は何ですか?
「できました」
真っ先に書き終えたのはさやか。目標は『不撓不屈』。
「バグアとの戦いは激しさを増し、困難が降りかかってくるでしょうけど‥‥それに負けずに頑張りたいものです」
「‥‥ふくつ? 悪い、前の字が読めん。強い意志をもってどんな苦労や困難にも挫けない、って意味か? 良くわかんねぇが、意思の強さが伝わっているな」
目標は『ふとうふくつ』と読むのだが、長年漢字に関わっていないソウジには難しかったようだ。
「俺のはこれだ」
ケイは『進』。
「1文字にまとめたのは。たくさんの文字をバランスよく紙におさめるのが難しそうだから。ラスト・ホープに来てまだ半年程度しか経っていないひよっこな俺だからな。少しでも前進する、成長する。これが今年の目標だ」
「力強い文字と目標だな」
シンプルだが、意気込みが強く伝わる書き初めだ。
龍鱗は『裏切らない』。
「‥‥これだけは変わらない、変えるわけにはいかない。裏切るのも裏切られるのも、もうごめんだ」
「何があったかはわかんねぇけど、頑張れや」
深く追求しては悪いと察知し、詳しいことを聞かないソウジだった。
「私の目標はこれですわ」
ミリハナクは『竜の嫁』。
「私は竜種が大好きですの。いつか素敵な竜と巡り合いたいですわ。今はゼオン・ジハイドのあの方が大好きですの」
あの方を想像し、うっとりとした表情で書き初めの説明を。
「そ、そうか。目標に向かって頑張ってくれ」
無自覚とはいえ、書き初め会場に騒動をもたらしたソウマの目標は『KV使用の依頼を多く受けること』。
「今までは生身の戦闘依頼ばかりでしたから、今年はKVをもっと使いたいですね。お前もそう思うだろ、ウィズ?」
楽しげに愛機に語りかける。
「僕の目標はこれです!」
刃が自信満々に見せた目標は『褌普及』。
「洒落じゃないですよ、僕は真面目です! 今年こそ、尊敬する師匠と共に普及させるんです!」
ここのところ全然会っていませんが‥‥と心の中でボソリ。
「し、師匠と力を合わせて普及してくれ」
リュインの目標は『アイドルがんばる』。漢字は難しいのかまだまだ苦手なようだ。
「年末からライブもやってたし、今年は傭兵アイドルとしての活動に力を入れたいかな? と思う。アイドルと言っても、恋人がいる者や既婚者もいるので恋愛禁止ではないから安心しろ」
「そ、そうか。両立は大変だけどキミならできるぞ」
恋愛禁止と言われたらどうしよう? と焦ったのは内緒。
「わ、私もできました‥‥」
シルヴィアは『一期一会』。
「上手く書けたな。この書き初めで知り合った参加者との出会い、大切にな。今後、仲間とうまくやっていけることを楽しみにしているぞ」
「ありがとうございます‥‥」
これで全員か、と思ったが、焔の書き初めがまだだった。
「そう‥‥ここにいる全員‥‥いや、この世界の皆が、再び来年の春を迎えられるように‥‥。そんな願いを込めて俺が書いたのはこれだ!」
意気揚々と見せた途端に風で飛ばされそうになったが、ソウジのS−01改に拾われた。
「どれどれ‥‥」
見た途端、ソウジの表情が一瞬固まった。
(これって犯罪じゃ‥‥いや、書き間違えただけかもしれねぇし‥‥)
間違っていると言ったほうがいいのかと悩んだが、漢字に弱いことを利用した問いただしをすることに。
「これ、何て読むんだ? 俺、アメリカ暮らしが長かったから漢字読めないんだ」
「げいしゅん、って読むんだけど‥‥それが何か?」
「そうか。迎春の『迎』が『売』に見えるようなんだが‥‥気のせいか? それとも書き間違えか?」
煩悩が混じってしまったため間違えてしまったようで。場所が場所だけに、一瞬気まずい雰囲気が漂う。
「そ! そう! 間違えたんだ! (再)って書いてあるからって再犯者じゃないからネ!? 俺、やったことないからネ!? 俺、やったことないからネ!?」
大事なことだからと二度も「やったことないからネ!?」と主張。
「わ、わかったから落ち着け! んじゃ、次は『見たい初夢』な」
●見たい初夢は何ですか?
汚名返上と言わんばかりに真っ先に見せたのは焔が書いたのは『酒池肉林』。
「そうさな‥‥折角の初夢だから良い夢を見たい‥‥。そんな思いを4文字に乗せました。ということでコレを書きました」
目標といい初夢といい、焔は新年から煩悩まみれだった。
「キ、キミらしいな。そんな夢が見られるといいな‥‥」
ケイは『良』。
「一度でいいから良い初夢を見てみたい‥‥。普段はそんなことないのに、初夢となると微妙な夢ばっかりなんですよね。何でですかね‥‥ちょっと、どうすれば良い夢見られると思いますか、ソウジさん!?」
「俺にそう言われても‥‥」
こればかりは本人の運次第、としか言いようが無いので問い詰められても困る。
「僕はこれです!」
刃は『師匠と赤い月壊滅』。
「本当は『師匠とバグア本星を壊滅して地球に平和をもたらす』なんですけど、長いので書ききれないんですよ。僕、字があまり上手じゃないですし‥‥」
「そんなことないぞ。上手く書けてるじゃないか。それ、夢じゃなく実現してくれ」
空を忌々しそうに見つめながらソウマが差し出した書き初め用紙には『生身での宇宙遊覧』と書かれている。
「現在の状況では、宇宙にはとてもじゃ無いですが出れないですからね。それに生身で遊覧なんて、夢の中じゃないと絶対できないですからね。初夢なんですから、神様もサービスして見せてくれるかもしれませんよ?」
楽しげに微笑みながら「そう思うでしょう?」と同意を求める。
「初夢だからサービスしてくれるんじゃないか?」
あはは‥‥と笑いながらコメント。
「私はこれです」
さやかは『三船山合戦』。
「それって、実際にあった合戦か?」
「はい。戦国時代、窮地にあった房総の大名、里見家が強大な北条家に勝利した戦いです。転じて、自分達もバグアに勝てますようにということで書きました」
さやかの苗字も『里見』なので、案外、ご先祖なのかもしれない。
龍鱗は『平穏なの』。
「いや‥‥うん、見たまんま」
「それがいいんだ、それが。ところで隅っこに押してあるスタンプなんだけど‥‥」
書き終えた後に、このためだけにつけてきたキャットウォークで肉球のスタンプをペタリ。
「え? 他の意図? 無いよ。これやりたいだけだよ!」
「そ、そうか」
ミリハナクは『絶望的な死闘』。
「過激だねぇ」
「そうですか? 私、こう見えても戦闘狂ですのよ。死線が見えるような熱く激しい戦いの夢が見たいですわ」
リュインの書き初めを見て、ソウジはかつての書き間違えを思い出した。
「どうした? 結構上手く書けたと思うのだが。漢字も少しは覚えたんだ。やっぱり見たい夢は‥‥その、ソウジの夢、かな‥‥と。そしたら一年頑張れそうじゃないか」
それはありがたいが、どこかおかしい。
「そ、それ、おかしくないか?」
「‥‥え?」
ソウジはそう思うのは無理ない。リュインが一生懸命書いたのは『変人』なのだから。『恋人』じゃないかと言いたいが、以前、傭兵に書き方を教わり必死で書いたラブレターで同じ間違いをしたので「間違っているぞ」とはっきり言えなかった。
シルヴィアは『平和な世界での平凡な日常』。
「ありきたりですが‥‥これが見たいです‥‥」
「そんなことないぞ。その初夢、現実のものになるよう頑張ってくれ」
●ソウジの書き初めは何ですか?
「僕達の書き初めをあれこれ批評しているようですが、グンベ先生の目標と見たい初夢は何ですか? 書き初めを書いたんでしたら見せてくださいよ」
「そう言われてみればそうだな。ソウジ、何を書いたのだ?」
刃とリュインに問い詰められ、仕方なく自分が書いたものを見せることに。
参加者だけに書かせるのは駄目だと思い、皆がせっせと書いている間にソウジも書き初めをしたのだった。
「こ、こんなもんかな‥‥?」
最初に見せたのは目標。『脱三枚目』と書いてあるが、書き初め用紙からおもいっきりはみ出ている。
「皆、俺のこと三枚目だと思ってるみたいようだし。良く言われるんだよ。顔が良いのに何で軽い性格なんだって」
「自惚れるな、馬鹿者」
リュインがすかさず突っ込む。
お次は見たい初夢。『彼女と故郷で森然血痕式を』と書いてあるが、これもおもいっきりはみ出ているし墨で汚れている。
「あの‥‥森然は『神前』の間違いじゃないですか?」
「血痕が書けるんでしたら『結婚』と正しく書けると思いますが」
さやかとソウマの指摘に「わざとだよ、わざと!」と反論するがマジボケである。森然には「おごそかであるさま」という意味もあるので、あながち間違っているとも言いがたい気もするが‥‥やっぱり間違っている。
「汝の今年の目標は『誤字脱字を無くす』にしたほうが良いのではないか?」
「うっ‥‥!」
恋人にそう言われては形無しである。
●お年玉をどうぞ
何はともあれ、全員の書き初めが終わったのでお楽しみのお年玉進呈に。
「皆、ご苦労さん。いやー今年も力作、傑作揃いだったねー。それじゃ、まずは達筆者のお年玉からな」
目標の達筆者はさやかとケイ、見たい初夢の達筆者はミリハナクとソウマ。
「次は面白い書き初めを書いた参加者のお年玉だ」
面白いものを書いたと選ばれたのは、目標は刃と焔、見たい初夢はリュインと龍鱗
。龍鱗は肉球スタンプが決め手となったようだ。
「里見さん、良かったですね」
「龍鱗さんもお年玉がもらえて良かったですね」
顔を合わせ微笑むさやかと龍鱗。
「ぎゃおちゃんの書き初め、褒められたと思っていいんですわね」
愛機を見て喜ぶミリハナク。
「まあ、こんなものでしょう」
楽しい元旦になりました、と満足するソウマ。
「どこが面白かったんでしょう‥‥」
首を傾げて不思議がる刃に対し、何が面白かったのか皆目検討つかない焔。
「たくさん貰えればそりゃ嬉しいが、金額が少なくても貰えただけで儲けもんってな。そういや、参加賞って何が貰えるんだ?」
ケイが聞くので、ソウジは用意していたお手製ポチ袋を全員に手渡した。
ポチ袋にしては正方形だし中身がパンパンである。中身はメカメロンパンだった。丸いかたちなので「玉」と言えなくもないが、お年玉の代用としては苦しいかも。
「このパンを落として『落とし玉だ!』というつもりだったんですか?」
メカメロンパンをじーっと見てソウマが訊ねる。
「そんなこと言うか! あ、忘れてた。シルヴィア、キミにもお年玉があるぞ」
「わ、私にですか‥‥?」
あまり活躍していなかったのに何故? と訊ねる。
「初めてのナイトフォーゲル依頼に対する報酬だ。今はこんなだけど、そのうち本格的な戦闘に赴くことになるだろう。それに向け、他の傭兵と力を合わせ、共に頑張ってほしい」
「は、はい‥‥私、頑張ります‥‥!」
感激のあまり泣き出すシルヴィアに、他の参加者も頑張れと励まし拍手を。
●書き初めの後のお楽しみ
「うわぁ、これは‥‥。新年早々わりぃな、アイアス。今、綺麗にしてやるからな」
書き初め終了後、愛機が墨で汚れたのに気がついたケイは汚れを落とすことに。
「これを使ってください。愛機についた墨汁を歯磨き粉と歯ブラシで落としましょう」
皆さんにも愛機を綺麗にすることをお勧めします、とさやかが歯ブラシを手渡す。何名参加するかわからないで多めに用意していた。
「龍鱗さんも綺麗にしましょう」
「ああ、そうだな」
歯ブラシを受け取った参加者達は、それぞれの愛機の汚れを落とし始めた。それだけでは落ちないだろうと、ソウジが用意したホースと雑巾も使うことに。
「ぎゃおちゃん、キレイキレイしてあげますね。寒がらず、さっぱりしちゃいなさいな」
水洗いしながら一生懸命ぎゃおちゃんを綺麗にしつつ「今日も可愛いですわ」とうっとりするミリハナク。
「綺麗になったぞ、アイアス」
念入りに汚れを落とし、愛機をピカピカにしたケイが満足する。
機体を綺麗にし終えた参加者達は、それぞれの行動に。
「これからラスト・ホープに初詣に行くんだが、一緒に行くか?」
ソウジの誘いに応じたのはさやか、龍鱗、リュイン、刃の4人。
「龍鱗さん、行きましょう」
さやかは着物に混天綾を羽織り、龍鱗はスーツに着替え初詣に。
元日ということもあり、神社の境内は参拝客で混雑していた。人の波を掻き分け、5人はようやく賽銭箱前に辿り着いた。
リュインはそっと腕を組んで寄り添い、今年もソウジと仲良く出来ますようにと参拝。
「あの調子では、結婚はまだ遠そうだな‥‥」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何でもない。今年もよろしく頼む」
照れて挨拶するリュインを見て「可愛い‥‥」とソウジはボソリ。
「お賽銭入れて、鈴鳴らして、二礼二拍一礼を忘れずに‥‥と」
刃は「師匠の頭が少しでも賢くなりますように」「強くなれますように」と呟き願い事を。自分のことより、尊敬する師匠のことが優先のようだ。
参拝が終わると、母親が作った雑煮とおせちが待っているので寄り道をせず帰宅。
「今年一年、龍鱗さんと共に息災で過ごせますように」
「今年も無事に過ごせるように。それと‥‥今、隣にいてくれている人が少しでも幸せでいてくれるように」
いや、後者は俺自身が頑張ることか? と思い、さやかを見つめて強く願う龍鱗。
参拝後はお守りを買いたいというさやかに付き合うことに。これにします、と買ったお守りは『武運長久』。
帰りに甘酒を飲み、寄り添いながら身体を暖めた。
「里見さん、改めて、明けましておめでとう‥‥今年もよろしくな」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
その頃、学園食堂でソウマとシルヴィアの3人は雑煮とおせちを食べていた。
「美味しいですね。これは‥‥昆布と鰹節を長時間煮込んで取った出汁ですね。これらが上手いこと調和して‥‥」
雑煮とおせちを食べながら、料理評論家のように長々とコメントを。
「書き初め‥‥参加して良かったです‥‥」
シルヴィアはソウジに特別賞をもらった際、他の参加者に自分を理解してもらえたことが嬉しかったので、雑煮を食べる時に自然と微笑んでいる。
餅を食べようと食堂に行こうとした焔だったが、警備員に取り押さえられた。
「きみ、ちょっといいかな。学園にガスマスク姿の怪しい人物を見たと生徒からの通報があったんだが」
「え? 俺? 異義あり! 人を見かけで判断してはいけない! もっと中身を見て判断して! ソフトに!」
ソフトにってどうやって‥‥と思った警備員に「詳しい話は警備室で」と連行されそうになったが、初詣を終えて学園に戻ったソウジに助けられ事なきを得た。
「助かった‥‥ありがとう、ソウジさん。リュインさんは一緒じゃないの?」
「彼女なら帰ったよ。家族と過ごすんだと」
寂しいんじゃない? と絡むので「警備室に行こうか?」と額に青筋立てて怒りを堪えて笑うので「じょ、冗談だって!」と焦る。
2人が食堂に入るとソウマが頬を緩め、年相応の満面の笑顔で食堂のお姉さんにデザートを注文。
「今年は何だか、あなたに良いことが起こりそうな予感しますよ」
ニッコリスマイルに「そ、そうかしら?」と照れるお姉さんにサービスしてもらったのは言うまでもない。そのお姉さんだが、エプロンの下はボディにフィットしたタートルネックセーターだったので豊満な胸が強調されている。
(良いものを見ました。新年早々、良いことが僕に‥‥)
やや赤面し、内心ドキドキしたがクールに振舞う。
2011年も、傭兵達にとって良い年でありますように。